烈火少女と記憶絵扇
彼女の話をしよう。
極東からの留学生で、遺伝により感情変化で炎を出現させる為、ヒトと接さないようにしている。
これは、そんな彼女の物語。
・
廊下ですれ違いざま、ハナビに声を掛ける。
するとハナビはこちらを見て、酷くイヤそうな表情で口を開いた。
「私、アナタが嫌いなの」
その声は酷く冷たく、そしてとても熱いものだった。
「話しかけないでくれるかしら」
「まあそう言わず」
だがこの程度はハナビの通常運転なので、気にせず話し掛ける。
ハナビはいつ、誰が話しかけたとしても同じ反応なのだ。
……ま、誰も傷つけたくないんでしょうけれど。
傷付けない為に、自分が嫌われるのを前提とした突き放し方をする。
しかし残念ながら、己の目からすればソレが本心で無いコトくらいはソッコでわかってしまうのだ。
「次の休みのコトなんですけれど」
「私はドコにも行かないわ」
こちらの言葉に被せるようにして、ハナビは言う。
「行くものですか」
ハナビの柔らかい緑色の髪が揺れた。
否、ハナビからメラメラと出現し始めた炎が、髪を揺らしたのだ。
……グルームドールもこういう炎の出し方してましたわよねー。
もっとも関節部分などから炎を漏らすグルームドールとは違い、体のあちこちからメラメラと燃え盛っているようだが。
「行かない、行かない、ドコにも行かない!ドコにも!私が行って良い場所なんてないもの!」
その叫びと同時に、ハナビは自身から発される炎に一瞬その身を包まれる。
だがその炎がハナビの感情を表しているからか、炎が収まる時には既にいつも通りに戻っていた。
「……だから、行かないわ。私はアナタが嫌いだし。行っても私は燃やしてしまう。燃やさない。燃やしたくない。だから行かない。行くハズが無い。行く理由が無い。必要無い……」
「はいどーどー、深呼吸深呼吸」
ハナビの背中を撫でて落ち着かせる。
良い子なのだが、良い子過ぎるせいでこうやって色々と思い詰めてしまうのが心配なのだ。
……炎系魔物との混血でその遺伝なのか、やたらと感情的ですしね。
炎系魔物は感情的という隠れた特徴があるのかもしれない。
そのくらいにハナビは感情の上下が激しく、その分感情と共に炎が出現するコトも多く、結果近くに居るヒトを火傷させてしまうからと自分から距離を取る。
……ま、確かに感情が荒ぶってる時に後ろ通り過ぎるだけで火傷しかねないのは事実ですけれど。
しかし落ち着いていれば問題無いのだから、そう重く受け止めなければ良いんじゃないだろうか、とも思う。
常識人らしい彼女からすれば、そんな簡単な問題では無いのだろうが。
……実際感情的なのはどうしようもありませんしね。
女神に比べりゃ大分マシなので良いが。
女神が感情的に怒ると火傷じゃ済まないから恐ろしい。
……ええ、火山噴火で周辺崩壊に比べりゃ、たかが火傷程度は生温いモンですわよね!温度的にも規模的にも!
「……落ち着きました?」
「ええ」
「じゃあ本題入りますけれど」
「ジョゼはいっつも強引ね。私はアナタが嫌いだって言ってるのに」
「本気で嫌われてないコトくらいは視りゃわかりますもの」
「…………ふ」
ハナビは一瞬、目の力を緩ませて微笑んだ。
もっともすぐにその表情はいつも通りに戻ってしまったが、良いモノが見れたので問題無い。
「……ソレで、休みがどうかしたの?」
「一緒に出掛けませんこと?」
「行かない」
「そう言わず」
「私はドコにも行かないわ。だって私、すぐに感情が昂るもの。はしゃぎ過ぎるし怒り過ぎるし悲しみ過ぎる。外になんて出たら、すぐに私は感情を動かして、周囲のモノを燃やしかねない」
「大丈夫でしょう、多分」
「どうして言い切れるの?」
「こんだけ多種多様な生徒が通う学園がある王都ですのよ?混血も魔物も多数居るんですから、たかが炎噴出させる程度の客に動揺なんざしませんわ」
「わからないじゃない」
「でも少なくともわたくしが誘おうとしている雑貨屋は、店主の娘であるメイテにアプローチしてる魔物が炎の精霊だからセーフなハズですの」
「情報量が多くて理解し切れないんだけど」
「……うん、ソレはわたくしもちょっと思いましたわね」
要するにアプローチしてる魔物が炎そのものであり、そんな客が常連として通ってるからあの店は大丈夫だろう、というコトを言いたかったのだが。
少しのコトを説明するにも情報量が多くて説明し辛いったらありゃしない。
……そう考えると、異世界である地球はシンプルで良いですわよね。
種族とか基本的に固定なワケだし。
「まあ要するに、炎慣れしてるってコトですわ」
「炎慣れしてるって言っても、普段から外には出ないようにしてるもの。行く理由が無いわ」
「今その雑貨屋で極東フェアやってるんですのよ。極東の品々が色々置いてあるから、気分転換にどうかなって」
「……極東の?」
ハナビはパチクリと目を瞬かせる。
「そう。アナタ極東出身でしょう?故郷から遠く離れた地というのは、今年で七年目になるとしても恋しくなるもの。だから良いんじゃないかと思ったんですけれど」
「…………確かに、極東の品に触れあえるのは魅力的ね。故郷でもあまり外には出て無かったし……」
うん、とハナビを頷いた。
「私はアナタを、そして全てを嫌うけれど、それでも良いなら行きたいわ。
ああでも、一緒には行かない方が良いかしら。その方が良いわよね。極東の品を見て万が一喜び過ぎてしまったら、私はジョゼを燃やしてしまうもの」
「燃えない燃えない」
防火耐熱系の魔道具を所持はしていないが、寿命まで死なないという特徴がある天使の娘だ。
命さえあれば多少の火傷くらいは薬で治せるので、問題無い。
「普通に一緒に行きますわよ、ハナビ」
「でも……」
「寧ろこういうのは事情知ってる友人が同行する方が良いでしょう。
わたくしの目なら感情の動きを読み取って落ち着かせたりも出来ますし、万が一変なのに絡まれてもわたくしが迎撃するからハナビが前に出る必要ありませんし」
「……ジョゼって本当、見た目と違って格好良いわね」
「あら、ソレは嬉しい言葉ですわ」
見た目はお嬢様っぽいが口悪過ぎると言われるコトが多い為、そう褒められると少し照れる。
「でも私、アナタのコトは嫌いなの。というか全てが嫌いなの。だから友人とは思ってないわ」
「ソレ言う必要ありませんでしたわよね?」
色々と台無しだ。
・
雑貨屋に訪れると、いつも通りにヒト気が無かった。
「ハァイ、タデオ店主。相変わらず閑散としてますわね」
「やあ、ジョゼフィーヌ。余計なお世話だ」
ニッコリとした笑顔と低い声でそう返されたが、七年目になる付き合いともなればこの程度は挨拶程度の軽口である。
実際、アッシュドッグは苦笑しながら見守っているし。
「全ては今日私の愛する娘でありこの店の看板娘でもあるメイトとデートに出掛けたファイアサラマンダーのせいだしな」
「わたくしは客がメイテに話し掛けるだけで不機嫌になって攻撃しようとし始めるタデオ店主のせいだと思いますわ。そりゃ長居しませんわよ誰も」
「比較的長居して普通にお茶飲んで帰ってくジョゼフィーヌが言うコトか?」
「んなコト言われましても、出されたんなら普通に茶ぁしばきますわ。わたくし女だから危険視されてないみたいですし」
「相変わらず口が悪いな、お前は」
「放っといてくださいな」
一年の頃はまだ取り繕えていた。
ただちょっと時間経過と共にオブラートが不在になり、綺麗な言葉がおいとましただけである。
「というか言っておくがジョゼフィーヌ、私は男をとびきり警戒するだけであって、女であろうと普通に警戒するぞ」
「あの、タデオ店主?それってつまり本気でタデオ店主の対応が問題で客が居ないんじゃというコトになると思いますのよ」
「購入はしてってくれるから問題は無い」
「そういう問題じゃない気が……って、女でも警戒するならわたくしはどうして完全スルーなんですの?」
「お前はまったくといって警戒する必要が無さそうだからな」
「安堵すりゃ良いのか失礼な言い方に異議ありと言えば良いのかわかりませんわねー」
まあ占い師であるクラリッサの言葉や時々言われたりする言葉からすると、己にこの目をくれた神との縁があるからなのだろうが。
安全牌扱いされるコトをありがたがれば良いのか、完全に戦力外とみなされるコトに怒れば良いのか、さてどっちだろう。
……うん、まあ、楽っちゃ楽なのも事実だから助かってはいますけれど、ね。
結果安全牌だからという理由で相談されたりノロケられたりすると考えると、プラマイトントンか微妙にマイナスという感じだろうか。
「さておき、ナニか欲しいモノでもあるのか?」
「ソレなんですけれど」
「本題に入るのが遅過ぎないかしら……」
「この二人は大体いつもあんな感じで会話してますよ」
背後でハナビとアッシュドッグがそんな話をしているがスルーしておこう。
「今確か、極東フェアやってましたわよね?」
「ああ、ソコのワゴンにあるぞ。普通に仕入れた品と、魔道具っぽい魔力がある品が入ってる」
「後半。ちょっと。魔道具っぽい魔力がある品ってちょっと」
ソレは眠っているだけの無機物系魔物な可能性があるというコトではなかろうか。
「魔力が仕込まれてて魔道具になってないだけの品って可能性もあるだろう。今のトコ動いた品は無いから大丈夫だ」
「無機物系魔物の場合は動かずにいるのは普通に得意なハズですけれど……というか、普通に仕入れた品と分けたってコトは、普通に仕入れたんじゃありませんのね?」
「常連のヒト達が、極東フェアをするならコレ極東の品だから中古価格で売るなりしてくれ、と譲ってくれてな」
「ソレつまり原価タダですわよね」
「売るなりしてくれと言われたから値札を張っただけだ。交渉次第で無料になるぞ」
「で、あわよくば交渉無しで買ってくれるヒトが居たら有料で、と」
「ジョゼフィーヌ、お前は色々と言い過ぎるトコロがあるな。ソコに居るのはお前の友人なんだろうが、客の前でそういう話はするな」
「私は彼女が嫌いよ。友人ではないわ」
「……お前、嫌われるコトがあるのか」
「嫌われてるだけであって嫌われてませんわよ失礼な!」
「今の言葉、凄まじい矛盾があったような……」
アッシュドッグの言葉は聞かなかったコトにしておく。
実際口では嫌われているが、視える筋肉の動きや眼球の動きからすると嫌われてはいないのだ。
友人じゃないと言われるだけであって友人である。
……あれっ、でも友人じゃないと言われてるってコトは友人では無い可能性もありますわね?
一方が友人と認識しててもう一方は友人であるコトを否定してる現状、どういう関係性なのだろう。
同級生がベストアンサーだろうか。
「……あら、意外と沢山置いてあるのね」
極東の品が淹れられているワゴンを見て、ハナビは感心したように頷いた。
「人脈はあるからな」
「人格はアレなんですけどね」
「アッシュドッグ?おいアッシュドッグ?パートナーに対して酷くないか?」
「人格がアレでも、タデオが優しいヒトなのは知ってますよ」
「そ、そうか」
……今の、照れるトコじゃありませんわよね。
人格がアレなの一切否定されてないのだが、タデオ店主はソレで良いのだろうか。
まあ本人が良さそうなら良いだろう、と納得し、己もハナビの隣へと移動する。
「気に入るのはありました?」
「……小物が、良いなって思うのだけど」
「燃えるのが心配だと?」
「そう」
ふぅ、と溜め息を吐き、ハナビは魔力が濃い扇子を手に取った。
「この扇子なんてシンプルだし、扇子を開いたり閉じたりっていうのは良いスイッチになると思うの」
「ああ、感情の切り替え用に?」
「私、感情的になりがちだし、この扇子はシンプルだから良いかもしれない……って、思ったんだけど」
ハナビは悲しげに目を伏せる。
「私が少しでもカッとなったら、燃やしちゃうかもしれないのよね」
「防火耐熱の加工してもらうなりすりゃ良いんじゃありませんの?」
「確かに、ソレはそうなんだけど……」
「ハナビが良いと思ったんなら、買おうとしても良いと思いますわよ。久々の外出記念とかで。見た感じ中古っぽいから交渉次第でタダになるでしょうし」
「コラ言うな」
タデオ店主がツッコミを入れてきたがスルーだスルー。
「……いやちょいと待て、ハナビだってえ!?」
「きゃっ!?」
突然、ハナビが持っていた扇子から声がした。
「おいお前!お前だよお前!ハナビってコトぁ、もしかしてお前極東人か!?」
「え、そう、だけど……」
「うあああああ極東人!懐かしの極東人だ!どうなってんだヨその髪色はヨォ!極東人らしくねェけど極東人ならソレで良い!」
「な、ナニ、ナンなの?」
「こちとらいきなり極東から持ち出されて仕舞い込まれて来たから久々の極東人が嬉しいんだヨォーーーー!」
困惑するハナビに泣き叫ぶ扇子とはなんとも狂った光景だ。
まあ泣き叫ぶといっても扇子は扇子なので、声が泣き叫んでいるだけだが。
・
どうにか落ち着いた頃に話を聞くと、扇子は記憶絵扇という魔物だった。
ただの扇子に見えるが、記憶絵扇が今までに見てきた記憶を絵巻物のように扇子の上に映すコトが出来る魔物である。
「俺はそもそもナ、大事にされてたんだヨ。そしたら賊が入り込んで俺を他のと一緒に詰めて泰西に売り払いやがったんだ」
「あらまあ」
「そんでマアこっちに来てみりゃ、泰西人しか居やがらねェ!」
「そりゃ泰西ですし」
極東に極東人ばかりなのと同じコトだろう。
「慣れねェ国の気配だわ文化だわで、俺は必死に息を潜めて気配を隠してただのモノの振りをしてたが、ようやく!ようやく極東人に出会えた!」
おういおういと記憶絵扇は泣き叫んでいる。
今まで、相当に心細かったらしい。
「というワケでお嬢ちゃん!是非とも俺の持ち主になってくんねえかィ!?」
「イヤよ」
「何故!?」
ハナビのソッコでの返答に、記憶絵扇は扇子上に雨の光景を流し始めた。
きっと悲しみや衝撃を記憶絵扇なりに表現している、のだと思われる。
……記憶絵扇については極東にしか居ない魔物だからか、あんま記述が無いんですのよね。
現地である極東に行って専門書を読めば詳しい情報があるかもしれないが、残念ながらこの学園の図書室には無かった。
いや、もう少し民族系のトコを重点的に読み漁ればあるかもしれないが。
「私はアナタの持ち主になりたくはないわ」
「いやいやいや!お前さっき俺を良いなつってたろ!?記憶を映し出すのは俺の任意だから、望まねェならやらねェし!」
「……個人的には、良いと思うけれど。そうやって色々と見せてもらえたら気分転換にも良いと思うし」
「ならナンで!」
叫ぶ記憶絵扇に、ハナビは言う。
「私はアナタが嫌いなのよ」
「……ハ?」
「嫌いなの」
「俺、ナンか嫌われるようなコトしたか?」
「してないわ。でも嫌いなの。嫌いじゃないといけないの。嫌いじゃないと」
「アッ」
感情がマイナスの方へと傾いているのか、ハナビの体からメラメラと炎が溢れてきている。
「私はアナタを燃やしかねない!」
「うわっ」
ハナビから出現した炎は一瞬ぶわりと膨らみ、すぐに消えた。
幸いこの雑貨屋は防火仕様になっているようなので、少し天井が焦げただけで済んだ。
……うん、品物が無事なのは良かったですわ!セーフ!
焦げたコトに関しては後で代金支払っとけば良いハズだ、多分。
「……だから駄目なのよ。だってアナタは燃えるじゃない」
「いや、マア、確かに俺は炎に弱いが」
「なら」
「でも極東人のそばが良いんだヨ俺ァ!」
記憶絵扇の叫びに、ハナビは目を見開いてビクッと肩を揺らした。
「心細かったんだよヨ!俺は!ホント今まで!ソコで見つけた極東人を逃してなるかァ!」
「逃してって、燃えるかもしれないのよ」
「泰西人の手ン中で燃えるのと極東人の手ン中で燃えるのと比べるんなら極東人に決まってんだろうがヨ!」
「というか一応、燃えないように加工とか出来ますのよ?」
「ほら聞いたかお嬢ちゃん!俺は燃えねェ!」
「紙と木で出来てるなら、炎を出現させる私が、怖く感じるハズなのに」
「俺からすりゃあ泰西人のが怖い!」
ここに泰西人が二人居るのだが。
まあ気にしないから別に良いが。
「好きだ嫌いだは関係ねェ、俺が持ち主になってくれと思うかどうかだ!お前が俺を受け入れてくれるっつぅんなら、ソレは俺にとっての救いだからヨ!」
「……救い」
胸元で手をぎゅうと握ってから、ハナビは諦めたような、けれど安堵したように微笑んだ。
「わかったわ」
ハナビは、テーブルの上に置かれていた記憶絵扇を手に持つ。
「よろしく、記憶絵扇」
「おうともヨ!」
さて、話が纏まったトコロで、さっきからこっちをチラチラ見て来るタデオ店主に記憶絵扇は魔物だったからと言いくるめるとしようか。
・
コレはその後の話になるが、記憶絵扇と共に行動するようになってから、ハナビは少しだけヒトと行動するようになった。
どうも記憶絵扇が今までの色々を見せてくれる為、外に少し興味が湧いたらしい。
良いコトだ。
「だああああああこんばっきゃろう!」
鼻声混じりなその声が、中庭から聞こえた。
覗いてみれば困ったように苦笑しているハナビと、泣き叫んでいる記憶絵扇がベンチに座っている。
「だから、ごめんなさい」
「ごめんなさいじゃねェだろうがヨ!俺は自力じゃ!動けないって!何度も言ったろうが!
うっかり忘れて行こうとしやがって!俺は炎に対する耐性をゲットしただけであって、雨にゃあ対応してねェんだからナァ!?」
「そんなに怒らなくても良いじゃない」
「おま、お前ナァ!ハナビにゃわからねェかもしれねェが、俺は異国のヤツ相手に話をする気はねェんだヨ!つか会話無理!怖い!」
「そんな堂々と言われても困るわ」
「そう言うハナビだってヒトと会話しねェだろ!」
「私の場合は怖いんじゃなくて、嫌いなのよ。嫌いだから拒絶するの」
「傷付けるのが怖いから嫌いっつって拒絶してんだろうがヨ」
「置いて行くわね」
「待て待て待て待て待て!」
記憶絵扇を置いてスッと立ち上がったハナビに、記憶絵扇は慌てて待ったをかけた。
「スマネェ!俺が悪かった!だから放置は勘弁してくれ!放置されてっと昔床の間に飾られてた時に飼い猫が俺を獲物と認識してズタボロにしようとしやがった時を思い出しちまうんだヨォ!」
「もう、ならもう少し言葉を考えてちょうだい」
「……お前が言うかァ?」
仲良く話していても、ハナビは突然お前が嫌いだ宣言をしてくる時がある。
そのコトを言っているのだろう記憶絵扇の指摘に、陰からうんうんと頷いた。
ハナビ
名前は漢字で書くと花火。
嫌うコトで他人を守ろうとしているので、最早「アナタが嫌いなの」が口癖になっている。
記憶絵扇
扇子自身が見てきた全てを映し出し、絵巻物のように流すコトが出来る魔物。
極東ロスが激し過ぎて泰西が苦手な為、極東人、または極東人と一緒に居る泰西人以外に声を掛けられると変な奇声しか出なくなる。