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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
七年生
220/300

不運少女とアミュレットペンデュラム



 彼女の話をしよう。

 運が無くて、やたら災難に遭っていて、それなりにタフに生きている。

 これは、そんな彼女の物語。





 歩いていたら向かいから来たヤルミラがコケたので、首根っこを掴んでコケるのを阻止する。



「ハァイ、ヤルミラ」


「あ、ありがとうございます、ジョゼ」



 一回持ち上げてから着地させると、ヤルミラは少し乱れた灰がかった茶髪を手櫛で梳く。



「相変わらずコケやすいというか……もう少し気をつけなさいな」


「すみません、助かりました」



 えへへ、とヤルミラは笑う。



「って、そうだ!私ジョゼに用があって探してたんですよ!」


「用?わたくしに?」


「そうです!私の不運をどうにかして」


「無理ですわ」


「即答ですか!?」



 ショックを受けられても、専門外なのでどうしようもない。

 喧嘩を売ってくる悪を軽く潰して欲しいとかならまだしも。


 ……いや、これまだしもって言って良いヤツじゃありませんわね。



「だって、ヤルミラってこう……選択肢で必ず駄目な方選択するタイプじゃありませんの」


「し、してません!勝手に不運が舞い込んでくるだけです!私の意図じゃないですもん!」


「そりゃ意図的に不運カモンはしないでしょうけれど」



 しかし少し歩けば転び、慣れない場所では必ず迷子になり、崖の上に行けば崖が崩れ、頼んだ料理は基本的に間違われるか品切れ状態。

 森の中に入っても通り魔のような突撃系魔物に突撃されるコトも多いそうだし。


 ……料理に関してはまあ、学園の食堂ではほぼ間違えられませんけれど、その分品切れが多いのが難点ですわよね。


 そしてヤルミラは不運だからなのかナンなのか、襲撃されるコトが多い。

 それがまたヤルミラ狙いじゃないから面倒だ。


 ……勘違いとかヒト違いで襲撃されるとか、ヤルミラも大変ですわよね。


 あと変なのに目をつけられて喧嘩を売られる、というのもよく見かける。

 まあヤルミラもよくあるコトで慣れているからか、助ける間も無く迎撃しているが。


 ……制服とか靴下に石詰めて即席鈍器作ってますものねー……。


 ソコで魔法使わない辺りが慣れてる感強い。

 もっともこの学園の生徒の殆どは魔法を攻撃に使わないが。


 ……魔法って普通に殺傷力高いから、どっちかというと生活補助に使うのがメインって感じですわよね。


 武器はヒトによるが、素手なら体術授業取ってる生徒は手加減が出来る。

 手加減無しでうっかりやらかすよりは、手加減可能な拳で潰した方が色々楽だ。


 ……わたくしの場合、拳っていうか関節狙いですけれど。



「というかですね、別に私、ジョゼに私の不運をどうにかして欲しいって頼みに来たワケじゃないんですよ?」


「あら、違いましたの?」


「はい」



 ヤルミラは少し不機嫌そうに頬を膨らませて言う。



「私はただ、私の不運をどうにかしてくれそうな幸運系の魔物は居ませんか?って聞こうとしただけです」


「成る程」



 やたらと色々押し付けられるせいで己への頼み事かと思っていたが、違っていたようで一安心。

 確かに魔物系の知識なら自分に聞きに来るのもわからなくはない。


 ……ええ、普通はフランカ魔物教師に聞くものだと思いますけれどね!


 まああのヒトは自由にフィールドワークしてるのが似合うヒトなので良いとしよう。

 色々お世話になっているコトも考えると、このくらいは許容範囲内だ。


 ……わたくしでも答えれる範囲ですし。



「にしても今まで不運に関しては放置でしたのに、ようやく気にし始めたんですの?」


「確かにジョゼは前から気にした方が良いんじゃないかって言ってくれてましたね……」



 そう、流石に命の危険がある不運もあるから忠告はしていた。

 ただ本人が、「いつものコトですから」とスルーしてくるだけで。



「幼少期からずっとそうなら慣れても仕方ないと思ってましたし、本人にその気が無いのなら死なない限りは放っておきましょう、と思ってましたけれど……」


「待ってください死なない限りはって死んだら手遅れですよね私!?」


「……死ぬような不運が舞い込まない限りは放っておきましょう、と思ってましたわ」


「ア、微妙にマイルドになった……」



 後付けなのでそれで良いかは微妙だし、ヤルミラもそう思っているのか微妙な表情。

 やはりオブラートはあまり必要無いものなのだろう。



「んで、今更気にし始めた理由は?」


「単純に最近命の危険が増えてきて、そろそろ死ぬかなって」


「あらまあ」



 異世界の自分が反応が呑気過ぎると言っている気がするが、前からそうなるだろうなと思っていたので今更今更。

 対処を後に後にと後回しにした結果ケツに火がついて走り出す羽目になるのは本人である。


 ……わたくし、ちゃんと忠告しましたしねえ。



「つっても自分で調べたりはしませんでしたの?」


「調べようとしたら本が頭に直撃して気絶したり、司書の声で再起不能になったりしちゃって……」


「あー、成る程」



 確かにランヴァルド司書の声は強い。

 強いというか低過ぎて腰が砕けるのだ。


 ……もう七年あの声聞いてますけれど、それでも腰が砕けますものね。


 寧ろ一年の頃よりも低さに磨きがかかっている気がする。

 慣れるよりも早くあっちがより高みに君臨してるのどうにかしてくれないだろうか。


 ……それでもわたくし含めて図書館利用する生徒は結構居るから、皆タフですわよね。


 まあこの学園、その辺でパートナーに食われて笑ってる生徒が居たりもするから自然とタフにならざるを得ないのだろうが。

 さておき、幸運系の魔物か。



「うーん、幸運系の魔物は結構居ますけれど、アナタの場合は幸運系よりも危険回避系の魔物が良い気がしますわ」


「そうなんですか?」


「看板落ちてきてアナタに直撃魔物は無事、ってなる可能性あるじゃありませんの」


「ウ、あり得るからこそ凄くイヤです……」


「でしょうねえ」



 それに幸運系とは要するに不運を相殺出来るかどうか。

 幸運が上回れば良いが、ヤルミラの不運が上回れば多少の軽減以外に意味は無い。


 ……しかもヤルミラ、どうも年齢と共に不運レベル上がってますし。


 ならば最初からそういうのに対抗する為の魔物を探した方が良い。

 危険回避系の場合、危険があるという前提だからこそ色々気にしてもくれるワケだし。



「で、危険回避系の魔物って?」


「そうですわねー……色々居ますけれど、出来れば無機物系が良いと思いますわ。身に着けられるタイプの魔物」


「動物系じゃ駄目なんですか?」


「んなモン少し離れた瞬間アナタが足捻るでしょう」


「ひ、否定出来ない……」



 少し目を離した瞬間に怪我をするのがヤルミラだ。

 まあ己の場合は目を離すという感覚がそもそもあまり無いので、ある程度守るコトは可能だが。





 危険回避系魔物を無機物問わず、とりあえず教えれるだけ教えた。

 見つけれるかは本人次第だと言ってその後は任せたが、まさか数日足らずで見つけ出すとは。



「……アミュレットペンデュラム、ですわよね、その首飾り」


「ハイ!沢山助けてくれたんですよ!」


「ソレってアナタが葉っぱ塗れで髪ボッサボサになってるのと関係あったりします?」


「大アリだ!」



 ヤルミラの胸元で、菱形にカットされている宝石、アミュレットペンデュラムは跳ねながらそう言った。



「この娘!我が輩が木の上から見ていたらまったくもって見ていられぬ!」


「はあ……具体的には?」


「我が輩が森の中を適当に彷徨っていたら、この娘はコケた。そしてコケた先、頭が直撃するだろう位置に尖った岩」


「うっわ脳みそミートソースになりますわよソレ。ヤルミラ頭グジャッてなってませんわよね?」


「見ての通り無事ですよ!」



 えっへん、とヤルミラは胸を張ってピースした。



「というか怖い擬音止めてください!」


「ソレ言う前に胸張ってピースしてちゃあんまビビってるようにも聞こえませんけれど、まあ良いですわ。それで、無事というコトはアナタがヤルミラを助けてくれたんですの?」


「まあ、そうなるな。我が輩は浮くコトで自立移動が可能なので、そのままこの娘の……ヤルミラの首に我が輩の紐を引っかけ、横に引っ張って軌道をずらした」


「アレ首絞まって一瞬死ぬかと」


「助かったコトを喜べ」



 まったくだ。

 危うく岩周りがミートソースぶちまけた状態になるトコだったのだろうと思うとゾッとする。



「正直言って我が輩はそのまま別れようとしたのだが、直後振動が響いてな。猪突猛進系魔物が突進してきていたから慌てて木の上に逃げろと指示を出した」


「ゲホゲホしてたんですけど、凄い焦ったように言うので慌てて登りました!」


「あのままだったら確実に直撃して跳ねられていたぞ……」


「うっわー……」



 思っていた以上に不運レベルが上がっている。

 完全に命の危機が連続してるし。



「その後も別れようとするタイミングで不運が発生するものだから、これはもしや我が輩が離れたら死ぬのでは?と思ってな。仕方なくこうして同行したワケだ」


「お疲れ様ですわ、いやホントに」


「でもホント凄いんですよアミュレットペンデュラム!危険が迫ってるとバイブレーションして教えてくれるんです!あと浮いて引っ張るコトでコケそうになるのを防いでくれたり、安全な道を光って教えてくれたり!」


「まあ、アミュレットペンデュラムってそういう魔物ですものね」



 危険に反応しバイブレーションするのがアミュレットペンデュラムだ。

 ちなみに危険度が高い程振動は激しくなるのでわかりやすい。


 ……安全だったり良いコトがある方には光ったりしてくれますし、自力で飛んで動けるからこそ方向を間違えたりもしませんしね。



「にしても……別れようとするタイミングでナニかしらトラブル発生となると、離れられませんわよね、ソレ」


「いや、ここまで来たならば大丈夫だろう。そう簡単に不運が襲ってくるはずもない。我が輩はもう少しその辺をうろつくつもりだから」



 そう言いながらアミュレットペンデュラムがヤルミラの首から外れようとすると、突然アミュレットペンデュラムが振動し始める。

 同時に、上空を飛んでいた鳥系魔物が咥えていたデカイ釘が真っ逆さまに、ヤルミラの脳天狙ってるとしか思えないフォームで落ちてきた。



「何事だ!?」


「ハイちょいと失礼」


「キャッ」



 首から外れようとして菱形の先が上向いてたせいなのかアミュレットペンデュラムも上空からだと気付いていないらしいので、声を掛けてからヤルミラを掴んでこちら側に引っ張る。

 直後、地面にサクッと釘が刺さった。



「……あの、コレもしかして、私死ぬトコでした?」


「直撃してたら死んでた可能性ありますわね」


「ヤダー!ヤですよそんな死に方!というかこんなのどう避けろって言うんですか!?

怖いヒトが絡んでくるくらいなら近くにあるレンガで頭叩けば大人しくなってくれるからどうにか出来ますけど、上空からの釘は無理ですよ!?」


「うーん、普通は絡んでくる怖いヒトの頭にレンガを振り下ろしたりはしないんですのよー?」



 まあヤルミラはそこまで力があるワケでは無い分、武器で攻撃力を強化したかったのだろう。

 あと怖いヒトは大概面倒臭ェヤツが多いので、一撃で意識刈り取ってしょっ引いてもらうのが一番話が早い。


 ……そう考えると、その辺に落ちてて攻撃力高いレンガってのは間違ってないんですのよねー。



「……うん、とりあえずアミュレットペンデュラムはそのままヤルミラと一緒に居てくださいませんこと?じゃないと多分、またヤルミラの命が危険な状態になりますわ」


「何故だ……!」


「多分危険回避系魔物であるアミュレットペンデュラムだからこそ、ヤルミラの不運を抑制しているのかも」


「あの、ジョゼ?もしそうだとしたら私の命が危険になるのおかしくないですか?」


「いやほら、多分押さえつけてたのが噴出してるんだと思いますわ。外そうとした瞬間に、というのはほんの少し開いた瞬間程、勢いよく飛び出るものでしょう?ホースみたいな」


「あ、ああー……」



 ヤルミラは納得したように頷いた。

 そう、今はホースの先に蓋をしたようなもの。


 ……少し外そうとするだけでも結構な圧で漏れるのに、全部外した瞬間、押さえつけてた分がどうなるコトやら……。


 一応アミュレットペンデュラムにはそういった良からぬ部分を浄化する効果もあるらしいので、長時間つけていれば逆にその不運が浄化され良い方向に行くだろうが、今はまだ浄化されていないのでアウトだ。

 時間経過でプラマイプラスだが、今外すとプラマイマイナスになってしまう。



「んーと、だから出来ればしばらく一緒に行動してやってくださいな」


「……長期間一緒に居れば、我が輩が浄化可能だからか」


「お察しの通り」


「だがアレは我が輩の中に吸収するもの。白い紙にインクを吸わせるのと同じコトだ。容量をオーバーすればその時点で我が輩は」


「でもアナタ、洗えば吸収した分の穢れが落ちますわよね」


「貴様比較的マイナー寄りのハズの我が輩の生態について詳しいな」


「魔物の授業では上の上をキープしてますもの」



 ニッコリ微笑んで返すと、アミュレットペンデュラムは諦めたような溜め息を吐いた。





 コレはその後の話になるが、アミュレットペンデュラムは色々諦めたのか、ヤルミラの不運っぷりを見て放っておけないとなったのか、大分積極的にヤルミラを助けている。

 まあヤルミラの場合本当にシャレにならんので、理由は後者なのだろうが。



「コラ!ヤルミラ!我が輩をちゃんと見ぬか!」


「エッ?って、ヤダ凄い振動してるじゃないですか!」


「さっきからしておったわソッコで気付け!お主の命に関わる部分なのだぞ!?」



 王都でアイスを食べながら歩いていると、ヤルミラとアミュレットペンデュラムのそんなやり取りが()えた。



「ええいとにかく動揺よりもまず移動!避難!今すぐに三時の方向に行き先変更!ソコの雑貨屋で数分時間を潰して回避しろ!さもなくばまた巻き込まれるぞ!」


「アミュレットペンデュラム!」


「ナンだ!」


「いつも助けてくれるのはありがたいし実際不運に遭遇する確率低くなったしでありがたいんですけど」


「時間が無いのだ簡潔に言え!」


「三時の方向ってどっちですか!?」


「雑貨屋と言ったのだからわからんでも察せるハズだろう!?」


「だって雑貨屋さん複数あるじゃないですかあ!」


「ええい今お主が向いている方を十二時だとして要するに右向いてダッシュして雑貨屋へゴール!」


「了解です!」



 慌ただしくヤルミラは右に走り出し、タデオ店主が経営している雑貨屋に駆け込んだ。

 不運と完全に縁が切れたワケでは無いようだが、アミュレットペンデュラムがヤルミラと一緒に行動するようになってから、ヤルミラが被害に遭う回数は格段に減った。


 ……ありがたいコトですわよね。


 ああして逃げ場などを提示して、厄介事から逃げる。

 意志疎通はちょいちょい微妙なようだが、相性は悪くないようで良いコトだ。




ヤルミラ

やたらと運が悪いがそれなりにタフに対応してる。

現在はアミュレットペンデュラムが教えてくれるお陰でのんびり出来る時間が増えて嬉しい。


アミュレットペンデュラム

お守りでもある振り子なので、困っているヒトを助けたいという本能もあるっちゃある。

自力で浮いての移動が可能な為、ヤルミラの首を引っ張って安全な方へと誘導するコトが多い。


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