パーツ少女とボディクローゼット
彼女の話をしよう。
遺伝で体の関節やパーツが取り外し可能で、違うモノをパーツとして接続するコトも可能で、自分の改造が大好きな。
これは、そんな彼女の物語。
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昔適当なトコに仕舞っておいたのを思い出したから、とゲープハルトによりかなり貴重かつ古い蔵書の翻訳を頼まれた。
というか最早翻訳より解読だろうレベルのモノだった。
……いやもう、ホントこの目くれた誰かへの恩がうなぎのぼりですわ……!
読めない文字には自動でルビを振ってくれるこの目のお陰で、古代文字の古代文字の古代文字、というレベルで古い本も普通に読める。
その上文法も自分にわかるようになっているお陰で、視えるままに書けば良いというのがとても助かる。
……というかゲープハルト、とんでもないモンを一般生徒に頼みますわね……。
基本的に翻訳した結果と元の本はアダーモ学園長に渡すコトになっているのだが、そのアダーモ学園長がドン引きしたレベルだ。
「……エッ、マジ?コレ?マジで?マジでこんな古いの解読したの?マジで?いやエメラルドなら出来るだろうけどよ、えー……」
「そ、そんなにヤベェモンだったんですの?」
「ヤベェっていうか、現代じゃほぼ解読法皆無だと思うぜ。俺もこの文字見るのなっつかしーもん。
うわー、懐かしいけどコレ明らかに学生に頼むモンじゃねー……。確実に専門家十人以上が分担したり協力したりして年単位で頑張らねえと駄目なヤツー……」
「ヒッエ」
「うん、まあ、内容完璧だから凄ぇわエメラルド。ボーナス弾んどくな。
あとゲープハルトはここ顔出す時あったら一応叱っとく。多分他のヤツに頼むよかお前に頼む方が早いってなる可能性高ぇからあんま意味ねーだろうけど」
「役立ってるんであればわたくしとしては良いんですけれど……今その話聞かされて内臓がヒュンってなったのでお叱りはマジで頼みますわ」
「頼まれよう」
大体そんな感じの会話があったくらいだ。
アダーモ学園長は基本的に学園長室に居るか学園内を歩いているかしていて、そして廊下ですれ違う度に生徒に声を掛けてくれたりもする。
つまりは気さくな性格であり、一年ごとに変化する生徒全員を把握していて、長生きだからこそ物事に関するハードルが低い。
……そんなアダーモ学園長が「ヤベェ」って言うレベルのを他の翻訳と同レベルの感覚で頼まれたんですのね、わたくし……。
そして出来てしまったという事実。
ゲープハルトは自分になら出来るとわかっていたから頼んできたのかもしれないが、想像以上の貴重さとかを後から聞かされるのはホントに心臓に悪いので、その辺りのホウレンソウをちゃんとやってもらえると助かるのだが。
ホント己にこの視力を付与してくれた方にはマジで感謝しかない。
……クラリッサ曰く、わたくしの運命、でしたっけ。
運命である以前に、とてもお世話になったと礼を言いたい気分だ。
現在ある情報からするとどうも神っぽいので、ありがとうございますの念でも送ろう。
……ええ、神へのお礼となれば、感謝と信仰と捧げものがベストですものね!
あとは酒とつまみと踊りと歌とかだろうか、神の好きなモノと言うと。
父曰く、そして女神や神との会話による経験上、そういう系統なら外れが無いらしいし。
「ジョゼ!」
「あっぶな」
「グエッ」
背後から突進されかけたので避け、パウリーナの首根っこを掴んで転ばないように支える。
「ナニすんですの、パウリーナ。いきなり突進だなんて」
「当然のように話しかけてるけどジョゼ思いっきり避けたわね!?受け止めてよ!」
「ヤですわよ」
「あと首根っこ掴んで持ち上げないでちょうだい!私が首のパーツ取り外してるから良いものの、首があったら締まってたわ!」
そう、パウリーナは遺伝で体がパーツという感じになっており、取り外しが可能なのだ。
そして視えない軸のようなモノがあるのか、関節となる部分を取り外しても腕や手などは問題無く動く。
……初見だとビビリそうなビジュアルですわよね。
ヒト型なのに首が無いわ関節が無いわ、でも頭の位置に頭はあるし、腕がある位置に腕はあるし、という見た目は実にホラー世界チック。
まあ現代にそういうビジュアルの人間はそれなりに居るので、そうもビビリはしないかもしれないが。
「もー、思いっきり止めるせいでグインってなって首転がるかと思ったじゃない」
「慣性の法則ですわね」
「まあ私はちゃんと自分のパーツのコントロールが出来てるから、うっかり転がったりはしないけど!ちょっと浮くだけ!しかも首を外してあるからグヘッともならない!」
さっきグエッと言っていたような気がするが、まあ良いか。
そう思っていると、パウリーナは頭部を元の位置に戻した。
首が無くて浮いている為、真っ赤な緋色に茶色のメッシュが入った髪がふわりと揺れる。
「さてジョゼ、いい加減下ろしてちょうだい」
「ハイ」
「まったくもう、片手で同級生持ち上げるとかどうなってるのよその腕力」
「わたくしにもサッパリ」
荷物運びとかを頼まれるせいだろうなとは思っているが。
あとは体術と剣術の授業による成果だろう。
「まあわたくしとしては、パウリーナの方が不思議ですけれどね。
胴体と腰、腰と大腿、大腿と下腿、下腿と足……ソレらが繋がっていないのに、胴体持ち上げたらソレらも一緒に浮くとかどうなってんですの?」
「人体ってそういう型になってるモンじゃない。出来るだけ型に沿わせた方がコントロールしやすいの」
首や関節を取り外している現状は型に沿っていると言えるのだろうか。
まあヒト型パズルとして考えると要点は押さえているように思えるっちゃ思えるが。
「ソレに関節とか首とか、動きを制限するから邪魔なのよね。取り外してた方が可動域気にしなくて良いし……って、そう!ソレ!関節よ関節!関節探してるのよ私は!」
「どうどう、落ち着いてくださいな。言っとくけど今のパウリーナの言動、頭オカシイにも程がある言動ですわよ」
「私より頭オカシイのなんてこの学園には溢れる程いるでしょ!」
「うーんぐうの音も出ない正論」
レベル差があるとはいえ、自分含めて狂人だらけなのは事実である。
「じゃなくて、私の関節!落としちゃったのよ!」
「……関節って落とすモンなんですの?」
「そりゃ取り外してるんだから落としもするわ」
「う、うーん」
確かに取り外したなら落とすのもわかるが、関節を落とすという言葉のインパクトがヤバい。
というか落とすな。
「とにかく!落としちゃったから探さないと駄目なの!」
「どうせアナタ接続しないじゃありませんの、首とか関節」
「してるわよ!毎晩!寝る時に!接続しないと腐るから!」
腐るのかアレ。
まあ確かに取り外している時は死体と同じようなモノなのだから、接続されない状態が続くと腐うーん。
……関節取り外しても足や腕が普通に問題無いコトを考えると、納得出来ないような、でも説明には納得出来るような、いややっぱ出来ませんわねコレ。
だが理解不能は混血や魔物にはよくあるコトだし、未知があるのがアンノウンワールド。
つまり理解不能な面倒臭ェコトはあんま考えずそのまんま適当に受け取っときゃモーマンタイ。
「……つまり、腐る前に見つけ出したい、と」
「そうなの!」
「ちなみに落とした関節は?」
「右の膝関節!」
「ああ、ソレならさっき学園長室からの帰りの廊下から視ましたわ」
「ドコ!?」
「一番こっち側にあるベンチの下」
「普通絶対視えない位置な気がするけど、拡大も透視も可能なジョゼだものね!やっぱりジョゼに聞いて正解だったわ!じゃ、ちょっと回収してくる!」
「ハァイ、いってらっしゃい」
ソッコで走り出したパウリーナにヒラヒラと手を振って送り出す。
見慣れているけど単体では見慣れないモノが落ちてるなとは思ったが、まさかパウリーナの関節だったとは。
細胞レベルまでは拡大しなかったから気付かなかった。
・
森を歩いていたら、腕が落ちていた。
正確には上腕と前腕と手の三つだが、まあ広義的には腕で良いだろう。
……いや、落ちてるコトを考えるとナニもよくありませんわね。
「……アホですの?あの子……」
腕の細胞的に、この腕の持ち主は確実にパウリーナ。
周囲に視える足跡からも間違いなくパウリーナがここに居たのだろうが、何故左腕が置き去りになっているのか。
……普通に移動してるだけっぽいですし、害魔に襲われて落とした、とかでも無さそうですの。
「居るのは泉の方、ですわね」
とりあえず落とし物の腕を拾い上げ、パウリーナの方へと向かう。
森で落ちてた腕を拾って持ち主に届けるとか、どういう状況なんだろうか。
……わたくしですらどうかと思うレベルだからか、異世界のわたくしが完全に思考停止してますわねー……。
まあ普通森に落ちてる腕とか確実に事件性のあるモノなので、そうなるのも仕方ないだろう。
アンノウンワールドでは体のパーツが分離するくらいあるあるだが。
「……素敵だわ」
パウリーナは、泉を覗き込んでうっとりとしていた。
「泉覗き込んでナニやってんですの、パウリーナ」
「あら、ジョゼ!って、ソレ誰の腕?」
「いやアナタのですわよ気付きなさいな」
「エッ」
パウリーナは驚いたように目を見開き、周囲を見回してヤッベという表情になる。
「……もしかして、置き忘れてた?」
「置き忘れてましたわ。完全にヤベェ絵面だったから回収して持ってきたんですの」
「ごめんジョゼ!ありがとう!助かったわ!」
「なら良かったですわ。ポイ捨てだったらどうしようと思ってましたから」
「ポイ捨てなんてしないわよ!私が生まれ持った大事なパーツなんだから!」
「ですわよねえ。だから良かったですわ。もしお世話になっているこの森にポイ捨てしてたら、ええ、どうしようかと」
「……もしポイ捨てだったらどうしてたのよ、ソレ」
何故怯えたように一歩下がられたのだろうか。
「いやもう普通かつ単純に、せめて埋めるなり人肉を主食とする魔物に食わせるなりという処理をしなさいな、って叱るだけですわよ?ポイ捨てはいけませんものね」
「ちなみに私が悪だったら?」
「アハ」
「コワッ」
笑いかけたら五歩くらい引かれた。
何故だ。
……悪がポイ捨てをしたのであれば、そのまんま頭部を泉にダイブさせて大人しくさせるくらいしか思いつきませんわねー。
殺しはしないから大丈夫だ。
肺呼吸の生き物は呼吸する部分を水に浸ければ大人しくなる。
……あ、でもパウリーナの場合って頭部と胴体、どっちがメインの呼吸なのかで変わってきますわね。
「……うん、いっそ両方浸けるコトになってたかもしれないので、手間を考えてもアナタが悪でなくて幸いですわ」
「怖い怖い怖い怖い。ナニが怖いってジョゼの悪に対するその当然であるかのような攻撃性が怖い」
「戦闘系天使だから当然ですのよー?」
そもそも戦闘系天使はコレでもかなりリミッターがある状態なのだが。
天使はワリと単独行動であり、協力状態で本気を出すのが苦手というあまり知られていない特徴がある。
……つまり、本気になるとかなりガラ悪いんですのよね、天使って……。
神以外に対する忠誠心が皆無だからか、ソレが普通らしい。
もっともソレがあまりよろしくないとわかっているからこそ、基本的に天使はソレらを隠しているが。
……ええ、そう、要するにわたくしの口が悪いのは周囲の影響と天使の本能的なアレコレとかであって、わたくし悪くありませんの!ええ!
だからといって製作者である神が悪いというコトもないが。
神と敵対しないように脳内であろうとつい保険を掛けてしまうのは天使の性なのかもしれない。
「ところでパウリーナ、アナタその腕どうしたんですの?」
「ああ、コレ?」
そう言って自前の右手で撫でられたのは、左腕として接続されている異様な程に長い腕だ。
ハサミだろうがドライバーだろうが接続さえすれば自分のパーツとして扱えるのがパウリーナだが、一体ドコでそんな腕をゲットしたのやら。
「向こうに落ちてたの」
「……コレが落ちてたのと同じ場所ですの?」
そう言ってまだ自分が持っているパウリーナの腕を見せると、パウリーナは舌をチロリと出した。
「テヘ♡」
「成る程、その腕見つけて「ヤダ凄いレアな腕!私の!コレ私の!よーしソッコで接続して、近くに泉あったから水面鏡代わりにして確認しちゃおーっと!」みたいな感じだったんですのね」
「一字一句違わず大正解ってか無駄に完成度が高い!?ジョゼってばそんなに私のコトが好きなの!?」
「いえ普通に標準ですわ。友人として接してりゃそんくらいは覚えますわよ」
「本人前にクール過ぎない?」
通常通常。
「でもソレ、手長の腕ですわよね」
「ああ、確かにコレって長い腕よね。でもこの長さ、素敵じゃない?」
パウリーナは接続されている手長の左腕を撫でながら、うっとりとした表情で言う。
「私ね、野望があるのよ。とっても素敵なパーツを集めて、理想の私になるっていう野望が!」
「よく色んなモノをパーツとして試したりしてるの、その野望の為ですの?」
「ええ、そうよ!」
弾けるような笑顔でパウリーナは肯定した。
「そしてこの腕、良いわよね!このリーチの長さ!全体とのアンバランスさ!こんな良い腕が落ちてるだなんて!」
「普通は腕って落ちてませんのよー」
あと先程スルーされたが、ソレは腕が長いヒトの腕というワケでは無く、手長という極東魔物の腕である。
足だけが長い足長とセット扱いの、腕だけがやたら長い魔物が手長だ。
……や、まあ、手長の腕だとしても、どうしてその腕が学園の裏手の森に落ちてるのかがわかりませんわね。
手長は極東魔物であり、泰西であるこちらで繁殖してるっぽいとかは聞いていないのだが。
そう思いながら手長の腕にご満悦なパウリーナを見守っていると、近くの茂みから飛び出す大きな影があった。
「ああああやっと見つけた!」
「キャアッ!?」
「大事な大事な僕のコレクショ、ン……?」
飛び出して来たのは、クローゼットだった。
空中に浮いているクローゼットの魔物は、彼の出現に驚きながらも接続している手長の腕を大事そうに抱えるパウリーナ、そしてパウリーナの腕を未だに持っているこちらを見て、困惑したかのように動きを止める。
「………………その腕」
「…………」
何故かクローゼットの魔物とパウリーナが無言で見つめ合っている。
どういう空気でどういう状況だ。
……帰りたいですわねー……あ、お空広い。
空を見上げて困惑しか存在しない現状から逃避していると、クローゼットの魔物が動いた。
「…………」
彼は無言のまま、その扉を開いてパウリーナに中身を見せる。
その中は、中の空間どうなってんだと思う程に人体のパーツがミッチリと詰まっていた。
一部魔物のパーツのようだが、それもまたヒト型のパーツらしい。
……って、アレもしかしてボディクローゼットですの!?
ボディクローゼットとは、肉体のパーツを収納するコトで、ソレの劣化を止めるという魔物。
遺体保存の際などに助かりそうな魔物に思えるが、実際はその真逆な魔物だ。
……あくまでパーツだから、人体丸ごとは収納不可能、なんですのよねー……。
その上、人体のパーツをゲットして収納するという本能があるらしく、遺族の天敵とされる魔物である。
何故なら新鮮な死体から、魅力的だと思うパーツをもいで収納するからだ。
「す……っ!」
……つまり、遺族からすると死んだ肉親の体に無体を強いる魔物、みたいなコトになるんですのよねー……。
「すっごーい!ヤダ!ナニよコレ凄い!この腕肌の色が黒いのに肌ツヤッツヤじゃない!」
「わかるかい!?だろうね、わかると思ったよ!だから見せたんだ!」
「一目でわかるわよこんな良いパーツ!」
ただし狂人にはそんなモノ関係無い。
知ってた。
……まー、パウリーナったら目ぇ凄いキラキラさせて……。
ボディクローゼットはボディクローゼットで、とても楽しそうな声色だ。
例えるならそう、自慢のコレクションを同志に披露する時のような。
……遺族からしたら不謹慎どころじゃないコレクションですわねー……。
「あ、しかもこっちの手なんて爪めちゃくちゃ綺麗!こっちの足、エッ!?凄い!この足、爪の部分が鉄製だわ!?」
「どうも人体改造とかしてたらしい個体でね!もうそんなの聞いたら頑張って侵入して足貰っちゃうよね!まあ最近は死体の管理が徹底してるし戦争も無いしで、中々コレクションが増やせないのが残念だけど」
「確かに戦争があった時代なら、相当の死体が落ちてたでしょうね。
つまりその分パーツも沢山……クッ、戦争を羨ましいなんてジョゼに脳天チョップ食らわされる可能性があるから冗談でも言えないけど、ポロポロとパーツが落ちてた時代は羨ましいわ!」
もし言ってたらマジで不謹慎過ぎるとお仕置きチョップをカマすつもりだったので、賢明な判断をしてくれてとても嬉しい。
まあオブラートに包んでぼかしてる方も微妙に漏れてる気はするが、パウリーナが狂人だと考えると及第点でつまりギリギリセーフですの。
「……やっぱり、キミを認めた僕は正解だったよ。キミの目は僕と同じモノを感じる」
「ええ、私もよ」
パウリーナはうっとりとした表情で、クローゼットの扉に触れた。
「アナタの目はわからないけれど、空気でわかるわ。生き物をパーツとして見ていて、そのパーツはコレクションに相応しいかどうかで判断してる」
「ああ、その通り。そしてパーツとして見ながらも、ヒトを殺してまで奪おうとはせず、ルールを守る」
「落ちているパーツを拾ってコレクションするだけで、加害者にはならない」
「ヒトを食って腹を満たすのでは無く、ヒトのパーツを集めてコレクションし、心を満たす」
「けれど私は自分のパーツの取り外しや接続が出来るだけで、保存が出来ない」
「けれど僕は鮮度を保ったまま永遠に等しい時間収納するコトが出来るだけで、活かすコトは出来ない」
ミュージカルでもやってのかと思うテンションで、自然豊かな森の中の泉近くでアハハウフフとヤベェ会話をする魔物と狂人。
ロマンチックなど皆無なハズのこのシチュエーションだというのに出張せざるを得ないロマンチックさん、大変過ぎる。
……わたくし、ロマンチックにだけは転生したくありませんわねー。
「でも私はアナタが居れば、沢山のパーツを接続するコトが出来るわ!宝石の瞳を持つ頭に、屈強な筋肉の胴体に、馬の蹄がある足に、そして真っ青な色の腕を持つ人間になるコトだって可能なのよ!」
「ああ、ああ!ソレは最高に素晴らしい!僕も集めるだけじゃなく、そういう完成されたモノが見たかったんだ!
パーツもまた素晴らしいけれど、パーツとパーツを繋ぎ合わせて完成させてこそのパーツ!ソコで初めて僕の集めたコレクションが活きる!」
……どーいう会話ですのマジで。
ミュージカルチックなテンションでサイコパスなマッドサイエンティストみたいなコト言ってるパウリーナとボディクローゼットから視線を逸らし、空を見上げる。
このミュージカルには正直興味無いので、パウリーナの腕だけ置いてこっそり帰っても良いだろうか。
・
コレはその後の話になるが、あの後十分経っても楽しげに語っていたので腕を文鎮代わりにして先に帰るという書き置きを残し、さっさと帰った。
そして意気投合というか、価値観の一致と需要と供給の一致があったらしく、パウリーナとボディクローゼットはパートナーになったらしい。
……まあ、あのテンション見てたらそりゃそうでしょうねとしか言えませんけれどねー……。
「ねえ見てジョゼ!どうこの腕!右腕は褐色肌に青い爪で、左腕は細いのにしなやかな筋肉がついていて色白なの!」
「や、わたくしそういうのあんまわかんないので意見求められましても……って、ソレ左腕男の腕じゃありませんの?」
「ええ、そうよ!女の私に男の腕、っていうのも素敵でしょう?」
「アナタが満足してるなら良いんですけれど……」
素敵かどうかはちょっとよくわからない。
まあ本人的にアリなら良いんだろう、多分。
「というか、ナンでわたくしに自慢してくるんですの?」
「見納めだからさ!」
「相変わらず場所取りますわねーアナタ」
「クローゼットだからね!」
広い談話室だし、この学園内はサイズの大きい混血や魔物でも平気なように全体的に広いので問題は無いが、やはりクローゼットはクローゼットだ。
つまり普通にデカイし幅を取る。
「って、見納めって?」
「この腕よ」
「捨てるんですの?」
「ナンて恐ろしいコトを言うんだいキミは!?」
「そんなワケ無いでしょ!何十年もボディクローゼットが大事に仕舞って来たパーツなのよ!?しかもこんなに素敵なパーツなのに捨てるだなんて!」
怯えるボディクローゼットと、そんなボディクローゼットを庇うように抱き着くパウリーナ。
ソレを見るこちらとしては遺憾の意としか思えないが。
「……見納めだって言いましたわよね?」
「捨てるとかそういう意味じゃないわ。ただ、このままだと動かしにくいから後で関節とかを取り外すの!」
「関節があるのも素敵だと思うけれど、接続して使用しているのはパウリーナだからね。ソレに関節を仕舞っておけば、収納時にまた元通りにするコトも可能だから問題無し!」
「ホンットーに最高よボディクローゼット!アナタのお陰で私、関節が腐るのを心配しなくて良くなったもの!アナタには感謝してもし足りないわ!」
「僕こそキミには感謝しかないよ!僕が集めてきたパーツを見て、理解し、賛同し、ソレを活かしてくれているんだから!そのパーツが人体の一部として動く姿を見れるだけで最高に幸福さ!」
普通腕などのパーツは元々人体の一部のハズなのだが。
まあボディクローゼットからすると、人体では無く死体のパーツと認識しているのだろう。
……つまり、見納めってのはその腕に関節がある状態でパウリーナが装備するのはコレで見納め、って意味でしたのね。
改めて文章にすると頭オカシイんじゃないだろうか。
しかし残念、事実という現実。
「にしてもアナタ達、そんなにも楽しそうに毎日違うコレクションを取り出してるのに、頭は変えませんのね」
リーアムは着替えるように首を取り替えているし、パウリーナは着替えるようにボディのパーツを取り替えている。
だがパウリーナの場合、頭を取り替えるコトも可能だったハズだが。
「ボディクローゼットと出会った時、素敵な頭があるとか言ってませんでしたっけ?」
言った瞬間、瞬時に顔を逸らされた。
ボディクローゼットまでもがこちらに向いていたハズの正面をずらしている。
「……やましい理由でもあるんですの?」
「な、無いわよやましい理由とかそんな!ねえボディクローゼット!」
「う、うんうん、無いよ、無いとも!ちょっと戦場に落ちてた死体から無断でいただいたりしたせいで、その顔を公衆の面前で使うとちょっと面倒なコトになるかなーってだけで!」
「そうそう!そうなのよ!顔となると一番区別つきやすいパーツだから、ソレの所有者は自分の先祖だとか言われると困るし!」
「長い期間鮮度を保って守ってきたのは僕だし、今まで特に言って来てない以上は火種になるモノすら見せなければセーフのハズ!だよね!」
「ソレに、ホラ、あの、人間の印象って大概顔じゃない!?
だからホラ、ただでさえ体のパーツを入れ替えたりしてる私だから、唯一判別可能な顔を取り外すとジョゼみたいな目がない限りは判別出来ないんじゃないかなーっていう、そう、気遣い!」
「そう、皆への気遣いなんだよコレは!」
「ちゃんと自室でこっそり顔取り替えたりもしてるから問題は無いわ!」
明らかに言い訳だし全部暴露している気がするが、他のヒトがパウリーナをパウリーナと認識する材料が必要なのも事実なので流すコトにしよう。
まあ本音を言うと腕や足がアンバランス過ぎるという特徴があったりもするのだが、リーアムとパウリーナで生首交換とかしかねないと思うと現状維持の方が良い。
……ええ、今なら頭を取り外したりしてないから、パウリーナの頭が取り外し可能というコトをリーアムは知らないハズですし!
その辺で朗らかに生首交換している様子をまともな常識人が見たらトラウマになりかねないので、ツッコんだりせず現状維持に努めよう。
もっともリーアムの方の生首はリーアム用の加工をされているから、知ったところで生首交換が発生したりはしないと思うが。
パウリーナ
アンバランスさこそが美しいと思うタイプであり、パーツに関するコトだと凄くテンションが上がる。
ボディクローゼットとはかなり価値観がある為、よくとんでもねえ言動をしながらミュージカルしてる。
ボディクローゼット
肉体のパーツを鮮度保ったまま永遠に保存可能だが、死体から勝手に良いと思うパーツをもいでいく為、遺族には天敵とされている魔物。
せっかく鮮度が良いのだから保存するだけでは無く、このパーツを活かしたいとずっと思っていた。