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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
八年生
239/300

ビックリ少女とプレゼントボックス



 彼女の話をしよう。

 心臓の魔眼を有していて、実家がお堅くて、退屈が嫌い。

 これは、そんな彼女の物語。





 長期休暇で実家に帰っていたアデレイドは、酷くイラついていた。



「ハァイ、アデレイド」


「あ!ジョゼじゃないですか!」



 声を掛ければ、こちらに気付いたアデレイドは薄い藍色の髪を揺らしながらこちらに来た。



「聞いてくださいよジョゼ!いつものコトですけど、いつも通りに実家が酷いんです!」



 腕をぶんぶん振り回し不満ですというアピールをしながら、アデレイドは不満がありありと前に出ている顔で言う。



「アデレイド、楽しいのが好きなのに!驚きが好きなのに!なのにあの家つまんないんですよ!アデレイド次女だから家督とか気にしなくて良いし、その分自由なのは嬉しいです!嬉しいんですけどお!」


「あー、ハイ、よしよし、とりあえず落ち着きなさいな。ここ廊下ですのよ」


「知りません!」



 どうやら相当に実家でのストレスが溜まりに溜まってしまっているらしい。

 まあいつものコトだが。


 ……アデレイド、驚きとかを好んでますものね。


 しかし実家の方針はとてもしっかりしているというか、アデレイド寄りの言い方をさせてもらうなら面白みが無いのだ。

 厳格と言えば聞こえが良いが、退屈を酷く嫌うアデレイドからするとかなりキツイ。



「もーイヤです!毎回毎回大人しくしていろ大人しくしていろって!そりゃ確かにアデレイドが心臓の魔眼使ってメイドさん驚かせたのは悪かったですよ!?

でもそのくらいしないとストレス溜まってどうにかなっちゃいますもん!娯楽一切無しなあの家に居るなんて耐ーえーらーれーなーいー!」


「どうどう」



 ……心臓の魔眼使ったコトに関しては庇えませんけれど、アデレイドからすると手持ちで楽しめるのがソレしか無かったんでしょうしねえ……。


 心臓の魔眼とは、視界に入っていて、そして魔眼所有者が触れている物質が心臓へと変化するという魔眼である。

 何故心臓単体で生きてるのかは不明だが、原材料がナンであれ、ソレは確かにしっかりとドクドク動いている心臓になるのだ。


 ……任意で見た目が変化可能なのも中々ですわよね。


 わかりやすく心臓のカタチになる時もあれば、花瓶の見た目そのままなのに心臓としてドクドクしていたり、というコトもある。

 他にもパターンがあるかは不明だ。


 ……基本的にドッキリの為に使ってるから、そのツーパターンが定番ですもの。


 尚己は()えているが故にドッキリが通用しない為、面白くない扱いをされている。

 まあドッキリされた時の理想的な反応を返せないのは事実なのでしゃーなし。


 ……お陰でドッキリを仕掛けられるコトが無い分、わたくしとしてはラッキーですし。



「もうホントにあの家嫌いです!娯楽ゼロ!退屈過ぎて魔眼使用し過ぎると目隠しつけろって言われますし!」


「まあ好意的に受け取ればコントロールが出来ないのかなってなりますものね」


「アデレイドのコントロールは完璧ですもん!魔眼封じの目隠しなんて不要です!」


「つってもアナタ、結構突発的に使用するじゃありませんの」


「アレは退屈が悪いんです。アデレイドが退屈に耐えられなくなった時しかやってませんよ。そりゃまあ、誰かを驚かせようとするからってコトでよく怒られますけれど」



 実際、目隠しをつけていない魔眼持ちは普通に居るし、コントロールが出来ているなら問題は無い。

 最悪死人とかが出たりさえしなければ使用だって基本自由だ。


 ……ただ、驚かすのメインだから、驚かされた側次第で説教はしますけれど、ね。



「相手をちゃんと見極めれれば良いんですけれどねー」


「見極めてますよ?」


「こないだイシドラにやろうとしてたじゃありませんの。敵意は無くとも愛娘に害を為そうとしたと判断した破壊の神がマジでアナタを消し炭にするトコでしたわよ」


「未遂セーフで助かりました。ジョゼも間に入ってくれてありがとうございます」


「いやもうマジで二度とイシドラをターゲットにすんのは止めて欲しいですわ。まだ実行してなかったから庇えただけで、そもそも天使は神に逆らったりはしない存在」



 とはいえあまりにも理に反しているなら天使だって多少の進言はする。

 まあ神が自分から理に反するコトはほぼ皆無だが。


 ……というか今言ってるヤツも、未遂だったとはいえ愛娘に危害を及ぼそうとしたからっていう、普通にあるあるな怒りなんですのよ、ねー……。


 ドッキリで驚いた時に頭ぶつけたりしたらどうする気だコラ、という感じ。

 神は基本的に生き物全般に対して淡泊だが、お気に入りは大事に大事に、それはもうとてつもなく大事にするのだ。


 ……つまりわたくしが進言して聞き入れてくれたのが奇跡でしたわ。



「正直言って、アレで実行してたらわたくし庇えませんでしたわよ。破壊の神が聞き入れてくれないとかじゃなくて、単純にわたくしが「あっ無理ですわー」って判断して見捨てるトコです」


「もうちょっと積極的に守ってくださいよ!」


「ヤですわよ自業自得に巻き込まないでくださいまし。神に喧嘩売るとか国滅ぼされてもマジで文句言えませんのよ?

アナタの命で済むなら安いモノであり、わたくしの命がソコに含まれても安く済んだ扱いなレベル。なのにお咎め無しというか、次はねーぞってだけで終わらせてくれただけ奇跡ですわよ奇跡」


「止めてくれたイシドラにも感謝ですね」


「イシドラの場合、破壊の神がやらかした後に元通り再生されてるのをすっかり見慣れたせいで、止めれなかったらまあソレはソレでホントに死ぬワケじゃないし、って感じみたいですけれどねー……」



 実際破壊の神は再生の神でもあるので、とんでもねえ仕留め方をしようとも、相手を再生可能なのだ。

 まあ破壊の神が破壊したモノに限る為、病気で死んだ父を生き返らせて欲しい!とかは無理だが。


 ……病気の父を破壊した後に健康体として再生させる、なら可能範囲だそうですけれど、ね。


 破壊と再生とはそういうモノだ。

 とはいえ破壊の神も神なだけあって結構スケールがデカいというか、アレでも基本的に神スケール基準。


 ……イシドラを驚かせない為に、出来るだけ原型のままで再生しているようではありますが……。


 確かにパッと身そのまま再生されているように見えるが、よく()ると微妙に違うのだ。

 鼻の位置が二ミリずれてるとか、毛質が違うとか、爪の長さとか、胃の中で消化中の食べ物とか、体内細胞のバランスとか。


 ……まー実際、取り立てて問題とするようなモノでも無いし、本人ですら気付けないレベルの差異ですけれど。


 大雑把には合っているが、細かく言うと違う、みたいな程度。

 記憶も基本的にはそのままだが、恐らくよくよく思い返してみれば、カフェで食べたモノに関する記憶が変化していたりするのだろう。


 ……多分、タルトを食べた記憶がパイを食べた記憶に、という微妙かつ普通に生きててもあり得そうなくらいの記憶の誤差程度でしょうね。


 要するに全てを粘土のように潰して作り直せるが、完璧に全く同じ状態へと戻す、というのは無理というコトだ。

 どれだけ神がかったレベルで綺麗に整えても、ミリ単位での誤差が生じるのは当然と言えよう。


 ……とはいえやはり神だから、人間よりずっと凄いコトやってるワケですが。


 人間の場合、機能か見た目かの二者択一タイプな治癒魔法止まり。

 しかし神の場合、人間の個体差がちょっとよくわからんというだけで、ソレらの問題は一切ないレベルでの再生が可能。


 ……うーん、考えれば考える程、敵に回しちゃなんねえ存在ですわよねー。



「…………ってコラ、ヒトがぼんやりしている間にナニしてんですのよ」


「ハンカチを心臓にしてました」


「リアルタイプ……」



 少し思考している間に退屈を感じたのか、アデレイドはハンカチを心臓に変えていた。

 それもハンカチ型の心臓では無く、ハンカチだった心臓に、だ。


 ……うーん、アデレイドの手の上でドクドクと脈打ってる心臓ってまたシュールですわねー……。



「で、ソレどうすんですの?」


「うーん、そろそろハンカチ新しいの買うつもりだったのでこのまま保健室に提供ですかね」


「食堂には卸しませんのね」


「昔そうしようかと思ったんですが、残念ながら心臓として機能するだけであって元が元ですから。ハンカチ心臓は血が染みたハンカチの味らしくて、人肉を主食とするヒトや魔物にはウケが悪いんですよ」


「あー」



 確かによく()ると、成分的には大体そんな感じ。

 心臓として問題無く機能する部分を思えば、食用ではなく医療用として提供するのがベストだろう。


 ……まあ実際、心臓が増える故に頻繁に摘出しているヴィヴィアンヌの心臓とかは医療用に向きませんものね。


 使用出来ないコトは無いが、ヴィヴィアンヌのドキドキを記憶している為、移植された側が引っ張られてしまう、らしい。

 故に医療用としては、そういう記憶が存在していない無機物系から心臓化した心臓の方が、素直だし拒絶反応も少なく済むそうだ。


 ……元が無機物なのに拒絶反応少なくて済むのは、ちょっとどころじゃなく不思議ですけれど。


 まあ何色にも染まってないようなモノだと考えればわからんでもない。





 最近、アデレイドが面倒事を起こさなくなった。

 いやソコまで頻繁に起こしていたワケでは無いのだが、一週間に二回くらいは誰かを驚かしていたアデレイドが、だ。


 ……驚いてくれる相手しか驚かさないから、お説教されてるコトが多いですのに……。


 良いコトではあるがナニかあったんだろうか。

 そう思いながらも、まあ表立って問題が発生してなきゃ良いか、とも思う。


 ……わざわざ自分から面倒事に突っ込むとかしたくありませんものね。


 翻訳依頼をされた本を持って廊下を歩きながらその考えに頷いていると、真正面からご機嫌なアデレイドが歩いて来た。



「あ!ジョゼ!聞いてくださいよジョゼ!最近凄いんです!」


「ソレって話長くなります?」


「すぐ終わりますよ、多分!」


「なら聞きますわ」



 最後に多分が付け足されているのが気になるが、まあ多少なら問題は無い。

 というか元々時間が無いワケでもないのだから。


 ……仕事はありますけれど。


 多少の余裕も持てない程ギッチギチのスケジュールがあるワケでも無いし、出来る範囲の仕事しかしていない。

 あと単純に仕事が早いワケでも無いが遅いワケでも無いので、そう切羽詰まってない。



「あのですね!最近良いコトが多いんです!」


「……ふむ、つまり面白いコトがある、と?」


「そうなんですよ!退屈だなーって思うと、丁度そのタイミングで箱が現れるんです!で、ソレを開けると中がビックリ箱になってたり、かと思えばお花が入ってたり!」



 アデレイドは嬉しそうに頬を染めながら言う。



「正直言ってアデレイド、退屈じゃなければ良いので。だからそうやって、ちょっとした贈り物をくれたりするの、嬉しいんですよね」


「成る程」



 少しだけ瞼を伏せ、嬉しそうに微笑むアデレイドに、ここ数日大人しかった理由がよくわかった。



「だからここ最近お説教されてなかったんですのね」


「退屈でさえ無ければ構いませんから。退屈だと思うと耐えられないのでちょっと驚かしたりしますけど」


「この学園で生活しながら退屈だと思える辺り、なっかなかですわよね……」



 混血に狂人の闇鍋状態だというのに。

 食堂で食事してたら再生能力持ちの友人がパートナー魔物に食べられていたりとかが普通にあるこの学園に対し、退屈とは。


 ……なのに箱に入ってた花とかで満足する辺り、多分独特な感性なんでしょうねえ……。


 まあこの世界の人間は大体狂人なので深く気にしない方が良い。

 狂人の発想を理解出来る方がアウトだ。


 ……ええ、わたくしイージーレベルの狂人で良かったですわ!本当に!



「ところでその箱なんですけれど」


「はい」


「アレですの?」


「エ?」



 アデレイドの後ろを指差すと、アデレイドは素直に振り向いた。

 ソコには、壁の陰に隠れるように置かれている箱があった。



「そうですアレです!アデレイド今そこまで退屈感じて無かったんですけど不思議ですね!あ、そうだジョゼも開けるトコ見ます!?」



 興奮気味のアデレイドがウキウキワキワキと指を動かしながら、箱とこちらを交互に見る。



「や、開けるトコっていうか……アナタ、アレがナニかわかってんですの?」


「箱じゃないんですか?あ、まさか開ける度に魂吸って来たりする魔道具!?」


「そうじゃないんですけれど」


「じゃあ極東の物語みたいな、老化する煙が出るヤツですか?ランダムで出るとか?」


「でもなくて、ソレ自体が魔物ですわよ」


「エッ!?」



 驚いたアデレイドが再び箱に視線を向けると、箱は少し時間を空けた後、溜め息を吐く。



「俺は大分マイナーな魔物だと思ってたんだがな……わかっちまうか」


「しゃべっ、動きましたよ!?」


「当たり前だろ。俺魔物だぞ」



 カタコトと音を立てながら、その魔物は歩くように近付いて来た。



「気付いた以上知ってるかもしれねえが、俺はプレゼントボックスだ」


「ええ、存じてますわ。ただそうなると不思議なのが」


「ジョゼ!魔物!魔物でした!アデレイドを退屈させない箱だと思ってたのに!」


「アデレイド背中叩くの止めてくださいまし。さておき不思議なのはアナタが何度もアデレイドに開けられている、という部分ですわね」


「謎の贈り物かと思ってたら!箱が魔物でしたよジョゼ!」


「背中叩くの止めろっつってんでしょうがアデレイド。

で、わたくしが知っているプレゼントボックスの生態……無機物系魔物の場合生態と言って良いかは不明ですが、とにかくプレゼントボックスの生態としては根無し草系、のハズですわよね?」


「よく知ってんじゃねえか」


「喋ってますよジョゼ!」


「良い子だから一旦落ち着きなさいなアデレイド」



 興奮気味なアデレイドの腕をガッと掴んで下ろさせる。

 積極的に止めなかったとはいえ、そうバシバシ叩かれると多少痛い。


 ……や、まあ、それなりに鍛えているお陰でホントに痛いって程ではありませんでしたけど。


 しかし羽があるタイプだったら大分きつかったと思うので、己に羽が無くて良かった。

 羽がありソレで飛ぶタイプは飛行の為に軽量化されているコトが多いので、全体的に耐久力が低い。


 ……痛みに弱いし、衝撃にも弱いんですのよねー。


 そう思うと、翼が無いコトを喜ぶべきなんだろうか。

 天使の場合、そもそも肉体があるが故に軽量化が必要な有翼系とは微妙に違うが。



「アナタが非日常的なコトであればちょっとしたコトだろうがとんでもねえコトだろうが喜ぶってのは知ってますけれど、今そういう時間じゃありませんの。

ホラ、ブドウ味のグミあげるからちょっとの間良い子でお話聞けますわね?」


「ジョゼ、アデレイドのコトを子供扱いし過ぎじゃありませんか?」


「要りませんの?」


「要ります!」


「ハイよろしい」



 開けられた口の中にグミを放り込めば、アデレイドは素直にグミを噛み始めた。

 大人しくしていてと言うと嫌がるアデレイドだが、良い子にしてと言うのであればセーフなのはありがたい。


 ……アウトなワードがあると厄介ですものね。


 意味的にほぼほぼ変わらない気がするが、セーフなワードがあるのは助かる。

 全部アウトだと言葉選びが大変だし。



「で、プレゼントボックス。アナタは基本的に触れた人間の悩みを対価として受け取り、その悩みを晴らすナニかをボックス内に出現させる魔物」


「その通り。俺はヒトの笑顔が大好きな魔物だからな」



 声だけ聞くと見下しながら鼻で笑っているかのような声色と口調だが、ソレは本心なのだろう。

 だってプレゼントボックスという名称からわかる通り、そういう本能が備わった魔物なのだから。



「ですが同時に、誰かを幸せにしたら去る魔物。同じ相手の下へと現れるコトは滅多に無いハズ」



 そう、ソレが不思議だった。

 何故何度もアデレイドの前に姿を現しているのだろうか。


 ……別に、問題があるってこっちゃありませんけれど。


 気になるコトは聞いておきたい。

 仮に放置して万が一があっても怖い。



「ナンでアデレイドの前に現れるんですの?」


「…………まず大前提として、俺はプレゼントボックスの中でもまあまあ異端なんだよ」


「はあ」



 まあ確かに、基本的にプレゼントボックスは妖精や食用系魔物みたく、ぐいぐい押せ押せで来るという主張強めなイメージの魔物。

 なのにアデレイドが今まで魔物であるコトを知らなかった辺り、喋るどころか動いたりという主張すら無かったのだろう。


 ……となると……。



「引っ込み思案?」


「シャイなんだよ、俺は。あと人見知り」


「広義的には同じような意味に思えますけれど、とりあえずアナタが何故ただの箱扱いされてたかという理由はわかりましたわ」



 個体差だと考えればそのくらいはあり得る。



「だから俺はこう、他のヤツみたいな辻助けをするつもりはあんま無えんだ」


「辻助けて」



 まあ辻斬りとかがあるなら、辻助けというのもあるんだろうか。

 普通に助けてるだけの気もするが。



「だから他のヤツみたく放浪せず、腰を据えてぇなあって思ってたら、ソコの嬢ちゃんに会った」


むむむーむむむむむ(アデレイドにですか)?」


「アデレイド、グミ口ん中に入ったまま無理に反応しなくて良いですわよー」



 アデレイドは頷き、再び口の中をもごもごさせ始めた。

 グミを食べ慣れていないお陰で長時間持つのはありがたい。



「俺達プレゼントボックスは、確かに悩みを対価として受け取る……っつーか読み取るワケだが、その時読み取れてんのはかなり正確なモノだ」


「あら、初耳ですわね」


「普通のプレゼントボックスは長居しねえからな」



 まあ確かに。

 長居をしないが故に、あまり情報を提供してくれないとも言う。



「その嬢ちゃん、っつかアデレイドの悩みは、少しでも退屈を感じると実家を思い出し息苦しくなっちまう、ってのだった」



 ……成る程、敵であるかのように退屈を嫌っているとは思っていましたけれど、正に敵みたいなモンだったんですのね。



「で、俺はコレだ!ってなったワケだ」


「や、最後ちょっとわかりませんわ」


「単純だろうが。つまり退屈を嫌ってて、常に退屈から遠ざかろうとしてる。

そして俺達プレゼントボックスが長居をしない理由だが、困ってるヤツを助けるならともかく、欲望のままに利用されるのはイヤだから、って理由なんだよ」


「ふむ」



 気持ちはわかる。



「だがアデレイドは本当にちょっとで良いんだ。退屈凌ぎだけを求めていて、ソレは大きい音でも、紙吹雪でも、花でも良い。ソレ以上を求めてねぇ」



 だから、とプレゼントボックスは言う。



「だから俺は、アデレイドのトコに腰を据えようとしてたんだよ。アデレイドが退屈を感じる度に姿を現して、な」


「成る程……」


「でも」



 グミを無事飲み込めたらしいアデレイドは不思議そうに首を傾げる。



「それなら先に自己紹介とかして説明してくれてても良かったんじゃありませんか?」



 確かにと思えるアデレイドの言葉に、プレゼントボックスは簡潔に返す。



「言っただろうが、俺は自己紹介が中々出来ないシャイな人見知りなんだってよ」



 そういやそう言っていた。





 コレはその後の話になるが、アデレイドが心臓の魔眼を乱用するコトが無くなった。

 元々退屈凌ぎの為の使用だったコトに加え、退屈しているかどうかをしっかり察知できるプレゼントボックスが魔眼使用前に対応してくれるからである。


 ……まあ一応、実験用とか移植用として正式なルートで一部に卸してはいるみたいですけれど。


 ソレでも前みたく乱用しているワケではないので良いコトだ。

 前は本当、破壊の神の一件を思い出すと肝が冷えるというか縮むというかアッコレ死ぬなという感じだったので、乱用しないようになってくれて本当に良かった。


 ……もう二度と神から誰かを庇ったりしませんわ……!


 半分人間だから耐えれたが、神に逆らった瞬間天使部分が自壊しかけていたくらいにはヤバかった。

 自殺するまでも無く自壊のピンチ。


 ……ええ、もう、もう絶対に神に逆らうものですか……!


 誰かが被害に遭いそうなら自業自得として見捨てよう。

 というか今まで普通にそうしてきたのに、何故あの時だけ動いてしまったのだろうか。


 ……単純に、あの日は人間本能の方が強かったのかもしれませんわねー。


 混血は基本的にハーフみたいな状態なので、その時々によってどっち寄りかが分かれたりする。

 天使の自分と人間の自分のどっちが前に出ているか、みたいなモノだ。


 ……簡易版二重人格みたいなモンですわよね、要するに。



「……ううん」



 中庭のベンチに座りながら、プレゼントボックスを抱きかかえたアデレイドは不満げに唸り首を右へ左へと動かしている。



「あん?また退屈してんのか」


「ん~、少し、まあ、そうですね。だから中庭はちょっと苦手なんですよ。空気がこう、のんびりしてて……無理」


「なら顔を覆ってんじゃねえよさっさと俺の蓋を開けてろ。悩みを晴れさせるナニかっつっても、ナニが入ってるかまでは俺ですら開けられるまでわかんねーこの箱の蓋を、よ」


「あれ、本魔もわかってないんですか?」


「この段階じゃアンノウン状態だからな。開ける瞬間の感情とかから相手の喜ぶ物質に固定しているみたいなモンらしいが……」


「今の状態はランダム状態になっている、と」


「まあ雑に言うとそんなモンだ」



 成る程、そういう感じになっているのか。

 先日の情報に加え、この情報もフランカ魔物教師に伝えておこう。


 ……あんまりにも新情報預けまくるから、自分でやりなさいよってこないだ言われちゃいましたのよね。


 最初は子供だったし仕事もしていなかったから代理でやってくれていたが、今はそれなりに色々を理解している、一人前の翻訳家。

 だから自分でやれ、と言われてしまったのだ。


 ……まあそうは言っても、フランカ魔物教師ってここの教師やってるだけあって魔物への興味強めだから、結局任せた方が良いんですのよね。


 レポートやらを書き慣れているし、実績もあるし。

 あと個人的に面倒なので信頼出来る相手に任せたい。



「今日はナニが出るんでしょうか」



 アデレイドはわくわくした表情で、プレゼントボックスについているリボンを解き始める。



「知らねぇが……今日のお前の退屈を吹き飛ばして、笑顔にさせる贈り物。ナニが出るかは不明だが、そうだな、いっそナニが出るかで賭けてみるか?」


「賭けるモノなんてありませんよ?アデレイドが食事を賭けたって、プレゼントボックス食事不要タイプの魔物ですし」


「気分に決まってんだろ気分。当てれるかどうかが重要部分だ。で?お前はどうする?俺が先に選んで良いのか?」


「アッ、ちょ、ソレはずるいです!本魔が答えるよりもアデレイドが先ですよ!」


「お前の感情読み取ってんだからお前の方が有利だろうが。で?ナニが出ると思う?」


「えーと……ビックリ箱お花バージョン!」


「成る程。んじゃ俺はお菓子な」


「それでは開けてビックリ玉手箱!」


「普通に開けろや俺は玉手箱じゃ」



 「玉手箱じゃねぇ」とプレゼントボックスが言い切るより前にその蓋が開かれ、中から飛び出すモノがある。

 ソレは花では無く、コウモリだった。


 ……あらまあ。


 大量のコウモリが一瞬で箱から飛び出し、森の方へと飛んで行った。

 どうやら賭けは両方の負けらしい。




アデレイド

楽しいコトが大好きなのだが、実家がお堅い為真面目や大人しいのを求められ自由度が少なく不満たらたら。

少しでも退屈を感じると実家を思い出して気が滅入る為、非日常的反応を求めて魔眼を使用し叱られていた。


プレゼントボックス

触れた相手の悩みを的確に読み取り、箱の中に相手が喜ぶモノを出現させプレゼントさせる魔物。

本来は一人を笑顔にしたらあっという間にその場を去るが、転々とするのが性に合わない個体だったのでアデレイドのトコロに落ち着いた。


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