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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
一年生
19/300

保険医助手とカラーパンサー



 彼の話をしよう。

 優しくて、呪いに長けていて、先んじて準備を終わらせておく。

 これは、そんな彼の物語。





 この学園には、保険室が二つある。

 魔力的な問題やちょっとした怪我、魔眼に魔物関係などは第一保険室。

 そして手術や肉体的問題に関する場合、つまり地球での病院のようなコトは、第二保険室。

 保険室は両方とも教員用の建物内にあるのだが、緊急時でもすぐ行けるようにと、初等部、中等部、高等部のそれぞれの建物内に、保険室へと繋がるワープ系魔法が施された扉がある。

 なので緊急時であろうがナンだろうが、それぞれの建物から保険室まで行くコトは可能なのだ。


 ……時々、教員用の建物へのショートカットとして利用されてたりもしますわね。



「いやー、すみませんね、ホント。お手数を掛けまして」



 そう苦笑しながらお茶を出してくれたのは、第一保険室の保険医助手である、アドヴィッグ保険医助手だ。

 いつも浮かべているうっそりした微笑みを苦笑いのカタチにしつつ、アドヴィッグ保険医助手は言う。



「かつてドコぞの王の墓から発掘され流れた呪いの本を闇市で仕入れたまでは良かったんですが、まさかアソコまで暗号化されているとは……エメラルド殿が居てくれて助かりました」


「わたくしもまさか呪いの本の翻訳を頼まれるとは思っていませんでしたが、読んだヒトに呪いが掛かるタイプじゃなかったのが幸いでしたわ」


「ハハハ」



 赤い髪を揺らして笑い、アドヴィッグ保険医助手は親指をグッと立てた。



「まあ呪いが掛かっても即死でさえ無ければ解呪しますから!」


「笑えませんわー!」



 ……このヒトの場合、ホントにソレが出来るからタチ悪いんですのよね……。


 死んだら流石にアウトだが、そうじゃなければ対処が出来るからこそ頼んでくるのだ。

 彼は呪いを掛けるコトに長けており、新しい呪い開発にも余念が無い。

 だが、ソレは言い換えれば呪いの仕組みに詳しいというコトでもあり、解除にも長けている。

 この学園で魔眼持ちの生徒が普通に生活出来ているのは、彼が細工した目隠しのお陰、というのも大きい。


 ……そして結構独特な方ですけれど、優しいのは事実なんですのよねー。


 可能な限り最善の手を考えてくれる。

 最善の中には最速も含まれているので、色々考えると最善かソレ?みたいな案を出す時もあるが、ソレでも命の危険にはならない案が多い。



「まったくもう、ホント、笑いゴトじゃないわよ?アドヴィッグ」



 そう溜め息を吐いたのは、アドヴィッグ保険医助手のパートナーであるカラーパンサーだ。

 毛の色が変化するカラーパンサーはその毛色を緑から青のグラデーションに変えつつ、椅子に座ったアドヴィッグ保険医助手の足元で丸まった。



「彼女が解読出来る子だから良かったけど、アナタ、あの本には暗号解読に時間を掛けるとその瞬間狂うような呪いが仕込まれてるって言ってたじゃない」


「エッ」



 ……初耳ですわよ?


 アドヴィッグ保険医助手に視線を向けると、相変わらず微笑みを浮かべていた。



「エメラルド殿の目は何度も診断していて、どのくらい読み取れるのかはわかっていますからね。あのくらいの呪い、そして文字を読もうとしたら理解を妨げて解読を邪魔してくる呪いくらいなら無視出来ると思ったんですよ」


「待っていただけます?あの、色々初耳なんですけれど」


「言ったらやってくれないじゃないですか」



 ……このヒト、こういうトコありますわー!


 キョトンとした表情で当然のように言ってくるが、こういうコトは時々ある。

 というかこの学園の教師達は皆微妙に癖者なのだ。仕方が無い。



「まあ、そうですね。場合によっては危険なのもあるのも事実。今度からは言いますよ」


「ホント、お願いしますわ」


「ええ。……まあその瞬間だけ局所的に記憶喪失になる可能性は高いですが」


「保険医助手が変な病気をでっち上げないでくださいます?」


「ハハハ」



 アドヴィッグ保険医助手は笑いながらお茶を飲むが、このヒトはこういうヒトだ。

 どうもふざける相手を選んでいるらしく、視力がほぼ無いアーロのように色々と深刻な事情を持っている相手には真摯に、そして真面目に対応するのだが、自分のようにソコまで深刻では無いタイプにはこうしてふざけるコトも多い。

 そう考えつつお茶を飲んでいると、カラーパンサーが申し訳無さげにコチラを見た。



「……あの、アドヴィッグがごめんなさいね?悪気は無いのよ、悪気は」


「いえ、幾らパートナーとはいえ、カラーパンサーが謝るコトでもありませんから、気にしないでくださいまし」



 見た目こそカラフルな肉食獣だが、彼女は良心的だ。

 その上、変化する毛色を調節して色彩によるカウンセリングを行うコトもある。

 自分が思うに、保険医助手のパートナーとして最適な魔物の一種だと思う。



「でも、ホラ、やったコトがやったコトでしょう?」



 コチラは最早諦めの境地なのでホントに気にしてもいない、というか気にするのを止めているのだが、カラーパンサーからするとそういう風に割り切れるモノでもないらしい。



「彼はその、変なトコで自分の欲を優先したりもするけど、ちゃんと優しいしまともなのよ?ただちょっと、呪いに対する興味がカンストしてるだけで」


「うん、その「呪いに対する興味がカンストしてる」っていうのがとびきりアウトな気がしますわ」



 そのせいでノーマルレベルの狂人状態だ。

 お陰で解呪やらナンやらが出来るとはいえ、未知の呪いに対する探究心が強い。


 ……まあ、この学園の教師は殆ど研究者タイプなので、今更と言ったら今更ですけれど。



「あの、でも、ホントに優しいのよ?」



 毛色を紫からグレーというグラデーションに変化させ、尻尾をくねらせながらカラーパンサーは言う。



「呪いに関する情報が手に入るからっていう理由があるとはいえ、あちこちを旅して無償で解呪してたコトもあるし」


「ああ、懐かしいですね。そんな旅をして旅費が尽きたトコロをスカウトされたんでした。自室も研究室も提供してくれると来たら頷く以外ありませんよね。特殊な生徒多いから変わった呪いやら魔眼やらも調べれますし」


「ナンでアドヴィッグ保険医助手はカラーパンサーのフォローを自分からぶっ壊してんですの?」


「え?いや単純に私はカラーパンサーとほのぼの会話してるだけのつもりですが」



 ……やっぱノーマルレベルの狂人ですわねー。


 自覚があればイージーレベル、自覚無くて害が無いのはノーマルレベルだ。

 自覚ありで害があるのはハードレベルで、自覚も無くて害が大きいが害を止めるコトもある大きい災害みたいなタイプがアルティメットレベルの狂人である。

 つまりハードからはヤバイ狂人なので、まだセーフだ。多分。



「……確かにアドヴィッグはちょっとアレだけど」


「え、私カラーパンサーにまでアレ扱いされるレベルですか?」


「でもね」


「ちょっと、無視しないでください」



 背中を揺すられながらもアドヴィッグ保険医助手をスルーし、カラーパンサーは続ける。



「彼、絶対疑わないのよ」



 懐かしそうに目を細め、尚もアドヴィッグ保険医助手を無視する。



「モチロン不審者とか、本の内容を疑ったりっていうのはあるのよ?でも、誰かが「こういう能力を持っている」っていうのは疑わないの」


「ああ……確かに、わたくしの目についても、最初から疑念とかまったく抱いてませんでしたものね」


「そうよ」



 カラーパンサーはふふ、と嬉しそうに微笑んだ。



「ホント、普通なら疑うようなコトを言われても、彼は「じゃあ調べましょう」って言えるの。生徒には色んな混血を始めとして、様々な事情がある子も多いでしょう?」


「多いですわね」



 混血はそれぞれ親が違うので、ヒトによって本当に様々だ。

 事故で手を無くしたり、混血ゆえに生まれつき手が無かったり。



「……そういう、色んな生徒相手にとって、確かに疑わずに接してくれて調べてくれるようなヒトが存在するのはありがたいコトですわね」


「でしょう?」


「あの、無視したまま話を続けないで欲しいんですが……」



 アドヴィッグ保険医助手が寂しそうにそう言うと、カラーパンサーは無視を続けているものの、尻尾をアドヴィッグ保険医助手の腕に絡ませた。



「私と出会った時から、彼、疑わないヒトだったのよ」


「そうなんですのね……。あの、折角なので馴れ初めとか、聞いてもよろしくて?」


「ええ、モチロン!」


「あ、女子会フィールド張られましたね。コレ私完全に会話から追い出されましたよね今」



 会話に入れないアドヴィッグ保険医助手は、腕にカラーパンサーの尻尾を絡めたまま、ガックリと肩を落とした。





 カラーパンサーは、懐かしい記憶を思い出すような目をして語り始める。



「まず最初に……私には、というかカラーパンサーには予知能力があるっていうのは知ってるかしら?」


「ええ、図鑑で見ましたわ」



 カラーパンサーはそこまで遠い未来は見えないが、予知するコトが出来る。

 遠くて三ヶ月までの未来を予知出来る、と本には書いてあった。

 実際普段から彼女が保険室を訪れる生徒を予知し、その治療の為の道具をアドヴィッグ保険医助手が用意する、というのはよく見る光景だ。



「……ただ、ホラ、カラーパンサーって種族自体が結構マイナーだから、あまり予知能力については知られてないのもまた事実なの」


「あー……確かに、言われてみると一部にしか予知に関しては載ってませんでしたわね」



 大体の図鑑にカラーパンサーの名は載っていたのでマイナーというワケでは無いと思うが、しかし説明の部分に書かれているのは毛の色が変化するコトだけで、予知能力についても書かれている図鑑は数が少なかった。



「だからまあ……私、昔はあまり誰かに予知した情報を教えたりとか、しなかったのよね」


「エッ」



 結構な頻度で予知した情報をアドヴィッグ保険医助手に伝えている姿を知っているので、思わず声が漏れてしまった。

 その反応に、カラーパンサーは少しむくれる。



「ホントなのよ?だって、信じてもらえずに嘘吐き呼ばわりされたくないもの」


「成る程」



 確かに、と納得した。



「でもね?ある日……あ、昔の話なんだけど、当時は私、一匹で旅をしてたの。それで良い感じの森があったからソコで休んでたんだけど、うっかり近くにある集落の予知を見ちゃって……」



 カラーパンサーは当時を思い出してか、耳を伏せた。



「数日後に、その集落の廃墟にあるツボに封印されている呪いが現れて、集落を滅ぼしちゃうっていう未来をね、見ちゃったの。ツボが劣化で壊れて、封印が解けちゃう、っていう」


「え、大惨事ですわよねソレ」


「そうなのよ」



 ふぅ、とカラーパンサーが溜め息を吐く。



「でも私が話しても信じてもらえるかはわからないじゃない?自分に関係する予知は見れないし」



 ……自分に関係する予知は見れないっていうの、初耳ですわ。


 だが予知系の場合自分だけは見れない、というのはよく聞く話でもあるので、納得は出来る。



「言おうかどうしようかってオロオロしてたら……まあ、不審な動きだったんでしょうね。彼に……アドヴィッグに、「どうかしたんですか?」って声を掛けられたの」


「森から出て集落へ行こうとしては止まって、を繰り返してましたからね」



 話に入れないと判断したからかアドヴィッグ保険医助手は解読したての呪いの本を読んでいたが、ページを開いたままコチラに視線を向け、補足する。



「正直人肉が主食だから集落を襲おうとでもしてる魔物なのかとも思いましたが、そういう害魔のような雰囲気では無かったので。飢えた気配とも違うので、ナニかあったのかと思って声を掛けたんですよ」



 ソコまで言って、アドヴィッグ保険医助手はお茶を飲んだ。



「話し掛けられた私は、まあ、他に考えも浮かばなかったから、彼に予知して見た光景とかを話したのね?そしたら彼、疑う気配なんて微塵も見せずに「じゃあ夜に侵入して呪いをどうにかしちゃいましょ

うか」って」


「だってカラーパンサーが廃墟って言ったので、侵入が楽かと思ったんですよ」



 クスクス笑うカラーパンサーに、アドヴィッグ保険医助手は少し唇を尖らせた。



「それに、当時の私は呪いを調べる為の旅の最中でしたからね。廃墟に放置というコトは集落の住人も知らないだろうから、違う入れ物にでも移動させてかっぱらえば、落ち着いて研究出来るんじゃ?って思ったんです」


「彼の考えはどうであれ、信じてくれたのは事実よ」



 そう言い、毛色を黄色からオレンジのグラデーションに変えたカラーパンサーは柔らかい笑みを浮かべた。



「それに悪人みたいな気配もしなかったから、大丈夫だって思ったの。で、夜になってから、予知で色々見た私が廃墟まで案内して、ツボの呪いを違う入れ物に移し変えて、夜が明けない内に撤退」


「あの、思ったんですけれど」



 授業の時のクセで、挙手をしてから問い掛ける。



「先に集落のヒトに話を通せば、もっと早くに終わるんじゃありませんの?集落の方だって呪いなんてお断りでしょうし、アドヴィッグ保険医助手もいるなら説得くらい出来そうですけど」


「作業を見られると面倒ですし、下手な観衆は邪魔なだけですからね。ソレに集落に呪いがあるとわかったらソッコで解呪する方向で話が纏まる可能性が高かったので、秘密裏にやった方が得だったんです」


「私も疑われたり不審がられたりしたくないから、そっちの方が良いなって思って」


「あー……」



 確かに、自分の住んでいるトコロに周辺滅ぼすレベルの呪いがあると言われたら動揺するのが普通だろう。

 そして本当にキチンと処理されるのかが気になって手元を覗き込んだりという阻害行為をするヒトも居るだろう。

 そんな状況で呪いの研究云々なんて言ったら、例えアドヴィッグ保険医助手が呪いを持って行くと言ったとしても「俺達の命をナンだと思ってるんだ!」みたいなキレ方をされる可能性が高い。


 ……カラーパンサーは猫科で暗闇に適してる分バレにくいから、トータルで考えてこっそり済ませた方が面倒が無いって結論になったんですのね、多分……。



「それで、お互い目的を達成したワケだから、ここで解散しようかってなったんだけど……私の言葉を信じてくれて、私が困っていたコトを、彼はあっさりと解決してみせたワケじゃない?」


「ほほう」



 猫らしい笑みを見せるカラーパンサーに、思わずコチラもニヤけた笑みになってしまう。



「つまり、その時にラブしちゃったと?」


「その通り。その時にラブしちゃったから、私の予知能力があれば呪いの場所とかわかるかもしれないわよって言って、付いて行ったの」


「あの時は驚きましたね」



 そう言いつつ、机に隠していたのだろう、箱にアドヴィッグとしっかり名前が書かれているマドレーヌを取り出した。



「……あ、減ってる。名前書いたのにまたカルラ殿食べましたね……まあ良いや。エメラルド殿も食べます?」


「いただきますわ」



 差し出された箱の中を見れば、カラフルなマドレーヌが入っていた。

 よく()ると、草が練りこまれていたり毒が練りこまれているのもあるという、混血が集まる時用の自己責任系お菓子だった。

 混血ではあるものの味覚自体は普通なので、普通にストロベリー味を貰う。



「で、続きですが」



 チョコレート味のマドレーヌをカラーパンサーに食べさせつつ、キャラメル味のマドレーヌを食べながらアドヴィッグ保険医助手は言う。



「私の場合、自分が変人なのには自覚があるんですよ。普通呪いは忌避するモノですし」



 ……変人というより、狂人ですわよね。



「なので、まあ、好意を持たれたのが不思議でして。旅の最中ではモチロン普通に解呪するコトもあったので、そういう場合は好意的に見られるというのはありましたが……彼女には正直に「呪いの研究したいから呪い奪う」と言いましたしね」



 言いながらキャラメル味のマドレーヌを食べ終わり、アドヴィッグ保険医助手はメープル味のマドレーヌを頬張る。



「その上で好意を持たれたのは始めてだったので、研究してる呪いの巻き添え食らう可能性ありますがソレでも良いなら、と同行を許可しました。一人旅を寂しいと思う気持ちは無くは無かったし、予知能力があれば呪い探しもしやすいな、という打算もあったので」


「ソコで呪いの巻き添え食らうかも、って忠告してくれるのが優しいのよね」


「アー、マアソウデスワネー」



 ……普通に優しいヒトならまず、近くに居る誰かに呪いの巻き添えを食らわせるようなヤバイ研究はしませんわ。



「ソレで一緒に旅をするようになって、気付けば私もカラーパンサーを大事なパートナーと認識していて……」



 メープル味を食べ終わり、いつの間にか語り手になっていたアドヴィッグ保険医助手はイチジク味のマドレーヌを口に入れた。



「で、まあ旅の途中で改めてパートナーになって欲しいと伝え、オッケーを貰い、一緒に旅をし、お金が尽きた辺りでスカウトを受けて現在、って感じです」


「あの、パートナーになってほしいと伝えた辺りを詳しく」


「ヤですよ恥ずかしい」



 ……このヒト、恥ずかしいって感情あるんですのね。


 アドヴィッグ保険医助手に恥ずかしいという感情があるコトと恥ずかしさで顔を赤らめるコトがあるという事実に、思わず驚いてしまう。

 しかしカラーパンサーはその思い出を大事にしているというコトでもあるからか、とても嬉しそうな顔でアドヴィッグ保険医助手を見上げていた。



「うふふ、彼がこう言ってるから、コレに関してはここまでね」


「そのようですわね。残念ですわ」



 マドレーヌの後味が残る口の中を、お茶を飲んでサッパリと洗い流す。

 すると、毛色をピンクから赤というグラデーションに変化させたカラーパンサーは楽しげな様子でコチラに来て、自分の耳元で囁いた。



「もしオッケーが出たら話すわね?」


「オッケーを出す予定はありません」



 どうやら聞こえていたらしく、アドヴィッグ保険医助手によってキッパリとそう断言された。





 コレはその後の話になるが、今日も一人と一匹は第一保険室で働いている。



「ああ、アナタ、ちょっと。もうすぐあの子……初等部の子が来るわ」



 定期診断が終わり保険室でお茶を飲んでいると、カラーパンサーがそう言った。



「転んで足を擦りむいたみたい。お友達も一緒で、こっちは剣術の授業でかしら、手にタコが出来ちゃってるから、こっちも一緒に診てあげて」


「わかりました、準備をしておきますね」



 そんなやり取りをして、アドヴィッグ保険医助手は手当ての為の道具を準備し始める。



「カルラ殿は足を擦りむいた方の子をお願いします」


「おいアドヴィッグ。お前は助手であって、この保険室の主は私なんだが。せめて少しくらい私に指示を出させろ」


「おいおい、オメェあんま指示出したりとか向いてねぇって自覚あるクセにナニ言ってんだ?槍でも降んのか?」



 ケタケタ笑ったカースタトゥーに、カルラ第一保険医は不愉快そうに顔を歪めた。



「確かにアドヴィッグに任せた方が楽だし的確だが、生徒の前では多少威厳を見せたいだろうが。生徒が私よりアドヴィッグにばかり頼るようになってもナンだしな。あと槍が降るとか言ってホントに槍が降ったらどうする気だ貴様」


「ただの例えじゃねえかよ」


「あ」


「あ?」



 カラーパンサーが窓の方を見て声を上げ、ソレに気付いたカルラ第一保険医が不思議そうに窓の方を見て、目を見開いた。

 同じく窓の外を見たアドヴィッグ保険医助手が、ポツリと呟く。



「……槍、降りましたね」



 後で知ったが、窓の外に降り始めた槍は、混血である高等部の先輩がうっかり降らせてしまったモノだったらしい。




アドヴィッグ

優しくて若手で常に微笑みを浮かべているがそれなりに狂人。

満月の日は自分の魔力と相性が良く、呪いの精度が上がるからとご機嫌になる。


カラーパンサー

第一保険室メンバーの中で一番保険室に居るのが似合うお姉さん的パンサー。

猫科だが魔物なのでチョコは平気。寧ろ好物。


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