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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
二年生
36/300

石化少女とストーンスタチュー



 彼女の話をしよう。

 ルームメイトで、石化の魔眼を有していて、ソレを疎ましく思っている。

 これは、そんな彼女の物語。





 長期休暇も終わり、自分と同じく実家から帰って来たルームメイトのジェネヴィーヴと報告をし合う。

 既に一度他のルームメイトと一緒だった経験があるお陰か、一年生の頃に比べ、距離を縮めるのは早かった。


 ……いえまあ、同級生だから一年の間に普通にジェネヴィーヴと友人になってましたしね。



「という感じで、結局執事はスマイルハーネスに取り憑かれたままを選んだんですのよね」


「普通に話してるけど、ソレ、ヒトによっては大事件よね?」


「本人がもう、喧嘩を売られたから高値で買うぞみたいなテンションで……」


「ああ、放っておくしかない感じなのね」


「その通りですわ」



 ジェネヴィーヴは発動すると生き物を石化させてしまう石化の魔眼を有している。

 しかもやろうと思えば植物や無機物すらも石化させれるレベル高めな魔眼であり、その分コントロールが難しいらしい。

 注視するだけで発動するコトもあるから、と彼女は常に目隠しを付けている。

 そんな目隠しの向こうで、仕方ないとでも言うようにジェネヴィーヴが眉を下げたのが()えた。



「で、こちらが先程言ったわたくし好みのケーキ店のジャムですわ」



 トランクからジャムを出し、床に並べる。



「全種類一つずつ買っちゃいましたの。沢山あるし、好きなのを好きなだけお取りくださいな」


「凄い量ね……」


「折角のチャンスだし、良い言い訳もあるからとつい……」



 定番のイチゴジャムやリンゴジャムから、トマトジャムやニンジンジャムまで多種多様なラインナップとなっている。



「でも、コレだけあるとどれが良いかわからないわね」


「あー……あ、ジェネヴィーヴってこういう食べ物の共有大丈夫なタイプですの?」


「え?ええ、別に構わないけれど、ソレが?」


「なら共有で使いましょう!」



 両手を合わせるように手を叩き、そう発案する。



「そしたら全種類試せますし、苦手な味ならわたくしが食べるから問題ありませんわ。気に入ったのがあれば次の長期休暇でまたお土産として買って来れますし……どうでしょう?」


「……ソレ、良い考えね」



 全種類試せるというのに心が惹かれたのか、ジェネヴィーヴの口角が嬉しそうに上がった。



「是非そうしましょう」


「ではまず、ナニから試しましょうか」


「そうね……定番なら安全そうだから、変り種から試して行きたいわ」


「では……タマネギジャムとか行きます?」



 そう言ってジャムを手に取って見せると、ジェネヴィーヴは一瞬驚いたように目隠しの向こうで目を見開いた後、並べられたジャム達を見て深く頷く。



「こうして改めて見ると、凄い変り種作ってるのね、ソコ」


「隠居してから趣味で開いたらしいので、変わってるのも多いんですのよね。でも舌が肥えてるのか、変わってるのも全部美味しいからホント凄いんですのよあの店!」


「折角だし、次の長期休暇の際にでもジョゼのお家の領地に観光しに行ってみようかしら」


「あら、ソレなら事前に連絡していただければ案内しますわよ?」


「ちょっと、エメラルド家はウチよりも偉い貴族なのよ?家族が引っくり返っちゃうわ」


「案内無くて良いんですの?」


「ジョゼのコト言わずに一人で行くから、その時は頼むわね」


「ええ、頼まれますわ!」



 そんな風に談笑し、二人でクスクスと笑い合った。





 ある日の放課後、王都に出かけていたハズのジェネヴィーヴが戻って来たと思ったら、いきなり手を握ってきた。



「え、ナンですのいきなり」


「ジョゼ」


「あ、ハイ」



 目隠しの向こうで、ジェネヴィーヴはその目に本気の色を滲ませながら言う。



「森に行くから付き合って」


「どういう起承転結があってそうなったんですの?」


「王都に時々出現するって噂の凄腕占い師にこの目を抉り出す以外でどうにか出来ないかって聞いたら、森に行けば全てが上手く進むって」


「ああ、例の……」



 凄腕占い師の噂はよく聞く。

 ナンでも王都の路地みたいなトコロにいつの間にかテントを張っていて、道行くヒトに声を掛けて占っているんだとか。

 ちなみに的中率はほぼ十割。

 見た目は老女だったり女性だったり幼女だったりと女であるコト以外があやふやな、噂らしい噂だ。


 ……ホントだったんですのね。


 そしてジェネヴィーヴが声を掛けられたコトも、目を抉るという選択肢が浮かぶレベルで魔眼を疎ましく思っていたらしいコトも驚きだ。



「で、ナンでわたくし?」



 問い掛けると、ジェネヴィーヴは暗い藍色の髪を揺らして首を傾げ、当然のように言う。



「迷子になったら困るし、アナタ危険な魔物とかにも詳しいじゃない。よく森に出かけたりもしてるし」


「あー……確かにそうですわね」



 この目があれば足跡も()えるし、足跡の違いもいつ頃通ったかという時間経過も()える。

 つまり確実に学園まで帰れる。


 ……その上、魔物にも詳しいときたら……そりゃ案内役の適任者でしかありませんわね、我ながら。



「了解、付き添いますわ。でも日暮れ前には帰りますわよ?」


「ええ、ありがとう!」



 疎ましく思っている石化の魔眼がどうにかなる可能性があるのが嬉しいのか、いつもよりテンション高めなジェネヴィーヴに思いっきり抱き締められた。





 森の中を、特にどっちの方向とは決めずに歩いて行く。

 奥の方に行き過ぎると帰りが遅くなるので、横の方に進路を向けつつのぐねぐねした移動だ。



「というか、森に行けば良いという情報しか無いんですの?」


「いえ、背の低い石像を見逃さないように、と言われたわ」


「ソレ先に言って欲しかったですわ……まだ見かけてないだけ幸いでしたけれど」



 うっかり見落として別方向に来ていたらロスが酷い。



「でも、石像……ですのね」



 ソレなら周囲を()回せば見つけれるかもしれない。

 当ても無く森の中を彷徨うよりは、そっちの方が良い。



「ちょっと失礼」



 立ち止まり、周囲を()回す。

 双眼鏡や望遠鏡のように遠視も拡大も可能な目を存分に利用すれば、森の中の石像というのはわかりやすいハズだ。



「……あ」



 見つけた。

 異世界知識で言うトコロのデフォルメキャラクターのような、二頭身サイズの石像があった。



「見つけましたわ。結構近くですの」


「どの方向?」


「こっちですわ。あまり足元が安定していないので、気をつけて」



 手を差し出してジェネヴィーヴの手を握り、サポートをしつつ不安定な道を歩く。

 石像の位置は運命なのかナンなのか意外と近く、すぐに到着した。



「多分コレ、ですわね」


「サイズ的にもコレでしょうね……」



 執事服を見に纏った、二頭身サイズの悪魔を模した石像。

 二人でこの周辺にナニかあるのかと周囲を見渡すが、特にコレといったナニかは無い。


 ……寧ろ、この石像に含まれる魔力の方が()()()ですわよね。


 魔道具や魔力が含まれた道具を()た時と同じような魔力量が含まれている。

 しかしこんな魔道具があるとは思えないし、仮にこの石像を彫った誰かがめちゃくちゃ念を込めた結果魔力が含まれたとしても、その場合は放置された年月によって魔物化するハズ。

 ()た感じ、結構長年放置されているように()える。


 ……魔物化していてもおかしくないくらいには、ですわね。


 そう思って目隠しをしながらキョロキョロと周囲を見渡しているジェネヴィーヴとは別に石像をじっと見ていると、石像の魔力が動いたのが()えた。



「ん……おやおやコレはコレはお嬢様方がお揃いで、ピクニックかナニかですか?」


「キャッ!?」



 魔力が動いたと思った瞬間、石像はまったく身動きをしないまま、声を発した。

 うっすらとそうじゃないかと思っていた上に()えていた自分は特に驚きもしなかったが、ソレを知らずに周囲を見ていたジェネヴィーヴは驚いたように声を上げた。


 ……言っておくべきでしたわね。


 キチンとホウレンソウをしておけば驚かずに済んだだろうと思い、ちょっぴり反省。

 全部()えるというコトは驚きが少なくなる為、あまり報告しないクセが付いてしまっているが、もう少し報告するように善処しよう。


 ……出来る気はしませんけれど。


 さておき、石像だ。

 今まで眠っていたのだろう石像の魔物は、明るい声で言う。



「いやあ、こんな歩きにくい位置に放置されたせいでヒトに会うコトが中々無くてですね。なので眠っていたワケなのですが、まさか寝起きでこんなに美しいお嬢様方に出会えるとは!」



 石像ゆえに表情が変化するコトは無いが、その声はニコニコとした笑顔を浮かべているかのような声だ。



「トコロで、何故このような場所に?迷子ですか?」


「迷子ではありませんわ」


「ふむ、では落し物でも?」


「そうではないわ」



 体が動くのであれば首を傾げていただろう声で言った石像に、ジェネヴィーヴは首を横に振る。



「というか、まず……私はジェネヴィーヴよ」



 ……ああ、そういえば自己紹介をしてませんでしたわね。



「わたくしはジョゼフィーヌですわ」


「で、アナタの名前……というか、種族名は?」


「自分は……元は違うのですが、ええ、今はストーンスタチューと」


「!」



 ストーンスタチューとは要するに石像だ。

 そして元が違うという言葉と、ストーンスタチューという種族名を使うというコトは、つまり。



「……アナタ、やらかした魔物なんですのね?」


「…………ご存知でしたか」



 声しか聞こえないが、その声はバツが悪そうな声だった。



「ジョゼ」



 ジェネヴィーヴに袖をクイクイッと軽く引かれる。



「ストーンスタチューってナニか問題がある魔物なの?」


「問題、というか……」



 ……問題を起こした魔物がなる姿、というか……。



「簡単に言いますと、害魔のように処分する程では無いが悪さをしまくった魔物の成れの果て、ですわね」



 言い方は悪いが、そうとしか言えない。



「昔々に、そういった魔物を石化させる魔法を使う魔法使いが居たらしいんですの」


「もしかして、学園の創設に関わったっていう伝説の?」


「いえ、普通に寿命で死んだらしいのでその方ではありませんわ」



 あのヒトはまだまだ元気に現役であちこちを飛び回っている。



「で、こうして石像にするコトで長い反省の時間を強制。肉体を得る為には誰かの協力が必要、かつ制限時間は肉体を得てから夜が明けるまで。見た目を縮めて能力を制限するコトで、肉体を得たとしても悪さが出来ないように……という状態になっているのが、ストーンスタチューですの」


「ソレは……まあ、魔物相手じゃ逮捕も出来ないから、そうするしか無い、のかしら」


「でしょうね」



 ジェネヴィーヴの言葉に、ストーンスタチュー自身が同意した。



「まあ自分などは見ての通り……今はちょっと姿も変えられていますが、悪魔でして。ヒトを唆したりして悪行を片っ端からやったモンです。もっとも今は長年の雨ざらし生活によって、かつてやらかしてしまった悪行など疎ましいモノでしかありませんが」


「悪魔という魔物からストーンスタチューに変わった、というのも大きそうですわねー」



 魔物は種族によって思考が左右されるものだ。

 バルブブルーしかり、スマイルハーネスしかり。


 ……ソレにしても、ストーンスタチューの悪い心とかが浄化済みで良かったですわ。


 自分は悪に対しては自動的にスイッチが入ってしまうので、うっかりまだソレが残っていたら近くの大きな石を掴んでラッコのようにガンガンと石を叩きつけ、壊していた可能性がある。

 悪を認識すると即座にオートで迎撃するクセ、ある程度コントロール出来るようにならなくては。



「……肉体を得る為に誰かの協力が必要っていうのは、どういう意味なの?」


「んーっと、まあ心から反省して誰かを思いやる気持ちがあれば、その誰かの愛で肉体に戻れるってヤツですわ。ただし夜が明けるまでなので一日限定で、つまりその誰かに対して酷い扱いなどをすればまた石像状態になる為、真摯に相手に向き合う必要がある、というモノですわね」



 石像なので動かないとはいえ、誰かに良い顔をしてその気にさせ使い捨てる、というコトが出来ないようにする為の策だろう。



「まあ愛っていうか、正確には対価として必要なのは特殊能力なんですけれど。または五感のどれか」


「つまり……どういうコト?」


「ええとですね……」


「つまり」



 眉を顰めて首を傾げたジェネヴィーヴに、ストーンスタチューが説明する。



「自分のような元犯罪者に心の底からそんな大事なモノを預けるようなヒトが居れば、その愛に免じて一日だけ石像では無くしてやろうってコトですよ。誰だって自分の五感、もしくは特殊能力はとても大事なモノですからね。ソレを対価にってんだからあの魔法使いもタチが悪い」



 当然のようにストーンスタチューは自分をストーンスタチューという魔物へと変えた魔法使いへのヘイトが高いらしい。



「まあ能力を対価にした結果永遠にその能力が失われるというようなコトは無く、単純に一日貸し出しみたいな感じで、夜が明ければストーンスタチューが石像に戻るのと同じように返却されるようですけれど」



 そう補足すると、ジェネヴィーヴは納得したように頷いた。



「ふぅん……成る程。じゃあ貸し出した能力の方は?肉体を得たストーンスタチューが使えるようになるの?」


「あ、いえ、ソレは単純に肉体レンタルの対価みたいな感じですので、ストーンスタチューが使えるワケではありませんわ。一時的にその能力を質に入れて一時的に肉体を引き取る感じですの」


「わかりやすいけど貴族がする例えかしら……」


「放っといてくださいな」



 わかりやすい説明がコレしか浮かばなかったのだ。

 というか貴族とはいっても我が家は結構庶民派なトコがあったりするので、ソコらはスルーして欲しい。



「まあ、とにかくストーンスタチューについては理解したわ。でも最後に一つだけ質問しても良いかしら」


「ナンですの?」



 ジェネヴィーヴが目隠しの向こうで真面目な光を灯しながら、真っ直ぐとその目でこちらを見たのが()えた。



「心の底からこの石化の魔眼の能力を渡したいって思えば……」



 目隠しの向こうで一瞬目を逸らし、目を伏せてその目隠しを撫でる。



「……渡せる、のかしら」


「えっ!?」



 ……ああ、やっぱりそう考えての質問でしたのね。


 ナニも知らないストーンスタチューは驚いた声を発したが、ジェネヴィーヴがその魔眼を疎ましく思っているのを知っていた自分からすれば、だろうなとしか思えない。

 だから、キチンと返答しよう。



「渡したいと思うのでは微妙ですが、コレを対価にして良いからストーンスタチューに肉体を!って思えばイケますわ。ただ問題があって……」



 言いにくさのあまり一瞬言葉を詰まらせてしまったが、ジェネヴィーヴとストーンスタチューの為にもハッキリと言うべきだろう。



「……そう思いながら、ストーンスタチューにキスする必要があるんですのよね。マウストゥーマウスな感じで」



 つまり、口移しだ。



「…………エッ」



 ソレを聞いたジェネヴィーヴは、一瞬にして熟れたリンゴのように真っ赤になった。





 コレはその後の話になるが、ジェネヴィーヴは恥ずかしさよりもファーストキスよりも、目隠し無しでの視界を選んだ。

 つまりストーンスタチューの口にキスをし、石化の魔眼の能力を対価としてストーンスタチューに肉体を与えた。

 そして一人と一体はパートナーになった。


 ……まあ、パートナーになる以外ありませんわよね。


 片方は自由に動ける肉体が欲しい。

 そして片方は石化の魔眼に悩まされない視界が欲しい。

 そして毎日リセットされるコトを考えると、お互いのニーズを叶える為にはパートナーとして一緒に居るのが一番都合が良い、というコトらしい。


 ……いえ、まあ、ファーストキスだったジェネヴィーヴが顔を真っ赤にさせていたから、動けるようになったストーンスタチューがコレからの分まで責任を取ろうって言ってたのが一番な理由な気もしますが。


 ただソレを言うのは恥ずかしいのか、誰かに聞かれた時は利害が一致したから、と答えているらしい。

 その辺りはまあ本人と本魔の都合なので別に良いのだが、問題が一つ。



「んん……」



 朝、早めに起きてジェネヴィーヴが起床する前に身支度を整えていたのだが、ジェネヴィーヴが起きてしまった。

 普段はまったく主張しない為意識が皆無なんじゃと思っている異世界の自分が珍しく主張して来たからと、二年生になってから一年生の時より少し伸びた髪をツーサイドアップにしていたのが仇になった。


 ……まあまあ時間掛かりますのよね。


 だが存在感をほぼ出してこない異世界の自分がわざわざ、「若い時しか出来ない髪型だから!今!今だけの期間限定だから!若い内にこの髪型に!可愛いから!」と凄い勢いで主張してきたので、出来るだけ叶えてあげたくはある。

 異世界の自分由来の知識からしてもその意見には同意だし、別にその髪型にするのは嫌じゃないという理由もある。

 しかしソレはソレとして、出来ればジェネヴィーヴが起床する前にこの部屋を出たかった。



「ストーンスタチュー……おはよう」



 何故かと言えば、ジェネヴィーヴは起床してすぐにストーンスタチューに口付けるからだ。

 そして見ないようにしていても、自分の目では死角を向けない限りはしっかりと()えてしまう。



「うーん……おはようございます!いやあ良いですね肉の器で迎える朝は!体が動くのがナニよりも素晴らしい!ええ、今日もまた自分を動かしてくださってありがとうございますジェネヴィーヴ!」



 キスにより肉体という色彩と柔らかさが生まれたストーンスタチューは、ニッコニコな笑みを浮かべながらそうまくし立てた。

 そのまま小さい羽をパタパタと動かして飛び、ストーンスタチューはジェネヴィーヴの全身を確認する。



「おっと、寝癖が付いていますね。顔を洗った後にでもクシで直しましょう!モチロン自分が直しますよ!ついでに可愛らしい髪型にでもしてしまいましょうか!お好みの髪型は?」


「んん……」



 微妙に低血圧なジェネヴィーヴは、対照的に低いテンションで言う。



「ジョゼ、選んでちょうだい……」


「わたくしに言わないで欲しいですわー」



 一人と一体の世界に巻き込まないで欲しい。

 知らなかったなら言うが、こちらは独り身なのだ。



「髪は下ろして、前髪を編み込むのはどうですの?」


「ソレで……」


「了解しました!」



 長年の雨ざらし石像生活ですっかり悪魔らしさが消え失せたのか、ニッコニコな笑顔でストーンスタチューは敬礼した。



「さてさてそれでは、今日はどうしましょうか。具体的にはお昼とか!食堂での食事も良いですが、今日は天気が良いようなのでサンドイッチを作ってもらって中庭で食べるというのも良いですね!いつも使っているあのジャムをふんだんに使ってもらうとか、良いのではないでしょうか!」


「ああ、ソレは確かに美味しそうねぇ……」


「ええ、ですからジェネヴィーヴはまず顔を洗ってきましょうか。その後は自分が髪も制服も整えますから!」


「ん……お願いするわ」



 そのやり取りはまるで執事とお嬢様みたいなやり取りだが、パートナーの気配を感じてしまう為、ただのイチャイチャにしか見えない。

 つまり自分はまだこの先も長い二年生生活の間、毎朝目覚めのキスからのイチャイチャを見るコトになるのだろう。

 一人と一体のコトは嫌いでは無いし、寧ろ好きな方だが、毎朝この糖度では虫歯になりそうだ。




ジェネヴィーヴ

レベルが高い魔眼の為コントロールが上手く行かず、誤作動を恐れて目隠しを付けていた。

だが目隠し無しでの視界に憧れがあったので、ストーンスタチューの存在にはとても助かっている。


ストーンスタチュー

昔はそりゃもう悪も悪だったが、石像にされて長いコト放置されていた結果完全に改心している。

放置され続けていた為ヒト恋しさが強く、甲斐甲斐しくジェネヴィーヴのお世話をする。


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