トロル少女とスリービリーゴートグラフ
彼女の話をしよう。
遺伝により巨人サイズで、威圧感が強くて、けれど動物好きの優しい子。
これは、そんな彼女の物語。
・
膝の上に泣きついて来たウルスラの赤い髪を梳くようにして撫でる。
「ウルスラ、今日はまたどーしたんですのー?」
「ジョゼ……」
ウルスラはグスン、と鼻を鳴らし、上目遣いでこちらを見上げた。
「また動物に避けられたわ!」
「ドンマイですわ」
そう言って頭を撫でると、ウルスラはワッと泣き始める。
「ちゃんとしゃがんだのに!手を下から差し出しもしたのに!とんでもなく怯えられたのよ!」
「んー、まあ、ウルスラの場合は見た目の威圧感強めですものねえ」
なにせウルスラは巨人系の混血。
入学時、十歳だった時ですら既に170センチあったというのに、七年生の十六歳である現在は290センチにも伸びている。
……一年でニ十センチとか、凄いですわよね。
三メートルサイズというだけでも中々の圧なのに、彼女の場合は右の額から大きい一本角まで生えている。
その圧は相当なモノだろう。
……まあ、ウルスラ本人は結構穏やかな性格ですし、怪力であるのを活かしてお手伝いしてくれる良い子なんですけれど……。
初見ではわからないくらいに圧がある。
慣れれば大きい子供みたいな感じなのだが、慣れていないと角のある巨人、というイメージしかないのだ。
……しかも時々うっかり力加減間違えてますものね。
魔法などですぐ直せるから良いとしても、鉄の塊をうっかりでメキョッとやるのは常識人からはドン引きだろう。
そして魔物というのは基本的に狂人ばかりな人間よりも常識が備わっているコトも多いので、本能的にウルスラを避けてしまうのだ。
……結果、こうして動物系魔物に避けられて膝に泣きつきに来るウルスラの完成、ですわね。
「あとアナタの場合、結構触りたい欲が目に見えるレベルで溢れてるから、相当なプレッシャーになってますわ」
「そんなに?」
「ウルスラ、もしアナタの倍くらいに体が大きい生き物が凄まじいプレッシャーを出しながら目を爛々とさせて触ろうとしてきたらどう思いますの?」
「あっ無理ね怖い」
「そゆコトですわ」
「うー…………」
ウルスラは不機嫌そうに、己の膝の上でゴロンと寝返りを打った。
「でもそんなの、私にはどうにも出来ないわよ。触りたいのに触らせてくれない魔物ばかりだから、触りたいっていう欲求をどうしても抑えられないんだもの!」
「まあ、それはわからんでもありませんわね」
解消も出来ず欲求不満状態、みたいなものだ。
触りたいという欲求を解消出来ないのでは、どんどん欲求が溜まり、結果悪循環という。
「んー……アナタ生き物に触れる時はかなり気遣ってますし、大丈夫なのがわかれば触らせてくれるんじゃないかと思いますけれどね」
「生き物に触る時、気遣うのは当然でしょう?私と違って、切れた腕をくっつけても繋がらないくらいの回復力しか無いんだし」
「それはそうなんですけれど、ホラ、アナタって結構メキョッてやらかす時があるじゃありませんの。多分皆、うっかりでそれをやられたら堪らないってコトで避けてるんだと……」
そこまで言って、ふむ、と頷く。
「よくよく思い返すと、ウルスラってパートナー持ちの魔物には声掛けませんわね」
「だってパートナーが居るじゃない。パートナーの目の前で撫で回させて、なんて言えないわ」
「成る程」
パートナー持ちの魔物なら触らせてくれるくらいはしてくれそうだと思ったが、ウルスラの方がアウト出してるなら仕方ない。
少なくとも狂人率の高い生徒とパートナーになれるならこのくらいの圧は余裕に思えるのだが、お相手が居る存在に手を出すのはちょっと、というウルスラの気持ちもわかるっちゃわかる。
……ん?つまり野生の魔物に触ろうとしてたってコトですわね?
野生の魔物は基本的に弱肉強食の世界で生きているので、そりゃ逃げられるよな、と納得した。
290センチの巨人が圧を放ちながら触ろうとしてきたら、野生の魔物は当然逃げる。
……野生じゃなくとも逃げそうなのに、野生ならもう逃げる一択ですわよね。
もし己が同じコトをされたなら逃げる。
今こうして普通に膝を貸してよしよしと頭を撫でれているのは、そうやってお触りされる対象と認識されていないからだ。
流石の自分でも、巨人に確保されそうになったら逃げると思う。
「……うーん、結局わたくしにはどーしようも出来ませんのよね」
「そう言わずに、ジョゼの力でこう、私が魔物と交流出来るようにならないかしら?今のトコロ物理無効なタイプの魔物しか私と話してくれないんだもの」
恐らくスライム系やゴースト系というコトだろう。
確かにしっかり触ったりしたい派なウルスラからすれば、それは微妙に違いそうだ。
・
青空が広がる中、草原に座ってお弁当を食べる。
休日、また魔物に避けられたとウルスラが泣きついて来たので、気分転換を兼ねてのピクニックだ。
「そういえばウルスラ、故郷の方でも魔物に触ったり出来なかったんですの?」
「故郷で?」
「そう。長期休暇の際に里帰りとかしてないみたいですけれど、幼少期は今より小さかったのでしょう?なら触るくらい出来てたんじゃないかと思うんですけれど」
「無理なのよ、ジョゼ」
ウルスラは赤毛を風に揺らし、ふ、と微笑んだ。
「私の母親、生贄を食べるタイプだったから」
「ワオ」
「当時結構荒れてたみたいなのよね。で、まあ伝承にもなっちゃってるんだけど、鬼の生贄になった花嫁が鬼に一目惚れして、鬼も一目惚れし、結婚して末永く暮らしました、が両親の馴れ初め」
「あらまあ……って、伝承になってるっていつ頃の馴れ初めですのよソレ」
「うーん、聞いた話では結構昔みたい。色々問題があって、子作りに関してが保留になってたらしいのよね」
「成る程。ところでご両親ってどちらも女性ですの?」
母親が生贄を食べるタイプというコトは、鬼と称された方が母親だろう。
しかしその鬼は生贄を嫁にしている。
まあ誕生の館は同性でも問題無いので、特に不思議でも無いが。
「ううん、父親が嫁で男。当時その集落で、生贄に捧げ過ぎて女が乳飲み子か老婆くらいしか居なくなっちゃったらしいの。若い女は逃げるように集落を出たし。で、一番女顔だった父親が生贄として嫁に」
「で、一目惚れと」
「そう。「男ではありますが、是非この身を食らい、美しきアナタの血肉として共に生かしていただきたい」って告白したらしいわ。
一方母親も一目惚れしてたし、そんなコトを言う人間は初めてだったから、ってコトで食べずに婿にして、その集落を出て放浪の旅がスタート」
「あー、花嫁が生きてて憎き鬼と蜜月とか、最悪家族を人質に取られて鬼を殺せとか言われかねませんものね」
「発想がシビア過ぎないかしら、ジョゼ。どこの戦地で生きてるのよ」
「知っての通り普通に学園生活してますのよー?」
七年一緒に居るのに酷い言われようだ。
まあ七年一緒に居るからこそそういうコトが言えるのだろうし、学園が戦地っぽいというのもあながち間違いではないが。
……毒仕込んでくる人間が居たり、生き返るとはいえよく死ぬ人間が居たり、そもそも死体だったりとかが居ますものねえ……。
改めて考えると、戦地よりもとんでもないコトになっているような。
ビックリ人間の博覧会が生温いレベル。
「まあ実際、それもあるらしいけど。で、その後子供を作ろうとはしたみたいなんだけど、父親は普通の人間で、母親は巨大な女鬼だから、まあ無理だったらしいのよね」
「男が巨体なら女の腹が裂ける可能性ありますけれど、逆なら良いのでは?」
「保健体育で習ったでしょ?性行為で子供を作るにはどうするか。要するにサイズが足りなくて届かなかったの」
「あらら」
「あとまあ、誕生の館が出来てからもしばらくは様子見してたみたい。あんまり魔物の個性が強いと迫害されるかもしれないから、このくらいの人間がごろごろいる時代になるまで、って」
「ごろごろいる時代……ですわね、確かに」
「ちなみに父親はパートナー効果かまだ生きてて今年百八十四歳。今も元気に母親とラブラブしながら世界回ってるわ」
「それは平均以上に元気そうでなによりですの」
パートナー効果やら混血やら特殊体質やらもろもろで、最近の人間の平均寿命が延びているのは事実である。
なので百歳越えしていても特に不思議では無い。
……伝説の魔法使いやらがまだご存命なのを考えりゃ、百歳や二百歳で騒ぐ程でもありませんものねえ。
「というか長期休暇で里帰りしない理由、両親が世界回ってるからですのね?」
「元々生贄食べるタイプの魔物だったってコトもあって、逃げるように出たらしいから。だから定住もしてなくて、そして万が一が無いよう結構大事にされてたから、つまり」
「ウルスラよりも巨体だろうお母様に大事にされてた結果、そっちの圧に怯えて魔物との接触が出来なかった、と」
「そうなの!私は昔からあのモフモフしてて温かそうな魔物達に憧れてたのに!近寄れもしない!遠目で見るのが精一杯!転々としてるから仲を深める時間も無くて触れない!触りたい!」
「ドンマイですわ」
背を丸めて泣くウルスラの頭をぽんぽん撫でる。
座った状態で背を丸めてようやく届く頭を撫でながら、改めて大きさを実感した。
……290センチですもの、ね……。
身長高めが多い中でも自分は比較的長身な方だが、流石にウルスラには敵わない。
しかしそのくらいの身長の人間が居ないでもないのが現代である。
「じゃあ触ってみる?」
「エ?」
「あら」
先程からこちらの様子を見ていた小さいヤギの魔物が、すぐ近くまで来ていた。
ウルスラは涙を拭いながら顔を上げる。
「…………良いの?」
「うん、良いよ!僕は僕と遊んでくれるんなら大歓迎さ!あ、でも潰さないでね?」
そう言って、小さいヤギはからかうように笑った。
「潰さない!潰さないわよ!ちゃんと手加減するから、その」
「うんうん、触って良いよ」
「じゃあ、失礼するわ」
恐る恐る手を伸ばすウルスラだが、あと一歩という位置で手を止める。
その顔は逡巡しているのがよくわかる表情だった。
「えい」
「キャッ!?」
そんなウルスラの手に、小さいヤギは自分からすり寄った。
「ふふふ、そんなに身構えなくて良いんだよ。僕はこうやって構われるのが大好きだからね!さあ、これで僕が大丈夫だってコトがわかっただろう!存分に撫でたまえ!」
「……アハ、そうさせてもらうわね」
むふんと胸を張る小さいヤギに、ウルスラはへにゃりと笑って小さいヤギを撫で始める。
最初はゆっくり、ガラスを触るように恐る恐るで、だんだんとその手は慣れたように動き始めた。
「ふかふかで、温かくて、モフモフね。ふふ、幸せ」
「そうかい?なら良かった!僕はこうして撫でられたり構われたりするのが大好きだからね!あ、ところで」
……来ましたわね。
お茶を飲みながらそう思う。
小さいヤギはウルスラに撫でられながら、じっと彼女の目を見つめた。
「実は僕、複数タイプの魔物なんだ。一匹じゃない。だから彼も呼びたいんだけど、良いかな?彼も誰かと喋りたがってるんだ」
「……撫でても良いかしら」
「うんうん、良いと思うよ!僕達は撫でられたり構われたり、大事にされるのが好きだからね!じゃあ呼んでくる!」
そう言って小さいヤギは一旦離れ、すぐに普通サイズのヤギを連れて戻ってきた。
「おっまたせー!連れてきたよ戻って来たよー!さあさあ撫でて褒めて構ってー!」
「わ、わ」
「こら!」
ウルスラの膝の上に乗っかって甘える小さいヤギに、ウルスラは照れたように動揺し、普通サイズのヤギは小さいヤギを叱る。
しかし慣れているのか、小さいヤギはどこ吹く風だ。
「まったく……すみません、この子がご迷惑をおかけして」
「迷惑だなんて……寧ろ、私の夢を叶えてくれたんだから。嬉しいコトはあっても、迷惑なんて全然無いわ」
「夢?」
「動物系魔物に触るのもそうだけど、こうして膝の上に乗ってもらうのも、ちょっと夢だったのよね。大き過ぎて怖いからか避けられがちで、甘えてもらうコトなんて無かったから」
……甘えてもらう以前に、甘える側だったからな気がしますわねー……。
「この子がご迷惑をおかけしていないなら良いのですが……」
「というか中くらいの、キミも一緒に甘えれば良いじゃないか」
「私は小さいののように甘えるコトは出来ませんよ」
「撫でられたいって思ってるクセに」
「それは、そうですが」
その会話に、ウルスラの表情が「撫でても良いの?」と雄弁に語っていた。
期待に満ちたその目に、中くらいのと呼ばれたヤギは視線を彷徨わせ、恥ずかしそうにおずおずとウルスラにすり寄る。
「……わ、私も撫でてもらっても、良いでしょうか」
「モチロン!寧ろ撫でても良いのよね?ね?」
「ええ。その、撫でていただけると、私も嬉しいですね」
「あと中くらいのは会話をするのも好きだよね。僕は遊ぶのが好きだけど」
「小さいの!」
ケラケラ笑いながら言う小さいヤギに怒る中くらいのヤギだったが、ウルスラに撫でられ、すぐに表情を緩めさせた。
「……アナタは、手がとても大きいですね」
「体が大きいもの。イヤだったかしら。あ、というかこの手が大きいのもまた魔物に怖がられる要因かも……」
「いえ、他の魔物がどうかは知りませんが、私は好ましいと思いますよ。こうして手の平に包まれるようにして撫でられるというのは、なんとも満たされる心地です」
「……良かった」
「ところで」
表情を緩めるウルスラに、小さいヤギがまたもや言う。
「僕達は実は三匹でセットの魔物でさ。実はまだ一匹いるんだよね」
「そう、もう一匹いるのです」
ウルスラの手にすり寄りながら、中くらいのヤギも目を細めて言う。
「もしよろしければ、彼も連れてきて良いでしょうか」
「……その、お触りって」
「良いと思うよ!彼はあまりヒトと接するまでいけないから、人肌に飢えてるしね!」
そう言い、二匹はまた離れて行った。
「……ウルスラ」
「あっジョゼ!見てた!?私思いっきり動物系魔物に触られたし懐いてもらえたわ!」
「うん、まあ、あの魔物達って結構メンタル強い特徴があるので、アナタ相手に怯えないのはわかりますわ」
「種族、もう特定したの?」
「三匹セットで活動してるヤギ系魔物なんて一種類しかいませんもの」
ただあの魔物の場合、ラストのヤギこそが鬼門扱いされているのだが。
……ま、ウルスラなら大丈夫でしょう。
「とりあえず種族については最後のヤギが来てから説明しますけれど、軽くネタバレしますと」
「しますと?」
「もっとデカイのが来ますわ」
「………………!」
ウルスラは期待に満ちたキラキラな目になって口を押さえた。
「待たせたな」
同時に、やってきた最後のヤギの低い声がした。
声の方を見ずとも、そのヤギがやたらと大きいのが視える。
……中くらいのは普通のヤギですけれど、これもう馬サイズですわよねえ……。
寧ろそれよりビッグサイズ。
筋肉質なその巨大ヤギは、ウルスラに顔を近付けた。
「小さいのと中くらいのを可愛がってくれたのなら、俺も可愛がってくれるんだろう?」
ニヤリ、と巨大ヤギは笑う。
「よろしく頼む」
「こちらこそ全力で撫でさせて……!」
ウルスラは我慢ならないとばかりに巨大ヤギに抱き着いた。
「うわ、ちょ、凄い!大きいしガッシリしてる!ジョゼ!ジョゼ!」
「うんうん、良かったですわねー」
はしゃぐウルスラに、子供を見守る保護者のような気持ちで返す。
「凄い!凄いの!ミッチリしてる!固い!私が抱き締めるコトが出来てる!」
「うんうん」
「大きいのばっかりずるくない?僕も撫でて撫でてあーそーんーでー!」
「こら、小さいの!大きいのが受け入れられたのは初めてなんですよ?小さいのまではいつも上手く行くんだから、このくらいは我慢しなさい!」
……ウルスラ、幸せそうですわねー。
大きいヤギと中くらいのヤギと小さいヤギに囲まれ、ウルスラの表情が完全に緩んでいる。
元々可愛いのが好きな子なので、もふもふに囲まれるというのは相当に幸せな状況なのだろう。
……体のサイズと威圧感で中々こんな状況になれませんでしたし、ね。
「コホン」
さて、と咳払い。
「さて、ウルスラ?彼らの説明しますわよー」
「説明?」
「種族名ですわよ。気になっていたんでしょう?」
そう言った瞬間、三匹のヤギに睨まれた。
しかし悪でも神でも無い睨みにダメージを負うはずもない。
……ええ、神の睨みはホント無理ですけれど!
ちなみに悪の場合は迎撃一択だ。
「睨まれたんで先言っておきますけれど、種族名を言うコトで避けられるんじゃとか思ってんなら、その大きいヤギが出てきた以上は特に隠す必要も無いでしょう?
大きいヤギが受け入れられた時点で、アナタ達の目的は達成しているも同義なのですから」
「んー……まあ、それもそうかな」
「確かに、自己紹介もせず言質を取ろうとするのはいけませんよね」
「あとその子、ウルスラの場合は説明しても受け入れると思いますわ」
「……駄目だった時はお前の目玉を刺してやるからな」
「そのセリフが一番アウトな気がしますけれど、まあスルーしておいてあげますわね」
彼らとしても、色々切羽詰まっているのだろう。
大きいのが受け入れられるのは中々無いそうだし。
「えーでは説明させていただきますと、彼らは三匹で一つの魔物、スリービリーゴートグラフという魔物ですわ」
「スリービリーゴートグラフ」
「目的を達成するのに手段選ばないトコがあるのが特徴の魔物でもありますわね。で、三匹セットなのでパートナー選びが大変なんですの。ほら、養えるかどうかとか」
「ああ……」
納得したように頷き、ウルスラは抱き着いたままの大きいヤギを見た。
そのサイズは一般家庭では少々持て余すサイズだろう。
……ま、ウルスラの身長を考えると、持て余しもしない気がしますけれどね。
一般人の平均身長基準の家では持て余すだろうが、ウルスラサイズ用の家ならば大きいヤギでも大型犬サイズ扱いのハズ。
家主であるウルスラ自身の身長を考えれば、特に無理があるというコトはあるまい。
「なので彼らはまず、小さいヤギがパートナー候補に接触。遊んで気を緩ませて、中くらいのヤギを呼ぶ。次に中くらいのヤギが色々話していけそうだと判断したら、大きいヤギを呼ぶ。
そして大きいヤギが受け入れられれば、そのまま押し売りのように纏わりついてなんとしてでもパートナーになろうとするという……言うなれば押し掛け女房的な魔物ですわね」
「最後、せめてもう少しぼかせ」
「ぼかしたって意味は変わらないでしょうに」
一種の美人局みたいなモノだと言わなかっただけ頑張って自作のオブラートに包んだとも。
というかこの多種多様感に、乙女ゲートリオだとさっきから異世界の自分がやかましい。
「……えーと、つまり、どういうコトかしら」
「つまりアナタは大きいヤギを受け入れたから、このまま押し掛けパートナーされますわ」
「エッ、ずっと一緒に居れるってコト!?」
「まあそういう意味でもありますわね」
「やったあ!」
ウルスラは嬉しそうに大きいヤギの首に回していた腕の力を強めた。
それでも苦しく無いよう気遣われている辺り、ちゃんとしている。
「じゃあ、じゃあ、一緒に居られるのよね!?撫でたり、抱っこしたり、一緒に寝たりとか!」
「可能なら俺達の方から是非とも頼みたいが」
「あ!僕の場合はそこに遊ぶっていうのも追加してね!」
「その、私達は騙すようなカタチでしたが……良いのですか?」
心配そうにおずおずと言う中くらいのヤギの言葉に、ウルスラは答える。
「私、大きくて怖いからって怯えられて、距離を取られて、動物系魔物に触るコトも出来なかったから」
だから、とウルスラは言う。
「だから、もし三匹共が私と一緒に居てくれるなら、私とっても嬉しいわ!」
その笑顔は、心の底からの、弾けるような笑顔だった。
・
コレはその後の話になるが、三匹のヤギは性格的にも結構特徴があるらしい。
「ねえねえ、散歩に行かないかい?遊ぼうよ!追いかけっことか、縄跳びとか!あとあとスキップしたりジャンプしたり!」
小さいのはすばしっこくて子供っぽく、遊ぶのが好き。
そして構わらないと拗ねるらしい。
「こら、小さいの。ウルスラは毎日勉強をしていて忙しいんですよ。
ただでさえ私達のブラッシングなどを、一匹ならともかく、三匹分もお願いしてしまっているんです。その上で教師の手伝いもされているんですから、ワガママを言ったりせずに休ませてあげるべきでしょう」
中くらいのは慣れるとお喋りで保護者のようなコトを言うのが多く、小さいののストッパー。
構って欲しいと自主的に言うコトは少ないが、構わないと落ち込むらしい。
「ならば少し散歩をして、休めそうな場所を見つけて休むというのはどうだ?
広い場所なら安心して休めるだろうし、外で昼寝というのも良い。散歩というのはクリアしているし、それなら休むコトも出来るだろう」
大きいのは強くて頼もしいが、それなりに主張も強い。
ちなみに彼は構って欲しい時は無言でぐいぐい迫るらしい。
「そうね、じゃあ一緒に散歩に行って、少し小さいのと遊んでから良さげな場所で寝るコトにしましょう。とは言っても中くらいの、私って結構タフだからそんなに心配しなくても良いのよ?嬉しいけど」
「ですがウルスラ、アナタには色々と負担をおかけして……」
「中くらいの、ウルスラが良いと言っているなら良いだろうが。
寧ろそうやって心配して気遣わせてると思わせるより、一緒に居たいとか、甘えたいとか、そういう時間が欲しいって正直に主張する方が良いんじゃないのか」
「大きいのの言う通り、私が良いって……エッ?」
「お、大きいの!?ソレは言わないでくださいと言ったハズですよ!?」
「アハハ、中くらいの照れてるー」
「小さいの!からかわないでください!」
……仲、良いですわよね。
三匹と一人が楽しげにわいわいしているのを、遠目で見守りながらお茶を飲んだ。
ウルスラ
入学時でもう170センチあり、現在は290センチなので卒業時には350センチにはなる巨人系の混血。
動物好きだが威圧感がある為、自分に懐いてくれる三匹が大好き。
スリービリーゴートグラフ
大きいのと中くらいのと小さいのという三匹でセットのヤギ系魔物。
大きいのは本当に大きいので受け入れられる事が殆ど無い為、ウルスラが全員を可愛がってくれるのが嬉しい。