鬼少女とインポーズメテオライト
彼女の話をしよう。
鬼の混血で、見た目も性格も鬼寄りで、けれど仲間と認識すれば優しい。
これは、そんな彼女の物語。
・
談話室の片隅で、モミジはバリボリと焼いた骨を噛み砕いて食べていた。
「相変わらずというかナンというか、随分頑丈な顎ですわよね」
「ぅん?ジョゼじゃないですかぁ。どうかしましたぁ?」
真っ赤な肌のモミジは濃いめの茶髪を揺らして首を傾げ、目を細めてニマリと笑う。
唇から鋭く厳つい牙が覗くが、口の端に食べかすが付いていてはどうにも反応がし辛い。
「もう、バリボリ食べてるから食べかすついてますわ。ホラ」
「あ、ホントだ。コレは失礼しましたぁ」
食べかすを取って見せれば、ベロリと舐め取られた。
取った意味よと思いつつテーブルの上にある手拭きで手を拭く。
「……あの、あんまヒトの手ぇとか舐めない方が良いと思いますわよ?」
「大丈夫ですよぉ。鬼の胃袋に多少の毒とか効きませんしぃ、人間の腕くらい余裕で噛み千切れますからぁ」
「うーん、そういう意味では無かったんですけれどとりあえず常識人相手にソレ言わない方が良いですわ。普通なら怯えますわよその言い方」
「ジョゼはどうなんですかぁ?」
「わたくしイージーレベルとはいえ狂人なので、特には。モミジがほぼ鬼寄りな感性有してるのはわかってますし、本気で腕食う気は無いのもわかりますし」
「アハ、ソレであっさり受け入れてるってのも凄いんですけどねぇ。故郷じゃ相当警戒されるんですけどぉ」
そう言ってケラケラ笑うモミジの額からは、肌と同じ真っ赤な色の角が二本生えている。
ソレもまた先が尖っているし長いし鋭いしと、主張激しめの角だ。
……まあ、鬼との混血ならそんなモンだとは思いますけれどね。
モミジは大分鬼としての遺伝が濃いらしく、見た目も鬼っぽいし感覚も鬼っぽい。
主食が人肉だったり、今食べている骨せんべいは人骨だったりとかなり鬼寄りなのだが、目の色が茶色である以上は人間枠である。
……うーん、我ながら大分ガバガバな判断基準ですわね。
だがソレが常識なので仕方が無い。
「ソレでぇ?ジョゼは私にナニか用事でもあるんですかぁ?それとも単純にぃ、さっきの食べかすが気になったから話しかけただけとかぁ?」
「ああいえ、要件はこちらですわ」
よいしょ、と持っていた袋を残り少ない骨せんべいが入った器の上でひっくり返し、中に入っていた骨せんべいをザラザラと追加する。
「人肉加工してたら思ったより骨が出たそうなんですけれど、人血や人肉ならともかく、人骨は食べるヒトを選ぶモノでしょう?」
「確かにそうですねぇ」
そう言いながらモミジは大腿骨だろう太い骨をひょいと摘まみ、スティック系のお菓子であるかのように頬張ってバリボリと噛み砕き始めた。
人骨を食べれるヒトの数が少ないという事実が疑わしくなる光景だ。
……いやまあ、モミジが鬼だから出来る芸当ですけれどね。
普通は人骨となると、ダシ取ってやらかくなったくらいでようやく食べれるモノである。
だって基本的に人肉を主食にしていようが顎の力なんかは普通のヒトと同じくらいであるコトも多い為、中々噛み砕けないモノなのだ。
「……そう考えると、モミジの存在はありがたいですわよね」
「ナニがですかぁ?」
「人骨食えるトコが、ですわ。だって人肉っつっても基本的に腕や足だったりが多いでしょう?」
「多いですねぇ」
痛覚無しの不死身系は内臓とかも提供してくれるはくれるが、やはり腕や足などが切り取りやすい。
その為、提供される人肉は手足であるコトが多いのだ。
……鳥で言うなら、手羽とモモですわよね。
ただそうなるとどうしても骨がついてくる。
骨付き肉として調理するのも良いが、人肉を主食とする系の生徒の為にと普通の料理に使用する肉の代わりに使用するコトもある為、その場合は骨が余るのだ。
……でも、人骨を食べれる生徒は少ないし、ダシを取るにも量が多いのが難点なんですのよねー。
特にクラシーナなんかは影から生やした腕をそのまま収穫して食材として提供する為、結構人骨が余ってしまう。
自分達が手羽食べた時に出る骨を食べないコトが殆どなように、人肉を主食とするヒト達も大体そんな感じだから、である。
「人骨余らせるのはアレですけれど、かといって人骨も食えるタイプの魔物に毎回食べてもらうには量が多い」
「まぁ、そうですねぇ」
器の中から溢れそうな骨を見ながら頷き、モミジはまた新しい骨せんべいを齧る。
「だからこうやってバリボリおやつ感覚で食べてくれるモミジが居るの、助かりますわ」
「……アハ」
ニマァ、とモミジは三日月のように口の端を吊り上げた。
「ジョゼって実はイージー超えてるレベルで狂人なんじゃありませんかぁ?」
「エッ、酷い」
「だってぇ、人骨バリバリ食ってる鬼ですよぉ?混血であって一応人間枠ではありますけどぉ、主食人間ですしぃ。普通まともな人間だったらぁ、そんな相手に怯えるんじゃありませぇん?」
「ああ、捕食者と餌みたいな?」
「そうそう」
「でもモミジ、食べて良い人肉とかしか食べてませんわよね?
そりゃ害魔みたく手あたり次第食おうとすんならアウトですけれど、食用として提供されてる分しか食ってないのにソレに怯える理由とかありますの?」
「故郷だと見た目だけでワリと怯えられてたのでぇ、市販品食っててもヒソヒソされましたよぉ?」
「アナタこの学園でんな反応されると思ってんですの?」
「………………ソレもそうですねぇ」
一瞬視線を明後日の方向に向けて思案していたが、すぐに腑に落ちたのか納得したような表情で頷いている。
「人肉主食としてる子、結構居ますもんねぇ」
「見た目が鬼っぽいのだって同級生だけでも一人以上居ますわ」
「全学年合わせたらもっと多そうですしぃ」
「だから正直、見た目が違うとか主食が特殊程度でへっぴり腰にゃあなりませんわよ」
「ジョゼって見た目と立場からするとお高くとまった貴族っぽいのにぃ、実際は大分サバサバしてるし飲み屋で店員やってるのが似合いそうな性格ですよねぇ」
「ソレわたくしが貴族に向いてないって意味ですわね?」
「口調お嬢様っぽいのにぃ、自分で駄目にしてたりしますしぃ。というか自覚ありますよねぇ?」
「…………正直、めちゃくちゃ自覚ありますわ」
ぐうの音も出ないレベルでただの真実である。
・
図書室で借りた本を読み終わり、談話室のソファの上、背もたれに体重を掛けて息を吐く。
天井を見上げながら次はナンの本を借りて読もうかと思っていると、真上からモミジが覗き込んできた。
「ジョゼぇ、ちょっと良いですかぁ?」
「ハァイ、モミジ。構いませんわよ。というか鬼なだけあって結構背ぇ高いから、こうして見下ろされると結構な圧ありますわね、アナタ」
「アハ、ジョゼより大きいですからねぇ。まあ鬼的には低い方なので将来的にはもっと大きくなると思いますけどぉ」
……現在の時点で、角を含めれば2メートル到達目前レベルなのにまだ伸びるんですのね……。
まあ鬼系の混血は背が高くなりがちっぽいのでそういうモンなんだろう。
そう思いつつ、隣に座ったモミジに首を傾げて問い掛ける。
「で、ナニか用事でも?」
「そうそう、ジョゼって色んなモノに詳しいしぃ、結構色々知ってたりしますよねぇ?」
「や、そうも詳しくはありませんけれど……」
ただ教師達の手伝いをする時に雑談として専門知識を語られたりした結果偏った雑学が蓄積されているだけだ。
「……ナニについて聞きたいんですの?」
「既に視えてると思いますけどぉ、コレなんですよぉ」
そう言ってモミジは服の中に手を突っ込んで、ロケットペンダントを取り出す。
開けると中には、小さい石が入っていた。
「この石なんですけどぉ」
「……すっごい見覚えある成分なんですけれど、あの、コレ」
「あ、わかりますぅ?そう、王都の期間限定新名物、破壊の神によって落とされた隕石の欠片なんですよぉ」
「イベントにする辺り、商魂逞しいですわよねー……」
破壊の神が愚か者相手に隕石ドーンしたのはつい最近であり、その際の破壊はしっかりと再生されていたのだが、隕石そのものはそのまま残っていたのだ。
しかし普通に邪魔になるからどうにかしようとなり、その隕石をゆっくり砕いて欠片にして売ったり、加工してアクセサリーとして売ったりするコトになった。
……そして砕き終わればもう見れないから、っつって期間限定の新名物扱いにして観光客呼ぶ辺り、ホント商魂逞しいというか……。
しかも観光客相手に隕石埋め込んだアクセとか売ってるからホント凄い。
隕石となると欠片だけでも欲しいヒトは居るし、そしてアクセ加工してない隕石の欠片はお手軽なお値段なので飛ぶように売れる。
結果現在王都にある隕石は、漬物石サイズになっていた。
……最初は大岩サイズだったんですけれどねー……。
というかそもそも愚か者相手だし生き返ったとはいえ人間殺した隕石なのだが、良いんだろうか。
まあ現代人の殆どは狂人だし、愚か者だし、生き返ってるし、破壊の神が落とした隕石となるとレア度の方が勝るのもわからなくはないから多分セーフ。
……にしても……。
「ま ぶ し い」
「あ、光りましたねぇ」
「ひ と い る」
「コレぇ、ナンかレアな欠片らしいんですよぉ。欠片の中で唯一チカチカ光るっていう」
「ああ、うん、光ってますわ、ねー……」
「お ど ろ き」
さっきからこの欠片が光る度に視界に字幕が出現しているのだが、モミジからするとただ光っているだけに見えるらしい。
めちゃくちゃ意思があるっぽいがコレ大丈夫なんだろうか。
そして異世界の自分が意思ある石とか寒いギャグをカマしてきたので、異世界の自分はそれなりに年食ってた可能性が浮上してきた。
……あ、今思いっきり否定された気がしますわね。
まあ確証無いので暫定的にそれなりの年齢だったっぽいと脳内にインプットしておこう。
自分と異世界の自分は同化しておらず、音漏れするくらいに薄い壁越しの隣人みたいなモンなので、その辺正直わかってないのだ。
……異世界のわたくし自身、知識メインで記憶自体は曖昧っぽいですしね。
「……あの、コレ、ナンで光ってるとかは」
「さぁ?お店のヒトは理由不明だって言ってましたよぉ?」
「ソレを買ったんですの?」
「結構お値段高めでしたぁ」
「よく買えましたわね……」
「値段なら問題ありませんよぉ?私の親って鬼なのでぇ、昔の戦利品である貴金属とか結構あるんでぇす。なのでぇ、ソレを代金として置いてきましたぁ」
「わあ、鬼っぽい支払い方法」
物々交換なのがソレっぽい。
現金持ち歩かない派なのか単純に手持ちの金額じゃ足りなかった結果現物を渡したのか、どっちだろう。
「てかわたくしとしては、んなレアなのよく手に入りましたわねって意味だったんですけれど」
「ああ、そっちですかぁ。ソレなんですけどぉ、この隕石普通じゃ無いみたいでぇ」
「お は な し ?」
「……うん、ソレはわかりますわ」
「やっぱわかりますぅ?まぁ、光ってる時点で普通じゃありませんしねぇ」
「ええ、まあ、うん、えっと、ソレでどうして手に入ったのかについては」
「ナンて言いますかぁ、コレに触れるとその瞬間に超怖い幻覚を見せられるんですよぉ」
「エッ」
視える字幕的に幼そうな印象があるのに、そんなエグイ能力なのかと思わず光る石に視線を向ける。
「こ わ い の い っ し ょ」
「どういう意味ですの……?」
「えっとぉ、ナンか超デカくて黒い人影に囲まれる感じですかねぇ?」
今のはモミジへの問いかけじゃなかったのだが、まあ良いか。
「その幻覚が怖いからって理由でぇ、持てるヒトが居なくて売れなかったみたいなんですよぉ」
「で、モミジは平気だったんですの?」
「幻覚は見せられましたけどぉ、私鬼寄りな性格ですしぃ。正体不明のヒト型が複数人で取り囲んでくるとかぁ、血沸き肉躍る感じにわくわくしませぇん?」
「わたくし戦闘系天使寄りなのでその辺はちょっとわかりませんわ」
「戦闘系ですよねぇ?」
「わたくし楽しく戦う系じゃありませんもの。無機質にただ排除する対象を排除するだけですわ。ただのゴミ捨てにいちいち感情なんて動きませんわよ。面倒臭ェくらいの感情ならともかく」
「ジョゼって結構辛辣ですよねぇ」
……腐ったゴミに嫌悪以外の感情湧きますの?って言わないだけオブラートに包めたハズなんですけれど、おかしいですわねー……。
「まぁ私の場合は人肉食べるタイプの鬼なのでぇ、人間とは恐怖のツボも違うんですよぉ。だからぜぇんぜん平気っていうか寧ろ楽しかったんでぇ、付けてた指輪とピアスと交換で買ったんでぇす」
「ちなみに指輪とピアスのお値段は?」
「興味無いから知りませんけどぉ、お釣り出せないって言われたんでそれなりの金額するんじゃないですかぁ?」
「あっさり言いますわね」
「あのくらいなら家にたぁっくさんありますしぃ」
流石親が鬼なだけある。
「そんな感じでゲットしたんですけどぉ、コレずっとチカチカ光ってるんですよぉ。ナンか意思っぽいの感じるんですよねぇ」
「お は な し」
「極東だと石に意思って言葉遊びが成立するからぁ、ナニかあるのかなぁってぇ」
……異世界のわたくしが寒いギャグをカマす年寄りなのかと思ってましたけど、極東特有のモノなんですの、ね……?
「えーと……意思がある、っていうのは」
「最初幻覚めちゃくちゃ見せられたんですけどぉ、一緒にナンか怖いとかそういう感情?もあるんですよぉ。私そういうの疎いから他人事としてしか感じませんでしたけどぉ」
「そゆトコ鬼寄りの性格で良かったですわね」
「確かにそうですねぇ」
モミジは目を細め、牙を見せるようにしながらクククと笑った。
相変わらず口調は緩くてぽやんとしてそうなのに、仕草の鬼っぽさが凄い。
……見た目と一致はしてますけれど、口調のギャップ強いですわよね。
まあ自分が言うこっちゃない気もするが。
「だからまぁ、怖くないですよぉ、大丈夫ですよぉ、って声掛けて撫でてたんですよぉ」
「怖い」
「酷いコト言いますねぇ。私は確かに鬼寄りですけどぉ、ちゃぁんと仲間と認識すれば優しく接しますよぉ。この石の場合は私が買った私の所有物なワケですしぃ」
確かに鬼は自分が奪った宝を大事にするという習性があるらしいので、そういうモンなのだろう。
「でぇ、しばらくそうやって話しかけたりしてたらぁ、ナンか温かくなってきたんですよねぇ」
「温かく?」
「この石温度があるっぽいんですよぉ」
「や さ し い の す き」
「……ふむ」
「でぇ、ナンか可愛いなぁって思って来たのでぇ、もしかしてこういう種族とか居るのかなぁって思いましてぇ」
「聞こうと思った、と」
「そういうコトでぇす」
「つかよくまあ魔物かもしれないってなりましたわね」
「だって意志疎通出来ないタイプの魔物も一定数居ますしぃ、魔物じゃない可能性も高いけどジョゼに聞けばわかりますよねぇ、って思いましてぇ」
「わたくしへのその信頼ナンなんですの?」
ありがたいが過剰な期待は勘弁してほしい。
「というか、ですね」
「なんですかぁ?」
「ど う し た の ?」
「先程からその石チカチカ光ってますけれど、ソレ、言葉ですわ」
「エッ?」
「わ か る の ?」
「ええ、わかりますの」
「す ご い」
「……ジョゼ、今この石と会話しましたぁ?」
「まあ、言語が字幕で表示されてますので」
「だからさっきからこの石が光る度に不思議そうに見てたんですねぇ。成る程ぉ」
成る程で納得して良いんだろうかと思わなくもないがよくあるコトだし、こちらとしても助かるので良いというコトにしておこう。
「隕石だったコトを考えると、元は星。多分隕石自体にコアとなる部分があって、その欠片がコアだったのだと……わかります?」
「鬼にもわかるように言ってくれませんかぁ?」
「えーっと……隕石そのものがボディで、その欠片が心臓とか魂とか脳みそとかナンかそういうアレ」
「成る程ぉ」
今の適当な説明でホントに理解したんだろうか。
まあ理解の方法はヒトそれぞれなので、本人が理解したっぽいなら多分大丈夫だろう、多分。
「でも破壊の神でも流石に意思ある星を隕石にはしないと思いますし……あの、ちょっとお聞きしたいんですけれど」
「な あ に ?」
「アナタ、隕石としてこっちに落ちる前から意識とかありましたの?」
「な か っ た」
「やっぱ無かったんですのね。じゃあ、こっちに落ちてから覚醒した感じで?」
「そ う」
「となると、アンノウンワールドのルール的なナニかが発動したみたいなコトかもしれませんわ」
「私まったくついていけてないんですけどぉ?」
「んー……要するにこの星に落ちた時点でアンノウンワールドルールが適用されるようになって、多分条件をクリアしてたから汝は魔物みたいなノリで魔物化したんじゃないかと……」
多分魔力があるとか歴史があるとか、その辺で魔物判定をクリアしてしまった結果なんじゃないかと思われる。
「……鬼にもわかるようにお願い出来ますぅ?もうちょっとスケール小さめでぇ」
「あー、えっと、郷に入らば郷に従え的なコトですわ。こっちだと剣士という認識ですけれど、極東に行ったらソレは侍って認識になりますわよね?つまり剣士が侍になったみたいな、ナンかそういうアレ」
「?」
「んん……極東の鬼がこっち来るとオーガとかそういう感じで名称変わるけど、そうやって名称変わると鬼じゃなくてオーガって魔物として認識されるから、そっち寄りになったりしますわよね?」
「あぁ、ありますよねぇ。こっちの神が極東来た結果名前とか特徴とか専門分野変化したりするみたいなぁ」
「そう、大体そういう感じですわ」
「成る程ぉ」
モミジが極東人だったお陰で柔軟に理解してくれて助かった。
実際こちらの悪神が極東行ったら何故か善神に変化してるコトがあったりするので、大体そんな感じに近い。
「……ん、アレ、つまりこの石ってぇ、魔物であるコトは正解ですけどぉ、新種みたいなモノってコトですかぁ?」
「し ん し ゅ ?」
「そうなりますわね」
「申請とかってした方が良いと思いますぅ?」
「まあ、一応。フランカ魔物教師に頼めばやってくれると思うので、行きます?」
「居ない可能性高くありませんかぁ?」
「居なけりゃそん時ゃ伝言書いた紙を扉に張っ付けておけば後で顔出してくれますわ」
「慣れてますねぇ」
何故か学園に入学してから新種の魔物と遭遇する率が高かった為、慣れた。
あまり嬉しくない慣れだが。
・
コレはその後の話になるが、あの石はインポーズメテオライトという魔物として登録された。
「インポーズメテオライトもご飯食べれたらぁ、一緒にご飯出来たんですけどねぇ」
そう言いながらモミジが撫でているのは、インポーズメテオライトがはめ込まれた指輪だ。
どうやら色々周囲を認識出来ているコトなどもわかったからか、外を見れるし一緒に居れるし光の確認も出来るし、というコトで指輪にセットするコトになったらしい。
……まあ、自立歩行出来ないならアクセサリーとして身に着けるのが一番良いのも事実ですわね。
「でもモミジの食事って生肉じゃありませんの」
「そうですよぉ?」
「な ま に く い や」
「インポーズメテオライト、生肉はイヤって言ってますわ」
「えぇ?でも人肉は生でこそ美味しいんですよぉ?血が滴ってるのがベストじゃないですかぁ」
「た べ る の い や」
「食欲湧かないそうですわよ」
「えぇー……。じゃあ他にはナニが食欲湧くんですかぁ?」
「た べ な い」
「そもそも食べたりする生態じゃないから食欲自体よくわかってないっぽいですわ」
「なのに生肉は拒否るって酷いですよぉ」
「た べ る の ち が う」
「生肉はインポーズメテオライトからすると食べ物枠に入ってないみたいですわよ」
「肉である以上は食べ物だと思いますけどぉ……」
そう言って、モミジは皿の上に盛られた人間の腕を手に取って骨ごと齧った。
相変わらず頑丈な顎だ。
……顎っていうか、牙の耐久性も凄いんでしょうけれど、ね……。
「というかぁ、最近光の加減で多少言ってるコトわかってきた気がするんですけどぉ、ジョゼが通訳するのと内容ちょっと違くないですかぁ?」
「違うって?」
「ナンか、インポーズメテオライトが単語単語な話し方してるっぽいのはわかるんですよぉ。でもジョゼってその辺しっかり読み取った上で通訳してますよねぇ」
「ほぼ意訳みたいなモンですけれど、まあ、ニュアンスとか状況とかで大体。一応合ってるハズですわよ。ねぇ?」
「あ っ て る」
「ホラ」
「うむむぅ、インポーズメテオライト検定があったらジョゼ優勝ですねぇ」
「検定って優勝とかそういうシステムでしたっけ?」
「私も頑張って読み取ってぇ、そういう細かいトコまでわかるようにしたいですねぇ」
唇に付着した血をペロリと舐め取って、モミジは苦笑する。
「今のままだとぉ、ジョゼの通訳頼りのままになっちゃいますしねぇ」
「確かに、モミジが自力でわかるようになると助かりますわ」
「いっそインポーズメテオライトがこっちの言葉話せるようになったりしませぇん?」
「む り」
「端的な拒絶の意思は感じましたよぉ」
「まあ魔物によって喋れるタイプと、喋るのとは違う意思疎通法タイプが居ますものね」
「むぅ……今日からお喋りの頻度増やしましょうかぁ」
「た の し み」
「あっ、今いまいち読み取れませんでしたけど温度高くなったので喜びましたぁ?」
「うん、楽しみにしてるっぽいですわよ」
「良かったでぇす。私も楽しみですからぁ」
そう言って笑うモミジの表情は鬼らしいというよりも、少女らしい笑みだった。
モミジ
名前は漢字で書くと紅葉という漢字。
見た目も性格も鬼寄りだが、敵対していない人間は無関係または仲間、という雑な括りをしているので普通に優しい。
インポーズメテオライト
破壊の神により落とされた隕石がアンノウンワールド効果で魔物化したが、まあ神がやったコトだからというコトで流され、普通に魔物として受け入れられた。
最初触れた相手に沢山のヒト型に囲まれるという幻覚を見せていたのは、単純に自分が知らない場所で囲まれて怖かったのを疑似体験させただけ。