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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
六年生
189/300

衝撃少年とサポートタオル



 彼の話をしよう。

 警備員志望で、剣が扱えず、しかし拳による攻撃の衝撃が凄い。

 これは、そんな彼の物語。





 ヒュッ、とフォルクマーの拳が風を生み出す速さで木に直撃した。

 直後、拳から放たれた衝撃が木の内部を巡り、伸びている枝が根本からメキメキと折れて地面に落ちる。



「……失敗か」


「や、良いセン行ってましたわよ」



 そう言ってフォルクマーに近付き、少し捲れている木の皮を摘まんで引っ張れば、木の皮がベロンと綺麗に剥けた。

 お湯に浸けたトマトの皮を剥くようなレベルで綺麗に剥けている。



「ホラ」


「いや、だが俺がやりたかったのは、木の枝と一緒に皮もベロンと落ちるっつーのだからな。手で引っ張りゃイケる、なんて妥協なんざしたくねえ」


「アナタがナニを目指してるかわかんなくなりますわねー」


「ここの警備員に決まってんだろ」


「うん、だからこそわかんないんですのよ」



 何故警備員になろうとして木の皮を完璧に剥こうとなるのか。

 まあ、そのレベルで衝撃を細かくコントロール出来るように、というコトなのだろうが。


 ……拳の衝撃、凄いですものね。


 フォルクマーは元は剣を使おうとしていたようだが、剣との相性がすこぶる悪かった。

 しかし生粋の人間でありながらもその拳から放たれる衝撃のレベルがとんでもねえというコトが発覚した為、そっち方面へとシフトしたのである。


 ……ホント、拳直撃させるコトで相手の鎧を無視して中身に衝撃を与えるとか、どういう殴り方すりゃそうなるんだか、って感じですわ。


 筋肉や衝撃の動きが()えるとはいえ、自分はソレを()てコピーする、というコトは出来ない。

 何故なら()えるからイコールでまったく同じ筋肉の動きを出来るかと言われると、そうではないからだ。


 ……根本的に色々違いますものね。


 しかしフォルクマーの拳から放たれる衝撃は、凄まじく細かいコントロールが可能なのである。

 鎧を無視して衝撃を貫通させたり、今みたいに木の中身と皮の間に衝撃を走らせた上で枝の根本にダメージを与えたり。


 ……要するにアレですわよね、石の上に乗ったカエルにパンチ食らわせてもカエルは無事で下の石だけがクラッシュみたいな。


 異世界の自分曰く、マジでメメタァが出来るとご機嫌なようだが、どういう用語なんだろうか。

 まあフォルクマーに凄い才能がある、というコトだろう、多分。



「……しっかしまあ、随分と頭に葉っぱ付けて。ホレ頭差し出しなさいな」


「おう」



 素直に頭をこっちに差し出してくれたので、フォルクマーのくすんだ薄い茶髪に乗っている葉っぱをぺいぺい落とす。

 十五歳にしては結構身長高めなフォルクマーなので、頭を屈めてもらわないと面倒なのだ。


 ……ええ、まあ、わたくしはわたくしで背ぇ高めなので、ちょっと手ぇ伸ばせば余裕で届きますけれど……。


 でもわざわざ手ぇ伸ばしてまでやるつもりはないのでしゃがんでもらった。

 自分より背が低い子相手ならばそのまま葉っぱを落とすので、自分より高い身長が悪い。


 ……というか単純にしゃがんでもらってるだけですから、別に良いも悪いもありませんけれどね。



「ところでフォルクマー」


「あん?」



 葉っぱを落とし終えたフォルクマーはしゃがむのを止め、首を傾げた。



「アナタ枝落とすのは良いんですけれど、アレ脳天に直撃しかねないので止めた方が良いですわよ」


「今回はセーフだった」


「そりゃ今回はセーフでも、今回じゃない時にアウトだったりしてるじゃありませんの。ちょいちょい傷薬貰いに来るってカルラ第一保険医が面倒臭がってましたわ」



 ……正直ソレが仕事なんだから、生徒相手にあけすけに言うなあとは思いましたけれど……。


 カルラ第一保険医はそういうトコあけっぴろげなタイプだ。

 というか保険医なら面倒臭がるよりも、作り物で良いから心配そうな態度をするもんじゃないのかと思うが、まあカルラ第一保険医なのでこっちの方がしっくりくるのもまた事実。


 ……寧ろこの学園の教師達全員、ゴーイングマイウェイがキツ過ぎるせいでまともな先生っぽいコト言うと逆にビビるんですのよねー。


 まともにヒトの心配をするカルラ第一保険医など、ヤニ切れか高熱か偽物かを疑うレベル。

 もしくはアドヴィッグ保険医助手から強奪したおやつに呪いか毒でも仕込まれてたんじゃないか疑惑が出る。


 ……うん、つまりカルラ第一保険医が面倒臭がってんのは通常運転で安心ってコトですわね!


 その結論でホントに良いのかと異世界の自分が引いている気がするが、大体そんなモンなのでモーマンタイ。



「だが、こうしないと枝を落としたり出来ねえだろうが」


「だから衝撃をコントロールするなりしなさいな、ってコトですわよ。

衝撃で根本からシュポーンと発射するような感じにすれば枝が真下に落ちるコトはありませんし、周囲に敵が居る時などに良い飛び道具になりますわ」


「どういう想定してんだよ」


「バトルの想定に決まってるじゃありませんの」



 平和に見えるがこの学園、結構警備員の方々に守られているワケだし。

 生徒狙いの愚か者がどんだけの頻度でお縄になっているか知らんのか。



「つかソレ以前に、枝が折れた根本の方を下にしてアナタの脳天に刺さったが最期ですわよ。主にアナタが」


「怖ぇコト言うんじゃねえよ!」


「怖ぇコトしてんのがアナタでしょうに」



 自分なら大丈夫理論が通用するような甘い現実があるワケ無かろう。

 そんな思考の下脱獄して頭パァンされて絶命する脱獄犯を見たコト無いのか。



「言っときますけれど、脳天ザックリいったらマジでアナタいきますわよ?」


「あの世にか」


「イエス」



 頭蓋骨が仕事してくれるかもしれないが、頭部の出血量は多いのでシャレにならんのもまた事実である。

 脳みそは結構繊細なワケだし。


 ……その時無事でも、後々ヤベェコトになるパターンあるのが怖いんですのよねー。



「だけど枝を飛ばすっつーのは……アリだとは思うけどよ、周囲に被害出んだろ」


「なら飛び道具にならない程度、クラッカーをパァンするくらいの威力にすれば良いんじゃありませんこと?」


「……成る程」



 ふむ、とフォルクマーは頷く。



「じゃあコレからそうするよう気ぃつけるとして、さっきのやり方じゃいまいち皮が剥けなかったのはナンでかわかるか?」


「単純に衝撃の動かし方ですわ。とにかく全体的にぶわっと広げてから枝に移動!ってやるからああなるんですのよ。

もっとクモの巣状のように均等に衝撃を広げ、かつこの辺から捲れるようにってしたいなら少しで良いから皮に入ってる切れ目部分を刺激」


「あー、成る程。さっきのじゃ微妙に内部の衝撃に差があったし、ソコを切り取ったとしても皮が膨らむワケじゃねえからな」


「そうそう」



 下に広がる根っこがある以上、皮がストンと下に落ちるコトは無い。

 ならばどうすれば良いかと言えば、切れ目なりを入れればそっから勝手に皮の自重でペロンと捲れる。


 ……まあその場合皮がちゃんと中身と分離出来てるかが重要ですけれど、ソレはちゃんと出来てるっぽいので大丈夫でしょう、多分。



「よし、改善点がわかったトコでもう一発別の木ぃ殴るか!」


「事実ですけれどなっかなかの言動ですわよね、ソレ」



 実際木を殴るのだから、まったくもって間違いは無いけれど。





 アレから一人で森の木を裸に剥いては薪にしたり美術室の彫刻用木材とか剣術授業用のカカシにと提供していたフォルクマーだが、最近は少し変化があった。

 変化があったというか、いつの間にかパートナーを作っていた。



「……とうとうフォルクマーまでパートナーが……」


「どういう意味だジョゼフィーヌ。まるで俺にはパートナーが出来ねぇと思ってたみてぇじゃねえかコラ」


「いや出来ないとは思ってませんでしたけれど、ホント毎年友人達がパートナー出来まくるのナンなんですの?わたくし未だに独り身なんですけれど。ちょっと。フラグ一切ありませんのよこちとら」



 いや正確にはこの視力とかがフラグっぽいが。



「んなコト俺に言われたって知るかよ。つかそもそも俺だってサポートタオルと出会ったのはつい最近だっての」


「ハイ、会ったのはつい五日程前です」



 フォルクマーの首に掛けられているタオル、サポートタオルがそう同意した。



「……五日前が出会いで、昨日の授業の時には首に掛けて無かったコトを考えると昨日の放課後辺りにパートナーに?」


「ハイ。ソレまでは単純に、頑張るフォルクマーを本能的に全力サポート!しておりました」


「成る程」



 確かにサポートタオルは頑張るヒトのサポートをする、という本能がある魔物だ。

 頑張るヒトの汗を拭いたり、飲み水を持ってきてくれたり、己を冷水に浸けてヒンヤリタオルになったり、というサポート特化タイプ。


 ……まあタオルとしての本能なのかもしれませんけれど、やってるコトはマネージャーって感じですわよね。


 異世界の自分がつまりマネージャーはタオルでタオルがマネージャーで?と意味のわからんコトを呟いて頭を抱えている気がするが、まあ無視で良いだろう。

 自分から迷宮入りしてどうするのやら。



「まあ確かに、サポートタオルの特徴的にフォルクマーはピッタリでしょうしね。フォルクマー口悪いけど努力家ですし、真っ当ですし」


「俺はお前にだけは口の悪さを言われたくねえ」


「言わないでくださいな。自覚はありますけれど」



 最近自分の口の悪さがマジでヤベェ感じになっているのは流石に自覚している。

 が、綺麗な言葉で取り繕うのも面倒臭ぇなとなる狂人が多いのも悪いと思うのでつまりわたくし悪くありませんの。



「うん、でも、良いコトですわね。サポートタオルが居ると、フォルクマーも特訓がやりやすいでしょうし」


「あー、まあ、確かにな。的確なタイミングで休憩入れてくれるし、一緒に色々考えてもくれるし」


「そうやって頑張るヒトのサポートをするのが私、サポートタオルですから」



 嬉しそうな声色でそう言って、サポートタオルは端っこの部分をヒラリと揺らした。

 サポートタオルは基本的に風に揺られてその辺を飛んで移動したりする自立移動が可能なタイプなので、こうして大人しくフォルクマーの首に掛けられている辺り、大分気に入っているらしい。


 ……まあ、パートナーになるレベルで気に入ってるのは確実だとすると、そりゃ飛んでるよか首に掛けられてる方が良いですわよね。


 タオルだと考えると、ベストポジションがソコなのだろう、多分。





 コレはその後の話になるが、サポートタオルという有能なマネージャーがついたからなのか、フォルクマーの拳から放たれる衝撃のコントロール率が良くなってきている。

 今もフォルクマーの拳が当たった木の内側を衝撃が巡り、枝の根本がパァンと飛んで皮がベロンチョと捲れ、木は根っこの上辺りからつるんとした裸体をお披露目していた。


 ……皮が皮だと考えると、裸体のお披露目というよりかは中の剥き身がお披露目でしょうか。


 つまり常に裸体フィーバー。

 しかし木に欲情するタイプのヒトは木の皮が捲れてつるんとしている表面に興奮しそうだと考えると、木のつるつる感に欲情するヒトは皮剥いだ肉に興奮するタイプなんだろうか。


 ……うーん、わたくし自身に性欲が無いせいか、その辺理解しようとしてもいまいち感覚のシミュレートが出来ないんですのよね。


 異世界の自分はソレは無いと首を横に振っているので、多分色々間違っているのだろうが。

 そういえば異世界である地球知識では木を恋愛対象や欲情対象に見るヒトはほぼ居ないっぽいようだったと考えると、木に欲情するというコト自体間違っていたのかもしれない。


 ……アンノウンワールド的には無機物も有機物も余裕で対象になるから、よくわかりませんわね、その辺。


 異世界の自分が有する知識からすると性欲のある人間は穴や棒があればオッケーというタイプも居るらしいので、ソレなら木とかベストだと思うのだが。

 穴も棒もあるのに、ナニが違うのだろう。


 ……うん、やっぱ性欲ある人間の思考ってよくわかりませんわ。



「流石はフォルクマー、今日も素晴らしい衝撃コントロールです。コレで三回連続成功ですので、マスターしたと言えるのでは?」


「いや、感覚忘れるかもしれねぇからあと何回かやって、その後違うのをやりつつ時々コレやって感覚忘れねえようにって気を付けねえと……っと、あんがとよ」


「いいえ、コレが私の本業ですので。本業というか、本質ですが」


「ハハ、確かに」



 サポートタオルに汗を拭ってもらいながら、フォルクマーは楽しそうに笑った。



「ですが、そろそろ休んだ方が良いのも事実ですね。食堂で作っていただいたお弁当もあるコトですし、休憩にしましょう」


「おう、そうだな。ジョゼフィーヌ、ちっとソコのバスケット開けて色々出しといてくれ」


「オッケーですわ。その間にソコの川で顔と手ぇ洗ってきなさいな。じゃないと手首の内側のやらかい皮膚をつねりますわよ」


「お前、脅し方が微妙なのに絶妙に痛くてイヤなトコ突いてくるよな……」


「効率的で良いじゃありませんの」



 少ない力で結構な力を与えられるし、手首はあまり意識されないとはいえ人体にある首の一つ。

 つまり本能的に恐怖感を与えるコトが出来る良い部位だ。


 ……ソレに人体のやらかいトコですしね。


 曲がる部分の内側だったりは皮膚がやらかいし薄いしで痛みが強い部位でもあるので、ちょっとの痛みで結構な痛みを感じさせるコトが出来る部分。

 要するにとてもとても効率が良い。



「……そういえばフォルクマー」


「あん?」



 川で顔と手を洗い、サポートタオルに拭かれながらフォルクマーは首を傾げた。



「サポートタオルにあるとある噂、知ってます?」


「知らね」


「ふむ。噂、ですか。当魔ですが、私も知りませんね」


「あら」



 本魔も知らないとはちょっと驚き。

 しかし噂とはそういうモノなので、知らなくても不思議では無いなと頷く。



「サポートタオルの噂っていうのは、サポートタオルの御眼鏡に適ってパートナーになるコトが出来ると、その人間は大成する、ってヤツですわ」


「眉唾ですね」


「だってよ」


「そりゃ本魔からしたらそうなるかもしれませんけれど、サポートタオルがパートナーにしたいって思うのは、フォルクマーのような努力家ばかりでしょう?」


「確かに、そうですね」


「そしてサポートタオルはサポートに特化しているからか、助言が的確なコトが多い」


「ソレはわかる」


「つまり的確な助言と努力が合わさった結果、大成するコトが多いってコトですのよ」


「……成る程、そういう意味のモノでしたか」


「エ、わかったのか?俺にはサッパリわからねえんだが」


「ふふ、フォルクマーからすると将来的にわかるタイプの話ですから、将来をお楽しみに、というコトでしょう」


「ま、そういうコトですわね」


「はあ?」



 理解していないらしいフォルクマーは怪訝そうな表情だが、コレは要するにサポートタオルに認められる程の努力家は諦めたり挫折したりしない、というコトだ。

 つまり目的の為に頑張る根性があり、やり遂げる思いも強い。

 だからこそ大成するという噂なのだが、フォルクマーがソレを理解するのは、もう少し先になりそうだ。




フォルクマー

生粋の人間でありながら凄まじい衝撃を放つ拳を有するが、その対価なのか剣などの武器はまったく扱えない。

ただし防具無視出来る拳というのは警備員的に有望と教師達に応援されてる。


サポートタオル

頑張るヒトのそばに待機し、汗を拭いて飲み水を用意して、時には自分を冷水につけて相手をクールダウンさせるという完全マネージャータイプな魔物。

タオルとしての本能もあり、頑張る誰かの応援をするのが生き甲斐。


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