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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
一年生
18/300

保険医とカースタトゥー



 彼女の話をしよう。

 特殊な治療に長けていて、頼りになって、ゴーイングマイウェイな。

 これは、そんな彼女の物語。





 自分は目の診断の為、定期的に第一保険室へと通っている。



「またもやその目の原因と言うべきか、元となるのはナニなのか、は不明だ。ただ一応診断した限り、()え過ぎる以外に異常は起きていないから安心しろ」


「ありがとうございます、カルラ第一保険医」


「仕事兼サンプル収集だ。気にするな」



 カルテを見ながらあけすけにそう言うのは、カルラ第一保険医だ。

 曇った緑色の髪を邪魔にならないよう纏めている彼女は、保険医でありながら結構なゴーイングマイウェイである。



「しかしホント、その目は一体どうなっているんだか」



 カルテからこちらへと視線を移し、カルラ第一保険医はじっと目を見てくる。



「診断の結果、完全に後天的。遺伝じゃない。しかし物心付いた時には既にその目だったコトから考えると、生まれてから物心付くまでの間にナンらかのナニかがあったと見るべきだ」


「ただ、その辺りの記憶は流石にサッパリ無いんですのよねー」



 自分の異世界の記憶がINしてからは記憶力も上がったが、それでも四歳からだ。



「ドコかから魔力が繋がり、その視力を貸し出されているような状態だというコトまではわかっているんだ。診断の結果繋がってたからな。だが、その繋がっている先がわからない。下手なコトをしてソレを断ち切るワケにもいかんしな」


「こちらとしてもこの視力にはかなり頼っているので、今更普通の視力になるのは困りますしね」



 繋がっているというコトは、この視力を与えてくれたナニかがこちらの視界を覗き見している可能性もあるが、正直ソレでナニか良いコトがあるかと言われたら不明だ。

 風呂が覗き放題というのはあるかもしれないが、現代のヒトの場合、性欲が無いのでありえない。

 そして魔物の場合は性行為を必要としない魔物だけが性欲皆無なので、それなりに性欲はある。

 しかし、だからこそ性行為を必要とする魔物が見るだけに甘んじるハズが無い。



「診断からすると、魔物なんですのよね?」


「ああ、多分神とかその辺だな、ここまで出来るのは。でも世界滅ぼせるレベルの強い神では無いと思うから心配するな」


「世界滅ぼせるレベルの神が存在してるってコトの方が心配ですわ」



 存在しているというか、実在しているからこそ恐ろしい。

 うっかり機嫌を損ねたら一発で世界がアウトだ。



「まーでも、良いんじゃねぇの?その視力自体はよ」



 ぐにゃり、とカルラ第一保険医のタトゥーが蠢く。



()えるっつーのは便利だろうしな。俺様も生前はそういう()えるヤツを仲間にして航海をしてたもんだぜ。海の上っつーのは、そういうのがウジャウジャ居たからなぁ」



 ケタケタ、とカルラ第一保険医のパートナー、カースタトゥーはガイコツの口を動かして笑った。



「ナニより、脳に負担がねぇのが最高だ!カルラに取り憑いてから色んな患者を見たが、目が良すぎると脳に負担が掛かり過ぎていきなりブツンと切れるコトがあるからな。脳の容量オーバーっつぅのか?まあそんな感じでよ」



 ……あ、カルラ第一保険医がイライラし始めてますわね。



「意識とか命とか視力とか失う患者を見た身、っつかタトゥーからすると、脳に負担がねぇお前の目はかなり上等!その上、違う国の言語まで勝手に翻訳されるんだろ?他国語喋ってようが、口の動きから読み取れたりするみたいだしな。その情報処理能力も恐らく向こうからなんだろうが」


「やかましい」


「ギャーーーッ!」



 カースタトゥーは右目の横の位置で喋っていた。

 つまり耳の近くだったせいでうるさかったのか、カルラ第一保険医がメスで目のすぐ横を切り裂きスプラッタ。

 位置としては頭の方寄りなせいで、出血量も多い。



「馬鹿!テメェ本当馬鹿!人体を理解してるクセにナンでそう無駄な出血しやがんだテメェは!女が顔に傷作るんじゃねぇって何回言やわかんだオイ!?」


「女の全身にタトゥーとして取り憑いておきながら棚上げか?そもそも前提がオカシイ。人体を理解しているからこそ、私は的確に致命傷にならない位置を傷付けれる」


「ハイ馬鹿!オメェ馬鹿!致命傷にならないってコトはその分痛いってコトだろうがこの馬鹿!」


「貴様がやかましいのが悪いんだろうが。多少の出血くらいでガタガタ言うな」


「ガタガタァ!」


「まったく、わかったわかった。後でレバーでも注文して食えば言いだけの話だろう。わかったからいい加減黙れ。その位置だと耳に近いから音量が大きいんだ」



 ……コレ、ほぼ毎回の出来事なんですのよねー……。


 最初こそカルラ第一保険医による突然の自傷行為&出血に驚いたモノだが、こうも繰り返されると流石に慣れる。

 というかカースタトゥーはタトゥーでしかないので、自傷してもダメージはカルラ第一保険医にしか入らないと思うのだが……まあ、カースタトゥーはアレで結構まともな感性を持ってるようなので、メンタルへのダメージを期待しての行動なのかもしれない。

 まあどう考えたトコロで狂人の思考はトレース不可能だから、考えるだけ無駄なのだろうが。



「そういえば、カースタトゥーってカルラ第一保険医に取り憑いてる魔物なんですのよね?」


「糸で織るよに修復し治せ……ん?ああ、そうなるな」



 魔法で目元の傷を治しつつ、カルラ第一保険医は頷いた。



「騒がしいだけでナニも出来んが、邪魔臭い」


「パートナーに対して酷ぇ言い草だなカルラ!?つかテメェがその辺に放置した本とか探す時に教えてやったりしてるだろうが!」


「貴様はソレ以上に騒がしい」



 ……油断するとソッコで漫才始めますわねー。



「でもカースタトゥーって、ゴーストじゃありませんわよね」


「あ?まぁな。俺様は俺様の宝に手ぇ出すヤツを呪う為の怨念みたいなモンだし」


「怨念?」


「そう、怨念だ。ゴーストっつぅよりはな」



 カースタトゥーはカルラ第一保険医の目元から手の甲へと移動し、そのガイコツとして描かれている頭部で、慣れたようにウィンクをキメた。



「時間あるならカルラとの出会いから話してやるぜ?」


「おいカースタトゥー、勝手に」


「是非聞かせてくださいな!」


「おいエメラルド」



 カルラ第一保険医に面倒という感情が篭もった目で見られたが、そんなモノで動揺するようなメンタルは残念ながら持ち合わせていない。





 カースタトゥーは語る気満々だし、こちらも聞く気しかないコトを察したからか、カルラ第一保険医はお茶を淹れてくれた。



「お前が外国の医療系の本を翻訳してくれてるお陰で助かってるのも事実だしな。そのくらいはまあ良いだろう」



 そう言ってカルラ第一保険医は椅子に腰掛け、お茶を飲み始める。



「んじゃあまず俺様の話からになるが……俺様はまあ自分でも時々言ってるが、元海賊の船長だ!海賊の本で調べたら名前が載ってたりもするんだぜ?」


「え、誰ですの?」


「ソコは秘密な」


「コイツ、最後まで捕まらずに宝隠し切ってひっそりと死んだんだ。海賊は死に様が一番の見せ所みたいなトコがあるから、絶妙に話題性が無い海賊でな」


「うっせ!うっせうっせ!」



 カルラ第一保険医の言葉に、少し恥ずかしかったのかカースタトゥーがそう叫んだ。


 ……まあ確かに、海賊って死に様が一番詳しく書かれてたりしますものね。



「まあとにかく、宝を隠し切って死んだのは事実だ。そして俺様は誰かに殺されるコトも無く死んだから、相手への恨み辛みもねーワケで」


「ですわよね」



 海賊は恨み辛みがヤバイイメージがあるが、処刑されたりもしていないのであれば、恨む相手がまず居ない。



「だから俺様は自分の宝が誰かに奪われねーように、って怨念だけの状態になりながら、その魂を呪いという魔物化してでも宝を守ってたワケだ」


「で、その宝を隠し場所をウッカリ私が見つけてしまってな」



 お茶を啜りながら、カルラ第一保険医が続ける。



「私はただ近隣住民から、ソコに近付くと病気になって死ぬと聞かされ、ソレは足を運んで色々調査せねばと思っただけだったんだが」


「コイツ俺様が俺様の宝の隠し場所に侵入者が出ないよう広範囲呪ってたっつーのに、ソレ無視して入り込んで来やがったんだぜ!?あり得ねぇだろ!」


「広範囲系の呪いだと範囲が広い分濃度が薄いから、呪いを除ける魔道具を所持していればイケると思ってな」


「そして実際にイケちゃったんですのね……」


「ああ」



 カルラ第一保険医は頷いた。



「で、宝を見つけた。コレは発表すれば金になるし、発見者は自分だから所有権は自分にあるし、そして情報を売ったりで絞れるだけ絞ってから売っ払えばコレは良い資金になるぞ、と思って触ったら、この通り」



 そう言い、カルラ第一保険医は白衣の袖を捲って、全身に刻まれているカースタトゥーを見せた。



「全身に痣……タトゥーがいきなり現れるし、俺様の宝に触るなとかどうとか叫んで来てうるさかったが、まあソレだけだったからな」


「俺様は超叫んだし超脅したし夢に干渉して戦いでヒトが沢山死ぬっつー悪夢見せたりしたのに、コイツまったくの無反応だったんだよ」



 ガイコツフェイスでありながらカースタトゥーは呆れたような表情になり、カルラ第一保険医の頬からカルラ第一保険医を指差した。



「戦争知らねぇ時代生まれのクセに」


「医者が死体だ出血だでビビる方が怖いだろうが」


「確かにそうですわね」



 死体や出血に怯える医者とか怖い以外のナニモノでもない。

 ソレ大丈夫?ちゃんと治療出来る?というか診察とか出来る?と心配になるレベルだ。



「まあそんな感じでコイツに取り憑いてからは、ホント、宝を売り払う時とかめちゃくちゃ叫んだし、買い取る側にも叫んだんだが、どっちも頭オカシイのか俺様の言葉を聞きゃしねぇ」


「カースタトゥーが居た時代がどの辺りかは知りませんけれど、現代人は皆狂人ですものね」


「うん、俺様お前はまともな方だと思ってたけど、今の言動でお前も狂人側だったんだなって理解した」



 ……失敬な!


 狂人は狂人でもイージーノーマルハードアルティメットで表記するなら自分はイージー。

 カルラ第一保険医の場合はハード寄りのノーマルなので、比べれば自分は常識人でしかないというのに。遺憾の意とはこういう気持ちか。



「まー俺様が怨念で呪いっつーのはそういう感じで、その後も、まあ、俺様の宝の発見者っつーか冒涜者はコイツなワケだろ?」


「私は拾った宝の持ち主になったから自分の好きなように使っただけだ」


「俺様が!一生を掛けて色んな国や海賊から奪った宝を!コイツは!俺様の目の前で売り払いやがったんだぞ!わかるか俺様の気持ち!」


「そりゃ冒涜者って言いたくもなりますわね」


「だろ!」



 全力でそう叫ぶカースタトゥーとは対極的に、カルラ第一保険医はうんざりした顔でカースタトゥーを睨んでいた。

 アレは多分、いい加減十年以上も前のコトをしつこいなこのタトゥー、という感情の表情だろう。



「だから俺様はコイツに取り憑いたままだったんだが、そうするとコイツの生活を目の当たりにするワケだ」


「でしょうね」


「そしたらコイツ、俺様が見てようが一切気にせず日常を送りやがる!俺様が騒いでも、だ!」


「騒いだ時は流石にやかましいと思ったが、別に見られている程度で揺らぐような精神は持ち合わせていない」


「風呂とかトイレとか!恥ずかしがるとかあるだろうが!メンタルがやつれていくハズだろうが普通は!」


「医者として介護の経験もあるからな。正直見たり世話したりという体験があるせいで、見られてるくらいでは動じん」


「もう俺様ホントコイツのメンタル心配!」



 カルラ第一保険医のサッパリした言葉に、カースタトゥーは首の位置で顔を手で覆いさめざめと泣くマネをした。



「そんなワケで心配しかなかったし、その上コイツ、生活力が皆無なんだよ。飯とか栄養優先で味とか二の次だし、寝れれば良いっつって部屋とかワリと適当に放置のゴミ部屋状態だし!」


「だから私が寝ている間は肉体を自由にして良いって言っただろうが」


「ああお陰様でテメェが寝てる時だけテメェの体を動かせるよ!でも普通は許可無くても動かせるハズなんだからな!?テメェの精神が強過ぎるせいで動かせねえだけで!」


「自分から自分のメンタルの虚弱さを暴露してどうする、海賊船船長」


「ムッキャーーーッ!」



 ……相変わらず漫才でしかありませんわねー、やり取り。



「ええと、つまりカルラ第一保険医が寝ている間だけ、カースタトゥーが肉体を動かすコトが出来るというコトですけれど……悪さとか、しませんの?」


「したいのにコイツ、部屋ん中ソッコでグッチャグチャにすんだよ。んでもって俺様が出てる時ってカルラの意識は寝てても肉体は起きてるワケだから、下手すると睡眠不足でぶっ倒れるっつー問題があってな」


「つまり?」


「つまりソッコで片付けだけ終わらせて寝ないとカルラと一蓮托生状態の俺様もピンチ」


「もう死んでるクセに生き汚いとは思わないのか?」


「オメェの!オメェの肉体の話をしてんだろうが今は!医者の不養生っつかもうちょい自分の肉体を労われテメェ!俺様が叫んで誰かに飯持って来てもらわねぇと意識途切れるまで研究に没頭しやがってこの馬鹿!馬鹿!」



 結局カースタトゥーの言動は全てカルラ第一保険医を心配している言葉でしかない気がするのだが、気のせいだろうか。

 だが恐らく、そういうのの積み重ねで、呪った側と呪われた側でありながら、パートナーという関係に落ち着いたのだろう。



「……ナンと言うか、仲が良いんですのね」


「いや、微妙だな」


「コイツのコトは確かに誰より知ってるが、ソレとコレとは別!」



 二人してそう言いつつも絶対仲良いだろ。





 コレはその後の話になるが、カルラ第一保険医とカースタトゥーは相変わらず仲が良い。



「オイコラ!カルラ!テメェまた夜更かししやがって!消灯したら教師の一人としてキチンと寝やがれ馬鹿!生徒に示しがつかねぇだろうが!」


「貴様、寝不足の女に対して大声で怒鳴りつけるな。情緒不安定からいきなり泣き出したらどうする」


「言っておくが俺様、テメェの涙だけは信用しねぇから。海賊のカンの良さと見る目をナメんなよ」


「チッ。というかカースタトゥー、貴様海賊の船長のクセして決まり事に厳しいとかどういうコトだ。決まりなど破るくらいの気持ちでいれば良いだろう」


「オ!メ!ェ!のような馬鹿が居るせいで決まり事っつーのは作られんだよ!あと海賊っつーのは結構厳しいんだからなその辺!消灯時間に合わせて寝るとか無関係のヤツに必要以上に暴力は振るわないとか!そういう決まり事があんだよ!」


「海賊のクセに」


「海賊だからだ!違反者はソッコで魚のエサだからな!?わかったらテメェももう少しまともな生活を」


「エメラルドに翻訳してもらった医学書には暗号があったしくて、その解読をしたいから断る」


「ならもうアイツに頼んで暗号自体を解読してもらやあ良いだろうが!アイツ目ぇ良いんだから!この馬鹿!馬鹿!」



 ……え、この騒動わたくしが原因ですの?


 その上、医学書の暗号まで解読しなくてはいけないらしい。

 あの二人は端から見ていると漫才のようで楽しいが、巻き込まれたくは無いタイプなので、少しだけ憂鬱な気分になった。




カルラ

美女だが全身にあるタトゥーと狂人メンタルのせいでモテない。

ゴーイングマイウェイ過ぎる性格ではあるが、そのお陰で奇想天外な生徒の対応も普通に出来るので今の保険医という職業は天職。


カースタトゥー

海賊っぽくてガイコツっぽいのを掛け合わせたようなビジュアルの動くタトゥー。

怨念のクセに真面目で、ほぼサポーター。


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