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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
一年生
4/300

地学教師とドラゴンモール



 彼女の話をしよう。

 ローテンションで、淡々としていて、地学にしか興味のない。

 これは、そんな彼女の物語。





 コンコン、と軽く目の前の扉をノックする。

 現在、自分は教員用の建物に居た。

 一階は食堂以外に保険室などがあり、その上の階には教員達の自室と研究室が存在している。


 ……この学園の教師、教師というより研究者っぽい方ばかりなんですのよね。


 悪いヒト達ではないし、聞けば説明もしてくれるので良いヒト達だ。

 研究者気質だからか、中々にゴーイングマイウェイだらけではあるが。



「……あのー、レナーテ地学教師?」



 中に居るのは()えているのだが、気付いていないらしく返事が無い。

 ちなみに地学とは、地球科学ではなく、地面メインで色々調べる感じのやつである。総称的に地学と呼ばれており、正式名称は聞いてもよくわからない。


 ……前に聞いた時、地面とかその下とかまあ自然メインなやつ。と答えられましたものね……。


 通じているし大体わかるので良いとも思うし、このアバウトさこそがアンノウンワールドらしさだ。

 ただソレはソレとして、返事が無いのはいただけない。

 何せ今自分はおつかいとして来ているのであり、さっさとこの腕に積まれた重い本を渡したい。


 ……ランヴァルド司書に頼まれましたものね。



「そうそう、欲しがってた本、本屋が仕入れてくれたのを受け取ったんだ。でも私は本棚の整理をしなくちゃいけなくて……ちょっとおつかいを頼んでも良いかな?」



 腰が抜けて呼吸を整えるのに必死になっていたら、本を置いてさっさと本棚の方に行ってしまったのだ。

 あの司書は物腰柔らかな見た目に反し、声は低いし中々図太い。

 押し付けられるカタチだったとはいえ、頼まれた以上は是非もない。

 なので分厚く重い、そしてちょっとプレミアついてそうな本を、読みたい欲を抑えつつここまで運んできたのだ。


 ……なのにノックしても無視ですものねー。


 レナーテ地学教師はかなり研究者タイプであり、授業数も少ない。

 その上、研究に夢中になって日にちを忘れるタイプだ。


 ……入っちゃいましょう。



「入りますわよー」



 コレは何度ノックして声を掛けようが無駄だなと判断し、扉を開ける。

 もし外気だの光だのがアウトだったら無断での立ち入りは厳禁だろうが、返事が無いのだから仕方が無い。あともし本当にそうならカギが掛かってるのでつまりこの行動はセーフですの。



「レナーテ地学教師」



 部屋に入り、レナーテ地学教師に近付いて声を掛ける。

 彼女はコウモリ系の魔物とのハーフなのか、腕にコウモリの飛膜がある。

 コウモリとは違い親指以外の指もちゃんとあるが、その手の形は人外に近い。

 顔も他とは少し違っており、鼻から口に掛けてが……端的に言って、コウモリのようなマズルだ。

 性格的に特に気にしても居ないようだが、土や埃を吸わないようにだろう、それを覆うようにマスクを装備している。



「この特徴からするとかなり昔の石だな……ああ、なんだ?」



 中に入って話しかける事でようやく返事が返って来たが、こちらに気付いているワケではないのが()なくてもわかる。

 短い黒髪を多少揺らしつつも、机の上から視線を逸らさないのがその証拠だ。



「見ろ、コレを」



 レナーテ地学教師はこちらを見ずに、机の上にある黒い石のようなモノを見るように言う。



「コレが出来たのは大きな火山が噴火したかナニかの影響だろうが、あの周辺に火山は無かった。魔物の炎ならかつてその場に相当な火力を有した魔物が存在していたという事になるし、もし火山の影響ならばかつてアソコには火山があったという事になる」



 ……めっちゃ話してますけど、本気でこちらに気付いていませんわね。



「しかしアソコに火山は無い。あったのであればかつてナニかが起き、火山が無くなったと考えるべきだ。魔物は未知の能力も多いからナニが起ころうと不思議じゃないしね。いや、しかしまずはコレが火山の影響で出来たモノなのか、魔物による能力で出来たモノなのかを解明する必要があるな……ゾゾンかマルクスでも捕まえるか」



 ゾゾンとマルクスとは、魔法を教えてくれるこの学園の教師だ。

 魔法に関してはしっかりと教えた方が良いから、と担当教師が二人存在している。


 ……でもコレ、完全に自分の中で考えてる事を語っているだけで、会話してるんじゃないんですのよねー。


 これでは埒が明かない。

 肩を叩こうにもソレでこっちに気付いてくれる気がしないし、そもそも両手は重い本で埋まっている。

 ドコかに置こうにも、教師の研究室はドコにナニがあるか不明の場所だ。

 その上、研究者気質のヒトが相手の場合、こだわりがあるヒトも多い。つまり勝手に空いてる机にモノ置いて怒られる、なんて理不尽もあり得る。


 ……仕方ありません、こちらに意識を向けさせますか。


 そう思い、自分はレナーテ地学教師が調べている黒い石に見えるモノを()る。



「……ソレ、魔力の残痕が()えますわ。あと高温により出来た溶岩が固まったモノというより、元は肉っぽいですわよ、ソレ」



 顕微鏡のように細かく()た結果、()えたのは肉に近いと思われるモノだった。



「多分、食ったモノを毛玉のように溶岩化して吐くとか、もしくは排泄物がそういう風になる魔物によって生み出されたモノだと思いますわ。劣化からするとかなり古いモノに違いは無さそうですが……」


「成る程!」



 言い切る前に、レナーテ地学教師により中断される。



「素晴らしい!いやまったく素晴らしいな!よくソコまで見抜けるものだ!ふむ、しかしならばその方向性で調べればイケるな。その情報はかなりの時間短縮になる!感謝するぞ!」


「ぐっ」



 珍しく興奮気味に笑みを浮かべながらレナーテ地学教師はそう言い、思いっきりハグを決めてきた。勢いが強くてほぼ鯖折りだが、身長差と持っている本のお陰でダメージにはならなかった。



「いや本当、感謝しかないとも!……えーと」



 ここでようやくこちらの存在に気付いてくれたのか、レナーテ地学教師は名前を呼ぼうとして硬直した。



「一年生のジョゼフィーヌ・エメラルドですわ、レナーテ地学教師」


「そうか。感謝する、エメラルド」


「どういたしまして」



 普段ならお礼を言われる程の事では無いと言うところだが、こういう研究者相手には素直にこう言わないと、ソレがどれだけの事なのかを延々と語られるハメになる。


 ……つまり、普通に受け入れるのが正解ですの。



「ところでレナーテ地学教師、わたくし少々用事がありましてこちらの研究室まで来たんですの」


「ああ、だろうね。そうじゃなければ私の部屋に生徒はそうそう来ない」



 意識が思考の世界からこちらに戻って来たのか、淡々とした普段のレナーテ地学教師に戻り、机の上に広げられていた資料らしき紙束をバサバサと纏め始める。



「それで、何の用かな?分厚い本を持っているけど、ナニか聞きたい事でもあったかい?」


「いえ、そうではなく」



 多少強引に動かなければスルーされるとわかっている為、今までずっと持っていた本を押し付けるようにして手渡す。



「……ん?」



 一番上にある本の表紙を見て、レナーテ地学教師はナニかに気付いたように左腕で本の束を抱え、空けた右手でその本を手に取った。



「これは……」


「本屋に注文していたらしい本ですの。受け取ったが忙しいというランヴァルド司書に頼まれて、おつかいに来たんですのよ」



 恐らくランヴァルド司書が自分に頼んだのは、彼女相手では中々話を聞いてもらえず時間が掛かると思ったから、という理由もあるだろう。

 というかそんな気しかしない。



「ふむ、成る程……確かに受け取った。手間を掛けさせたね。ありがとう」


「どういたしまして」



 ……これでミッションクリアですわね。


 あとはさっさと退散し、ランヴァルド司書に報告すれば一段落だ。

 そう判断し、挨拶をしてから研究室を出ようと扉を開ける。



「ああ、少し待ってくれ」



 レナーテ地学教師の言葉により、開けた扉をソッコで閉めるコトになった。



「……ナニか?」


「ついでに頼みたい事がある」



 断りたい。



「ソレ、拒否権ありますのよね?」


「やってくれたら製本予定の資料、つまり製本前の原稿を読ませてあげよう」


「やりますわ」



 ……口が勝手に!


 基本魔物メインに調べているとはいえ、魔物を知ろうとすれば自然と他の学業にも精を出す必要がある。

 そして自分は大人の思考力を有しているので、多少難しかろうとある程度の理解は出来るのだ。

 つまりは馬を走らせるニンジンという事だが。


 ……馬鹿正直に引っ掛かりましたわー!


 もう少し自制心を鍛えるべきかもしれない。



「頼みたい事というのはだね、探し物なんだ」



 自分を省みていると、こちらの様子をまったく気にせずにレナーテ地学教師が話し始めた。


 ……研究者ってこういうトコがありますわよね。



「学園の裏手の森を少し入ったトコロに岩なんかがゴロゴロしてる場所があるんだが、前にソコに行った時に、採取に夢中になり過ぎてペンダントを落としたらしくてね。正直ペンダント自体はどうでも良いんだが、その中に重要な研究資料を仕舞ってる棚のカギが入ってて」


「……つまり?」


「カギがないとヤバイのでエメラルドの視力で探して欲しい」


「成る程……」



 誰かが拾ったりでもしていない限り、この目で()れば探し出せる。



「了解しましたわ。一旦ランヴァルド司書におつかいの報告をしてから、探してみますわね」


「うん、頼むよ」



 今度こそ扉を開けて研究室を出ると、扉を閉める前にレナーテ地学教師が言う。



「あ、それと報酬の資料だけど、外国向けだったから外国語で書いてあるんだ。それをこっちの言語に訳すの面倒だから、時間掛かっても良いから読む時に翻訳版書いてくれないかな。ちゃんとその分は翻訳代払うよ」



 ……報酬が思いっきりトラップでしたわー!





 ランヴァルド司書に報告してから、学園と森の間にある小屋に住んでいる森の管理人にくだんの場所を聞き、そこへ向かう。


 ……思ったより近くて助かりましたわ。


 十歳児の足で行ける距離には限界がある。

 帰りの時間も考えると、移動に時間を掛けるのはロスが大きい。

 到着した岩場を、きょろりと()渡す。


 ……あ、ありましたわ。


 普通に見渡すだけでも見つかりそうな位置に、ペンダントはあった。

 恐らく採取に夢中になり、普通なら気付けるだろう位置に落ちたペンダントにも気付かず帰ったのだろう。


 ……セキュリティ、もう少し気にした方が良いと思いますの。


 今は戦争も無い平和な時代だが、悪人が皆無というワケではないのだ。

 とりあえずペンダントを回収しようと手に取った。



「……君は、そのペンダントの持ち主の知り合いか?」


「あら」



 地面の下から声がした。

 ()てみると、話しかけて来たのはモグラのようだった。


 ……あ、ドラゴンモールですわね。


 全体的にモグラだが、ドラゴンモールは一般的なモグラより大きい。人間の赤子サイズはある。

 そしてドラゴンという名称が付けられる理由は、その手足だ。

 ドラゴンモールはパッと見モグラだが、その手足はドラゴンのようなウロコに覆われ、鋭い爪を有している。



「ええ、このペンダントの持ち主に、探して来て欲しいと頼まれましたの」


「ふむ……」



 ボコリ、とドラゴンモールが地上に顔を出した。



「……本当のようだな。彼女の匂いが、少しだが君から感じる事が出来る」



 ……そういえばドラゴンモールは種族的に盲目でしたわね。


 目が無くとも視覚、または視覚に近い感覚で周囲を認識する魔物は多い。

 が、ドラゴンモールは完全に盲目だ。

 生態がもぐらに近いから、というのもあるだろう。


 ……それにしても、まるで見張ってたかのように声を掛けてきましたわね。



「あの、もしかしてこのペンダント、誰かに奪われないように見張っててくれましたの?」


「……大事なモノかと思ったからな」



 ……今、乙女の恋愛レーダーに反応がありましたわ。



「確かにコレ、レナーテ地学教師の大事なモノ……というか、大事なモノが入ってるモノですの。守ってくれていたコト、感謝いたしますわ」


「私が勝手にやっただけで……そんな、礼を言われるようなコトはしていない」



 ペコリと頭を下げると、謙遜したようにそう返された。



「……ところで、少し聞いても良いだろうか」


「はい、何でしょう?答えれる範囲で良ければ答えますわ」



 ドラゴンモールは、よく()ないとわからないレベルで少し恥ずかしそうにしながら言う。



「……ここによく来る彼女の名は、レナーテと言うのか?」


「「ここによく来る彼女」かはわかりませんが、このペンダントの持ち主であれば、レナーテという名前で間違いありませんわ」


「そうか……ありがとう」



 ポワポワと嬉しそうなのが目に()えてわかるドラゴンモールに、女の恋バナしたい欲がウズウズと湧いてくる。



「……レナーテ地学教師のコト、どう思っているんですの?」


「どう思っている、とは?」


「いえ、何だか特別な想いを抱いているように()えたので」



 微笑みながらそう言うと、ドラゴンモールは少し逡巡してから答える。



「……まあ、そうだな」



 小さく、だがしっかりとそう言った。



「最初は黙々と地面を掘ったりするものだから警戒していたが、目的のモノを採取した時や見つけた時の、実に嬉しそうな声や気配が……好ましい、と思ったのは事実だ」


「あら、あらあらまあまあ」



 楽しくなってきた。

 完全に好奇心旺盛なおばちゃんみたいな反応になってしまっているが、恋バナを前にした女共通の反応だから仕方が無い。



「……そうだな。……なあ、君。もし良ければだが、少し聞きたい事……というか、確認したいのだが」


「はい?」



 ドラゴンモールは、少し硬い声で言う。



「彼女……レナーテは、もうパートナーが居るのか?」


「居ませんわ」



 キッパリと断言した。

 コレは紛れもない事実……というか、公然の事実なのだ。



「レナーテ地学教授は、ドラゴンモールも知っているかもしれませんが、研究を始めると他に意識が向かないんですのよね」


「……ああ、知っている」



 時々見かける、否、見えてはいないのだろうが、それでもわかるレベルらしい。



「なので今までもパートナーが居た事はあったらしいのですが……その、「研究の方が大事なんだね」と別れる事が多いらしくて」



 地球で言う、仕事と私どっちが大事なの!?というアレだ。



「……多い?」



 ……気付きましたわね。



「レナーテ地学教師、バツ三ですわ」



 バツが一つでも付くだけレアだ。モチロン悪い意味でだが。

 レナーテ地学教師は、それが三つも付いている。

 この学園内ですらバツが付いているのはレナーテ地学教師だけだというのに、ソレが三つ。

 彼女の研究への情熱が尋常じゃないのがよくわかる。

 すると、ドラゴンモールが考え込むように呟く。



「……だが、つまり、フリーという事か……」


「狙うのであれば直球勝負じゃないと通じないと思いますわよ」



 研究対象以外には自分ですらどうでも良いと言うようなタイプだ。

 月が綺麗ですねとシャレた言い回しで告白しても、「そうかい、私は月に興味は無い」と返すのが見たかのように脳裏に浮かぶ。


 ……世の中、ヒネった方が良い場合と、ヒネったら通じない場合がありますのよねー。


 そしてレナーテ地学教師は確実に後者だという確信があるレベル。

 いや、レナーテ地学教師の場合は月に関する事をマシンガンのように語り始めそうではあるが。



「……もし良ければ、一緒に行きます?」


「は?」


「わたくし、これからコレを届けに行くんですの」



 見えてはいないのだろうが、ペンダントを見せる。

 チャリ、と金具が音を立てたので、伝わったはずだ。



「会話になるかはわかりませんが、ペンダントを守ってくれていたと紹介しますわ」



 暗に一方的に知っているという関係から、顔見知りにランクアップする気はないか、という誘いだ。

 ドラゴンモールはその言葉に少し悩んでから、確かに頷いた。



「……折角のチャンスだからな。ありがたく、その誘いに乗らせてもらおう」





 レナーテ地学教師の研究室をノックすると、今度はキチンと返事が返って来た。



「失礼いたしますわ」


「ああ、お帰り。どうだい?ペンダント、というかカギは見つかった……モグラ?」



 こちらの足元に居るドラゴンモールを見て、レナーテ地学教師が不思議そうに眉をひそめた。



「こちら、ペンダントが誰かに奪われたりしないように守ってくださっていたドラゴンモールですの。折角なので連れてきましたわ」


「そうか、折角なのでの意味はわからないが、大事なモノだったのは事実だ。感謝する」



 レナーテ地学教師は床に膝をつき、ドラゴンモールに視線を近づける。



「わざわざ来てくれたんだ、好きにくつろいでいくと良い。……くつろげる空間では無いがな」



 その言葉の通り、研究室はそれなりの広さがあるというのに、机と採取した土や石、そして資料が詰まった棚で埋められており、床にもあちこちに資料の紙が散らばっている。



「いや、私はただ勝手に守ろうとしただけで、大した事はしていない……。ここに来たのも、アナタと話しをしてみたいと思う私の為に、彼女が気を使ってくれただけで……」


「ふむ?」



 ポツリポツリとだが、正直に語るドラゴンモールに、レナーテ地学教師はどういう事だという視線をこちらに向けた。



「どうも、ちょくちょくレナーテ地学教師の事を察知していたようで。なら折角だし会話でもされては?と思って連れてきましたの」


「……誘拐ではなく任意なら私は何も言わないけど、地学以外でそう大した話は出来ないよ」



 レナーテ地学教師は少し困ったように頭を掻いた。



「そうだな、食堂にでも行くかい?お礼として食べていくと良い」


「……いや、私はあなたに言いたいコトがあって来ただけだ」


「ああ、そんなコトを言っていた……か?」



 うん?とレナーテ地学教師は首を傾げた。


 ……まあ確かに、会話したいと言いたい事がある、では意味が違って来ますわね。



「もしかして苦情かな?」


「いや、違う」



 ドラゴンモールは首を横に振り、言う。



「私はあなたに恋をしている」



 ……思っていた数倍直球でしたわ!



「最初はいきなり土を掘り始めたりするから恐怖の対象として認識していたが、アナタが目的のモノを見つけたりした際の嬉しそうな声や気配に惚れた」


「……ほう」



 淡々と、しかしハッキリと言うドラゴンモールに対し、レナーテ地学教師は真面目に頷いた。

 だがその目に、突然の告白に対する困惑が浮かんでいるのが()える。


 ……レナーテ地学教師、真面目ですものね。


 マイペースな研究者タイプではあるが、研究者ゆえに真面目なのだ。

 だからこそ、いきなりの展開だろうと、こうして真摯に受け止めようとしているのだろう。



「私は種族的に生まれつき目が見えないが、きっと目的のモノを見つけた時、アナタはとても素敵な笑顔を浮かべているのだと思う。見えないのが普通だから、それまで思ったコトも無かったが……アナタに惚れてからは、その笑みが私に向けられ、そして見るコトが出来たらな、と思う時がある」



 言い終わり、ドラゴンモールは一息ついた。



「私からアナタに言いたい事、というか告白は以上だ。出来ればパートナーになれればと思うが、決めるのはアナタだから、気持ちのままに返事を聞かせて欲しい」



 ……思った以上にソッコで直球な告白でしたわ……。


 そんなハッキリとした告白をしてみせたドラゴンモールに、レナーテ教師は言う。



「私はバツ三だ」


「聞いた」


「そうか」



 ……淡々とした会話ですわねー。


 告白タイムのハズなのだが、なんだろうこの淡々とした会話は。

 コレが大人の告白タイムというモノなのだろうか。



「私は研究に夢中になるし、その間他の全てが頭から飛ぶ。話し掛けられようと無視する。パートナーを解除されたのは完全にソレが理由だが、私にソレを止める気は無い」


「私は研究に夢中なアナタに惚れている。寧ろ研究に必要なのであれば、土の中にもぐって、目的のモノを探す手伝いをしよう。幸い私はドラゴンモール……大抵のモノはこの爪で掘れる」



 そう、ドラゴンモールの手はドラゴンだ。

 ウロコの硬さと爪の強さは確かにドラゴンのソレなのだ。

 見た目だけではなく、それゆえにドラゴンモールと名付けられている。



「私は他人が思うような、優しいパートナーとしての対応なんて出来ない」


「私はアナタのそばに居るコトが出来て、アナタが研究に夢中になっているのを感じれるなら、充分に満たされる」



 レナーテ地学教師は無言になり、そのコウモリのような手で顔を覆った。



「……良いだろう」



 そのままグイ、と前髪を掻き上げ、言う。



「とりあえずは三ヶ月程お試しで共に過ごそう。私はコレ以上バツを付けたくないんだ。もしその間、君が……ドラゴンモールが平気で共に過ごすコトが出来たのであれば、そしてまだパートナーになる気があるのであれば、その告白を受けよう」



 そう言ってレナーテ地学教師は、ドラゴンモールの前に手を差し出した。



「……ああ。もしアナタが聞いてくれるのであれば、アナタが研究に夢中になっている間にどれだけ私がアナタに惚れ直しているかを語って聞かせよう」



 ドラゴンモールはそう言い、レナーテ地学教師の手を取った。



「…………別に研究中は好きに動いてくれていて構わないが、語るのは勘弁してくれ。大体愛想を尽かされるコトが多かったから、私はそういうのに弱い」



 ドラゴンモールに差し出していない方の手で顔を覆うレナーテ地学教師の顔は、赤く染まっていた。





 コレはその後の話になるが、レナーテ地学教師とドラゴンモールの相性はすこぶる良かった。

 何せ研究者と、その研究を邪魔しないパートナーだ。

 構えとうるさく言うのでもなく、研究している姿が好きだと言い、助手のような仕事までこなすという全肯定。

 元々レナーテ地学教師は研究に夢中になる癖があるとはいえ、ソレ以外はまともなヒトだ。

 ゆえに採取が出来なかったり、研究に良い結果が出なくても、お互いにまた次頑張ろうと言い合える。

 そして上手く行けば、お互い喜びながらのハグだ。


 ……傍目から見ても、随分上手く行ってますものね。


 三ヶ月も必要なのかと思う程相性の良い一人と一匹は、三ヶ月後に無事パートナーになり、今度こそ最期まで続くようにとレナーテ地学教師の知り合い達から、パートナー円満系のアイテムをたんまりと贈られていた。




レナーテ

研究者気質でマイペースで思考の世界に入ったら中々帰ってこない地学教師。

でも思考の世界に入ってない時は結構マトモ。


ドラゴンモール

ドラゴンの手足を持つ盲目なモグラ。

直球が良いと言われたので剛速球を投げた。


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