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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
九年生
273/300

兄少年とブラッディシスター



 彼の話をしよう。

 遺伝でナニかを食べるとソレを自分の体の一部にするコトが可能で、仲の良い妹が居て、妹と相思相愛な。

 これは、そんな彼の物語。





 さて、どうしたモノか。



「判断に苦しみますわねコレ……」



 長期休暇で帰ってきた実家、の自室のベッドで横になりながら独り言つ。

 昔使用していたベッドは流石にサイズ的な問題で無理だからか、今のベッドは大きめサイズだ。


 ……身長、すくすく伸びてますものね。


 さておき、問題は己の手の中にあるこの手紙。

 同級生であり友人でもあるドマニからの手紙なのだが、ナンとも判断に困る内容だった。



「長期休暇で妹と帰ったら雨による土砂崩れで死にかけて妹は死んだけど結果的に無事だし妹も魔物として生きてるから心配しなくて良いって、もうナンか、心配以前に混乱しますわ……」



 伝える気があるんだろうかこの手紙。

 伝える気というか、多分ただ事実のみを記した結果こうなった気もする。


 ……友人達からの手紙ってこう、感情的なのもあれば、ただ事実のみを綴ってるのもありますし……。


 そして感情っぽいのが無いので恐らくただ事実を書いたのみバージョン。

 しかし事実だとすると、ドマニの妹であるレナータが死んだり魔物化したりしているらしい。



「普通なら心配するトコでしょうけれど……」



 心配するなと書かれているのだから、心配は不要なのだろう。

 妹と相思相愛で愛し合っているあのドマニがそう言うのなら間違いない。


 ……妹関係で大変なコトがあれば、ここまで冷静に書くコトは出来ないでしょうし。


 けれど筆跡、そして()える指紋や便箋を押さえる際に付着したのだろう汗の成分から、コレを書いたのは間違い無くドマニ。

 だからより一層わからない。


 ……レナータはオーレリアンと同級生で、ドマニを愛していると公言してましたわよね。


 そしてドマニもまたレナータを溺愛していたし、公言していた。

 しょっちゅう顔を合わせては一緒に勉強したり一緒に買い物したりと、常に一緒に行動していたくらいだし。


 ……ま、今の時代、兄妹でも問題ありませんものね。


 なにせ誕生の館がある。

 そもそも遺伝子的に子を為せない相手とも子を為せる場所なのだから、兄妹でも問題無く子を為せるのだ。

 しかも遺伝子的に遠い部分の、かつ優れた遺伝子をピックアップしてくれる為、奇形児が生まれるコトも無い。


 ……や、うん、まあ、多少奇形児でも今の時代、あんま気にされ無さそうですけれど。


 というか混血が少ない時代からしたら混血は奇形児だっただろうから、今更な気もする。

 しかしまあ兄妹というのはどうしても遺伝子が近い為、普通に性行為で子を作ると遺伝子的な問題が起きやすい。


 ……でも誕生の館があれば、重なる遺伝子部分はスルーして、遠い遺伝子同士の子であるかのような状態に整えてくれるから、良いコトですわ。


 ドマニとレナータも誕生の館がある為、将来は誕生の館で子を為そうと決めているようだった。

 つまりそれだけドマニとレナータの、お互いへの愛は深い。

 そんなドマニが、レナータが死んだという旨を書いた。



「……まあ生きてるっぽいですし、切羽詰まってる様子もありませんし、長期休暇が終わったら詳細聞きに行きゃ良いでしょう、多分」



 レナータがマジで死んだならもう少し慌てるトコロだが、死んだは死んだが生きてもいるようなので、とりあえずは様子見で問題は無いだろう。

 問題があれば、ちゃんとそういう手紙が来る。





 長期休暇が終わり、学園に戻れば既にドマニも学園に居た。

 己は早めに戻るタイプなので、学園内の生徒の数はまだまちまちだ。


 ……まあ遠いトコの子も居ますものね。


 なので長期休暇に関しては結構ガバガバ。

 帰りたくない生徒や帰る先が無い生徒も居る為、頼まれれば教師も「んじゃやるか」というノリで授業をしてくれたりもする。


 ……だから生徒が完全に集まって無くても、授業はあるという……。


 とはいえ、集まり切っていない間の授業は他の生徒と差が出ないよう、必要かと問われると微妙だが知ってて損はしない雑学、がメインだが。

 コレがまた中々に面白いので、ついつい早くに帰ってきてしまうのだ。


 ……雑学って、つい夢中になっちゃうんですのよねー。



「で、ドマニ」


「ああ」



 談話室で向かい合いながら名を呼べば、ドマニはくすんだ茶髪を揺らして頷いた。



「あの手紙について、詳しく話を……と言いたいトコロですが、とりあえずレナータについて大丈夫なのはよくわかりましたわ」


「ナンだ、もうわかったのか?」


()りゃわかりますわ、そのくらい。アナタの中で生きてんですのね、レナータ」


「なーんだ、ジョゼフィーヌってば気付くのが早いのね」



 メキリとドマニの背中から音が聞こえ、制服であるシャツの布地がじわじわと血に染まる。

 長期休暇前には無かった生々しい古傷が開き、ソコから出た血液はドマニの肩の上から顔を出すように、頭部を形成した。



「久しぶり!ジョゼフィーヌ!」



 真っ赤な血液で構築された真っ赤なその顔で笑うのは、確かにレナータそのものだった。



「レナータ、お前はいい加減ジョゼフィーヌを呼び捨てにするのを止めろ。せめて先輩とかをだな」


「良いじゃない、別に」



 ドマニの体の中から出る血液で腕を作り、不満げに頬を膨らませたレナータはドマニの肩の上で腕を重ね、その上に顎を乗せていた。

 完全に血液に()えるが、生前肉体だった頃のクセが抜けていないのだろう。


 ……ま、死んでそう時間も経ってないコトを考えれば、そりゃ抜けはしませんわよね。


 死んで数百年経ってるならともかく。



「ええと……とりあえず、レナータは死んで、ドマニの体に寄生する寄生系魔物として生まれ変わった……という解釈で合ってます?」


「合っている……と思うが、正直詳しくないからわからん」


「わたしも同じくー」



 ドマニは首を傾げ、レナータは笑顔でそう言った。



「……うん、じゃあまずナニがあったかを説明してくださいな。あとレナータ」


「ナニ?」


「今のアナタ、ドマニの血液で構成されてますわね?」


「うん」



 レナータは当然のように肯定した。



「なら腕を構築するのは控えといた方が良いと思いますわよ。外に出すと、その分だけドマニの体内を巡る血液が少なくなっちゃいますもの。頭部だけならギリギリセーフでも、両腕まで構築したらアウトですわ」


「あ、そういえば先生達にもわたしが血液だからこそ、お兄ちゃんの貧血には気を付けるようにって言われてたんだった!ごめんねお兄ちゃん!」


「いや、そもそも俺がレナータの死体を喰ってこうなったワケだからな。そのくらい気にするな」



 今色々と気になるワードが聞こえた気がするが、話を聞いていればその辺りは説明されるだろう。

 異世界の自分がそんな冷静な反応で良いのかと言っている気がするが、今目の前で生きているならモーマンタイ。

 それに兄が妹を肉食的に喰うのは確かにちょっとアレかもしれないが、死なないからと人肉を提供する友人、そして生きる為に人肉を喰う友人も居るのだから、今更過ぎる気もする。


 ……ドマニの背中にある、既に古傷レベルまで治っているあの傷も、相当な大怪我で出来た傷っぽいですし、ね。



「さて、ではナニがあったかだが……まず俺達の故郷は田舎でな。土砂崩れでレナータは死んで俺は瀕死になった」


「具体的にはわたしぐちゃぐちゃー」


「俺は……かなり負傷していたのとレナータが死んでるのもあって、混乱状態だったからあまり覚えていないが、確か右腕が動かず、左足が無くなり、右足もどこかが折れていたのか引きずっていたような……」


「あとレナータが今出てきているその古傷も、ですわよね?」


「ああ、そうだった。土砂崩れで咄嗟にレナータを庇ったから背中が酷いコトになっていたらしい。庇ったのも間に合わずというか……坂道というか、ほぼ崖みたいな位置だったからな。

土砂崩れこそ俺が庇ったが、結果レナータは崖の下で下敷きになったのか、幼い分体が脆かったのか、周辺にはかなりの肉片が散らばっていたぞ」


「うわーお」



 中々にハードな死に方だ。

 生きてるが。



「ただまあ、俺は……というか俺とレナータは、食うコトで肉体を回復させるコトが出来る遺伝だ。

まあソレを体の一部として使用するようなモノだから、毛がある獣の肉なんかを食べてると毛深くなったり、というのがあるが」


「だからわたしお肉きらーい」


「ソレでこう、死にかけだったのもあって、とにかくナニかを食べて回復しないと、という状態になってな」


「本能的な」


「ああ」



 ドマニは頷いた。



「レナータの死体を目撃したのも理由だろうが……錯乱した俺は回復する為、そしてレナータを回復させる為、レナータの死体を喰った」


「錯乱してますわねえ……」


「いや、本当に、今思うと何故レナータを回復させようとしてレナータを喰ったのかがわからんが……その時の俺は大真面目だったんだ」


「ソレはわかりますわ」


「ソレに、お陰でわたしもこうして魔物として生まれ変われたワケだしね」



 ふふふ、とレナータは笑う。



「ふむ、でも、成る程。かなりの大怪我で相当な血液を流していただろうコトを踏まえると、レナータの肉を食って回復するというコトは、様々な部分をレナータが補うというコト。

死んで間もなく、そして兄妹であるコトが幸いしてかレナータが血液の魔物になった、と……」


「ああ、恐らくはそうだろう、とカルラ先生達も言っていた」



 誕生の館で生まれているコトからすると、遺伝子的に似ているから、というのは無いだろうが。

 病気で一網打尽になったりしないよう、誕生の館で生まれる子は多様性を優先されるのだから。


 ……父方に似ているだとか、母方の父方の母方辺りに似ているとか、そのレベルで遠い位置の遺伝子持って来たりしますものね、アレ……。


 だからこそ多様性が生まれ、同じ病に倒れる確率が低くなる。

 つまり兄妹だからこそ、みたいな理由では無いのだろうが、良い感じに合致したようでいっそ錯乱していて良かった、と言うべきだろうか。


 ……うーん、言うとちょっと不謹慎過ぎるから言わない方が良い気がしますわね。


 本人も本魔もまったくもって気にし無さそうだが。

 それが狂人。



「ソレで無事俺は肉体を治し、レナータが俺の中で生きてくれていたお陰で精神的にダメージを負うコトも無く、同体状態で帰宅した」


「親御さんかなり動揺したんじゃありませんの?」



 何せ子供が帰ってくると思ったら下の子が生きているけれど死亡している。

 更には死体の回収が不可能状態。


 ……体を治す為に本能のまま食べた以上、骨の一欠片も残ってないでしょうし。



「いや、体減ったけどうちの子減ったワケじゃないならまあ良いか、くらいのテンションだった。ただ同級生を驚かせたら大変だから、手紙だけは送っておくように、と」


「アナタさてはそう言われもしなかったら報告すらもしないつもりでしたのね……?」



 先に連絡入れておくよう言ってくれた親御さんに感謝すべきだろうか。

 異世界の自分は下の子が魔物化したとか肉体や人間としては死んだとかの部分に反応が無いコトを驚いているようだが、生きているコトに変わりがないなら良いと思う。


 ……魂本人のままなら、別に問題はありませんわよね。



「まあ、大体そんな感じだったんだが……次はこちらからジョゼフィーヌに少し相談があってだな」


「ハイ?」


「わたしの名前!どうしたら良いと思う!?」


「名前?」


「魔物になった以上、一応登録はしておくべきだろう?だがレナータは俺の血液全てを担っている魔物だ。レナータが俺から出たら俺はミイラになるくらいには全身の血液状態」


「うん、まあ、そりゃ見りゃわかりますけれど」



 レナータの頭部を構築している分の血液が外に出ていて、必然的に大量の出血と同義の状態。

 けれどドマニに貧血っぽい様子が無いのは、血流をレナータがコントロールするコトで、その辺りを調整しているのだろう。


 ……だからまあ、血液全部がレナータなのはわかりますが……。


 ソレがどうした。



「つまり特殊というか、現状オンリーワン状態な魔物なワケだ。同じ魔物は居ないだろう?」


「居ませんわね、流石に」


「だから新しい名前が必要で」


「わたし達ネーミングセンス無いから考えて!」


「ソコでナンでわたくしに振りますの!?」


「言っておくが俺は花壇の花に津波と名付けた男だ」


「わたしはお花に白熊って名前付けたよ!」


「オッケー、承りましたわ」



 ちょっとそのネーミングセンスを聞いては放っておけない。

 というか花壇の花に名前を付けるまでならともかく、津波と白熊ってどういうセンスだ。


 ……うん、うん、まあ、美味くノせられたような気はしますけれど、既に何体かわたくしが名付けた魔物も居るから、今更!今更ですわよね、ええ!



「……無難かつ普通に、ブラッディシスター、というのは?」


「おお、良いな。まともなのが特に良い」


「じゃあわたし今からブラッディシスターね!改めてヨロシク!」



 順応早いな。





 コレはその後の話になるが、ドマニの妹であるレナータがブラッディシスターという魔物として生まれ変わったというのは、あっさりと受け入れられた。

 元々パートナー魔物が一緒に授業を受けていたり、勉強に興味がある野生の魔物が飛び入り参加していたりするので、その辺の感覚がガバガバなのだ。


 ……魔物が一体増えた程度で動じもしませんわねー。


 寧ろ一部の食人系混血の子などは、「食べて良かったね」くらいのコトを言っていた。

 普通に宝くじの五等当たったの?良かったね!くらいのノリで言われるその言葉に異世界の自分はかなり混乱しているようだったが、大体そんなモンだ。

 本人もソレに対して「本当にな」と頷いていたし、ブラッディシスターも同様なので気にするようなコトでもない。



「ねーねー」



 ドマニと共に九年生用の授業を受けているが、実際はオーレリアンと同級生、つまり五年生だったブラッディシスターだ。

 当然ながら授業についてこれるワケが無い為、放課後の談話室などで、ドマニがブラッディシスターに五年生用の勉強を教えている。



「どうした?ブラッディシスター」


「わたしもう魔物なんだから、別に勉強とかしなくても良くない?」


「勉強は大事だぞ」


「そうだけど!そうかもしれないけどー!今まではそりゃママとパパが学費出してくれてたのとかお兄ちゃんと一緒に遊ぶ時間作る為とかで頑張ってたけど、でもわたし、今は魔物だから学費は完全に免除されたんでしょ?

お兄ちゃんが卒業したら必然的にわたしも一緒に卒業なんだし、別にもう勉強しなくても良いんじゃないの?」


「そうなると、子供が出来た時にお前が教えれる範囲が少なくなるぞ?」


「ウ、ソレはイヤ!」


「ならちゃんと勉強するコトだな。遊ぶ時間は無いが、一緒に勉強する時間でも悪くは無いハズだぞ?」


「むぅ……お兄ちゃんと一緒だから勉強するんだからね!お兄ちゃん以外とだったら勉強なんてわざわざしないし!」


「ああ、俺の為にありがとう。俺だけっていうのは、嬉しいな」


「……お兄ちゃんが嬉しいなら、頑張る」


「良い子だ」



 ブラッディシスターの、血液で出来た頭をチャプチャプ撫でて、ドマニは問題集に向き直る。



「さ、あと一つだ。コレでおしまい。この問題、どっちが正解かわかるか?」


「……上!」


「よし、正解!今日の勉強終了!」


「ヤッター!」



 ドマニが丸つけすると同時にブラッディシスターが万歳をした。



「……ウッ」


「あっ、お兄ちゃんごめーん!」



 そして当然のようにドマニが貧血でふらついた為、ブラッディシスターはすぐに腕を構築する血液を体の中へと戻した。

 生前の感覚が多く残っているからか、興奮するとすぐに腕などを形成してしまうらしい。


 ……ま、その内慣れるでしょう。



「あ、ジョゼフィーヌ」


「ハイ?」



 ただ隣を通っただけなのにナンだろうか。



「制服について少し相談があるんだが」


「ブラッディシスターが古傷部分から出て来る度に制服に血が染み込んで、その血液自体はブラッディシスターだからシミになるコトも無い。

けれど濡れた布が不快感強いとかならそうならないよう付与してもらう、またはその部分に布が無いデザインに変えてもらいなさいな」


「何故わかった」


「まあ、ちょいちょい不快そうに眉を顰めてるのを目撃してたので」



 というか、ブラッディシスターが表に出る度にドマニの塞がっている古傷をこじ開けて出てきている方をどうにかした方が良いのではなかろうか。

 いつだって新鮮な傷になっているし、ドマニ自身普通に痛覚があるので痛がっているのが()えている。


 ……でもまあ、本人達が問題視してない部分を外野がどうこう言うのもアレですし……。


 本人達が良いのであれば良いんだろう、多分。




ドマニ

妹を喰らうコトで生き残った兄。

背中の傷は食べて回復したコトにより古傷レベルまで回復しているが、ブラッディシスターが顔を出す度に裂けている。


ブラッディシスター

兄に喰われるコトで魔物として生まれ変わった妹。

ブラコンだった為、兄とホントに同体、ソレも兄の命を握っていると言っても過言では無い血液になれたのが嬉しく、魔物になったコトをまったくもって悲観していない。


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