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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
七年生
222/300

眷属少女と金の神



 彼女の話をしよう。

 極東からの留学生で、魔力はあれど魔法が使えず、神に魂を縛られている。

 これは、そんな彼女の物語。





 談話室でカンナと向かい合いながら、相談を受ける。



「ジョゼ」



 白に近い水色の髪を揺らすカンナの目の下には、メイクのような赤い隈取りがあった。

 メイクでは無く、どうしても落ちない痣のようなモノだそうだが。


 ……まあ、気配察知出来ないヒトからしたらそういう感覚になりますわよね。



「アナタ、前に言ったわよね」


「ナニをですの?」


「私が魔法を扱えない理由よ」



 カンナは湯のみを両手で持って緑茶を飲みながらそう言った。



「私は何故か、魔法が扱えないわ」


「知ってますわ」



 魔法の授業でも座学だけ受けているし。



「でも魔力自体はちゃんとある。ジョゼもそう言っていたから間違いは無いでしょう?」


「ええ」



 ……そう、魔力はあるんですのよね。


 ただし何故か魔法にならない。

 普通ならば目に見えない、己の目でも認識が難しい、姿すら無い精霊に言葉と魔力で呼びかけ、魔法というカタチに作り上げてもらうもの。


 ……空気のように、全ての魔力と馴染んでるし、目視出来ないし、意思があるような無いようなってコトで認識がほぼ出来ませんけれど。


 しかし確かに、魔物として認識される程では無い精霊が居て、その精霊達が魔力という材料から呪文という名の注文を受け、魔法という品物を完成させるのだ。

 だが、カンナの場合は何故かソレが成立しない。



「魔力は確かにあるし、発動するまでの魔力の動きも正常。別に精霊に嫌われるタイプというワケでもない」


「精霊に嫌われるタイプなんて居るの?」


「んー……妖精の場合、鉄を嫌う傾向にありますわね。精霊に関しては、まあ、極端なコトを言うと鉄って金属ですけれど結局は土属性みたいなトコもあるのでうーん」


「オッケー、ごめんなさい。とにかくここは重要じゃないのね」


「ええ。カンナが魔法を使えない理由は精霊に嫌われてるから、ではありませんし。クラスメイトの精霊系パートナー相手でも別に嫌われてないでしょう?」


「成る程、ソコで確認を……」



 正確には肉眼では()えない小さい精霊達が避けたりはしていないようなので、という判断なのだが、まあ良いか。

 間違ってはいない。



「で、ナンで魔法にならないかですけれど、魔力を呪文と共に渡すトコまでは正常なんですの。ただし……えーと、要するに本棚作ってもらおうとして木材と注文書渡したは良いけど、木材が煙のように消える、みたいな」


「わかりやすい説明で助かりはするけど……煙のように?」


「ナンか消えてんですのよね。どうもカンナの肉体から魔力が出た瞬間、出た分の魔力がどっか違う場所に転移しているというか……」


「……理由、わかったりしない?」


「まあわかったりしないかと聞かれるとわかるというか、わかってはいますけれど」


「ハ!?」



 カンナは目を見開いて机を叩きながら立ち上がった。



「ナンで黙ってたのよソレを!?」


「わたくしにゃどーにも出来ないし、わたくしが言って良いコトなのか判断出来ないから、ですわ」


「……成る程」



 己の返答を聞き、カンナは溜め息を吐きながら座り直した。



「つまり、相手は神ってコトね?ジョゼがそう言うってコトは」


「ザッツラーイト」



 肩を軽くあげておどけたポーズをするしかない。



「ちなみにいつから気付いてたの?」


「初対面から」


「ハ?」


「その隈取り、あるでしょう?目の下の赤いやつ」


「ああ、コレね。昔は無かったんだけど急に出来て全然消えもしないし白粉を塗っても消えなくて…………原因コレなの?」


「ある意味」


「ある意味って?」


「多分ソレ、神によるマーキングですわ。この子は自分のモノ、っていう」


「心当たりがない……」


「んでもってソレは契約っぽくもあるんですのよね。感覚的には天使に近い、眷属系のモノですわ。だから魔力がどこかに消え、魔法が扱えないのでは、と」


「どういう意味?」


「んー……眷属って要するに、神の私物みたいなモンなんですのよね。で、例えば万年筆があるとして、持ち主不在で万年筆が勝手に文字を書いたりはしないでしょう?

仮に書けたとしても、インクを勝手に使ったり、文字を書くのは許されない。だって神の私物である以上、神の管轄内ですもの」


「つまり私がその万年筆で、インクは魔力、文字は魔法ってコトね。私にこの隈取りを刻んで眷属にしている神に許可を取らないと使用不可能、と」


「そうそう」


「いつの間に眷属に……」



 カンナは疲れたようにソファの背もたれにもたれ掛かって、額に手を当てて天井を仰いだ。

 色々新情報が過多だったのか、その目は伏せられている。



「強いて言うとまだ眷属じゃありませんわよ?」


「そうなの?」


「ええ、あくまで人間。ただし眷属として予約されてるから、現状はまあ大丈夫としても……死後の魂は眷属化一択でしょうね。うっかり神気とか大量に注がれない限りは」


「ちなみに神気を大量に注がれると?」


「生きたまま眷属化ですわ」


「ナニよソレぇ……」


「あとカンナ」


「ナニよ、まだナニかあるの?」


「背もたれの上の部分に寝転がってアナタの顔を覗き込んでるその狐がアナタを眷属化しようとしてる神のようですわよ」


「エ?」



 カンナは視界を遮っていた手を退けて目を開ける。



「クカ、クカカ、いやはや、ここまでまったく気付かなんだなあ」



 そう言ってニヤリと笑うのは、黄金色の毛並みを持つ狐の神だった。



「ああああああああ五歳の時に迷い込んだ森でモフモフした狐えええええ!」


「クカカカカ!」


「うるっさ」



 しかしどうやらカンナには見覚えがあったらしい。

 紅茶が美味い。





 とりあえずカンナを隣に座らせて落ち着かせた。

 神である先程の狐は、ついさっきまでカンナが座っていたソファに座っている。



「あ、茶を貰うぞ」



 そう言った狐の神が顔に手を触れ斜め上に手を動かすと、その顔はヒトの顔になった。

 手も狐の手から人間の手に。


 ……狐の面が、斜め掛けになってますわね……。


 どうやらヒト型に化けたらしい。

 神は省エネモードとして動物になったりヒトになったりするのでわからんでもない。



「うむ、美味い。さてカンナ」



 カンナは己の背に隠れるようにしてビクリと跳ねた。



「モフモフせんのか?」


「今のアナタ、モフモフしてないじゃない」


「まあソレはそうなのだが、この姿で無いとお主らが不便であろう」


「不便?」


「ナニも無いトコロに話しかけていると思われたくはあるまい?」



 そう言って狐はニヤリを笑った。



「……ナニも無いトコロ?」


「さっきまでのこの方、普通なら()えないようになってましたわ。多分狐状態が本来の姿なんでしょうけれど、人間の肉眼が適応していない。

認識出来ない高度に位置しているから……えーと、要するに傍から見たらわたくし達はナニも無いソファに話しかけてるように見えるってコトですわ」


「エ、私別に霊視とか出来ないけど見えてたわよ?」


「アナタの場合その隈取りがあるじゃありませんの。自分の主を目視出来ない眷属なんざいませんわ」


「クカカ、その通り。そちらの嬢ちゃんも似たような理由であろうよ」


「ン?」



 己が()えた理由は名も知らぬ神からの加護だ。

 つまりまあ、似たような理由というのは間違っていないと言えるだろう。


 ……一瞬疑問に思いましたけれど、まあ神同士ならわかっても不思議じゃありませんわね。


 こういうのは縄張りの主張みたいなトコもあるし。

 そう思うと本当にマーキング。



「……で、どうして私がアナタの眷属になってるのかしら?」


「正確にはまだ眷属にはなっておらぬ。まあ、望むのであれば今すぐに眷属にしても」


「結構よ!」


「ソレは残念」



 狐は楽しそうに笑った。



「ええと、ところでアナタはナンの神ですの?」


「わからんか?」


「多分金の神、だとは思いますけれど」


「うむ、その通り」


「かねのかみ?」


(きん)では無く、お金だと思いますわ、この感じ。だからカンナも眷属未満とはいえ加護があり、お金に困るコトが無かったんだと」


「た、確かに困ったコトは無いけど……」



 カンナは不思議な程お金がやってくるタイプなので、よくどうお金を消費するかを話し合うのだ。

 過ぎた大金は身に余る。



「……でも、狐だものね」



 極東で狐の神は、五穀豊穣や商売繁盛を司るらしい。

 だから極東出身であるカンナもわからなくはないようで、納得したように頷いていた。



「とはいえ、どうして私が眷属……未満になっているのかしら」


「ソレは当然、カンナ、お主が儂をモフモフしたからだな」


「ハ?」


「したであろう、あの時。森に迷い込んできて、ただの狐だと思って頬を赤らめ目をキラキラさせて。いやはや、実に愛らしい子供であった」


「いや、でも、狐姿って見えないんじゃ」


「七つまでは神の子って言われてるからか、幼少期は結構()えるヒト多いみたいですわよ」


「うむ」



 金の神はニッコリと笑う。



「で、儂は久々に儂が見える子に出会えて嬉しかったのと、狐に好意的だったのと、実に愛らしかったのでな。要するに気に入った」


「あー」



 神に気に入られたらもうその先は一択だ。



「だから死後に眷属として迎え入れようと思い、魂を軽く縛っておいた」


「軽く言うコトじゃないわよねソレ!?」


「その場で連れ帰らんかっただけ良かろう。ちなみにその隈取りは儂のモノだとすぐわかるよう、目印として付けたものだ」


「…………ああ、うん、そうよね、ええ、わかってたわよ。神ってそういうトコあるわよね」



 ……まあ、神は結構、自分を貫き通すトコはありますわね。


 基本的には来るもの拒まず去るもの追わずなのが神だ。

 とても大らかで、大木のようで、お爺ちゃんのようで。


 ……でも、だからこそ気に入った時の動きが結構えげつないんですのよねー……。


 普段はスルーしているだけであり、考え方は結局のところ神基準。

 お気に入りを手元に置いて可愛がりたいタイプが多い神が本気になれば、もう逃げられない。


 ……神がっていうか、神も女神も本気になったら人間が逃げられるハズもありませんけれど。


 自然相手に立ち向かえるハズが無い。

 台風に呑み込まれて死ぬよりはソッコで両手を上げておいた方が楽だ。



「ただ、気になるコトがあるの」


「ふむ?」


「私の魔法!使えなくしてるのアナタよね!?」


「使えなくとは失礼な。使う為の順序を守っておらんから、それだけだ」


「順序?」


「言ったであろう?儂は金の神だとな」



 金の神はニヤニヤと笑う。



「クカカ。そう、儂は金の神。魔法を使用するには儂の許可が必要となる。許可を得るにはどうするか。つまり神に支払う対価が必要となる。で、儂は金の神だとすると?」


「お揚げ?」


「狐の神でもあるから間違ってはおらんが、金の神という側面が強いからな。要するに金が要るのだ。賽銭がな」


「わ、私の魔力でしょ!?」


「あー、違う違う。お主儂の眷属になっとるから別に魔力無しで魔法使えるぞ」


「エッ」


「要するに魔力の代わりに賽銭が必要になっておるというコトだ。ホレ、今まで消費した魔力分の金」



 そう言って、金の神はカンナの手の上にじゃらじゃらと大量のお金を出した。



「お主が発する魔力を儂が買い取る。そうするとお主は金を得る。その金を賽銭として奉納するコトで儂の許可が下り、魔法が発動。やってみろ」


「やってみろって」


「金を持つなり投げるなりしながら唱えれば良い」


「…………美味しいお水で、器を満たしてくれるかしら」



 カンナがそう呪文を唱えた瞬間、カンナが握っていた金が消え、空になっていた湯飲みの中が魔法で出した水に満ちた。



「凄い……!」



 ソレを見て、カンナは頬を緩ませ、瞳をキラキラ光らせる。



「見て、見てジョゼ!私魔法を使えたわ!」


「ええ、見てましたわ」


「クカカ、お主の笑みはやはり愛らしいな」



 金の神の言葉に、カンナは少しムッとした表情に変化する。



「というかコレ、無駄が多くないかしら。魔力をお金に変換してからお金を支払って魔法にするだなんて」


「魔力を精霊に渡して魔法にするのと……まあ、変わるか」



 ふむ、と金の神は顎をさする。



「しかしその手間があるコトで、儂の神格も上がるというもの。将来は儂の眷属になるのだし、金さえ払えば大きい魔法とて扱えるのだ。そう気にする程のコトでもあるまい。慣れろ」


「ソレよ!そもそも眷属とかナニもアプローチ無かったのにどうしていきなり顔出したの!?前触れすらも無く!」


「む?そんなモノ、接触すれば連れて帰りたくなるからに決まっておろう。せめてある程度成長し、ああこの子はこうしてここまで成長し、まだまだ成長するのだな、と実感出来るようにならなくてはな」


「ああ、成る程。そのくらいの成長が無いと待ちきれなくてもう連れ帰っても良いんじゃないかってなるんですのね」


「うむ。眷属にするとその時点で人間とは時間の流れが変わり、成長が無くなる。幼過ぎては永遠に幼いままになってしまうからな。成長を見守るのもまた醍醐味だろうよ」


「……あの、ジョゼ?凄くさらっと肯定してたりするけれど、私が眷属にされるのって合意じゃないんだけど、ソレに関してコメントとか」


「天使にソレ聞きますの?」


「ああもう神への絶対服従種族!」


「あとまあ特に損するコトも無いっぽいですし。無理矢理連れてかないだけ良心的ですわよ、金の神。ソレにカンナ自身、別に嫌っているワケでも無いように()えますけれど」


「確かに嫌いとは思ってないけど、色々情報過多過ぎて付いていけないからイヤなのよ!」


「別に今すぐ眷属にはせんからそう焦らずとも良いぞ?五十年程度ならば昼寝時間程度だ」


「神の時間間隔アバウト過ぎないかしら……」



 アバウトというか、単純に寿命云々による体感時間の問題だと思う。





 コレはその後の話になるが、カンナは色々諦めたらしい。

 諦めたというか、極東人によく見受けられる、今は深く考えないコトにして考えるのを先延ばしにしているらしい。


 ……ま、本人がソレで良いなら良いんですけれど。


 カンナにピッタリくっついて行動している金の神も楽しそうだし。



「そういえば金の神に聞きたいコトがあるんですけれど」


「ふむ、良かろう。答えられるコトならば答えるぞ?」



 ヒト型姿の金の神は、にんまりと笑って指でお金のジェスチャーをした。



「モチロン金の神である以上、金は貰うがな。奉納する賽銭に応じた答え方になるぞ」


「ジョゼは天使なのに?」


「儂の眷属では無いからな。身内じゃないのにタダ働きをする阿呆はおるまい。儂金の神だからその辺はキッチリせんとな」


「そうね、眷属未満の私ですら面倒臭い手順があるものね」



 カンナは不満そうにそう言った。

 どうやらまだ納得いっていない部分はあるっちゃあるらしい。

 さておき、ソレをスルーして己は金の入った袋を金の神の前に置いた。



「とりあえずコレで」


「お主本気過ぎぬか……?」


「大体皆はぐらかすんですもの。あと折角のお金手放せるチャンスですし、相手神なら勿体ぶる必要ありませんし」


「あー、まあ、良いか。基本的に神相手には気持ち多めに渡す方が良いのも事実。適当なモノに金を流せば入ってこなくなるが、使いどころが正しければソレはより良いカタチで戻ってくるもの。

……で?ナニが聞きたい」


「わたくしのこの目」



 己の目を指差して言う。



「今のトコ、どっかの神がわたくしにこの視力を加護としてくれたっぽいコトしかわかってないんですのよね。で、その方がわたくしの運命の相手っぽいんですけれど……どういう方か、わかったりしませんこと?」


「ん?それだけ濃く太い縁でありながら知らんのか?」


「知りませんわ。物心ついた時からこの視力でしたし」


「ほう……」



 金の神はとても驚いたと言わんばかりに目を見開いた。



「いや、コレは自分のお気に入りだと主張する匂いが強かったからそばに居るのだろうと思っていたが……ふむ」


「匂い?」


「他のヤツはただ主張する圧にしか感じぬだろうがな。同属だからか儂は匂いもわかる」


「同属……金関係の神というコトですの?」


「いや、狐だろう」


「狐の神……」



 一体いつ狐と出会ったのだろう、自分。

 確かに故郷は比較的田舎なので近くの森に狐系魔物が居たりはするが、その辺りでは無いのはとっくの昔にわかっているし。


 ……異世界のわたくしですら知らないんじゃもうお手上げですわよねえ……。


 四歳の時に異世界の自分の記憶がINし、そこからの記憶は大体ある。

 だがそれ以前の記憶は普通に曖昧であり、この視力はその前から付与されていたモノ。


 ……でも、狐だとわかっただけでも大進歩、ですわ。



「でもどうして狐の神がこんな視力を付与させるコトが出来るんですの?狐の加護だとすると、基本的に商売繁盛とか五穀豊穣とか、そういう系統ですわよね?」


「商売繁盛、というか金の縁に関してはカンナと同じくお主も心当たりはあると思うが?」


「ア」



 確かに、お金に困ったコトは無い。

 お金があり過ぎて逆に困るくらいにある。


 ……貰ってた加護、視力だけじゃ無かったんですのね!?


 初めて知った。

 通りで使ってもその分以上に収入があるワケだ。



「でも、やっぱり謎ですわ。狐に視力が良い逸話なんて……」


「知らぬのか?」


「エ、あるんですの?」



 極東特有のモノだろうか。

 そう思いカンナを見るも、心当たりはないと首を振られた。



「狐の窓」


「あ、ああー……成る程」


「知ってるの?ジョゼ」


「妖怪の正体を暴いたりする為のモノですわ。指でこうやって覗き込むと、狐が化けていたりするのを見破れる、という」


「クカカ、正体を見破られる側が狐ではあるが、狐の窓という呼び名だからな。そりゃ狐がそのような能力を有していてもおかしくはあるまい」



 金の神は楽しげに笑う。



「恐らく加護を与える際にナニか良いモノを、と思い、その視界を与えたのだろうよ。化かされるコトが無いように、とな。

金に困らぬ加護があるコトを考えると、ソレを得る為化かそうとするモノを暴き見抜くその視界はとても役に立ったであろう」


「……そう、ですわね。とてもお世話になってますわ」



 今更失ったら、きっとナニも見えないと同義だろう。

 それ程までに、この視力に慣れていて、馴染んでいる。


 ……まあ、物心つく前からですしね。


 正直言って異世界の自分の記憶がINするまで、透視が出来ない視力の方が理解出来なかったくらいなのだから。



「でも、どうしてソコまでの加護をくれたのでしょう」


「儂が知るか。同じ狐ではあるだろうし、そちらの方が位は上だろう。位が上がればそれだけ価値観も合わぬようになる。儂が理解出来るようなモノではあるまいよ」



 だが、と金の神は緑茶を啜りながら言う。



「だが、まあ、儂と同じく、ナニか嬉しいと思うコトを、お主がしたのではないか?」


「嬉しいと思うコト……」


「もっともその神の場合はただ、お主が七つの頃にその加護を失うと思っていたのやも知れぬがな。随分と相性が良く使いこなしていた為、そこまでに成長したようにも見える」


「ア、ソレはソレで心当たりが」



 占い師であるクラリッサにそんなコトを言われた覚えがある。



「ま、悪いコトではあるまいよ。説明は以上だ」


「ええ、しっかりと説明していただけて助かりましたわ」


「ソレは良かった……ああ」



 ふと思い出したように、金の神は懐から饅頭を出した。

 馬糞では無いちゃんとした饅頭だ。


 ……まあ、狐とはいえ神が馬糞を饅頭に化かすコトはしないでしょうけれど。


 金の神は青い包みの方を己に、赤い包みの方をカンナに渡した。



「そういえば渡そうと思っておったのを忘れていた。美味いぞ」


「いただきますわ」



 安全であるコトをこの目で確認して、己は青い包みを開けて饅頭を頬張った。

 うむ、漉し餡。


 ……個人的に漉し餡派だから嬉しいですわね。



「じゃあ私も……」


「あ、カンナ、ソレ神気ガッツリ仕込まれてるから食べたら眷属に近付きますわよ」


「捨てるわ」


「待て待て捨てるな。というか何故言うジョゼフィーヌ。折角食べてくれそうだったというのに」


「いや、まあ、流石に友人として見ない振りをするワケにも行きませんでしたし……金の神から言わないようにとストップ掛けられてもいませんでしたし」


「つまりジョゼはストップ掛けられてたら言わなかったってコトね。オッケー、これから金の神が渡してくる食べ物は絶対口にしないわ」


「ムゥ……包みを別にしてジョゼフィーヌの方のみ普通にし、そちらを食べる姿を見れば警戒を無くすかと思ったのだが……」



 やり口が完全に故意。

 そこまでして眷属にしたいのかと思うが、表情はソコまで本気でも無いので、あわよくば、という感じだったのだろう。

 あわよくばのスケールが神過ぎる。




カンナ

名前は漢字で書くと神和。

幼少期にほぼ眷属化された為、魔力はあれど神の許可無しに魔法を使用するコトが出来なかった。


金の神

金狐であり、狐状態では普通の人間から見えない為、普段は狐の面を斜めに装備した人間に化けている。

ヒト気の無い森の奥のお社で、人間達に忘れ去られて寂しくしていたらカンナがやってきてモフモフして来た為、思わず眷属化してしまった。


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