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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
一年生
22/300

先輩少女とブルーライトパピヨン



 彼女の話をしよう。

 貴族で、八年生で、ロマンチスト。

 これは、そんな彼女の物語。





 当然のコトではあるが、食堂や図書室、中庭などは全学年の生徒が利用している。

 部活のようなモノこそ無いものの、習いたければ習う、という感じだ。

 なので学園内ではそれなりに、歳の違う友人が出来たりもする。



「……ってなるから、この本の記述についてはさっき言った本がオススメよ。一応タイトルも書いておくわね」


「ありがとうございます、アリス先輩」



 ノートにサラサラとペンを走らせているのは、姉より一つ上の学年、八年生であるアリス先輩だ。

 アプリコットの髪に曇った緑色のメッシュが入っている彼女は、後輩達によく勉強を教えてくれる優しい先輩でもある。

 本日は偶然中庭で顔を合わせたので、折角だからと読んだ本で気になった部分を質問したのだ。


 ……アリス先輩、詳しいですものね。


 色っぽくて大人な雰囲気の彼女だが、浮ついた噂は無く、よく図書室を利用している勉強家。

 自分といいアリス先輩といい、貴族の娘は勉強家なのだろうか。


 ……お姉様は勉強はそれなりで動いたりする方が好きな旅好きですから、やっぱりヒトそれぞれですわね。


 そう思考を纏めつつ、アリス先輩が書き終わるのを待つ。

 アリス先輩はどうやら他にもオススメのタイトルを書いてくれているらしく、少し経ってからペンを止めた。



「よし、大体こんな感じね。オススメはコレとコレとコレ。他のは結構コアだから一年生には難しいと思うけど、ジョゼなら大丈夫だと思うわ」


「ソレは楽しみですわね」



 タイトルが書かれたノートを受け取り、笑みを返す。

 折角だから他にも気になっていた本についてを質問しようかと思ったが、それより早く、アリス先輩は口を開いた。



「……ねえ、ジョゼ。ちょっと相談があるんだけど、聞いてくれる?」


「わたくしでは力不足だと思いますけれど……」



 しかし、普段から色々世話になっているのは事実だ。

 そしてアリス先輩の顔をよく()た感じからすると、緊急性は無いものの困っているのはホントに()える。

 そう判断し、頷いた。



「ええ、アリス先輩からの相談ですものね。わたくしもよく質問している身ですし、お話を聞くくらいなら出来ますわ」


「……ありがとう」



 ホ、と安心したようにアリス先輩は息を吐いた。



「その、私の家って貴族なワケじゃない?」


「ええ、パーティで見たコトありますものね」


「え、嘘、いつ?」


「三年前ですし、あの時の主催者あまり良い噂が無いからって挨拶とか避けてたモノ同士ですもの。アリス先輩は中庭に逃げてたし、わたくしは家族と一緒にトイレまでの廊下に避難してたから、無理もありませんわ」


「あー、あの時のパーティか……。そういえばジョゼは目が良いんだったわね」


「ええ」



 ふふ、と笑みを零す。



「アリス先輩が中庭の噴水のトコロで休んでたらナンパな男に声を掛けられて、「お前に用は無いのよ。さっさとどっかへ行ってくれる?」ってバッサリ切り捨ててたのも()ましたわ」


「恥ずかしい!」



 女子同士らしくその時の話でキャーキャー盛り上がってから、本題へと戻る。



「ソレで、私って今八年生だから、再来年には卒業でしょ?」


「そうですわね」


「だから、というか……私、まだパートナーが居なくって。そのせいでチラホラと見合い話が来てるんだけど、変な男からのばっかりで嫌なのよね」



 そう言い、アリス先輩は深い溜め息を吐いた。



「でもパートナーが居なくても、ヒトの恋人とか居ませんの?アリス先輩ならモテるでしょうに」



 しかし、アリス先輩は首を横に振った。



「ホラ、私って見た目がちょっと……遊んでる風でしょ?そのせいか礼儀もなってないクズみたいなのにしか声を掛けられないというか……」


「それは……」



 確かにアリス先輩の見た目は色っぽいが、だからといって礼儀無しで接して良いワケでもないだろうに。

 成る程、相手に対する誠意すら見れない相手ばかり、というのが嫌なのだろう。



「……不愉快にもなりますわね。取り繕うコトすら出来ない程度の低い男ばかり、というのは」


「そうなのよね。親も私がそういうの嫌いってわかってるから一応義理を果たす分だけ、って感じで見せてくるだけで、強要はしてこないのが救いだわ。あくまで最低限の行いはしたぞ、っていうのだけ果たしたいって感じ。向こうに難癖付けられない為にね」


「あー、ソレしてるかしてないかで正当性とか云々が変わってきますものね」



 どうせ断るだろうからと勝手に見合い話を処分するというのは、親のエゴ扱いされるコトもある。

 実際断るだけなのでエゴでは無いし、手間が無駄に掛かるだけとも言えるが、しかし手順を踏んだかどうかは大事だ。



「ただ卒業すると、相手の方からの言葉が「まだ学生だからとりあえず話しだけでも」から「もう一人前なんだから身を固めては」ってなるじゃない?だから見合い話を本格的にゴリ押しされる前にパートナーが欲しいんだけど……全然出会いが無い!」



 わっ!とアリス先輩は顔を覆って泣き真似をし始めた。



「私が条件キツくし過ぎなのかしら……もっと緩めれば立候補が来てくれると思う?」


「わたくしに聞かれても……」



 自分は何故か恋愛相談を受けやすいだけであって、恋愛経験が豊富というワケでも無いのだ。

 しかし聞かれた以上は答えるべきだろう。



「適当になあなあでパートナーを選んでも、結局破綻してバツが付くだけだと思いますわ」


「やっぱそうよね……」



 薄々ドコロでは無くそう察していたのか、アリス先輩は納得したように乾いた笑みを浮かべた。

 薄笑いを浮かべながら遠くを見るその表情は寒気を覚えると共に色っぽい。


 ……で、こういう色気に変なのが引っ掛かってアリス先輩のストレスになるワケですわね。



「ところで、さっき条件って言ってましたけど、一体どんな条件なんですの?」



 キツいかどうかは確認しておくべきだろう。

 例えば女なら何でも良いという条件を出す男が居たとしても、(自分より背が低くて色白で料理上手で甘やかしてくれて家事全部やってくれて巨乳でエッチなコトにも答えてくれる)女なら何でも良いという意味の場合もある。

 まあ(穴があってインアウト出来る)女なら何でも良いという場合もあるが、この世界に限定すればそういうタイプは居ない。性欲は絶滅危惧種だ。


 ……まあ要するに、どのくらいの条件か、が重要ですわね。



「そこまでキツくはないと思うんだけど……」



 アリス先輩はそう言い、指を折って数え始める。



「まず私のコトを好きだって言ってくれて、一緒に居るだけでお互い幸せになれて、マナーが出来てて、ロマンチックな告白をしてくれるヒト」


「全然キツくありませんわね」



 指折り数え始めたのでどんな数になるんだと思ったら片手で足るどころか片手で余るレベルの条件だった。

 しかもアリス先輩に対する愛さえあれば容易くクリア出来るだろう条件ばかりだ。


 ……だってマナーくらいなら今からでも覚えられますし。


 プロ級のダンサーとか言われたら数年を必要とするが、アリス先輩の言い方からすると最低限のマナーさえあれば良いのだろう。

 正直ソレさえも出来ていないらしい見合い相手達にドン引きだが、まあそんなヤツが居る家などはすぐに傾いて無くなるだろうから気にする程のコトでもない。

 一緒に居るだけで幸せに、というのは、お互いが愛し合っていれば当然のコトだ。


 ……寧ろ、これだけ低いハードルで、よくまあ今まで越えられない男ばかりが声を掛けてくるとは……。


 アリス先輩の男運が悪いのだろうか。

 それともキチンとしたパートナーと出会う為に運命が頑張ってセコムしてるのだろうか。


 ……多分セコムですわね。



「その条件でアリス先輩の人柄と見目の良さが合わされば、すぐにパートナーか恋人が出来そうなモノですけれど」


「ソレが全然なのよねー……」



 ハァ、とアリス先輩は溜め息を吐いた。



「まあでも、愚痴ったらスッキリしたから良いわ。後輩、ソレも一年生に相談するようなコトじゃない気もするけど」



 グイッと腕を伸ばして背筋を伸ばしながら、アリス先輩は苦笑した。



「ありがとね、ジョゼ」


「わたくしはただ話しを聞いてただけですわよ?」


「聞いてくれただけでも嬉しいのよ」



 クスクスと笑ったアリス先輩により、額を指先でつつかれた。



「ジョゼが私の条件はソコまでキツくないって言ってくれたコトだし……諦めずに、今から早速散歩でもしてパートナー探ししてみるコトにするわ。それじゃ、ありがとね」



 明日やれるコトは今日やる派なアリス先輩は笑いながらそう言い、有言実行とばかりに中庭を立ち去った。





 アリス先輩が立ち去ってから、自分はすぐ近くにある花壇に視線を向けた。



「で、さっきから随分とアリス先輩に視線を向けていたようですけれど、ナニか用ですの?」


「おや、見つかっていたとは」



 そう言い、青い蝶はベンチの方へとやってきた。

 その青い翅には、うっすらとだが細やかな模様が浮かんでいる。



「アナタ、ブルーライトパピヨンですわよね?」


「ええ、その通り」



 頷くように、ブルーライトパピヨンはヒラリと飛んだ。

 ブルーライトパピヨンはその名の通り、光る蝶だ。

 ちなみに青くて光るからブルーライトなのであって、スマホやらのブルーライトとは一切関係無い。


 ……まあ光るというか、夜光というか。


 今光っていないのは、ブルーライトパピヨンは夜になるとその翅が光るから、だ。

 微妙に改名した方が良いのではと思わなくもないが、まあ問題は無いから良いのだろう。



「まさか彼女に視線を送っていたのを気付かれるとは思いませんでしたよ」


「わたくしも、アリス先輩との会話ではアナタの存在はまったく話題に上がらなかったので、自分の勘違いかと思いましたわ」



 あれだけ恋バナをしておきながら話題に上がらなかったのだ。

 結構熱い視線だと思ったが、もしやアリス先輩は鈍感系だったのだろうか。

 そう首を傾げていると、ブルーライトパピヨンが言う。



「……ソレに関しては、ええ、私はただ彼女を見ていただけで、この三年間話しかけたコトがありませんから。仕方の無いコトでしょう」


「ストーカーですの?」


「ただの片思いしてる蝶ですよ」


「……グレーですが、まあ実害は無いようなのでシロというコトにしておきますわ」


「助かります」



 三年間話しかけずに見ていたというのはアウトな気もするが、恋愛とはそういうものだ。

 好きなヒトには照れてしまい、中々話しかけられないというコトもあるだろう。

 話した感じナイトメアイートフロッグに比べてアウト感が少なめなのも好印象。


 ……何よりアリス先輩の場合、色っぽさのせいで話しかけにくいトコありますものね。


 一度話せば普通に話せるのだが、その一度が難しい。

 何せ初見だと、どうしてもキャバ嬢に話し掛けるような緊張感になってしまうのだ。

 本人は至って普通の貴族のお嬢様でしかないのだが、生まれ持った華やかさはどうしようもない。


 ……ほぼ装飾無しであの色っぽさですものねー……。



「で、彼女の後輩としてもナンで見てたかについて聞いておきたいのですけれど」


「既にお察しの通り、私が彼女に惚れているから、ですよ」


「ですわよねえ」



 視線に篭もっていたその熱は、確実に恋という炎から発される熱だった。



「でもそれなら、わざわざ遠くから見るのではなく告白すれば良いじゃありませんの」



 口調から察するにマナーが出来ないワケでも無いだろう。

 そして三年間見つめ続けるくらいにアリス先輩への愛もあるのだろう。

 ロマンチック方面はどうか知らないが、少なくとも条件から外れているというコトは無さそうなのに。



「……ソレ、なんですがね。正直先程話を……ええ、盗み聞きのようなカタチになってしまいましたが、とにかく先程話を聞いて始めて知ったんですよ」


「ナニをですの?」



 気まずさなのか、まるで顔を逸らすかのようにブルーライトパピヨンはフラフラと飛ぶ。



「…………その、彼女には既にパートナーが居ると思ってたんです」


「いやその辺ワリとカンでわかりますわよね?居るか居ないか」


「確かにそうなんですが!でもあんなにも美しい彼女を他の魔物やヒトが放っておくとは思わないじゃないですか!パートナーは居なくても恋人くらいは居るのだろう、と、思い……」



 感情が昂ったのか一瞬叫んだものの、語尾になるにつれ声が小さくなっていく。



「つまり、あんなに素敵なヒトだから既に相手が居るのだろう。でも諦めきれない。せめてこうして眺めるくらいは……みたいな感じで見つめていた、と」


「そういうコトです」


「その思考早目にどうにかした方が良いと思いますわ」



 アンノウンワールドではあまり無いというかほぼ同人誌内にしか存在しないが、地球ではそれなりにあるらしい「不倫」という状態に陥りそうな思考だ。

 ナンかこう、あのヒトが幸せなら私だって幸せよって言ってクリスマスとかに泣く愛人になりそう。



「で、今の会話で彼女がフリーだと発覚したワケですが、どうするつもりなんですの?」


「……どうする、とは?」


「告白する気があるのかないのか」



 個人的にアリス先輩には色々お世話になったので、出来るだけ幸せになってほしい。

 親が味方になってくれているとはいえ、金と権力でゴリ押ししてくるクズが居ないとも限らない。

 しかし相手が居るならそういう見合い話は完全に無くなると思うし、三年間見つめ続けるくらいには惚れているというなら、アリス先輩の条件くらいは軽いモノだろう。



「……そう、ですね」



 少し考えるように、ブルーライトバタフライはベンチへと留まった。

 そして翅を少し動かしながら考えた後、答える。



「告白、しようと思います」



 ブルーライトパピヨンは、ハッキリとそう言った。



「彼女からすれば初対面ですから、断られる可能性もありますが……それでも、全力を尽くしたい」


「なら、協力しますわ」


「え?」



 予想外と言うような声に、クスリと笑う。



「こちらとしてもアリス先輩には幸せになってもらいたいですし。もし告白する気が無いというなら「そんな腰抜けにアリス先輩を任せる気は無い」と立ち去っていたトコロでしたが、告白するというなら呼び出しくらいは手伝いますわ」



 ……ロマンチックな告白、も条件の内の一つですものね。



「ロマンチックな告白なら、多少のサプライズ要素が必要でしょう?アナタの種族を活かすなら、夜……暗闇の中での告白がベストだと思いますの」


「ソレは確かに」



 暗闇で美しく光るのがブルーライトパピヨンだ。

 イルミネーションが綺麗な場所で告白するシチュエーションが地球でのロマンチック扱いされるのなら、暗闇で綺麗に光るブルーライトパピヨンからの告白というのもロマンチックに入るだろう。

 重要なのはその際の告白の言葉だが、その辺は本人の言葉でなくては意味が無いので、口出しはしないでおく。



「で、そうすると暗闇に誘導する必要がありますわ。消灯後に出るのは危険だからと禁止されていますけれど、森に入ったり王都に出なければセーフ扱いされてますから、中庭に呼び出すくらいなら大丈夫のハズですの」



 森や王都の場合は危険なタイプのヒトや魔物が居る可能性があるので、禁止されている。

 というか暗くて迷子になる確率も高くて危険、という理由もあるのだが。

 そしてこの学園にはアンセルム生活指導が居るが、彼は結構優しいヒトだ。

 あまり何度も夜に抜け出ているのを見つかると罰を受けるコトになるが、ソコまで回数を重ねていなければさっさと寝るように言われるだけで済む。


 ……それに、見つからなければ良いだけですしね。


 見つからなければカウントはされないから見つからないように、と本人も言っていた。

 教師の一人としてソレはどうなんだと思わなくもないが、生徒としてはありがたいので頷いたのを思い出す。



「でも中庭に呼び出すまでの移動でブルーライトパピヨンを見られてたら、サプライズって感じにはならないでしょう?」


「ソレは、確かにそうですね」



 地球の漫画では(普通の)目隠しをするパターンも多いが、ソレは無理だ。



「ですが私の場合、彼女を手を取れるような手でもありませんからね……」



 そう、ブルーライトパピヨンは蝶だ。

 (普通の)目隠しをしたアリス先輩の手を取って支えつつ安全に誘導、というのは難しいだろう。

 外は暗いので目隠しをしなくても自動的かつ一時的に見えなくなるのでは?と思うかもしれないが、ソレは光源が無い場合だ。

 ブルーライトパピヨンは暗ければ自動的に光るので、一緒に出るなら目隠しをしなくてはサプライズが出来ない。



「ですから、わたくしが中庭に呼び出しますわ。アリス先輩に告白したい魔物がいますの、って感じに言って。そうすれば目隠しをさせなくて良いし、わたくしなら暗視も出来るから案内も可能ですもの」



 ブルーライトパピヨンが迎えに行くのでは、サプライズ優先すると目隠しをさせるコトになり安全面が、安全面を優先すると光源が近くにある為サプライズ要素が薄くなってしまう。

 しかし暗視出来る自分が居れば、目隠しをさせるコトなく安全に、そしてサプライズも決行出来る、という算段だ。



「……そこまでしていただいても、良いのですか?」


「言ったでしょう?アリス先輩には幸せになってもらいたい、と」



 マナーもなっていないクズなんぞに大好きな先輩と見合いする権利すらあげたくない。

 ならばマナーがなっている魔物に大好きな先輩とパートナーになってもらい、クズとの見合い話を取り消させるのが一番だろう。

 誰も不幸にならないハッピー作戦だ。



「ただまあこの作戦、キモはアナタの告白ですわ。サプライズで目が曇るような方ではありませんから、真っ向から、キチンと、誠実な告白をしてくださいましね」


「モチロンです」



 こちらの言葉に機嫌を悪くさせる様子も無く、ブルーライトパピヨンは答える。



「そんな凛とした花のような彼女だからこそ、私は彼女に惚れたのですから」



 その言葉に、やはりカンに従って彼に協力しようとしたのは正しかったと確信した。





 夜、高等部のアリス先輩の部屋へ行き、アリス先輩を呼び出した。

 消灯後ではあるもののまだ寝るような時間でも無いので、アリス先輩は快く一緒に来てくれた。


 ……ルームメイトの方も気さくな方で良かったですわ。


 自由世代であるこの学園の生徒達はそうもガチガチに凝り固まった思考はしていないので大丈夫だとは思っていたが、地球の知識があるとどうしても心配になってしまうものだ。

 その心配が杞憂に終わり、とても安心した。



「あ、そこ石があるので気をつけてくださいな」


「了解」



 コケそうな石を伝えると、アリス先輩はひょいっとソレを避けた。



「ところで、私に告白したがってる魔物が居るってホントなの?昨日の今日どころか、その話題出したの今日の今日よ?」



 怪訝そうに眉を顰めるアリス先輩に、見えていないだろうが笑顔で頷く。



「ええ、その今日の今日、丁度話が聞こえていたみたいで。どうも今までアリス先輩には相手が居ると思ってたらしいんですのよね。で、折角だし告白しては?と思いっきり背中を押しまして」



 まあ蝶なので背中はあるような無いような感じだが。



「ジョゼの場合、変なトコロで思い切りが良いから、ホントーに思いっきり押したんでしょうね……」


「ナンで今わたくし苦笑されてるんですの?」


「そういうトコよ、ジョゼ」



 どういうトコロだろう。

 そう思いつつブルーライトパピヨンの居る方へと歩けば、向こうの方にぼんやりと光るナニかが見えた。



「あら、アソコ?」


「ええ」


「淡い青色で、素敵ね」



 ……よし、好感触!


 グッ、と内心で拳を握る。

 自分からは普通にブルーライトパピヨンが()えているが、暗闇プラス遠目であるアリス先輩からすればぼんやりした青い光が浮いているように見えるだろう。

 そして、ブルーライトパピヨンのトコロへと到着した。



「初めまして、というのは少し違うのですが、アナタからすると初めましてになりますね」


「あ、魔物の光……?」



 近付いたコトで、光はブルーライトパピヨン自身の光だとわかったらしい。

 そんなアリス先輩に、ブルーライトパピヨンはまるでお辞儀をするように飛ぶ。



「だから、初めまして、と言わせていただきます。麗しきアリス」


「は、ハイ……初めまして」



 掴みとしては最高だったのか、アリス先輩の頬が少し染まっているのが()える。

 大丈夫そうだと判断し、繋いでいた手を解いて少し下がる。

 一瞬アリス先輩がこちらへ振り向こうとしていたが、しかしここで手を繋いでいる方がアレだと察したのか、そのままブルーライトパピヨンの方へと視線を固定した。



「本当はアナタの手を取って口付けでも出来たら最高だったのですが、残念なコトに私は見ての通り、アナタの手を取るコトが出来ない。足りないオスで申し訳ありません」


「い、いいえ、ソレは仕方が無いコトだもの。アナタが謝るコトじゃないわ」


「寛大なお言葉、ありがとうございます」



 ……思っていたより王子様系の対応ですわね。


 ロマンチック路線で行くつもりだから王子様系をチョイスしたのか、素で王子様系なのか。

 ()た感じでは素で王子様系っぽいので、相性としては良さそうだ。



「それでは、こちらの都合とはいえ夜も遅い。アナタの眠りを妨げるつもりはありませんので、本題に入らせていただきますが……」


「は、ハイ」



 ブルーライトパピヨンは言う。



「私は、アナタに恋をしています」



 言った。



「最初は一目惚れでした。花壇で蜜を吸っていたら美しいアナタを見かけ、まるでとても甘い香りをさせる花かと思う程に惹かれました」



 ブルーライトパピヨンは熱烈な言葉を紡ぎ始める。



「それから、私はアナタを見るようになりました。後輩に笑顔で勉強を教える姿、こっそりと後輩にお菓子をあげる姿、友人達と笑い合う姿……。そんなアナタを見る度に、新しいアナタを見る度に、私はアナタに強く惹かれました」



 ……コレ、協力者であって当事者じゃないわたくしからすると、ちょっとむずむずしますわね。



「今まではてっきり、アナタには既にパートナーか恋人が居るだろうと思っていたのですが……居ないというなら、すぐに行動しなくては、と。幸いにもアナタの後輩である彼女が、私ならアナタを幸せに出来るだろうと背中を押してくれたお陰で、私はこうして告白する覚悟を決めるコトが出来た」



 アリス先輩の顔は、既に大分赤く染まっている。



「どうか、私をパートナーにしてください」



 ブルーライトパピヨンは言う。



「アナタの手を取るコトも、アナタに手を取ってもらうコトも出来ない私です。ずっと片思いだと思い込みながらも、三年間アナタを見つめていたような私です。そんな私ではありますが……」



 本気だとわかる声で、ブルーライトパピヨンは告げる。



「どうか私と共に生きてはくれませんか?麗しきアリス……私の姫君」


「っ……!」



 その告白に、アリス先輩はしゃがみ込んだ。



「え、あっ……」


「…………ぅ」



 嫌だったのではとオロオロし始めるブルーライトパピヨンだが、アリス先輩は、まるで絞り出すかのような声で言う。



「嬉しい……!」



 その顔は耳まで真っ赤で、目には涙が浮かんでいたが、口は心の底から嬉しそうに笑っていた。



「ここまで言われたのは初めてだし、こんな、こんな……素敵でロマンチックな告白……夢みたい」



 そう言うアリス先輩の目から、ポロポロと涙が零れている。



「ほ、本当に?嫌だったりは……」


「嫌なんてあるわけないわ」



 嬉し涙を零しながら、アリス先輩はその手でブルーライトパピヨンを包むようなカタチで手を差し出した。



「夢だったの」



 手の中のブルーライトパピヨンを愛おしそうに見つめ、アリス先輩は言う。



「私を好きだと言ってくれるような……そんな素敵な誰かと一緒になりたいなって、思ってた」



 だから、とアリス先輩は微笑んだ。



「だから、こんなにも素敵で愛の篭もった告白を受けれるだなんて、夢みたい!」


「……少し心配だったのですが……アナタがそう言ってくれるコト程嬉しいコトは、ありませんね」



 少し肌寒い時間のハズなのだが、邪魔にならない位置で見学していた自分は、何故かまったく寒さを感じ無かった。

 寧ろ熱い。





 コレはその後の話になるが、無事パートナーとして結ばれたアリス先輩とブルーライトパピヨンは、仲睦まじく生活している。



「ジョゼ」



 中庭で本を読んでいたら、とても嬉しそうなアリス先輩に声を掛けられた。



「コレどう?似合ってる?」


「あら、蝶の髪飾りですの?」



 アリス先輩の髪には、綺麗な蝶の髪飾りが太陽の光を反射してキラキラと光っていた。



「そう!ブルーライトパピヨンに選んでもらったのよ!」


「オスの縄張り表現のようで、少々気恥ずかしいのですが」



 嬉しそうなアリス先輩に対し、ブルーライトパピヨンは照れ臭そうな声でそう言った。



「縄張り表現?」


「……その、私のパートナーだとわかりやすいかな、と……」


「成る程」



 確かにアリス先輩の髪で光っている蝶の髪飾りは、青い蝶を模している。

 どれだけカンが悪かろうと、アリス先輩の隣にブルーライトパピヨンが居れば、すぐにパートナーだとわかるだろう。



「そしてアリス先輩のテンションが高い理由もわかりましたわ。だからそんなに嬉しそうなんですのね」


「ええ!」



 ニッコリとアリス先輩は微笑んだ。



「好きなパートナーから、好きって想いが込められたモノを貰ったのよ?正確には選んでもらったワケだけど、想いが篭もっているコトには変わらないもの」



 そう笑うアリス先輩の顔は、とても可愛らしい、恋する乙女の笑顔だった。




アリス

装飾はほぼ無いのにキャバ嬢のように見える華やかな貴族。

でも少女漫画のような恋愛を夢見る乙女なのでホスト系より王子様系が好みだった。


ブルーライトパピヨン

素で紳士なので告白時の王子様っぽさは素な少女漫画属性。

ただ愛人になりそうな一途さがあるので、見た目に反して一途なアリスとは一途同士で相性が良い。


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