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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
六年生
196/300

同人少女とインキュバス



 彼女の話をしよう。

 極東からの留学生で、同人誌を描いていて、性行為に関する知識がやたらと多い。

 これは、そんな彼女の物語。





 トイロに頼まれたので、書き上げられた原稿を確認する。



「……トイロ」


「ハイ?」



 声を掛けると、原稿が終わってぐったりとベッドに寝そべっているトイロが首だけをこちらに向けた。



「ここ、塗り忘れてますわ」


「…………塗ってください」


「アナタの作品なんだからアナタがやんなさいな。というか、コレってエロ同人誌ですわよね?」


「そうですよ」


「よく描けますわね、こんなの」



 獣系魔物と人間の交尾シーンとか、中々に難しいと思うのだが。



「ですが、同人誌でエロは重要ですから。キチンとダグラス先生に監修もしてもらってますよ」


「まあ確かに重要っちゃ重要ですけれど……」



 現代において同人誌とは創作の場であると同時に、性行為の教本のような扱いになっている。

 なにせヒトと交尾するには向いていない形状の魔物との交尾方法も載っていたりするからだ。


 ……異世界のわたくしからすると、ちゃうねんって感じみたいですけれどね。


 魔物と性行為する為のものじゃないんですと異世界の自分が顔を覆っているようだが、現代のアンノウンワールドからすれば教本である。

 エロに対する性欲や興奮が無い為、こういうのはただの教本にしか見えないのだ。


 ……性欲があるヒトからすれば、欲情するんでしょうけれど……。


 性欲が無いせいで己からするとこういう行為の教本、としか見れない。

 正直言って木だけで組み立てる図のアレとの差すらもよくわからないレベルだ。


 ……わたくし、性欲があるヒトはこういう絵などに欲情し興奮すると思ってましたけれど、もしかしてこういう絵が描かれた()に欲情してるとかだったり……。


 異世界の自分がソレは無いと全力で否定してきたので、そういうコトでは無いらしい。

 やはり性欲が伴わないと理解出来ない世界については、性欲が無い己には理解不能だ。


 ……一応片っ端から読んではいるんですけれど、ねー……。


 魔物の性行為についてを詳しく描かれていたり、専門書よりも性器などについてが細かく描かれているコトが多い為読むコトが多いが、理解出来る日は遠そうだ。

 まあ元々同人誌というのは性欲はあれど犯罪を犯すワケにはいかないという有識者達が、コレらに情欲をぶつけるコトで被害者を出さぬように、という意図で作った封印具の一種らしいので、理解出来ないのも無理はないのかもしれない。


 ……うーん、知ってると理解すると感じとるでは、全てが全て違いますものね。



「……うん、とりあえずダグラス保健体育教師が監修してるなら大丈夫でしょう。あ、あとここ指多いですわ」


「修正お願いします……」


「わたくし原稿の確認頼まれただけで手伝いしに来たワケじゃありませんのよ。ミスってる部分はキチンとメモしておきますから、修正は自分でやんなさいな」


「ソコをどうにか。私達同人作家は、性欲が失われると共に衰退しかけている同人界を支えるという重要な役目があるのです……!」


「なら尚のコト自分でやんなさいな」


「もう指一本も動かしたくありません」


「もー……」



 仕方が無いと息を吐き、塗り忘れを塗って、多い指を修正しておく。

 我ながらどうしてこんな作業が出来るんだか。


 ……まあ、魔物の生態に詳しいしこの目があるお陰で性器の仕組みやらに詳しいというコトで、参考人みたいな扱いをされたせいですけれど。


 要するに生きた資料扱いをされて、ついでにと色々手伝わされた結果だ。

 そりゃ確かに己が見たまま描いた方がしっくり来るバランスになっているコトも多かったとはいえ、こういう時に断り切れないせいで覚えたような気もする。


 ……うん、まあ、ええ、手に職があるのは良いコトですわよね!ええ!


 手に職があれば、少なくともその数だけ飢えずに済むのだから良いコトのハズだ。

 それがただ面倒事を押し付けられたり頼みを断れなかった結果だとしても。



「……にしてもコレ、ナンか見覚えありますわね。特徴とか口調が」


「ああ、同級生をモデルにさせていただいていますから」


「許可は取ってますの?」


「モチロン。きちんと同人誌の説明をして、今まで描いたモノを確認してもらって、プロットやら下書きやらを見せた上で許可を貰っています」


「なら問題ありませんわね」



 勝手にモデルにするのは色々とアレだが、許可を貰っているならば良いだろう。



「ちなみに反応は?」


「同性愛も異性愛も異種愛も普通なのが現代ですからね。昔は同じ種族での異性愛オンリーだったそうですが、誕生の館がある今はそうでもありませんから。お陰で、教本に使えるなら良いんじゃない?という感じで」


「魔法の授業でも、呪文の例文とかが教科書に載ってますものね。

ああいう風に例となるモノがあると魔法を発動しやすいのも事実ですから、元ネタというか……そういうモノがあった方が良いんだろう、とはなりそうですし」


「ハイ、皆さんそういう感じで。性行為の為には教本があった方が良いだろうし、教本を作る為には実際の例があった方が良いだろう、と」


「まあ中途半端に似せるよりかは、本人と本魔から許可貰ってしっかり描いた方が良いのも事実ですわ。教本になるワケですしね」


「実際は教本では無いらしいんですけどね」


「描く側の性欲も死滅してる以上、教本にしかならないのは仕方ありませんわ」


「ホント、ソコが困りものです。性欲が死滅しているせいで、知識として有しているのを元に描くしか出来ませんから。

まあ同人誌はこちらに性欲を向けさせたり、こういうコトをするんですよという説明に用いられるからこそ治安向上の一種という扱いだと考えると、そのくらいで良いのかもしれませんが……」



 トイロはオレンジに近い赤色の髪を下敷きにしながら、グ、と悔しそうに拳を握る。



「性欲があるからこそ作成される魂の込められた同人誌を、作りたい……!」


「下手に込めると魔物化するから止めた方が良いと思いますわよ」



 あと性欲を知っている異世界の自分曰く、アンノウンワールドの同人誌は普通に異世界である地球と同じレベルらしいのであんまり気にしなくても良いと思うが。

 寧ろ魔物の存在がある為、あちらよりもこっちの方がハードらしい。


 ……まあ、魔物によっちゃ登場させるだけでグロ扱いな存在も居ますしね。


 アンノウンワールドの価値観からすれば、首が取れたりする程度は序の口だ。

 異世界ではグロ扱いになるのだろうが。



「というかトイロ、アナタ指を動かす元気も無いとかほざいてたクセに拳握る元気があるんじゃないですの」


「指では無く拳なのでセーフです。あと時間経過」


「屁理屈を……まあ、もう修正とかやったから良いですけど」


「ところでジョゼ、少々お願いがあるのですが」


「面倒事ならノーセンキューですわ」


「いえそうではなく、ジョゼのコトを次の本のネタにしても良いかを聞きたくて」


「わたくしを?別に構いませんけれど」


「この学園って詳細聞かずに受け入れてくれるヒト、ホントに多いですよね……」


「言っときますけれど、一応ネタによりますわよ?アウトなネタならお断りですわ」


「具体的には?」


「んー、死ぬくらいなら別に。エロもまあ創作であってわたくしにぶつけられるモノではありませんし。

あ、傾向からそういうのはしないの知ってますけれど、こき下ろすようなのはアウトですのよ?ヒトを悪く言うようなのも駄目」


「ソレはモチロン。私自身、そのようなのは心が荒むので描きたくありませんし」


「なら多分大体オッケーですわ」



 自分の中でのタブーは闇堕ちとかそういう系のアレなので、理解しているトイロならそういうのは描かないだろう。

 描いたら最期だし。


 ……魔物って結構、印象に引きずられがちですものね。


 語り継がれる伝承に寄りがちなのが魔物なので、半分天使である己も引きずられないとは限らない。

 つまりそんなのを描かれたらソッコで燃やすだけで、ええ、つまりわたくしの身の安全の為であってわたくし悪くありませんの。


 ……トイロは描き手だからこそその辺りはしっかりしているので、安心ですわ





 最近、同級生女子達の間に不思議な夢が流行っているらしい。

 なんでも薄暗い空間の中、デカイベッドとしゃらしゃらしたカーテンだけの部屋があり、そこに顔が良い男が全裸で座っているんだとか。


 ……うん、突然の全裸情報に初めて聞いた時はドン引きしましたわ……。


 そして全裸とか普通に寒そうなので、風邪引かないようにさっさと服着るなり布団被るなりした方が良いですよと告げると、「違うんだよ!」と叫んで消えるらしい。

 で、目が覚める。



「……と、いうのは聞いてましたし、もしやとは思っていましたけれど」



 談話室のソファに座りながら、向かいを見る。

 向かいのソファに座っているのはニコニコ笑顔なトイロと、そんなトイロにお姫様抱っこみたいな体勢で膝の上に乗せられている魔物の二名だった。



「…………そちらの魔物、インキュバスですのね?」


「そうなんです!」


「見ないでくれ」



 キラキラな瞳で肯定したトイロと、顔を手で覆うインキュバス。

 どういう状況だ。


 ……いやまあ、見た目成人男性だというコトを考えると、身長が低いトイロの膝の上に乗せられている現状が色々とアレなんでしょうけれどね。



「前から噂を聞いて私の夢に来い私の夢に来いと念じた甲斐あって、こうして私の下に!」


「くそ、飢えてたとはいえわかりやすく置いてあった牛乳に釣られちまうとは……!」


「まあ飢えによって絶滅の危機に瀕してるなら、仕方ないとは思いますわよ」



 そう、現代人の性欲は死んでいる。

 ソレがナニを示すのかと言えば、精気を主食としているインキュバスやサキュバスの絶滅だ。


 ……いえまあ、ギリギリ絶滅はしてませんけれど。


 ただ絶滅していないというだけであり、性欲が無い人間が殆どなせいで飢え死にする数はどんどん増えている。

 一応精気の代わりに牛乳で代用出来るらしく、ソレで細々と命を繋いでいるのが、現代の淫魔達だ。


 ……性欲がある時代は、かなり強い存在だったそうですけれど。


 生き物の性欲が姿を持ったのが淫魔な為、現代では本当に消滅寸前レベルな魔物とされている。

 どうにか消滅を防ごうとコウモリ姿とかになって部屋に侵入し、部屋の主に淫夢を見せようとするらしいのだが、残念なコトに性欲が無いせいでまったく成功しないという。


 ……全裸で誘う、っていうのがそもそも間違ってる気がしますけれどね。


 大概の魔物は全裸だろうに、今更どう反応しろというのか。

 そりゃ獣系魔物の場合は毛皮が服とカウントされるかもしれないが、ブローチやネックレスな魔物はアレ普段から全裸だろうに。


 ……薄暗くてベッドがあって全裸、というだけでどうにかなるモンなんでしょうか。


 性欲があるヒトならその条件をクリアしていれば誘惑されるのかもしれないが、非常に残念ながら性欲が無いヒトしか居ない。

 性欲があるヒトは現代において、異世界である地球の三毛猫のオスレベルで稀なのだ。



「にしても、マジモンのインキュバスは初めて見ましたわ。基本的に夢の中にしか存在してませんものね」


「……厳密には少し違うぜ」



 手を下ろし、インキュバスは眉を顰めながら言う。



「コウモリ姿になって部屋に入り込んで、って言うだろ。一応体は存在してる。ただ、体を作る魔力が足りないんだ。より正確に言うなら精気が足りない」


「あー」


「夢の中ならコスパが良いからな。少ない精気でもお望みの夢を見せるコトが出来るし、ソコで精気を得るコトが出来ればこうして体を作るくらいは出来るようになる」


「つまり精気を得ない状態だと体すらまともに作れませんのね」


「おう、お前ら人類が性欲を捨てやがったせいでな」


「わたくしを睨まれても困りますわ」



 睨むなら誕生の館を作ったヒト達を睨め。

 まあ誕生の館があったお陰で生まれるコトが出来た以上、そんなコトを言う気は無いが。


 ……実際、誕生の館が出来てからはそれまでに比べて、少子化問題も死産問題も母体が死ぬとかの問題も無くなったんですのよね。


 そして他種族間でも子が作れるというのは、とても大きいコトだ。

 性行為でも人間と子を作れるタイプの魔物であるインキュバスには、その辺りを説明しても理解はしてもらえないだろうけれど。


 ……でも性行為で生まれた混血の場合、昔は混血が普通じゃなかったせいで魔物扱いだったんですのよね。


 現代では混血など珍しくも無い為、人間という枠で認識されている。

 だが目の色やらで区別せず、普通でないというだけで迫害されていた時代があったのは、事実だ。



「でも、そうして体を作れているというコトは精気を得るコトが出来たんでしょう?」


「まあな。牛乳と、あとトイロが夢ん中で相手してくれたから」


「インキュバスって凄いんですよジョゼ!夢の中だからどれだけ性行為をしても多少だるいくらいで、肉体的負担がほぼ皆無と言って差し支えないんです!

ダグラス先生に色々聞く時にマザーオブマザーにも体験談を聞いたりしてて、性行為をするとかなりの負担があるらしいのに、ソレらがまったく無くて!」


「うん、談話室内で大声出して言うような内容じゃありませんわね」



 談話室に居る殆どの生徒が他人にあまり興味無い狂人ばかりで良かった。

 常識人なら要らん心労を掛けさせてしまうトコだ。



「痛み無しで体温上昇と痒みみたいな、もぎゃー!という感じの感覚でした!」


「理解出来ない言語使わないでいただけます?」



 まあ恐らく快感なのだろうが。

 普通の快感ならばわからんでも無いが、性欲から発生するタイプの快感というのは未知に近いので、そういう言い方になったのだろう。



「でも本当に凄いんです!夢の中だから衛生的なコトは気にしなくて良いし、痛みは無いし、実際の肉体を用いているワケでは無いので多少無理な姿勢になっても負担ありませんし、体力が尽きないし、脱水症状とかも起こらない!」


「……まあ、重要な部分ですわよね」



 授業でも、もし性行為をするならソレらに気をつけろと口を酸っぱくして言われている。

 無理な体勢をすれば大事な筋を痛めかねないし、痛みを伴うようなコトをすれば箇所が箇所だけにシャレにならない。


 ……他にも体力尽きたら移動出来ないとか、移動して清めたりしないと衛生的な問題が心配だとか、普段しない動きだからこそ時々休憩して補給しないと倒れかねないとか、そういうデメリット部分を叩きこまれてますものね。


 だからこそ、ソレらの心配が無い夢の中という空間での性行為に興奮気味なのだろうが。

 というか異世界の自分曰く経験しても未経験ボディとかぶつぶつ呟いているが、ソレはそんなに重要なワードなのだろうか。


 ……異世界である地球では子作り以外の際にも性行為をするとかいうトチ狂った感覚らしいから、向こうなりの色々なアレコレがあるのでしょうか。



「しかもインキュバス、女性を誘惑する為だからか見た目を変化させれるんですよ!」


「ああ……そういえば、そのヒトにとっての最高の異性になる、とか書かれてましたわね」


「正確には、欲情する対象に、だ。現代人は性欲が無いせいで最高の欲情対象が存在しないから役立たねえけど」


「……ふむ?」


「無いモンをモデルには出来ねえだろっつーコト」


「成る程」



 確かにそうだ。

 インキュバスが相手の欲情対象の姿になれるとしても、その相手に欲情対象が居なければただの空白状態。

 コスプレ元が存在しないのではコスプレが出来ない、みたいなモノか。


 ……うーん、やっぱ異世界のわたくしの説明、あんまり理解出来ませんわねー……。



「ですがつまりは、私がイメージした姿ならナニにでも変化出来る、というコトでもあるんです」


「……ああ、成る程。モデルにするんですのね?」


「そうです!体勢とか色々わからないながらに四苦八苦して同人誌を描いていましたが、インキュバスが居れば夢の中という衛生的に守られてて他にも色々とメリットしかない空間で、実体験が可能!」


「更に見た目も変化可能、と」


「コレはクオリティが上がりますよ!」



 トイロは目をキラキラさせながら、ふんすふんすと気合が入っている。



「……えーと、インキュバス的に、そういう扱いで良いんですの?」


「性行為はイコールで精気を得る行為だからな。俺からすれば食事を提供してくれるっつーコトだから、正直言ってありがたい。牛乳も貰えるし」



 確かに飢え死に寸前レベルだったインキュバスからすれば破格の待遇か。



「ふふふ、今晩からが楽しみです。インキュバスは女性にもなれるそうですからね」


「あら、そうなんですの?」


「外見だけならな。中身は俺のまんまだし、相手が女じゃないと俺の能力は発動しねえ」


「性別が男固定で、対象は女固定がインキュバス、って感じなんですのね」


「そういうコト。ただ女が欲情対象である女も居るから、体を女にするコトも可能ってだけだ」


「成る程」



 確かに姿が可変ならば、男女を変更するくらいは容易いだろう。

 魔物の中には性別が無いタイプも多いので、そう不思議なコトでは無い。



「……ん、あら?でもソレなら男女両方になれるってコトですし、サキュバスは性別が女固定ってコトですわよね?」


「おう、ソレが?」


「ならサキュバスとインキュバス同士で性行為をして飢えを凌いだりすれば良いんじゃないですの?」


「根本的に同じ存在だから無理」


「同じ?」


「俺らは自力で精気を生成出来ねーの。だからずっと飢えてる。万が一今言ったようなコトを実行すれば、お互いの肉を食い合うようなモンだ」


「あー……」



 腹は満ちても一時的だし、食った分だけ失われるようなモノだから意味が無いのか。

 お互いを食い合うというのは無意味であり、寧ろ消耗するだろうコトを考えると完全にマイナス。

 災害時は体力温存を重要視するのと同様に、動いたりせず己の中にある精気を大事にして生き延びるのを優先している、というコトだろう。





 コレはその後の話になるが、インキュバスはちょいちょいこちらに泣きついてくるようになった。



「もう!もう!トイロのヤツひでぇんだよ!」


「あーハイハイ」


「酷くなどありません、私は純粋に様々な体位を知りたいだけです」


「ソレは良いんだよソレは!どんなアブノーマルプレイにも対応するのが俺ら淫魔だし!でもお前と夢の中で性行為しても精気が少ない!こんなにもエロいの描いてんのに!」



 インキュバスは顔を手で覆い、ワッ、と泣く。

 どういうコトかといえば、性欲が無い弊害だ。


 ……性欲が無い状態で性行為をしても、得られる精気が少ないっていうのは初めて知りましたわー……。


 まあインキュバス自身性行為を断られ続けていた為、本魔もソレを初めて知ったらしいが。

 要するに精気とは性行為により発生する興奮により密度を増した魂から漏れた濃度高めのエネルギー、みたいなモノだそうだ。


 ……つまり、どれだけ性行為をしても、性的な興奮を得ていない以上は得られる精気が微量ってコトなんですのよね。


 トイロの場合は性行為から発生する性的な興奮では無く、性行為を知るという知的好奇心や探求心から発生する興奮だった。

 つまり、精気がいまいち得られないらしい。



「もう……だからその分回数多めに一晩中夢の中で頑張ってますし、牛乳だってしっかりとあげているじゃありませんか」


「確かに飢えてた頃からすれば空腹感をほぼ感じない今の生活はありがたいが……人間の欲望を刺激して性的な興奮を促す種族の本能的に!辛い!」


「そう言われても性欲が無い以上はどうにも出来ませんのよね」


「あ、ですがジョゼは確か性行為が普通にあるという異世界の知識がINしてるんですよね?夢の中でインキュバスと性行為をしたら、ワリと普通に精気が得られるのでは?」


「や、わたくし普通に遠慮しますわよそんなん。知識があるだけでその感覚があるワケじゃありませんし」


「あとなトイロ、ジョゼフィーヌの夢の中は不可侵領域だから無理だ」


「エ?」



 インキュバスの言葉にどういう意味だと首を傾げると、インキュバスはこちらを見て驚いたように目をパチクリとさせた。



「……まさか、自覚ねーの?」


「ナニがですの?」


「トイロの夢ん中に行く前に、お前の夢に入ろうとしたんだよ、俺は。だがお前の夢ん中に入ろうとしても拒絶されるっつーか、夢を操る中でも上位の存在によりガードされてるっつーか」



 ……ソレはもしかして、夢の女神のコトでしょうか。


 頻繁に夢の中にやってきて愚痴ったりしてくるので、もしかしたらソレかもしれない。

 夢の女神が居る間は己の夢の中が縄張り内になっているというコトなのだろうが、結果的に見ると夢に不法侵入されるのを防いでくれたともいえる。


 ……うーん、好感度がぐーんと上がったのがわかりますわね……。


 我ながら、神への好感度の上がり方がチョロ過ぎる。




トイロ

名前は漢字で書くと十色。

多種多様な種族のエロ同人誌を描いているし熱量もあるが、性欲が無いので知的探求心の方が強い。


インキュバス

性欲が失われるにつれて絶滅の危機に瀕してる男の淫魔であり、常に飢えてるし力も弱い。

トイロのお陰で飢えるコトは無くなったが、トイロ自身に性欲が無いので得られる精気は正直少ない。


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