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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
八年生
255/300

爬虫類少年とバーンアイス



 彼の話をしよう。

 遺伝で見た目がかなり爬虫類で、変温性で、寒いのも暑いのも苦手。

 これは、そんな彼の物語。





 自室にやってきたバルドゥルをソファに座らせる。



「紅茶でもよろしくて?」


「構わなくて良い」


「そーゆーワケにも行きませんわ」



 そう言い、とりあえず拒絶はされていないし、と紅茶を淹れる。


 ……んー、フラにはちょいと申し訳なかったかもしれませんわね。


 バルドゥルは顔のパーツこそ人間的で、髪の毛だってあるものの、全体的に鱗に覆われていたり爪が鋭かったりとビジュアルがかなり爬虫類。

 そしてビジュアル通りというか、変温性なのだ。


 ……暑さにも寒さにも弱いのが大変ですわ。


 しかも己の今年のルームメイトは、感情によって周囲の温度を上げてしまうフラである。

 物凄く相性が悪い。


 ……まあ、フラ自身あまり誰かと一緒に居るのを得意としてないからか、自主的に部屋を出てくれましたけれど。


 しかし彼女、あまり外に出ないタイプなのに外出て大丈夫なんだろうか。

 サウンドストールがそばに居るとはいえ、迷子にならなきゃ良いのだが。


 ……そん時は迎えに行くとしましょう。



「はい、紅茶」


「感謝する」



 適温で淹れられた紅茶を飲み、バルドゥルはゆるりと目元を緩めた。

 カップが置かれると同時、黒みを帯びた赤い鱗と同じ色の髪が揺れる。



「相談があるんだ」


「お帰りはあちらですわ」


「待て待て待て」



 ピッと親指で扉を指差せば、慌てたように待ったをかけられた。



「いきなり笑顔で突き放すな。驚くだろうが」


「好きなだけ驚いときゃ良いじゃありませんの。んでもってわたくし相談室なんざ開いた覚えありませんわ。ダグラス保健体育教師の相談室行きなさいな」


「いや、魔物に詳しいジョゼフィーヌに聞きたいというか」


「フランカ魔物教師に言いなさいな」


「あとジョゼフィーヌに魔物関係の相談をすると素敵なパートナーに恵まれるというジンクスが」


「独り身相手によくまあそんなジンクス背負わせれますわねー……」



 何故己は独り身のままなのに、己に相談したメンバーはパートナーと結ばれるのか。

 まあ運命的に距離が近かったんだろう、多分。


 ……でもマジで困りますわ。


 相談室扱いもイヤだが、キューピッド扱いに比べたらマシ。

 けれどそもそも相談室開いた覚えなんて無いし、己は戦闘系天使の娘であり翻訳家。


 ……つまり相談受けるとか、わたくしの仕事じゃないと思うんですのよね!


 しかしフラに自室から出て行ってもらっておいて、ソッコでバルドゥルを追い返すのもナンだ。

 面倒だが仕方あるまい。


 ……早めに終わるコトを期待しときましょう。



「で、相談というのは?」


「実は先日、森でうっかり昼寝をした結果日が落ちてしまったんだ」


「アナタの場合ソレ相当にヤッベェ状況じゃありませんの?」


「ああ、とてもヤバかった。温度が下がっているせいで体が上手く動かせずどうしたものかと」



 思い出しているのか、バルドゥルはその身をぶるりと震わせた。



「だがその時、彼女が現れた」


「彼女?」


「バーンアイスと名乗る、雪の結晶のような姿の魔物だった。起き上がるコトすら出来ない私を見つけた瞬間、慌てて駆け寄って……いや足は無いのだが」


「とにかくソッコで様子を確認してくれたと」


「そう」



 バルドゥルはコクリを頷き、再び紅茶を飲んで喉を潤す。



「そしてこう、結晶部分から氷を出して、渡してくれた。とても暖かい氷を。氷なのに、ソレこそ湯たんぽのような温かさだった」


「……まあ、バーンアイスならそうでしょうね」


「ソレだ」


「ドレ?」



 ピッと指を差されたが、ナニを言いたいのかわからず首を傾げる。

 というかヒトを指差すな。


 ……まあ人差し指だから、ヒトを差すのはある意味合ってるっちゃ合ってる気もしますけれど、ね。



「私は彼女について、知りたい。助けてくれた彼女のコトを知りたいんだ」


「本魔に聞きゃ良いじゃありませんの。同じ場所に居りゃ会えるんじゃありませんこと?」


「いや、その、ソレはまだ早いというか……」



 早いも遅いも無いと思うが、バルドゥルは顔を赤くしていた。

 顔も鱗に覆われているので本当に赤いかどうかと言うと黒みを帯びた赤い鱗なのである意味赤さはあって間違いではない。


 ……というかわたくしの場合、鱗の向こう側も()えますし。


 サーモグラフィーの如く()るコトだって可能なのが己の目。

 鱗があろうがなかろうが、バルドゥルの顔周辺に熱が溜まり赤くなっているのが()えている。


 ……上っ面に出て無かろうが、関係ありませんわ。


 この場合表面の面部分についてを言っている上っ面だ。



「……バーンアイスというのは、つまりは燃える炎ですわよね。氷でありながら熱血な性格が多いのが特徴ですわ」


「ああ、そういえば」



 心当たりがあるのか、バルドゥルは納得したように頷いた。



「興奮すると周囲の水分を凍らせてメキメキと氷を出現させちゃう魔物ですし、基本的にソレは冷たい氷。けれど任意で温かい氷にするコトも可能なんですの」


「ふむ」


「以上」


「エッ」


「マジでそのくらいしかわたくし知りませんもの。図鑑とかにもそのくらいしか載ってませんし。気になるなら本魔に聞きなさいな」


「いや、だからソレは」


「バーンアイス、お喋りだったでしょう?」


「ソレはもう」



 ……でしょうねえ。


 バーンアイスは中身がかなり熱いタイプ。

 そしてぐいぐいお喋りしてくる性格なので、聞けば答えてくれるだろう。



「聞きゃ答えてくれるでしょうから、そちらに聞きなさいな。んで気になるならそういうトコから距離縮めりゃ良いんじゃありませんこと?」


「そ、ソレは……その、確かにバーンアイスはお喋りだったし、優しかったし、私が動けるようになるまで話をしてくれていたりもしたが」



 ……わたくし、別に優しい云々は言ってないんですけれど。



「だが私は見ての通り爬虫類系だ」


「ソレが?」



 体の一部がスケルトンだったり、体のあちこちからトゲが生えていたり、見た目獣人だったり体が水で出来てたりと混血なんてそんなモン。

 見た目が爬虫類でちょっと変温性な程度がどうしたというのか。



「私は暑いのも寒いのも苦手な体質で」


「そりゃそうでしょう」



 バーンアイスならその辺臨機応変に対応可能だと思うが。


 ……というか。



「ソレ、アナタがバーンアイスに恋した結果臆病風に吹かれてへっぴり腰になってるだけですわよね」


「もう少しオブラートに包んでくれないか狂人」


「オブラートは品切れしてますのよ」



 というか狂人は狂人でもイージーレベルの狂人なのだが。

 あとそう女々しい反応を見せられると、狂人の方が良いんじゃないかとも思えて来る。


 ……狂人の場合、そういうもだもだがほぼ無いから会話がスムーズなんですけれど。


 常識人は色々と考え込み過ぎてちょい面倒。

 自分の思考に自縄自縛されているの、どうにかならんだろうか。


 ……別にソコまでなら面倒でもナンでもありませんけれど、その状態で他人に意見求めて来るのがクソ面倒なんですのよね!


 あーだこーだ言うクセに、己が「じゃあ諦めれば良いんじゃありませんの?」と言えばでもでもと言うのだろう。

 答え出てんじゃねえかと主張したい。


 ……後押しして欲しいのはわかりますけれど、どういう後押しが良いのか具体的に言ってくれないとわかりませんわー……。


 狂人に他人の心を察する能力を期待しないで欲しい。

 わかってても話が早く終わる方を優先しがちだから狂人なのに。



「とにかく、わたくしに期待しないでくださいな。テメェが惚れた相手ならテメェで射止めろってヤツですわね。他人からのアドバイスなんざ虎の威を借る狐もいいとこですわ」


「正論だが過剰な程に口悪いなソレ」


「わたくしに相談するってのはそういうコトですのよー?」


「…………それもそうか」



 事実だし自分で言ったコトとはいえ、その言葉に納得したように頷かれるのは大分もやっとした。





 コレはその後の話になるが、バルドゥルはどうにかバーンアイスを口説き落とした。

 尚この「どうにか」はバーンアイスを口説くのが大変だったとかではなく、腹を中々括らねぇバルドゥルがもだもだした分である。


 ……や、もう、ホントいい加減にしろってなりましたわ……。


 思ったより己に堪え性が無いのがよくわかった。

 だが誰でも耐えられないと思う。


 ……毎日毎日女々しい相談持ち掛けられりゃ、誰だって辟易しますわよ……!


 別に女々しいのが悪いとは言わないが、ぐだぐだぐだぐだと蛇行すんなお前ちゃんと足あんだろ、みたいな感じ。

 あと答えが出てるけど出てないみたいな言い方で自分から立ち止まってるクセにヒトに相談して巻き込むなや、とも思う。


 ……辛辣だとは我ながら思いますけれど、毎日平均二時間も拘束されてりゃ辛辣にもなりますわ。


 その間、フラは自室から出るコトになるワケだし。

 外出理由になるのは良いが、己の時間が二時間拘束されるのはホント勘弁してほしい。


 ……勉強の時間読書の時間仕事の時間その他諸々が二時間削られますもの。


 しかも身の無い相談で。

 せめて身のある相談をしてくれたならまだここまで辛辣にはならなかったのだが。

 さておき、限界が来た己はバルドゥルをバーンアイスのトコまで連行した。


 ……ええ、もうマジで限界だったから仕方ありませんわ!


 玉砕するかもとか考えてぐちぐちぐだるくらいなら玉砕して来い、とバルドゥルを担いでバーンアイスの前に転がしたのだ。



「あらら!?一体どういうナニがあってそうなったのかまったくわかりませんけれど大丈夫ですか!?というかアナタ前に低体温状態で動けなくなってた子ですねお久しぶりです!

あの時はわたくしの長いお話に付き合って下さりどうもありがとうございました!ソレでアナタ何故担がれ転がされるような事態に!?」



 幸いバーンアイスが女子に担がれる男を見て幻滅するような女性では無かったので色々セーフ。

 スタートこそアレだったが、バルドゥルもあわあわしながら返答していたので、ちゃんと会話にはなっていた。


 ……バーンアイス、お喋りだけどちゃんと促してはくれてましたしね。


 そしてまた会う約束をして己の仕事は終了、と思いきやバルドゥルは想像以上に面倒臭かった。

 約束はしたが社交辞令じゃないかとか云々やかましく、結論から言うとどうやら自分から待ち合わせ場所に行くには勇気が足りないようなので、面倒臭ェなと思いつつまた担いで連れて行った。


 ……本当に!吹っ切れるのが!遅いんですのよ!


 しかしまあパートナーになってからは完全に吹っ切れたのか、そういう面倒臭さは大分ナリを潜めたので良いと思おう。

 厄介な子が巣立って一段落した親鳥の気分だ。


 ……世の中にはそういう厄介な子を抱えてる親程空の巣症候群とやらになるそうですけれど、わたくしは爽快感しかありませんわね。


 というか他にも厄介な子という名の友人達が多いせいもある気がする。

 卒業後は隠居しながら翻訳作業、みたいな感じでゆっくりしたいものだ。


 ……我ながら枯れてますわねー……。



「あらちょっと厨房でバイトしてたら行き倒れ!?」


「さむ、さむ、さむ……」



 食堂の椅子に転がっているバルドゥルを見て、バーンアイスは驚愕の声を上げていた。

 バーンアイスは最近、温かい氷や冷たい氷などを厨房に卸すというバイトをしていて、その間バルドゥルは食堂で待っているのだ。


 ……ま、今日は色々ミスったようですけれど。


 まず小さめとはいえアイスを食べて少し体が冷えていたのが一つ。

 そしてその後ろの席に、氷系の混血であるリュシーが座っていたのがもう一つの原因だろう。


 ……普段なら、リュシーと多少接触するくらいは問題無いんですけれどね。


 今日は少しとはいえアイスを食べていたのがアウトだったらしく、バルドゥルは椅子の上に転がり震えていた。



「寒いのと暑いのどちら、って寒いんですね!それではわたくしがバーンと温めて差し上げましょう!バーンアイスだけに!」



 そう言ったバーンアイスは、周囲の水分から温かい氷を作り出し、バルドゥルの周囲を囲む。



「……暖かいのに、冷たいな」


「まあ氷ですからね。あら?でもそれは温かい氷だから冷たくは無いと思うのですが……調整間違えましたかね」



 恐らくバーンを掛けたギャグに震えているだけだと思うが、指摘はしないでおこう。

 食堂に居る金の神がそのギャグに結構ウケているようなので、天使はソレを否定しない。

 神は言葉遊びのようなギャグを好むのだ。




バルドゥル

遺伝で見た目がかなり爬虫類であり、生態的にも変温性の為気温の変化に弱い。

実は体温が低いと寂しがりに、体温が高いとだらだら絡んでくるようになる。


バーンアイス

見た目は雪の結晶という美しい姿だが、中身は熱血系のお喋りさん。

興奮すると周囲の水分をパキパキ凍らせてしまう時がある。


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