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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
六年生
192/300

菊少年とサブマージゴースト



 彼の話をしよう。

 植物系の混血で、悪霊なら()える微妙な霊視持ちで、魚介類が好物な。

 これは、そんな彼の物語。





 ざぶん、と波が揺れる。

 どうして己は海の上で小船に乗りながら波に揺られているんだろうか。



「さあジョゼフィーヌ!魚はドコだ!?」



 ……まあ、目の前に居るホアキンのせいですけれどねー……。


 金のメッシュが入ったグレーの髪を揺らしてキラキラな目でこちらを見て来るホアキンは、漁師の息子。

 そして最近この海域でめっちゃ魚が獲れるというコトで、長期休暇だからとほぼ連行に近いカタチで連れてこられた。


 ……魚介類が好物なのは知ってましたけれど……。


 まさか引きずるように連行されるとは思わなかった。

 まあ実家にはオーレリアンが帰るし手紙も持たせたので、自分の帰りが無いコトを心配されたりはしないだろう。

 手紙には強制連行の分の対価として魚ゲットしてその魚送るとも書いたから、自分の帰りよりも寧ろ魚が届くのを楽しみにしているかもしれない。


 ……エメラルド家の領地付近、海ありませんものね。


 山なら結構あるが。



「……ホアキン、アナタどうやって魚ゲットするつもりですの?」


「俺魔法で網作るの得意だからソレで」


「なら大型の魚はすり抜けるようにするのをオススメしますわ。この小船に大型の魚なんて乗せたら確実にひっくり返りますもの」


「ふむ、確かに。んじゃ小型から中型狙うとして、どの辺に網投げれば良いと思う?」


「あの辺密集してますわ」


「あいよー!」



 指差した方に視線を向け、ホアキンはニッと笑う。



「魔力の糸を寄り合い編み込み、広げ捕らえよ!」



 その呪文と共にホアキンの指先から魔力で編まれた糸が伸び、あっという間に出来上がった投網が大量の食用系魔物な魚達を捕らえていた。



「おお、大漁大漁」


「ホントに大漁ですわねー」



 ビチビチ跳ねて食え食え叫ぶ食用系の魚魔物達をサクッと締め、魔法で作っておいた冷凍庫に放り込む。

 ついでにうっかり捕まってしまったらしい食用系じゃない魚魔物は普通にリリース。

 コレがこちらの漁である。


 ……異世界のわたくしからすると、ヤベェ光景だそうですけれど、ちょっとよくわかりませんわねー。


 意志疎通出来る相手をサクッと締める部分が異様に見えるらしいが、意志疎通出来ないだけで異世界である地球でも同じコトをやっているだろうに。

 そもそもこちらではちゃんと食べられたがっている魔物のみを締めているのだから、そう考えると異世界である地球よりもずっと心優しい処置だと思うのだが。


 ……ま、異文化ってそういうモンですわよね。



「ホアキン、一発で結構な量ゲット出来ましたけれど、もう帰ります?」


「確かに充分と思えるレベルだが、こういうのはもっと欲張るモンだろ。魚多少はここで食うつもりだし」


「欲張って良いコトあるヤツ居ませんわよ。極東の舌切り雀知りませんの?」


「ナンだソレ。タイトルから超不穏な気配してんだけど」


「ノリ食った雀の舌をいじわるなばーさまがハサミでチョンパして、良いじーさまは居なくなってしまった雀を探しに行ったら雀が経営してるお宿に到着する感じの話ですわ」


「前半ヤベェな。ノリで舌チョンパて」


「まあ当時の極東で用いられていたノリは腐りかけの米を水で練って作ってたらしいので、米好きな雀が食うのも、障子の張替えに使うつもりだったからキレたばーさまの気持ちもわからんでもない気がしますけどね」


「でもその後雀が宿を経営って、そういう魔物だったのか?」


「んー、前半雀は喋ってないのに後半から急に喋り出すんですのよね、お話だと。

だから多分舌チョンパされたコトで違う魔物に変質したのかもしれませんわ。喋る為の舌を無くしたから違う部分で喋るようになり、意志疎通が可能な魔物になった、みたいな」


「確かに意思疎通がしにくい魔物は居るし、変質するコトで結構タイプ変化する魔物も居るしな。人間が死後にゴーストになったりスケルトンになったりゾンビになったりすると考えると、あり得なくもないか」



 そう言いながらホアキンは、小船にセットしてあった調理用魔道具を発動させて魚を焼き始めた。



「取れたての魚をソッコで焼いて食うのはさ、美味いじゃん」


「わたくしナニも言ってませんわよ?」


「だって俺海の子だもん!いやマジで海の子が同級生に居るからアレだけど、海っつか漁師の子だけど、海沿いの家の子だからホント新鮮な魚が食いたくて食いたくて」


「はあ」


「でも俺釣りがド下手くそだから強引に連れてきたのは悪かった」


「今更過ぎる気もしますが、まあわたくしも食べれるなら良いとしますわ。ゲットした魚の三分の一は実家に送るって約束ですしね」


「ジョゼフィーヌのそういうサッパリしたトコ助かる」


「そりゃどうも。というか釣りが苦手って?思いっきり大漁でしたのに」


「投網は得意だけど釣りが駄目なんだよ、俺。しかも山勘がクソ」


「山勘がクソ」


「魚が居る場所がまったくわからん。何時間釣り糸垂らしても坊主な時が殆どだし。投網投げても居ないコト多いし」


「食べられたがりな食用系魔物の魚達相手にソレってもう一種の才能ですわね……」



 自分から飛び込んでくるレベルの魔物相手にスカるって相当だぞ。

 というかその場合、山勘という言い方で合ってるんだろうか。


 ……山じゃなくて海ですしねー……。



「ま、だから頼りになる目を持ってるジョゼフィーヌを連行してきたワケだけどな。魚焼けたけど食うか?」


「その言い方、わたくしを頼りにしてんじゃなくてわたくしの目を頼りにしてるって意味ですわよね。一番右のヤツいただきますわ」


「ホイ」


「どうも」



 串焼きにされた魚を齧れば、ホクホクの身が口の中で広がり、白身魚らしい甘味が味覚を刺激する。

 要するに美味い。


 ……まあ、食用系魔物って皆美味しいんですけれどね。


 食べられたがりな魔物だからこそ、美味しくあろうと進化した結果なのだろうが。

 食べる側であるこちらとしてもありがたいので良いコトだ。



「で、続きは?」


「ハイ?」


「食べ終わるまでさっきの舌チョンパ雀の話聞かせてくれ。結局欲張りがどうとかわかんなかったし」


「うん、舌切り雀ですのよ」



 ロザリーとグルームドールも桃太郎と桃男と覚えていた辺り、極東のタイトルはわかりにくいのかもしれない。

 まあ意味的には大体合ってるから良い気もするが、一応訂正だけはしておく。



「とはいえ単純に、じーさまは優しくしてたってコトで雀にもてなされて、お土産に大きいつづらか小さいつづらのどっちかを選べ、と言われるんですの」


「ナンか意味あんの?」


「んー、ここでは特に。で、じーさまは足腰に自信無いから小さい方を選んで、家に到着するまで開けるなと言われたのを守って、家に帰ってから開けたんですのよ」


「そしたら?」


「お宝とか綺麗なべべとかが沢山」


「べべ?」


「着物」


「成る程」


「ただしソレ見たいじわるなばーさま、おめーナンで大きい方持ってこなんだとキレて走って登山して雀のお宿に押し掛けるという」


「ひどっ。つか怖っ」


「しかも雀に対して、舌は切ったが私もよくしてやってたろ?な?な?という感じでつづらを要求」


「エッ、ヤベェくらいに厚顔無恥だなそのばーさま」


「同意見ですわ」



 面の皮が厚いにも程がある。

 まあソレ以前に老体でありながら走って山登れる辺り、足の皮とかも厚そうだが。


 ……全身分厚そうですわね、そう考えると。



「で、ばーさまは大きいつづらを選びますの。じーさまと違って足腰強いからって」


「まあ、強そうだし宿まで来た理由的にそうなるよな」


「そしてつづらをプレゼントした雀は再び、家に帰るまで開けんなよと忠告」


「その前置きするってコトはばーさまは開けるんだな?」


「ええ。帰り道の途中で我慢出来なくて開けると、中からバケモンが出てきて気絶。業突く張りにゃ自業自得なコトが起きる、みたいな話ですわね」


「そう考えるとじーさまそんないじわるばーさまとずっと夫婦やってたり凄ぇな」


「極東の昔話ってホント、伴侶がいじわるタイプかお隣さんがいじわるタイプだったりするコトが多いんですの。豆粒ころころとか花咲かじいさんとか」


「ナンだソレ」


「両方共お隣がクソみてぇなヤツの話ですわ。豆粒ころころはまだしも、花咲かじいさんの方は神の使いであろう白い犬を善人のじーさまから借りたいじわるじーさまが殺しますし」


「エッ、嘘だろ。借りておいて?」


「言うコト聞かなんだからだっつって殺して、死体を返してましたわ」


「コッワ……極東の昔話のパンチの効きっぷりヤベェな」


「パンチ効いたのならかちかち山っていう復讐譚がオススメですわよ」


「オススメすんな」


「あとさるかに合戦も復讐譚」


「読まないから。んなオススメされても復讐譚とか怖そうなの読む気ねえっつの」


「ソレは残念」



 クスクスと笑えば、ホアキンはジト目で焼き魚を齧った。



「ったく、魚食ってる時に話す内容か?」


「聞きたいっつったのホアキンですのよ?」



 というかそう良いながもガツガツ食べてるし。

 既に十匹以上がホアキンの腹の中なのに、今更言うようなコトだろうか。





 食べ終わってからもう一回投網で魚をゲットし、ふと思う。



「あの、ホアキン」


「ん?」


「ここって明らかに魚が多いですわよね」


「まあな。そういう海域だし」


「でも他にヒト居ませんわよね」


「そりゃここ悪霊出るから」


「は?」


「大丈夫大丈夫、若い男しか狙わないらしいし」


「ソレ、ホアキンが大丈夫じゃないと思うんですけれど」


「俺コレでも混血だからセーフじゃね?今んトコ生粋の人間しか狙われてないらしいしな」


「……アナタ、混血でしたっけ」


「いやジョゼフィーヌ遺伝子とか見れるんなら見りゃわかるだろ!?どう見たって植物系魔物との混血だろうが!」


「よくまあ植物系魔物との混血が海出ますわね」



 植物に海水ってほぼ毒だったハズなのだが。



「そりゃ俺はほぼ遺伝が無いからな。植物系魔物の遺伝子ドコ行ったんだってくらいに要素が無い。まあそういう混血もそれなりに居るっちゃ居るから気にしてはねえけど」


「んー……まあ、そうですわね。海水に浸かればソッコで干からびるとか無いだけ良いコトでしょうし」


「だろ?」


「でもその場合、ほぼ生粋の人間として認識されるんじゃありませんこと?」



 そもそも前例が無いだけであって、絶対に襲われないワケでもあるまいに。

 そう思いながら指摘すれば、ソレに思い至ったのかホアキンは口の端を引き攣らせた。



「……アッ」


「というかもう来てますわ」



 己がそう告げると同時、海の底から凄い勢いで自分達が乗っている小船へと近づいて来たゴーストは、ザブンと音を立てて小船の縁に手を掛ける。

 浮遊霊は()えないものの悪霊のように強いタイプなら()えるという弱めの霊視持ちなホアキンは、その透けた手を()て引き攣った表情で体をのけぞらせた。



「ちょ、ジョゼフィーヌ!?お前気付いてたんならソッコで言えよ!」


「忠告はしてましたわよ?遠回しに」


「忠告はキチンと相手に伝わるよう直球でお願い出来ません!?」


「次からそうしますわ」


「お前に次はあっても俺の次が無くなる可能性あんだけど!?」



 ホアキンがそう叫んでいる間に、既にゴーストは上半身の殆どが小船の上に乗りあげていた。

 ゴーストではあるもののこの感じは水死したタイプらしく、しかも怨念が強いのがよく()える。


 ……うーん、魚の位置調整した方が良いですわね。


 怨念の分だけ魂に重量があるっぽいので、うっかり小船がひっくり返らないよう位置を調整。



「お願い……」



 びちょびちょに濡れている女性のゴーストは、こちらを一切見向きもせず、ホアキンにずりずりと這いよるように近付いて行く。



「ヒッ、エッ、ちょ、ジョゼフィーヌ助けてくれ!」


「とりあえずあんま下がらない方が良いですわよ。バランス崩れますし」


「お前さっきから冷たくね!?俺が死んでも良いとでも!?」


「まあ目の前で害魔的行動取るようならわたくしも動きますわ、多分」


「多分!?」



 そんなコトを言っている間に、ゴーストはホアキンの足首をガッシリと掴み、ずいっとホアキンに顔を近付けた。



「お願い、お願いよ……」



 ボロボロと涙を零しながら、ゴーストは言う。



「私と一緒に、死んでちょうだい」



 ……あー、こりゃサブマージゴーストですわね。


 恨みを持ちながら水死したヒトがなりがちな、ヒトを水の中に引きずり込んで殺す悪霊。

 雑に極東風に言うなら船幽霊に近い、と思う、多分。


 ……七人ミサキ系ではありませんしね。



「……エッ、うわ、美人」



 ……ん?


 今ナニか場違いなセリフが聞こえたような気がするとホアキンの方に視線を向ければ、見間違いでも幻覚でも無く、ホアキンはサブマージゴースト相手に顔を真っ赤に染めていた。

 しかも何故かホアキンからポロポロと赤い菊が出現しては落ちている。


 ……エッ、何事ですの?



「花……?」



 サブマージゴーストも突然の菊に困惑しているらしく、眉を顰めて首を傾げたのが()えた。

 その瞬間拘束が緩んだのか、ホアキンが動く。



「一緒に死ぬコトは出来ないが、一緒に生きるんじゃ駄目か!?」


「ハイ!?」



 ……いきなりナニ叫んでんですのー!?


 拘束が外れて逃げるでもなく、サブマージゴーストの手を握ってのプロポーズとかホアキンの脳内で一体どういう起承転結が発生したのか。

 言われた側であるサブマージゴーストも、驚愕の余り先程までの悪霊っぷりがどっかへ行ってしまっている。


 ……いやまあ、基本的に悪霊って正気失ってるワケですから、突飛な言動や行動やらで正気を取り戻させるとかは実際ありますけれど……!


 ホアキンの表情や目の動き、脈拍は筋肉の動きから()るに、そういう意図など皆無なマジの本気であるコトが察せられる。

 ホントにどういう起承転結が脳内で狂ったんだ。



「……え、えと」


「美しいヒト、いやゴースト。悪いが俺は一緒に死のうと頷けはしない。何故なら俺はキミと共に生き、思い出を作り、キミと幸せになり老衰してから共にあの世に逝きたいからだ」



 ……マジでナニ言ってるんでしょうか。


 己の目が呆れたような半目になるのがわかる。

 ホアキンの表情のキラキラっぷりから本気で言っているのはわかるが、つい先程殺そうとしてきた相手に言うセリフでは無いんじゃないだろうか。


 ……ま、今更ですわね。


 狂人に常識を問うても意味などあるまい。

 そう思い、外野は暇になりそうなので再び魔道具のスイッチを入れて串に魚を刺して焼く。



「共に死ぬのは大分先にはなるが、ソレでは駄目だろうか。俺は、キミのように美しいゴーストにパートナーになって欲しい」



 サブマージゴーストの手を取って、ホアキンは真面目な顔でそう言った。



「……私を、パートナーに?」


「ああ」


「どうして」


「一目惚れをしたから」


「私、そんな、想いを寄せられるような女じゃないわ」


「ならパートナーになってから、もし俺がナニか違うとでもほざいたらその瞬間に殺してくれ」


「だって、私、要らないって、捨てられて」


「俺はキミを必要としている」


「う、あ、ぁあ……!」



 ホアキンの言葉に、サブマージゴーストはボロボロと涙を零し始める。



「私、私は」


「ああ」


「生きていた時、ずっとソレを言われたかった……!」


「死後で悪いが、ソレでも良いのなら、俺は幾らでもキミが必要だと告げよう」


「…………!」



 腕を広げたホアキンの胸に、サブマージゴーストは飛び込んだ。

 声を押し殺して泣くサブマージゴーストの透けた背に手を回しながら、ホアキンはその濡れている髪を梳くようにして優しく撫でる。


 ……うーん、わたくしの存在完全に忘れられてますわねー。


 というかホアキン、自分から赤い菊がボロボロ落ちてる自覚はあるんだろうか。

 そう思いながら見ている間に、魚がこんがり良い感じに焼きあがった。





 落ち着いたサブマージゴーストから聞いた生前の話は相当に酷ぇ話だった。

 まずサブマージゴーストな彼女だが、元は良いトコのお嬢様だったらしい。

 だが昔からの婚約者が他に好きな女が出来たから、という勝手な都合で婚約を破棄してきやがったそうだ。



「私は、ずっとその為だけに育てられていたのに」



 婚約者の妻になる為だけに育てられてきた為、他の生き方を教えてもらえなかった。

 婚約者の下へ嫁ぐからという理由で家に居るコトが出来たのに、ソレが出来なくなったせいで家からも捨てられた。

 その足で元婚約者と泥棒猫がハネムーンで乗っている船に乗り込んで元婚約者にどうして捨てたのか、と迫り問い詰めた。


 ……うーん、最後迫るのはアレな気もしますけれど、話聞いてる感じだと婚約者はアフターケアしてないっぽいですしね。


 しかし元婚約者は聞く耳を持たず、彼女を突き飛ばし、彼女は海の底へ。

 ソレ以来、その時の恨み辛みから周辺を通り掛る船に乗っている若い男に対し、一緒に死んでくれと言いながら海に引きずり込んで殺そうとする悪霊になってしまったそうだ。



「……でもアナタ、殺してませんわよね」


「殺そうとはしていたわ。殺せなかったけど」


「殺さなかったのか、殺せなかったのか、どちらですの?」


「殺せなかったの。私の意思の問題ではなく、単純に、全力で逃げられてたから」


「あー」



 漁師は大体がタフガイなので、悪霊に襲われてもド根性で逃げ切ったのだろう。

 通りで悪霊っぽいのにヒトの死の気配が本魔の分しかないワケだ。



「でも、良いわ。だってホアキン、アナタが、私と共に居てくれるのでしょう?必要と、してくれるのでしょう?」


「当然だ。ああ、だが、一緒に学園へ来てもらうコトになるが」



 ホアキンのその言葉に、ふ、とサブマージゴーストは微笑む。



「ええ、構いません」



 ……密着度、どうにかなりませんかしら、この二人……。


 まだ小船の上なのでイチャイチャするのは正直止めて欲しい。

 小船という一種の密室的空間だと自分の逃げ場が無いのだから。


 ……あー、焼いたお魚美味しいですわー……。





 コレはその後の話になるが、サブマージゴーストをパートナーにしたホアキンは、しょっちゅう赤い菊を落とすようになった。



「……ホアキン、アナタまた赤い菊落としてますわよ」


「エッ、あっマジだ」


「植物系魔物の遺伝は無いとか言ってましたのに、随分とボロボロ花を落とすようになりましたわよね」


「うん、我ながらちょっとビックリした」


「あら、でも私は好きよ。赤くて綺麗な花が落ちたり、花びらが舞ったりしていて。生前はひたすら花嫁修業をさせられてたから、花を愛でる時間すら無かったし」


「サブマージゴーストの為に俺もっとこの菊落とすからな!」


「落とすなつってんですのよコラ」



 廊下とかに落としてても別にお咎めは無いが、掃除を頼まれがちな自分からすると面倒臭いのだ。

 というかこの学園での掃除は基本的にバイト扱いなので他にもしたがる生徒は居るだろうに、何故自分に頼むのやら。


 ……うん、汚れを見落とさないのと頼みやすいから、って理由な気がしますわね。


 貴族でありながらも頼まれた以上はと思いしっかりと掃除をしてしまった己の器用貧乏さが憎い。

 いやこの器用貧乏さに助けられているのも事実だが。



「しかし、ナンで俺から落ちるのは赤い菊なんだろうな」


「ホアキン本人にもわからないの?」


「んー、多分花言葉なんじゃねえかな、とは思う。俺の母親がそん時の感情に応じた花言葉の花を落とす魔物だし。ただ俺は花言葉に疎い」


「魚には詳しいですのにねえ」


「うっせ。つかこういうの詳しいのジョゼフィーヌだろ。教えろ」


「確かに知ってはいますけれど、頼む態度ってモンがあると思いますの。頭鷲掴んで無理矢理下げさせますわよ?」


「お前普通にちょっと困ってますとかちょっと怒ってますみたいな表情でさらっとそういうコト言うから怖ぇんだよな」



 この程度の言動、狂人にしてはイージーだろうに。



「あー、でもまあ、気になるのは事実だから……お願いします」


「ハイよろしい。では答えますけれど、赤い菊の花言葉は「アナタを愛しています」ですわ」


「あら」


「……つまり、俺は一目惚れして初めて恋を知って、その感情に対して赤い菊が出た、と?」


「多分ホアキンの場合、赤い菊だけが出るんでしょうね」



 他の花が出てるトコ見たコト無いし。



「ただ赤い菊のみ、そして花言葉と一致する感情かどうかっていう条件があったから今まで発覚しなかったのではないかと」


「だから、サブマージゴーストに惚れてから、ずっと一緒に居て好きだなあとかときめいたりとかするタイミングで出現してんのか……」



 顔を真っ赤にして手で口を押さえて恥ずかしがるのは勝手だし別に良いのだが、もしやノロケられているのだろうか。

 ナンか周辺の空気がピンクっぽい上に温度が高くなった気がする。


 ……いえまあ、()える温度的にそういうのが起こってないのはわかってますけれど、ね……。



「…………ふふ」



 ホアキンの肩に手を置いてふわふわ浮いていたサブマージゴーストは、とても嬉しそうに微笑んでホアキンの耳元へと顔を寄せる。



「アナタがそんなにも私を想ってくれているの、とても嬉しいわ」


「……ナンか、恥ずいな」



 恥ずかしいのは良いが、そんなやり取りを見せられるこちらの居心地の悪さもわかって欲しいものだ。




ホアキン

悪霊レベルなら視える程度の霊視であり、遺伝は赤い菊が出るくらいの混血。

とりあえず実行してそん時はそん時、というタイプ。


サブマージゴースト

心無い婚約者のせいで発狂の後溺死した女性のゴースト。

親にすらも家の為の道具扱いされていた為愛を向けられたコトが無く、ホアキンから向けられる純粋な愛と赤い菊がとても嬉しい。


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