生贄少女とクォーツスプリンター
オリジナル歌詞が作中で出ます。
彼女の話をしよう。
少数民族で、生贄として選ばれ、矛先を向けられるという呪いを掛けられている。
これは、そんな彼女の物語。
・
レナーテ地学教師に呼び出されたので、彼女の研究室へと歩みを進める。
どうも発掘していたら魔物を掘り出してしまったらしく、その魔物の種族が不明というコトで呼ばれたのだ。
……要するに、種族の特定の為ですわよね。
発掘系は種族によってソッコで封印し直さないと危険な魔物も居たりする為、種族特定は必須なのである。
もっとも本来こういうのはフランカ魔物教師がやるべきコトなのだが、彼女は相変わらずのフィールドワークで中々時間が合わず、捕まらなかったらしい。
……一応、フランカ魔物教師宛てに書き置き残しとくとか、学園内放送とか使うとか方法あるっちゃあると思いますけれど……。
多分それよりも生徒に頼んだ方が早いとなったのだろう。
まあこちらとしてもバイトになる為、ありがたいコトだ。
「見ざる 聞かざる 言わざる
見るな見るなよ要らぬは見ざる
聞くな聞くなよ要らぬは聞かざる
言うな言うなよ要らぬは言わざる」
職員用の建物の方へと歩いていると、歌声が聞こえた。
「ソレが生き抜く重要事項」
視線を向ければ、中庭のベンチに腰掛けているジルダが楽しげに体を揺らしながら歌っている。
「見てはならぬを見てしまったら
大変大変大惨事
そうはならざりそう思い
見てはならぬと見猿になろう」
……この曲、今流行りの極東の歌ですわね。
「聞いてはならぬを聞いてしまえば
大変大変大惨事
そうはならざりそう思い
聞いてはならぬと聞か猿になろう」
極東の見ざる聞かざる言わざるをモデルにした歌であり、教訓タイプの曲だ。
「言ってはならぬを言ってしまうと
大変大変大惨事
そうはならざりそう思い
言ってはならぬと言わ猿になろう」
独特のリズムとテンポで早口っぽいからか、学生に人気の歌となっている。
「それが生き抜く重要事項
死なぬためにも重要事項」
リズムにノっているらしく、ジルダが揺れる度に茶色に近いオレンジの髪が揺れた。
「見なくて聞かずに言いもせず
ソレでいけるとお思いか
ソレで生き抜くおつもりか」
……この「いけると」の「いける」は、行けると生けるが掛かっている辺り、極東感強いですわよね。
「いいえいいえと首を振り
我ら生き抜くおつもりで
見ざる聞かざる言わざるである」
トントン、とリズムを刻むようにジルダの足がタップを踏んだ。
「見ざる 聞かざる 言わざる
見るな見るなよ要らぬは見ざる
聞くな聞くなよ要らぬは聞かざる
言うな言うなよ要らぬは言わざる」
……さて、この曲はここからが教訓のターン、ですわね。
「おや おやおや おやおやおや
見たな聞いたな言ったなお前
とまれかくまれ舌なめずりして
見て聞き言ったソレを食おうぞ」
確かに見るも聞くも言うも大事だが、扱い方を間違えれば食われるという極東の教訓。
「ああ キジも鳴かずば撃たれまい」
……鳴いて撃たれるキジと、見ざる聞かざる言わざるに徹した結果生き残った猿、でしたっけ。
この曲はそういうイメージで作られた曲らしい。
最後の歌詞は、キジが撃たれたのを察した猿が心の中で思ったコト、だそうだ。
……んでもって途中の歌詞の「ソレで生き抜くおつもりか」って言ったのはキジだったっていう裏設定があるらしいんですのよねー、この曲。
正論の苦言を呈したキジが撃たれ、接するコトが無いように徹していた猿が生き延びる辺り、極東の感覚が全面に出ている気がする歌詞だ。
色々と考えさせられるこの歌詞もまた、人気の一つだろう。
そう思いつつ、歌い終わったジルダに拍手を贈る。
「歌い慣れてますわね、ジルダ。素敵でしたわ」
「ん?ナンだよジョゼ、聞いてたのか?」
こちらに気付いていなかったらしいジルダはにへらとした笑みを浮かべた。
「ったく、聞いてたなら声掛けるなり手ぇ振るなりして主張しろよな。
俺の好きなように歌ってたから絶対変な音程になってたトコあっただろ。そういうの聞かれんの、ワリと恥ずいんだぞ」
「ソレは失礼しましたわ。でもこのくらいの位置ならわかったりしませんの?」
「いや俺ジョゼレベルの視力持ってねえからな?俺が持ってんのはクソみてぇな呪いだけで、広大な視野も特殊な魔眼も、凄ぇ遺伝も持ってねぇんだよ」
「クソみてぇな呪いって……」
確かに呪いの殆どはクソみてぇなモンだとは思うし、ジルダの民族的に掛けられている呪いというのは十中八九あの忌まわしき呪いだろうと思うと、そう言うのは仕方が無いが。
「……遺伝も一部、ある意味呪いみたいなモンですけれどね」
「ああ、ジョゼの悪滅本能とかな。アレ前に王都で見たけどヤベェよな、マジで。風かナニかかよって思うような動きで相手に絡みついたと思ったらゴキッて音して終わってたしよ」
「アレわたくしとしては自分のコントロール出来てない暴走状態なので、あんま見ないでくれると嬉しいですの」
「いやアレは誰でも見るだろ」
確かに動きが曲芸染みていて派手なので、その気持ちはわかる。
わかるが現代人の殆どは狂人な分ヒトに興味無いハズなので、もうちょっとスルーしてくれないだろうかとも思う。
「…………ジョゼ、お前俺の村には来んなよ」
「いきなりの訪問拒絶とかどういうコトですのソレ。納得行く理由話してくれないと流石に傷つきますわよソレ」
狂人とはいえ常識のあるイージーレベルな狂人の為、友人に故郷来んなよと突然の拒絶をされたら普通に傷つく。
「だってお前めちゃくちゃ善じゃん」
「そりゃ天使の娘ですし」
「んで俺の村って完全にアウトじゃん」
「そうなんですの?」
「前にも話しただろ。俺の村は少数民族で、だからなのかピリピリしがちだってよ」
「そういや、言ってましたわね」
ロニーも少数民族だが、彼のトコロはスモークコヨーテと共存共栄して不死を得たからかワリと平和的らしい。
まあ痛覚も無くて怪我などで死なないのならそうピリピリする理由も無いのは当然だろう。
「……だが、少数だからこそ、内部で争えばソッコで滅ぶ。ソレがわかってるから、生贄を村の中から一人出すんだ」
「ソレ、そういえば詳しく聞いたコトありませんでしたわ」
「あー、まあそう話すコトでもねえしな。俺は別に隠してねえけど閉鎖的だし……書物とかでも残ってねえだろ」
「ええ、殆ど。ただしとても忌まわしき呪いがあるらしいコトと、ソレが一人を生贄にするモノだというコトくらいですわ」
「呪いの内容は?」
「呪い大全と僅かな情報から、アレでしょうかという目星は」
「お前怖い」
「何故!?」
……驚かれるならわかりますけれど、本気で怯えたような目で見られる理由が本気でわかりませんわ!?
「……ああ、でも、そうか、お前悪滅タイプだもんな。本能で察するのか」
「本当というか、単純に視える呪いの系統から」
「そうだったジョゼ目ぇ良いんだったな!そっからか!」
「あとアドヴィッグ保険医助手が、「アレ私に頼んでくれれば一発でどうにかするのですが。卒業後が本番だとしても、生徒が理不尽に死ぬのは少々モヤモヤしてしまいますね」と」
「あのヒトの場合、俺の心配っつーよりも呪いの種類を気にしてそうなんだよな。実際俺に掛けられてる呪い、あんま実行されねーヤツだし」
で、とジルダはこちらを見上げるようにしながら、片目を閉じる。
「ジョゼが思ってる俺に掛けられた呪いは、どういうのだ?」
「犠牲、ですわよね」
色々な話を総合すれば、きっとあの呪いだろう。
「一人にその呪いを掛けるコトで、マイナスの事柄が全てその一人に向かうようになるという忌まわしき呪い。
嫌悪も憎悪も全てをその身に集中させられる呪いであり、八つ当たり染みた理不尽な怒りをぶつけられるというモノ」
要するに、いじめのような呪いである。
具合が悪いのはお前のせいだ、機嫌が悪いのはお前のせいだ、腹が痛いのはお前のせいだ、不作なのはお前のせいだ、家が汚いのはお前のせいだ。
そんな明らかに違うだろう理不尽を、八つ当たりのようにぶつけられる。
……その呪いがソレらマイナスの事柄を引き寄せ、矛先をたった一人に向けさせる。
「正に人身御供なその呪い……スケープゴートの呪い、でしょう?」
「大正解」
ジルダは両手を顔の横に広げてヒラヒラと振りながら、ニヤリと笑った。
「まあそう大した効果はねえから、大国なんかじゃ意味ねえけどな。それこそ大量の人間を犠牲にしねえと効果がねえレベルだ」
ただしそうすれば効果が発動し、矛先が一部に向かう為、その他大勢は団結力を得る。
一部を犠牲にし、自分達の醜い部分を押し付けるコトで。
「……ま、少数民族である俺の村の場合、俺一人で充分に効果があるワケだが」
笑顔を消し、ジルダはポツリと静かにそう言った。
「つっても先代死んだ直後に生贄に選ばれて、当時まだガキだったからな。いや今も俺ガキだけどよ。
ただまあガキだと殴る蹴るに適さねえしすぐ死ぬ可能性が高いっつーコトで、デカくなるまで一旦保留ってなったんだ」
「うーん闇」
子牛相手に大きくなってからの方が食いでがあると言うような感じの闇だ。
というか殴る蹴るに適した年齢があって堪るか。
「でも呪いは既に掛けられてっから、どの家に置いてても確実に死ぬ可能性が高いんだよ。呪い掛けられた以上は家族も敵になってっからな。基本一人暮らしの自給自足じゃねえと危険過ぎる」
「一人暮らしの方が……いえ、誰かと共に居ると、その方が害されるんですのね」
「そういうこった」
つまりは姑にいびられる嫁のようなモノなので、混ぜるな危険みたいなモノだろう。
「食いモンも売ってもらえねえし、毒を盛られるコトもあるから自給自足が安心だ。
だがちょっと殴れば一発で死ぬ可能性があると考えるとソレでも危険だからっつーコトで、こうして留学するコトになったワケだな」
「……そうすれば村のヒトが攻撃するコトは出来ないし、殴る蹴るしてもソッコで死にはしない程度に育ってから卒業し返ってくるから、ですわね」
「そうそう。……ジョゼ、顔怖えぞ」
「いやコレ誰でも顔険しくなりますわよ」
少なくとも自分は友人が卒業後殴る蹴るの暴行を受けるという話を聞いて笑みを浮かべたままでいられるようなサイコパスでは無い。
「そんな気にするコトか?」
しかしジルダはそういう価値観の村で育ったからか、首を傾げた。
「そりゃ俺だって酷ぇしきたりだって思うし、村滅ばねえかなって時々思うし、殴る蹴るされたくはない。
でも村人相手に効果発揮される呪いだからこうして平和的に学園生活出来てるって考えると、別に俺不幸でも無くね?」
「末路が最終的にバッドエンドなら不幸扱いですわ。幸福の王子で王子とツバメの末路を知りませんの?」
「アレ酷えよな。町のヒトの為に文字通り身を削った一体と一羽相手に金持ちが貶しまくったりするし。でもマッチ売りの少女レベルじゃないだけ良くねえか?」
「初っ端から不幸で途中マッチの炎でラリって幻覚見て凍死エンドですのよアレ。あのレベルはもう不幸通り越した絶望かナニかですわ。そしてアナタは今の内に末路をどうにかしろ」
「エッ、今ナンか口調」
「しろ」
「じょ、ジョゼが命令口調になるレベルなのか俺……」
今更か。
「つっても俺今あの村に養われてる状態だからな。学費世話になってるし、仕送りしてもらってるし。時々毒仕込まれてるけど」
「送り返しなさいなそんなモン」
「勿体ねーじゃん。毒売れるし」
……うん、まあ、境遇が境遇だからか逞しいっちゃ逞しいんですのよね。
「あーっとな、要するに俺が頼むのはアウトなんだよ。呪い掛けれる呪術系の家系が居て、結構こっち覗き見てるからすぐバレる」
「遠隔で呪いとか飛ばしてくるとかですの?呪い関係の家業やってる友人紹介しますわよ?」
「ジョゼの友好関係マジでどうなってんだよ」
ソレは自分でも不思議なコトになっているのであまり気にしない方が良い。
基本的には同級生なので、全てはスカウトしたアダーモ学園長のチョイスだ、多分。
「でも駄目だ。俺もあんま、こう、自分から積極的に拒絶するとかが出来ないよう擦り込まれてるから」
「冷静に言いますわね」
「自覚あっからな。少数だからこそ、その少ない血を絶やさない為にお前が尊い犠牲に云々を一か月くらい聞かされりゃ洗脳もされるさ。
まあ幸いにもここで普通の生活した結果、二年目くらいで洗脳解けて短い人生ならいっそ楽しもうっつってポジティブな人格になったが」
「そういやアナタ一年の頃は人格違いましたわ……」
自己主張を殆どせず、生きるのを諦めているような、死んだ目の子だった。
二年目辺りから今のように自己主張強めな人格になっていたが、アレは洗脳が解けた結果だったのか。
……多分村側としては長期休暇で帰ってきたタイミングでつい殺しかねないから帰還しないようにさせたんでしょうけれど、ソレがジルダにとって良い方に働いたんですのね。
まあかといって六年目でも完全に洗脳が解けていない辺り、厄介だが。
生まれた頃からの価値観の擦り込みは強くて本当に腹立たしい。
「要するにアレだ、自殺は禁止で他殺はありみたいなアレ」
「自分から解除して欲しいと頼むのはタブーだけど、誰かの手によって勝手に解除されるのならとりあえずジルダに罪は無いという感じになる、と?」
「ソレ」
ジルダは真顔で頷いた。
「まあ、あくまで俺の心境的に、っつー感じだけどな」
「……うーん、わたくし基本的に物理でどうにかするタイプだから、呪い解除は専門外なんですのよね」
「いやソレ俺に理解させたらアウトなんだっつの。やるなら俺に気付かせずやれよ」
「難しいコト言いますわねー」
「つーかよ」
「?」
「ジョゼ、ナンか用あったりとかしねえよな?大分長話してっけど」
「ア」
そういやレナーテ地学教師に発掘した魔物の種族特定を頼まれていたのだった。
・
遅ればせながら、レナーテ地学教師の研究室に到着した。
「すみません、遅れましたわ」
「ん、ああ、エメラルドか。遅かったね」
「ナニかあったのか?」
「単純にちょっと友人と長話しちゃっただけで、ええ、今回はわたくしに非がありますわ」
「キミが自分の非を認めるとは珍しい」
確かに自分の非を認めるコトはほぼ無いが、真正面から言わなくても良いと思う。
「では早速だが、コレが今回発掘された魔物だ」
そう言ってレナーテ地学教師が取り出したのは、封印用の箱に入れられた剣山だった。
「クォーツの剣山ですの?」
「ああ、この場合はルチルクォーツだね」
「エメラルドには、この魔物に害があるかどうかを確認して貰いたい。本当はこういう場合、フランカに頼むものなんだろうが……」
「彼女はいつも通りに不在だったからね。アレで意外と夜は居たりするから教員とかで集まって酒盛りする時は参加頻度高いんだけど」
「ソレ生徒はあまり知らない方が良い事実な気がしますわね」
「大丈夫、知ってる生徒は知ってるよ。うっかり目撃した生徒にはつまみ持たせて口封じしてるし」
口封じと言ってしまっているし、生徒につまみを持たせるな。
「で、どうだい?その魔物。封印用の箱から出しても良さそう?」
「私達としては、強制的に封印するのは不本意だからな。出してやれるタイプなのであれば早めに出してやりたい」
「ま、そりゃそうですわね」
ドラゴンモールの言葉に頷きながら、箱の中を視る。
とはいえ、特徴的なのでとっくに種族は特定していたが。
「……この魔物は、クォーツスプリンターだと思いますわ」
「害魔かい?」
「いいえ。寧ろ良い魔物だと思いますわよ。針が刺さるという覚悟を決めてこの針に指を刺すと、針部分が根本から折れるんですの。
折れるとその針は自然に消滅するそうなんですけれど、その消滅を代償にしているのか対象の呪いを解いたり、現状に存在している問題を解決する道が開いたり、というコトが起きますわ」
「つまりラッキーアイテムってコトか」
「まあ広義的に言うとそうですわね」
「アイテムというか、魔物だがな」
正確に言うとなるとラッキー魔物になるんだろうか。
というかこの魔物の場合はラッキー得る為に針に刺さるという犠牲ありきだったりするのだが、指に針ちょっと刺すだけで良いと考えるとまあまあまあ。
「しかし、ソレなら大丈夫だろう。ちなみにエメラルド」
「ハイ?」
「その魔物、任せれそうな相手または場所に心当たりはあるか?」
「あったらどうすんですの?」
「いや、普通に任せるが。私は魔物は専門外でね。あとその箱あまり在庫が無いから回収したい」
「私としてはそのクォーツスプリンターと言う魔物を箱の中に封印して強制的に眠らせているのが申し訳ないから、出してやりたいという気持ちだが」
「うーん、教師やってる方の言動が色々アレで、魔物の方の言動がまともってコレ不思議ですわよねー」
「不思議かい?普通だろう」
「ソレは人類が魔物より異常だというコトになるが、ソレで良いのか?レナーテ」
「ソレで私の研究に滞りが生まれるなら良くないが、特に滞らないなら問題は無い」
「そういうトコロだぞ」
「そういうトコですわよ」
「ドラゴンモールが言うのは良いが、エメラルドは言う権利無いだろう」
確かにイージーレベルとはいえ狂人なので正論だった。
ほぼ完全に研究者タイプなレナーテ地学教師だが、意外とコレで教師の中ではまとも寄りなのだ。
……いえ、まあ、一部がちょっと頭おかし過ぎるだけで、ワリとまともなヒトも多いっちゃ多いんですのよね。
具体的にはアンセルム生活指導とか、カティヤ手芸教師とか。
そう思っていると、レナーテ地学教師が封印用の箱の扉を開け、封印を解いていた。
「……む、む?……ぬおあっ!?ドコだここは!?」
封印が解けたからか意識が覚醒したらしく、困惑している声色でクォーツスプリンターはそう言った。
「私の研究室だ」
「誰だ!?って、貴様は確か、余が目覚める前に見た顔!」
「目覚める前に見たというのは矛盾が酷くはないだろうか」
「む?……余は目覚める前にと言ったか?すまん、間違えた。目覚めた直後に見た顔、だ」
「や、うん、別に訂正する程重要な情報では無いと思いますわ……」
発掘後ソッコで封印用の箱にINさせられて強制的に眠らされたコトを思うと、目覚める前という表現もあながち間違いではないワケだし。
というか慌てていたハズなのにドラゴンモールのツッコミにあっさり返答している辺り、柔軟性が高いタイプのようだ。
こういうのは個体差があるので、突然の封印にガチギレしてくるタイプじゃなかったのは幸運と言える。
「というかここはドコでどうして余はここに居る」
「キミを発掘したは良いけど、魔物によっては害魔だから。万が一があると困るから一時的に封印してここに連れてきて、ソコにいるジョゼフィーヌ・エメラルドに種族を特定してもらったんだ」
「成る程、つまりソコのジョゼフィーヌが余に無害判定を出してくれたというコトか」
「ええ、まあ」
頷いてから、ところで、とクォーツスプリンターに問いかける。
「ところで、アナタはどうしますの?」
「どうする、とは?」
「この先ですわ。適当なトコにリリースされるとか、誰かパートナーが欲しいとか、そういうアレコレ」
「ふむ、余は今まで爆睡していたのもあって特にそういった希望は無いな。
強いて言うなら余はパワーストーン的本能が強いので、問題があってソレに困っているような人間を助けるコトが出来れば、と思う」
「助ける……」
……クォーツスプリンターの能力なら、大体の呪いは解除可能なんですのよね。
「……ジルダの、わたくしの友人が呪いに掛かってるんですのよね」
「呪いか」
「誰だジルダって」
「いやいやいや」
クォーツスプリンターとの会話に割って入って来たレナーテ地学教師の言葉に、思わず手を横に振る。
「生徒ですわよ、生徒。わたくしの同級生。確かに彼女地学は取ってませんけれど、教師なら把握しといてくださいな」
「無理を言わないでくれ。一学年二百人前後で九学年だぞ。把握出来るのは相当な天才か、一周回ったバカくらいだ。そして私は平均的な天才だ」
「天才を自称出来るって一周回って半回転した狂人な気がしますわね」
「否定はしない」
自覚のある狂人なだけ、レナーテ地学教師はまともだ。
彼女は基本的に自分の得意分野に夢中になり過ぎる程度の狂気だし。
「……一学年二百人前後で九学年となると、五千人くらいになるのか?」
「惜しいな、ドラゴンモール。千八百人だ」
「全然惜しくない答えだと思いますわ」
「四桁という部分が合っていれば四捨五入して正解だろう」
自分も四捨五入を乱用するタイプだが、教師が乱用しても良いモノなんだろうか。
「……うーん、レナーテ地学教師の中にある正解のハードルが低いのか、ドラゴンモールを贔屓してるのか、今まで受け持った生徒にちょっと頭がアレな生徒が多かったののどれでしょう」
「全部かな」
「全部、ですの、ねー……」
「というか普通無理だろう、毎年二百人減って二百人増えるトータル千八百人の生徒の名を把握するとか」
「アダーモ学園長なんて卒業生含めて全員覚えてるみたいですけれど」
「あのヒトは創設者であり不老不死だから色々と別格だ。それにあのヒトは人付き合いなどに特化しているタイプだからな。
私のように人付き合いを苦手としていて友好的とは縁遠いタイプの人間とは根本的に違う」
「うーん実際納得いく理由過ぎてナンも言えなくなりますわー」
「というか結局ジルダという同級生とやらの事情は語らぬのか」
「ア」
ごもっともなクォーツスプリンターの言葉に、そういえばそうだったと本題を思いだした。
「えっと、ジルダは村のしきたりでクソみてぇな呪いを掛けられてるんですの」
「口調と見た目からは想像出来ん過激な単語が出てきたコトに正直余、この先の言葉を理解出来る自信が無くなったのだが」
「大丈夫ですわ、ジルダが言ってたまんまの言葉ですから」
「ナニも大丈夫な気がしないし、そのジルダとやらも見た目と口調にギャップがありそうな予感がして来たぞ。
コレはちゃんと心の準備をしておかないと、余は容量オーバーで気絶したくなるヤツだな。まあ余はこの通り無機物系魔物だし長いコト眠っていたせいでしばらくは寝ようとしても眠れんだろうが」
実際ジルダは普通に女の子らしい見た目から男口調が繰り出されるので、先に心構えをしておくのは良いと思う。
洗脳から解放されて自由になった結果の口調なので、ジルダの口調についてはツッコミ辛いのだ。
・
コレはその後の話になるが、クォーツスプリンターの能力によって、ジルダの呪いは無事解除された。
「ジルダ、突然ですけれどちょっと勇気を出して彼のトゲに指刺してくださいます?」
「いやいきなり怖えーよ。ナニが始まるってんだオイ」
「大丈夫、良いコトありますから。ちょっと覚悟決めて指の皮膚に穴開けるだけですわ。舐めときゃ治る程度ですの」
「えぇ……」
どう説明すれば呪い解除を仄めかさずに頷かせるコトが出来るかが出てこなかったので、ちょっとごり押しにも程がある言い方になってしまったが、まあ最終的に腹を括ってくれたジルダが指を犠牲にしてくれたのでモーマンタイ。
無事に呪いは解除されたし、この先がちょっと不安だからというコトでジルダがクォーツスプリンターを引き取ってくれたしでこちらとしては悩みが解消されスッキリ気分。
……正直、ジルダの呪いは今まで確証が無かったから見ない振りしてましたけれど、知った以上は出来るだけソッコでどうにかしないとってなりましたものね。
寿命や運命で死ぬのなら仕方が無いなとまだ納得出来るが、ヒトのマイナス感情の捌け口にされてボコられ殺されるというのは許し難い。
なので本当、クォーツスプリンター様様だ。
良いタイミングで発掘されてくれてありがたい。
「あー……」
「む、唸ったりして、どうかしたのか?ジルダ」
「ちっとな」
飾りとしてクォーツスプリンターをはめ込めるようになっているカチューシャをつけているジルダは、カチューシャの飾りとしてはめ込まれているクォーツスプリンターのトゲじゃない部分を撫でるように指先で触れた。
「当然ではあるんだが、やっぱ呪い解除したのがバレたらしくて仕送り止められてよ。学費は今年分既に払い済みだからセーフだが、どうにかしねえとなーって」
「ナンだ、ソッコで困るレベルで仕送りに頼っていたのか?」
「いや、全然。仕送りに仕込まれてる毒売ってお小遣いにしてたくらいで、ちょっとした買い食いが出来なくなるくらいしか困らねえ。貯金してあるし」
「うむ、しっかりと蓄えがあるのは良いコトだ」
「でも学費とか考えると、一応今から仕事探した方が良いだろうなーって思ってよ。
元々卒業したら村から出られずボコられまくりで短い人生に幕を下ろす予定だったから、仕事探しとかしてねーんだよなー……」
「そんなさらりと言うコトではない言葉が聞こえた気がするが、まあ、今はもうあり得ん未来だから良いか」
「そーそ。今は俺の未来が大事」
「ならば余の針でも刺すか?困っている現状を打破し、明るい道を切り開くのが余の役目だ」
「んーや、俺に呪い解除させたのはジョゼだから、ってコトでジョゼに仕事の斡旋頼むわ」
「いきなりですわね!?」
聞き耳というか、本を読みながらも視界に入ってくる字幕を読んで会話を覗き見していたのはアレだったが、まさかこちらに矛先が向かってくるとは。
「だってジョゼ、顔広いだろ。俺でも出来そうな仕事とかねえか?」
「わたくしに聞くよりアダーモ学園長に聞いた方が的確だと思いますわよ?」
「えー、学園長相手とか緊張すんだろ」
「あのヒト結構気さくなので話すとそうでもありませんけれど……」
同級生と話してる気分になるくらいには若々しいヒトだ。
学園設立前から存在しているというのに、学生で通りそうな見た目と若さは凄いと思う。
……まあ、パートナーの能力ですし、不老不死の為に毎日アレやってると思うと微妙に同情はしますけれど。
今日食堂で見かけたアダーモ学園長は胃に優しいパン粥を食べていたので、多少の年は取っているのだろう。
まあ誰だってチョコレートを腹いっぱい飲まされれば胃がもたれるだろうが。
ジルダ
孤立した集落内で洗脳されてるわ生贄に選ばれるわしたが、学園生活で洗脳が八割方解けてはっちゃけた。
集落内でのみ発動する呪いだったので解呪されてもいまいち実感は無いが、自由になれたのはとても嬉しい。
クォーツスプリンター
どうしてこの種族名なのかは作者の記憶にも無いので不明。
パワーストーンとしての本能なのか元々の保護者感ある性格なのか、ジルダを放っておかない方が良いなと思いよく話し掛けてメンタル状態を確認してる。