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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
九年生
291/300

掃除少女と歌うされこうべ

オリジナル歌詞が作中で出ます。



 彼女の話をしよう。

 目視の魔眼を有していて、けれど目視化出来るのは汚れだけで、その影響で軽度の潔癖症な。

 これは、そんな彼女の物語。





 廊下を歩いていたら、エミリーに声を掛けられた。



「ジョゼ、頼む手伝ってくれ」


「どしたんですのエミリー」


「俺一人じゃ間に合わねぇんだよ!」



 エミリーは碧緑色の髪を揺らしながら、わっと顔を覆ってそう叫んだ。



「埃も汚れもゴミも全然綺麗にならない……辛い……」


「えーと……どういうコトですの?」


「ジョゼならわかるだろ!?ソコの窓についてる手垢とかの汚れが!

俺の場合任意で魔眼が発動する分良いけど、ふとした瞬間うっかり発動しちまうんだよ!しかも俺の魔眼!目視の魔眼だし!レベル低くて汚れとか限定の!」


「どうどう」



 叫ぶエミリーの背中を撫でて落ち着かせる。


 ……目視の魔眼は本来肉眼での目視が難しいモノを目視可能にする魔眼ですけれど……エミリーの場合、目視可能になるのが汚れ限定だからキッツイですわよね。


 そのせいでエミリーは綺麗好きというか、汚れ過ぎていると耐えられないという、潔癖症に一歩足を踏み入れてるような気がするレベル。

 幸いにも談話室などは自動で綺麗になる仕様になっているお陰で目視出来る程の汚れが無い為、普通に問題無く利用出来ているようだが。


 ……潔癖症は強迫観念、それこそ「汚いんじゃないか」という感情が強過ぎるから、綺麗にしないと触れるコトすら躊躇われる汚さに思えて来る結果やたらと掃除をするんでしょうけれど……。


 エミリーの場合は、汚れを目視出来るからこその綺麗好きだ。

 マジな汚れが()えてしまう為、耐えられない。


 ……わたくしの場合はもう、面倒だから諦めてますけれど。


 気になるレベルの汚れならソコを避ければ良い話だし、気にならないレベルならそう大して気にする程のコトでも無し。

 けれどエミリーはソコまで割り切れないらしく、汚れに対して強烈な拒絶の感情を得てしまうらしい。


 ……制服越しに触れられるのはセーフなだけ、まだ潔癖症レベルでは無いと思いますけれど、ね。


 とはいえ、制服越しならオッケーである理由は、制服が汚れを自動で無くす仕様が付与されているから。

 汚れが付着しない、もし付着してもすぐ無くなる為、服越しでなら触れ合える。


 ……ま、目視の魔眼が発動してない時なら、素手でも問題無く触れ合えてますけれど。


 うっかり目視の魔眼を発動すると十分から一時間程発動してしまうが故に、その間だけちょい潔癖症モードになるのがエミリーだ。

 つまり現在潔癖症モード。



「頼む、ジョゼ、一緒に掃除をしてくれ。耐えられない」


「アナタ学園内掃除のバイトしてるメンバーの一人でしょう?他のバイトメンバーに声を掛ければ」


「俺と同じレベルの掃除をしてくれるヤツじゃねぇと汚れが残ってんだよ!普通なら目視も出来ねぇような汚れが!」


「あー」



 確かに己の目は普通見えない指紋や細胞まで()えるので、肉眼での視認が難しい汚れも()える。


 ……だからこそその辺までしっかり掃除してたら、エミリーにちょいちょい協力を頼まれるようになったんですのよねー……。


 個人的には掃除をやり始めるとうっかりやり過ぎてしまって時間が掛かる為、あまりやりたくないのだが。

 というかソレ以前に己は掃除とは縁がない立場だったような。


 ……うっかり忘れてましたけれど、そういやエメラルド家って結構上の方な上流貴族でしたわね。


 バイトしたりお菓子作ったり掃除したりやたら相談されたりというのが多過ぎて忘れていたが、そういえば貴族の娘だった。

 我ながら貧乏性が魂に根付いているせいで、すっかりソレを忘れていたが。


 ……や、うん、忘れてたというか、意識してなかったというか、王族も貴族も一般人も関係無い学園の環境がとっても良い仕事をしていたというか、ええ、大体そんな感じで!


 そんな感じでちょっとうっかり忘れていた。

 元々貴族らしい貴族の感覚がいまいち合わない貧乏性なので仕方が無い気もする。



「ってワケで、俺は外の掃き掃除をする。あと外側から窓ガラス拭き。ジョゼは廊下の掃除と内側からの窓ガラス拭きで頼むぜ」


「あの、わたくしオッケー出してませんわよ」


「頼むお願いします手伝ってください!一人で外の掃除やってると中の汚れが気になるし、中の掃除してても外の汚れが気になるし、かといって誰かが掃除してても汚れをしっかり綺麗に出来てないと気になるしで心労が溜まるんだよ!この掃除で出るバイト代十割やるから!」


「ソレ全部ですわよね」



 十割て。



「タダ働きはイヤですし、他の生徒までタダ働きさせられたら困るから三割から半分くらいはそりゃ貰うつもりですけれど……もういっそ、魔眼の発動が終わるまで青空でも見上げてれば良いんじゃありませんこと?」


「魔眼が発動した時はいつも掃除してたせいで、魔眼が発動してるのにだらーっと屋上で仰向けになって空見上げてるの辛いんだよ……」


「もうソレ仕事中毒の一種な気がしますわ」



 動いてないと落ち着かないとかマグロかナニかか。

 マグロの場合は動いていないと呼吸が出来ずに死ぬ、というモノだが。


 ……魔眼発動時は掃除するモノ、って体が覚えちゃってんですのねー……。


 ただ寝っ転がっていると、体が動きたくて動きたくてむずむずしてくるのだろう。

 己も時間が余っているならナニかしていないと時間が勿体ない気がしてくるタイプなので、わからんでもない。



「……じゃ、廊下と窓を綺麗にしときますわ」


「恩に着るぜジョゼ!」


「あ、ソレと外の掃除って、高等部の外周ですわよね?」


「おう。そうだけど、ソレが?」



 首を傾げるエミリーに、己はニマリと笑ってみせる。



「最近、陰気な歌が地面の底から聞こえるそうですわよ」


「……聞こえるそうですわよって、ジョゼならそういうの目視出来んだろ。歌も、歌ってるヤツも」


「まあそりゃそうですけれど、ソレ言ったらつまんないじゃありませんの」


「ちなみに歌ってるヤツは?魔物か?」


「地面の底からなんだから、魔物に決まってますわ」


「いーやわかんねーぞ?地面に潜れる混血で歌が好きだけど、人前で歌ったり誰かに聞かれたりするのが恥ずかしくて地中で歌うコトにしてる生徒かも」


「……可能性は普通にあり得ますわねー……」



 コルンバーノとか、地中に居るフォスルドラゴンのトコロに行って愚痴ったりしているワケだし。



「んで、その魔物ってのは?」


「歌うされこうべ、っていう……まあ、極東の戦争跡地なんかに時々居る、頭蓋骨しか残ってない魔物ですわね。お喋りや歌が好きだと頭蓋骨だけ残るそうですわ」


「ナンでそんなのが学園の敷地内に居るんだよ」


「わたくしが知るワケ無いでしょう。大方かつて安定してないテレポート能力でも持ってる生徒がうっかり極東から高等部近くの地中にテレポートさせちゃったとか、そういうのだと思いますわよ」



 そう説明すると腑に落ちたのか、エミリーは口の端を多少引きつらせながらヘラリと笑った。



「あり得るんだよなあ……」


「能力がある子、その中でも特に能力をコントロールし切れてない子とかが優先的にスカウトされますものね、この学園……」


「コントロール方法を学ぶのに丁度良いもんな。他の生徒も魔力吸収して落ち着かせてくれたりとか、そういう能力次第でめちゃくちゃ頼もしいコトが多いし」


「そうそう」



 異世界の自分がそんなあっさりした反応で良いのかと言っているような気がするが、されこうべが歌うくらいで騒いでも仕方あるまい。

 ゾンビやゴーストをパートナーにしている生徒がどんだけ居るかを数えれば物凄く今更だ。



「……ところで」


「ん?」


「既に結構時間経過してるんですけれど、魔眼はまだ落ち着きそうにありませんの?」


「お前さては長話するコトで俺の魔眼がオフになるまでの時間稼ぎをして、オフになって汚れが()えなくなったらじゃあそういうコトで、って解散する気だったな?」


「八割くらいしかそんな気ありませんでしたわよ」


「充分だろソレ。四捨五入すれば十割そんな気だろソレ。言っとくけどあんまり時間経過してねぇから普通に掃除はするぞ。この感じだと今日は発動時間長めっぽいしな。だからわざわざジョゼにも協力頼んだんだ」



 感覚で短い長いがわかるというのは初めて聞いた。


 ……あーでも、長い時間あっちが気になるこっちが気になるって状態になるのがわかってたからこそ、協力要請したんですのねー……。


 仕方が無いから諦めて掃除をするか。





 廊下の汚れをホウキで掃きつつ窓ガラスの汚れを拭いていれば、地面の底から歌が流れ始めたのが()えた。



「椿の花は 何故落ちる

 ポトリポトリと 落ちるは何故か

 それは誰かの首が落ちたと

 どこぞの老婆がそう言った」



 己は別に耳が良いワケでは無いので外、ソレも地中からの歌声は流石に聞こえないが、その歌声は字幕として()える。



「椿の花は二色あり

 血潮の赤と もひとつ真白

 それは血の気が引いている

 どこぞの老爺がそう言った」



 ……うーん、時々この歌声()えてましたけれど、毎回同じ歌ですわねー。



「椿 椿 椿の花よ

 川を流れて どこへ行く

 我らが家へと帰るのだ

 誰かのこうべがそう言った」



 にしてもまあ、戦時の際だとかに歌われたそうだから仕方が無いのかもしれないが、随分と陰気な歌だとは思う。



「椿で川が真っ赤に染まる

 落ちたこうべに彩られ

 血潮の赤に染められて

 鉄の香りの川となる」



 ここでようやく外のエミリーも歌声に気付いたらしく、顔を上げてきょろきょろと周囲を見渡し始めた。



「ああ 戦の始まる音がする

 椿花開く季節に合わせ

 皆のこうべが ひいふうみい」



 ……地中からの歌声だから聞こえにくいのと、エミリーの場合は汚れにしか発動しない魔眼ですものね。



「誰ぞ彼らを弔い給へ

 どこかの誰かがそう言った

 私がやろうと椿が言った

 共に首落ちせめての弔い」



 しかしまあこの曲、こうべしか残っていないされこうべが歌っていると考えると中々のチョイス。



「コレが椿の落ちる理由さ

 どこぞの老人 そう言った」



 歌が終わり、再びしんとした静けさが戻ってくる。



「…………っだーーーーもういい加減違う歌を歌いたいんじゃけど!?」



 が、ソレもほんの一瞬だった。



「儂いい加減この陰気な歌イヤ!でも他の曲儂知らんし!もーーー誰かこの辺におらんのか!?儂ここ!ここにおるぞ!誰か掘って!掘り当てて!掘り起こして!

そんで熱めの風呂に入れて土とか落として綺麗な剥きたてゆで卵みたいな色にするの手伝って!足音しとるから誰ぞおるんじゃろ!?儂もうこんな暗いトコ嫌じゃーーーーー!」



 いやうるっせえな中まで音響いてんぞ。

 内心思わず物凄いレベルで口が悪くなるくらいにはうるさかった。



「真っ暗で時間の感覚わからんし!でもここ最近地脈ごと地面がドッスンされたり楽しげな歌声聞こえたりでうっらやましい!儂だって!儂だってもうちょっと最新の歌を歌いたい!されこうべがこうべの歌を歌うとかどういう不謹慎ジョークじゃい!」



 ……あ、自覚はあったんですのね。


 そう思っていたら、あまりの騒がしさにかエミリーがホウキの柄を上手く使用して歌うされこうべを掘り出していた。



「ぎゃーーーーー眩しい!」



 うるっせぇパートツー。



「云百年ぶりの太陽まっぶし!目ぇ潰れる!でも太陽の光って良いよな!生き物皆太陽大好き!儂死んでるけど!あとされこうべだから目ぇ無いけど!無い目が潰れそうな程パシパシしてるってナニコレ!?儂どうなってんの!?」



 あまりの騒がしさに、掘り出したエミリーは酷く困った顔でこちらに視線を向けていた。

 いや、そんな助けを求めるような目で見られても、己に出来るコトは無いのだが。





 コレはその後の話になるが、綺麗に洗われ真っ白になった歌うされこうべはエミリーの頭の上に乗るコトになった。

 何故なのかは己にもよくわからない。


 ……エミリー曰く、歌声があるとそっちに気を取られるから掃除しなくちゃっていう強迫観念を忘れるコトが出来るから、とのコトでしたけれど……。


 その結果頭の上に誰かの頭蓋骨を乗せるのは狂人でもちょっとどうかと思う。

 魔物だし、頭の上なら両手が空くし、という理由なのだろうが。


 ……判断としては合理的って言えるかもしれませんけれど、帽子みたいにちょんと頭蓋骨乗ってるのは、こう、反応に困りますわね……。


 流石にちょっと動揺する。

 まあ、目撃三回目くらいで慣れたが。



「なあされこうべ、またナンか歌ってくれよ」


「うん?エミリー、お主今魔眼発動しとったか?」


「いや発動したかどうかぐらいお前だってもうわかるだろ発動してねぇよ。魔眼発動時以外でも俺がお前の歌を聞きたいって思っちゃ駄目なんかコラ」


「嬢ちゃん、ちょいちょい喧嘩腰になるのやめぬか?しかしまあ歌うコトに関しては全然よいぞ!儂歌うの好きじゃし!そりゃもう歌うの優先した結果他の骨忘れて頭蓋骨だけの状態で魔物として生まれ変わるくらいにはな!

ア、今の死者ジョークじゃから笑うトコロな」


「もう笑ってる」



 そう言うエミリーは、手で口元を覆っていた。

 手の向こう側に隠れている口は笑いを堪えきれていないので、マジで笑っていたらしい。


 ……ううん、不謹慎にも程があるジョークですけれど、死者側が言ってるのであれば笑うのが反応としては正解、なのでしょうか。


 異世界の自分が転生した結果今の己になってるっぽいので、広義的には己も死者みたいなモノなのだろうが、厳密に言うと死者なのは異世界の自分であって己は今を生きる生者なのでノーカウント。

 ただ分類的には死者寄りな異世界の自分も笑いどころなのかがよくわかっていないっぽいので、困惑する己の感性は間違っていないハズだ。


 ……ええ、わたくし生者ですし、異世界のわたくしは狂ってませんしね!


 つまりエミリーと歌うされこうべは狂ってたり死者だったりするワケだが、わざわざ指摘する程でも無い事実である。

 我ながらちょっと混乱していたんだろうか。


 ……ただの事実を何故こうも深く考えていたんでしょう、わたくし……。


 異世界の自分が、事実から色々と狂ってると思う、と言っているような気がするが多分きっと気のせいだと良いな。

 気にしてもどうしようも無いので無視しとこう。



「……あー、ようやく笑いが収まった。ちょいちょい死者による不謹慎ジョーク言うの止めろよな。笑っちまうだろ」


「普通は顔引きつらせてノーコメントになると思うんじゃけど、お主ら結構ノリ良いから好きじゃぞ。この学園の生徒はノリが良い子ばっかりで儂嬉しい」


「で、されこうべ。歌」


「あーそうじゃったそうじゃった。リクエストとかあるか?お主が色んな曲教えてくれたからたった一つしかなかったレパートリーも劇的に増えたからの!ポップ行くか?それともしっとり系?儂はロックとか歌いたいからソレ歌うか!歌おう!」


「リクエストを聞いた意味あったか?」


「無い!」



 歌うされこうべはキッパリハッキリそう断言した。

 エミリーと歌うされこうべの間で会話のやり取りがちゃんと出来ているのか正直心配だが、まあ、上手くやっているようなので大丈夫だろう。

 魔眼発動時によくあるエミリーの潔癖症モード、歌うされこうべの歌のお陰で殆ど発動しなくなったワケだし。




エミリー

肉眼では認識不可能なモノを見るコトが出来る目視の魔眼を有するが、レベルが低いせいで汚れだけを目視してしまう上に発動がコントロール出来ない為、発動する度に気付けないような汚れが大量にあるコトにゾゾゾとなる。

歌は好きだし、掃除をするのは最早習性だが掃除の間のBGMに良いからと歌うされこうべを帽子のように乗せている。


歌うされこうべ

戦争で戦死したものの元々歌うコトが好き、というか好き過ぎた為に歌う為の頭部だけが魔物化した。

賑やかに歌ったりお喋りしたりが好きな性格で高いトコロも好きな為、エミリーの頭の上に置かれているのは個魔物的に結構気に入っている。


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