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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
一年生
31/300

花少年とリストリクションフェアリー



 彼の話をしよう。

 見た目は氷のようで、中身は熱血で、花の魔物との混血な。

 これは、そんな彼の物語。





 図書室で借りた本を持って中庭へ移動すると、ふと足元に花が咲いているコトに気が付いた。

 いや花なら中庭には沢山あるのだが、歩く部分には道としてレンガが敷かれているのでこの場所に花が生えるコトは無い。

 そんなレンガ道に、花が上から道を作るかのように咲いていた。


 ……多分、アルセーヌですわね。


 花の魔物との混血な同級生を思い出し、何となくその花の道を辿る。

 レンガに咲いている花達は足跡のようなモノであり、魔力の残留から見える幻覚に近い。

 なので匂いが薄れるのと同じように端の方から花が消えていくのを見ながら、テクテクと辿っていく。

 そうやって歩いていると、ヒト気の無い位置にあるベンチで、アルセーヌが頭を抱えていた。


 ……頭抱えていようと、いつでも足元は花畑ですわねー。


 彼の足元に咲いている花は混血である彼の魔力が可視化したようなモノであり、廊下でも談話室でもよく見かける。

 なので彼の足が花に埋まっている光景にはすっかり慣れているのだが、どうやら彼はまた落ち込んでいるらしい。



「アルセーヌ」


「っ!?」



 こちらに気付いていなかったらしく、アルセーヌは薄い茶色の髪と共に肩をビクンと揺らし、驚いたようにこちらに視線を向けた。



「ハァイ、アルセーヌ。花で道が出来てたからつい来ちゃいましたわ」


「じょ、ジョゼフィーヌか……驚かさないでくれ」



 アルセーヌはその氷のように整った顔を安心したようにほんの少しだけ緩めた。

 彼は花系の魔物との混血ではあるが、もう片方の親が氷系の混血だったらしく、見た目が氷染みている。

 割合としては花要素の方が多いハズなのだが、顔付きと表情がクールなので氷要素が多く見えるのだ。


 ……まあこんだけ足元に花咲かせてたら、完全に氷属性というワケでは無いのはわかりますけれど。


 寧ろ彼は真逆な性格でもある。

 だが残念なコトに、言動はともかく表情に関しては自分のような目がなくては変化に気付きにくいのだが。



「脅かしたつもりは無かったんですけれど……」


「僕は驚いた」


「ソレは申し訳ありませんでしたわ。ところでお隣、よろしくて?」


「ああ」



 簡潔な返事に頭を下げ、隣に座る。



「で」



 表情の変化は乏しいものの、アルセーヌの表情が居心地悪そうなのは()えている。

 そしてさっきからもぞもぞと落ち着かない様子なのも。


 ……よくあるコトですしね。


 そう思い、問い掛ける。



「アルセーヌ、またキレましたの?」


「その通りだよ……!」



 アルセーヌはガックリと肩を落とし、顔を両手で覆った。



「ペンの貸し借りをしている生徒が居て、借りた方がペン先を折ったらしくて……軽く謝罪してるのを見て、貸した方も全然良いよと軽い調子で言っていたんだが……」


「ヒトから借りたモノを壊したクセにそんな軽い謝罪で済まそうとはどういう了見だ、とキレたんですのね?」


「まったくもってその通り……」



 落ち込んだ口調でそう言うアルセーヌの顔は、青と赤が混ざって最早紫に見えなくもない顔色になっていた。

 そう、彼は短期間であろうとも変化が大きいという花の特徴が遺伝したのか、感情の波が激しいのだ。

 氷のような見た目でありながら根っこは熱血系なのも相まって、自分の中で納得出来ないコトに対して一瞬にしてスイッチが入り、噴火したかのようにキレる。


 ……で、言い切ったら一瞬にして収まって賢者タイムなんですのよね。


 熱が引いて冷静になった瞬間、自分が言ったコトを省みて反省するのだ。

 無関係なのに偉そうに口出ししてしまっただとか、いきなり怒鳴ってしまっただとか。

 彼はそういう自分の性格がコンプレックスのようだが、性格自体に問題は無いと思う。

 ただちょっと急に爆発するという危険性があるだけで。



「キチンと弁償とかもするべきだろうがとか、色々と言ってしまってね……。元々彼らは借りた方がナニかを壊したら放課後に壊した方が弁償するという決まりにしていたそうで、いや本当に僕はただ迷惑を掛けて恥をかいたという……」


「まーまー、よくあるコトですわよ」


「確かによくキレてしまうけれど、よくあるから困ってるんだよ……」



 アルセーヌは憂いた表情でハァ、と溜め息を吐いた。

 ここがアンノウンワールドではなく乙女ゲームの世界だったら確実にスチルになっただろう表情だ。


 ……まあこの目のお陰で美形とか見慣れてますけれどね。


 素顔を見せたら美しさのあまり正気を失ってしまう系の顔とかも()えてしまうのだ。

 まあ()えるからこそ耐性もあるから問題は無いが。



「ソレに、許してもらえたのでしょう?」


「相手両方共先輩で、心配してくれたんだなって頭撫でられた……」


「なら良かったじゃありませんの」


「良くない!辛い!あと「お前が正論でキレる一年生か」って言われたのが一番辛いよ!」


「人前だろうと反射的にキレるから目撃者多いですものねー……」



 そして今叫んだりしたクセに一瞬にしてスンッとした表情になっている。

 ホントに春夏秋冬と姿を変える花みたいに感情の差が激しいな。



「……どうしたら、収まるんだろう」


「良いパートナーが居れば良いんですけれどね」


「そうだね」



 遠い目をしながらアルセーヌは頷く。



「こう、僕のブレーキになるような……寧ろ飛び出そうとする僕にリード繋げて引っ張って動きを止めてくれそうな感じのパートナーが居てくれたら良いんだけど」


「拘束系の魔物はそれなりに居ますけれど、自分からソレ言うのまあまあヤベェですわよ」



 性欲がほぼ死んでいる上に大抵のアブノーマルプレイは相手が魔物だと考えればノーマル扱いになるアンノウンワールドだから良いが、地球だったら大分アレだ。

 見た目が氷タイプっぽいクール系美形だから尚のコト危険がヤバイ。

 そう思っていると、アルセーヌはこちらに視線を向けた。



「ジョゼフィーヌ、今拘束系の魔物はそれなりに居るって言ったね」


「ええ、言いましたけれど」


「ちょっと参考までに教えてくれないかな。僕を止められそうな魔物をピックアップして」


「参考はともかく意外と条件付けてきますわね?」



 しかも地味に難しい。



「んー……拘束系と言いますと」


「ジョゼー!」


「おっと」



 ピックアップしようとしたら、正面から走って来たベネディクタが突っ込んで来た。

 だが()えていたので、冷静に正面から受け止める。


 ……突進力、普通にありますものね。



「どうかしたんですの?ベネディクタ」


「ハイ!こないだ借りたバルブブルーの元ネタの絵本なのデスが」


「ああ、こないだの」



 ベネディクタはパートナーであるバルブブルーの元ネタを知らなかったので、一応読んでおいた方が良いのではと思って実家の自室に置いてあった絵本を送ってもらい、貸したのだ。

 絵本の殆どは弟にあげたものの、書き手や挿絵が違うからと同じ作品も複数所持しており、貸したバルブブルーもそういうモノだ。


 ……流石に重複した内容の絵本まで渡すのは、邪魔になるだけですものね。



「で、ソレが?」


「ソレがちょっと色々あってズッタズタになって返せなくなりマシタ!」


「あらー」



 ベネディクタの表情筋や雰囲気などを()るに、恐らくバルブブルーがズッタズタにしたのだろう。

 多分自分の元ネタの残虐性を知られたくなかったとかだと思われる。


 ……まあベネディクタの場合、その辺知っても問題は無いと思いますけれど。


 性格的にも親からの加護的にも問題は無いだろう。

 絵本に関しては、まあ、少し勿体無い気もするが、もう何年も読んでいない絵本だったので良いとしよう。

 考えようによっては図書室の本が被害に遭うのを回避したようなモノなので、身代わりになったとも言える。



「……借りモノを、ズタズタにして、返せない……?」



 そう思ってベネディクタの頭をポンポン撫でていたのだが、隣で聞いていたアルセーヌからするとアウトだったらしい。



「ソレに対する謝罪の態度かソレは!?」



 グアッと怒りで眉を吊り上げ、体温が上がったのか薄い茶色から杏色へと変化したその髪を掻き上げ、アルセーヌは怒鳴った。



「ヒト様からの借りモンに対して!んなコトしておいて!詳細も語らずにごめんも無しだァ!?しかも最初突撃カマしてたよなァ、オイ!謝罪する時の態度じゃねーだろうがよソレはよ!」



 さっきまでの氷属性っぽい雰囲気はドコへやら、アルセーヌは怒りで漏れた魔力で周囲の地面に花を咲かせながら、ボコボコと沸騰しているお湯のように熱く怒る。



「大事なモンだろうがそうじゃ無かろうが!ヒト様から借りたモン駄目にしといてどういう態度だ!ちゃんと謝罪して、その上で弁償が必要なら弁償、不要なら不要でもお詫びは考えるべきだろうが!アァ!?」



 そう言い切った瞬間、全力で怒っていたアルセーヌの表情が一瞬にしてスンッとした無表情になった。



「………………」


「え、あの、大丈夫デスか?」



 真顔で無言になったアルセーヌに、先程まで怒鳴られてビックリしていたベネディクタが思わず気遣いの言葉を掛ける。

 まあ確かにアレだけ怒ってたヒトが急に電池切れたみたいに止まったらそういう反応になるだろう。



「……やってしまった」



 ポツリとそう呟いてから、アルセーヌはしゃがみ込んで頭を抱え、コンパクトに丸まる。



「…………すまない」


「え、ハイ」


「ホントはあんな、あんな風な言い方をするつもりは無かったんだ……反射的に頭に血が上ってしまって……」


「えーと……」



 酷い落ち込みを見せるアルセーヌに、ベネディクタは戸惑った様子でこちらに視線を向けた。



「ジョゼ、コレは一体どういうコトなのかしら?」



 ……素になるくらいには驚きましたのね。



「どういう、というか……彼、自分の中で許せないコトがあるとキレるんですのよね。ただ一瞬で沸騰する分一瞬で冷静になるので、今は反省モードですわ」


「そうなのね……」



 納得したように頷きながら、ベネディクタはアルセーヌに視線を向けた。

 すると概念的魔物だからなのか、バルブブルーが当然のようにアルセーヌのすぐ隣に立っていた。


 ……幽霊みたいに出現しましたわねー。



「……すまなかった」


「うわっ!?」



 気付いていなかったらしく、バルブブルーの声にアルセーヌはビクンと肩を跳ねさせて顔を上げた。

 しかしベネディクタ以外には特に興味が無いのか、バルブブルーは気にした様子も無くこちらへと視線を向けている。



「借りたというあの絵本は……私の元となる物語が記されていた。ソレを読んだとしてもベネディクタは対応を変えたりはしないだろうが、私は……」



 どうやら今は青髭スイッチが入っていないらしいと思っていたのだが、話している内にスイッチが入り始めてきたらしい。

 バルブブルーは目に狂気を滲ませながら、青髭スイッチが入ったと思われる言動へと変化していく。



「私は、私はどうしても、知られるコトが、知られるのは、知られてはいけないと私は思って、彼女を、そう、愛しき花のような彼女を殺そうとして、殺せなくて、でも知られたくは無くて、殺せなくて、殺したくて、知られてはいけないと思って、彼女を殺すのにまた失敗して、私は」


「つまり「犯行を知られる」というのがバルブブルーとしてはタブーだったのでベネディクタを殺そうとしたけれど殺せなくて、結果絵本を読めないようにした、と」


「その通り……」



 成る程、納得は出来る。

 何せバルブブルー、つまり青髭の物語は犯行を知った女性(妻)を殺してまた新しい女性(妻)を娶る、という物語だ。

 そして概念系の魔物は元ネタに引き摺られやすいので、バルブブルー的に自分の元ネタの犯行が知られてしまうというのは完全なる地雷だったのだろう。



「ソレなら絵本を読んで理解を深めては、と言ったわたくしのミスですわ。元々実家で本棚に放置されていた本ですし、そう気になさらないでくださいな。アルセーヌも」


「だが私は、私とベネディクタを想ってのモノを、その上彼女にソレらの謝罪を押し付けてしまうなど……」


「私の場合、謝罪まではして無かったデスけどね」


「相手にも事情があるくらいは考えればわかるだろうに、僕はまた……しかもある意味冤罪で同級生に怒鳴るなんて……」



 ……カオスですわねー。


 気にしてる男二人と気にしてない女二人というカオス空間。

 というかホントに気にしてないので謝罪とか別に良いのだが、話は纏めておくべきだろう。



「えーと、まずアルセーヌ。確かに怒鳴ったのはアレでしたけれど、言ったコトは正論でしたわ。なのでとりあえず皆で謝罪をしましょう。ソレで全てオッケーというコトで」



 そう言って、自分はベネディクタをバルブブルーの方へと移動させてから頭を下げる。



「そちらの事情をもう少し考えればアウトだというコトもわかったでしょうに、短絡的に絵本を渡したのはわたくしの落ち度ですわ。ご迷惑を掛けて、申し訳ありませんでした」


「そんな頭下げないでクダサイ!」



 慌てたようにベネディクタが言う。



「私がさっさと読んでればセーフだったハズデス。ごめんなさいね」


「私も……暴走してしまうのは止められないとはいえ、借りたモノに対し、すまないコトをしてしまった」


「いえ」



 二人の謝罪を受け、自分は頭を上げた。



「ではコレで私達の間でのこの話は終了、というコトに致しましょう。少なくとも謝罪はし合いましたものね」


「ええ、非があった部分の謝罪は大事デス!」



 ベネディクタはニッコリと笑みを浮かべる。



「アルセーヌ」


「……うん」


「確かに怒ったのはちょっと嫌だったけど、でも間違ったコトは言ってマセン。良いとは言えない行為をしたら謝罪は当然のコトデス。だからそう落ち込まなくて良いんデスよ」


「……すまなかった……」



 最後のアルセーヌの謝罪で、場は収まった。





 まあ収まったとは言ってもベネディクタとバルブブルーが去っただけで、アルセーヌはまだ落ち込んだ様子のままなのだが。



「うう……」



 アルセーヌは地面からベンチへと座り直しはしたものの、後悔していたというのにソッコでまたやらかしてしまったコトに対して唸っていた。



「誰も気にしてないんだから、アナタがそうも気にする必要は無いと思いますわよ?」


「誰も気にしないから僕が気にするんだ!いきなり怒鳴ってしまうのはやっぱり止められないし……いっそ怒られた方が楽だよ」



 一瞬やっぱりMなタイプなのだろうかと思ってしまったが、思考の端に埋めておくコトにした。

 じゃないとオタクな異世界の自分がクール系Mに騒ぎ出してしまう。



「……そういえば、拘束系の魔物についてですけれど」



 ふと、ベネディクタが来る直前の会話を思い出した。

 そしてベネディクタの背中にある羽と前進に刻まれた淡く光るタトゥーを思い出しながら、言う。



「リストリクションフェアリーという魔物とか居ますわよ。つまりは束縛妖精なのですけれど、世話をしてくれる大家的存在の感情に敏感で、感情が荒ぶっているのを察すると衣服を拘束具のように操って圧を掛け、冷静にさせるという魔物ですわ」


「詳しく」


「めっちゃ食いついてきますわね……」



 さっきまでの湿度がどこかへ行ったのはありがたいが、ソレにしても立ち直りが早い。

 ついさっきまでまったく立ち直れなかったアルセーヌはドコへ行った。


 ……いえまあ、こういうトコはアンノウンワールドの住人らしくて良いと思いますけれど。



「大家ってどういうコトだ?」


「どーどーどー」



 ぐいぐい聞いてくるアルセーヌを落ち着かせる。



「このリストリクションフェアリーは基本的にこちらの世界では無く、妖精達が住むとされる世界に住んでるんですのよ。で、大家的存在……まあパートナーってコトなんですけれど、パートナーが居ないとこちらの世界に定着出来ず、時間切れみたいな感じであちらに戻ってしまうんですわ」



 だからこそリストリクションフェアリーはマイナーな妖精だ。

 知名度が低く、図鑑にもコアな妖精図鑑じゃないと載ってないレベル。



「なので召喚魔法で召喚するしかないんですけれど、召喚魔法は準備にかなり手間が掛かりますの」



 そう、召喚魔法は扉となる魔法陣を描いたり、気圧や魔力量を少し似せて擬似的に向こう側に似せる、つまり空間を被せる必要がある。

 被せるコトで空間がうっすら触れるので、ソレで異世界との扉が開くのだ。

 しかし召喚には大掛かりな準備が必要なので、やるヒトは殆ど居ない。


 ……授業でも超面倒臭いし成功率低いからあんまオススメ出来ない、って言ってましたものね。



「リストリクションフェアリーの場合、パートナーとしての適性があるかどうかで成功するかも変化して」


「よし」



 こちらが言い切る前に、アルセーヌは立ち上がった。



「……アルセーヌ?」


「ジョゼフィーヌ」



 アルセーヌは真顔でありながらもキリっとした表情で言う。



「僕、ちょっと図書室で召喚魔法についてを漁ってくるね」


「は!?いや、今のはそういう理由だからオススメはしにくいという……足はやっ」



 言うが早いか、アルセーヌは花を咲かせながら図書室の方へと走り去って行った。

 氷系でありながら中身は熱血系なだけあって、彼はやると決めたら一直線タイプなのを忘れていた。





 コレはその後の話になるが、アルセーヌはゾゾン魔法教師やアドヴィッグ保険医助手に協力を仰ぎ準備を整え、マジで召喚魔法を使用し、その上なんと召喚を成功させた。



「見てくれジョゼフィーヌ!彼女が僕のパートナーだ!」


「ハーイ、リストリクションフェアリーでぇっす!」



 浮いている小さな傘を逆さにし、ソレを乗り物のようにして乗っている小さな妖精。

 妖精らしく元気いっぱいの笑顔でそう言ったのは、特徴からしても完全にリストリクションフェアリーだった。



「えーと……リストリクションフェアリー的にアルセーヌがパートナーで良いんですの?」


「人間にはあまり知られてないと思うけど、私達がパートナーを締め付けるのは、ソレが愛情表現だからよ?だって、強い感情を覚えた時にソレをされたら、ソレが愛だってわかりやすいじゃない!」



 ……ソレって要するにパブロフの犬的な……。


 ニッコリ笑顔で中々にスゲェ情報を聞いた気がするが、まあとりあえず後でフランカ魔物教師に報告したら記憶の奥の方に仕舞うコトにしておこう、うん。

 ソレにアルセーヌ的には満更でも無さそうだし、相性としては良いんじゃないだろうか。


 ……いやまあ、相性が良い個体しか召喚出来ないんですけれどね。


 だからこそ成功しない時はトコトン成功しないのが召喚魔法でもあるのだが、まあラッキーだったというコトで。

 そんな風に紹介された時のコトを思い出しながら廊下を歩いていれば、髪を杏色へと変えてキレているアルセーヌが居た。



「廊下で食べるなとは言わねえ!そんなルールはねぇしな!だがソレを零しておいて知らん振りして去ろうっつーのはどういうコトだ!?アァ!?気付いてねぇならともかく気付いてたよなぁオイ!」



 ……あー、キレてますわね。しかも二年生の先輩に。



「なのにナニ去ろうとしてんだ!掃除される時に綺麗になるだろうからって思ったか!?そういう逃げの思考からの怠慢を一回でもやるとそっからズルズルと」


「いやーん、また暴走しちゃってる!えい!」


「あぐっ!」



 リストリクションフェアリーの可愛らしい声と共にギチィッとアルセーヌの制服が締め上げられ、アルセーヌは苦しげな息を漏らす。



「か、あっ……!」


「もー、そろそろ怒ったら痛いから精神落ち着かせるって体に覚えさせたらー?うっかり大人になった時、毎回コレやるコトになったら困るのアルセーヌなんだからね?私は寧ろそっちの方が嬉しいけど!」



 ……相変わらずというかナンと言うか……。



「あとソコのせんぱーい」



 逆さになった傘の持ち手にもたれ掛かりながら、リストリクションフェアリーは言う。



「いきなり感情荒ぶらせたこっちも悪いけど、そっちもちゃんと掃除くらいしてよね!わかったらホウキとチリトリ取りに行く!ソッコ!」



 ワリと素直だったのか、もしくはアルセーヌの言っていた正論に納得したのか、先輩は掃除道具がある方向へと走って行った。

 そんなやり取りをしている間に落ち着いたのか、アルセーヌは元通りの薄い茶色の髪へと戻り、拘束から解放されていた。



「ふぅ……ありがとう、リストリクションフェアリー。またキレて迷惑掛けちゃったね。君が居なかったらきっともっと大変だったよ」


「えっへへー、全然いーよー!私からすると迷惑でも無いし!」



 ソレに、とリストリクションフェアリーは言う。



「ソレに、アルセーヌを締め付けた時の苦しげな声が好きだもの!」



 うっへへへぇ、とリストリクションフェアリーはニヤけた笑みを浮かべた。

 ベネディクタといい、妖精はS率が高いのだろうか。



「そっか」



 そんな言動を笑みを浮かべているリストリクションフェアリーに対し、アルセーヌは氷で出来た花のような、クールだけど柔らかい印象の笑みを浮かべていた。

 どうやらお互い、お互いの問題だと思われる部分は問題でも無いらしい。




アルセーヌ

見た目氷属性だが性格熱血系で実際の属性は花という少年。

リストリクションフェアリーによる物理的な拘束のお陰で最近は比較的早く冷静になれるようになってきてる。


リストリクションフェアリー

空飛ぶ傘を逆さにして乗ってる羽が無い妖精で、元々パートナーになれるくらい相性が良くないと召喚出来ない為、召喚出来た時点でアルセーヌへの好感度はグンッと上がった。

恋愛ゲームなら初対面でどの選択肢を選んでも恋人ルートになるタイプ(ただし召喚出来たアルセーヌに限る)。


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