天候少女とボムブロッシュペン
彼女の話をしよう。
遺伝で天気によって髪色が変化して、面白いコトが好きで、大体自分から巻き込まれに行く。
これは、そんな彼女の物語。
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買い物をしたらオマケにと貰ったイチゴ味の棒付きキャンディを舐めていると、カシルダが見えた。
「ハァイ」
「エ?あら、ジョゼじゃない。ハァイ」
こっちに気付いてヘラリと笑ったカシルダは、駆け寄って来てハイタッチ。
良い音がした。
「って、良いモノ食べてるわね、アナタ」
「常連だからオマケにって貰ったんですの。あと二つあるから良かったらいります?」
「いりまーす!」
「じゃあお好きな方をどうぞ」
「……コレ、ナニ味とナニ味?」
「片方レモンで片方青リンゴですわ」
「どっちがどっち……ああ!言わないでよ!?こういうのは選ぶのが楽しいんだから!」
「わかってますわ」
カシルダの言葉に、思わず苦笑してしまう。
いつものコトだ。
「うーん、いっそのコト片方食べ物かと疑うような味だったらこの博打感はもっと楽しくなったんでしょうけれど……」
「食べ物かと疑うようなって、人肉味とかですの?」
「ソレ絶対かさぶたの味よね」
「かさぶたって血で出来てますものねえ」
「まあ良いわ。どっちを選んでも私としては美味しい飴だから、こういう時はそうね……青リンゴ味!青リンゴ味を狙うコトにするわ!」
「カシルダ、毎日楽しそうですわよね」
「ええ、楽しいわよ。楽しいっていうか、日常に勝手にスパイスを加えて楽しんでるって感じだけど。こういうのも楽しい……って、ジョゼの場合はこういうの出来ないんだったわね」
「包装紙一枚分くらいじゃ、頑張って視ないようにしても視えちゃうのが問題ですの」
「もっとも、だからこそ仕掛け人とか似合いそうだと思うんだけどー、っと!コレにするわ!」
そう言ってカシルダは片方の飴をこちらの手から抜き取り、包装を捲った。
「ハァイ、残念ながらレモン味~」
「アー!もう!失敗!ジョゼの表情笑顔のまま変化無いからどっちがどっちとか察せないし!もう!レモン味美味しい!」
「キレるか飴美味しいって喜ぶかどっちかにしなさいな」
「飴美味しい!」
そっち取るのか。
「というか笑顔のままって……アナタそういうの嫌いじゃありませんの。結果がわかってつまらないって」
「そうだけど、こういう時に相手の顔を窺うっていうのは大事じゃない。賭け事の時とか」
「お菓子とかの合法的な賭け事ならともかく、お金とかの非合法な賭けはアウトですわよ?」
「そういうのやってたらジョゼのセンサーに引っかかるからすぐわかるでしょう?当然、合法的にお菓子とかジュースとか賭けてるわ。路地裏の方にある賭け事のお店とか怖いし」
「ええ、ソレが正解ですわ。ちなみにギリ合法な賭け事では最初良い気分にさせてからどん底叩き落すし、違法な賭け事の場合は内臓抜かれるから気を付けた方が良いですわよ」
「ナンでそんな詳しいのよ」
「見たくも無いのに視えるからですわ」
「ア、うん、ごめんなさい、聞くまでも無いコトだったわね」
カシルダがあっさり謝罪したのは、恐らく自分の目が死んでいたからだろう。
見たくも無いのに非合法なアレコレを目撃してしまうの、本当に勘弁してほしいのだが。
……まあ、視えるのを活かして兵士にチクッてそういうの潰してもらってて、結果的に不健全な店とかが無くなってると考えると、良いコトなのかもしれませんけれどね。
そう思いつつ、カシルダの髪の色を窺う。
今日のカシルダの髪色は、毛先がオレンジで根本の方は水色になっていた。
「……今日は良い感じに晴れですけれど、もうそろそろ小雨が降るみたいですわね」
「ん?ああ、髪?」
カシルダはレモンの飴を舐めながら、自分の髪を指先でくるくると弄る。
「そうね、さっきまではオレンジの方が優勢だったんだけど、水色が多くなってるみたい。そろそろ降るわ」
どういうコトかといえば、カシルダは遺伝で天気に合わせて髪色が変化するのだ。
天気を操作するとかは不可能だが、髪色やそのグラデーションで天気がわかるのはありがたい。
……根本の方がコレからの天気で、毛先の方がついさっきまでの天気、みたいなモノですものね。
ちなみに晴れはオレンジ、小雨は水色、雨は青色で曇りはグレー、雪は白色と変化する。
晴れの時は温度が高くなるにつれ赤みが増し、雨よりの小雨は水色ベースでも青っぽいなど、結構度合いもわかりやすいのでとても助かる。
……まあ、わたくしの場合は空を視れば多少わかりますけれど……。
それでもカシルダの髪を見た方が早いしわかりやすい。
「じゃ、今日は傘も持ってないからさっさと帰るコトにしましょう。カシルダは?」
「私はもう少しフラフラしてるわ。楽しいコトがあるかもしれないもの!」
「こないだそう言って雨の中フラフラしてたら、雨宿りしてたトコの屋根が一部穴開いたとかで、ピンポイントでアナタを水浸しにしてましたわよね」
「アレは驚いたし、ピンポイント過ぎて笑ったわ。まあ風邪引くかと思ってたけど引かなかったし、中々無い体験で楽しかったから良いのよ!」
「ポジティブでなによりですわ。では、わたくしはコレで」
「ええ。レモンキャンディーありがとう!」
大きく手を振るカシルダにクスリと笑い、こちらも手を振り返して学園へと戻った。
・
昨日あの後、王都で爆発があったらしい。
そう大した爆発では無かったらしいが、家屋の壁が一部崩壊し、盗品がゴロンゴロン出てきたそうだ。
……遺伝とか魔物によっちゃ爆発って普通だからそんな気にしませんけれど、盗品が出てきたとなれば流石に話題にもなりますわよね。
もっとも最近、そういうのが多いそうだが。
ちなみにその爆発の際、恐らく爆破させたのだろう不審な魔物が居るから見つけたら害魔かどうかだけ確認してね、という兵士からの連絡があったりした。
……人間爆破しようとした結果のミスなら害魔の可能性があり、ただの偶然であれば無害、ですものね。
けれど面倒事の匂いがするから出来れば関わりたくないな、と思っていたのが昨夜。
だというのに、放課後にカシルダに呼ばれて部屋に行ってみれば、その超本魔が居た。
「……あの」
「ナニかしら」
ニコニコ笑顔なカシルダに頭痛を覚えつつ、頭を抱えて人差し指を立てる。
「ちょっと持病の頭痛がダンスしててよく聞き取れなかったら良いなみたいなコトになっているので、もう一回言ってもらってもよろしくて?」
「つまり聞き取れてる気がするけれど、ええ、構わないわ」
カシルダはニッコリ笑い、筆ペンの魔物を掲げて先程と同じ言葉を紡ぐ。
「このボムブロッシュペンが最近悪人の家の、特に証拠がある部屋の壁とかを爆破させてる魔物らしいの」
「イエーイ!」
ボムブロッシュペンという名の筆ペンの魔物は、カシルダの手をジャンプ台にして空中でクルクル回り、空中でピタリと止まって決めポーズをキメた。
いや、ただ勢いよく止まって直立しているだけに見えるが、多分恐らくきっと決めポーズ。
「悪人よりも悪いコトはしていないし、悪人が滅ぶというとても素敵なコトをしているのよ。
でも昨日は小雨のせいで爆弾の威力がアレだったから描き足してたら目撃されちゃって、バレると厄介だしフリーで活動するからこそ出来るコトだから秘密にして☆って」
「ソレをなーんでわたくしに言うんですのよもー……」
持病の頭痛が悪化しっぱなしだ。
いっそイージーレベル飛び越えた狂人になればこの頭痛ともおさらば出来るのだろうが、ソレをやるととても大事なモノ、主に常識などが失われるので我慢する。
……ええ、頭痛に耐える程度で常識を失わずに済むなら高いけど安いモンですわ!
我ながらどっちだろう。
「……まあ、うん、爆発は実際してるっぽいですしね。やってたのがボムブロッシュペンだって言うなら、納得ですわ」
ボムブロッシュペンは基本的に意思があるだけの普通の筆ペン、みたいな魔物なのだが、丸に一本線を足してからその先にギザギザを描く、つまり爆弾マークを描くコトで、そのイラストをマジに爆破させるコトが出来る魔物だ。
ちなみにギザギザな爆弾に火ぃついてるよマークが無いと効果は無い。
……イラスト自体が爆弾、なんですのよね。
しかも簡単に描けるというのがまたアレなのだ。
まあ基本的にボムブロッシュペンは元が筆ペンというコトもあって、爆弾魔みたいな過激な思考は無いから安心ではあるが。
「で、何故わたくしに暴露」
「ソレがね?昨日歩いてたら彼に会ったのよ」
「そうそう、俺はもー捕まるかもしんねーから必死で逃げててよ。そしたら曲がり角でドーン」
「ロマンチックな出会い方だと思わない?」
「うん、そうですわね。で、何故わたくしに暴露」
「その後とりあえず事情あるっぽかったから連れて帰ってきたらさっき言ったようなコトを言われて、あらあらまあまあ大変ねえ私がバラすかもしれないのに教えてくれるなんてうふふふふって感じで!」
「その反応はオカシイんじゃありませんの?で、何故わたくしに暴露」
「ソレでボムブロッシュペンに掛かれば、というか描けば私くらいボンッと殺って口封じだって出来るワケでしょう?
ええ、そういう大義名分というか理由付けをして、まあ正義の為だし命は大事だものねうふふふって思って、コレはもう仕方ないから私のパートナーとしてアリバイ作っちゃいましょう!みたいな!」
「何故わたくしに暴露してんですのって言ってるでしょうに!」
赤く染まった頬を両手で押さえて嬉しそうにくねくねするのは良いが、先に質問に答えて欲しい。
「んーと、まあそういうコトで、犯罪者の家の壁とはいえ爆破してるワケじゃない?」
「ええ」
「だが俺は悪いコトはしてねぇ。家を損壊させるっつーのは悪いコトかもしれねえが、もっとあくどいコトやってるヤツしか狙ってねぇしな」
「でも兵士に保護されたら、害魔認定をされなかったとしても独断での行動が無理になるわ」
「俺がやってんのは、兵士じゃ踏み込みきれねぇヤツとかの罪を暴露させる、っつーのだからよ。兵士に保護されんのは都合が悪ぃんだ」
「…………つまり、義賊的な感じに悪に鉄槌下しちゃうぞ、みたいな」
「そうそう、そういう感じ」
「まあ俺の場合鉄槌つーか爆破だけどな」
ハァーーーー、と腹の底から深い深い溜め息を吐いて頭を押さえる。
「……で、結局ナンでわたくしに暴露したんですのよ、もう……」
「だってジョゼ相手じゃ絶対ソッコでバレるじゃない」
「親族に兵士居るらしいし、他の兵士とも仲良いらしいしな」
「だからもう、私とおんなじように巻き込まれたら踊る阿呆に見る阿呆同じ阿呆なら踊らにゃ損損、みたいなノリでいっそ楽しむ方向に突っ切るジョゼだし、巻き込んだ方が早いかなって思ったのよね」
「確かにそんなノリであるコトは否定しませんけれど、アナタの場合は自分から巻き込まれに行ってて、わたくしの場合は周囲がやたら巻き込んでくるせいで逃げられないって感じの差はありますのよ」
逃げようとしたのに回り込まれた、というか周囲を固められてて逃げられない、みたいな感じだ。
無理に抵抗しても面倒なのでソッコで諦めていっそ楽しむ方向性に転換するのは事実だが。
「……まあ、うん、要するにわたくしに暴露するコトで、わたくしに黙っててってお願いしてるワケですのね」
「そういうコト」
「ついでにお前かなり目が良くて透視出来るらしいから、アウトなヤツの家とか教えてくんね?」
「黙秘ならともかく、そういう積極的に関わるようなのはお断りですわ。自由に行動可能な筆ペンな分隠密行動は得意なのでしょう?なら自力でやんなさいな」
「ちぇー」
「ハァ……」
正直言って、悪じゃないのが一番面倒だ。
ボムブロッシュペンが悪であればソッコでへし折るくらいはしていただろうが、スイッチが入らないコトからすると悪では無い。
……まあ、誰かの悪行を公表してる、って感じですものね。
もし爆破の際に盗品やら証拠やらを一部手数料みたいな感じで盗んでいるようならアウトだっただろうが、そういうコトは一切していないらしい。
だからこそ、大人しく口封じされるしかないワケだが。
……悪じゃない相手だと、わたくし強く出れませんのよねー……。
「まあ、自力で調べるっつーのは今までやってたから良いか。学園っつー沢山のヒトが居る空間なら情報集めも進みそうだし、カシルダの髪のお陰で爆破のタイミングも安心だし」
「私の髪があれば、ソッコで湿気があるかないかとかわかるものね」
「おう。イラストとはいえ湿気で威力変わるからな。大きく爆弾描けばその分威力もデカくなるとはいえ、二次被害が出かねねぇ。そう考えるとやっぱ晴れの日に爆破すんのが一番だ」
どういう会話だ。
せめて自分が立ち去ってからそういう会話をしてほしい。
・
コレはその後の話になるが、ルームメイトとか大丈夫なのか、ソコからバレたりしないのかと少し心配していたが、カシルダのルームメイトはシェスティンだったので安心した。
彼女はナニかあってもわっしょいで因果歪めて回避出来るし、多少のコトは気にしないタイプなので大丈夫だろう。
万が一呪いのタロットがちょっかいを掛けたとしても、そのタイミングで必ずシェスティンがわっしょいするので問題は無い。
「……ちょっと、カシルダにボムブロッシュペン」
「ナニかしら?」
「ナンか用か?あ、もしかして協力してくれるとかか?ドコの情報仕入れた?」
「ヒトを情報屋扱いしないでくださいな」
情報屋は武器屋の店主だ。
「今日王都を歩いてたら、友人の兵士と会ったんですのよ。で、ちょっと世間話してたらあくどい愚か者の屋敷とかが爆破されるコトが多いとかナンとかで……」
「あらまあ、酷いコトをするヒトが居るものねぇ」
「そうだなあ、酷ぇヤツだ。ヒトか魔物かわかんねぇが」
「アナタさっきの発言思い出しなさいな」
「さっきの発言に証拠はねぇから問題ねぇよ。問い質されたってお買い得なセールやってる店についての話だっつって乗り切ってやる」
「乗り切るって時点で墓穴掘ってる気がしますわねー」
ボムブロッシュペンだと考えると、墓穴というより自爆の方が適切だろうか。
「でも、下手したらこのまま害魔認定一歩手前になりますわよ?ボムブロッシュペンという種族はセーフでも、アナタという個体が害魔認定をされる可能性が」
「ナンのコトだ?俺は一昨日の夜、ずぅっとカシルダと一緒に部屋で勉強してたっつーアリバイがあるから、俺に言われても困るぜ、そんなの。
なにせ俺はカシルダの専属ペンだからずぅーっとずぅーっと一緒だったんだ。爆破系だからっつって冤罪被せられんのはなあ」
「とりあえず今の発言に対しては、わたくし一昨日の夜に犯行があったとか言ってないし、別にアリバイ聞いてませんのよ、って返しますわ」
「……リテイク良いか?」
「疑う以前に知ってるから別にそんなんしなくても良いと思いますわよ。ただ、実際マジでアリバイ聞かれた時にバレそうだなとは思いましたけれど」
もっとも兵士が対処し辛いタイプの悪人をしょっ引く理由を作ってくれているからか、兵士としては周辺に巻き込まれないようにという注意をするくらいなのだが。
見ている限り、積極的に正体を暴こうとはしていないようだった。
「ソレはソレで面白そうだけど、もうちょっと気を付けた方が良いわね」
カシルダはクスクス笑いながらそう言う。
「私もつい言っちゃいそうだし、よく自分から巻き込まれに行くせいで兵士には警戒されてるから、そういうの気にしなくっちゃいけないわ」
「警戒ってか、アレ心配だと思いますわよ」
「さて、どういうのが違和感の無い言い訳になるか……ジョゼフィーヌ、お前も考えるの手伝ってくんね?」
「だから黙秘とかならともかく、そういうのに協力はしないって言ってるでしょう。ルームメイトにでも頼みなさいな」
「シェスティンは大体わっしょいでどうにかなるとしか案出してくれないから無理よ」
「呪いのタロットのヤツも、アレで正々堂々派だしな」
確かにシェスティンと呪いのタロットは助言を求めるのに向かないタイプではある。
しかしソレはソレとして、同室と仲良くやれているのは良いコトだ。
まあその内さっきみたいにポロッと失言してやってるコトがバレそうな気もするので、爆破の必要が無くなるよう早めに王都の悪が滅びてくれると助かるのだが。
カシルダ
楽しいコトが好きなので、積極的に物事を楽しく受け取りエンジョイしてる。
そのせいなのか騒ぎの中心部にしれっと居るコトが多い。
ボムブロッシュペン
爆弾マークを描くコトでマジな爆破を起こせる魔物だが、湿気の影響は普通に受けるのが難点。
悪人の家の壁をボーンして証拠ゴロゴロさせてるのは使命感では無く趣味みたいなモノ。