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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
六年生
184/300

薔薇少女とソイルゴーレム



 彼女の話をしよう。

 遺伝で髪に色とりどりのバラが咲いていて、全身に見えないトゲが生えていて、自分のトゲがコンプレックスな。

 これは、そんな彼女の物語。





 袖を捲ったレーアの腕を木べらで撫でれば、普通の目では目視不可能なトゲがボロボロと落ち、目視可能になった。

 ボロボロと落ちたトゲは、下にセットされているボウルの中へとザラザラ溜まる。



「……相変わらず、攻撃力高そうなトゲですわよね」


「実際攻撃力が高いから困りものなのよね」



 レーアは緑の髪を揺らして溜め息を吐いた。



「ジョゼみたいに目が良いと見えるみたいだから良いけれど、アタシ自身にはこのトゲ見えないし。しかも触れた瞬間にトゲがパキッて取れるんだもん」


「ソレでトゲの問題が無くなるならともかく、数秒でまた不可視のトゲが生えますものねえ」



 そう、レーアはバラ系の魔物との混血だからなのか、文字通り体にトゲが生えている。

 しかもめっちゃ刺さるタイプの鋭いトゲだし、ちょっとの刺激で自切するタイプだからうっかり刺さった相手はトゲが食い込んで激痛に叫ぶし、自切するまで不可視だし、とかなりの危険トゲ。


 ……わたくし、()える目で本当に良かったですわ!



「昔はまだ制服がカバーになってたのに、最近はトゲが進化でもしたのか、制服をすり抜けてるみたいで……」


「ソコ、貫いてるじゃないのが怖いですわよね」


「ホントにね。そのせいで椅子に座ってから立ち上がるとトゲだらけになってるし、クッション使えば悲惨になるし、うっかり肩がぶつかっただけで相手に怪我負わせちゃうし……」


「ドンマイですわ。まだ手の平と足の裏にトゲが生えてないだけセーフセーフ」



 ソレにトゲが生えてる位置は決まった位置なので、ソレに合わせた特製クッションなら大丈夫だとつい最近発覚している。

 まあ特製クッションでも座る側であるレーアが位置を気にし忘れるとソッコで駄目になるっちゃなるが。



「確かにそうなんだけど、いい加減イヤになるわ。起きる度にベッドの中がトゲ塗れになってるのよ?」


「あー、ソレはイヤですわね」


「だからもうゴミとかの不要物を察知して吸収するコトで上質な素材に進化していくベッドに替えちゃった」


「エッ、そんなベッドあるんですの!?」


「無かったからエゴール先生に頼んだの」


「お金、請求されたりとかは?」


「珍しい発想だから作るのが結構楽しかった、って無料にしてくれたわよ。でも流石にソレはって言ったら、ならヨイチ先生がマキビシに使いたいって狙ってたからトゲを提供してやってほしいって」


「……あー、だからわたくし、トゲ集めをエゴール魔道具教師に頼まれたんですのね……。通りで集め終わったらヨイチ第二保険医に渡してくれって言われたワケですわ……」



 いきなりちょっと今忙しいから代わりに頼むと頼まれて、よくわからないままにやっていたが、そういう経緯だったのか。



「…………エ?ジョゼってばまさか、ナニも知らずにアタシのトゲ取ってたの?」


「なーーんにも聞かされてないからナンにも知りませんわよ。

通りすがりに頼まれて、マジかと思いながら来たら「ああ、アレね。ジョゼがやってくれるの?」って当然のように腕を出されたから成り行きでそのままトゲの採取やってるだけですわ」


「ソコで成り行きのままやっちゃうのがジョゼよねー」



 やりたくてやってるワケでは無い。



「というか普通、友人のトゲ採取頼まれて事情聞かずにオッケーする?」


「オッケーした覚えはありませんわ。この木べらとボウル持たされてコレやるからって飴細工渡されてそのまま立ち去られましたのよ。

もしアナタを待たせてるんならコレその辺に置いて無かったコトにするワケにもいかないし、と面倒臭がりながら渋々と」


「渋々と来て、アタシが特に疑問も持たず「じゃあハイ」って腕を差し出したから成り行きで採取?」


「ええ」



 頷くと、レーアに憐憫の眼差しで見つめられた。

 その目は「そうやって成り行きのなあなあで頼まれごとを引き受けるからやたら頼まれるんじゃないかしら」と雄弁過ぎる程に語っている。


 ……いや、だって、頼まれた以上はやらないとですし……!


 父曰く天使はこういうのを、ヒトに頼むというコトはそれだけの重要事項だと受け取りがちだけど、人間側はワリとそうでもないから認識の齟齬でイラッとするコトが結構ある、らしい。

 なのでコレもそういう、やらなくても良いコトなのかもしれないが、ソレはソレとして頼まれた以上は全うしなくては気持ち悪いのも事実。


 ……ええもう、社畜根性染みついた天使の本能だから諦めてますわ……。


 頼まれた以上は全うするし、自分が頼んだコトを全うしてくれなければマジでキレるのが天使の本能だ。

 つまりエゴール魔道具教師には日頃お世話になってるし飴細工貰ったし、簡単な頼まれごとだからまあこのくらいは、と納得しておこう。


 ……うーん、天使の本能なのか、こういう妥協点を見つけられないと不満タラタラになりがちなんですのよねー。


 神や女神相手なら幾らでもお命じくださいという感じだが、人間相手だとホント勘弁して止めろ自分でやれや、という感じ。

 しかし断れないので、不満タラタラになるよりは妥協点を見つけて妥協する方が良い。

 主に自分のメンタル的に。



「……うん、まあ、でも、とりあえず事情聞いて納得はしましたわ。確かにこのトゲ、マキビシに良さそうですしね」



 ヨイチ第二保険医は抜け忍の元忍者であり、アダーモ学園長の管轄内に居るコトで追っ手に襲撃されたりとかも無いとはいえ、やはりそういうアイテムがあると安心するらしいし。



「そういえば思ってたんだけど、マキビシってナニ?」


「極東の暗殺者が用いる足止め用のアイテムですわ。こういうトゲのある部分をその辺にばらまくと、踏んだヒトの足の裏にグッサー刺さってあいたたってなって立ち止まりますわよね?」


「なるわね。というかうっかり深く刺さったらしばらく立ち上がれなくなりそう」


「ええ、そういう感じで足止めして逃げるんですのよ」


「ふぅん……ってコトは、ヨイチ先生って本当に昔は忍者だったのね」


「信じて無かったんですの?」


「うん」



 ……まあわたくしも詳しく聞く前は自称扱いしてましたものね。



「だってホラ、同級生に忍者の家系の子居るけど、ヨイチ先生にノータッチじゃない?忍者って逃亡した忍者に凄い厳しいって本に書いてあったのに」


「あー、そういう」



 確かに同級生には多種多様な家業の子が居るので、忍者の家系の子も居るっちゃ居る。



「でも多分、アダーモ学園長の管轄内だから、ってのが大きいと思いますわよ?

あと今までも忍者の家系の子が留学しただろうに報告しなかったコトを報告して良いのかとか、そういう色々があるんだと思いますわ」


「成る程、極東人ってそういうの気にするタイプだものね」



 この学園に留学している極東人もそれなりに狂人が居たりするのでその枠に収まっている気はしないが、極東人の為にスルーしておこう。

 ここで下手にツッコミを入れるとレーアの中の極東人像が大変なコトになりかねん。





 森の中、レーアはゴロンと地面に寝転がった。



「ちょっとレーア、制服はすぐに綺麗になるから良いですけれど、折角の綺麗な髪とバラが汚れますわよ」


「髪は洗えば良いし、バラはすぐ生え変わるからいーの。このバラ普通にシャンプーしても問題無いから多分普通のバラじゃないし」


「ソレは確かに普通のバラじゃ無さそうですけれど……」



 というか髪に咲いている時点で普通のバラでは無いと思うが、親である魔物からの遺伝と考えると普通でもありうーん。



「というかわたくし、授業終了後いきなり手ぇ掴まれて連行されてまったく理解出来てないんですけれど、一体どうして森の中まで連行されたんですの?」


「寧ろよくここまでナニも聞かず素直について来たわよね」


「まあ悪いコト考えてるようなら反射的に関節狙いますけれど、特に反応しなかったのでまあ良いか、と。今日は森でちょっと休むつもりでもありましたし」


「怖いのか優しいのかわかんない鞭と飴な言い方止めない?」


「残念ながら全部事実であり真実なのでそういうつもりありませんのよ」



 脅すつもりもフォローしたつもりも無い純然たる事実である。



「……正直、具体的な理由はあるかって聞かれると困るけど……」



 そう言ってレーアがごろんと寝返りを打つと、先程まで触れていた地面には大量のトゲが刺さっていた。



「こういうトコでなら、トゲのコトを気にしなくて済むから。だからちょっと気を抜きに来たんだけど、一人じゃ寂しいから話し相手になってもらおう、って思って」


「せめて先にこっちの都合を聞いて欲しかったんですけれど……まあ良いですわ。つってもわたくし話のネタなんてありませんわよ」


「ジョゼなら沢山ありそうじゃない。読んだ本の話とか、絵本の読み聞かせとか、知ってる魔物の話とか、そういうの」


「読み聞かせって、読む絵本がありませんのよ?」



 思わず苦笑が零れてしまった。

 まあ、大体覚えているし去年のルームメイトだったロザリーへの寝物語としてよく語っていた為、問題無く語れるだろうが。



「…………仕方ありませんわね。どういうのがお好みですの?」


「お姫様がお姫様抱っこされる感じのヤツが良いわ」


「ギャグ?」


「ギャグじゃなくて、昔からそういうのに憧れてるのよ。アタシ、この体質だから抱き締めてもらうとか出来ないし」


「あー」



 確かにかなり鋭いトゲが全身に生えている為、普通の人間ではハグ不可能。

 一応手の平と足の裏はトゲが無くて安全とはいえ、だからどうしたという焼け石に水感。


 ……手の平と足の裏がセーフだとして、ソレ以外アウトでどうやってハグしろと?って話ですものね。



「でも痛覚無しならハグとかしてくれそうですけれどね」


「ソレは思うけど……このトゲが邪魔になるコトには変わりないわよ?再生能力が高かったって、トゲが刺さったままじゃ……」



 ハァ、とレーアは溜め息を吐いた。



「成る程」


「……ん?」



 突然聞き覚えの無い男の声がした。

 学園関係者の声は把握しているのでオスの魔物だろうかと周囲を見渡せば、すぐソコの地面が一部、かなりの魔力を含んでいるのが()える。



「誰今の?」


「えーと……今の声、ソコのアナタ、ですの?」


「その通り」


「うやっ!?」



 地面が急に喋った上にむくむくと盛り上がったからか、レーアは驚いたように飛び起きた。

 自分の場合は()えていたのでソコまで驚かなかったが、確かに気付いていないとビックリだろう。



「いやはや、驚かせるつもりは無かったのですが……驚かせてしまったようで、大変申し訳ありません」



 むくむくと盛り上がりヒト型になった土の魔物は、そう言ってペコリと頭を下げた。

 その顔は細かい造形を捨てているのか、鼻筋と口くらいしか存在していないマネキンのようにのっぺりとしている。



「私は土で出来ているゴーレム、ソイルゴーレムと申します。ちなみに主が居ない野良ゴーレムでもありますぞ」


「……野良ゴーレム?」



 どういう意味だという目でレーアがこちらを見てきたので、軽く解説。



「ゴーレムってのはヒトによって使役される魔物なんですのよ。極東の式神とか、泰西の使い魔とか、ナンかそんな感じの。だから野生じゃなくて野良」


「後半雑じゃないかな」


「ただゴーレムってのは基本的に主が居ないと活動不可能、と思われていますが実際は違い、使役してる人間を殺して自由に動く暴走ゴーレムなんかも居ますわね」


「エッ、害魔?」


「いえ、彼は悪っぽい気配もしないし理性的なようなので、多分単純に主が死んだとか相当センスが無くて主従の部分が切れたとかで野良になったタイプだと思いますわ」


「その通りでございます。よくご存じで」


「アハハ……」



 単純にテレーズ錬金術教師によってゴーレム知識を色々教えてもらったから知っているだけだ。

 しかし口調といい、今のお辞儀の仕草といい、このソイルゴーレムは相当忠義に厚いタイプらしい。


 ……ゴーレムって忠誠心によって仕草に変化出ますものねえ。


 主が良く見られるようにという忠誠心高めな個体は礼儀正しく、主が良く見られなくてもまあ別にという忠誠心低めなタイプは適当だったりという特徴がある、らしい。

 ソレを教えてくれたテレーズ錬金術教師のパートナーであるヒューマノイドパンはソコまで忠誠心があるようには思えないが、彼のメンタルはゴーレムではなく食用系魔物なのでソレで合っている。


 ……ボディのパーツがゴーレム用のパンで補われてるだけだから、魂は普通に食用系魔物のまま不動ですものね。


 しかしゴーレム用のパンというのは相当なパワーワードな気がする。

 異世界の自分がヘッドバンキング並みに頷いているので、気のせいでは無さそうだ。



「えーと、ソレで野良なソイルゴーレムはナニかご用事でもあるのかしら?」


「ええ」



 首を傾げたレーアの前に跪き、ソイルゴーレムはとても自然な動きでレーアの手を取って、のっぺりとした顔についている唇でその手の甲に口付けた。



「…………エッ?」



 ポカンとした表情になるレーアだが、ゆっくりと状況を理解したのかその表情が一気に焦りで染まった。



「エッ、アッ、ちょっと、アタシの手の平はともかく、手の甲なんてトゲだらけよ!?口!口とか唇とか大丈夫!?」



 ……ロマンチックさん、一瞬の出張でしたわねー……。


 確かにトゲは危険だが、ロマンチックさんを雲散霧消させるレベルでソイルゴーレムの顔を引っ掴んで至近距離で確認するのはどうかと思う。

 いやトゲが危険なのは事実だからそのくらい慌てるのも仕方ないのだろうが。



「……って、アレ?トゲが刺さってない?」


「いえ、刺さりはしましたが、私は土ですので。ありがたく栄養として吸収させていただきましたが、もしや吸収してはいけなかったのでしょうか?」


「いや別に、問題無いなら吸収とかはお任せするけど……アタシのトゲには毒とか無いし……」



 そう言ってレーアは困惑したようにソイルゴーレムの顔を覗き込みながら、トゲの無い指の腹で彼の唇をなぞっている。

 中々の距離感とシチュエーションな気がするが、本人達に他意は無かろう。


 ……片や性欲ほぼ死滅してる現代人、片や性欲との縁が無い土、ですものね。


 ただまあレーアは緑髪でバラ咲いててトゲ生えてる辺り凄く植物感強い為、土であるソイルゴーレムとの相性は良さそうだ。



「……えーと、レーア?一応アナタの懸念事項を解消する為に言っておきますけれど、ソイルゴーレムは土だからこそ痛覚とかありませんわよ」


「アッ、そうなの!?」


「なんと、ソレを心配しておられたか。その気遣いはとてもありがたいモノですが、しかしそちらの彼女が仰る通り私に痛覚という機能はございませんので、お気になさらず」


「そっか、なら良かった」



 そう言って、レーアは安堵したように笑ってソイルゴーレムの顔から手を離した。



「……で、ナンの話してたっけ」


「まだナンの話もしてませんわ。ソイルゴーレムがレーアの手の甲に口付けたらソッコでレーアが焦りと心配マックスで現在ですの」


「簡潔だけど後半雑過ぎないかしら」


「お二方、随分と楽しそうな会話ですな。いつもそういう会話をしておられるので?」


「ええ、まあ、ワリと……って、また脱線しちゃった。ソレでソイルゴーレムは、どうしてアタシの手の甲にキスなんてしたの?」



 レーアの問いにソイルゴーレムは口角を上げ、のっぺりとした顔に笑みの表情を作る。



「ソレは当然、アナタに私の主になっていただきたいと思ったからです」


「アタシからすると初耳だけど、ソイルゴーレム的には当然なんだ……」



 ……ソコですの?



「ん、え、ん?エ、ナンでアタシ?」


「私は野良ゴーレムですが、忠誠心があるタイプの野良ゴーレム。つまりヒトに仕え、身の回りのお世話をしたいのですよ」


「つまりって言われても」


「補足させてもらいますと、食用系魔物が食われたいって思う本能みたいなモンですわ。使役される魔物だから本能的にヒトに仕えたいって気持ちがあるのかと」


「ア、成る程。ペンの魔物とかが人間に使用されたいって思うみたいなアレなのね」



 納得したらしく、ふんふんとレーアは頷いた。



「でもナンでアタシ?ジョゼも居るのに」


「彼女は私が必要無さそうでしたので。私は世話のし甲斐がある方を主にしたいのですよ」


「あー、確かにわたくし自分のコトは大概自分で出来ますものね」



 普通貴族は一人じゃナニも出来ないコトが多いが、自分はそういうタイプの貴族家系では無かったし、そもそも父が天使だ。

 天使は基本的に単独行動だし自力で大体をこなす為、大体のコトは自力で出来る。


 ……寧ろ自力で出来る分、他人にやられると自分のテリトリー荒らされたみたいになるから、お世話されるのに向いてませんのよねー……。



「……いや、ソレ言ったらアタシもそれなりに自分のコト出来るわよ?」


「確かにそう見えますが、しかし先程の話を聞いていたトコロ、アナタは誰かを傷付けるかもしれないという懸念があるように見られました」


「ウ」


「それ故」


「キャッ!?」



 ソイルゴーレムは座っていたレーアを自然な動きで抱き寄せ、そのままお姫様抱っこをした。

 片膝をついた体勢のままだが、土で出来ているからかソイルゴーレムの体はまったく揺らいでおらず頼もしい。


 ……お姫様抱っことか、体幹しっかりしてないと結構ぐらつくモンなんですけれどね。


 まあ土相手に体幹とか関係ないだろうが。



「このように、私は問題無くアナタに触れるコトが出来ますし、トゲを吸収し栄養にするのでトゲの問題もありませぬ。

そして私は土であるが故に変形も可能。椅子の間に挟むもよし、移動時に誰かと接触するのが心配でしたら、私が抱き上げて移動するも良し」


「ヒ、エッ、コレ、お姫様だっ……」



 ソイルゴーレムの言葉を聞き取れていないんじゃないかと思う程に顔を真っ赤にされているレーアに、ああ、とソイルゴーレムは言う。



「ああ、先程聞いた話からコレをお望みかと思いましたので。この程度であれば幾らでも叶えましょう」



 そう言ってから、ふ、とソイルゴーレムは苦笑するような表情へと変化した。



「……まあ、正直な話、最初からこういう願いくらいならば幾らでも叶えられるという部分を売り込むつもりでして。そういう売り込みが効きそうだ、という打算がある上でアナタに主になってほしい、と言いました」


「エ?ア、はあ、そりゃ売り込みの時は相手の心に響くフレーズが必要、よね……?」



 ……あー、レーアったら困惑とか恥ずかしさのせいで目ぇグルグルしてますわねー……。


 そしてその売り込み法だと考えると、自分と縁が無いのもよくわかる。

 自力でナンでも出来るというのもそうだが、それ故に特に困っているコトが無いのだ。


 ……つまり、心のやらかいトコを狙いにくいんでしょうね、わたくし……。


 狙うならやたら頼まれごとをする部分だろうが、今んトコ自力でどうにか出来てると考えると、例えその売り文句を提示されても頷かない可能性がある。

 ソレをソッコで見極めている辺り、このソイルゴーレムはかなり有能そうだ。





 コレはその後の話になるが、ソイルゴーレムの売り込みは当然のように成功し、レーアのパートナーとして甲斐甲斐しく彼女のお世話をするようになった。



「おや、レーア。眠いのですかな?」


「……ちょっと……」



 談話室のソファの上で、レーアは舟を漕いでいた。

 正確にはソファの上では無く、ソファに座って下半身を敷き布のように薄くしたソイルゴーレムの上、だが。


 ……直に座ると、ソファがトゲだらけになりますものね。


 ソイルゴーレムが間に挟まっていれば彼がトゲを吸収してくれるというコトで、最早見慣れた光景になっている。



「では、そろそろ部屋に戻りましょうか。失礼いたします」


「ヘァッ、ちょ、待って!?」


「ハイ?」



 お姫様抱っこして運ぼうとしたソイルゴーレムだが、慌てて目を覚まして待ったをかけたレーアに首を傾げた。



「どうかされましたかな」


「どうか、っていうか、自分で歩けるから!」


「いえいえ、私が運びますぞ。主であるレーアの為に出来るコトは、どんな小さなコトでもしたいのが私の本能ですから」


「本能出されると弱いけど、でもホラ、アタシも流石に恥ずかしいし!」


「慣れれば問題無いでしょう」


「いや、でも、ホラ、お姫様抱っこって結構横幅取るから誰かにうっかり接触したら痛い思いさせちゃうかもしれないじゃない!?」


「モチロン、誰かとすれ違う時は接触せぬよう気を付けておりますとも」



 ……ここ最近、レーアをお姫様抱っこで抱き上げての移動増えてますしねー……。


 まあレーアも恥ずかしそうではあるが満更でも無さそうだし、ソイルゴーレムも楽しそうだから良いのではないだろうか。

 もっともソイルゴーレムの場合は口しか表情の変化が無く、筋肉も無いせいでわかりにくい為、素の対応なのか故意でそういう対応にしているのか不明だが。


 ……声色的には故意で楽しんでるっぽい気もしますけれど、わたくし目が良いだけで耳が良いワケじゃないから流石にソコまで判別できませんのよねー。



「もしや、私にトゲが刺さるのを心配でもしておられるので?」


「いや、ソイルゴーレムの場合、ホントに吸収してるし、痛覚無いみたいだからソコは別に心配してないけど……」


「ならば問題はありませんな。私はレーアに接触しトゲを吸収するコトで栄養を得ているワケですし」


「た、確かにそう言われると抱き上げられての移動も必要なコトっぽく思えるけど……でもお姫様抱っこはしなくても良いんじゃないかしら!?せめてこう、おんぶとか!」


「レーアはお姫様抱っこの方が好みなのでは?」


「…………そうだけど」


「ならばこの抱き方がベストでしょう」


「ゴーレムには羞恥心って伝わらないのかなー……」



 立ち上がったソイルゴーレムの腕に抱き上げられながら、レーアは真っ赤に染まった顔を両手で覆った。



「あ、狂人も羞恥心ほぼ皆無らしいから他種族であるゴーレム相手じゃ無理か……」



 レーアの呟きに笑みを見せたソイルゴーレムの機嫌良さげな感じからすると羞恥心云々は思いっきり伝わっているっぽいが、馬に蹴られる趣味は無いので言わないでおこう。




レーア

遺伝で髪の毛に色とりどりの薔薇が咲いており、手の平と足の裏以外に不可視のトゲが生えている。

夢だったとはいえ、ソイルゴーレムによって頻繁にお姫様抱っこされるのはパートナーであるコトもあって恥ずかしい。


ソイルゴーレム

長いコト主不在だった為、朝起きた瞬間から夜眠っている間まで余さずお世話したいというお世話欲が強い。

なので座る際にトゲが椅子に刺さったりしないようクッション代わりになったりする必要があるのがとても嬉しい。


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