表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒトと魔物のキューピッド  作者:
九年生
286/300

鎌兵士と重力の魔眼



 彼の話をしよう。

 遺伝で体から鎌を生やす事が出来て、兵士で、けれど基本的には草刈りなどの雑用をやっている。

 これは、そんな彼の物語。





 丁度一仕事終えた後らしいイルモに会い、ジュースを奢って貰った。

 イルモは兄の後輩である兵士なのだが、兵士の人達は基本的に気さくなので呼び捨ての許可は得ている。


 ……得ているというか、同僚であるお兄様の妹なら実質兵士達の妹、って言われたんですのよねー……。


 どういう起承転結が発生してそうなるのかはわからないが、本人達がそう主張したのでそうなのだろう。

 で、妹にさん付けとかの他人行儀状態されるのはちょっと、というコトでの呼び捨てである。



「ソレで、イルモは今日なんの仕事をしたんですの?」


「草刈りだな!」



 イルモは鮮やかな緑色の髪を揺らし、ニカッと爽やかに笑ってそう言った。



「俺の場合体術とかも得意だし、こうして体から鎌を出せるから対悪人の時にも結構有用だと思うんだが……」



 そう言うイルモは指の先からチョン、と小さい鎌を出現させる。



「まあ悪人なんてそう出ないからな。基本的には草刈り業務だ!」


「あの、地味にわたくし愚か者とのエンカウント率が高いのに関しては」


「一応言っておくが、エンカウントした上でジョゼフィーヌ自身が倒すから俺の出番が無いっていうのもあるからな?ジョゼフィーヌ以外も撃退するし……学園の生徒達、いくらなんでも好戦的過ぎるだろ」



 指先の鎌を仕舞い、屋台で買ったホットドッグを齧りながらイルモはそう言った。



「わたくし達の場合、殺らなきゃ殺られる、って感じだから仕方ありませんわ。大人しく攻撃を受ける道理もありませんし、やたらと狙われますもの。

馬鹿がうっかりして狙われるコトもあれば、遺伝的に高値がつきそうだったり、はたまた理由は不明でありながら謎に狙われたりと理由は様々」


「狙われる理由リスト作ったら面白そうだよなー」


「うーん不謹慎。でも実際そういうのがあると狙われる理由がわかりそうですし、後世からすると当時にどういうのが価値があるとされた、どういうのがタブーとされたかがわかる、ってコトで重宝されそうではありますわね……」



 現代から見ても数百年前の文献というのは、当時の暮らしを知るのに最適なモノ。

 つまり数百年後からすると、今を書いた書物は当時を知る為にとても重要なモノとなるだろう。


 ……多分数百年後だろうとアダーモ学園長とかその他不老不死勢は生きてそうですけれど……。


 当時の様子を、と聞いても答えてくれ無さそうではある。

 モイセス歴史教師は歴史を教える教師な上に過去視の魔眼がある分、聞けば答えてくれるだろうが、具体的に聞かない限りは答えないだろう。


 ……モイセス歴史教師、基本的に歴史に残ってる話の裏側をメインに授業してますし、ね。


 ゲープハルトは気さくに見えてヒトと距離取るタイプなので、世間話的なノリで当時を語ってもらえるならともかく、ぐいぐい聞くと一気に距離を取ってそのヒトが死ぬまで姿を現さない、とかするタイプ。

 そしてアダーモ学園長は、当時も今も大して変わんねーよ?と言うタイプなので期待出来ない。


 ……これこれこういう感じでしたか?って具体的に聞けば答えてくれますけれど、具体的に聞かない限りはその辺雑なんですのよね……。


 服あって食べ物あって住処があれば今と同じく衣食住が揃ってるし、生活のアレコレなんて数年でも結構変わるしなあ、という感じ。

 長年生きているとそういう、大らか過ぎる程大らかになるようなので、書物はとっても重要なのだ。

 彼らにはその情報の裏付けを取る程度の方が話が早い。



「ああ、でもアレだな。草刈りもしたが、邪魔な岩を退けたりもしたぞ。重力の魔眼が」


「退けたのは私じゃありませんよ、イルモ」



 イルモのパートナーであり彼の額に埋め込まれている重力の魔眼が、溜め息混じりに目を細めながらそう言った。



「私は確かに岩の重力を操作し軽くはしましたが、私が出来るのはそれだけですから。ソレを持って退かしたのはイルモのお仕事じゃありませんか」


「でもよ、重力の魔眼が居なかったら俺でも無理だったぜ?あんなデカイ岩。つかマジで何であんな岩が個人宅の庭にあるんだって話だけど」


「具体的な大きさは知りませんけれど、撤去できなかったとかじゃありませんの?大き過ぎて」


「……確かにそんくらいデカかったし、可能性はあるな」


「お家も古いお家でしたからねー」



 頷くような声色で、重力の魔眼はパチパチと瞬いた。



「現代なら新しい家を建てる時、どうしようも無さそうな大岩なんかはどうにか出来る混血や魔物に頼んで臨時バイトに来てもらってどうにかする、という感じですが」


「昔は混血自体がそうそう居なかったらしいからなー。まあ居たとしても俺じゃ役立たねぇだろうけど。体から鎌出せるっつっても、岩相手じゃ無理だし」


「折れますよねー」


「折れるよなー」



 のんびりと言うコトなのかはよくわからないが、イルモの鎌には痛覚が無く、折れても問題無いモノ。

 だから折れても特に焦る理由は無いのだろう。


 ……まあかなりコスパ良いそうですけれど、体内の鉄分で構築してるらしいから、人間サイズの鎌を五十回へし折られたら貧血になるって言ってましたわねー……。


 充分過ぎる程にコスパが良いので、貧血の心配は無さそうだ。

 一体どういう仕組みなのかと思うと気になるし、己の目があれば中の成分までクッキリハッキリ()えるだろうが、しかし混血というのは謎が多い未知寄りの生物。


 ……考えたって既存の情報じゃ当てはまらないコトも多そうですし、無理に調べようとしてぐったりしてちゃ意味ありませんわよね。


 だからまあそのまま放置で未知のままとなっている。

 問題が無いなら良いだろうというスタンスだ。


 ……イルモから調べて欲しいって言われたコトもありませんし。


 恐らくは皮膚の一部を変形させた上で鉄分を薄く引き伸ばして上から被せるコトで形成しているんじゃないかと思うのだが、まあ未知のままで良いだろう。

 トニアだったら未知を未知のままにしておくコトを厭うだろうが、己は気にしないタイプなのでモーマンタイ。



「……そういえば、重力の魔眼ってイルモの額にありますわよね」


「エ?うん、そうだぜ?ソレが?」


「自我がある魔物状態な辺り後天的なモノ、というか移植したんでしょうけれど、何故額?しかも頭蓋骨に穴開けてますわよねソレ」


「んー、それには馴れ初めが関わってくるので長い話になりますが」


「あら、気になりますわ」


「そうですか?では手短に語りましょう」



 何故長い話と言いながら、聞きたいと言った瞬間手短に話すコトになるのだろう。



「まず私は魔物化した魔眼……なのですが、まあ、自力での移動が出来ませんからね。死体漁りしに来た悪人に捕まり、闇オークションに売られたワケです」


「ウッワ」


「ジョゼフィーヌ、目がガチになりかけてて怖い」


「いつもと変わりませんわよ」



 死体荒らし、ソレはつまり墓荒らしでもあるのだろうと思ってちょっと厳しい目つきになっている気はするが、大体は変化していないハズだ。

 己の場合は瞳孔が無いのか全部が瞳孔なのか?という感じの、リスのようにぐりぐりした目をしているワケだし。


 ……人間みたいに、瞳孔が開くとかはありませんのよね。



「や、光り方が怖い」


「ソレをわたくしに言われても困るんですけれど……」



 光り方て。

 しかし尖り過ぎた心のナイフの輝きが目に現れている可能性も否めないので、目を閉じて深呼吸。



「よし、オッケーですわ。続きお願いしますわね」


「ジョゼフィーヌって結構図太いトコロがありますよね」


「その方が生きやすくて良いですわよ」



 そう言えば、イルモは確かにと言わんばかりに頷いた。



「ソレで続きですが、闇オークションに売られた辺りからでしたか。その時兵士がやってきて、闇オークション関係者を捕まえてくれたんです。私も無事に保護されました」


「その時に出会ったんですの?」


「と、思うでしょう?違うんですよ。というかその時の突撃部隊全員パートナー持ちでしたし」


「あらら」



 小説なんかでは王道の出会い方なのにフラグが立つ隙も無かったか。



「で、保護されたは良いのですが行き先が決まらず。このまま眠るのもイヤですし、誰かの役に立ちたいという欲求もある。だから学園に居る魔眼のスペシャリストのトコロへ移動するのも拒否したんです」



 ローザリンデ魔眼教師は拒否られていたらしい。

 まあ実際、非人道的な実験を自分以外にはしないヒトではあるが、調べはする分役に立てるかと言われると微妙になる。


 ……情報って意味では役立ちますけれど、重力の魔眼自身が働いて誰かの役に、っていうのは出来ませんものね。



「そしたらイルモが、兵士の仕事を手伝ってくれるなら、って言ってくれたんですよ」


「元々俺は草刈りか逮捕か、って感じの仕事内容だったからな。重力の魔眼なら雑用仕事も戦闘仕事もイケるだろ?」


「成る程」



 イルモの仕事的に相性が良い相手、というコトか。

 現在しっかりと共同で仕事をこなしている辺り、実際相性は良かったんだろう。

 そう思っていると、重力の魔眼はその目に薄く憂いを見せた。



「その際イルモは、協力するなら視界が広い位置が良いよな、と言って……」


「重力の魔眼は視界内のモノの重力を操作する分、広い視界を確保した方が良いかと思って」


「だからって普通頭蓋骨に穴を開けますかアナタは!?確かに私も視界が広い場所への移植を希望してはいましたが、骨に穴開けるとは思いませんでしたよ!」


「ベストな場所だろ?」


「確かにそうですけれど!ソコまでしてくれるからこそ全力で働いて期待に応えよう!ともなりましたけど!頭蓋骨!」


「ちゃんとそういうのが出来る混血に頼んだから痛みは無かったぜ?」


「そういう問題なのでしょうか……魔眼なので私には理解出来ません」


「誤解が無いよう一応言っておきますけれど、わたくしもイルモと同じ混血な人間なのに理解出来てませんわよ」


「つまりイルモ独特のモノだ、というコトですね……」


「そんなに変か?」



 イルモは不思議そうに首を傾げた。



「最適解だと思ったんだが」


「……まあ、良いですよ、ええ。出会った当時に比べれば、イルモも大分会話が出来るようになってきましたしね」


「エ?ってコトは昔はイルモって会話出来ないタイプだったんですの?」


「や、出来てたハズだぞ」


「真面目過ぎて逆に斜め上なトンチキ発言をよくしていましたよ」


「…………」



 重力の魔眼の言葉に心当たりがあるのか、イルモは口を真一文字に結んで目を逸らす。



「……違う、違うぞ?そんな、トンチキと言われる程では」


「言われる程でしたよ」


「…………い、今は違うからな?」


「ええ、ソレは確かに」


「だよなあ!」



 肯定されたイルモは、あっという間にいつも通りの爽やかな笑顔を浮かべていた。



「そりゃまあ昔はちょっとそんなんだったコトがあったような無かったようないやあったんだがまあもう過去のコトというか」


「つまり?」


「端的に言うと、私がこうして移植された結果、私と会話するコトが多くなったんですよ。必然的に」


「でしょうねえ」



 額だし。



「そうして会話をするコトで会話スキルのレベルを上げ、まともな受け答えが出来るようになった、というワケです」


「学園で同級生と会話したりして会話力鍛えたりしませんでしたの?」


「んー、俺学園出てないからな。秘境暮らししてたし。まあ都会に憧れて勝手にこっち来たけど」


「今物凄く色んな情報が開示されたような気が」



 重力の魔眼が動じていない様子から、彼女は知っていたらしい。

 けれどこちらは初耳なので普通に動揺する。


 ……全部がパワーワード過ぎて、逆に言葉が脳みそまで入ってこない感じありますわね。


 まあ現状問題が無いようなので良いとしよう。

 抜け忍仕留める気満々な忍者と違って、出奔者を仕留めに来るようなコトはそうそう無いだろうし。


 ……アッ、今ちょっとフラグっぽい言い方でしたわ。


 考えないようにしよう。

 下手に考えると回収してしまう気がする。

 思考を切り離し切り捨てるのは得意なので、そうしてしまえばきっとセーフのハズ。





 コレはその後の話になるが、イルモは重力の魔眼と協力しながら隕石を退かしていた。

 どうやらイシドラにちょっかい掛ける馬鹿を破壊の神がけちょんっとした際の残り物らしい。


 ……イシドラってば、ご両親の魔眼が相当のレアモノだったのか、結構絡まれるんですのよね……。


 神のお膝元というか、文字通り膝の上に座っている相手に喧嘩を売れる辺り、馬鹿の馬鹿レベルは際限が無いんだなあと感心する。

 で、死ぬけど死なない隕石ドーンを食らうという。


 ……破壊の神、落とした隕石については完全放置なんですのよね。


 まあ王都名物として客寄せになっているし、もうインポーズメテオライトのような魔物が存在しないよう気を付けているようだし、めり込んだ地面や巻き添え食らったその他大勢もしっかりと再生されているので問題という問題も、苦情も無いが。

 そもそも神に苦情を言う存在が居ない。


 ……でもまあ隕石が邪魔になりがちなのは事実だからこそ、イルモが邪魔にならない位置に退かしてるんですけれど、ね。



「うーん……イルモ、そのくらいの重さで本当に良いんですか?」


「エ?俺は全然良いと思うんだけど、駄目か?重力の魔眼的には負担強い?」


「いえ負担はありませんが、ソレだと少々重くはないか、と……」


「筋力を鍛えるのにほど良い重さだぞ。遠い場所への移動なら小石くらいの軽さだと助かるが、道の脇に除けるだけだからな」


「成る程……」



 ううん、と重力の魔眼は目を細めて唸った。



「重さのバランスとか、正直言って私が持つワケでは無い分、調整が難しいんですよね……」


「重ければ言うし、軽過ぎても言うから大丈夫だろ」



 そう言いながら、イルモは隕石を道の脇によいしょと置く。



「よし、仕事一つ終了!コレ終わったら飯食って良いってなってるから飯食いに行くか!重力の魔眼はナニが良い!?」


「キラキラした笑顔で言ってくれているトコロ申し訳ない……というか毎日言ってますけれど、私は目玉なので食事はしませんよ」


「あー、そういえばそうだったな。いけねぇいけねぇ、つい忘れちまう」



 イルモは照れ臭そうに頬を掻きながら、ヘラリとした笑みを浮かべていた。




イルモ

遺伝で体の一部を変質させて鎌を生やせるが、基本的には草刈りに使用されている。

仕事などに真面目だし明るい性格なのだが、ちょいちょいトンチキ。


重力の魔眼

視界内の対象の重力、つまり重みなどを変化出来る魔眼。

視界が広い位置への移植を希望はしたものの、まさか額とは思わなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ