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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
七年生
230/300

金少女とプリズンカメラ



 彼女の話をしよう。

 遺伝で体液が金で、それが原因で狙われるコトが多く、本人からするとコンプレックスな。

 これは、そんな彼女の物語。





 デシデリアは蜂蜜色の髪をさらりと流しながら、座っている己の腹に抱き着いていた。



「……ねえ、ジョゼ」


「ハイハイ、ナンですの?」


「どうしたら涙って出なくなるかしら」


「涙を出す方法ならともかく、涙を出さない方法は知りませんわね」


「そんなハズ無いわ!だってジョゼ、全然泣かないじゃない!絶対秘訣があるに決まってる!」


「泣きながら言わないでくださいな、もう……」



 顔を上げたデシデリアの目元には、キラキラとした金がとろりと溜まっていた。

 彼女は遺伝により、体液が金で出来ている。


 ……つまり涙とか唾液とか血液とかが金、なんですのよね。


 涙はハンカチに水分を吸収させ拭うモノだが、彼女の場合は金なのでそうもいかない。

 なので指でその涙の金を拭い、テーブルの上にコロンと置いた。


 ……うーん、拭い終わると冷えるのか、砂金みたく固まるんですのよねー。



「というかどうして泣きたくないんですの?」


「皆がジョゼみたいじゃないからよ」


「うーん意味不明」


「だって!この学園の関係者は良いけれど、王都に出ると出現する悪党とかはほぼ皆私を泣かせて金を得ようとするんだもの!」


「ああもうよしよし」



 ぼろぼろと、というかどろどろと流れ出ている涙の金を指で拭う。

 拭う端から談話室のソファの上に砂金が転がるが、まあ良いだろう。



「……ジョゼはこうして涙を拭ってくれるから好きよ。拭い終わった後の金に微塵も興味を抱いていないし」


「そりゃまあ、わたくし別に金を欲しがったりしませんもの」



 己にこの視力を与えてくれた神の加護なのかお金にはまったく困っていない。

 そして金や宝石やらにときめくハートも持っていないのだ。


 ……正直そういう、一般的に価値があるとされるモノよりも、ヒトからの感謝とか神や女神からのお褒めの言葉の方が嬉しいんですのよね。


 尚人間からの褒め言葉は微妙。

 人間からは感謝されたいが、上司である神とは違うので上から目線で褒められても微妙、というのはちょっとある。


 ……天使の複雑な御使い心、ですわね。



「というか狙われるからっていうのもそうだけど、不便っていうのもあるから困るの!」


「不便?」


「唾液とかそういうのは良いのよ、私は昔からそういう体質で生きてきているワケだから。私の中には血の代わりに金が流れてて、金が血液なのも事実」


「ですわね」


「でも涙とか汗とかも金!ハンカチで拭うにも拭えない不快感!」


「その分指で軽く拭えばボロボロ砂金になって零れ落ちるんだから良いじゃありませんの」


「背中とかの汗が砂金になってボロボロ服の中に落ちても?」


「アッ、ソレはちょっとイヤですわ」


「でしょう!?ううう、金は嫌い、金は嫌い……」



 デシデリアはべそべそ泣きながら再び己の腹に顔を埋めて泣き始めてしまった。



「うーん、ジャニスはあまり気にしていないとはいえ、呪いのせいで足が金。

ゴールデンクロスは金であるが故に利用されたせいで自分が金の布であるコト自体がコンプレックス、に続いて体液が金であるデシデリアもソレがコンプレックス、と」


「金はきっと災厄を運ぶのよ。間違いないわ」


「んなコト考えてたらそりゃ災厄しか運んできませんわ。もっと素敵なモノを運んでくるんだと信じなさいな。信じてれば神が聞き届けてくれるかもしれませんわよ」


「でもジョゼ、実際コレって災厄よね。涙が砂金になるからって理由で怖い大人に追いかけられるって充分に災厄だと思うんだけど」


「うーん否定出来ないくらいには正論。涙が真珠になるタマーラも真珠目当てで泣かされた経験があるそうですしね」



 というか何故そういう系の子は己のトコに泣きつきにくるのだろうか。

 そういうのは聖母とかの担当であって、天使では無いと思うのだが。


 ……天使ってあくまで、メッセンジャーですし。


 しかし拒めないのもまた天使。

 正直言って神とかの方が孫を相手する祖父みたいな感じなので、泣きつくならそっちの方が良いんじゃないかとも思うが。


 ……神は神で結構ヒトをえり好みしますのよ、ね……。


 気に入った子とか見込みのある子とかであれば結構まともに対応してくれるが、あまり好みで無い子に対しては結構冷たいのが神だ。

 まあ、冷たいとかソレ以前の問題かもしれないが。


 ……基本的にお気に入り以外は有象無象のその他枠って認識なのが神ですものね。


 好きの反対は無関心だと言うが、神の中の価値観は正にソレだ。

 己は神の身の回りの世話をしたりする天使であり、お気に入りの友人というコトでギリギリ無関心じゃない程度。


 ……「お気に入りの友人」じゃなくて、「お気に入り」の友人、って枠ですけれど、ねー……。



「……ジョゼ」


「ハァイ?」


「私、ゴールデンクロスとよく話すのよ。金目当ての悪党についての愚痴とか」


「はあ」


「大体は同じだけど、ゴールデンクロスとは一つ違う。ゴールデンクロスにはハンヌっていう、金に目が眩んだりしない素敵なパートナーが居る点が」


「……つまり、金に目が眩んだりしないパートナーがデシデリアも欲しい、ってコトですの?」


「そう」


「先に言っときますけれどそういう魔物に心当たりはありませんわよ」


「否定が早すぎるわ、ジョゼ。私まだ言う前だったのに」


「言う気だったんでしょう?」


「ソレは、そうだけど」


「みーんな同じようなコトばっか言ってくるから流石に察しますわ」



 デシデリアの髪を指で軽く梳きながら、クスクス笑ってそう告げた。



「大体、基本的な魔物は金に目が眩んだりしませんわよ。生前が人間なら眩むかもしれませんけれど、基本的には野生ですもの。金で腹は膨れませんわ」


「……ソレもそうね」



 納得したのか、デシデリアは大人しく撫でられながら頷く。



「……いっそこの金が、災厄じゃなくてパートナーを連れてきてくれれば良いんだけど」


「そう念じてれば実現しますわ、多分」


「多分なの?」


「発言に責任持てませんもの。でも言霊っていうのがあると考えると、プラスとなる言葉を口にした方が良いのは事実だと思いますわよ」


「ふぅん……わからなくはないわね」



 そう言い、デシデリアは寝返りを打った。

 というかナチュラルに膝枕状態で寝ようとしているようだが、相談が終わったのなら正直言って降りて欲しい。





 廊下を歩いていると、背後からデシデリアが突進してきた。



「見つけた!ジョゼ!ってキャッ」


「あっぶな」



 勢いを殺せていないどころか途中でコケたせいで、危うくデシデリアの頭突きが腰にヒットするトコロだった。

 なので直撃しないようひょいっと避け、その首根っこを掴んで一回持ち上げ、着地させる。



「あ、ありがとう、ジョゼ。随分手慣れてるのね」


「お陰でわたくしより背が低い誰かなら大概片手で持ち上げれるようになりましたわよ」



 貴族の娘が持つ筋力じゃない。

 純粋な筋力なのがまた複雑な気分だ。


 ……ロザリーみたく、魔力での筋力強化とかをしてるワケじゃありませんものね。



「で、廊下を走ってまでわたくしを探していた理由は?」


「あ、そう!」



 デシデリアは思い出したように、慌てて振り向く。



「やっぱり居る!アレ!あのカメラ!」


「……まあ確かに、カメラがありますわね」



 デシデリアが振り向いたその場所には、三脚で冠布がついている古い大型カメラが置いてあった。

 先程までは確実に無かったモノだ。



「ここ最近、ふと後ろを振り向くと必ずあのカメラがあるの!大体五歩くらい後ろにずっといるんだけど、魔物かと思って話しかけても反応無いしでどうしたら良いのかわからなくて……!」


「で、わたくしに?」


「仮に喋るコトが無理なタイプでもジョゼならわかるし、少なくとも魔物ならジョゼが知っているハズでしょう?」


「うーん、信頼されるのは嬉しいんですけれど、過度な信頼をされても困りますのよ?」


「知らない魔物?」


「いえ知っている魔物ではありますけれど」



 無機物系魔物は魔力がある道具か、または魔物なのかという区別が付きにくい。

 己の場合は目で()た情報に頼りがちなのもあって、無機物系はわかりにくいのだ。


 ……生き物ならまだ生きているからわかるんですけれど、ね。


 だって生きている以上は、生体反応が存在しているのだから。

 しかし無機物系魔物の場合はそういうのが無い為、無言を貫かれるとそういう魔道具かナニかだろうか、くらいにしか見えない。


 ……でもこのタイプのカメラ、というコトは、魔物の場合はアレしか居ませんわよね。



「アナタ、プリズンカメラですわね?」



 返事はない。



「プリズンカメラ?」


「ええ、恐らく。カメラの魔物なので写真を撮ってくれたりするんですけれど、その写真がちょっとこう、問題というか」


「プリズン、ってコトは、撮られると写真の中に閉じ込められるとか?」


「んー、半分正解のようなそうじゃないような」


「具体的には?」


「まず写真なんですけれど、白枠と黒枠の二種類があるんですの」



 古いタイプのカメラなので、昔ながらと言える、真ん中部分に丸く映し出されるタイプの写真だ。



「んでもって白枠は無害なんですけれど、問題は黒枠」


「黒枠の写真って、葬儀用の写真とかに用いられるって聞いたコトがあるような……」


「まあ間違っちゃいませんけれど、この場合は関係ありませんわ。プリズンカメラに黒枠の写真を撮られると、その中に対象の命が切り取られるんですの」


「死ぬじゃない」


「あー、今のはわたくしの説明が悪かったですわね。わかりやすく言うなら藁人形に髪の毛入れてぐえーいたたたキャー、みたいな」


「成る程通常時は問題無いけど破いたりするとそのダメージがその写真に写っている対象本人にも行くってコトね?」


「その通り」



 理解がかなり早くてとてもありがたい。



「燃やしたりした場合も、本体も一緒に燃えてしまいますの。だから撮られた場合は的確な対処をしないとアウト、みたいな呪いの魔物扱いをされていた時代もありますわ」


「実際は違うの?」


「いえ元々呪いのアイテムとして作られましたのよ。暗殺用に、と。

ただカメラとしての本能なのか、笑顔のヒトを撮りたいという思いが強かったらしくてストライキまたは反抗。結果皆それぞれ自由になってどっか行きました、おしまい」


「エッ、おしまい?」


「そっからはその辺でチラホラ目撃情報があるような無いようなって感じの野生状態ですもの」



 本魔達は笑顔の写真を撮りたいのに、その笑顔の写真を利用して苦しめるというのが赦せなかったらしい。

 ゲープハルトが前にそう言っていた。


 ……というか、プリズンカメラはプリズンカメラでまたもやゲープハルトの作った魔物なんですのよ、ね。


 あのヒトは一体どれだけの戦争用魔物を作ってきたのだろう。

 本人的には「このゲープハルトは依頼されたから作っただけだよ?」という感じらしいが。


 ……そう思うと、ゲープハルトに依頼してまでわざわざ戦争用の魔物作らせる当時の人間の業の深さに辟易しますわ。


 戦争の無い時代で良かった。

 もし戦争がある時代だったら、確実に徴兵されていた気がする。


 ……んで全力で特攻隊長やってんのが目に浮かびますわ……。


 天使の娘で貴族の娘なのに何故こうも血生臭いのが似合いそうなのだろう、我ながら。

 まあ父が戦闘系天使だからなのだろうが。



「でもそうだったとしても、このカメラ全然喋らないんだけど……自動追尾機能とかがあるだけの魔道具だったりしない?」


「んー、正直言って動いたり喋ったりしてくれないとその辺わたくしでも見分けつかないのであり得なくはありませんわ」



 無機物系魔物はわかりにくくて困る。



「でももしプリズンカメラだった場合、何故喋らないのか、は察せますわね」


「何故?」


「アナタを追いかけてるってコトは、アナタの写真を撮りたいってコトじゃないんですの?笑顔の写真を」



 プリズンカメラはそういう性格だった、とゲープハルトが言っていた。



「でもプリズンカメラだとわかれば、警戒されるかもしれない。笑顔が曇るかもしれない。強張ってしまうかもしれない。そういう懸念のせいで、追いかけるトコロまでは出来ても語り掛けるコトが出来ない」



 己はカメラの方を向きながら、言う。



「と、推測しましたけれど、実際は?」


「その通りですよ」



 カメラはカタンと動き、ふぅ、と溜め息を吐いた。



「お察しの通り、私はプリズンカメラと申します」


「本当だった……」



 デシデリアは驚いたようにそう呟いた。

 まあ確かに、今まで微動だにしなかったカメラが動いて喋ったらそうなるだろう。


 ……わたくしとしては、九割方プリズンカメラだろうと確信してましたけれど。


 だってデシデリアが突撃してきた時、その背後から追いかけてきている彼が()えていた。

 ただ自動追尾タイプという可能性が無いワケでは無い為、確証が無かっただけで。



「大変申し訳ありませんでした、デシデリア」



 プリズンカメラは、デシデリアにそう謝罪した。



「私はアナタを写したいと思いましたが、私は種族が種族です。どう話しかけるべきか、どう説明すれば不審に思われずに済むか。そう考え、その、ストーキング行為を……」


「ソコでどうしてストーキングになっちゃったのよ」


「どうしても写真が撮りたくて、いつでも写せる位置に居たくて仕方が無く……」


「な、成る程……?」



 デシデリアは理解出来ていないらしく首を傾げたが、まあ良いかと納得したような表情で頷いていた。



「というか別に、アナタは私を黒枠の写真に撮りたいワケじゃないのよね?」


「ソレはモチロン。アレは私達プリズンカメラだって撮りたくないものですから」


「なら別に好きに撮ってくれて構わないわよ?」


「いえ、その、ですね」


「?」



 プリズンカメラは言いにくそうにもごもごしながら言う。



「その、撮りたいのは普通の笑顔とかでは無くて」


「泣いてる時に流れてる金?」


「いえソレは美しいですが正直あまり。悲しみなどで流す涙を写すつもりはありません。喜びで流れた涙であるならばともかく」


「!」



 ……あら。


 デシデリアの頬がポ、と赤くなったのを確かに見た。

 まあ指摘はしないが。



「私が撮りたいのは、デシデリアの自然な笑顔なんです」


「自然な笑顔?」


「そう。例えば友人が楽しそうに笑っているのを見てつられて笑った時、読んでいる本の内容に思わず微笑んだ時。そういう、自然な笑顔を撮りたいのです」


「ジョゼ、説明」


「わたくしそういうお助け解説役じゃありませんのよ?まあでも意味としては、カメラを前にすると笑顔を作ったりするから、そういう作り笑顔じゃない自然な、さり気ない微笑みを撮りたい、ってコトでしょうね」


「そういうコトです」


「ジョゼって本当にお助け解説役がハマるわね」


「うーん嬉しくない」



 少なくとも褒め言葉とは思えない。



「でも、自然な笑みって言われても、どうすれば良いの?」


「……その、だからこそストーキングをしていたと言いますか」


「エ?」


「あ、成る程」


「ジョゼ、わかったの?」


「要するに日常に食い込もうとしたんだと思いますわ。

例えば新しい花瓶が置かれていたら多少気になりますけれど、数日経過すればソレは馴染んで、溶け込んで、ただの背景と一体化して、意識もしなくなりますわよね」


「ああ、そのくらい日常化するコトで自然な笑みを撮りやすく、ってコトでストーキングを……」



 納得したように頷いていたデシデリアだが、後半につれて眉を顰める。



「ソレって先に許可取ってからするものなんじゃないのかしら。順番おかしくない?」


「そうなんです……!」



 手と顔があったら手で顔を覆っていたであろう声色でプリズンカメラは肯定した。



「私も先に許可を取りたかったのですが、どう説明したものかと考え込み過ぎてコミュニケーションを取るコトが出来ず、けれどどうしてもアナタの笑顔を撮りたくて!」


「我慢ならず、ついストーキングしちゃった、ってコトですのね?」


「ハイ……」


「成る程……」



 デシデリアは納得したように頷く。



「つまり、私の自然な笑顔が撮れるまでストーキングは続行するってコトね?」


「いえ、イヤだと言うのであれば素直に身を引きます……」


「別にイヤだとは言ってないし、写真を撮るのは構わないって言った以上拒絶する気も無いわよ?そもそもここ数日とナニも変わらないワケだし」


「う、嬉しいような刺さるような……」



 ……まあ確かに、刺さる言葉ではありますわよね。





 コレはその後の話になるが、プリズンカメラはデシデリアの後ろについて移動するようになった。

 前のようなだるまさんがころんだ形式ではなく、普通にガタゴトゴトガタ音を立てて移動している。


 ……んー、でも既に、デシデリアって自然な笑顔を浮かべれるようになってますのよね。


 元々ストーキングされていたし、害が無いとわかったからかデシデリアがプリズンカメラに慣れるのは早かった。

 寧ろデシデリアに害がある人間の写真を黒枠で撮って、踏んづけるコトで足止めをする、というコトをしている辺り、良い感じにボディガードもこなしているようだ。



「……で?最近大分仲良くなっているように思いましたけれど、わたくしにわざわざ相談しに来た理由は?」


「ソファに寝転がりながら聞かないで欲しいのですが」



 現在己はソファに横になり、肘置きで頬杖をつくという涅槃仏ポーズだった。

 大丈夫、涅槃仏は仏教でも多神教からすればその辺の括りは雑。


 ……ええ、だから天使が仏教系のポーズしてたって問題はありませんわよね、多分!



「大体なーんでわたくしがそんなパートナー云々のアレコレ聞かにゃならんのですのっていう抵抗ですわよもー。上半身一応しゃんとしてるから良いじゃありませんのよー」


「たった今崩れたが?」



 知るか。

 うつ伏せになって肘置きに額を乗せて余った部分に腕を置いているだけだ。



「この状態でも聞けますわよ。で?相談って?」


「……私は知っての通り、大分デシデリアと仲良くなるコトが出来ました。自然な笑みを見れるどころか、最近では真正面から自然な笑みを向けてもらえる程に」


「良かったじゃありませんの」


「確かにそうですが、そうなのですが、写真を撮れば、この関係は終わってしまいます。私はもっとデシデリアと共に居て、あの素敵な笑顔を見たい。

金の涙は確かに美しいモノでしたが、ソレ以上に、デシデリアの自然な笑みこそが私にとっての宝なんです」



 成る程、つまり目的達成したら去らないといけないけど別れが辛くて目的を達成したくないと思ってしまう、というコトか。


 ……アッホらし。


 いや恋心というのはそういうモノ。

 昨日部屋の掃除に手間取った結果少々寝不足だからといって八つ当たりをしてはならない。


 ……ええ、そう、例え不足した分の睡眠時間を補おうとして昼寝する気満々のトコに相談を持ち掛けられたとしてもですわ!


 やっぱ八つ当たりたい。

 寝不足は心が荒んでしまう。



「……んなモン、普通にこれからもその笑顔を見たいとか告白して、パートナーになりゃ良いんじゃありませんこと?」


「エ」


「別に目的達成したら必ず去らないとってルールがあるワケでもあるまいし」


「そ、そう言われると、そうですね……?」


「目的を達成したなら長居する理由が無いから去らなければってなってるのかもしれませんけれど、そういうのは先にちゃんとお互い話し合って、納得出来る位置を見つけなさいな」


「……そうですね」



 プリズンカメラは、頷くようにカタリと動く。



「パートナーとして、いつまでもその自然かつ最高の笑顔を撮りたいと言ったら、頷いてくれるでしょうか……」


「わたくしに聞かれたって知りませんわ。答えるのはデシデリア。その想いを伝えるのはプリズンカメラ。わたくしは眠いから寝るだけですの」


「昼寝直前に時間をいただき、ありがとうございました」


「どういたしまして。頑張んなさいな」


「ええ」



 プリズンカメラはカタカタ動いて談話室を去っていった。

 くあ、と己は欠伸を零し、本気で寝る体勢に入る。


 ……どうなるかは知りませんけれど……。


 見ている限り、相思相愛にしか見えなかった。

 ならばまあ、心配する必要も無く大丈夫というコトだろう。




デシデリア

遺伝により体液が全て金で出来ており、体から離れると共に硬化し砂金になる。

親は好きだが色々と面倒事が寄ってくる為、金が嫌い。


プリズンカメラ

命の一部を写真に焼き付け閉じ込める為、プリズンカメラと命名された。

現在はデシデリアの笑顔を曇らせる悪を写真で撮って踏んづけたりするコトで動きを止めさせ、兵士に引き渡したりしている。


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