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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
七年生
224/300

太陽少女とオブストラクションファッグ

オリジナル歌詞が作中で出ます。



 彼女の話をしよう。

 遺伝で太陽の力を宿していて、太陽を苦手とする魔物に強くて、お喋りが好きな。

 これは、そんな彼女の物語。





 談話室で新刊を呼んでいると、ソルが後ろからのしかかってきた。



「ジョゼは良いですよね……」


「いや重い」


「酷いです」


「……ソル、ナンか用ですの?」


「愚痴りに来ました」



 ソルがそう言いながら己の首に顔を摺り寄せれば、ソルの太陽のような赤みの強いオレンジ色の髪がさらりと揺れた。



「…………わたくし、生徒用の相談室じゃないんですけれど」


「そうは言いますが、他の方の相談にもよく乗っているではありませんか」


「好きで乗ってんじゃないんですのよー」



 が、仕方ない。


 ……今日の読書タイムは終了ですわね。


 そう思いパタンと本を閉じ、ソファの隣を軽く叩く。



「せめて隣に座りなさいな。まあ向かいでも良いんですけれど、わたくしのしかかられたままで会話はしたくありませんわ。わたくしの首や背中への負担が大きいんですもの」


「ふふ、了解です」



 ソルは薄く微笑んで、隣に座った。

 というか隙間なくピッチリと座られた。


 ……ま、ソルですしね。


 ソルは結構距離が近い子なので、大体こんなモンだ。

 そう気にする程のコトでも無い。



「で、わたくしのナニが「良いですね」なんですの?」


「遺伝です」


「いやヒトのお茶勝手に飲みながら言われても。自分で取りに行きなさいな」


「良いじゃないですか、まだ口付けてないみたいですし」


「まあそりゃそうですけれど……」



 しかしそういう問題では無いと思うが、いちいち指摘するのも面倒なので良いというコトにしておこう。



「で、遺伝のナニが良いんですの?」


「こう……役立つトコが羨ましいんです」


「役立つて……確かに悪を察知したり自動で迎撃はしますけれど、基本的には神に絶対服従な使いですのよ?

まあ神に逆らって良いコト無いのでその方が良いのも事実……とはいえ、バーサクモードの際コントロールが利かないコト考えるとプラマイで言うなら確実にマイナスですわね」


「そうは言っても、私の遺伝は体温を高くしたり、発光するくらいですよ?」



 ソルがそう言うと同時、ソルの髪が太陽のように光り始めた。

 髪色も合わさり、本当に太陽のよう。


 ……まあ実際太陽系の魔物との混血ですものね。



「両親のコトは大好きですし、問題は無いのですが……やはり、ジョゼのように派手なのは憧れます」


「わたくしの全然派手じゃありませんのよー?」



 寧ろやたら使いっ走りにされる辺り地味代表。

 基本的に神の通訳なので前に出るコトもほぼ無いし。


 ……ええ、天使が主役みたいに書かれてるの、大体神のお言葉を言っている時が殆どですし!


 神の通訳してるだけであって天使が言ったワケじゃないという事実よ。

 天使は本当、神がセンター立ってるアイドルならばさながらカメラに映るような映らんような印象に特に残りもしないバックダンサー。


 ……その位置なんですのよ、ね……。



「で、ソレが本題なんですの?」


「…………本題が別にあるって気付いてたんですか?」


「まあ」



 視線の動かし方やらで違うナニかを言い出そうとしているくらいはわかる。

 内容は知らん。



「その、パートナーが欲しくて」


「ゴーホーム」


「早くないですか!?」


「言っときますけれどわたくしキューピッドじゃありませんのよ。天使。愛の神じゃありませんの。いやまあ正確には混血ですけれど、分類的には天使ですわ」



 正確には半分天使半分人間だが、まあ良いだろう。

 同級生とパートナーやってる神や女神が多い為、天使としての本能が前面に出てしまっているのだ。


 ……ま、特に不都合とか無いから良いんですけれど。


 ただその結果、大分意識が天使寄りになった気はする。

 己の中に異世界の自分が別人格未満くらいの感覚で存在しているコトを思うと、きっとあちらが半分の人間担当。


 ……そうかもしれないというだけのたらればですけれど、ね。


 仮にそうだったとしても特に変化があるワケでも無し。

 異世界の自分、己の中での引きこもり生活をエンジョイしているようなので別人格レベルまで成長する気は皆無のようだし。


 ……わたくしはわたくしで、悪に対するバーサクモードに加えて二重人格状態とか勘弁ですわ。



「パートナーが欲しいなら適当に森でも歩けば見つかりますわよ。大体ソレで皆見つけてますわ」


「こういう時の皆って全然皆じゃないコトが多いハズなんですが、ジョゼが言うと説得力しかありませんね……」


「マジでそうですもの」



 何回パートナー成立を見届けたコトか。

 好きで見届けているつもりはないが。


 ……わたくしも、パートナーが欲しいですわ。


 この視力をくれたのが狐で神なのはわかっているが、正直言ってそれだけなのだ。

 いい加減出会いたいけど出会いが無い。


 ……もう在学中にその方と出会うのは諦めて、卒業したらお姉様みたくあちこち飛び回るのもありかもしれませんわね。


 そんくらいやんないと見つからない気がしてきた。



「ふむ……でも、そうですね。森にはあまり足を運んだコトがありませんでしたし、少し通ってみるコトにします」


「怪我しないよう気を付けるんですのよ。出来るだけ道なりに行くように。あと迷子の時は動かず待機。ランベルト管理人かリンダ管理人が見つけてくれますわ」


「動いたら?」


「うっかり崖から落ちて潰れたトマトになる可能性がありますわね」


「迷子になった時は大人しくしておきます……!」


「ええ、そうしてくださいな」



 ソルは太陽っぽい遺伝があるとはいえ、再生能力が高いワケでも、痛覚が無いワケでも無いのだから。





 森の中を歩いていると、声が聞こえた。



「ゆるりお日様照らしてて

 私ぽかぽかお昼寝気分

 そこらにごろんと転がって

 ほんの少しとお昼寝するの」



 ……あら、ソルの声ですわね。



「風吹き 葉が揺れ 小鳥囀る

 ああ なんて素敵な時間なの

 喧騒 ざわめき 全てを置いて

 ここは私の素敵な世界」



 アレからソルは積極的に森に来ているようだが、今日はタイミングが被ったらしい。



「太陽照らす世界では

 ヒトは遊んで 働いて

 きゃらきゃら笑って

 眠って起きる」



 ……この曲って、確か子守唄でしたわよね。



「起きればそこには

 いつでも照らす太陽あって

 優しい光で目覚めるの

 温もりの中で目覚めるの」



 そう思いながら歌声の方、ソルの方へと視線を向けると、霧に包まれているソルが()えた。



「青色広がる空の中

 いつでも照らす太陽は

 明るく眩しくそこにいて

 いつでも皆を見ていてくれる」



 ……あの霧、魔物ですわね。



「お天道様が 見守っている」



 ソルの周囲を覆っている霧は、オブストラクションファッグだった。

 要するに阻害系の霧魔物であり、その魔物の中、霧の中での魔法が使用不可能になるという存在。


 ……多分、魔力から魔法を構築してくれる精霊が居ないとか、精霊が近寄れないようにしてるんでしょうけれど。


 こうして()てもよくわからん。

 まあ元々ハッキリとした姿や意思を持った精霊以外は()えにくいモノなので、()えなくても無理はないが。


 ……ハッキリと体がある精霊でも、見えないヒトは見えませんし、ね。


 尚オブストラクションファッグは魔法を無効化こそするものの、遺伝やら体質やらを無効化は出来ないタイプ。

 つまり悪でも己の本能で対処可能なのでモーマンタイ。


 ……ええ、仮に本能を封じられても多少の戦闘は素で出来るようにしてますし!


 体術と剣術の授業を真面目にやっている甲斐はある。

 あと時々友人に手合わせを頼まれるからだろう。


 ……よくよく考えると、貴族の娘に手合わせの相手頼むって相当ですわね……?



「ソル」


「ジョゼ」


「ナニしてんですの?」


「んー……」



 普段より少し体温を高めにしているらしいソルは少し考えるような表情になってから、クスリと微笑んだ。



「構って欲しいようでしたので、構ってます」


「ソコまでは言ってないんですけどお!?」



 オブストラクションファッグが霧ボディをぶわっと膨らませながらそう言った。

 一応距離を保ちながら声を掛けたお陰で己はセーフ。


 ……魔法使えなくても特に問題はありませんけれどね。


 武器に聖なる属性を付与すれば物理無効な相手にも攻撃通せるので心配は無い。

 ただソレはソレ、コレはコレ。



「構って欲しいって……ああ、まあ、オブストラクションファッグなら種族的に結構寂しがりな個体が多いそうですものね」



 霧だと考えると個体という名称を用いて良いのかちょっとよくわからないが。

 まあ魔物だから良いだろう、多分。



「バッ、なっ、おま……っ!」


「寂しがり……話し相手が居なくて退屈だから少し話し相手になってくれ、とは言われましたが……寂しがりだからだったのですか?」


「それ本人に聞くモンじゃねえだろうがよ!つか別に寂しがりとか、そんなの全然、全然ありませんけど!?」


「ジョゼ」


「ハイハイ」



 ソルの目が詳細説明ヨロシクと雄弁に語っていたので、頷きを返す。



「オブストラクションファッグとは、触れている相手の魔法を使えなくさせる魔物。故に避けられるコトが多いんですの」


「本魔を前にスパッと言うな……」


「オブラートに包んで通じないよか良いでしょう」



 下手なオブラートで誤解を生んでも面倒なだけだ。



「その為寂しがりというか、話し相手を求めがちなんですのよね。そして霧だからなのか、迷わせるコトが得意なんですの。時間がありそうな子を迷わせては話し相手にする、というのがオブストラクションファッグですわ」


「ソレは害魔にならないのですか?」


「危ない道行こうとしたら止めてくれるし、夜になる前には解放してくれるから大丈夫ですわよ。帰りたいなら帰りたいと言えばさらっと解放してくれるそうですし」


「成る程、心優しい魔物なんですね」


「お、俺はただ害魔になりたくねえからしてるだけであって、別に気遣いとかんなモンのつもりじゃねえっすけど」


「ただまあ霧だからなのか、ちょっと問題はありますのよね」


「問題?」


「その霧の中に居ると体温奪われますの。アナタは自分の体温上げて温度調整してるようなので問題無いみたいですけれど」


「ああ、成る程。通りでうっすら肌寒い気がしたのですね」



 ソルは納得したように頷いた。



「ううん……でも、オブストラクションファッグ?は寂しいから私を引き留めたのですよね?」


「寂しいなんて俺一言も言ってませんし」


「でしたら私が話したいだけなので、良かったら夜更かししてお話しませんか?」


「ハア!?」



 オブストラクションファッグが驚いたのか、霧がざわざわと落ち着きのない動きになる。



「いや、学生ならちゃんと帰らねえと駄目だろうが!」


「多少夜更かししても大丈夫ですよ。大怪我とかしたらアウトですけれどね」


「夜になったら真っ暗になるんだぞ!?俺は霧だから足元とかを照らしてやったりなんか出来ねえし!」


「私は遺伝があるので自力で発光出来ますよ。周辺をお昼並みの明るさに照らすくらいはお湯を沸かしてお茶淹れるより簡単です」


「そ、そうは言っても夜は冷え込むし」


「体温を上げるくらいのコトなら遺伝のお陰で出来ますから」


「夜の森なんざ、昼間は眠ってるタイプの凶悪な魔物が!」


「本気でアウトなのは討伐されているハズですし、太陽の光を苦手とするなら私の光で退散させるコトが可能です。そもそも夜行性なら、突然目の前に光が出現したら目が潰れて動けないハズでしょう?」


「……夜更かしする程、俺は話し相手として価値が無い」


「まあ。ソレはアナタと夜更かしする程にお話したい私への悪口になってしまいますよ?」


「ぐぬ……」



 どうやら膠着状態になっているらしい。

 霧なのに膠着状態とはこれ如何に。



「…………あの」



 とりあえず声を掛ける。



「どうもオブストラクションファッグはソルの体調やらを気にして、でも大丈夫そうで、でも万が一があったら、っていう感じに逡巡してるようですけれど、そんならもういっそオブストラクションファッグがソルの部屋に泊まるってんじゃ駄目ですの?」


「なっ、俺は魔物だぞ!?」


「野生の魔物でもその辺に居たり授業受けてたりするからそんなモンですわよ。害が無きゃモーマンタイ」


「魔法を封じる性質で」



 魔法による補助で生活出来ている生徒の迷惑にならないかを気にしている、のだろうが。



「封じられては困る系の魔法を使用している場合、そういうのを拒絶して無効化する魔道具などを身に着けているから大丈夫……ですよね?ジョゼ」


「ええ。ソレに夜更かしと言うのなら、森で遊ぶのも良いですけれど、部屋でお泊り会というのがベターだと思いますわ。そんなら安全ですし、眠いままに寝落ちしても問題ありませんし」


「………………ぅ…………」



 もぞもぞうごうごと霧が蠢いている辺り、オブストラクションファッグは悩んでいるらしい。

 大分心が傾いていると見た。


 ……んー、あと一押しって感じですわねー。


 かといって外野の己がこれ以上口出しは出来ない。

 そう思っていると、ソルは手を差し出した。



「良かったら、私の部屋に来ませんか?」


「……害魔かもしれねえのに?」


「害魔ならジョゼが気付きますよ」



 ……だからその判断基準、今の内に止めた方が良いと思いますのよねー……。



「私が、アナタとお話をしたいと思ったんです」


「今までそんな経験無かった分一回許可出たら付き纏うかもしれねーっすよ。一時の同情だってんなら」


「実は森に来たのはパートナー探しのつもりでして」



 無言になるオブストラクションファッグに、ソルは太陽のようにニッコリ微笑む。



「私、寒さに強いし、お話するのも好きなんです」


「ホントに離れねーっすけど」


「誰かに触れているのが好きなので、その方が嬉しいですね」


「……ああ、もう!」



 叫び、オブストラクションファッグは周囲に広がっていた霧の体をぎゅっと圧縮し、ソルが差し出している腕にしがみつくように絡む。

 まるで霧で出来たヘビがソルの腕に絡みつき、必死でしがみついているようだった。



「…………信じるからな」


「ええ、信じてください」



 ソルはそう言い、ふわりと笑った。





 コレはその後の話になるが、オブストラクションファッグは自分で言った通り、ソルにべったりくっつくようになった。

 他のヒトにうっかり影響が出ないようにと霧の体を圧縮しつつ、ソルに絡んでいるような感じ。


 ……傍から見るともう、ソルの見た目は霧を纏ったファッションかナニかって感じになってますわね。


 そのレベルでくっついている。



「オブストラクションファッグは寂しがり屋さんですね」



 ふふ、とソルが笑う。



「べっつに俺は寂しがりとかそんなんじゃありませんけどー。ただソルがあんま警戒心が無いからこうやってボディガードしてるだけだし」



 確かに、オブストラクションファッグである霧は魔法を無効化する為、放たれた魔法をも無効化可能。

 体に密着して守るというのは間違っていない。



「……もしかして、くっつき過ぎてイヤだったとか?寒い?」


「寒さは感じませんし、感じても体温を上げれるので問題ありませんよ。ただ霧なのにそんなに圧縮してまでぴったりくっついて大丈夫なのでしょうか、と」



 ……ま、ソレもそうですわね。


 今のオブストラクションファッグは巻き付いている蛇のような、フェンスに絡む植物の蔦のような状態。

 しかし緊急時だけ魔法を無効化すれば良いのも事実なので、別にソコまで引っ付く必要も無い。


 ……マントっぽくなるとか、スカートの飾りっぽくなるとかの選択肢はありますわ。



「……俺、霧なんで。こうやって固まってた方が安定するんですよ。散らばらずに済むっていうか」


「オブストラクションファッグって風で散る魔物でしたっけ?」


「どーでしょーねー!?」


「ふふ、そんなヤケにならないでください。ネガティブスモークが風を苦手とするように、オブストラクションファッグが風を苦手にしていても不思議ではありませんものね」


「…………そーゆーコトです」



 敬語になっている辺り嘘だと言っているようなモノだが、ソレで収まるなら良いのだろう。

 照れ隠しなのか、ソルにくっついているオブストラクションファッグは、まるで抱き締めるように動いていた。

 指摘すると恥ずかしさで逃げ出しかねないので、武士の情けとして心の中に仕舞っておこう。




ソル

遺伝で体を光らせたり体温を高くしたりが出来る太陽系魔物との混血。

オブストラクションファッグに常に纏まりつかれていると普通は体温が下がり過ぎて危険だが、ソルの場合は体温を上昇させるコトが可能なので問題無い。


オブストラクションファッグ

魔法を封じてしまう為ヒトにも魔物にも距離を取られがちな霧の魔物。

嘘を吐くのが下手なのか、嘘を吐く時は敬語になるのでわかりやすい。


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