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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
七年生
223/300

狂美少年とミートテンタクル



 彼の話をしよう。

 気が狂う程に美しい顔で、それ故にのっぺりとした仮面をつけていて、将来に不安を感じている。

 これは、そんな彼の物語。





 ガスパレはマネキンのような、のっぺりとした白い仮面をつけている。

 顔全体を覆うモノだ。



「……アナタの場合、顔隠さなきゃなんないのが大変ですわよね」


「ハイ」



 談話室、向かいのソファに座るガスパレは赤みのある茶髪を揺らして頷いた。



「僕の顔は、ヒトを狂わせてしまいますからね」


「ソレが自意識過剰じゃなくてマジだから厄介ですわよねー」



 自意識過剰ならまだ害は無かった。

 しかしマジというコトは、ガスパレの素顔を見るだけで狂うヒトが出る、というコトだ。



「レンミッキも顔が良いのにおかめの面被ってましたけれど、彼女の場合は皮膚が過剰と言える程に過敏だったから、ですしね」


「確かレンカに貰ったんでしたか、彼女のあの怖い面」


「極東では縁起の良い面ですのよ?まあでも、レンカに貰ったのはその通りですわ。ルームメイトだから、って」


「それまでは顔にも包帯を巻いていましたからね、彼女」


「ええ」



 毎日大変そうだった。

 毎日巻き直す必要がある為、毎日毎日全身に包帯を巻いていたのだ。


 ……皮膚をそのまま晒してると周辺の情報を殆ど読み取ってしまうからこそ、サボるコトも出来ませんでしたしね。



「ま、今はジェットクロウが居るから良いですわ」


「そういえば彼がパートナーになってから顔を出しても平気になっていたようですが、ジェットクロウはそういう能力の持ち主なんですか?」


「あら、知りませんの?」


「羽根が宝石で出来ているコトしか」


「彼の羽根、結界になるんですのよ。だからその結界をレンミッキに張るコトで外界の情報をシャットダウンという……わかります?」


「何となく?」


「えーと、例えば砂が入った箱があるとすると、全部砂まみれになりますわよね?」


「ハイ」


「でもそこに板を入れて二分して、片方だけに砂を入れるようにすると、砂が入っていない方は空箱空間のままでしょう?」


「ああ、成る程。接触不可能な壁が発生するから素顔でも平気になった、と」


「そうそう」



 大体そんな感じ。



「しかし、羨ましいですね」



 ふぅ、とガスパレは仮面の向こうで憂いたように溜め息を吐いた。



「彼女の場合、お面をつけていたのは皮膚が過敏だったから。そう、僕とは違う。顔の造形が整っていて、そして面で顔を隠すという共通点があれど、やはり違う」


「アナタの場合、顔見たヒトが狂う美貌なのがどうしようもありませんものね」


「まったくです。結界を張っても意味が無い。僕の顔を見た瞬間に僕の顔に惚れ、首を落とされそうになったコトなど数えきれない程ですよ」


「その顔に見惚れてなんとしてでもこの手に!って方面で気ぃ狂う愚か者多いですわよね。完全に美術品に対しての行き過ぎた感情みたいな」


「僕の命をまったく考えてくれないのどうにかなりませんかね、せめて」


「わたくしに言われても」



 普通に無理。



「…………ジョゼフィーヌは、僕の素顔を見ても平気ですよね」


「というかわたくし以外の透視能力者大体平気ですわよ」


「そう、ソレが不思議でした。ルームメイトもそういう系統の子が選ばれるコトが多いのですが、何故透視能力者は僕の素顔を見ても平気なのでしょう」


「んなモン、透視出来るからこそ仮面の向こうの素顔いっつも()えてますし」


「そうではなく」


「透視して素顔を見ておきながら何故?って部分ですわね?」


「そうです」


「んー、一概にコレ!とは言いにくいんですけれど……」



 個人差あるし。



「わたくしの場合、天使としての遺伝が強めに出てるからだと思いますわ」


「ああ、神の使用人」


「天使はヒトじゃありませんけれどね。まあでも神の使いなので、というのは大きいと思いますけれど……他には、透視能力があるからこそ、でしょうか」


「顔が良いのを見慣れていると?」


「いえ、もっと奥まで()えてるから、ですわね」


「奥……内面?」


「じゃなくて物理的な方ですわ。人間、皮を剥げば皆同じように肉……というか血や筋肉の塊でしょう?もっと奥を()れば骨になる。

正直そこまで行くと大概同じようなモンなので、皮がどれだけ綺麗な造形してようと、結局は血肉入れる用の袋なんですの」


「成る程」



 ガスパレは納得したように頷いた。

 異世界の自分は今の説明にドン引きしているようだが、実際マジでそんな感じなので仕方が無い。


 ……まあ、美しいモノを美しいと認識するコトは出来ますけれど。


 女神の美しさは当然にしても、人間の美しさだって理解出来る。

 美しさに自信を持つアンナベッラや、足の美しさに自信があるブリジット。

 彼女達の美しさには、思わず見惚れるコトもあるくらいだ。


 ……それでも、他のヒトよりは軽めみたいですけれどね。



「だから彼ら彼女らは僕の素顔を仮面越しに見てしまっても、普通に対応してくれるのですね」


「や、まあ、今のわたくしの個人的な考えだからマジで皆そうなのかは不明ですわよ?単純に狂人だからヒトの顔部分の造形に価値を見出していないだけという可能性もありますし」


「ソレも確かに。狂人レベルが高い程他人への興味が無かったりすると考えるとあり得そうだ」



 あり得そうというか、アルティメットレベルの狂人とかは生きてりゃセーフみたいなトコがあるので大体そんなモン。

 生きてればセーフなので五体満足じゃなかろうが無視の息だろうがモーマンタイ。


 ……ええ、だからこそアルティメットレベルの狂人なワケですしね!



「ただ、この先も仮面を被り続けて行くというのはどうなのでしょう。現代では魔眼持ちが多数居るから、目隠しと同様、顔を隠していても特に気にされるコトは皆無に近いモノですが」


「そうですわね、ヒトによっては遺伝による体質で仮面を被っている方も居るワケですし」


「けれどうっかり素顔を見られてしまって大事件、というのはもう起こしたくありません」



 そう言い、ガスパレは考えるような表情で少しの間無言になった。



「…………ジョゼフィーヌ」


「ナンですの?」


「いっそ僕の顔に傷がつけば価値無しと判断されませんか?芸術品は傷がつけば価値は無くなりますよね?」


「そんな発想が出るレベルで愚か者共が不愉快なのはよくわかりましたけれど、多分ソレ意味ありませんわ」


「ありませんか」


「恐らく、ですけれどね。けれど傷があるからこその希少価値というのもあるでしょう?」


「ウッワ」


「寧ろ今までより厄介な、レベル高い愚か者が寄ってくる可能性を考えると、まだ一般受けする方がマシだと思いますの。傷物だからこそ気に入るようなヤツ、明らかにブラックな世界で生きてるとしか思えませんし」


「わ、ワンチャンでブラックな世界に憧れを持つホワイトは」


「その程度のホワイトでもアナタの顔を見るコトで狂ったら途端にブラックにずっぶずぶになりますわよ?そもそも誘拐監禁だけでアウトなんですから」


「うう……」



 ガスパレは疲れたように額に手を当て、深い溜め息を吐いた。



「……見た目とか、そういう次元じゃない魔物とパートナーになりたい……」


「大分メンタル参ってますわね。チョコ要ります?」


「ください」



 チョコはメンタル回復に最適なお薬だ。





 残念ながらガスパレのメンタルはチョコで完全回復とはいかなかったので、とりあえず森を散歩する。

 あの植物は何々であの魔物は何々で、とガイドしながらのリフレッシュコースだ。


 ……単純メンタルならチョコで回復してくれるんですけれど、ね。


 というか何故己は同級生のメンタルケアとかをしているんだろう。

 いやまあ、ついやってしまうのでどうしようもないが。


 ……忠誠心は神だけにですけれど、奉仕癖があるのがどうにもなりませんわね!


 戦闘系天使でもこうなのだから、生粋の天使は大変そうだ。



「……あら」


「どうしました?」


「アレ。アソコに居るのはミートテンタクルですわ」



 どうやら日向ぼっこをしているらしい。



「ミート……エッ」


「?……アッ」



 普通に魔物が居るのを伝えたつもりだったが、ガスパレは硬直してしまった。

 もしや刺激が強過ぎたか、ぬめぬめが駄目なタイプだったんだろうか。


 ……ミートテンタクル、一般受けするかどうかに関しては結構アレですしね。


 なにせ見た目が肉の触手。

 見た目は挽き肉染みており、そこからうねうねと触手を伸ばすのだ。


 ……遠目で見るとピンク色のモザイクにしか見えませんし。


 更に全身を粘液が覆っているので、ヒトによってはキツイだろう。

 己の場合はトイロがよく同人誌に登場させる為慣れたが。


 ……トイロってば、登場させはするけど生態についてあんまり詳しく無かったんですのよね。


 結果編集とかを担当するコトになったのを思い出し、遠い目になってしまった気がする。

 いや多分確定で遠い目をしている。



「な、ナンて……」



 ミートテンタクルをじっと見つめて、ガスパレは仮面の向こうのその顔を赤らめ、言う。



「ナンて素敵な魔物……!」


「あ、セーフというか好みでしたの?」


「とても好みですよ!特にあの不定形っぽいところが!」


「成る程」



 完成されているとも言える自身の美貌により被害を被っていたからこそ、姿を変える不定形が好みだったか。

 まあわからんでもない。



「ちょっと行ってきます。コレ持っててください」


「エッ?」



 ガスパレは仮面を外し、その仮面をこちらに寄越した。

 そして素顔を晒したまま、ガスパレはミートテンタクルのもとへと向かう。


 ……今まで、自分から取ろうとしたコトありませんのに……!


 取ろうとしたコトすら無いのに取ってみせるとは。

 ミートテンタクルに人間の美貌がキくかは不明だが、コレは恐らく、本気というコトなのだろう。


 ……自分の見た目すらも最大限利用して口説き落とそうとしてますわね……。


 まあ他人の恋路にそう口出しするものでは無いので、ここで仮面を預かったまま見守るコトにしよう。

 幸い、目撃者になりそうな誰かが周辺に居たりもしないし。


 ……万が一目撃者が居たら、ガスパレの素顔に狂う可能性がありますものね。



「失礼」


「ハイ?」



 話しかけるガスパレに、ミートテンタクルは触手をうねうねと蠢かせて返事をした。

 首を傾げているような声だった。


 ……まあ、突然話し掛けられたらそうなりますわよね、普通。



「あの……」



 ガスパレはその場に跪き、その凄まじく整った顔を真っ赤に染め、叫ぶ。



「僕はガスパレと言います!その、アナタに一目惚れをしました!もし良ければ、僕のパートナーになってはいただけないでしょうか!?」



 ……思ったより直球ですのね!?



「私を、パートナーに、ですか?」


「初対面でナニを言っているのか、と思われても仕方ありませんが、アナタを一目見た瞬間から胸の鼓動がドクドクと脈打ち、抑えきれませんでした」


「あ、いえ、ソレは嬉しいです!とっても!私は見ての通り、万人受けしない見た目ですから!」



 慌てたようにそう言い、ミートテンタクルはぬちょりと音を立ててガスパレの顔へと触手を伸ばす。

 どうやら頬に手を添えるようにしたかったようだが、触手だからか、粘液に塗れているからか、触れる直前にその触手の動きは止まる。


 ……その位置で停止させているってコトは、触れたいんでしょうけれど。


 しかしミートテンタクルが万人受けしないのは事実だ。

 だって遠目で見ると完全にピンクのモザイク。


 ……だからこそ、好まれるコトが少ないと知っているからこそ、触れるのを躊躇っている、というトコロでしょうね。



「そうなのですか?」


「あ……」



 しかし、ガスパレはその触手に触れた。

 大事なモノに触れるように優しくその触手を手に取って、すり、と頬擦りしている。


 ……わー、トイロが見たら喜んでましたわねコレー……。


 頬を撫でる触手に、頬に付着した粘着性の高い粘液。

 そして頬を染め、ミートテンタクルに熱い視線を送るガスパレ。


 ……ガスパレの顔が良いからこそ凄い光景になってますわー……。



「僕は、アナタを好ましいと思いました。他のヒトが好ましいと思わないなら、ソレは僕だけの宝物に出来るというコト」



 ガスパレは触手から手を放し、ミートテンタクルに向かって両手を広げる。



「どうか、僕のパートナーになってはくれませんか?僕はアナタのコトをよく知らない、そんな人間ですけれど。普段はのっぺりとした仮面で顔を隠している男ですけれど。ですが、この思いは本物です」


「……ふふ」



 ふふふ、とミートテンタクルは微笑むように笑う。



「疑ったりなんて、していませんよ。最初は少し疑いましたけれど、私の触手を手に取って、愛しいモノに触れるようにしてくれて。ソコまでしてくれたアナタを疑う理由がありません」


「……パートナーに、なってくれますか」


「そうですね」



 まるで抱き上げて欲しいと腕を伸ばすかのように、ミートテンタクルは触手を伸ばした。



「私を抱き上げて、愛してくれると言うのでしたら」


「モチロンです!」


「キャッ」



 ガスパレは嬉しくて仕方が無いという笑みを浮かべながら、ミートテンタクルを抱き上げた。



「僕のパートナーに、なってくれるんですよね?」


「……ええ、モチロン。嫌がったりせずこうして抱き上げて、触れてくれましたから」



 そう言い、ミートテンタクルはガスパレの首に腕を回すように、触手を回した。

 ガスパレの上半身がどんどん粘液でぬめっていっている。



「それだけで、私はアナタに惚れました」


「…………」



 ……あら。


 今、ガスパレの口の動きが「……顔じゃなくて?」と言っていた。

 声には出していないようだが、確かに()えた。


 ……顔で惚れさせるという策の為に、仮面取ってましたものね。


 けれど、ミートテンタクルは顔では無いトコロに惚れたと言った。

 それが嬉しかったらしく、ガスパレはへにゃりと締まりのない笑みを浮かべる。



「ソレは、とっても嬉しいです……!」



 強く抱き締め、ガスパレはミートテンタクルに頬擦りした。

 完成された美貌と言えるその顔は、粘液塗れになっていた。





 コレはその後の話になるが、その後もラブラブしていたガスパレとミートテンタクルに声を掛けた。



「ハァイ、ラブラブすんのは良いですけれど、その辺で」


「ジョゼフィーヌ」


「あら、よく森に来ている子ね?」


「ええ、顔を合わせるのは初めてですわね。初めまして、ミートテンタクル。わたくしはジョゼフィーヌですわ。で、ガスパレ」


「ハイ」


「仮面」


「わ、とと」



 持たされていた仮面を放り投げれば、ガスパレは粘液でぬめった手のせいで落としかけたが、どうにかキャッチしていた。



「というかアナタ……好きだからって理由で接触したり抱き上げたりは良いんですけれど、粘液系ならもう少し警戒するようにって授業でも習ったでしょう?」


「エ、ミートテンタクルの粘液ってアウトなタイプなんですか?」


「うーん……私の粘液はアウトってワケでは無いんですけど……」



 言いにくいからか、ミートテンタクルは口ごもった。



「口ごもられると少々怖いんですが……皮膚が爛れたりとか?」


「は、しませんわ。でももう少し警戒は持った方が良いですわよ」


「万が一警戒した方が良いならジョゼフィーヌがストップ掛けるから大丈夫だと思ったんですが」


「同級生の殆どに思ってますけれど、アナタ方毎回わたくしの反応で危険かどうかを判断するの止めなさいな」



 卒業後どうする気だ本当に。



「ちなみにミートテンタクルの粘液ですけれど、要するに媚薬ですの」


「ああ、体温上昇の。通りで先程からぽかぽかしていると」



 本来媚薬とは性的興奮を促したりするモノのハズだが、まあ性欲が無い現代ではそんなモンだ。

 ショウガと同じ。


 ……まあ、性行為をする際にスムーズに出来るから、という理由でミートテンタクルから採取された粘液が売られてたりもしますけれど。


 要するにローション。

 ソレもあって比較的マイナーとされる魔物でありながら、エロ同人誌の登場頻度は高い。


 ……流石に本魔相手にそんなセクハラをカマすなんざ出来ませんけれど、ね。



「じゃあそろそろ日も暮れそうなので帰りますけれど……ガスパレ」


「ハイ?」


「ミートテンタクルは出来るだけ抱き上げるようにしなさいな。彼女の場合、常に粘液に覆われてますもの。食堂や談話室、教室ならともかく、廊下や自室は自動で掃除されたりしないんですから」


「ああ、確かに。粘液で滑って転ぶ生徒が居たら大変ですしね」


「そーゆーコトですわ」



 察しが早くてとても助かる。




ガスパレ

見たヒトがその美しさに思わず狂う、くらいには顔が良い為、常にのっぺりとした仮面をつけている。

完成された美しさの顔に振り回されて来たからか、不定形なミートテンタクルに一目惚れした。


ミートテンタクル

ミンチのような肉の塊であり触手を生やすコトが可能な粘液纏ってる系魔物。

その粘液は媚薬だったりと色々アダルトだが現代人は性欲が死滅している為、遠目から見るとモザイクだなあくらいの感想しかない。


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