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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
九年生
295/300

人魚少女とディナーオクトパス



 彼女の話をしよう。

 遺伝で水に濡れると下半身が尾びれになり、水を操れて、生の魚介類が好物。

 これは、そんな彼女の物語。





 ラザールパティシエに試作品を貰ったので中庭で食べようとすると、パシャン、と噴水から水が跳ねた。



「あー!ジョゼってば美味しそうなの持ってるー!ねえねえ僕にも!僕にもソレちょうだーい!」


「マリサ……」



 噴水に浸かっているマリサは、下半身の尾びれをビチビチ動かして周囲に水飛沫を振りまいている。

 どうやらまた噴水で涼んでいたらしい。


 ……マリサ、しょっちゅう噴水で涼んでますわよね。


 まあ水系魔物や水系混血用の噴水だから、使用用途はコレで合っているのだろうが。

 見栄えメインじゃない辺り、この学園らしい。


 ……とはいえ、マリサは別にそこまで水を必要とはしていないハズなんですけれど。


 イアサントの場合は体が水で構築されているが故に、乾燥すると命が危険。

 しかしマリサは人魚系との混血であり、水を操れ、水に濡れると下半身が魚の尾びれになるという変化程度。


 ……乾燥に弱くも無いハズなんですけれど、ね。


 とはいえ本能的なモノもあるのだろうな、とは思う。

 天使が神や女神には本能的に頭を垂れて傅く的なアレだろう。



「マリサ、わたくしが持ってるのはクッキーですのよ?せめてビチビチするの止めなさいな」


「むん!」



 マリサは気合を入れるかのように拳を握り、ビチビチを止めた。

 そこまで気合が必要なのか、止めるの。



「で、次に噴水から出る。噴水の中で食べたりしたら折角のクッキーがふやけますわ」


「ハーイ!」



 噴水の縁に手を置いて、マリサは塀を飛び越えるかのように勢いよくバチャンと跳ねる。

 下半身が出た瞬間に水を操って下半身の水気を切り、着地する時にはその尾びれは人間の足へと戻っていた。

 マリサは噴水の縁の水を操って噴水に戻すコトで縁を乾かし、ソコにちょこんと座って満面の笑みを浮かべながら腕を広げる。



「さあジョゼ!クッキーちょーうだい!」


「ハイどうぞ」


「やったあ!」



 座りながら噴水の縁にクッキーを入れ物ごと置けば、マリサは万歳で喜んだ。



「あ、ソレ試作品らしいので食べたら味の感想を」


「エ?」



 あっという間に五つ程マリサの胃に収まっていた。

 量多めなので良いが、もう少しゆっくり食べれば良いのに。



「……味わって食べてくださいな」


「ごめんね、お腹空いててつい」



 てへ♡とマリサは舌を出しながら謝る。



「お腹空いててって、お昼でも抜きましたの?」


「ううん、イカとホタテとイカとタコとサバとホタテの盛り合わせ頼んだよ」


「今イカとホタテ二回入ってましたわよね」


「イカとホタテ多めの盛り合わせだったから」


「な、成る程……?」



 ソレで納得出来るかというといまいち納得出来ないが、その辺をわざわざ掘り下げても意味は無いだろう。

 狂人との付き合い方は、程々に距離を保つのが一番だ。


 ……理解出来ない部分は理解出来ないまま放置しとくのが精神的にも一番楽ですし、ね。


 下手に理解すると思考回路が狂いそうだ。

 イージーレベルの狂人なので、己もまあそれなりに思考回路は狂っている気がするが。



「僕って母親が魚系魔物だからね。実家、半分くらい海と繋がってるんだ。だから結構食事にも生の魚介類出るコトが多いんだけど、こっちって大陸、内陸……ナンて言うんだっけ」


「内陸ですわね。海から離れている場所のコトを言いますわ」


「そうそう内陸!こっち内陸側だから、他のお店とかだとあんまり新鮮な魚介類を取り扱ってないでしょ?学園だと普通に生の魚介類も出るから、王都のお店には無くってビックリしちゃった!」


「この学園の食事、高クオリティですしね。貴族や王族も、大前提として地位とか関係無く皆平等という扱いではありますが、そんな彼ら彼女らも文句言わないレベルの食事を日常的に提供しているというのはかなり相当に凄いコトだと思いますわ」


「王都の料理も美味しいけど、やっぱりそのヒトそのヒトの特性がある、って感じ。食堂だと最初万人受けするようなヤツだけど、細かい注文を入れたりするとだんだん味覚に合わせてくれるようになるよね」


「他のお店だって常連になればそうですわよ?食堂に関しては毎日利用するから、完全に常連扱いですわよね。まあ、そうだとしても殆ど全生徒の好みを把握して対応する、っていうのはとんでもないコトだと思いますけれど」


「凄いよねー」



 パリパリとクッキーを頬張りながら、マリサは懐から防水のペンとメモを取り出した。

 どうやら味の感想は言うよりも書くコトにしたらしい。


 ……正直わたくしもそっちの方が手っ取り早い分助かりますわね。


 まあヒトによって内容が抽象的過ぎる場合もある為、そういう時は己が聞いて注釈を入れるコトになりそうだが。

 多分大丈夫であるよう祈ろう。



「ここの魚介類、しっかりと鮮度高いしね。僕が海に半分繋がってる実家で暮らしてた時並みの産地直送!」


「マジで海と繋がってる家に住んでたマリサが言うとマジなのがよくわかりますわ」



 生で魚をよく食べていたマリサの弁なら間違いあるまい。



「まあこの学園、そういう食材系は大半学園の卒業生に注文するコトで賄ってるみたいですけれど」


「卒業生?」


「昔見学に行ったでしょう?卒業生がやってた牧場」


「成る程」



 五年生の時に行ったバルタザール牧場主の牧場を思い出したのか、マリサはコクンと頷いた。



「ああいう場所が結構あちこちにあるらしいんですの。場所自体はアダーモ学園長が持て余してて、維持するのが面倒で、けれど立地自体はとても良い場所を提供してるそうですわ」


「維持するのが面倒なのに立地は良いの?」


「んー、ヒトが住んでない場所ってどんどん自然の状態に近づいて行って、人間基準だと荒れてる、って判定になるんですのよね。

まああれだけ無機物系魔物が居るコトを考えると、場所にも意思があるんだと思いますわ。人間が住んでいれば、人間達が住みやすいように。魔物達しか居ないのならば、魔物達が過ごしやすいように、と」


「確かにペンはペンとして使われるのを好むし、布団は布団として使われるのも好むもんね。温泉もそうなんだっけ?」


「ヒーリングホットスプリングのコトですわね。ええ、彼もそういうタイプでしたわ」


「だから学園長はそういう仕事をしたいけど場所が、って悩んでる生徒に場所を提供してるんだ」


「らしいですわよ」



 広大な土地はあれど、荒れ放題では意味がない。

 かといってアダーモ学園長は既に手一杯。


 ……あれだけしっかり仕事を捌きつつ卒業生の様子も確認して、でもちゃんと在校生の様子も確認してる姿を見ると、まだまだ余裕がありそうに見えますけれど。


 しかし余裕そうに見えるというのは、それだけ効率的にコトを終わらせているからであり、不死身であろうと疲労度は普通通りにあるだろう。

 チョコレートという糖分を摂取して疲労度を軽減していても、だ。


 ……ソレにかなりの土地を有していると考えると、余裕があっても全てに手が回るかと言えば、ノーですわよね。


 裏手の森ですら管理人だけでは手が回らないというのに、学園長職で忙しいアダーモ学園長が所有する土地全てに手を回せるかと言えば、ノー。

 あのヒトなら頑張れば出来るかもしれないが、必要以上に頑張るというのは心が壊れる。


 ……不老不死やってる辺り、とっくに大事な部分は壊れてるような気もしますが。


 まあ常識が備わってれば多少狂っていようが問題は無い。

 さておき土地だが、手が回らないのであれば維持をする為に誰かの手を入れる必要があり、そうすると維持費がかかる。

 アダーモ学園長レベルともなれば維持費くらいは多少以下の出費だろうが、あのヒトは必要とする誰かの代わりに出費するのは良くても、そういうコトにお金を使うのは無駄だと言って厭うタイプだ。


 ……だから、卒業する生徒が土地を必要としてるなら土地を預けよう、ってなったのでしょうね。


 そうすれば維持費を払わずとも維持して貰えるし、人間や魔物が積極的に動く場所は必然的に活性化する。

 蹴りで地脈を動かすパートリックみたいなモノだ。


 ……ま、流石にアソコまででは無いと思いますけれど。


 ヒトが動けば、その足音や振動、命の脈動に魔力の流れなどがその土地に流れ、必然的にその土地は目覚め、活動するようになる。

 当然場所によっては既に目覚めていたり、生き物に酷く敵対的な場所もあるだろうが、そういう場合は場所に対してちゃんと礼儀を通せばワリとどうにかなるモノだ。


 ……場所って、つまりは土地神ってコトですもの。


 その土地そのもの。

 信仰が薄いと土地神は姿を構築出来ないが、確かにソコに存在するモノだ。

 もし居ないのであれば、ソコは生き物の気配がしない、死の土地になっているだろう。



「魚介類なんかも、漁業を生業にしたい生徒に良い場所渡してソコから仕入れたり、漁業が盛んだった故郷が津波に呑まれてどうしたら、って困ってるヒト達に土地を与えたりしてその際の契約で、とかだって言ってましたわね」



 ちなみに輸送はテレポートなどが可能な卒業生、または卒業生のパートナーが輸送系の仕事をしているコトが多い為、彼ら彼女らに頼んでいるそうだ。

 学園にこれだけ様々な設備があり、更に新しい魔道具やらも開発していながらそれらを利用して卒業生が安定した収入を得られるようにしている辺り、気遣いに満ち溢れていると思う。



「そっか、学園の歴史が長い分あちこちにルートがあるんだね」



 マリサはクッキーを咥えながら、腕を組んでうんうんと頷いた。



「確かに沢山のルートがあった方が、一カ所二カ所でいまいち収穫が少なくても賄えるか」


「そうそう。ソレにそのヒト達が飢えたら元も子も無いから、その辺の契約はしっかりしてるみたいですわよ。堕落したり横着したりするようならその土地を取り上げるけれど、真面目に嘘偽りなく働くようであればずっとその土地を利用していて良い、と」


「働かないと飢えるんだから当然じゃない?」


「んー、真面目に働かなくても自分達は生活出来る、とかだと「あんまり獲れないから今回は送れません」ってなっちゃうんですのよね。

けれど真面目に働いていても、最悪の場合は数年程「色々な事情が重なってしまい自分達が食べる分しか獲れません」っていう時もあるでしょう?」


「あー」


「だからアダーモ学園長、頻繁に様子を見に行くコトで気を張らせてるらしいですわ。卒業生の様子を見に行くのも事実でしょうけれど、時々会いに行くコトでメリハリをつけさせているんでしょうね」


「確かに、恩人自ら来てくれるってなった気合が入るし、優しいけれどしっかりした対応をしてもらったら「また頑張ろう!」って気持ちが更新されそう」


「だからあちこちが真面目にやってるんですのよ」



 そして在校生がその恩恵に預かれる為、不満は必要最低限に抑えられる。

 それこそ他の生徒によって本日売り切れです、みたいな程度の不満に、だ。


 ……その恩恵に預かれてなかったら、メニューももう少し制限があったでしょうね。


 不満は溜まり始めると、爆発するまであっという間になってしまう。

 けれど卒業生達のお陰で不満は溜まらず、在校生達は卒業生になり、また色々なナニかを成し遂げて在校生達の為になるモノを作り出すようになっていく。


 ……ホント、アダーモ学園長の裁量が凄いったらありませんわ。


 あのゲープハルトやモイセス歴史教師の手綱をある程度コントロール出来ていただけはある。



「……ところでジョゼ、全然話は変わるんだけど」


「ハイ?」



 マリサはラスト一枚のクッキーを手に持ちながら、真面目な顔でソレを見つめる。



「生の魚介類って、おやつに出来るかな。森まで持って行ってお弁当みたく食べれたりすると思う?」


「え、いや、わたくし生の魚介類あまり食べないのでわかりませんけれど……死にたてで鮮度が高いタイプの生じゃなく、生きてる方の生で良いなら、水を操れるというアナタの能力を活かして空中に水槽要らずの生け簀を構築してみるとか……?」



 食用系魔物なら喜んで入ってくれるコトだろう。



「ソレだ!」



 マリサは天啓を得たとでも言いたげな笑みで頷いた。

 一応死にたてほやほやで鮮度が高いタイプの生についても案はあったのだが、生きてる方の生で良さそうならソレで良いか。





 森を歩いていれば、近くの湖からザッパンと激しい水音が聞こえた。

 確かあの湖は海に繋がっている湖だ。



「だあああああもうナニ!?いきなりナニ!?」


「そのようなモノ達では無く、我を食え。物足りないのだろう?さあ。さあ。さあ」


「食べる以前の問題だよねコレ!?」



 ()れば、極東でエロいとされている感じの絵面が広がっていた。

 具体的には湖に浸かっているマリサの顔に、タコがへばりついていた。


 ……あ、アレ食用系魔物であるディナーオクトパスですわね。


 食べると結構美味であり、粘液には軽度の興奮作用が、身には精力がつく作用がある魔物だ。

 もっともタコ系はこちらの大陸側ではあまり食べられないが。


 ……極東勢とか、海に面してるトコに住んでた子達は結構食べてましたっけ。


 ちなみに現代では人類の性欲は殆ど死滅している為、興奮作用や精力云々はちょっと体温が上昇して元気になる程度の効果しかない。

 ショウガ湯とエナドリみたいなモノだ。



「さあ、喰らえ。腹を満たせ。我を喰らうコトに汝の腹は満たされ膨れ、ソレを見て我もまた満たされる。美味い話だとは思わぬか。話だけでなく味も美味いぞ」


「ソレ以前の話だから離れてくれない!?顔にへばりつかれてる状態で食べるとか出来るワケ無いじゃん!もおおおお!」



 へばりついているディナーオクトパスを剥がそうとしているらしく、下半身が魚状態なマリサは湖をバッチャンバッチャン跳ねていた。

 流石タコなだけあって、中々剥がれてくれないらしい。



「えーと……マリサ?」


「その声はジョゼ!?今ちょっと視界が触手で埋まっててよくわからないんだけどジョゼだよね!?」


「騒がしいからのこのこと近付いて来たジョゼフィーヌですわよー」



 こちらを振り向いたマリサは、ディナーオクトパスの触手によって視界を封じられていた。



「えーと、あとそちら、ディナーオクトパスですわよね?」


「うむ」


「ソコのマリサは一旦離れれば普通に食べてくれると思うから、一旦離れませんこと?」


「我を喰らってくれるだろうコトはわかっている。先程まで生きたイカやタコなどを食べていたからな。故に我も喰らってもらうと思った次第」


「ア、駄目ですわねコレ食べられたがりが強めな個体ですわ」


「ちょっとジョゼ!?交渉を諦めないで!?」


「話聞いてくれない相手に交渉しようったってどうしようもありませんもの。一旦足の一本でも食べれば大人しくなってくれますわよ、多分」


「うむ、その通り。一度噛めばソッコで自切する故、噛み千切る必要はないぞ」


「ううう……実際おやつ食べ終わってまだちょっと物足りないなって思ってたけど、こういう感じで食べたかったワケじゃなぁーい……」



 ……物足りないってうっかり言っちゃったせいでこうなったっぽいですわねー……。


 多少不満げではありつつも、マリサはディナーオクトパスの触手を口に入れてもぐもぐ食べた。

 プツリと自切されたソレを咀嚼して飲み込んだマリサは、うん、と頷く。



「味は良かったよ。噛みごたえも」


「それはなにより。必要とあらばお代わりにも応えるが」


「まずは顔から降りて欲しいかな」


「了解した」



 一度食べて貰えばある程度食べられたい欲が収まったのか、ディナーオクトパスは素直にマリサの右腕へと降りた。

 粘液が多少べたつくのかマリサは一旦湖に沈んで乱れたその淡いピンク色の髪をほぐし、水面から顔を出して、ふぅ、と息をつく。



「……で、ナンで離れてくれないのかな」


「我の事は携帯用のおやつとでも思うが良い」


「……………………」



 離れる気は一切無いらしいディナーオクトパスを見つめ、マリサは深い溜め息を吐いた。



「まあ実際味は良かったから、おやつ確保出来たって思えば良っか」



 ソレで良いのかと思わなくも無いが、本人が良いなら良いのだろう。

 多分。





 コレはその後の話になるが、ディナーオクトパスはマリサの背中にへばりつくのが日常となった。

 マリサがお腹を空かせればソッコで食べれて、マリサの邪魔にならない位置、らしい。


 ……見た目、生きてるタコのリュックって感じですわね。


 そのままだが、本当にそんな感じのビジュアルだ。

 マリサはよく水に浸かる為見栄えやらをあまり気にしないから、問題は無いようだが。



「……ディナーオクトパス」


「ナンだ」



 食堂、マリサはディナーオクトパスと、彼が作った料理に向き合いながら頭を抱える。



「僕はね、キミのコトが結構好きだよ。初対面の時はアレだったけど」


「そうか。捕食者である汝にそう思われるとは喜ばしいコトだ」


「しかもキミは自分を食べて欲しいが故にアピールしてくる。そのアピール方法は、キミ自身がキミを用いた料理を作ってのモノ。お陰で僕はここ最近、タコを用いられた料理にとても詳しくなれた」


「タコを用いた料理はまだ多数ある。この程度ではまだ詳しいとは言えぬぞ」


「でもね、僕、コレは無いと思う」



 そう言うマリサの正面では、エビとタコが入った海鮮もんじゃ焼きが鉄板の上でじゅうじゅうと音を立てていた。



「ナニこのゲロ」


「汝はもう少し言葉を包み込んだ方が良いな。コレは極東の料理、もんじゃ焼きというモノだ。先日提供したお好み焼きと大して変わらぬ粉モノである故、味は問題あるまい。海鮮を主食とする汝であれば好む味だとすら思うが」


「味は良さそうでも見た目!見た目が食欲湧かないよコレ!ちょっとソコのヒナコ!」


「ひゃい!?」



 通りすがりに声を掛けられたヒナコはビクンと肩を跳ねさせて首を伸ばした。



「極東出身的にコレはアリ!?食欲湧く!?」


「え、えっと、私としてはすりおろしたとろろみたいで、普通に美味しそうに見えますが……?」


「嘘でしょ!?」



 マリサは頭を抱えた。



「レンカ!キミは!?」


「私もソレは普通に美味しそうだって思うわ。今日はもんじゃ焼きでも頼もうかしら」


「ああそっか極東勢って基本的に親族以外口に入れるモノなら食べるんだった!」


「いや流石に個人差あるわよ!?」



 ……レンカ、そのツッコミだと否定し切れてませんわー……。


 まあ混血によってはマジで食べる為、否定出来ないのも事実なのだろうが。



「マリサ、そう騒ぐな。重要なのは味と、腹が満たされ満足するかどうかである。優先されるべきは見た目よりもそちらであろう」


「見た目が優先されなさ過ぎなんだってば……!って、ちょっと!?」



 尚もごねるマリサの腕に、ディナーオクトパスの触手が絡んだ。

 そうして手を拘束し、空いている触手で持ったヘラの上に一口サイズのもんじゃを載せたディナーオクトパスは、ソレをマリサの口に近付ける。



「香りは問題あるあい」


「た、確かに香りは……」


「さあ、喰え」


「あぐむぐぐ」



 ディナーオクトパスの触手で口を開けられたマリサは、その中にもんじゃ載せヘラを突っ込まれた。

 うっかり火傷したりしないよう、もんじゃは充分に冷まされている。



「……味は良いね、確かに」


「だろう」



 一度食べれば平気と判断したのか、拘束を解かれたマリサはヘラを受け取り、もんじゃを黙々と食べ始めた。

 食べ物だと脳にインプットしようとしているのだろう。


 ……さて、と。


 己は向こうの席で先程の様子を興奮気味にスケッチしていたトイロに声を掛けるとしよう。

 スケッチは自由だが、せめて後でで良いから被写体に許可を取るよう言わなくては。




マリサ

遺伝で水を出したり操ったりが可能で、下半身に水が掛かると下半身が魚になる。

実家が半分海の中だった為主食が生の魚介類であり、最近は小腹が空けばディナーオクトパスを齧っている。


ディナーオクトパス

食用系魔物なタコなのだがタコであるが故にいまいち受けが悪く、その自覚もあるので食べてくれそうなターゲットを見つけるとそのターゲットに粘着する性質がある。

食べて貰えるようにとぬるぬるには軽度の興奮作用、身には精力がつく作用があるのだが、残念ながら現代人は性欲が死滅状態なので夏バテ防止冷え性防止の為に食べる、くらいの認識。


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