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ルームメイトとジョゼフィーヌ



 彼女の話をしましょう。

 気遣ってくれて、けれど厳しくもあって、ワリとノリが良い。

 これは、そんな彼女の物語。





 放課後、ジョゼと船頭さんと共に服屋へやって来た。



「ジョゼ、この服ジョゼに似合うと思いませんか?このワンピース、腰に巻かれてるリボンがジョゼに似合いそうだなって前来た時に思ってたんです」


「あら、良いですわね」


「ですよね!」



 見せたワンピースに良い返事がもらえたので、思わず嬉しくなってガッツポーズをしてしまった。

 けれどジョゼは、それを微笑ましそうに見守るだけでツッコミはしない。


 ……というか、この微笑ましそうな笑顔、完全に保護者の目ですよね……。


 常に己が身に着けているあの世の石の効果で、今まで幽体離脱をしかけていたのは事実だ。

 その結果お世辞にも活動的とはいえなかった自分がこうして生き生きしているのを、喜んでくれているのだろう。


 ……正直、自意識過剰な考えですけれど。


 だがジョゼの目が雄弁にそう語っているので、自意識過剰と思いながらもついそうなんじゃないかと思ってしまう。

 まあ自意識過剰というか、実際にジョゼに聞いたら「その通りですわよ?アナタ結構心配でしたし」と答えられたが。


 ……前の私、そんなにも心配な状態だったんでしょうか……。


 確かに少し体が弱くはあったが。

 しかしジョゼの目からすれば体の細かい部分も目視可能のようだから、己が自覚しているよりも己の体について詳しいのもまた事実。


 ……つまり、そんなジョゼがそんな心配するくらいだったのも、また事実なのでしょうね。


 今でこそ船頭さんがパートナーになってくれたお陰で、あの世の石はあの世との縁では無く、あの世の気配が強い船頭さんへと繋がる縁になった。

 要するによりパートナーとしての絆が強くなる魔道具みたいな状態らしいので、本当に船頭さん様様だ。


 ……船頭さんは、そもそも自分のせいで幽体離脱しかけの状態になった、って気にしてるみたいですけれど。



「……ふふ」


「どうしたんですの?ヨミ。突然笑ったりして」


「いえ、なんだか楽しくて」


「成る程?」



 理解していないようだが、ジョゼはまあ良いかと言うような表情で頷いた。

 そうやってさらっとスルーしてくれる辺りが友人達から相談を受けやすくなる理由の一つなのだろうが、それもまた美点。

 本人は相談をあまり受けたくないようだが、それに救われている一人として、指摘はしないでおこう。


 ……ジョゼの目が、嘘を見抜けるだけで良かったです。


 もし心まで読めるタイプだったら、この思考は読まれていただろうから。

 もっともジョゼの性格を考えると、心が読めたとしても見なかった事にして普通にスルーしそうだが。



「つぅかよぉ、ここに俺が居る意味無くねえか?」


「ナンでそんなコト言うんですか、船頭さん」


「いやいや」



 船頭さんは骨の手をカタカタ鳴らしながら横に振った。



「よく見ろ?ここはオメェらみてぇに年頃の女子向けな空間なワケだろ?」


「ですね」


「ソコに船頭ルックの骸骨が居たらヒトはどう思う?」


「特にどうも思わないと思いますよ?」


「いや思えよ!明らかに浮いてんだろコレ!居心地悪い!」


「どーどー」



 荒ぶる船頭さんの背中をジョゼが軽くポンポンした。



「明らかアウェーな空間で、特にナニをするでも無い手持無沙汰な状態。この空間に居る必要性とは一体?となる気持ち、わからなくはありませんわ」


「ジョゼフィーヌ……!」


「でもソレはソレとして、現代人は前にも言った通りに狂人ばっかだから船頭ルックな骸骨が居た程度で動じやしませんの。

自分に害があるならともかく、自分に害が無いのであればどんな魔物だろうと気にする程のこっちゃありませんし」


「オメェ、さては俺に対して自意識過剰だって言ってんな?」


「言ってませんわよ、自意識過剰ですわね」


「言った!今言ったろうがオメェ!」


「まあまあ。仲間外れが寂しいなら一緒に服選びゃあ良いじゃありませんの」


「え、いや、俺のセンスは数百年くらい昔のだから参考にはならねえと思うぜ」


「ヨミ、アナタだって彼と一緒に服選びたいですわよね?」


「ハイ!」



 やり取りのテンポが良かったので黙ってみていたが、話を振られたので全力で頷く。

 誰だって、パートナーと一緒に服を選びたいものだろう。


 ……拒否する理由、まったくありませんしね。



「ホラ」


「あー……ヨミ、オメェホントに俺に選ばせる気か?」


「駄目ですか?」


「駄目っつーワケじゃねえけどよ、数百年前に死んだ人間だぜ、俺は。センスに自信ねーし、年頃の嬢ちゃんならおっさんな骸骨に選んで貰うより、自分で選んだ方が……」


「私は船頭さんに選んで貰いたいんです」


「……仕方ねえなあ!ったく!」


「わわっ」



 骨骨しい、というか文字通り骨な手にわしゃわしゃと頭を撫でられた。

 その感触は昔死に掛けて臨死体験をした時の手とは違い、しかし同じ撫で方だった。


 ……こういうの、嬉しいですね。


 肉があるのと無いのとではかなり感覚が違うが、しかし、船頭さんに撫でられるという行為そのものに違いは無い。

 パートナーだからなのか、こうして撫でられるのが、とても心地よかった。



「とりあえず話纏まったんなら服選びませんこと?」


「……オメェ、空気読めよ」


「読んで今まで黙ってたじゃありませんの。で、アナタの服を選ぶとしてどうしましょうか。この辺のフリフリ系とかいってみます?」



 そう言ってジョゼが手に持って見せたのは、かなりの量のフリルとレースがあしらわれたワンピースだった。

 というかどこにあったんだろうそんな凄いワンピース。


 ……このお店、シンプルで細やかな装飾系の服が多い店なんですけれど……。


 流石はジョゼ、と言うべきだろうか。

 実際ジョゼの視力ならこの店内からこういうのを見つけるくらいは余裕なので、疑問には思わない。

 言動と手に持っているモノには疑問だらけだが。



「待て待て待てオメェどういう神経したらんな思考回路になる!?」


「イージーレベルの狂人だから一応会話が成立してるハズですわよ?」


「まったく成立してねえよ!まさかオメェ、その手に持ってるフリフリを俺に着せる気か!?」


「そういう話だったじゃありませんの」


「そんな話は断じてしてねえ!」


「だってほら、一緒に服を選ぶと」


「まさかアレ、俺にヨミの服を選ばせるっつー意味じゃなかったのか!?」


「一緒にと言うのであれば、まあ平等に」


「平等反対!」


「とんでもねえ言葉ですわねえ」


「誰のせいだ!」


「……ぷっ、アハハハ!」



 ポンポン弾むその会話に、思わず笑みが零れる。



「もう、凄い思考回路ですね、ジョゼったら」


「そうも変なコトは言ってないと思いますけれど」



 そう言うジョゼは不思議そうな表情で、本気なのか冗談なのかがわかりにくい。

 まあジョゼの性格からすると、本気の冗談なのだろうが。



「変なコトしか言ってねえよオメェは」


「ふふふ。でもジョゼ、船頭さんに選ぶのは無しですよ」


「あら、パートナーだとすると、いつもと違う格好が見たい、とかってなるんじゃありませんの?

わたくしのお母様はよく、お父様がいつもと違う服を着た時の衝撃や感動をきゃーきゃー話してたりしますわよ」



 そういえばジョゼは長期休暇で帰る度に、母親から父親に対するノロケを聞いているらしい。

 通りでパートナー持ちの友人によるノロケを聞き流し慣れているワケだ。


 ……いえ、まあ、一年の頃から結構ノロケ聞かされてるのをよく見てましたから、学園での積み重ねもあるのかもしれませんけれど、ね。



「確かに、いつもと違う格好の船頭さんは格好良いと思います」


「待て、ヨミ。あの手元を見ろ。アレを着た俺はまったく格好良くねえから」



 船頭さんに肩を掴まれてグワングワン揺らされた。

 確かにジョゼが手に持っているのはフリフリ系ワンピースなので、百歩譲っても可愛いという言葉になりそうだ。


 ……ああ、でも骸骨だと考えると昔の感性が強めな船頭さんからすると、ナニを着てもアウト判定なのかもしれませんね。


 現代人である自分達は人間っぽくない見た目にも慣れているので違和感がいまいちわからないが、昔のヒトはそういうのを気にするらしい。

 どんな見た目であれ、船頭さんが船頭さんであるコトは変わらないというのに。



「……でも、私はいつもの格好の船頭さんが好きなんですよ。船頭さんらしい、いつもの格好が」


「ヨミ……!」



 己の言葉に、船頭さんは感動したような声色で口元を覆った。

 全力で本音だった為少々恥ずかしかったが、しかしそんな嬉しそうな反応をしてくれるのなら、言って良かったと思う。



「ふむ」



 対するジョゼは、納得したように頷いて手に持っていた服を元の場所へと戻した。



「まあ確かに、三途の川の船頭という種族みたいなモンですものね。船頭でありながら船頭でない姿になると、種族的に変化する可能性もありますし。

というか既に現状、三途の川の船頭というよりも三途の川の船頭(有給の姿)みたいな感じなのも事実」


「さっきから思ってたけどオメェ俺に喧嘩売ってるよな?なあ?」


「売ってませんわよ失礼な。素直に納得したんだから良いじゃありませんのよ。それとも引っぺがして女装コース突っ走りたかったんですの?流石に死後に新境地開拓するのは好奇心旺盛過ぎると思いますわ」


「ヨミ、俺、コイツ、嫌い」


「よしよし」



 しゃがみこんで片言で己に縋ってきた船頭さんの頭をよしよしと撫でる。

 なんというか、ジョゼは結構魔物に対してこういう辛辣さを見せるコトが多いのだ。


 ……多分、人間の殆どが狂人で、その狂人達によってストレスを溜めるコトになってるからでしょうけれど。


 常識的な魔物相手にはっちゃけてストレス発散をしているのだろう。

 日頃色々迷惑を掛けてストレスを溜めさせている原因の一つを担っている気がする自分としては、止めるに止めれないので申し訳ない。


 ……迷惑を掛けてる確証はありませんけれど、迷惑を掛けてないという確証もありませんし……!


 前にジョゼに言った時は、「他の狂人に比べりゃ圧倒的に良い子ですわよ」と言われたが、それは比較した結果であり、否定ではなかった。

 実際船頭さんとパートナーになる前はぐーすか寝ている己とは対照的に、毎晩やって来て石を取り戻そうとする船頭さんの気配に安眠妨害をされていたらしいので、何も言えない。



「さて、では服を選びましょうか。この後はカフェでお茶だから楽しみですわね」


「ジョゼのそういうトコ、凄いですよね」


「直前の自分を切り離すコトで状況リセットする術を身に付けとくと楽ですわよ。主にメンタル的に」


「どれだけ日頃ストレス溜めてんだオメェ」


「んー、言う程じゃないと思いますわ、多分。神や女神と会話すると心労は多少あれど結構回復しますし、夢の中では頻繁に夢の女神が話をしに来たりしますし」


「さらっと女神が夢に来てるって言葉が出るの凄いですよね」


「わたくしの場合は天使だからそう不思議でも無いと思いますわよ?寧ろ、そんな女神をパートナーにしてる方が凄いと思いますの」


「俺としては破壊の神をパートナーにしてパパ呼びしてたのを目撃した時が一番恐怖を感じた」


「あー、まあ、アレはそうですわよね」



 船頭さんの言葉に、ジョゼは神妙な顔で頷いた。

 確かに破壊の神は結構厳つい見た目なので、そんな相手をパパ呼びして懐いているイシドラは視覚的に衝撃が強い。



「今はもう見慣れたから良いですけど、最初は驚きましたよね」



 そう言って笑うと、ジョゼは苦虫を噛み潰したような表情になった。



「……うん、生者って普通はそういう反応ですわよね」


「神のヤバさを知ってるハズだし命の危険とかあるのが生者のハズなんだけど、結構そういうトコあるよな、生者って」


「天使としてはもう、神や女神の感情がめちゃくちゃ圧として襲ってくるからそんなのほほんとした感想言えないというか……」


「や、わかる。俺もほぼ神と関わりねえけどあの世で数百年船頭してたし。時々目撃する神とか結構な圧だし、神が怒って現世でやらかしたヤツとか見てたから、ちょっとな」


「天使も獄卒も、天界とあの世というジャンルの違いはあれど、根本的に神に仕えてるって立場同じですものね……」


「その分ダイレクトに圧感じるから怖えよな……」



 ……さっきまで距離があったのに、仲良しですね?


 ジョゼと船頭さんは、肩を寄せ合ってぼそぼそと会話している。

 小声でいまいち聞こえにくいが、どうやら境遇やらについての愚痴らしい。


 ……同じ経験をしていると、共通の話題故に仲良くなれる、みたいなアレでしょうか。


 まあ、友人とパートナーの仲が良いと己も嬉しいので良いだろう。

 仲が良いというか傷の舐め合いっぽい気がするが、広義的に見れば仲が良いの範疇なので問題は無い。

 私が語り手の物語は、これにて終了。




ジョゼフィーヌ

首の辺りで緩く二つ結びのおさげにしてる六年生。

出来るだけお金を使いたいのだが、根っからの貧乏性なのでつい値切りをしたり安くて良い商品を買ってしまうし、やたらと値切りが上手い。


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