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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
一年生
27/300

妖精少女とバルブブルー



 彼女の話をしよう。

 妖精の混血で、無邪気で、地味にS。

 これは、そんな彼女の物語。





 妖精とは、精霊に似ているようで精霊とはまったく違う種族である。

 蝶のような羽が生えているのが妖精、蝶のような羽は無いのが精霊とされているが、他にも違う面は多々ある。

 例えば精霊はそれなりに大人びていて、対する妖精は永遠に子供のまま、だとか。

 他にも、妖精は見えるが精霊は魔眼など特殊な目がないとハッキリとは()えないとかの違いがある。

 そんな風に書かれている妖精についての本を読み、ウンディーネとの会話や妖精との混血の子との会話などを思い出しつつうんうんと頷く。


 ……ホント、そーいう感じですのよね。


 精霊が成人済みの思考ならば、妖精は学園に入学すらしていない子供のような思考だと思う。

 愛嬌があるし可愛らしいしで良いとは思うが、将来が心配だという思いは少しどころではないレベルである。


 ……いやまあ、わたくしが考えるコトでも無いんですけれど。


 自分の立ち位置はあくまで友人なので、ソコまで気にするのは過剰だろう。

 そう思い少し頭を振ってから、ページを捲る。



「ジョゼー!あっそびーマショ!」


「キャッ!」



 いきなり横から飛び掛られ、抱きつかれた。

 一人用ソファに座っていた為、肘置きが柵代わりになってくれたお陰でセーフだったものの、ソレが無かったら危うく椅子から落ちていただろう突進だった。



「ベネディクタ……ナンですの、いきなり」


「ふっふふー」



 自分の腰に抱きついたまま艶のある紫の髪と細やかな模様がある羽を揺らし、ベネディクタは子供のように笑った。

 彼女は背中から生えている蝶の羽からわかるように、妖精との混血だ。



「あのデスネー、私、ジョゼに聞きたいコトがあるんデース!」



 ニコニコとした笑みを浮かべながら、ベネディクタはえっへんと胸を張った。



「……ベネディクタ、無理して敬語とか使わなくて良いんですのよ?」


「イヤデース!私だって大人みたく敬語くらい使えマス!」



 自分の言葉にベネディクタはプンスコと頬を膨らませたが、慣れない敬語のせいで変な外人口調みたいになってしまっている。

 何故そんなおかしな発音になってしまったのだろう。


 ……まあ、本人が良いと言っているなら良いというコトにしておきましょう。


 彼女は妖精らしい性格、つまり子供っぽい性格の為、反対すると強情になるトコロがある。

 敬語もどきに関しては別に害があるワケでも無いのでスルーしておこう。



「で、ナンの用事でしたの?」



 無視すれば騒ぐだろうし、話を聞かないと納得してくれないだろうと判断し、先程まで読んでいた妖精についての本をテーブルに置き、聞く態勢になる。



「ソレなんデスけどネー?」


「……あの、ベネディクタ?」


「ハイ?」



 何故かベネディクタは空いている向かいのソファではなく、当然のように自分の膝に座ってきた。

 ソレも会話の為なのか、横向きで。

 頑張ればこの体勢からお姫様抱っこが出来そうな状態だ。



「……向かいに座りませんの?」


「こっちの方が近くて好きデース!」


「あー、ハイ、そうですわねー」



 ……そういえば幼い子って、誰かの近くに居るのが好きだったりしますわよねー……。


 モチロン個人差はあるだろうが、ベネディクタは人見知りをしないタイプの子供に近い。

 だからこそ向かいに座るよりも、距離が近い膝の上を選択したのだろう。

 子供はよく膝の上に乗りたがるイメージもあるので、正直納得出来てしまう。



「ソレで、聞きたいコトって?」


「花デス!」


「花」



 本を読んでいるとはいえ、自分はソコまで花には詳しく無いのだが。

 というか花屋の娘ではあるが怖がりでもあるペネロペに聞けないのはまあ納得出来るが、しかし妖精は花の蜜やフルーツが主食だ。

 つまり妖精と花は切っても切れない縁で結ばれている。

 世話の仕方は本能的にわかるだろうに、一体ナニを聞きたいというのだろう。



「花のナニを聞きたいんですの?」


「コレから花をとある花壇で育てようと思うのデスが、出来れば種から育てたいんデース!そっちの方が愛着も湧いて、もう花壇をあんな悲惨な状態にはしないぞって思うハズだもの!」



 ……ふむ、つまりは誰かの花壇を使う、というコトですのね。


 まあベネディクタは子供らしい性格のお陰で知らないヒト相手でも物怖じせず話せる子だ。

 誰かの家にでも遊びに行った時に放置された花壇を見つけ、コレはどうにかせねば!となったんだろう。多分。



「だから種から育てる為、コレからの季節に合った花を教えてちょうだい!あと咲いた時に綺麗な感じになるようにっていう配置バランスとか!」


「敬語崩れてますわよ」


「教えてクダサーイ!」


「うーん……」



 ……どうしましょうか。


 季節の花くらいならわかるし、色彩のバランスも()慣れているのでわからないワケではない。

 だが種植えを手伝う気は無いのだ。

 しかし彼女の場合はカンでやるか、近くで指示してくれる誰かが居た方が良いというのもまた事実。


 ……ま、どうにかなるでしょう。



「ちなみに花壇の広さと数は?」


「簡易畑みたいなサイズが何個かあって、細長いのも何個はあったわ!」


「あー、えっと、三個以上ありました?」


「ありマシタ!」



 よし、とりあえず三個までは数が数えれるようで安心した。

 さておき、花壇は結構な広さのようだ。

 まあ王都は都会なので貴族の家も結構あるし、不思議では無い。


 ……ちょっと歩けば廃墟とかも結構あったりして、子供からするとワクワクスポットしかないんですのよね、王都って。



「じゃあまず花屋に行くかケイト植物教師のトコロに行って、「種から花育てたいのでコレからの季節に合った種を沢山ください」って言って購入なさい」


「ふむふむ」


「そしてどのくらいの距離を開けたら良いのか、どのくらいの水をやれば良いのかは本能でわかるでしょうから、同じくらいの水の量が必要な花の種を同じ花壇に植えるようにしなさいな。わたくしからは以上ですわ」


「えー!」


「グエッ」



 不満気なベネディクタが自分の首にその淡く発光しているタトゥーだらけの腕を絡ませ、グイッと引っ張ってきたせいで一瞬自分の首が絞まった。

 羽に気をつけつつソッコでベネディクタの背に片手を添えて仰け反ろうとするのを阻止し、もう片方の手で首に絡められている腕を外す。


 ……子供って、こういう時容赦無いんですのよねー……。



「もうちょっと教えてクダサイ、ジョゼ!」


「正直ソレ以上アナタに言うコトが無いんですのよ。妖精との混血なのだから、天使であるわたくしが悪を察知出来るのと同様、アナタだって花のアレコレがわかるのでしょう?」


「モチロンデース!」


「ならわたくしがナニか言うより、アナタのカンで動いた方が適してますわ。世の中には適材適所という言葉があるんですのよ」


「むー……」



 何故か拗ね始めたベネディクタの頭を撫で、どうにか機嫌を直してもらう。

 いや、恐らく一緒に種植えをしたかったから、自分がする気無いというのを察してご機嫌斜めになったのだろうというコトはわかる。

 わかるが、ソレはソレだ。

 いつも頑張っていて、どうしようもない事情だと言うのならば草抜きくらいは請け負おう。

 だが一人でやるの寂しいから一緒にやろうという誘いに乗るのはまた違うのだ。

 というかベネディクタのテンションが高くてこちらの体力が持たないので、あまり積極的に彼女からの誘いには乗りたくない。

 あちこち連れ回されて疲労困憊になるのが目に見えているというか、既に何回か被害に遭っている。


 ……まあ、こんな子供っぽい子を一人で出歩かせて良いのかとはちょっぴり思いますけれど……。



「親である妖精からの加護、バッチリですものね」


「?ええ、当然デス!」



 よくわからないながらに胸を張るベネディクタの全身には、淡く発光している特殊なタトゥーが彫られている。

 植物の意匠にも見えるソレは、加護を肉体に刻むコトで永続化させたモノだ。

 このタトゥーに込められた加護があれば、悪意があろうが無かろうが、その肉体を害するコトは不可能となる。


 ……振りかぶった剣が触れた瞬間、剣先が植物に変わったりしますものね。


 体術の授業などで背負い投げなどをされた場合は地面が植物の絨毯と化すので、彼女は剣術の授業も体術の授業も取っていない。

 というか最初は取っていたが、教師達から無理だと拒否られたのだ。

 そんな感じで、教師に無理と言わせる程強い加護がある為、ナニかがあっても彼女は大丈夫だろう。

 異世界である地球では幼い子に性的興奮を抱いた上に性行為を強要するようなドチャクソヤベェ犯罪者が居たりするようだが、この世界では性欲がほぼ死滅している為、その心配も無い。


 ……つまりわたくしがグッタリしながら付き添う必要はありませんの。



「……うん、まあ、アレですわ。ベネディクタなら一人でも成し遂げれると思いますからわたくしが居なくても大丈夫ですわ」


「でも折角デスし」


「もしかしてベネディクタ、一人じゃ寂しくて出来ないんですの?」


「なっ!」



 自分の言葉にベネディクタはカチンと来たような表情をし、膝から跳び下りた。



「私一人でそのくらい出来マース!ジョゼの意地悪!」



 ベーッと舌を出し、ベネディクタはそう叫んでから談話室を出て行った。

 あの不機嫌さはお菓子でも食べれば回復するのがいつものコトなので、気にする必要は無い。


 ……よし、疲労困憊ルート回避ですわ!





 ベネディクタに季節の花についてを聞かれてからしばらく経った頃、再びベネディクタに突進をされた。



「ジョゼー!」


「ウグッ」



 体術の授業で習った受け流しを応用して受け止めたお陰で、倒れこむのは回避出来た。



「いきなりナンですの?ベネディクタ」


「実はデスね!花がとってもベリーベリー綺麗に咲いたんデスよ!見に行きマショー!さあさあ!」


「ちょ、ホントいきなり過ぎますわよ!?」



 オッケーは出していないというのに、グイグイ腕を引っ張ってくる。

 あととってもとベリーで意味が重複していると思う。



「というか、ナンでわたくしなんですの?」


「だってジョゼ、私一人で出来るのかって言いマシタ!だからやり遂げたのを見てもらいマース!私一人だって出来るんデスよ!」



 ……ああ、成る程。


 どうやら、意外と根に持たれていたらしい。





 ベネディクタに腕を引かれて連れてこられたのは、廃墟と言える館だった。



「ここデース!」


「えー……」



 ヒトの気配が無く、生き物が住み着かなくなって久しいのだろうと察せる廃れ具合。

 柵など錆び付いてキィキィ音をさせているというのに、ベネディクタはソレを気にする様子も無く敷地内へと入っていく。



「どうデスかジョゼ!?私の力作の花達デス!」


「ワー……」



 館の周辺にある花壇には、とても綺麗に花が咲いていた。

 それぞれがバランス良く配置されているのがわかる。

 が、問題はソレ以外だ。

 花壇はとても美しく手入れがされており、生気に満ち溢れている。

 ソレに対して花壇以外の生気の無さがヤバイ。

 最早笑いを取りたいのだろうかと思う程にシュール。


 ……というか、この館って……。



「あの、ベネディクタ?花壇の花はとてもとっても綺麗で素晴らしいんですけれど、ここの家主に花壇を使用する許可って取ってますのよね?」


「取ってないわよ?」



 ……素でとんでもない返答されましたわー!



「そ、ソコは取っておくべきですわよ!?」


「だってここの家主、全然外に出てこないんだもの」



 頬を膨れさせ、ベネディクタは拗ねたように視線を逸らした。



「……家主、居るんですの?」



 ()る限り生活感が無いので、生き物は住んで居なさそうなのだが。

 いや、だがこの館は恐らく()()館だろう。

 古くから話があるコトから考えると、生き物では無く、しかし魔物として存在している可能性は高い。



「家主はデスねー」



 そう緊張するこちらを気にする様子も無く、ベネディクタは花壇のふちに座った。



「ちょいちょい窓から顔見せてくれるんデスが、外に出ようとしてなくってデスね。そして花壇が酷い有様だったので、花壇を好き勝手して綺麗にすれば引き篭もりだろうと外に出るのでは?と思ったワケデース!」


「名案でしょって顔で言われても反応に超困りますわー……」



 というか誰も彼女がこの館に出入りするのを止めなかったのだろうか。

 いや、止めても性格的に聞きそうにないし、多分無視して出入りしてたのだろう。



「でもでも、ちゃんと家主は顔見せてくれマシタよ!?」


「ハ!?」



 驚く自分に、ベネディクタは指折り数えながらその特徴を口にする。



「まず青い髪にー、顎にフサフサした青いヒゲ生えてマシタ!で、ナンかすっごく叫びながら包丁振りかぶって来マシタ!」


「アウトですわー!」



 包丁はアウトでしかない。

 というか青いヒゲという特徴がもう完全にアウトだろう。



「エー、でもで」



 も、とベネディクタが言い切る前に、自分達の近くに大きな影が落ちた。



「ああ……また来たのか」


「おー!お久しぶりデース!」


「……!」



 ベネディクタが笑顔で話しかけたのは、幽霊のように半透明の男だった。

 貴族のような服を着ているイケメンなおじ様だが、しかしその目は正気とは思えない暗さだった。


 ……というか、手に思いっきり短剣持ってますわ!?


 しかし、悪には見えない。感じない。

 私利私欲でヒトを殺していれば悪だと判断出来るハズだが、自分の体は反応しない。



「何故来た」



 正気の無い目でベネディクタを見ながら、男はポツリと小さくそう零した。



「来るなと言ったのに。来てくれて嬉しい。ああ、今度こそ。会いたくなかった」



 男はブツブツと呟きながら、短剣を構える。

 どうやらベネディクタ以外は眼中に無いのか、こちらにはまったく気付いていないらしい。



「あああああああああ!」



 男が叫んだ。



「ああ!ああ!ああ!君が愛しい!愛している!寂れヒトが寄り付かないこの館に来てくれただけで嬉しかった!花壇を綺麗にし、毎日毎日毎日毎日通ってくれた!窓の向こうから見ている私に微笑み掛けて手を振ってくれたのは君だけだった!」


「キャッ、ちょっと照れマース」



 赤くなった頬を手で包むという乙女チックな照れ方をする場面では無い気がするが、まあベネディクタなら大丈夫だろうという確信から自分は観戦を決め込むコトにした。



「ああ花の似合う君、愛らしい君、妖精のような君を……私は愛している。だから殺す」



 最後の言葉だけ、ゾッとする程に抑揚が無かった。

 ソレまでは感情が篭もりに篭もった声だったというのに。

 そして最後の言葉と共に振り被られたその短剣はベネディクタに触れ、絡み合った蔦へと変化し、男の握力に耐えられずクシャリと潰れた。



「……まただ」



 ポツリ、と静かな声が男の口から零れた。



「何故!何故!何故!何故君は死なない!駄目だ、死ななくては、君には死んでもらわなくてはいけないんだ!私は君を愛している!妻になって欲しい!ならば、だから、私は君という愛しいヒトを殺さなくてはいけない!」


「でも私死にまセンよー」


「ならばどうして来た!!!」



 肌がビリビリする程の大声だった。



「私は君を愛している。愛している。だから殺す。殺さなくては。愛したら殺すのが私だから。だから、だから、誰も愛さないようにと潜んでいたのに。もう駄目だ。私は君に恋をしてしまった。殺すしかない。死んでくれ。死なないならもう私の前に現れないでくれ。どうして来たんだ。どうして殺されてくれないんだ!」


「どうして私が死ななきゃいけないのかワカリマセーン!」



 男からマシンガンのように放たれる言葉に動じるコトも無く、ベネディクタは拗ねた子供のような、または怒った子供のような顔でそう返した。



「……ウッ、ウ、ウゥ……」


「あ、泣いちゃいマシタ」


「泣きましたわね……」



 男は手の中で潰れている、短剣だった蔦をその辺に捨て、へたり込んでしまった。

 へたり込んだまま、男は顔を覆ってさめざめと泣き始める。



「どうして……どうして……」


「どうしてはこっちのセリフデス」



 ……シュールですわー。


 さめざめと泣く男(さっきまで短剣持って殺そうとしてた方)と、怒っている表情の少女(さっき短剣で殺されかけた方)という光景。

 今コレを目撃したヒトはきっとナニが起きたかまったく理解出来ないだろうが、残念なコトに一部始終を見ていた自分もいまいちよく理解出来ていない。

 ナニがどういうコトだ。



「……というか殺さなくてはとか、その見た目とか……アナタ、バルブブルーですわよね?」


「…………」



 自分の言葉に男はシクシクと泣きながらも、確かにコクリと頷いた。



「バルブブルー?」


「童話の一つに、そういう話があるんですの」



 首を傾げたベネディクタにそう説明すると、男……バルブブルーは涙に濡れた顔を上げた。



「……正確には、私はバルブブルーという概念が魔物化したモノだ」


「あー、成る程。通りでヒトを殺したような悪の気配がしないワケですわね」


「どーいう意味デスかー!?」


「グェェ」



 ベネディクタに胸元を掴まれて揺らされたせいで変な声が出た。

 ソッコで手を外させ、一度深呼吸をして呼吸を整える。



「バ、バルブブルーというのは、何度も結婚していながら、結婚相手である女性が毎回行方不明になる男の話ですの。その実態は、結婚相手の女を次々と殺して標本のように部屋の壁に貼り付ける狂人」



 つまりは青髭だ。



「魔物の中には物語などに思いが込められ、本人では無いものの概念として魔物になったモノも居ますわ。えーと……理解出来ます?」


「概念系は無理デース」


「そのようですわね」



 ベネディクタが完全に興味を失う直前の表情になっている。

 このまま難しい説明を続けると、授業中のように紙飛行機を折り始めかねない。


 ……いや、紙が無いので折れないとは思いますけれどね。



「まあ要するに本人では無いけれど、そのお話を元にして生み出された魔物、というコトですわ。そのお話が元なので、その気は無くてもどうしてもそのお話に沿った動き……この場合は好きになった相手を殺そうとしてしまう、という行動をしてしまう、んですのよね?」


「ああ……」



 念の為確認を取ると、その通りなのかはたまた泣き疲れたのか、バルブブルーは静かに頷いた。

 概念として魔物化した為、ゴーストのように半透明。

 そして本人では無いからこそ、まだヒトを殺めたコトも無いのだろう。

 しかしベネディクタに恋をしてしまった為、殺めなくてはと心と体が動いてしまう。

 彼女を殺そうとしていた時の矛盾した言葉は、ソレらが合わさった本心同士の言葉だったのだと思われる。



「んーと……つまり家主というか、バルブブルーは私が好きというコトデスね?」


「そうなりますわね」


「ああそうだ!だから殺したくて殺したくて殺したくて死んで欲しくて死体になって欲しくてきっと死体になった方が美しく永遠のままで」



 ブツブツと言葉を吐き出し始めたバルブブルーをスルーし、ベネディクタはニッコリとした笑顔で言う。



「なら両思いデース!」


「は?」


「は」



 ベネディクタの言葉に自分は思わず低い声で疑問符を浮かべ、バルブブルーは驚いたように目を見開いて息を呑んだ。



「私はバルブブルーが好きで、バルブブルーも私が好きならナニも問題ありまセン!」


「いや、いやいやいや!?」



 ……そう簡単に決めて良い話ですのコレ!?



「あの、アナタついさっき彼に殺され掛けましたのよ?」


「でも私死にまセンよ」


「ま、まあ確かにそうですが」



 バルブブルーの嘆きが可哀想になるくらいには親の加護が強い。



「ソレに」


「!」



 ベネディクタは優しい笑みを浮かべながら、その淡く発光するタトゥーが彫られている腕をバルブブルーの首に絡め、愛しそうにその頭を撫でた。



「私を殺せなくて泣いてるバルブブルーの顔、さいっこうに可愛いデス!」



 ……あ、ソレに惚れたんですのねー……?





 コレはその後の話になるが、あの後二人は当然のようにパートナーになった。

 というか愛しているヒトを殺したくなるからと泣いて拒否するバルブブルーをベネディクタがゴリ押しでパートナーにした感じだった。



「私は君を殺してしまう」


「死にまセンよー」


「いいや、いいや、私はきっと君を殺す。殺そうとしてしまう。愛しているから。その首を絞めて真っ青な色に染めてしまいたい。血の気が引いて冷たくなった君を飾り、愛を囁く。私は君のそばに居ては、必ずそうしようとしてしまう。そうあろうとしてしまう」


「殺せないからその辺気にする必要無いデス」


「……君がそう言ってくれたとしても、君の親はそうでは無いだろう。私は害魔になりたくない。君を手に掛けたい。殺したくない。……こんな矛盾した殺意を抱く男だというのに、受け入れられるハズがない」


「ああもう!私が好きだと言っているから良いのよ!別に反対されたってこの館はバルブブルーの家なんでしょう!?だったら賛成されようが反対されようが卒業後はここが私達の家!私はアナタに殺されないし、後はナニが問題なの!?」


「え、あ…………問題は、無い」



 そんな感じのやり取りだった。

 最後辺りベネディクタの素が出ていたが、丸く収まっていたので良いだろう。

 ちなみにあの館や土地は本当に持ち主が存在していなかった為、ソコに住み着いてたなら、と正式にバルブブルーの持ち家になった。

 申請したらソッコで許可が出たのは良いが、そんなガバガバ管理で良いのだろうか。


 ……まあ、アンノウンワールドですものね。


 ソレで納得出来てしまうのがアンノウンワールドだ。

 そんなコトを考えつつ談話室に入ると、修羅場だった。



「ああ、ああ、ああ!愛おしい愛おしい愛おしい死んでくれ!」



 バルブブルーがベネディクタに振りかざしたナイフは花になった。



「ああああああ何故だ!何故殺されてくれないんだ!生きているだけでこうも私を魅了する美しい君、どうか死んでくれ!死ねば、死んで、殺さなくては……!」


「あーん、もう、本当バルブブルーのその顔さいっこうに可愛いデース!」



 ベネディクタは心底嬉しそうな笑みを浮かべながら、絶望したように泣き叫んでいるバルブブルーを抱き締めた。

 二人がパートナーになってから、コレはよく見る光景だ。


 ……そしてバルブブルーが落ち着いたら静かにバルブブルーの方もベタベタし始めて、イチャイチャするまでがワンセットなんですのよねー。


 最早他の皆も慣れたのか、談話室に居る殆どの生徒がそのやり取りをスルーしていた。




ベネディクタ

子供っぽくて蝶の羽が生えてて全身に淡く発光してるタトゥーが刻まれてて外人みたいな敬語の使い方しててバルブブルーの泣いてる顔が一番好きという濃い少女。

危険な目に遭おうとも加護に守られている為、車道に飛び出す子供のような危うさが常にある。


バルブブルー

青髭の物語を元にして生まれた魔物なので前科は無いが、愛するモノを殺さなくてはという強迫観念がある情緒不安定な魔物。

精神が安定してる時は普通の紳士。


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