診断少女とキリングドール
彼女の話をしよう。
診断の魔眼を有していて、魔物の医者を目指していて、その為頻繁に魔物探しをしたり害魔討伐について行ったりしている。
これは、そんな彼女の物語。
・
相談があると言い、ラミラが部屋までやってきた。
とりあえずソファに座らせると、ラミラはキリッとした真面目な顔で言う。
「パートナー関係で相談があるんスよ!」
「帰れ」
「ジョゼ冷たい!反応が冷たいッス!天使ならもうちょっとふわふわの翼でホールドする感じの優しさを持って!」
「わたくし翼ありませんし、悪を屠るのが仕事である戦闘系天使の娘ですし、天使別に誰かを抱き締めたりとかしませんし……」
そういうのをするのは神とかその辺。
天使は基本的に酒場のカウンターで隣になって愚痴り合いした時に背中さすってくれるヒトみたいなポジションであって、大変だったねえと優しく抱き締めてくれる祖父母ポジションは神である。
……女神は、モデルとかアイドルとかのポジションでしょうか。
見るだけでナンか元気になる感じ。
そして女神は女神が気に入った相手じゃないとハグとかしてくれないので、ハグしてくれるタイプはやはり神だろう。
……ま、神は神で男はあんまりなようですけれど。
神は基本的に女好きなので、性的云々無しにしても女の子に優しいという部分が顕著なのだ。
男に対してはテメェの足で立て、という冷たさになるのでわかりやすい。
「……で、パートナー関係の相談っていうのは?」
「ほら、まず自分って診断の魔眼を有してるじゃないッスか」
「有してますわね」
「発動すると対象の状態をカルテみたいに閲覧可能で、自分の将来の夢は魔物の医者。
だから害魔が本当に害魔なのか、弱点などは、とかを調べる為に害魔討伐に一緒に行ったりするんスよ。自分は自分で医者になった時用に色々見ておきたいんで助かりますし」
「まあ確かに、医者やるにしても前例見たコトがあれば色々楽でしょうしね。兵士や狩人に同行する件については、寄生型魔物が居ないかどうかも確認出来るから助かっているのも事実のようですし」
実際兵士や狩人からそういう話を聞いている。
彼らは知識があるが、ソレでも似ている魔物、もしくは安全な害魔なども存在しているのだ。
……だからこそ、アウトかセーフかを確認出来るってのは助かりますわ。
将来医者を目指しているからこそ、その魔眼の診断結果には信用性が求められる。
つまり偽ればその夢への道が閉ざされる為、信頼出来るというコトだ。
「ただ自分、詳細を視る為には凝視する必要があるんスよね」
「ですわね」
「ソコが問題なんスよ」
「問題?」
「凝視している間、自分のガードが皆無になるんス。そもそも自分は戦闘タイプじゃないから応戦出来ないし……」
「……つまりパートナー関係云々というのは、戦闘タイプのパートナーが欲しい、という?」
「そうなんス!」
「机」
興奮気味に肯定するのは良いが、ヒトの部屋の机を思いっきり叩くのは止めて欲しい。
何故自室まで相談しに来る奴らは机にダメージを与えるのか。
……そんだけの感情が出る程溜め込んでた、とも捉えられますが……。
普通にイヤなので止めて欲しい。
将来ヒトん家でソレやって嫌われるのはそっちだぞと注意すべきだろうか。
……や、でも何度か注意はしてんですのよね。
じゃあもう諦めよう。
ラミラが誰かに嫌われようとこちらの知ったこっちゃない。
……というか他のヒトの前でここまで興奮気味な姿見たコトありませんし!
素で接してくれているのを喜べば良いのか、素過ぎて机にダメージ入るのを嘆けば良いのか、どっちだろう。
「自分、こう、護衛というか、ボディーガードしてくれる感じのパートナーが欲しいんスよ。でも戦闘系の魔物を調べても数が多くて目が滑るというか……」
「あー」
確かに慣れていないと、似たような魔物も多くて混乱するだろう。
戦闘系魔物専門の事典などの場合、載っている数も多いし。
……実際そんだけの数が居ますしね。
その中からこの魔物素敵!というのを見つけ出すのはほぼ不可能だと思われる。
運が良いタイプなら適当に開けば運命の相手である魔物のページを開けるかもしれないが、この様子だとビビッと来たりはしていないようだ。
「で、わたくしに相性良さそうなのを探して欲しい、と?」
「や、そうじゃなくて、思ったんスけど兵士のトコって魔物が保護されてたりするじゃないッスか。無機物系」
「ありますわね」
チェーンカラーとかそうだった。
無機物系は無機物であるが故に寿命が長く、というか寿命という感覚が無いコトが多い為、長く放置されると眠りにつくのだ。
……で、一部色々面倒に巻き込まれた無機物系魔物は自分から眠りにつくんですのよね。
しばらく放っておいてくださいタイム。
まあ無機物系魔物の殆どは人間の為に作られた存在なので、そう長く眠りにつくコトは少ない。
平均十年。
……今異世界のわたくしが充分長いってツッコんだ気がしますわねー。
しかし本当に長いのはウィッチブルームのような、五百年くらい眠るヤツ。
十年なら寧ろ短いくらいと言えるだろう。
「ソコに自分と相性良い魔物とかって居ないッスかね」
「わたくしに聞かれましても知りませんわよんなコト」
「お兄さん兵士じゃなかったッスか?」
「兵士ですけれど、ソコまで詳しく教えて貰ったりはしてませんの。守秘義務があるでしょうし、そもそもソコまで聞くのはマナー違反ですわ」
「……じゃあ無理ッスね」
「いえ無理ではありませんけれど」
「エ?」
ラミラは炎のように赤い色の髪を揺らし、きょとんとした顔で首を傾げた。
「保護する……というか保管する場所があるとはいえ、サイズは様々。デカイのもあれば小さいのもあるし、そう長いコト保護するのもなーっていう感じらしいんですのよね。だからまあ、魔物版里親探しみたいな感じで」
「お、おおう」
「とはいえ里親とは違いパートナーとして、という感じなので、ビビッと来るなら良し、来ないなら駄目、って感じっぽいですけれど」
「直感優先なんスね」
「直感でビビッと来ないと結局別れるらしいんですのよ」
まあパートナーというのは運命の相手らしいので、当然なのだろうが。
「で、行きますの?行くなら許可取っときますけれど」
「付き添い頼めるッスか?」
「ヤですわ」
「そう言わず!そう言わず!万が一攻撃してくる魔物居たらどうするんスか!?」
「パートナーになってくれるだろう魔物が居れば運命的なアレで目覚めて助けてくれますわ。ガンバ」
「ガンバじゃないッス!あと自分マイナー系の魔物について詳しく無いからジョゼの知識による解説必要な可能性もあるというコトでお願いッス一人にしないで!」
「まあ確かに色んな魔物が保管されてますけれどねえ……」
というか机に足を乗っけて肩を揺さぶるの止めてくれないだろうか。
行儀が悪い。
この部屋の机にナンの恨みがあるというのか。
・
兵士用の施設内、保護された無機物系魔物が保管されている倉庫を歩く。
……コレ、外から見たのよりも中広くなってますわね。
しっかりと空間拡張魔法が使用されているらしい。
学園の図書室も同じ仕様だからわかる。
「……あの、ジョゼ?」
「ハイ?」
「ジョゼが口添えしてくれたらふっつーに入らせてくれたッスけど、コレ普通は見張りとか案内役とかつくモンなんじゃないッスか?こんなセキュリティじゃ魔物を起こさずに盗む、とかあり得ると思うんスけど……」
確かに、魔物として覚醒していなければ魔道具、または魔力が多いアイテムでしかない。
そういったモノは普通よりも高い値段が付くので、お金に困っている愚か者であれば手を出すだろう。
「まあ普通なら迷子になる可能性も高いというコトで案内役つきますわよ。でも今回はわたくしが居るので、ドコに居ようと出口がわかるだろう、ってコトでわたくし達だけですけれど」
「いや、でもそんなさらっと信頼されるって」
「わたくし結構兵士と仲良いのと、愚か者を捕縛したりしてるのと、あとアナタが兵士による害魔討伐に付き添ったりもしてるっていう実績があるからこその対応ですわ」
「成る程……。でも信頼と実績があっても」
「わたくしがそばに居る以上、ちょろまかしたりしたらソッコでわたくしがバーサクしますもの。防犯としてはこれ以上無いくらいに信用性高いんですのよ、わたくし」
「アッ成る程」
ラミラは腑に落ちた顔で頷いた。
そうあっさり納得されるとこっちの方が腑に落ちない気分だが、事実なので仕方が無い。
……わたくし、戦闘系天使としての遺伝が色濃いっての、知られてますものねー。
オートでバーサクモードになる為、ソコに顔馴染みだの友人だのといった情は加味されない。
重要なのは罪があるか無いかであり、罪があるならば仕留めるだけ。
……だからこそ、わたくしが同行してる時点で案内役と見張り役は完璧という……。
我ながらめちゃくちゃ適している気がする。
己自身の悪の行いは拒絶反応が発生する為罪を犯すコトはやろうと思っても出来ないし、やろうとも思えないし、そもそもお金に困っていない。
寧ろお金があるコトに困っているくらいなので、お金欲しさに強盗とかをするような環境でも無いのだ。
……ついでに身内が兵士所属だからこそ、兵士側はいつだって人質確保出来る状態とも言えますわ。
罪人相手にソコは容赦しちゃならん。
身内が善人だろうと、悪人捕縛の為ならば、そして兵士であり身内であるからこそ命を張るのは当然なのだ。
……うん、コレちょっと天使入ってるから過激な思考ですけれど、まあ効率考えてもそうなりますわよね!
なのでまあ、兵士から見て己は安全というコトだ。
保険である人質もソッコで確保出来るし。
兄もほんわかしているが天使の息子なので、アレで結構覚悟はしっかり出来ている。
つまり悪行なんざしちゃなんねぇ、というコトだが。
「……あれ、コレ」
「ビビッと来たの、ありました?」
「多分、あったッス」
そう言うラミラが見ているのは、布を被せられた大きい人形の魔物だった。
ラミラからすればナニかに覆い被さり中身を隠している布しか見えていないだろうが、ビビッと来たなら間違いあるまい。
「じゃ、御開帳」
「エッ、コレそんなあっさりと捲って良いんスか!?」
「その辺既に許可取ってるから大丈夫ですわよ。入る時に血判押しましたわよね?」
「押したッスけど……」
「アレ、ここで万が一死んでも自己責任ってヤツなんですの。だからまあ、死んでもそん時はそん時ってコトで」
「先言って欲しかったッス!」
「卒業したらわたくし居ないんだからんなモン自分で確認なさいな。書面は普通に読めたハズですわよ」
「ぐぬう」
確認しなかった自覚があるからか、ラミラは押し黙った。
「それよりこの魔物ですけれど」
「あ、ああ、そうッスね。他のと同様眠ってるっぽいッスけど、コレ……人形ッスか?しかもデカイ」
「普通に成人男性サイズですわねえ」
わかりやすく木で作られている人形ボディ。
そしてこの、肉眼では視えないだろうがしっかりと残っている血痕などからすると、あの魔物だろうか。
「ジョゼ、ナンの魔物かわかるッスか?」
「恐らくキリングドールですわ」
「特定はやっ……って、キリングドール?」
「つまり殺戮人形ですわね」
「ソレはわかるんスけど……エ、どういう魔物なんスか?」
「戦闘用の魔物であり、完全に破壊されるまで活動しますの。
そして人形だからこそ、関節を無視した動きが可能で首を真後ろに動かせたりと死角などが無い分、基本的な人間相手であれば達人級の敵を翻弄し、仕留めたと聞きますわ」
「確かにそういうののプロって、基本が染みついてるッスからね。
だからこそどんな動きをしても知ってる動きだから対処出来て、強いってなるワケッスけど……当時は関節の可動域が凄いってだけで脅威だったろうなあ」
「今はその辺に居たりしますけれどねえ」
なので体術の授業でも、ヨゼフ体術教師は関節の可動域がエグい存在に変身するコトがある。
そのくらい、あり得る存在だからだ。
時代の変化とは実に目まぐるしいモノなのがよくわかる。
「……ところで、起こすにはどうしたら良いとか、わかるッスか?」
「蓋開けたりカバー外したりしたら起きる場合も多いんですけれど、被せられてた布を取っても起きない辺り、ナンらかのコマンドが必要なのでしょうね。というかその辺、診断の魔眼でわかりませんの?」
「あ、わかるッス。んじゃ発動、っと」
ラミラはその目に魔法陣を浮かび上がらせ、眠っているキリングドールを凝視する。
「えーと起こすのは普通に魔力を流して……あれ?」
「どうかしましたの?」
「ナンか、こう、自分が視えるのカルテ的なヤツなんスけど、精神面についての項目が空白で……えっと?主による設定が未設定?って書かれてるッス。意味わかるッスか?」
「そう言われても、わたくしもキリングドールについては存在を知っているだけであって、知識が豊富ってワケじゃありませんのよ。戦争での実体験とかで書かれる戦闘能力ならともかく……」
「んー、じゃあもうちょい凝視してみるッス」
じぃ、とラミラはキリングドールを見つめる。
凝視するコトで視えたのか、あ、とラミラは声をあげた。
「あ、コレ命令で動くタイプなんスね。スリープ状態から覚醒する際には魔力を込められるコトが必須で、その魔力を込めた主の命令に忠実らしいッス。
ええと?だから作り手に殺戮しろと命じられた為に殺戮しただけであり、主が発した最初の命令をベースに忠実な存在……って書かれてるッスよ」
「つまりアナタが魔力を込めてパートナーになって欲しいと願えばソッコで叶う、と」
「な、ナンとなくイヤッスねソレ。自分刷り込みはちょっと……」
「なら最初の命令をベースにしつつ忠実、なんですのよね?ソコを利用して、自由に生きるよう命じてみるってのもアリかと」
最初の命令をベースにしつつ忠実というコトは、初期人格の設定がそのベースとなる命令によって構築されるモノなのだろう。
で、プラスアルファ分の命令も聞くように出来ている、と。
「自由意志があるかは不明ですけれど、魔物なら多分あるでしょう。命令に忠実であるが故に、自由であれと命令されない限りはソレを表に出せないだけ、というパターンもありそうですし」
「自分ちょっとよくわかんないんスけど、つまり?」
「つまり魔力込めて命じる時に自由に生きろって命じればオッケーかと」
「了解ッス!」
ピッと敬礼したラミラは、キリングドールに触れてむぬぬぬぬと魔力を込める。
「……再起動」
無機質なその声と共に、カタリとキリングドールの指が動いた。
カタカタと音を立ててラミラに視線を向けたキリングドールは、無機質な声で言う。
「初期設定がされておりません。命令を」
「ええと……キミの好きなように喋って、動いて、感じて、接して、自由に生きて欲しいッス」
「初期設定が完了しました」
無機質な声だが、その言葉を言い終わると同時、キリングドール内の魔力が勢いよく迸ったのが視えた。
次の瞬間、瞬きをしてバチリと目を見開いたキリングドールのその義眼だろう瞳に、ハイライトが灯る。
「っしゃあ自由の身ゲットォォオオオオオ!」
「思ったより主張つよっ!?」
ガッツポーズしながら天に届けこの叫びとばかりに叫ぶキリングドールに、ラミラは床に尻もちをつきながらそう言った。
「そう、こうして喋るコトすら出来ない地獄のような状況!元々ヒト斬り用に作られたから殺戮にやいのやいのと言う気はねぇが、人間を見つけ次第殺すのには色々言いたいコトがあったんだっつーの!
もうちょっと細かく命令の設定を詰めろやあの馬鹿野郎!まあ俺らキリングドールの殺戮に巻き込まれて死んだがな!ハッハー!」
「ジョゼ、ジョゼ、ナンかこの魔物めちゃくちゃはっちゃけてて怖いッス」
「長いコト溜め込んでた鬱憤をようやく叫べるってコトではしゃいでるんでしょうねえ……」
「ソコの女!」
「ヒエッ」
フクロウのようにグリンと真後ろに首を動かし、キリングドールはラミラに視線を向ける。
「お前のお陰で、俺は自由な意思のまま自由に動けるようになった」
首を元の位置に戻したキリングドールは、さらりとした動きでラミラに手を差し伸べた。
「だから自由な意思で、俺はお前に付き従おう。命令を聞く必要が無くとも、命令に従うのが俺だからな。命令がある方がありがたい」
「エ、あ、はあ」
差し伸べられた手を取ってぐいっと引き上げられながら、ラミラは困惑したように返す。
「ちなみに俺は自由意志を持っているから、お前に断られようとお前に付き従うぞ」
「いやソレ自分の意見聞く必要無いッスよね!?というか!折角自由になれたのに自由行動楽しむでも無くソッコで誰かに付き従うって」
「俺は無機物系魔物だから気にしてんじゃねえよ、そんなコトを」
キリングドールは感情の乗った声色で、生きているようにニッと笑った。
「あと人間の寿命程度なら問題ねぇ。お前と一緒に行動して現代の価値観を日常生活やらで学んで、お前の死後に自由に行動する。その方が色々安心だろ。
俺は折角自由になれたっつーのに、価値観の相違で害魔認定されて仕留められたりしたら堪ったもんじゃねえ」
「な、成る程、めちゃくちゃわかりやすくはあるッスね……」
「だろ」
「……ところで自分、自分のパートナーになって護衛とかしてくれる相手を探してたんスけど」
「戦闘なら任せろ。戦闘以外はからっきしだが、戦闘なら幾らでも敵の首を取ってこれるぜ」
ニィ、とキリングドールは笑う。
「それとも生きたまま開きにする方がお好みか?」
「出来れば最低限の攻撃で与えるのは最小限のダメージであとその時々によって生け捕りか仕留めるのかは変化するッス!というか顔怖い!」
確かに今のは悪役の笑みだった。
・
コレはその後の話になるが、キリングドールはラミラの世話係のような位置に落ち付いた。
「おい、ジョゼフィーヌ」
「あら、キリングドール。今日もまた背中にラミラ背負って……」
「起きねぇからな」
溜め息を吐きながら首を真後ろに動かしたキリングドールが見つめるのは、その背でぐーすか寝ているラミラだ。
今は早い時間なのでこの食堂もヒトはそうも居ないが、直に凄い勢いで込み始める。
「ったく、込む前に飯食いてぇっつーから起こしてやってんのに起きやしねえ」
「毎朝やってますわよね」
「お陰で無駄にコイツを着替えさせるのが上手になった。コイツの死後に役立たねぇスキル成長させてどうすんだっつの」
「でもラミラが死ぬまで、とりあえず寿命で死ぬと考えても五十年は余裕で生きるでしょうから、無駄ってコトは無いと思いますわ」
「あー、まあソレもそうか。外敵からは俺が守るし、ラミラ自身に診断の魔眼がある以上、大抵の病気は早期発見が可能だしな」
「ところでそろそろ注文しないと生徒達が多くなる時間帯になりますわよ?」
「と、いけねえ。おいラミラ、起きろ」
「んー」
「起きろっつってんだろうが」
「イヤッスー……」
キリングドールは人形ボディでありながら、器用にも半目になった。
「おいジョゼフィーヌ、水寄越せ。コイツに掛ける」
「わたくしに言わないでくださいまし。その辺の水差し勝手に使いなさいな」
「止めねぇのか」
「起こしてと頼んだ以上、起きるのが礼儀でしょう?なら違反者相手に多少水がぶっ掛けられても、別に。氷水ではありませんし」
「よっしゃ行くぞラミラ」
「おおーーーーっとイヤな予感に自分起床!起きた!起きたッスよキリングドール!だからその水差しはテーブルに戻して欲しいッス!木製のキリングドールが一緒に被ったらカビるかもしんないッスよ!」
「俺は防水仕様だから心配すんな」
「心配以前に自分の心臓を心配してるんスよ自分は!とにかく起きたからさっさとソレ置いて!ソッコで!」
「……チッ、しゃーねーな」
「舌打ちされたあ……」
朝っぱらから、いつも通りに楽しそうなやり取りでなによりである。
ラミラ
診断の魔眼を有しており、発動すれば相手の情報をカルテのように読み取れる為、一筋縄ではいかない為に数が少ない魔物対応の医者を目指している。
戦闘系はからっきしに加えて日常生活もまあまあダメダメなので、キリングドールに頼りっきり。
キリングドール
戦闘用の魔物である為完全に破壊されるまで活動が可能な魔物であり、最初の命令に絶対服従する仕様になっている。
自分の意思での行動を許可され自由を得た為、ソレを与えてくれたラミラが死ぬまでは礼として面倒を見ると決めているからか、それなりに雑でありながらやたらと甲斐甲斐しい。