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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
九年生
280/300

雷少女とテレポートキラーホエール



 彼女の話をしよう。

 極東からの留学生で、遺伝で頭部に一本角があって、雷様の娘であるが故に電撃を操れる。

 これは、そんな彼女の物語。





 談話室で、アズマはソファの上に正座していた。

 その正面に仁王立ちしながら、己は言う。



「わたくし、言いましたわよね」


「うん」


「お菓子くれるからって理由で知らないヒトについて行くなって、口を酸っぱくして言ったハズですわよ」


「うん」


「耳にタコが出来るレベルで言ったハズですのに」


「うん」


「アナタもう十八だってのに、何でお菓子でつられて誘拐されかけてんですのよ……」



 己の口から、というか腹の奥底から低く深い溜め息が吐き出された。

 もう頭を抱えるしかない。


 ……アズマは良い子なんですけれど……。


 良い子なのだが、警戒心が無いのだけどうにかならないだろうか。

 アズマがお菓子でつられて誘拐されかけるのは、学園に入学してからコレで何十回目になるだろう。



「で、でもでもでもね!?私だってちゃんとその辺はわかってるよ!?」


「わかってんなら誘拐されかけてんじゃねーですわよコラ」


「ジョゼ怖い」


「心配したこっちの気持ちわかりますー?」


「あだだだだごめんごめんごめん」


「よろしい」



 ニッコリ笑ってアイアンクローをカマしたら素直に謝罪したので、その顔をパッと解放する。

 アズマは解放されたコトに安堵しながら、茶褐色に雷のような金のメッシュが入っている髪をささっと手櫛で整えた。



「まったく……で?ナニがわかってんですの?」


「お菓子くれるヒトには悪人も居る!」


「うん、で?」


「悪人だってわかったらちゃんと電撃放って逃げてるよ!私雷扱えるからね!そりゃもうバッチバチだからね!コントロール出来てるから気絶程度に抑えられるし!」


「確かにアズマのコントロール能力はレベル高くはありますけれど……」



 自分の能力がコントロール出来ず振り回されている生徒は結構居る。

 そういう子はコントロール出来ない状態が続くと辛いだろうし、周囲も困るだろうから、というコトで、そういう子は優先的にこの学園の生徒にとスカウトされるのだ。


 ……コントロール出来る出来ないというより、下手すると異端扱いされるような子をメインに、という感じですけれどね。


 過去に色々、それこそ迫害から神格化まで色々と経験したのだろうアダーモ学園長の判断なので、そうした方が良い理由も沢山あるのだろう。

 聞くと長そうだし、知りたくない闇も知りそうだから聞きはしないが。



「ソレに疑ってばっかりいたら誰とも仲良く出来ないよ?ジョゼは悪人がわかるからその辺わかるのかもしれないけど、私はそういうのわかんないもん。なら皆と接していかなくちゃ!」


「言ってるコトは正しいんですけれどねえ……」



 アズマは物事を深く考えない性格だ。

 というのも、雷様の娘であるコトが大きいのだろう。


 ……全体的にステータスが優れている上に、電撃能力までありますものね。


 だからナニがあっても物理や電撃でどうにか出来るし、実際どうにかしてきたという実績がある。

 そのせいかやたらと警戒心が低くて、ソッコで好感度が上がってしまうワケだが。


 ……悪いこっちゃないんですのよ、ええ、悪いコトでは……!


 ただ世の中には悪いヤツも居るというのが問題なのだ。

 やはり愚か者がこの世から存在しなくなるのが一番平和的な気がする。



「……とりあえず、もうお菓子貰ってもよくわからない場所へはついて行かないコト。知らないヒトにもついて行かないコト」


「道がわからなくて困ってるヒトは?」


「うーん」



 そう言われると困る。



「まあ、大丈夫でしょ。うん、大丈夫大丈夫。生き物だってナンだって、殆ど電撃でどうにかなるなる!」


「……誘拐が心配なのもそうですけれど、不注意のせいでやたらコケたりぶつかったり段差に引っかかったりしてるのだって心配なんですのよ?」


「私頑丈だから怪我しないし大丈夫だよ?」



 そういう問題じゃないと思うが、コレは己の価値観だけの話なのだろうか。

 あまりにも当然のように言われるので、世間一般的に考えると大丈夫の部類なのかもしれないと思えて来た。





 休日、本屋で購入した新刊を抱えて王都を歩く。

 カフェでお茶でもしながら読むか、公園でまったりと読むか。


 ……悩みますわねー。



「あー!ジョゼだー!」


「エ?」



 そう思っていたら、宙を凄いスピードで泳ぐシャチに乗ったアズマがニッコニコの笑顔で手を振りながらこちらへ来た。



「ああ!?」



 目の前でビタリと緊急停止したシャチは、ぐりんとこちらに向き直る。



「おいテメェ!コイツの保護者か!?」


「いえ友人であって保護者ではありませんけれど……ええと?」


「ナンでも良い!とにかく安全な場所!教えろ!テレポートする!」


「え?え?え?」


「今ちょっと誘拐犯っぽいの?に追われてるんだー」


「追われてる本人がナンでそうものほほんとしてんですの!?」



 衝撃の発言にマジかとシャチを見れば、シャチはマジだと言わんばかりに頷いた。



「なら一番良いのは学園ですわね。あっちに見える大きい場所。わかります?」


「よし、ならお前も俺に触っとけ。テレポートするぞ」


「わかりましたわ」


「あ、ジョゼも乗る?」


「乗らないけど触れますわね」



 シャチに触れれば、一瞬で場所が変化した。





 無事学園内にテレポート出来たところで、アズマを中庭のベンチに座らせる。



「で?ナニがどうして通りすがりだろうテレポートキラーホエールが必死こいてアナタを助けようとしてたんですの?誘拐犯がどうとか言ってましたけれど?」


「わかんない」


「……俺の種族を知ってんのか」


「そりゃまあ」



 少し驚いているらしいテレポートキラーホエールに、己は頷く。



「宙を泳げるシャチであり、視認した場所内ならば自由にテレポートが出来る魔物、ですわよね」



 普通は一度行ったコトがある場所にテレポート、というパターンが多いので、視認だけでテレポート可能というのは強い。

 テレポート系魔物の中でも上位タイプだ。


 ……流石シャチなだけはありますわよね。



「にしても結局ナニがどういう感じだったんですの?」


「まず俺は完全にただの通りすがりだったんだが……明らかに誘拐犯だろうヤツにコイツが餌付けされててな」


「美味しいお菓子くれただけで本当に誘拐犯かはまだわかってなかったんだけどねー」



 貰ったのだろうお菓子の残りを取り出し、美味しそうに食べながらアズマはそう言った。

 いや食うな。



「……あの、そういうのにナニか混入されてるとか、考えませんの?」


「ヤバいのが混入されてたら食べる前にジョゼが注意してくれるハズだし、今こうして食べててもそう言うだけで手首叩いてお菓子落とさせたりしないなら大丈夫かなって」



 ……本当に、卒業後大丈夫なのか心配になりますわ……。


 己を判断基準にしないでほしい。

 もうちょっと自力で判別してくれ。



「……念のために言っておくが、俺がお前を見かけた時、相手は麻袋とロープを装備し、お前の頭からソレを被せようとしてたぞ?」


「エ、ロープを?」


「麻袋をだ!完全に誘拐寸前のシーンだろうが!俺が滑り込みでお前を背中に乗せて逃げてなかったらどうする気だったんだテメェ!」


「電撃バリバリ」


「アズマ、よく聞いておいて欲しいんですけれど、世の中には絶縁体とかの電気を通さないモノもありますのよ?」


「時々使われるけど、大体どうにかなったよ?」


「流石雷様の娘……」



 きょとんとしているアズマに、己は溜め息を吐くしかない。


 ……実力があるのは良いんですけれど、そのせいで危険をまったく理解してないのがヤになりますわ!



「……さてはお前、結構大変だな?」


「ええ、まあ。同級生なのに何故か保護者枠に入れられてますし。でも通りすがりでありながらアズマを助けてくれたアナタも結構大変そうですわね」


「ああ、まあ、何故か苦労するような状況にはなるな。今回だってコイツを助けたは良いが、保護者とかが居る安全な場所にテレポートすっから教えろっつってんのに、俺の背中ではしゃいでまったく答えず……」


「だってシャチの背中だよシャチの背中!」



 アズマはキラキラした笑みを浮かべながら、ジェスチャーを交えて生き生きと語る。



「凄いし、風強いし、場所高いし、ナンかすっごく凄かった!」


「成る程そういうコメントしかしなくて移動先についての指示をまったくしなかったんですのね」


「本当、あの時にお前が通りがかって助かった」


「わたくしもあの時丁度あの道を歩いてて良かったと心底思いますわ」



 普通に逃げていれば異常に気付いた誰かが誘拐犯に気付いてくれるだろうし、兵士だって見回りをしているのだから一応どうにかはなっただろう。

 けれどソレはソレ。

 危うく誘拐されかけていた被害者をソッコで安全な場所へ避難させたいと思うのは、当然のコトだ。


 ……そう思うと、やっぱ魔物ってまともなメンタルが多いですわよね……。



「ううん、とりあえずこうして無事学園内に避難出来た以上、危機は去ったハズ。この学園内、魔物は自由に出入り出来ますけれど、人間は学園関係者しか入れませんし」


「そうか、なら安心だな」


「ところで私ケーキを買いに行きたいんだけどー」


「却下」


「お前今さっき誘拐され掛けたとかここに居りゃ安全だとか会話してたの全部忘れたのかおい」


「覚えてるけど、別に問題は無かったんだし……」


「問題大有りだろうが!脳みそスッカスカかテメェは!?」


「テレポートキラーホエール、わたくしは教師に誘拐云々について報告して兵士に連絡入れてもらいますので、その間アズマ……彼女に説教をお願いしますわ」



 己も何度か説教をしているが、効果が無いのでどうしようもない。

 元々天使は神の言葉を通訳したり伝えたりするメッセンジャー役なので、天使自身の声は伝わりづらいのだ。


 ……ソレでも神や女神は天使の言葉を、聞き入れるかは別として一応聞きとってはくれてるんですけれど、ねー……。


 雷様の娘とはいえ、混血だからあまり聞いてくれないのだろうか。

 ナンかそんな気がしてきた。



「わたくしの説教は意味を為さないようですけれど、流石に通りすがりかつほぼ無関係の魔物にまで説教されれば効果があるでしょうし」


「コイツとは少ししか関わってねぇが、既にナニも聞いて無さそうだぞ」


「説教の仕方はお任せしますわ」


「……教師に報告すんのは当然だが、説教っつー面倒なのを俺に押し付けてるワケじゃねえよな?」


「ではわたくしは一旦席を外しますわね」



 己は返事をせずにそそくさと去る。

 別に指摘がビンゴだったとかそういうコトはちょっとだけだ。





 コレはその後の話になるが、結局説教の効果はあまり無かった。

 まあ基本的に説教に関しては完全に馬耳東風なので、今更感もあるから仕方ない。

 アズマに説教して理解してもらおうとするのは諦めた方が早いだろう。


 ……ま、あまりにもアズマが危なっかしいからというコトで、テレポートキラーホエールがアズマの面倒を見てくれるようになったのはありがたいコトですわね。


 パートナーかと言われるとまだ微妙だが、アズマの保護者的立場になっている。

 どうも、放ってはおけないと思うレベルでアズマが心配だったらしい。



「テメェ、ナニを考えてやがる!」



 放課後に王都をぶらぶらと散歩していると、そんなテレポートキラーホエールの声が聞こえた。



「あれ程落ちてるモン拾い食いしようとすんなっつっただろうが!」


「まだ食べてないもん!拾って匂い嗅いで大丈夫そうだったからちょっと食べようとしただけじゃん!」


「まだ食ってねえだあ!?食おうとした時点でアウトなんだよ!つか食ってねぇのは俺が尾びれで弾いたからだろうが!」



 そもそも!とテレポートキラーホエールは叫ぶ。



「普通に飯買って食える余裕あるクセにナンで拾い食いなんざしようとしてんだ!人間としてソレで良いと思ってんのか!?」


「兵士だってこないだやってたもん」


「そういうのは!出来る体質のヤツがやってんだよ!テメェは電撃出すだけだろうが!」


「あー酷い!他にも頑丈だったりするよ!?胃だって結構頑丈だから拾い食いくらい平気だし!」


「まず拾い食いをすんなつってんだよ俺は!何回言やわかんだアズマ!」



 ……大変ですわねー……。


 というか拾い食いは本当にアウトなので、止めてくれたテレポートキラーホエールには感謝しかない。

 放っておくと危ないというコトでアズマに付き添い、フォローしてくれるお陰で、アズマの怪我率や忘れ物の頻度も減ったワケだし。


 ……うん、とりあえず、今日はゆっくりする予定だったので見ない振りして去るコトにしましょう。


 テレポートキラーホエールは頼りになるので、説教は任せても大丈夫だろう。

 そもそも己はアズマの保護者では無いワケだし。

 手紙からするとアズマの保護者である両親も、大丈夫なら大丈夫という考え方らしいので、本当にテレポートキラーホエールだけが頼りだ。

 是非とも頑張って欲しい。




アズマ

名前は漢字で書くと雷。

雷様の娘であり電撃を放てる上にコントロールも完璧なのだが、大体自力でどうにか出来るからという理由で他人への警戒心がゼロに近く、お菓子貰えばすぐ好感度が上がるくらいにはチョロい。


テレポートキラーホエール

視認したコトがある場所ならどこにでも、かつ自分に触れている対象ごとテレポート可能な為、テレポート可能な魔物の中でも上位扱い。

面倒見が良い性格の為どうしてもアズマを放っておけず、保護者として頑張っている。


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