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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
二年生
38/300

魔法教師と復讐女王

オリジナル歌詞が作中で出ます。



 彼の話をしよう。

 魔法に秀でていて、才能の塊で、結構ヤバい執着を持つ。

 これは、そんな彼の物語。





 一年生の頃、魔法の授業で「何故畑などの水遣りを魔法でやらないのか」というのを教わったコトがある。

 アレは確か、ゾゾン魔法教師の授業だった。

 基本的に教室で行うタイプの授業が多かったのだが、あの日は外で行われたのでよく覚えている。



「魔法を使った方が早いし面倒も少ない。時間も短縮出来るし、作物の成長も良い。だというのにも関わらず、基本的に作物には普通の水遣りを行う。手間が掛かるというのに、だ。何故かわかるか?」



 黒いコートを着たゾゾン魔法教師は左手に大きめの鳥かごを下げながら、最前列に居るこちらを見た。



「エメラルド、答えろ」


「答えなくて良いわよ、こんな男の問いかけになんて」



 そう、確かゾゾン魔法教師が下げている鳥かごの中に閉じ込められている彼女が、嫌味を含んだ笑みを浮かべながらそう言っていた。

 もっともゾゾン魔法教師には授業中は彼女の言葉に耳を貸さないようにと言われていたので、普通にゾゾン魔法教師に答えたが。



「ハイ、ソレは作物が魔法で出された水を吸収するコトで、魔力を含んでしまうからですわ」


「よし、続けろ」


「ハイ。まず魔法で出した水には当然のように魔力が含まれています。そしてソレを吸収し続ければ、作物は当然のように多量の魔力を含むコトになりますわ。毒を摂取し続ければ毒が蓄積されるような感じですわね」


「ハイ」



 ソコで、同級生の中の一人が手を上げた。

 ゾゾン魔法教師がどうぞと促し、その生徒は疑問を口にした。



「魔力が含まれるなら、そっちの方が食べる分には良いんじゃないの?」


「良い質問だ。エメラルド、答えろ」


「ハイ。確かに魔力が含まれている作物を食べた方がわたくし達の魔力の底上げにはなりますが、重要なのは野菜に多量の魔力が含まれるコト」



 そう、ソレが問題だ。



「魔物の話になってしまいますが、長年使われた上で魔力を得たコトで魔物化する魔物は多いですわよね?畑にいるウィズダムスケアクロウのように」


「あ」


「そう、作物も魔物化するんですのよ。ただ当時魔物化した作物はあまり味が良いとは言えなかったそうですけれど。あと場合によっては捨てられて腐った作物が恨みによって魔物化するパターン、もしくは魔物化してから腐り、ゾンビ系になって新鮮な野菜を腐らせるなどという被害もあったと言いますわ」



 ……実際、図鑑に載るレベルで普通にそういう魔物が居るんですのよね。



「そして最後に、少数ではありますが多量の魔力にアレルギー反応を起こすヒトも居ないではありません。食肉は魔物肉なので当然魔力量が多く、魚も同様。なのでそういったアレルギーを持つ方は自然とベジタリアンになるのですが、もし野菜にまで多量の魔力が含まれてしまうと」


「アレルギー反応が出るヒトにとっては食べれるモノが無くなる……」


「そうなりますわね。そして野菜などの作物は何代も繰り返し育てるコトで品種改良をしたりもしますから、もし魔力量の多い作物が多くなってしまうと魔力が含まれない作物どころか、種の入手すら危ぶまれますわ。何せ種は魔力が含まれた実の中に出来ますものね」


「その通り」



 彼女が入っている鳥かごを揺らさないようにか、左手の位置を変えないままにゾゾン魔法教師は手を叩いた。



「私が説明するよりもわかりやすく丁寧で良かったぞ、エメラルド。ちなみに一応補足しておくが、作物とは野菜だけではなく花や果物なども含まれる。なのでソレらに対しても与えるのは普通の水だ。ただし植物系の魔物だと栄養不足になる場合もある為、必要そうな時は魔法で出した水を与えた方が良い」



 将来植物系のパートナーが出来た時に必要な知識だから覚えておくように、とゾゾン魔法教師は言った。



「ふむ……思ったよりエメラルドの説明がわかりやすかったから時間が余ったし、魔法の呪文についてを説明するか」



 ゾゾン魔法教師は懐から懐中時計を出し、そう呟いた。



「あら、終わったなら終わったで良いじゃない。後は解散して遊ばせれば良いでしょう?まだ小さい子供ばかりなんだから」


「ついでだし多少派手だから問題は無いだろう。早めに覚えておいた方が良いコトだ。……ナンだ、私と二人っきりになる時間を多めに取りたいのか?」


「死ね!」



 鳥かごの中の彼女はゾゾン魔法教師の言葉が不快だったのか、その美しい人形の顔を呪いの人形のように歪めて叫んだ。



「死ね!お前なんて死んでしまえ!誰がアンタと二人きりになりたいって言うのよ!私をこの鳥かごから出してくれる誰かとならともかく!」


「フフ、その鳥かごから出すのはお前が恨み辛みを忘れて害の無い魔物になり、私から離れなくなったのであれば、だな」


「あああああああああ恨めしい恨めしい恨めしい腹立たしい死ね!」


「さて、では呪文についてだが」



 よくあるコトというか、いや事実よくある光景ではあるのだが、彼女の罵倒はゾゾン魔法教師にとっては愛の言葉にでも変換されているのか、少し緩んだ表情でゾゾン魔法教師は説明を始めた。



「まず何故ああも長ったらしい呪文を用いるのかと言えば……そうだな、例えば今火を放つ魔法を実演しよう」



 そう言い、ゾゾン魔法教師は背後に視線を向ける。

 ソコは時々外での体術の授業などで使用される、草が無い部分の土地だ。



「漂う火気よ、ここに集いてその姿を現せ」



 ゾゾン魔法教師がそう唱えると、暖炉の中で見るような焚き火サイズの火が一瞬付き、消える。



「次に短縮版。……燃えろ」



 魔力が込められたその言葉が放たれた瞬間、強い魔力と共にさっきの火の五倍以上はあるだろう炎が姿を現した。

 その炎は強い勢いで燃え、ゾゾン魔法教師の若草色の髪を少し揺らしたものの、数秒で消えた。



「このように、直接的な呪文を使用するとその分だけ魔力を持って行かれるし、威力も強い。普段使用するあの長ったらしい呪文は、要するに制限だ。ああして回りくどくしたり無駄な言葉を重ねるコトで威力を減らしている」



 普通、というか異世界である地球的な考えでは、こういったモノは威力を研ぎ澄ましていくモノなのだろうが、ソレは危険が大きい。

 ゆえに、このアンノウンワールドでは威力をどれだけ殺せるかが重要だ。

 誰だって煙草に火を付けようとして人体発火現象を起こしたくは無いだろう。



「ちなみに短縮というか、呪文は簡潔でわかりやすければソレだけ威力が高まる。つまり……火、炎、燃えろ、熱、火炎、ファイア」



 ゾゾン魔法教師がそう唱えた瞬間、火事にしか見えない大きな炎が出現した。

 しかもまったく消える気配が無い。



「……まあこういう感じで、簡潔な言葉を重ねるコトで凄まじく強い炎を放つコトも出来る。ただ加減に関してはやはり実践あるのみなので、頑張ってこの炎を消すのが課題だな」


「エッ」


「か、課題って……」


「私は今ので大分魔力を消費した。流石にその状態ではこの威力の炎は消せん。なので外での体術や剣術の授業に使用するこの場を広げないように頑張ってくれ」


「あの開けたトコ、魔法の実演の結果出来た空間だったんですの!?」



 ……通りで焼け跡が()えると!


 あのままではどうしようも無かったので、同級生達で頑張って教師が全力で出現させた炎を消火した。

 その間ゾゾン魔法教師はずっと近くの花壇の縁に座って鳥かごの中の彼女に微笑みかけていて、物凄くイラッとしたのを覚えている。





 入学して間も無い頃の授業を思い返しながら、あの頃はまだ教師の横暴さにイラッと出来る常識があったなと懐かしい気分になる。

 今はもう研究者気質な教師達にすっかり慣れ、多少の横暴さはスルー出来るようになってしまった。


 ……というか、慣れるしかありませんでしたものね。


 ケイト植物教師が酔っ払いながら授業したり、フランカ魔物教師がフィールドワークに行って授業が中止になったり、モイセス歴史教師の見た目年齢が毎回違ったり、どんな体型相手でも対処出来るようにとヨゼフ体術教師が変身餅によって変身したりと、常識から遠い教師が多い。

 もっともコレから混血が普通になっていくと考えれば、時代を先取りしているのかもしれないが。


 ……ソレに、変わってこそいますけれど、贔屓とか平均とかを気にしない分、授業がわかりやすいんですのよね。


 変だし殆ど狂人でしかないが、凝り固まった思考では無いので受け入れやすい。

 ナニより学園自体が生徒の自主性を伸ばす方向性の為、自分のような混血はとても生活しやすいのだ。

 そんなコトを考えながら、ベルント語学教師に頼まれた本を持ってゾゾン魔法教師の研究室へと向かっていると、歌が聞こえた。



「カァカァ カラス 鳴いてるわ」



 ……彼女の歌声ですわね。



「最初は 幸せ お姫様

 キラキラドレス ふかふかベッド

 家族皆で 笑ってた」



 彼女は常に鳥かごの中に閉じ込められている為暇な時が多いらしく、暇潰しにとよくこうして歌っている。



「けれども戦争 始まって

 負けた 転落 真っ逆さまに」



 ……そして、この歌は……。



「両親 ザックリ 斬首され

 弟 焼印 全身火傷」



 前に話した時、聞いたコトがある。



「私は 吊るされ 血を抜かれたわ」



 この歌は彼女が生前の恨み辛みを忘れないようにと、口ずさむようになった歌だ、と。



「カァカァ カラス 鳴いてるわ

 鉄の香りする お城の上で」



 本魔から、そう聞いた。



「カァカァ カラス 鳴いてるわ

 私達の肉 啄ばんで」



 まだ少し距離があるゾゾン魔法教師の研究室から、ドロリとした怨念が煮えたぎるマグマのように蠢くのが()えた。



「必ず 殺すわ

 恨み忘れるものですか」



 彼女は幽霊らしいのだが、今はゾゾン魔法教師が作ったという美しい人形の中に入っている。

 否、閉じ込められていると言うべきだろうか。



「必ず 殺すわ

 恨み晴らさでおくべきか」



 ちなみに、自分は彼女の名を知らない。

 聞いていないからだ。

 けれど、一応呼び名はある。



「カァカァ カラス 鳴きなさい

 彼らの 子孫の 亡骸の上で」



 彼女の呼び名は、復讐女王だ。





 ゾゾン魔法教師の研究室の扉をノックして挨拶し、返事を聞いてから中に入る。



「失礼致しますわ、ゾゾン魔法教師。復讐女王も、失礼致しますわね」


「構わないわ」



 台の上に置かれた大きな鳥かごの中、復讐女王は鳥かごの中に置かれている小さな椅子に座っていた。

 その美しい人形の顔は、酷く不機嫌そうに歪んでいる。



「……今まで、腹立たしくて堪らないその!男と!二人きりという地獄のような状況だったのだから!しかもいちいち話し掛けてきて、ああ腹が立つ!私はアンタの声なんて聞きたくないの!気が狂うかと思ったわ!」


「フフ、でもそうすると歌うだろう?お前の歌はとても感情が篭もっていて、作業が捗る」


「私の!恨み辛み妬み嫉みを!お前の作業用BGMにするな!」


「ああ、でもやはりそういう声も良いな。お前はいつだって魅力的だ」


「アアアァァアアアアアア!」



 発狂したかのように復讐女王が高音で叫んだ。

 その高音に耳がキーンとなり、わざわざ自分が来てからそう刺激しなくても良いだろうにと思いながらゾゾン魔法教師の机に本を置く。



「コレ、ベルント語学教師からのお届けモノですわ」


「ああ、読み終わったら貸して欲しいと言ったヤツか。ありがとう」


「えっと……」



 自分は叫び終えてグッタリと椅子にもたれ掛かっている復讐女王に視線を向ける。



「わたくし、今ので用事が終わったので、コレ以上長居する理由が無いんですけれど……」


「待ちなさい!」



 その言葉を聞いた復讐女王は起き上がり、言う。



「私の話し相手になりなさい!良いわね!?私は出来るだけこの男と二人きりにはなりたくないのよ!頭が狂いそうになるもの!」


「えーと、ゾゾン魔法教師……」


「ああ、構わん。彼女は生徒と話すのが好きだし、その際の楽しそうな姿は見ていてこちらも嬉しくなるからな」


「見るのを許可した覚えは無いわ!」


「アッハハ……」



 鳥かご越しにゾゾン魔法教師の言葉に噛み付く復讐女王に苦笑しつつ、彼女が入っている鳥かごが置かれている台の近くにある椅子に座る。



「それじゃあ……ナンのお話をしましょうか、復讐女王」


「ナンでも良いわ。アレとの時間が減るのであれば、私もナンでも話すわよ」



 ……嫌ってますわねー……。


 よくあるコトだが、彼女はこうしてゾゾン魔法教師の研究室に来た生徒を引き止めては長話するコトが多い。

 理由は本魔も言う通り、二人きりが嫌だからだろう。



「んー……あ、復讐女王の本名とかって聞いてもよろしくて?」


「別に良いけれど、その内歴史の授業で聞くと思うわよ?」



 こうして会話する時はゾゾン魔法教師が会話に入ってくる率が低いからか、復讐女王は多少リラックスした様子でそう言う。

 ヒステリックさが目立つ彼女ではあるが、ヒステリックになる理由さえ無ければ彼女はワリと落ち着いているのだ。



「復讐女王の生前、そんなに有名な方なんですの?」


「いいえ。それなりに裕福な小国だし、私の死因って私の国が戦争に敗北したのが理由でもあるから……その時私達を負かした国に、色々隠蔽されててね。調べても多分出てこないわ」


「ああ、だからモイセス歴史教師の授業で出るんですのね」


「そういうコト」



 ふ、と復讐女王は微笑んだ。

 モイセス歴史教師は過去視の魔眼を有しており、その魔眼はその場の過去に起きた全てを細かく()るコトが出来る。

 彼は昔その目で真実を()る為にと世界を旅していたらしく、本には書かれていないホントのホントに起きた事実を授業で教えてくれるのだ。



「だから名前はその時知ると思うけど……ああ、でも授業で出るのは大分先かしら。私の死因、結構アレだし」


「さっき聞こえた歌の……吊られて血を抜かれたってヤツですの?」


「そ」



 復讐女王は膝の上に頬杖を付く。



「両親は見せしめとしてギロチンで。ただ、アレはまだ良心的だったわ。弟も私と同じように吊るされてね、焼印……焼きごてって言うのかしら?アレを全身に押し付けられたの。次は私の番だからって私はその光景を無理矢理見せられたわ」


「ヒェッ……」


「無惨な死体になった弟はその辺に捨てられて、次は私。まず吊るされて、首全体に筒を刺されたわ。そうすると血がダバダバ出るの。で、その後は腹、足と段々刺される位置を下げて血を抜かれたわ」


「ゾッとした!今めちゃくちゃゾッとしましたわ!」



 ……通りで歌から滲んでいる怨念が強いと!



「だから当然のように私はソイツらを恨んで死んで悪霊になったんだけど、いまいちゴーストになる才能ってのが私には無かったみたいで。ソイツらに憑きはしたものの、上手く呪えなかったのよね」



 そこまで言ってから、復讐女王の口角が不気味に上がる。



「まあ、幸せそうに生活してるソイツらへのヘイトが溜まったお陰で大分呪いのレベルが上がったけど」


「ウワー……」



 寒気がし、思わず腕を擦る。



「ソレで呪えるようになったから子孫を殺そうと思って、どうせなら最初はヒトが多い場所で殺そうと思ったのよ。ホラ、その方が先祖のやった罪が露見する可能性が高いでしょ?」


「あー、まあ、確かに」


「だから子孫が何人か通ってるこの学園で下見も兼ねてフラフラしてたら……アイツに捕まったのよ!アイツに!」



 そう叫び、復讐女王は先程自分がベルント語学教師に頼まれて持って来た本を読んでいるゾゾン魔法教師を指差した。

 指を差されたのに気付いたゾゾン魔法教師は、本を置いて言う。



「いや、そりゃ私は()えるからな……」



 そう、ゾゾン魔法教師は()えるヒトだ。

 魔眼は有していないが、自分と同じようにただ視力が良い。

 もっとも自分の場合は生まれつきとは違うのだが、ゾゾン魔法教師は本物の生まれつき()えるヒトだ。



「血塗れで殺意に満ち溢れたゴーストが学園内を彷徨っていたら、当然捕まえるだろう、教師として」


「教師として!?よくそんなコトが言えたわね!」



 復讐女王は椅子から立ち上がり、まるで牢屋の中から叫ぶように鳥かごを掴んで叫ぶ。



「ジロジロとしばらくの間私に視線を向けて!そしたらある日いきなり私の魂引っ掴んでこんな人形の中に放り込んだりして!しかもナンなのよこの人形の見た目は!」


「観察の結果を存分に活かしただけだが」


「ええ、そうでしょうね!何せこんなにも私の姿そのまんまなんだから!私が学園に来てから一月も経ってない短期間でよくこんなに正確な人形を作ったという事実に吐き気がするわ!」


「似ていないと拒否反応から抜け出やすくなるからな。生前の記憶が薄ければ似ていなくても良いが、お前は生前の記憶が色濃かったから」


「そういう問題!?」



 ……間に居るの、居心地悪いですわー……。



「ソレに、ちゃんと居心地が良いように作ったぞ?素材も霊体が安定する素材を選んだし、痛まないように色々と処理も施してある。更にその鳥かごにもカギが開けれないようにと細工して、いやまったく、大変だった」


「大変ならしなければ良いでしょ!?大体この鳥かごも趣味悪いのよ!棒を抜けば開けれる作りっていうこれ見よがしに出てみろって感じの!クセに!接着剤でも使ったのかって思うくらいに開けられない!」


「ああ、霊体だと抜けないようになってるからな」


「仲良くなった生徒に抜いてもらおうとしても抜けないし!」


「お前が恨み辛みを全て忘れて悪霊じゃ無くなれば出れるんだがな」


「誰が忘れるものか!」



 一瞬般若かと錯覚する程の殺気を放ちながら、復讐女王はその顔を怒りの表情へと変化させた。



「お前に閉じ込められてから、恨み辛み妬み嫉み全てが積み重なっていくだけよ!」


「うん、まあ、ソレを狙っているからな」


「ハ?」



 ゾゾン魔法教師はニッコリとした笑みを浮かべた。



「私はお前に一目惚れしたから、生徒を守る為という大義名分でお前を鳥かごに閉じ込めたんだ。人形の見た目を似せたのも大義名分があったお陰で違和感を抱かれにくい。そしてお前が悪霊のままで居てくれれば」



 うっとりとした表情で復讐女王を見つめながら、ゾゾン魔法教師は言う。



「私はお前とずっと一緒に居られる」


「こっ……殺す!絶対殺す!アイツらの子孫の前にまずお前を惨たらしく殺してやるわ!」


「ああ、その時はちゃんとお前の魂もあの世に引き摺っていくから安心してくれ。ずっと一緒だ」



 ナンだか色々と凄い話をしているが。



「……あの、わたくしの存在、忘れてませんわよね?」


「ん?モチロン。別に隠してもいないから、誰かに聞かれても私は別に困らないしな」


「困れ!そして捕まれ!」


「断る。私はお前が悪霊である限り一緒に居るし、ただのゴーストになったとしてもその時は私に対する悪感情が無くなったというコトでもあるから、幸せに二人で過ごすとも」


「ちょっと!アンタ!今すぐ兵士に通報して!私の見た目を似せた人形相手に変態行為をするつもりよアイツ!」


「いや、私はただお前のそばに居たいだけで別に性的興奮は無いが」



 ……現代人、殆どが性欲死んでますものねー……。



「ところで復讐女王、そんなに叫んだら喉が渇かないか?」



 そんな風に現実逃避をして遠い目をしていたら、ゾゾン魔法教師はドコからかお茶とクッキーを取り出した。



「ハ?」



 ソレを見て、復讐女王は眉を顰める。



「そうね、乾くような喉ならね!生憎とこの人形に入れられてからは飢え知らずよ。死んでからはずっと喉に穴開いてたから仇の子孫の血に飢えてたけど」



 ……ブラックジョークというかブラッディジョーク……。



「ああ、だから生徒がナニか食べている時、羨ましそうにしていただろう。なので霊体用のお茶とクッキーを用意した。あ、エメラルドはこっちの人間用だ」


「あ、どうも」



 折角出されたのでありがたく受け取る。

 ゾゾン魔法教師は結構ハードな狂人ではあるが、復讐女王以外にはある程度まともなのでナニかを盛られているという心配は不要だろう。

 というかDNAすら()えるこの目で()れば不純物くらいは目視出来る。


 ……まあ復讐女王相手でも執着以外はワリと紳士なんですけれど。


 だが人形の中に入れて鳥かごに監禁しているという事実のせいでソレがわからないだけだ。

 実際ゾゾン魔法教師に敵意バリバリの復讐女王は、警戒したように鳥かごの中に皿ごと置かれた人形用サイズのクッキーを見る。



「……私はおままごと用の人形じゃないのよ」



 小さく舌打ちをして、復讐女王はクッキーを手に取って齧った。



「あら……!味がわかる……?」


「流石に人形に味覚を付与するというコトまでは考えていなかったからな」


「!」



 クッキーで少し柔らかくなっていた復讐女王の表情は、ゾゾン魔法教師の存在を思い出したのかすぐにキュッと引き締められた。



「なので霊体用のクッキーを作って貰ったんだ。魔物用にと作られているのは知っていたが、今までは人形用のを探していたからな」



 ゾゾン魔法教師は優しく微笑む。



「霊体用のクッキーがお前の味覚に一致したようで良かった」


「……こんなので今までの狼藉が許されるとでも思ってるの!?」



 久々の食事が嬉しかったのか、復讐女王の勢いが少し小さい。



「ナンだ、週一の霊体用食事では駄目か?」


「ウッ……」



 飢えはしないとはいえ食事という大事なモノを前に、復讐女王は大分悩んでいるらしい。

 ゾゾン魔法教師に対する怒りなどは確かにあるのだろうが、ソレ以上に生前の記憶に深く関連しているであろう三大欲求の一つが強いのだろう。



「……毎日よ!毎日クッキー以外にもナニか食事を持って来るなら、ちょっとくらいは許してあげても良いわ!」


「ソレは良かった」



 ゾゾン魔法教師はその言葉に、ニコニコと微笑む。

 個人的に復讐女王に対しては少々チョロくないかとも思うが、死因が死因だったせいで歪んだだけで、根は素直だったのだろう。

 そう思いつつ、自分は紅茶を飲んだ。





 コレはその後の話になるが、ふと気になって復讐女王が他の生徒と話している時にゾゾン魔法教師に問い掛けた。



「そういえば、復讐女王に一目惚れしたと言ってましたけれど……血塗れだったんですのよね?」


「血塗れが惚れない理由になるのか?」


「うーん……」



 現代人からすると特に理由にはならない気がする。

 混血の子の中には痛覚が無い不死身の子も結構居て、そういう子は痛覚が無いし死なないからと結構血塗れになっているコトも多いのだ。



「……まあ、強いて理由を言うとだな」



 ゾゾン魔法教師は、少し声を小さくして言う。



「……私は元々結構良いトコに生まれたんだが、ソコの考え方が性に合わなくてな。権力だの才能だのでゴタゴタしているのが不愉快で、縁を切って家を出て、適当に彷徨っていたら教師のスカウトを受けて、そのまま就職したんだ。……わかるか?」


「ナニがですの?」


「つまり、私は自分からナニかに立ち向かったコトが無い。面倒からは逃げたし、目の前に道が出来たらその道を歩いた」



 その頃を思い出しているのか、ゾゾン魔法教師は目を伏せる。



「私が魔法教師をしているのも、出来るから、だ。適当な理由で、深い意味は無い」



 だから、とゾゾン魔法教師は言う。



「だから、私は死後も強い思いを抱いて、諦めずに己の復讐を為そうとしている彼女の姿に惚れたんだ」


「強い思いっていうか、怨念ですけれどね」


「感情という括りで見れば同じだろう」



 ゾゾン教師はククク、と笑った。



「そして一目惚れしたらどうしても自分のモノにしたくなってな。始めて自分から行動した」


「始めてであのクオリティとかヤバいですわね……」



 アンノウンワールド、狂人に才能与え過ぎじゃないだろうか。

 ソレとも才能を与え過ぎた結果狂人になったのだろうか。


 ……個人的には、才能を活かす為には狂人になるのが早かったって意見ですわね。



「だからな」



 ゾゾン教師は言う。



「始めて自分から行動するくらい好きになったから、私は彼女を逃がす気は一切無い」



 その顔はとても優しい微笑みで、ソレを見た自分は背骨を直になぞられたかのような悪寒を覚えた。



「特に他に興味も無いしな。だから私は、彼女を愛するコトに全力を注げる」



 ……コレ、復讐女王、絶対逃げられませんわね。


 逃げ道は無さそうだが、ゾゾン魔法教師は監禁以外は比較的まともなアプローチをしている。

 なので自分は心の中で謝罪しつつ、復讐女王に合掌した。

 まあ()た限り復讐女王自身も既に絆され始めているっぽいので、多分そう遠く無い未来で結ばれると思うのだが。




ゾゾン

才能に満ち溢れていてイケメンで長期戦前提なので監禁以外はまともなアプローチをしているという、紳士的なタカアシガニのような男。

出来ればパートナーになりたいが、まあなれずとも恨みでも良いから自分のコトだけを考えて、かつ他に目を向けられないくらいにこっち見てくれれば良いやって思考。


復讐女王

親の斬首と弟の無残な死と自分の死によって恨み辛みしかないゴーストになったが、狂人に一目惚れされたのが運の尽きだった。

本編終了後、授業への質問じゃ無さそうな話題で盛り上がっているゾゾンとジョゼフィーヌを見てうっかり嫉妬してしまい、とうとう長期間一緒に居てお互いに好意を抱くというパートナー条件をクリアしてしまった為、この先はゾゾンのパートナーとして認識される。


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