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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
一年生
25/300

メイドとワーキングキャンドルスタンド



 彼女の話をしよう。

 貧乏で、天涯孤独で、今は我が屋敷でメイドをしている。

 これは、そんな彼女の物語。





 学園では長期休みが年に数回ある。

 殆どが寮で生活するので、報告やらナンやらの為に生徒達が帰るのだ。

 そして遠距離なので移動に時間が掛かる生徒もおり、そんな生徒の為に長期休み、となっている。


 ……まあ、別に帰らなくても良いんですけれどね。


 教師は学園内に研究室も自室もあるから、と学園から実家へは帰らない。

 というか最早学園が家状態だ。

 なので学園に居残る生徒もそれなりに居て、姉もその一人だった。

 その間授業などは教師に頼めば教師の気分次第で受けれたり受けれなかったりするし、長期休みの間に研究に集中する教師に頼まれてバイトを受ければ時間潰し兼お金稼ぎも出来る。

 まあ要するに帰るも帰らないも自由、というコトだ。

 というワケで自分は普通に帰宅した。


 ……とは言っても、長期休みで定期的に帰ってるので、あまり懐かしい感じもしませんわね。


 学園で毎日勉強したり友人達にナニかを頼まれたりと充実した時間を過ごしている分、ソコまで時間が経ったようにも思えない。

 だが完全なるオフというのは心地良いモノで、メイドが毎日掃除をしてくれていた自室のベッドに寝転がる。



「穏やかですわー……」



 ルームメイトであるヒナコと獅子が居るのには慣れたし、良い子達なので嫌でも無い。

 だが自室に居ようと頼みごとをされるコトが多い身としては、こうしてゆったりと力が抜ける場所があるのは嬉しいコトだ。


 ……パートナーが居れば、ドコであろうと力が抜けるのかもしれませんけれど。


 しかし残念なコトに自分にパートナーは居ない。

 兄にも、姉にも、そしてまだ入学するには若い弟にすらパートナーが居るというのに、何故自分だけ居ないのだろうか。

 アレか?星の巡りか?星の巡りなのだろうか?



「……星の巡りじゃ仕方ありませんわね」



 無理して適当な魔物とパートナーになったところで、バツが付くだけに終わるのは子供でもわかるコトだ。

 つまりその時が来るまで待てば良い。

 幸い両親は恋愛結婚だし、血脈云々は気にしないタイプだ。

 兄は兵士になったし、姉は自由奔放な旅好きなのでアレだが、家は弟が継いでくれるから大丈夫だとも思う。

 自分には居ないがそれぞれパートナー居るし。

 パートナーが居て同意があれば誕生の館で子供も作れるので、自分が独り身なのはそこまでの問題でも無い。


 ……というか、普通パートナーが出来るのは十歳から十八歳までの間が多いらしいので、わたくしまだ別にセーフですわ。


 結婚適齢期に入って周囲が結婚し始めたので焦ってきた女性とはこういう気持ちなのだろうか。



「あーもう、一人だとどーでも良い思考しか出来ませんわね」



 起き上がり、ハァと溜め息を吐く。

 折角ゆったりした時間だというのに、時間を無駄にするような思考に捕らわれていてはつまらない。

 しかし両親はデートに行ったし、弟もパートナーを抱えてお出かけだ。


 ……お兄様は仕事で帰って来てませんし、お姉様も学園に残ってますし……。


 だがまあメイドや執事という使用人が居るので一人というワケでは無い。

 忙しそうなら手伝えば良いし、時間が余っているようならお茶にでも付き合ってもらおう。

 そう決め、久々に着たドレスの裾がシワになっていないかを確認してから部屋を出る。





 部屋を出て少し歩けば、すぐに第一村人ならぬ使用人を()つけた。



「フレデリカ」


「おや、お嬢様ではありませぬか」



 空き部屋である一室でナニかを磨いていたメイドのフレデリカは、その鈍いピンク色の髪を揺らして振り向いた。



「どうかされましたか?」


「暇なので探検ですわ」


「それはそれは」



 フレデリカは微笑ましいモノを見るような目でクスクス、と笑った。



「探検はよろしいですが、もし外出するならキチンと言っておいてくださいね?このフレデリカの命を救ってくれたエメラルド家のご息女の身にナニかあったら、私は混乱のまま身投げしますよ?」


「どーいう脅しですの」



 浮かべている笑みからして本気では無いだろうと思い、苦笑を返しておく。

 彼女、フレデリカはかつて貧乏だった上、天涯孤独だったらしい。

 そして飢えて倒れていたトコロを拾われ、我がエメラルド家のメイドになったとか。


 ……わたくしが生まれた頃らしいので、フレデリカは結構なベテランメイドですわねー。



「ところでフレデリカ、ナニを磨いてるんですの?……燭台?」



 フレデリカが手に持っていたのは、年代モノに見える枝付きの燭台だった。



「ええ、実はコレ、倉庫整理をした時に見つけたのですよ」



 自分が隣に座ったのを確認してから、フレデリカは燭台を磨くのを再開した。



「磨けばまだ使えそうだと思って見ていたら、欲しいならあげますわ、と奥様が」


「あー、言いそうですわね」



 母はその辺結構雑だ。

 大事にするモノは大事にするが、母はキホン的にそのモノに込められた想いや思い出の方を大事にする。

 なのでただの高級品だとかにソコまで興味を持たず、欲しがるヒトが居ればそちらに渡す。


 ……わたくしのプレゼント癖、お母様の遺伝もある気がしてきますわね。



「お母様が「フレデリカは長いコト頑張ってくれていますから、このくらいは当然ですわ。寧ろ、これくらいしか返せないのが申し訳ありませんわね」って言ってるのが目に浮かびますわ」


「あ、完全にその通りです」


「やっぱり」



 どうやらセリフが完全に一致していたらしく、二人でクスクスと笑い合った。



「ソレにしても……」



 じ、と自分はその燭台を()る。



「ソレ、魔力強めですわね」


「え、そうなのですか?私にはよくわかりませぬが……魔道具でしょうか」



 自分の目はあくまで篭もっている魔力や魔力の流れが()えるという程度なので、ソコまではわからない。

 どこのブランドかまではわかるが、ソコ独特の仕掛けみたいのは見抜けない感じに近い。



「んー……魔道具の場合、もっと独特の印が刻まれてたり、魔力の流れがあったりしますわ。でも()た感じ悪い気はしませんし、魔力も眠っているのに近いので……問題は無いと思いますわよ」



 パソコンなどの電源を入れるように、ナンらかの条件をクリアすれば発動する気がするが、ソコまではよくわからない。

 曖昧な自分の言葉に対し、フレデリカは安心したように微笑む。



「そうですか。お嬢様が悪い気を感じないというのであれば、ナニかわからずとも大丈夫でしょう」


「そ、ソコまで信頼されても困りますわよ?」


「うふふ」



 笑って誤魔化されてしまった。

 確かに自分は天使である父の要素もあるので、悪をサーチする能力は高い。

 特に父は戦闘系天使でもあるので、他の天使よりも悪に対する殺意が高めなのだ。


 ……まあ、お父様に対する信頼でもあると考えれば……。


 そう考えている間に、フレデリカは枝付きの燭台を磨き終わった。



「よし、綺麗になりました!やはり良い道具というものは、磨けば美しくなるモノですね」


「フレデリカ、よくそういうの貰ってきますものね」



 フレデリカはかつて天涯孤独の上に貧乏だったからか、領民のヒト達からよく不要品を貰ってくる。

 不要品といってもまだ使えるような中古を貰うコトが多く、そしてソレらを使えるようにして、使えないくらいになるまで大事に大事に使うのだ。

 自分の言葉に、フレデリカは照れ臭そうに笑う。



「だって、勿体無いではありませぬか。お嬢様だって、新しいのを買うよりは修復して使う派でしょう?」


「まあ……そうですわね」



 破れたハンカチは新調せず、ララに修復してもらった上で刺繍をしてもらったお陰で、元よりも素敵なハンカチになった。

 他にも身長が伸びて着れなくなったワンピースなどは、ルームメイトであるヒナコが丁度良いサイズなので良かったら、と渡している。

 学園ではキホン制服だが、王都を出歩く時は私服も多いのだ。

 しかしドレスでは動き難いのでワンピースを着用するようにしているお陰で、ヒナコは申し訳無さそうにしながらも受け取ってくれた。


 ……ヒナコも少し背が伸びて服がキツくなっていたみたいですしね。


 ホントは新しい服の方が良かったかもしれないが、高級品というコトで見逃して欲しい。



「早速私は自室に戻ってコレを試しに使おうと思いますが、お嬢様はどうされます?もし時間があるようでしたら、是非ご一緒に」


「良いんですの?」


「ええ、今は自由な休憩時間ですし」



 ニッコリと笑うフレデリカの笑みには、社交辞令などカケラも()えない。

 まあ彼女は昔からキチンと自分に向き合ってくれているので、そんな心配をしたコトは無いが。


 ……わたくしが暇してたから、誘ってくれたのでしょうね。





 フレデリカの自室まで移動し、枝付き燭台を置く。



「えーっと……」



 マッチが無かったのに気付いたのか、フレデリカは魔法で火をつけるコトにしたらしい。

 呪文を考えているのか、額に手を当てて眉間にシワを寄せる。



「……薄く飛び交う炎の気。ソコのロウソクを飾りつけよ」



 フレデリカが呪文を唱えて魔法を発動した瞬間、燭台にセットされたロウソク三本ともに火が付いた。



「アッ」



 そして、()えた。

 火が付いたと同時に、内側で眠っていた魔力が、まるでせき止められていた水が流れ始めたかのように動き始めたのを。



「……え?」



 見ていたフレデリカがキョトンとした表情で枝付き燭台を見た。

 しかしソレも無理は無い。



「ふあーーーあ」



 何せ、その枝部分が腕のように動き、燭台が欠伸をしたのだから。



「……お嬢様、コレって……」


「魔物ですわねー……」



 ボックスダイスの時に気付けなかったのは意識をしていなかったからだと思っていたが、どうやら自分の目では、眠りについている無機物系魔物は見抜けないらしい。





 無機物系魔物には、寿命が無いコトが多い。

 劣化などは当然するが、その度直せば問題無いのだ。

 テセウスの船のように修復をし続ければ維持され、しかしテセウスの船とは違い、意思はそのまま保ち続ける。

 ソレが無機物系魔物だ。

 そしてもう一つの特徴として、無機物系魔物は冬眠のような状態につくコトがある。


 ……ボックスダイスもスリープ状態でしたものね。


 あんな感じで、仕舞い込まれたりすると眠りに落ちる。

 そして眠っている間は魔力が篭もっている道具か、魔法の細工がされた魔道具のようにしか見えなくなるのだ。

 なので時々その辺のお店に眠っている魔物が紛れ込んでいるというのはままあるコトだ。



「いやあまったく、こうして意識を取り戻すと、まったく君には感謝してもし足りないね!」



 ソレにしてもこの燭台の魔物は寝起きだというのに元気過ぎる気がするが、ボックスダイスが淡々としていただけかもしれないのでつまり保留ですの。

 燭台の魔物は火が消えないように気をつけつつ、腕を伸ばすような動きで枝部分を伸ばす。

 寝起きに背筋を伸ばすあの動きだ。



「眠っている時の記憶は途切れ途切れだけれど、いやー危なかった!何せ僕ってば魔力が溜まって魔物化一歩手前だったのは良いんだけど、魔物化目前で倉庫だろう?しかも火を付けてもらわないと活動出来ないワケだし」



 燭台の魔物は大げさな動きで溜め息を吐くようなジェスチャーをした。



「もしやこのまま魔物化したコトにすら気付かれず廃棄されるのかと思っていたけれど、その時は眠っていたせいでただそういう事実という認識をしていただけだったから……こうして意識がある時にソレを思い出すとゾッとするね!だからホントにありがとう!えっと、フレ、フレ、リ……?」


「私の名前はフレデリカですよ」


「フレデリカ!」



 燭台の魔物はとても嬉しそうにフレデリカの名前を呼び、ロウソクに付いている火をボボボと燃やす。



「君は僕の恩人だ!」


「こちらとしてはそんなつもりは無かったのですが……そう言われて嫌な気は致しませんね」



 ふふ、とフレデリカは微笑んだ。

 魔物に対して順応するのが早くないかとは思うが、それなりに無くは無い出来事だから順応も早いのだろう。多分。



「いやあ嬉しいな、嬉しいな!こうして誰かと話せるというのは良いね!僕はずっと眠っていたからあまり語れるコトが無いんだ。だから是非君達の話なんかを聞かせてもらいたいな!」


「その前に」



 ウキウキワクワクな声色でそう言う燭台の魔物に、フレデリカは少し落ち着けと口元に人差し指を持って来てから、問い掛ける。



「少し質問をしたいのですが、構いませぬか?」


「うん?モチロン!好きなだけ聞いておくれよ!僕はしっかりと答えるからさ!」



 その言葉に、フレデリカは微笑んだ。



「ではまず、そなたは私達に害を為す魔物か?」


「まさか!僕はヒトに使用されるべき燭台だよ?誰かの部屋を照らすコトはあっても、誰かに害を為す気なんて無いさ!……あ、でもテンションが上がると火の威力が強くなるから、布とかを燃やさないよう注意が必要かな」



 確かに先程から燭台の魔物に灯されている火の勢いが強い。



「食事などはどう摂る?」


「ん?食べる口が無いから食べないよ?あ、でも火が消えたら眠っちゃうから付けて欲しいかな。あとロウソクも溶けきると火が消えちゃうから、そっちも交換してもらえると嬉しい」


「では私の部屋に燭台として置かれるコトについては?」


「大歓迎!元々燭台だから、燭台として使われるのは嬉しいコトさ!まあ折角魔物になったんだから、他にも手伝えたらな、とは思うけどね」


「この屋敷は私が住み込みで働かせてもらっている場所であり、ソコに居るお嬢様……彼女は私の主の一人。そなたは私の主に対し、害を為そうと思いますか?」


「あり得ないね!そもそも燭台がどうして持ち主の主人を害するんだい?持ち主を泣かせるような主人ならやるかもしれないけれど、そういう感じでも無いのはわかるよ」


「ふむふむ」



 フレデリカは冷静に、燭台の魔物に対して安全面がどうかの質問を投げ掛け、即答された内容に満足そうに微笑んだ。



「では最後に、そなたの名……種族名は?」


「無いよ。僕は魔力と年月で魔物化した新種だからね。他に魔物化した燭台が居たとしても、ソレは僕とはまた別だ」


「ふむ……?」



 その返答に対してフレデリカは怪訝そうな表情になったので、自分が挙手して口を開く。



「つまり、オリジナルというコトですのね?」


「そう!」



 燭台の魔物はまるで指を差すように枝を動かして火をこちらに向けた。

 イエス!という意味でのジェスチャーなのはわかるが、その動きをされると溶けたロウが垂れそうで怖い。



「オリジナル、とは?」


「そうですわねー」



 ソコまでは知らないらしいフレデリカに、自分は学園の図書室で読んだ魔物の本の内容を思い出す。



「まず無機物系魔物の場合、感染するコトが多いんですの」


「感染」


「ええ。例えばスプーンが魔物化したとすると、そのスプーンはスプーンが魔物化する方法を覚えてますわ。そしてスプーンに合った魔力も有している。するとそのオリジナルから感染するかのように、普通のスプーンも魔物化する、という感じですわね」


「ああ、だから分裂や生殖とか無しで増えたりするのですね」



 フレデリカは成る程、と頷いた。

 流石、理解が早い。



「こちらの魔物は自力で魔物化したオリジナル。種族名を付ければたった一体の魔物となりますが、彼の影響で他の燭台も魔物化した場合、彼の影響ですのでその燭台も彼と同じ種族となります」


「……ヒトの子はヒト、みたいな?」


「そうなりますわね」


「ふむふむ」



 納得したようにフレデリカは何度も頷く。



「そなた」


「なんだい?」



 フレデリカに呼びかけられ、燭台の魔物はまるで首を傾げるように真ん中部分を少し傾けた。



「そなたは私のモノなのですよね?」


「モチロン!僕は君の所有物だとも!例えその時眠っていようとも、持ち主が誰かくらいは当然わかるものさ!」


「よろしい」



 頷き、フレデリカはこちらへと視線を移した。



「お嬢様」


「はい、ナンですの?」


「この魔物は私のパートナーになるコトが決定したので、是非私の主の一人であるお嬢様に種族名を付けていただきたく」


「ストップ」


「はい?」



 ……本気で不思議そうに首傾げられても困りますわー!



「あの、ソコでわたくしが出るの、おかしいと思いますの」


「ですがコレは私の所有物です」



 それはわかる。実際そう言っていたし。



「そして私はこのエメラルド家に拾っていただいた身。住み込みで食事まで負担していただき、メイド服の替えどころか私服まで用意していただいているというのに、お給料までいただいております」


「ええ、そりゃまあそれだけの働きをしてるなら当然と思いますわよ?」



 働かない穀潰しはソッコでクビだ。

 我がエメラルド家は情に厚いが、見所の無いモノに対しての見切りは凄い。

 その分見所があれば存分に大事にするのだが。



「つまり私はエメラルド家の所有物ですので、その所有物であるこの魔物もエメラルド家の所有物です。実際元々はエメラルド家のモノですし。なので名付けをするのはエメラルド家の方が相応しいかと」



 ……ソレ、拒否ったらフレデリカはエメラルド家の所有物ではない、イコールでクビってコトになるトラップじゃありませんの……。


 何故ソコまで名付けをさせたがるのかわからないが、下手に拒否るとマイナスに向かいかねない。

 フレデリカがエメラルド家から出て行くとはまったく思わないが、主の一人としてそんな浅はかなコトを言うワケにもいかないのが事実だ。



「……アナタは自分の種族名を決めるのがわたくしで、良いんですの?」


「僕の持ち主であるフレデリカがそれが良いと決めたんだろう?僕は僕を手放すような話なら黙っていないけれど、ソレ以外の話ならフレデリカの決定に従うだけさ」



 ……軽いですわー……。



「…………じゃあもう、働く燭台ってコトで、ワーキングキャンドルスタンドって種族名とかどうですの?」



 安直オブ安直だが、コレが精一杯だ。



「ありがとうございますお嬢様!よろしいですね、そなた。そなたの種族名はコレから、ワーキングキャンドルスタンドですよ」


「うん!名前まで付けてもらえるなんて嬉しいね!僕という存在を認められたってコトだから!」



 ……喜んでくれて嬉しいですわ……。


 ホントに良いのかという思いが無くはないので、思わず遠い目になってしまう。

 いや満足しているなら良いのだが、自分で付けておきながらナンだが種族名長く無いだろうか。

 燭台を訳したらキャンドルスタンドになるので仕方が無いとは思うが。





 コレはその後の話だが、フレデリカとワーキングキャンドルスタンドは本当にパートナー関係になっていた。

 あまりにも早くないかとか、本気だったのかとか色々思いはしたが、フレデリカの言葉に納得した。



「だってお嬢様、ワーキングキャンドルスタンドは私の所有物なのですよ?ソレはもうパートナーと言うしかありません」



 ……確かにそうですわね。


 腑に落ちたし、本人も本魔も受け入れているようなので外野が口出しするコトでも無いだろう。

 ちなみにワーキングキャンドルスタンドはキチンと申請を出し、種族として認められた。

 こういうのは大事だとフランカ魔物教師から教わっていたのが役に立った為、やはり勉強は誰かの身を助けるモノだと実感する。



「君はとても頑張りやさんなんだね」



 夜、ワーキングキャンドルスタンドはフレデリカにそう語りかけた。

 あの位置はメイドの休憩室だろう。

 無機物系魔物は口の動きが無いので()えにくいが、この目はジェスチャーを含めて言っている言葉を字幕のように()せてくれる為、大体わかる。



「そんなコトはありませぬ。私は私に出来るコトをしているだけですから」


「ハハ、謙遜するコトは無いとも!新入りの子がうっかり乾かしたばかりのシーツを汚してしまったから、洗うのを手伝っていたんだろう?」


「……見ていたのですか?」


「いや、偶然他のメイドに聞いたのさ。ランプに火を付けた際にね」



 ワーキングキャンドルスタンドは折角動けるのだからヒトの役に立ちたいと言い、火が必要な場所へと自ら赴いて働いている。

 恐らく持ち主であるフレデリカが働いている間は自室に一体ぼっちになってしまうので、その時間を使ってナニか役に立とうと思ったのだろう。

 彼はランプに火を付けたり、不要物を燃やしたり、石窯に火を入れたりとマメに働いている。



「新入りのミスの報告こそキチンとしたようだが、ソコで新入りに手を貸してあげたというのが君の優しいトコロで、君の美点だ。誰かやナニかを大事にする君のその心のお陰で僕もこうして存在しているワケだし」



 ふふ、とワーキングキャンドルスタンドは笑った。



「こうして時間を作っては一日にあったコトを話したいと言ったのは僕のワガママだったけれど、君ってまったく話題が尽きないね」


「話題を作ってるのはそなたでしょう」



 フレデリカは優しい笑みを浮かべ、ツンとワーキングキャンドルスタンドをつついた。



「そのようなコト、ただの日常でありましょうに」


「ただの日常として出来るのが素敵なのさ」



 そう楽しそうに喋る姿を()てから、コレ以上盗み()するのは良くないと判断し、自分はもそもそとベッドに潜る。

 眠りに付けば盗み()る心配は無いので、是非ゆっくりと会話して仲を深めていって欲しい。

 ノロケ系は疲れるし変態系は投げたくなるが、微笑ましい系なら大歓迎だ。




フレデリカ

天涯孤独になる前はやんごとなき家の娘だったので、口調にソレが現れている。

一日の終わりにワーキングキャンドルスタンドと報告し合うのは結構好き。


ワーキングキャンドルスタンド

自然発生したと言える新種の無機物系魔物。

物理的に燃えてるだけあって結構熱烈な褒め方をするが、実はフレデリカに対しては他のヒトに対する五倍くらい熱烈に褒めてる。


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