石積み少女と三途の川の船頭
彼女の話をしよう。
ルームメイトで、極東からの留学生で、一度死に掛けたコトがある。
これは、そんな彼女の物語。
・
ルームメイトであるヨミには、どこか見覚えのある魔力を含んだ石を手の上で転がすクセがある。
「前から思ってたんですけれど、その石どうしたんですの?」
「どうした、とは?」
「んー」
……石に含まれてる魔力の質が気になるんですのよねー。
「ドコで手に入れたのか、ですわね」
「ああ、そういう意味の」
ヨミはクスリと微笑み、紺色の髪を揺らした。
「コレは昔、ずっと昔、入学する前に持っていたモノなんですよ」
「持っていた?拾ったのではなく?」
「うろ覚えなんです」
「…………もしかして、死に掛けたり?」
「どうしてわかったんですか!?」
というコトは、マジで死に掛けたコトがあるのか。
ならばその石に含まれた魔力の質、そしてうろ覚えなのも納得だ。
「その石に含まれてる魔力、あの世のモノですわ」
「あの世?」
「んーと、生き物が生きてるこの世界はこの世。死んだら行くのがあの世ですわね」
「地獄とか天国とかですか?」
「あー、まあ、広義的にはそうですわ。ただあの世までなら臨死体験とかでも行くけれど地獄と天国はあの世に逝った人間が受ける裁判での結果によりうーん」
「き、聞いておいてナンですが、そんなに詳しく説明しようとしなくて大丈夫ですよ」
「助かりますわ」
死後の世界に関しては説明が難しいので困る。
逝けばすぐにわかるが、逝ったら終わりなのもまた困る部分だ。
……まあわたくしの場合は、あの世に詳しいヒトや魔物から教えてもらった知識くらいしかありませんしね。
自分の場合はあの世への案内役では無く、罪人をあの世へボッシュートするのが役目なワケだし。
いやまあ実際ソレを役目にしているのは父であって、自分はあくまでも混血だから働く義務は無いのだが。
……義務は無くても、遺伝子に本能として刻まれてるっていうのはありますけれど、ね……。
イメージホワイトなのに実情ブラックとかどうなってるんだろう天界。
「……まあとにかく、その石はあの世の石ですわ。極東風に言うなら三途の川、でしたっけ。多分死に掛けた時にその辺りから石持って帰ってきちゃったんでしょうね」
「成る程、三途の川……」
ふむふむ、とヨミは納得したように頷いた。
「確かに親より先に死んだ子供は親不孝者として賽の河原で石積みをしますからね」
「ああ、積んだそばから獄卒が崩すという」
「ソレです。……そういえば、うっすらとそんな記憶があるような」
「獄卒に石積みタワーを崩される記憶があるんですの?」
「いえ、流石に臨死体験である以上、向こう岸には渡ってないと思うので……エッ、どうなんでしょう!?賽の河原って三途の川の両岸で行われてるんでしょうか!?」
「わたくし罪人をあの世に叩き込む側であってあの世担当ではないのでその辺はあまり……」
異世界の自分は分類的には前世っぽいので、一度死んでいる。
なので一応あの世に逝ったハズなのだが、その辺りの記憶は無いようなのでナンともかんとも。
……まあ普通、転生する時に記憶はリセットされるモノですしねえ。
前世分の記憶があるだけボーナスステージだ。
役立っているかはいまいちわからないが、まあ壁の薄いお隣さんみたいな感じなので寂しくないのは良いコトだろう。
「でも石積みしてる記憶があるなら一回向こう岸に渡ったのかもしれませんわね。渡ると基本的にアウト判定で、あの世の食べ物食ってもアウト判定だったりするハズですけれど」
「どうだったんでしょう……」
「うっすら思い出した記憶はどんなんですの?」
「えーと、ナンか……男のヒト?が岩に腰掛けてて、私は川の向こう側に行く列に並んでて、でも、その、私その時子供だったので……」
「飽きて列から出たんですのね?」
「どうしてわかるんですか!?」
「なんとなく」
具体的に言うなら、主に言い辛そうな表情辺りから推測しただけだ。
「ただその、列から出た時に、その男のヒトと話した、ような」
「獄卒でしょうか」
「さあ……熱くて寒い河原だったのは覚えてるので、あの世ではあったと……あ、そのヒト船頭さんみたいな恰好してました!」
「というコトは、向こう岸までの渡し船の船頭、って可能性がありますわね」
「そう、確か、そのヒトが話し相手になってくれたんです」
あの世のモノだろう石を両手で強く握りながら、ヨミは思い出すように言う。
「……向こう岸。向こう岸を指差して、お前はまだ死んでいないが、もし死んだらお前もああやって石を積むんだぜって、向こう岸で泣きながら石を積んでる子達を指差してました」
「ってコトは、渡ってませんわね」
「ハイ、確か、船には乗りませんでした。ソレで、そう、石積みをしないと駄目なのかって思って、ソコで石を積む練習を、そう、練習してたんでした!」
「ソコでじゃあ練習しようってなるメンタル中々ですわよね」
普通の子なら泣くと思うのだが、現代の価値観というモノだろうか。
「……あー、つまりその石積みの時に息を吹き返したんですのね。だからうっかり石持ってきちゃったとか?」
「確かに、意識覚醒した時に知らない内にこの石を持ってました。コレ、あの世から戻ってきた証拠だったんですね」
今までの謎が解明されて腑に落ちたように、ヨミはすっきりした顔で頷いた。
しかしこちらとしてはちょっぴり懸念があるのも事実なので、ヨミが持っている石を指差す。
「でもアナタ、ソレ大丈夫ですの?」
「エ、ナニか呪いみたいなのあります?」
……そう言いながらどうして握り締めてんですの?
怯えたように言いながら、その石を大事そうに握り締めているという矛盾。
たった今その石を大丈夫かと問い、ヨミ自身が呪いでもあるかと怯えたハズなのに何故大事そうに抱えるのか。
……今までずっとその石を大事にしてたってコトは、大事なモノなのかもしれませんわね。
まだ思い出せていない思い出があるのかもしれない。
だがまあソレはソレとして、言うだけのコトは言っておく。
「呪いはありませんけれど、極東風に言うとヨモツヘグイみたいなコトが発生しかねませんわ」
「……口にはしてませんよ?」
「そうですけれど、ヨモツヘグイというのは要するにあの世の食事を食べるコトであの世の住人になる……言うなれば人魚がヒトになった場合、呼吸的な問題で海には戻れないみたいなアレですわね」
「ああ、人魚姫」
「そう」
「確かにアレは体の作り自体を変化させるモノですよね。ソレがヨモツヘグイだとすると、あの世でのみ生きれる体になるようなモノで、この世に適応していない体になる、と?」
「そうそう」
理解が早くてとても助かる。
「この場合は食べていないから体は作り変えられていない。ただしその石を持っているというコトはあの世との縁が出来ている状態でもありますわ」
「……この石が扉になって、最悪私の魂があの世へ吸い込まれるかもしれない、というコトでしょうか」
「そう。その石が縁そのものですものね」
……ソレに、あり得ないコトじゃないんですのよね。
ヨミは魔力の扱いが下手であり、魔法があまり上手に扱えない。
そして冷え性なのか手足がやたら痺れやすい。
……けれど、もしソレが石による縁からあの世に繋がっている、つまりあの世との縁が切れていないせいで常に幽体離脱しかかっているようなものと考えると……。
蘇生の神のお陰で生きているが、根本的には死体のままであるリューディアを思い出す。
彼女は死体だからこそ感覚が大分死んでおり、動きが鈍い。
……肉体が死んでるってだけで魂と肉体にブレがあるワケじゃないから魔法は問題ありませんけれど……。
リューディアの状態などを思い出しながら考えると、ヨミは完全に生き返ったワケではない、のかもしれない。
石を持ってきてしまったせいであの世とまだ繋がっていて、常に幽体離脱状態で、だからこそ魂と肉体にブレがあって魔力操作が上手くいかないのかもしれないし、血流が手足まで行き届かない。
こうして改めて色々と考えてみると、もっと早くに気付くべきだった。
……魂と肉体にブレがあるのは気付いてましたけれど、ワリとそういう生徒多いからまさかコレが幽体離脱しかけの状態だとは思いませんでしたわー!
多種多様な生徒が集まっている弊害と言えるので、つまりわたくし悪くありませんの。
「……でも」
ヨミは石を大事そうに抱えながら、言う。
「私、この石は手放したくないです」
「……大事な思い出でもあるんですの?」
「特に無い、というか、私もついさっき思い出したばかりなんですが……夢にずっと、船頭さんが出てきてたんです」
「ふむ」
「だからナンというか、コレを持っていたら会えるような気がしていて……」
……会えるような気というか、恐らくアレがその船頭だと思うので、ある意味既に会えていると思うのだが。
「まあソレ持ってたらあの世逝きかねないからそりゃ会えそうな気もしますわね」
「エッ、コレそういうコトなんですか!?」
「んー……まあ、今んトコは大丈夫そうだから、多分大丈夫だと思いますわ。多分」
「多分二回言いましたね……」
「アハ」
確証が無いコトを確定的に言うのは避けたいのだから仕方ない。
・
夜、月が明るい深夜の時間。
というか月の女神がレオンスのパートナーになってからずっと明るい月が出ているような気がするが、まあ良い加護というコトで。
……加護って良いモノもあれば悪いモノもありますのよね。
もっとも加護である以上は神からの贈り物な為、良かろうが悪かろうが裏目に出ようが贈った当神にしか解除不可能というシロモノだが。
呪いと違って当神にしか解除不可能なのがアレだが、まあ基本的には良い効果なので良いというコトにしておこう。
「……ああクソ、やっぱり固く握りしめてやがる、ったく」
さておき、そんな深夜に聞こえた声にパチリを目を開ける。
開けなくても視えていたが、ヨミのベッドのすぐ横に、骸骨が立っていた。
……毎晩毎晩、やっかましいんですのよねー。
気遣っているのか小声ではあるが、毎晩毎晩そう出向かれては敵わない。
気配を消していたりはしないからこそ、その気配で意識が覚醒してしまうのだから。
……事情ありそうですし、あの世の魔力を纏っているとはいえ害魔じゃ無さそうだったから今まではソッコで見なかったコトにして寝直してましたけれど。
だが、毎晩毎晩、彼はヨミが寝ている時でも手放さないようにしている石を取ろうとしている。
そしてそんな骸骨の彼の格好は、極東の船頭らしい格好だ。
「持ってちゃ危ねぇんだから、ク、ホントに離さねぇなオメェ……!」
「ナニをですの?」
「石だよ石!この嬢ちゃんはうっかり生き返る時にこっちのモン持って帰ってきちまったせいで、ちょっとの気絶とかでも魂が肉体から離れる危険性が…………ア?」
「ハァイ」
振り返ってこちらを見た骸骨の船頭は、手を振っているこちらを認識した瞬間に一瞬ビクンと跳ねた。
「……いつから起きて、っつか見てやがった」
「今年に入ってから」
「結構長い期間見られてただと!?つかそんならもっと早くに声掛けろや!」
「いや、声掛けたらアウト系の魔物も居るからどうしようかと」
骸骨の船頭は普通に大声を出しているが、防音はしっかりしているので大丈夫だろう。
ヨミに関しては、骸骨に石を取られそうになっても石を握り締めたまま爆睡出来るくらいには起きないので大丈夫だ。
「ただまあ、今日ちょっくら話をして、昔死に掛けた時にあの世で船頭にお世話になったという話を聞いて、もしかして、と思いまして」
のそのそと横になっている体勢から起き上がり、ベッドに腰掛ける。
「もしかしてアナタ、その船頭だったりしますの?」
「……おう」
骸骨の船頭は、そのしゃれこうべをカタンと傾けて頷いた。
「…………この嬢ちゃんは、あの世でちょっと話したんだ」
「らしいですわね」
「だから、っつーか、まあ、そもそもガキが早死にすんのは見たかねえからな。
無事生き返ってくれたのは良かったが、俺の説明で石積みの練習してたせいでこの嬢ちゃんは石を持って帰ってきちまった」
「やっぱアウトなんですのね、ソレ」
「別に禁止されてるワケじゃねえが、あの世との繋がりになっちまうからな」
室内にあるソファに腰掛けた骸骨の船頭は、ハァ、と溜め息を吐いた。
その溜め息と共に曲がった背中は、まるでいまいち成果が出ない中年サラリーマンで家にも居場所が無い父親のよう。
……どういう例えなのかいまいちわかりませんわねー、異世界のわたくしの例えは。
「まあ、ちょっと話したっつー情があるからよ。こうして毎晩石を回収しようとしてたんだが……まったく離しやがらねえ!」
「どうして夜オンリーなんですの?」
「ア?」
「いえ、意識ある時に交渉するなりすりゃ良いじゃありませんの、と。もしかして夜しか活動無理なタイプだったり?」
そういうタイプの魔物は一定数居るものだ。
だからこそ極東では太陽の女神が引きこもりになった時に魔物がフィーバーしたんだろうし。
……まあ、アレは単純に太陽という陽の気が減ったせいでバランスが崩れ、相対的に陰の気が優勢になった結果でしょうけれどね。
「別に夜じゃなくても活動は可能だ。有給取ってるしな」
「有給」
「獄卒なんだよ、俺は。でもこの嬢ちゃんが心配だったから、有給取ってこっちに来たんだ。石を取り返してこの子とあの世との関わりを切らねえと、ってな」
「有給、あるんですのねえ……地獄って」
ちなみに天使に有給は無い。
基本的に神の部下である以前に神によって作られた神の所有物に近いので、壊れるまで働くのが天使の一生だ。
……ええ、お父様自身がそう言ってましたものね。
そして天使は基本的に仕事を見つけたらやらずにはいられない性質でもある為、父のようにパートナーである母と普通の生活をしていても休みでは無い。
まあ要するに戦闘系天使である以上、悪に対するサーチ即デストロイなアレが発動する為、休みを取っても休みにならない、というようなコトなのだが。
……地獄の方が福利厚生しっかりしてるっぽいの、どうなってんでしょうね。
いやまあ地獄の獄卒はつまり看守みたいな存在なので、公務員としてそういうのはしっかりしているのだろう。
余談だが、天界と天国は違う為天国は普通に素敵なトコロ、らしい。
……確か天界が神と天使の世界で、天国が善良な人間の魂が到達する場所、でしたっけ。
色んな国の感覚があったり所説ありだったりするので、天使である父から聞いてもあまり理解は出来ていない。
父は父でバトルメインの仕事だったからそういう知識面には疎いらしいし。
「……というか有給取ってまで石取り戻そうとしてんですのね」
「じゃねえと気絶とかした瞬間にフッとなるかもしれねぇだろ。なるっつーか、亡くなるっつーか」
「なら尚のコト起きてる時に顔合わせて事情説明すりゃ良いじゃないですの」
まあ本人は石をとても大事にしてるっぽいので頷く可能性は低いが、会いたい相手張本魔だと考えるとギリギリワンチャンあるっちゃある。
「……こんな見た目じゃ、怯えさせるかもしんねぇだろうが。おっさんがガキ泣かすとか完全にアウトだろ」
「魔物の年齢とかあんま気にするこっちゃないと思いますけれど……」
犬が三歳だろうが五歳だろうが、健康ならソレで良いじゃんというあの感じ。
正直魔物の場合、寿命が無かったり見た目変わらなかったりするのも多いので、年齢気にするような魔物は少数派だ。
「ソレに見た目って、アナタあの世でヨミと顔合わせてたんじゃないんですの?」
「あん時はあの世だったから良かったんだよ!あの世なら俺の顔は肉付けされてっからな!」
「肉付け」
「俺は元々生者だったのが死後獄卒になったタイプなんだ。船の扱いが得意だからってよ」
話を聞けば聞く程地獄がホワイト。
イメージは赤黒くて悲鳴が常に響いてる感じなのに。
「だからあの世だと、俺は生前通りの人間らしい顔になってる。ただしこっち来てる俺はあくまで死人で、ソコをルール違反するコトは出来ねぇ」
「死者なのに気にすんですのねえ」
「死者だからこそ気にしてんだよ。死者がルール破ったら一気にこの世が地獄になるだろうが」
「まあ確かに」
アンデッド系やゴースト系が好き勝手やったら戦争が勃発しそうだ。
「要するに、アナタは死人だからこその白骨死体になっている、と」
「ソコ骸骨って言ってくれねぇか。白骨死体って言われるとなんとなくイヤだ」
「骨は一致してますわよ」
「感覚だよ感覚!ったく今どきの若いヤツってのは価値観がおかしくていけねぇや」
「うーんぐうの音も出ない正論ですわね」
実際殆どが頭イカれた狂人なので否定出来ない。
「とにかく、そういうこった。だから俺はこうして毎晩毎晩アタックをしてた、ってな」
「でもヨミも現代人ですから、アナタのツラがしゃれこうべだった程度で動揺したりしませんわよ、多分。ナリと声が同じなら同一人物だってわかるんじゃありませんの?多分」
「めちゃくちゃ多分押してくる上に口悪ぃなオメェ」
「アナタに言われたくありませんわ、ソレ」
まあ否定出来ないレベルで口が悪いのは自他共に認めるレベルで自覚があるが。
つまりめちゃくちゃ自覚ある。
・
コレはその後の話になるが、翌日骸骨の船頭は起きているヨミの前に現れた。
当然ながら、同級生達やそのパートナーで慣れがある分、ヨミは骸骨姿の船頭に一切動揺していなかったが。
……まあ、体の一部無かったり多かったり明らか人間っぽくなかったりする同級生とか居ると考えると、骸骨ってだけでイージーですわよね。
同級生のセザールとか頭部以外の上半身が骨だったりするワケなので、ただの骸骨というのはかなりイージー。
なので話し合いは滞りなく進んだのだが、ヨミは石の返却を拒絶した。
「わ、私、思い出したんです!あの時、臨死体験してた時、船頭さんは帰れるかどうか不安だった私の頭を撫でてくれて、運が良ければ帰れるさって言ってくれたって!
だから、えっと、渡したら一生、具体的には死ぬまで会えない可能性を考えると返却イヤですごめんなさい!」
まあナンか、そんな感じの事情らしい。
実際渡したら有給終了してあの世の船頭として仕事再開するだろうから、引き留めるつもりの行動としては正解だと思う。
「オメェはよ、変なトコで抜けてるっつーかナンつーか……普通、こんなおっさんが、骸骨とはいえおっさんが、つーかおっさんな骸骨がガキの頃からストーカーして寝顔見ながら持ち物盗もうとしてたらアウトだろうがよ」
「アウトじゃないです」
「普通はアウトなんだぜ嬢ちゃん。そして嫌悪感も感じるのが普通だ」
「普通じゃなくて結構です!」
「あーもう……あのな、俺はそういうのを罰する獄卒なんだっつーのに。いやまあ俺ただの船頭だけどよ。
でもだからこそ心配になるっつーか、ガキの頃から知ってるっつーか見守ってたっつーかストーキングしてたせいで放っとけねぇっつーか……」
「つまり?」
「………………」
あの時、睡眠不足だった為コーヒーを飲みながら居合わせていた自分の目には、骸骨の船頭が赤面したように視えた。
いや肉付け用の肉はあの世にあるだろうから白い骨でしかないのだが、ああ今絶対赤面してるなという感じだった。
「つまり、俺がオメェのパートナーになってやるってコトだよ!言わせんな!
言っとくがクーリングオフは今の内だけだからな!?今石返さねえとホントに俺がパートナーの座奪うからな!?」
「大歓迎です!」
そんなツンデレチックな言葉を聞いた瞬間、ヨミはとても嬉しそうに抱き着いていた。
対照的に部屋の隅で存在感を消していた自分は、砂糖を入れていないハズのコーヒーなのに甘く感じるくらいの糖度に遠い目をしていた。
……そしてまあ、船頭は船頭で有給が五百年分くらいあるからって、数十年分使うの決定しますし……。
まあ石の返却が無かったとはいえ、三途の川の船頭、つまりあの世の存在がパートナーになったコトで、石によるあの世の縁は船頭との縁に変化した。
恐らく、より近い位置にあるあの世の気配に縁が繋がったのだろう。
……そのお陰で、ヨミが幽体離脱しかけてるみたいな状態が解消されたのは、良かったですわ。
あの世に繋がっているのではなく、パートナーとの繋がりに変化した。
その為あの世との縁は普通にパートナーとの縁になり、あの世との繋がりが切れたのだ。
最近は手足が痺れるという状態も改善されてきたらしく、ルームメイト兼友人としてなによりである。
ヨミ
名前は漢字で書くと夜見。
臨死体験をした際にあの世の石を持ってきてしまった為、常に幽体離脱しかかっているような状態になっていた。
三途の川の船頭
元は人間な亡者であり、あの世の獄卒。
常識がある頃の人類なので石を持って行ってしまった子供を心配して有給を取り、石を手放させようとするもやたらしっかりと握り込まれていたので十年以上連日連敗してた。