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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
八年生
260/300

現実少女とビハインドグレイヴストーン



 彼女の話をしよう。

 物事を物理的に考えたがり、魔物や混血が理解出来ず、この未知に満ちた世界を拒絶している。

 これは、そんな彼女の物語。





 このヴェアリアスレイス学園には、購買がある。

 それぞれ好きに売店だとか購買だとか呼んでいるが、要するに学園内で色々買える場所、というコトだ。



「無理ですもう無理ですもうイヤです……!」



 購買の中に置かれている椅子に座り、机に肘をつきながら顔を覆ってそう繰り返しているのは友人であるトニア。



「いやまあ耐性無い子だとキッツイよなー。俺はそういうのに耐性あるタイプっつかよっしゃー!ってなるタイプだったから良かったけど、いや夢をぶっ壊されるレベルで酷い扱いを受けたから正直言うとあんまりだけど、でもキミよりマシだとは思う」



 トニアの正面に浮きながらそう言うのは、購買の主であるアマンダ店主のパートナー、ヒロイックゴーストだ。

 アマンダ店主は遅めのご飯タイムなので不在だが、トニアからすると重要なのは己とヒロイックゴーストに愚痴るコトなので問題は無い。



「本当に……本当に理解出来ません!」



 淡いピンク色の髪を揺らし、トニアはそう叫んだ。



「ナンなんですかこの世界は!意味がわからない!拒絶しか出来ない!ジョゼとヒロイックゴーストが居たという地球が羨ましい!」



 言い、トニアはワッと泣きだした。



「ナンですか魔法が無い世界って、全てに理由がある世界って……。解明出来て、解明する気満々なヒトに満ちた世界。良いじゃないですか。

空を飛べるのにも理由があって、鉄の塊をキチンとしたカタチに組み立てるコトで動くというとてもわかりやすい世界。羨ましい」


「んー……とりあえず先程の言葉に訂正入れますけれど、わたくし別に地球に居たコトはありませんのよ?

多分わたくしの前世と思われる地球人の記憶がINしてるってだけで、わたくし自身が地球で活動してたワケじゃありませんし」


「俺の場合は更に経緯が複雑だからねー……。

地球で一般人やってたら異世界召喚されて勇者扱い、しかも通販とかいうチートあるぜやったー俺最強!とかやりたかったのに魔王倒せとしか言われないしハーレムパーティが欲しかったのにゴツいおっさんしか手配されなかったしむさくるしいヤツらと一緒に旅するコトになったし王城関係者しか仲間にならなかったってかソレ以外アウトだって言われたし女の子と全然接するコト出来なかったし勇者としてとにかく動け働け戦え倒せとしか言われないし挙句に死んだよド畜生!」



 死んでいる霊体とはいえ一息で言い切るとはヒロイックゴーストも中々に鬱憤が溜まっている。



「もうさ、意味わかんねーよ。チート勇者だひゃっほう異世界スローライフもこのチート能力ならイケる!って俺思ったんだよ。思うじゃん。異世界だし。通販能力あるし」



 今度はヒロイックゴーストが愚痴り始めた。



「なのに魔王と戦うコトになったし。戦ってどうにか勝ったけど魔王の最後っ屁っつーかさ、そういうのでドーンってやられて死んだし。マジあり得ないんだけど。ホント信じらんない。

そしてそのまま死んだかと思いきやまた違う異世界に召喚だよどうなってんだしかも霊体としてよ霊体として!」


「アマンダ店主、召喚魔法がお好きですものねえ」


「そうなんだよしかも下手の横好きタイプで全然成功しねぇのに!俺の召喚だけ完璧に成功させやがって!

良いけどさあのままあっちの世界に居たら霊体だろうとこき使われてた気しかしねぇし!俺の通販能力健在だったから購買として役立ってるし!」



 そう叫ぶヒロイックゴーストに、トニアが挙手する。



「私はそもそも、その召喚魔法とか自体理解不能なんです」


「理解の範疇外なのか、難しくて理解出来ないのか、どちらですの?」


「理解の範疇外の方ですよ!理解しちゃ駄目なヤツでしょうアレ!」



 トニアは机をドォンと強く叩いて叫んだ。



「召喚もそうですが魔法自体がわからない!魔力なんて目に見えないモノをどうして皆認識して、あると信じて、ソレを扱えるのか!」



 己のような目を持っていればその辺にある、普通は目視不可能な魔力が()えるのだが、言うとより一層トニアの心にダメージを負わせそうだから黙っておこう。

 そう思い、お茶を飲む。



「呪文がどうして必要なのか魔力をどうやって魔法に変化させているかもわかりません!」


「前にも言ったように目視出来ないレベルで薄く小さい精霊達に材料である魔力を渡し、呪文という注文を」


「ソレはわかりますが、魔力がどうして魔法に変化するのかがわからないんですよ!魔力であるコトに変わりは無いのに注文次第で炎にも水にも雷にも風にもなるし掃除も出来るし髪を整えたりも出来る!」


「わたくしは髪を整えたりちょっとした掃除したりは自分でやりますけれど、まあ、ルームメイトの血でベトベトになったりしたら流石に魔法使いますわね」


「あああああもう!ルームメイトの血でベトベトになるのが日常みたいな言い方が理解出来ない理解出来ない意味がわからない気味が悪い!

機械は良いんですよ理解出来ますから!ああしてこうしてこうなったら出来るって目に見えてわかりますし」


「……あの、トニア?一応魔法とかにも順序とかありますのよ?」


「物理的に存在しているかどうか不明なモノ全般無理です理解出来ない……!」



 ……うーん、本当にこのアンノウンワールドに肌が合わない子ですわねー……。


 トニアは転生だの異世界の記憶がINだのとは関係無い、生粋のアンノウンワールド人。

 だが残念ながらトニアの価値観はかなり地球寄りらしく、アンノウンワールドだからこその未知が生理的に無理らしい。


 ……目視出来ない魔力が信じられなくて、人間と同じ言語を喋るヒト型以外の生き物が無理で……他にも色々アウトなのが多いから大変ですわ。


 どうも価値観が地球基準のモノに似ているようで、ヒト型以外の生き物、例えば犬の見た目をした犬の魔物が人間と同じ言語を用いるコトすらも生理的にアウトらしい。

 こちらからすれば魔物は魂の声で喋っているから、言語的な部分とは根本的に違うとわかっていて、あと意志疎通がしやすい分この方が良いなとも思っているのだが。


 ……でも、トニア的には無理なんですのよね。


 違う姿なのに同じような言語を用いているのが、理解出来る言語なのが無理だそうだ。

 だからなのか混血もあまり得意では無いらしい。


 ……わたくしは目がちょいとリスっぽいからアレですけれど、見た目普通の人間だからセーフ枠。


 だが下半身が馬だったり、体からキノコが生えてたり、頭部が鳥だったり、というのがアウトらしい。

 ケモ耳系はギリギリセーフらしいが、ソレが動くと駄目だと言っていた。


 ……マジで生えてるのがわかるような動きをされると無理って言ってましたけれど、判定が厳しいったらありませんわね。


 いつだって未知があり、未知を既知にしようとするヒトも居るが、ソレでも未知が無くなるコトは無い。

 寧ろいつだって未知が増え続けているのがこの世界。



「ねえ、ソレだと俺は?俺物理的に存在してないんだけど。ゴーストだし」



 ヒロイックゴーストはごもっともな言葉を吐いた。



「ヒロイックゴーストはまだ、まだ私の頭を理解してくれているから大丈夫です。この世界の常識が無理な私は、この世界の常識を拒絶する異常者ですから。

理解を示してくれている、地球という世界出身だからこそ価値観の共有が出来る……ソレこそが重要なんです」


「異常者って言う程異常者でも無いと思いますわよ?」


「だからより一層イヤなんですよ!常識を否定し拒絶するのは異常者のハズなのに、そっかーそういう価値観かーよくわかんないけど大変だねーで済ませるんですよ皆!あっさりと!理解を放棄する!そして自分達の価値観を説明はしても強制はしない!」


「良いコトじゃない?」


「良いコトではありますが、未知が未知のままであるこの世界をまざまざと見せつけられてるような気分なんですよお!」



 トニアは机に上半身を預けてわんわん泣き始める。

 いつものコトだ。


 ……アレですわよね、ファンタジー履修済みなら楽しめるけど、ファンタジーを好まないヒトからすると鳥肌モノ、みたいな。


 異世界の自分の例えはわかるようなわからないような例えだったが、大体そういうコトだろう。

 本当、トニアはこの世界では無くて地球に生まれていれば幸せだっただろうに。


 ……魔法も使えはしますけれど、魔法という概念そのものを拒絶してますものねえ……。


 ちなみにヒロイックゴーストも異世界には色々と愚痴があるタイプ。

 だからこそトニアが心を開き、こうして定期的に愚痴り会を開いているワケだが。


 ……わたくしの場合、ちょいちょい愚痴を小出しにしてるからか、殆ど聞き役に徹してますけれど、ね。


 ヒロイックゴーストは怒り、トニアは嘆くので様子を見ておく必要性があるのだ。

 しかしトニアはトニアで色々アレだが、ヒロイックゴーストも中々に大変だと思う。


 ……アンノウンワールドに来る前の異世界では相当に大変だったようですし……。


 そしてヒロイックゴースト曰く、このアンノウンワールドはまともに見えて狂ってるからヤバい、らしい。

 主に人肉とか性欲が無い部分とか。


 ……んで、ソレ聞いて異世界のわたくしが頷くんですのよね。


 ま、トニアが一人で鬱憤を溜め込み過ぎて爆発しないのは良いコトだ、というコトにしておこう。





 そんな愚痴り会が定期的に行われるくらいにはトニアの未知への拒絶は強い。

 虫が喋るのも植物が喋るのも無理らしく、最近は皆から少し距離を取って全体に視界を広げフラットにするコトで心を守っている。


 ……うん、まあ、死人みたいな顔色でガタガタ震えてる頃に比べれば、マシですわよね。


 認識しないように心掛けないと維持出来ない心の安定は流石にちょっと同情する。

 この世界、本当に未知しかない世界だし。



「ジョゼ!ジョゼ!ジョゼ!もういっそ私を殺してください!」


「とりあえずわたくし殺しとか専門外なんでそういう依頼はお断りですわ」



 泣きついて来たトニアを抱き留め、その背中を見て納得した。



「よっ」


「あらー……ビハインドグレイヴストーン……」



 トニアの背中に張り付いていたのは、墓石だった。

 背後にずっとペタリとくっついてくるこの魔物は、その墓石に刻まれた名前の主そのものだ。


 ……要するに、ゴーストになるのでは無く墓石に魂が宿った結果、ですけれど。


 しかしこの魔物、恨みを持っている相手にしか取り憑かないハズ。

 主に自分を殺した仇の背にくっつくハズだが、何故トニアの背に居るのだろうか。


 ……トニアは全体的に魔物が無理な子ではありますけれど、恨みを抱かれたりするようなコトはしませんのに。


 犬嫌いだから暴力を振るう、みたいなタイプでは無く、犬嫌いだから自分から距離を取って関わらないようにする、というタイプ。

 何故この魔物がというのはつい先日墓地へと校外学習しに行ったのが理由である可能性が高いが、ソレにしたってトニアの背にくっつく理由がわからない。



「止めてください名前を出さないでコレやっぱり脳みそが生み出した幻覚じゃなくて実際に存在している魔物なんですねイヤァァアアア!」


「どーどー、落ち着きなさいなトニア」



 ビハインドグレイヴストーンが居るから背中を撫でられない為、とりあえず頭をポンポンと撫でておく。



「んで?ナニがあってこうなったんですの?」


「知りませんよ!私が知るワケ無いじゃないですか!もうイヤです!重いし喋るし墓石ですし!」


「ああうん、ホラ涙拭きなさいな……今のはわたくしに非がありましたわ……」



 己の胸に顔を埋めて泣いていたトニアは顔を上げて反論したが、その顔は涙でぐっしょぐしょになっていた。

 制服なら勝手に乾くが、流石に顔をこうもぐしゃぐしゃにしたまま放置は出来ない為、ポケットから取り出したハンカチでトニアの顔を拭う。



「えーと、ビハインドグレイヴストーン?トニアに聞いても無理そうなのでアナタに聞きたいんですけれど、どうしてトニアの背に居るのかを聞いてもよろしくて?」


「うん、構わねえよ」



 ビハインドグレイヴストーンはあっさりとそう返した。



「つか、単純にコイツが末裔で、俺が眠ってた墓地に来たからって理由しかねえけど」


「あー……」


「ジョゼ、ジョゼ、納得しないでください。わかりません。あと平然と墓石相手に会話しないでください。狂います。私が」


「よしよし落ち着きなさいなトニア。アナタの背後に居る誰かみたいな感じに思っときゃ良いんですのよ。喋る墓石じゃありませんわ」


「かなり無理言ってませんか」


「無理言ってる自覚はありますけれど、仮初だろうとそういう風に自分を洗脳した方が幾分かメンタルが楽だと思いますわよ?」


「…………」



 トニアは無言で己の胸に顔を埋めた。

 墓石を意識するのも、墓石では無いと自己催眠するのも拒絶したのだろう。



「……んで、ええと、末裔ってのはつまり……アナタの死因ってコトでよろしくて?」


「おう」



 ビハインドグレイヴストーンはさらりと肯定する。



「元々俺は英雄の仲間をしてた一員なんだ。光の魔法が得意だったんだが、裏切り者によって大量虐殺の汚名を被せられ冤罪により死亡」


「……ふむ、墓石に彫られている名前やその情報からするに、死亡後真実が発覚してちゃんと墓を立てられた方……で合ってます?」


「そんな境遇のヤツは結構居るだろうが、まあそうだな。冤罪で殺されたヤツなら恨みも相当なモンだろう、ってコトであの墓地行きだ」


「アソコ中々に凄いですわよねえ……」



 ヤベェ死因だったヒト達が葬られている場所だったし。

 ただ()えたゴースト達は皆謎にカラッと乾いていて、湿度や怨念のようなモノは無いように()えた。


 ……当時から狂人が居たのでしょうね。


 そして狂人だからこそ異常と判断され始末された、とかあり得そうだ。

 狂人なら自分の命にすらあんまり頓着していないとしてもおかしくはない。



「ちなみにアナタ、どうもトニアに恨みが無いようですけれど、実際のトコロは?」


「うん、恨みとかねえよ?別に」


「む~~~~!」


「トニア、わたくしの胸に顔埋めたまま叫ばないでいただけます?」



 恨みが無いなら何故取り憑いたと叫んだようだが、布によって完全に声が殺されていた。



「でも実際、何故ですの?恨みを持っていてもおかしくありませんのに」


「んー、まあ、コイツの祖先であり俺を嵌めたヤツな、脅されてたんだよ。やむを得ない理由ってのが二重三重、と重なってたからな。

アイツは守るべき沢山の為に仲間の俺を切り捨てたワケだが、俺の方は仲間もそこまで守るべき対象とは思ってなかったし、まあ良いか、と」



 その声色は、本心から語っているように聞こえた。

 元が生者ではあれど表情が()えるゴーストと違い、無機物系な墓石である分、ソコまで見抜けはしないけれど。



「ソレにアイツはずっと後悔してて、縛られてた色々が解決した後、責任取って自害をしてる。

思い入れがあるかっつーと微妙だけど、仮にも仲間だったワケだしな。裏切られて死にはしたけど、切り捨てられやすい人格である自覚はあるから、まあ別に、って感じだ」


「あっさりですわねえ……」



 酷くサッパリしているしカラッと乾いているしとても薄味。

 自分の命にも仲間との関わりにもそう興味が無い辺り、確実に狂人。


 ……うん、まあ、普通ならやせ我慢とか、そういうコトにしておこうっつって実際はまあまあ思い入れがあるとかありそうですけれど……。


 イージーレベルとはいえ己も狂人なので、そのくらいはわかる。

 常識人とアルティメットレベルの狂人は区別が付きにくいが、このくらいなら余裕だ。


 ……確実に、狂人だったのでしょうね。


 心の底から本気でソコまでの興味が無かったのがよくわかる。

 もし思い入れがあるのを隠しているなら、ここまでカラッとした声にはならない。


 ……思い入れがあるなら、当時を思い出すような、ほんの少しのしんみり感がありますもの。



「寧ろ冤罪を信じて暴言吐いてきたり石投げて来たその他大勢の方が殺したい」


「あ、ソレはちょっと理解出来ますわね」



 先程までと違って大分マジな声色だったので、己も素直に本心から賛成した。

 情報を鵜呑みにしてあっちへふらふらこっちへふらふらする日和見菌の腹立たしいコトよ。


 ……しかも日和見菌程厄介ですものね!


 無関係の一般市民だからこそ面倒だし、そういうタイプは勝手に裏切られたとか信じてたのにとかほざくのだ。

 そして石とかを投げるし、かと思えば今までのが嘘だとわかった途端に手の平を返して信じてたよとほざきよる。


 ……んな対応されたら、テメェがこっちを信じてようがこっちからのテメェへの信用も信頼もへったくれもありゃしねえんだよ、ってなりそうですわー……。



「だがまあその他大勢を一人一人覚えてられる程興味も無いから復讐する気も無いし、わざわざそんなコトすんのも面倒臭いし、でも墓地の光景にも飽きてきたら……なんと俺を生け贄にしたヤツの末裔が居た。

しかもクラスメイトが棺桶に食われたのを見てかなり動揺してたから、コレはからかい甲斐があるぞよっしゃ良い暇潰し見っけ!って思って」


「ああ、エロワとテイクインコフィンの……」



 あの時己は実況などに忙しかったが、思い出してみると確かにトニアは動揺しているように見えた。

 動揺というか、棺桶が動いているコト、喋っているコト、魔物であるコト、エロワが取り込まれたコト、他のメンバーが結構落ち着いているコト、エロワも落ち着いているコト、人外の方がまともな反応をしているコト、に混乱しているようだったが。


 ……うん、まあ、常識人でも狂人達の思考には慣れてる分スルーしがちですけれど、そういうアンノウンワールド的価値観の中で生きてませんものね、トニアって。


 スルー出来ない異常な事象に混乱していたのだろう。

 そしてその動揺っぷりはからかい甲斐があると判断された、と。



「まあ移動時にこうして背中に張りつくだけで、自室の中ならちゃんと床に居るから安心しろよ。このままじゃ着替えも出来ねえだろうしな。あと風呂とトイレも一旦離れて出入口で待機すっから」


「…………」


「ただしこっそり違う出口から出たとしても、逃亡したらその瞬間テレポート的な感じでお前の背中にまた張りつくからな」


「ナンでわかったんですか!?」


「いやわっかりやすい無言だったし、背中に張りついてる分動きで結構わかるし、そもそも俺英雄とされてるヤツと同じパーティに所属してたからな?ある程度の実力はあるっての。裏切られたし死んでるけどな」


「ぐっ」


「えーと、ビハインドグレイヴストーン?その裏切り者の末裔相手にはあんまり言わない方が良いと思いますわよ?」


「……そう言うワリには、お前も中々歯に衣を着せない言い方のようだが」


「エ?」



 ただの事実でしかなく、ソレをやったのはご先祖であってトニアじゃないから別に良いと思うのだが。

 別人だし、トニア自身に責任無いし。





 コレはその後の話になるが、ビハインドグレイヴストーンは今もまだトニアの背中に張りついている。



「今日もまた理解不能でした。人形が動くとか理解出来ない。せめて操り糸があればまだ、まだ……!」


「いや、っていうかあの、背中の墓石ナニ?」


「魔物です」


「魔物なのに大丈夫なの?」



 ヒロイックゴーストの言葉に、トニアは乾いた笑みで答える。



「視界に入らなければまだマシなんですよ。重いだけで。時々変なビーム放って雲を晴らしたりしますけど」


「アレは怒られたからもうやらねーよ。ったく、生前の俺の十八番だってのにな。雨が続いて大変な場所とかではとびきり役立ってたんだぜ?」


「背中からいきなりビーム放たれる気持ちがわかりますか?」


「お前のご先祖様であるアイツは、仲間を裏切ってでも助けようとしてくれた存在に対してヒトはどう思うのかわかってたのかね?」



 気持ちがわかるかという問いに対し、お前はこういった奴らの気持ちがわかるかい?とばかりの問い掛けでビハインドグレイヴストーンは返した。



「自分の命を優先してくれたんだという自己中心的な喜びを得るタイプなら良いが、ヒトによってはアイツ本人のように、良心の呵責に耐えられず自害するだけだろうに。

なけなしの良心なんか持つから駄目なんだ。なけなしだから心が折れる。もっと図太く生きろよな」


「私に言わないでください」


「俺ナンにもわかってないけどとりあえずその墓石に入ってる魂の仇、の子孫?で合ってる?」


「合ってます」



 トニアを指差して確認するヒロイックゴーストに、トニアは頷いた。



「魔物とか基本的に無理なのに大丈夫?無機物系魔物が喋るのもアウトじゃなかったっけ」


「ただもう色々諦めたのと、まだ物質的にあるだけ良いかな、って……。

背後の不審者教えてくれますし、撃退もしてくれますし、元々優れた魔法使いだったからか勉強教えてくれますし、墓石に声を発させるナニかが取り付けられてるんだと思えばメンタル的にはまだマシですし……」


「うーん……というかこう、無理矢理引き剥がすとか無いの?エメラルドなら対ゴースト系に特化してるじゃん」


「わたくしに頼らないでくださいまし、ヒロイックゴースト」


「でも仕留めれるよね?」


「あの世にシュートするだけなら」


「ほら」


「…………でも」



 お茶を飲みながら、トニアは軽く目を伏せた。



「でも、殺したのは私の先祖ですから。ならある程度はお相手しなきゃ、ですよね」


「俺は別にお相手しなきゃってつもりでお相手されるつもりはねえんだけど?」



 ビハインドグレイヴストーンは、ニッと笑っているかのような声色で言う。



「俺はお前がアイツの末裔だからって理由で取り憑いたんじゃなくて、アイツの末裔で、尚且つ反応が面白そうだから、からかう為に取り憑いたんだ。んな殊勝な態度をとられてもな」


「……つまり、そういうのはお好みで無い、と」


「おう。まあ、好みじゃなくてつまんねぇからって理由で去る気は無いからお前の頑張り、あんま意味無いぞ」


「ジョゼ!」


「あっはい」



 トニアはギッと目を吊り上がらせて叫ぶ。



「この魔物一発仕留めちゃってください!」



 言いながら、親指で首を切るジェスチャーをしていた。

 どうやら興味を失って貰おうと色々頑張って我慢していたが、無意味だったというコトがわかって殺意へと変化したらしい。



「あはは!そうそう、そういう元気さと拒絶感を出してくれた方が楽しくて良い!俺はそっちの方が好きだぜ!」


「私は嫌いです!魔物である時点で!私の価値観が通じない時点で!」


「価値観なんて個体差さ、そうだろ?」


「知るか!離れろ!ジョゼやっちゃってください!」


「あっははは!いやあコレコレ!こういうやり取りがあってこそ取り憑いてるって感じだよなあ!」



 とりあえず、本魔に成仏する気が無くて悪でも無い以上は強制あの世シュートは出来ないと伝えよう。

 基本的に戦闘系天使は神の価値観においてアウトなのを仕留めるだけなので、そういう前提無しな上での独断や自己判断での処罰は天使の規則的に無理なのだ。




トニア

ファンタジーに適応出来ていない思考の持ち主であり、大体をよくあるよくあるとスルーする現代の価値観が理解出来ない。

非現実的、というかファンタジー特有の価値観などに拒絶感を覚える程に無理。


ビハインドグレイヴストーン

幽霊では無くて、墓石そのものに魂が宿っている魔物。

本来は復讐心燃え滾らせている魂が仇やその親族の背にくっつくが、彼の場合は復讐心など湧き上がらない程にカラッとしている為、本当にただ暇潰しの為だけにトニアの背にくっついている。


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