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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
五年生
164/300

噂の占い師とカメレオンテント



 彼女の話をしよう。

 王都で噂の占い師で、伝説のパーティの紅一点で、時間という概念の外側に居る。

 これは、そんな彼女の物語。





 王都の本屋で新刊の予約をした帰り、声を掛けられた。



「もし、ソコの方。ヒトと天使の間の子」


「エ?」


「良ければ占いますよ」



 そう言うのは、普段はナニも無いハズの路地裏への道にいつの間にか設置されていたテントの中、青紫色の髪をした女性だった。

 テントの奥で、彼女が頬のシワを深めてニコリと微笑んだのが()える。



「……もしかして、噂の占い師ですの?運命の相手を()てくれる、という」


「さあ、どうでしょう」



 子供のような声で、否、先程まで老婆だったハズなのに今は自分よりずっと幼い少女の姿で、占い師はコロコロと笑った。



「私が()るのは過去と現在と未来のみ。ソレをなぞり、いずれ出会うであるその相手の情報を少しだけ伝える。私が()て、伝えるのはそれだけです」



 そう言う占い師の目には、魔法陣が浮かんでいた。

 どうやら魔眼持ちらしい。



「もしソレを噂されているのであれば、私がその、噂の占い師かもしれませんね」


「や、うん、多分確定だと思いますわ……」



 ……だってさっきからこの占い師の姿、コロコロ変わってますもの。


 同一人物だというコトはわかる。

 なにせ顔の特徴や髪の色などは変わっていないし、自分の目で()れば別人かどうかなんてすぐに見抜けるのだから。


 ……ただ、年齢が違いますわ。


 老婆だったハズが、ふとした瞬間には幼女に。

 かと思えば今度は妙齢の美女になっていて、しかし次に見た時は同い年くらいの少女へと変化している。


 ……確か、噂の占い師は女であるという情報だけで、年齢に関しては老婆だったような幼女だったような美女だったような、という曖昧な情報ばかりでしたわね。


 薄々そうなのではないかと思っていたが、思っていた通り、どうやら噂の彼女は見た目年齢が可変なタイプらしい。

 だが()る限り混血では無いようなので、体質なんだろうか。


 ……混血だと魔物の細胞が混ざってるから、ちょっと違うんですのよね。



「……あの、もし良ければ占ってもらってもよろしくて?」


「ええ、モチロン。声を掛けたのは私からですし」



 そう言い、老婆の姿になった占い師はクスクスと微笑む。



「さあ、中へどうぞ。話が長くなるかもしれませんから、椅子にでも座って話しましょう」



 片手で足りるような幼い姿になった占い師がそう言うと同時に、テントの扉部分が開かれた。

 誘われるようにして中に入り、占いの館感が強いテントの中、占い師の真正面に置かれている椅子に座る。



「さて、それではナニから話しましょうか……」



 そう言って魔法陣が浮かぶ目でこちらをじっと見た壮年姿の占い師は、あら、と笑みを深くした。



「成る程、運命には既に出会っているんですね」


「エ」


「けれどソレはずっと昔の話。アナタの記憶もまだ無い頃でしょうね、コレは」


「……まさかとは思いますけれど、わたくしの前世とかじゃありませんわよね?」


「違いますよ」



 上級生くらいの年頃になった占い師は笑顔で首を横に振る。



「確かにアナタは異世界で生きた記憶があるようですが、アナタとその前世は完全に別物のような扱いになっています。ならば過去を引きずったりはしません」


「ああ、確かに……」



 異世界の自分、という表現をするコトが多く、前世の自分、とはあまり思わない。

 内面の悪魔と天使の如く、ナニかを考えている時に主張してくるコトも多いと考えると、いまいち同化していないのだろう。



「アナタの運命は、アナタが生まれて間もない頃に出会っている。その相手は、アナタにその目をくれた存在ですね」


「この目、って……確かにこの視力やらはどっかの誰かからの提供だとは聞いてますけれど」


「その結果、運命としての(えにし)が強くなったのですよ。意識をすればする程、縁というのは強く、そして太くなるモノですから」



 そう言い、老婆の姿の占い師はシワだらけの手で、机の上にある箱から糸を取り出した。



「コレが縁。()えた過去からすると、相手は最初、本当にただの加護としてアナタにその目を与えたつもりのようでした」



 けれど、と若い女性の姿になった占い師はソコに糸を絡め、重ねていく。



「その加護はアナタとの相性が良かったのでしょう。アナタがその目を使う度、使いこなす度に、その目という縁は強くなり、太くなる」



 占い師の幼い手の中にある糸は、最初は一本の糸だったハズが、あっという間に太めの糸になっていた。



「……ふふ、お互いに自覚無しに、ソコまでの太い縁になって、その上運命にまでなっているんですから。中々見ない運命ですね」



 そう言い、中年の姿になった占い師は笑った。



「……つまり、わたくしは運命と既に出会っている、と?」


「ええ。ただしアナタの記憶にはありません。無いというか、あるハズが無いのですよ。誰も赤ん坊の頃を覚えてはいないでしょう?」



 ……ソレってつまり、わたくしが運命の相手と出会ってこの視力貰ったのは赤ん坊の頃ってコトになると思うんですけれど……。


 まあ今まで得た情報からするとこの目を提供してくれたのは神系らしいし、神は結構子供好きなトコがある。

 そう考えると、赤ん坊に加護を与えるというのは不思議でも無いだろう。


 ……普通は七つくらいになると加護が無くなったりしますけれどね。


 もしかすると七つになる前に異世界の自分の記憶やら知識やらがINし、この視力を意識するようになった結果定着した、みたいなコトだろうか。

 子供特有のゴースト系が()えるというアレを、否定せず伸ばすと大人になっても()えるまま的なアレ。



「でも運命ってコトは、その内出会うコトが出来る……んですのよね?」


「ええ」


「わたくし出来ればパートナー早めに欲しいから、その相手が誰かを」


「ソレは教えられません。人生のネタバレ程、未来という未知への興奮を冷ますモノはありませんからね」



 ニッコリとした笑顔でバッサリと断られた。



「知っているかもしれませんが、私はコレでも長く、とても長く生きている。だからこそ、未来に希望が持てるアナタ達若人には、知らないままの未知の未来を歩んで欲しいのですよ」


「……でも、未来はチラ見せするんですのね?」


「チラ見せくらいの情報があると、その未来へのわくわくが強くなりますから」



 確かにソレは一理ある。

 異世界の自分もCMによるチラ見せでゲームを買うコトが多かったそうなので、ヒトとはそういうモノなのだろう。


 ……まあ、異世界のわたくしはゲームあんまり上手じゃなかったみたいですけれど。


 殆どが中盤入った辺りで進まなくなって止まっているらしい。

 まあ結局来世と言える自分が存在しているコトを考えると、クリアしてようがしてなかろうが、一回死んでるコトに変わりないのだが。



「まあ、そう遠い未来ではありませんよ。私からすれば」



 このヒトついさっき凄い長生きしていると言ってはいなかっただろうか。

 とすると十年前後は余裕で掛かる可能性があるのでは。


 ……や、まあ、運命と出会えるというか、再会出来るっぽいなら良いってコトで納得しておきましょう。



「ですが、そうですね……コレでおしまいにするにはナンですから、ナニかついでに雑談でもしましょうか。パートナーについて、とか」


「パートナーについて?」


「現代ではどうも、パートナーについての常識が欠如しているようですから。

昔は魔物とパートナーになれる人間が少なかったから周知のコトでしたが、現代では当然のように魔物とパートナーになるからこそ、廃れてしまったようですね」


「廃れた常識って……ナンですの?」


「パートナーになれるのは、運命の相手である魔物とのみ、という部分です」



 初耳なその情報に、思わず目をパチクリと見開いてしまったのがわかった。

 興味津々だというこちらの気持ちがわかるのか、占い師は少女の見た目で、少女らしい笑みを浮かべる。



「今でこそパートナーとは恋人のようなモノと認識されていますが、本来は一生を共にするパートナー、という意味なのです。だからこそ運命の相手に出会うと「この相手こそがパートナーだ」となる」


「……もしかしてパートナーと別れたりがほぼ無いのって」


「パートナーにしたいと思う相手は運命の相手だから、ですね。だからもしパートナーと別れてバツが付いているヒトが居たら、ソレは運命の相手ではない魔物とパートナーになろうとしたからです」



 成る程、通りで数が多い学園でもレナーテ地学教師しかバツが付いていないワケだ。

 ドラゴンモールと出会う前は相手から迫られたからそのままパートナーになった、というコトが多かったそうなので、ソコにレナーテ地学教師からの好意は無い。


 ……つまり運命の相手では無かったからこそ、今現在長続きしているドラゴンモールに出会うまで、結局独り身になってたんですのね。


 ソレは要するに自分にも適用されるというコトではないだろうか。

 運命の相手とされる魔物以外とパートナーになろうとしたら、なれるかもしれない。

 だが確実にときめかないし長続きしないしバツが付く。


 ……うん、まあ、独り身辛いですけれど、運命の相手と出会うまではのんびり牛歩のつもりで居るのが良いかもしれませんわねー……。





 少し粘ってみたものの、結局運命の相手と出会うのはその内だろう、と言われて終わった。

 森の中で出会えるだろうとは言われたが、学園の裏手の森で出会えるのだろうか。


 ……もし出会えてるんならもう出会ってても良いくらい通ってますわよね。


 つまり学園の裏手の森では無い可能性、もしくはまだその運命の相手とされる魔物が来ていない可能性などがあるワケであり、要するにまだしばらく独り身が続くのだろう。

 まあよくよく思い返せば今の占い師は恐らくブラッドヴァンパイアを占ったのと同一人物の可能性があり、そう考えると彼レベルで長い年月待たされるワケでは無いっぽいだけ良いと思おう。


 ……エ、ですわよね?流石にソコまで待たされませんわよね?


 心配になってテントの方に振り向くと、先程まで確かにテントがあったハズのソコにはナニも無かった。

 ナニも無いように、()える。



「ふぅ、よっこいしょ、と。ではそろそろ移動しましょうか、カメレオンテント」


「そうじゃな!」



 だが、透明になっているのだろう()()()()で、テントに話しかけている少女姿の占い師が()えた。

 そしてソレに答える、テントの姿も。


 ……やっぱりカメレオンテント、でしたのね。


 カメレオンテントとは、カメレオン姿とテント姿を持つ魔物だ。

 生物系というよりは無機物系の分類に近く、老いるコトは無いが劣化はする、というようなタイプ。

 そしてカメレオンだからなのか、テント姿の際はそのテントの色を周囲と同調させ、透明になる。


 ……実際カメレオンは変色するだけで擬態ではありませんけれど、カメレオンテントの場合はカメレオンというよりテント要素の方が強い魔物ですしね。


 つまり魔物だからそういうモン、というコトだ。



「かつての仲間であるアヤツらが王都でめちゃくちゃ色々功績残しとるから見逃されとるだけで、儂らがやっとるコレ普通に許可取っとらんし」


「ですねえ。でも時々ああして、あの学園の生徒と会話をしたくなるんですよ。生徒の過去や現在や未来を()て、彼らはこの子達の為に頑張ってるんだなあ、って実感したり」


「年食ったのう、儂ら」


「ふふ、確かに。カメレオンテントですらもう何百年かの付き合いですからね。そう考えると、アダーモ達との付き合いなんてどのくらいになるやら」


「そう言いながらもお主、客である生徒達の人生を()て満足しとるせいでもう長いコトアヤツらに会っとらんじゃろ」


「そういえばそんな気も……最後に会ったのっていつでしたっけ」


「確か誕生の館作る時は会ったが、アレいつじゃったか……」


「彼ら、大きいコトをやる時はかつてのパーティの名残りなのか、私を呼んでくれますからね」


「ありゃ普通にお主の魔眼を頼りにしとるからじゃろ」


「モイセスだって過去視の魔眼持ちですよ?」


「モイセスはアレ、場所の過去視が得意じゃからなあ。お主はヒトの過去視を得意としとる分、()えるモンも色々違うと思うぞ」


「確かに」



 妙齢の姿になった占い師はクスクスと笑う。



「しかし本当に、最後に会ったのは……百年くらい前でしたっけね」


「かもしれんのう。ところで移動せんの?」


「ここ、カメレオンテントの腹の中ですから……テント状態からカメレオン姿に戻る度に、腹の中のモノがぐちゃぐちゃになるのが大変ですよね」


「あー、ソレはまあそうじゃな。体内に残っとるモン消化したりはせんが、カメレオン姿の儂が動くとその揺れのせいで中身がなあ……」


「またお片付け、ですね」


「もういっそのコトこの雰囲気出しの内装止めたらどうじゃ?コレ面倒じゃろ。飾りばっかで使いもせんから毎回設置すんの手間じゃし」


「わかってませんね、カメレオンテント。こういう雰囲気が大事なんですよ。確かに片付けが手間ですが」


「あの」



 そんな会話が()えては、放っておくにも放っておけない。



「良かったら片付け、手伝いますわよ?」


「エッ!?アッ、まさか儂のコト見えとる?」



 テントの天辺についているカメレオンの頭が、驚愕したようにそう口を動かした。



「ええ、まあ。()えてますので」


「ハー、儂コレでも長生きしとるから何度か見破られたコトはあるが、こんな若い子に見破られたの初めてでちょっぴりショックなんじゃが!じゃが!」


「……ふふ」



 驚いた表情だった占い師は、思わずというように笑ってその頬のシワを深くした。



「そうですね、そういえば()える目でしたものね。消えても()える……というか、私達の会話も()えてしまいましたか?」


「えーと……まあ、ちょっと」


「アナタの学園の学園長の知り合いだというコトも?」


「知り合いというか、かつての伝説的パーティ、アダーモ学園長とモイセス歴史教師とゲープハルトと紅一点、の紅一点……なんですのよね?」


「ふふ、正解です」



 占い師が少女のような見た目でそう微笑むと同時、再び扉が開かれたのが()えた。



「良ければ、もう一度どうぞ。お客さん、というか年下の女の子に片付けを手伝ってもらったりは流石にしませんけれど、ソコまで知られたなら、折角ですからもっとお話しをさせていただきたいです」


「……わたくしも、あの伝説のパーティの紅一点については謎が多いから、是非色々聞かせていただきたいですわ」


「お手柔らかに」



 そう言って占い師が微笑んだのを見て、自分は透明なテントの中へと足を踏み入れた。





 伝説のパーティの紅一点であり、唯一殆どの情報が無く、途中でパーティから離脱したという存在。

 そんな存在である噂の占い師、クラリッサは幼い少女の見た目で笑い、魔法陣が浮かんでいる魔眼でこちらをじっと見つめる。



「ジョゼフィーヌ、ですね。そう……先程は運命の相手に焦点を合わせていたから気付きませんでしたけれど、ゲープハルトとも交流が……」


「ええ、お世話になってますわ。……ちょっと、アレですけれど」



 そう言うと、熟女姿のクラリッサは同意だと言いたげに苦笑した。



()る限り、彼も相変わらずのようですね。当時から少々アレなトコロはありましたが……ああ、けれど」



 ふ、とクラリッサは頬を緩める。



「当時に比べ、随分と穏やかになったようで」


「エ、そうなんですの?」


「ええ。彼は昔は本当に……表面上は穏やかで優しげで距離が近く思えるのに、相手から距離を詰められるのが苦手なヒトでした」


「ソレは今もだと思いますけれど……」


「でも今は、そんな相手が居たら接触しないように、としているのですよね?当時は少しでも自分を知ろうと距離を詰めてくる存在が居たら、その場で首を刎ねてましたよ」


「ウッワ」



 ハートの女王か。



「だから私達も、同じパーティでありながらも彼のコトはあまり聞こうとしませんでしたね。

百年一緒に居ようが千年一緒に居ようが仲間だろうが、彼の想定よりも多めに距離を詰めようとすると、その瞬間敵と認識されますから」


「ソコ、パーティ仲間でも無理なんですのね」


「ええ。きっと、だからこそアダーモは彼を教員にはしなかったのでしょうね。まあ、私もですが」


「ソレってナニか理由あるんですの?」


「一緒に居たくないからですよ」



 クラリッサは、老人らしい穏やかで優しい笑みと共に、スパッとクールにそう言った。

 今ナンか、変なトコでシビアかつクールな判断を下すあの伝説パーティメンバーの一員だったんだな感が凄くよくわかった。



「……のうクラリッサ、お主今の言い方だとアヤツらが嫌いだから一緒に居たくないみたいに聞こえるぞ」


「んー、ソレもある意味合ってるような合ってないような……」


「いやいやいや、まったく合っとらんじゃろソレ。クラリッサがそうなった遠い原因じゃから、離れたんじゃろ?」


「そうなった……とは?」



 天井、見上げれば逆さにぶら下がっているカメレオンの頭部がある。

 ここはカメレオンテントの体内とも言える空間なので、どこからでも頭部を出現させるコトが出来るのだ。


 ……まあ、頭部だけらしいので会話しか出来ないんですけれど。



「そうなったというのはじゃな、まあ見ればわかるじゃろうがホレ、クラリッサはコロコロと見た目年齢変わるじゃろ?」


「変わりますわね」



 先程は少女だったのに老婆になり、かと思えばお姉さんになって幼女になっている。



「ソレなあ、あのパーティに所属しとった結果なんじゃよ」


「……えーと?」


「つまりは、女神の理不尽な嫉妬」


「アッ大体察しましたわ」



 女神というのは結構恋多き乙女なトコがあり、嫉妬深いトコロもある。

 そしてまったく無関係であってもその被害を被る時もあるのだ。


 ……で、アダーモ学園長といいモイセス歴史教師といいゲープハルトといい、イケメン揃いのパーティに所属している紅一点となると……。


 伝説のパーティなだけあって伝説的な所業を成し遂げまくっている中に居る紅一点。

 要するに少女漫画とかでイケメン生徒会の中に一人だけ居る女の子なヒロインに同性からめっちゃヘイト集まる、みたいなアレだ。


 ……まあ、ヴェアリアスレイス学園には生徒会ありませんけれど……。



「……つまり、イケメンに囲まれてるとかナニ様だ貴様、みたいな理不尽な嫉妬で、見た目が老いたり幼くなったり、と?」


「ソレは少し違うんじゃよなあ」


「正確には、時間という概念の外に捨てられた、という感じです」


「エッヤッバ」



 時間という概念の外とか、ヤバいヤツではないか。



「だから私の見た目は、常に変化するのですよ。時間が固定されていないせいで、私自身の正確な時間がわからない。だから私の見た目が安定しない」


「……時間の女神かナンかですの?相手」


「私の魔眼が過去視と現在視と未来視だったせいで、縁があったのかもしれないとは思っています」


「オゥ……」



 ……というコトは、まさかとは思いますけれど。



「長生きと言っていて、そして不老不死勢と同じ伝説のパーティに所属していた。けれどそのパーティの全盛期はずっとずっと昔ですわよね」


「ええ」


「ソレに所属してたってコトは、まさか」


「そう」



 クラリッサは、仕方がないというような苦笑いを浮かべた。



「私は普通に寿命を終えるハズだったのに、時間という概念の外に出されたせいで、寿命もナニも無くなったんです」


「……あー…………」



 天使である自分は女神や神に対して理不尽じゃないかと怒るようなシステムが搭載されていない為、こういう時は頭を抱えて唸るしか出来ない。



「だからなのか、今の私は時間の流れがあまりわかりません」


「ま、だからこそこうして王都でこっそり占い師とか名乗って生徒の様子とか見とるんじゃがの」


「学園の設立には私も協力しましたからね。彼らが生徒を大事にしているように、私からしても生徒は大事な子達です」


「……ありがたいコトですわ。学園もそうですが、誕生の館も。お陰でわたくしが生まれたようなモノですから」


「ふふふ」



 クラリッサはクスクスと笑う。



「……私達は普通じゃありませんでしたから。当時は魔眼も殆ど居なかったから、魔眼持ちとなると化け物見るみたいな目で見られたモノです」


「本にはそう書かれてましたけど、ホントなんですのね」


「当時は魔眼封じもありませんでしたからね。そして私達は魔眼持ちだったり不死身だったりと、研究したがりな存在からすれば良い実験台」


「じゃから、そういうのから子供が守られるように、って学園を作ったんじゃったなあ」


「ハイ。少なくともソレを当然として受け入れる学園があれば、ヒトの心にも多少の余裕が出来ますからね。……とはいえ、浸透するには大分時間が掛かりましたが」


「そうは言っても、現代を生きてるわたくしとしては助かってますわよ。

ちょっとアレな本能があるわたくしでも普通に接してくれる教師が居ますし、混血が当然のようにいるからこそ、魔眼も障害者も皆ヒトって感じですし」


「生徒がそう言ってくれると、作るのに協力して良かったと思いますね」



 そう言って微笑み、クラリッサはこちらに手を伸ばして頭を撫でる。

 その手は少女のようであり、老婆のようであり、そして大人のようだった。





 コレはその後の話になるが、噂の占い師であるクラリッサとそんな会話をしたとアダーモ学園長に報告した。



「へー、成る程なあ……見た目年齢変わるっつー辺りからそうなんじゃないかとは思ってたが、やっぱりクラリッサだったか」


「なのでとりあえず報告だけしとこうかと」


「おう、偉い偉い」



 笑みを浮かべたアダーモ学園長に、ワシワシと頭を撫で繰り回される。



「確実に廊下で偶然すれ違った結果ソレ思い出したからついでのように報告したんだろうけどな」


「アハ」



 バレてら。

 流石長年学園長をやってクセの強い教師や生徒を相手してきただけはある。



「とはいえクラリッサもさあ、俺らのコトが気になるなら普通に訪ねてくりゃ良いだろうに。設立メンバーだから部外者認定されずに普通に入れるし」


「だがアダーモ、私はクラリッサがパーティを抜けてからお前のパートナーになったので設立の際などに顔を合わせた程度しか知らんが、ソレでもわかるくらいにアイツは控えめな性格だったぞ」


「あー、ソレもそうだな」



 アダーモ学園長は、パートナーであるイモータルチョコレートの言葉に苦笑しながら頷いた。



「元々一歩引く性格だったっつーか、過去も現在も未来も()えちまう魔眼のせいで勝手に疎外感感じるタイプだったっつーか……ま、自分から来るような性格じゃねえな、アイツは」



 そう言って、アダーモ学園長は自分の頭をガシガシと掻く。



「とはいえ生徒の人生越しに俺ら()て満足すんなとは思う。たまには顔見せに来いっつーの。顔合わせてねえ期間もう三桁だぞ三桁」


「あらまあ」


「最後に会ったのは誕生の館ん時だからな。ったく、卒業生の方がまだ顔見るっつーの」


「ソレはアダーモが顔を見に行っているからだと思うが」


「うっせぇよ。ソレ言ったらクラリッサ見つけられない俺の無能さが浮き彫りになるから言うな。そうさ、俺はいつだって無能な男さ。だって俺全体的に平均だもん。寧ろ劣ってるもん」


「アダーモ学園長は劣ってませんわ。この狂人だらけの学園のトップ務めてるコトからすると、超ヤベェ狂人枠ですもの」


「そっかー……そっかーじゃねえなソレ!凄いイヤ!無能扱いもイヤだけど狂人扱いもヤダ!」


「とか言いつつ、アダーモはコミュ力が凄いぞ。常識がアレなモイセスと自分から距離詰めるのは良いけど向こうから詰められるのはイヤなゲープハルトと一歩引いたクラリッサだからな。

唯一まともに交渉やら聞き込みやらが出来る存在だ」


「あー、だから学園長に?」


「ああ。ヒトを気遣えるし心配出来る人間だからな。

他のヤツだと気遣いが出来なかったり、事実だけを見てるせいで「こうなるかもしれない」という仮定や想定がいまいち無かったりするから、色々学んでる最中の子供が通う学園のトップには最適なんだ」


「ったくー、褒めてもナンにも出ねぇぞー?」



 そう言うアダーモ学園長の顔は嬉しそうに緩んでいた。

 相変わらずいつまでも若々しいヒトだ。



「あ、でも全然旧友に顔見せに来ねえクラリッサへの腹いせ兼ねてエメラルドにアレ教えてやろうかな」


「ナニをですの?」


「馴れ初め、ってヤツ。確かエメラルド恋バナ好きだったろ。だからクラリッサとカメレオンテントの馴れ初め教えてやろうかと思って」


「ああ、一種の不死身というコトで研究者とかの過激タイプに追われていて、時間の外に居るだけだから一撃で死ぬ系やられたら普通に死ぬし痛覚あるしというコトでクラリッサが必死で逃げていたら、カメレオンテントが匿ってくれたというアレか」


「ナンで俺が言おうとしてたヤツ全部言うんだよ!?」


「ちなみに何故一撃必殺系じゃなければセーフなのかというと、すぐに違う姿に変わるからだ。

怪我をした時間の姿から、怪我をしていない時間の姿に変わるから、一撃必殺でさえなければセーフになる」


「あー、だから逃げ隠れるようにしながらも長生き出来てるんですのね」


「怪我が悪化とかしないからな」


「なあ、お前ら俺無視すんの止めねえ?俺コレでもパートナーであり学園トップの学園長でもあるんだけどーあのー」



 アダーモ学園長は確かに学園長だが、そういう接しやすい気安さのせいでついこういう対応をしてしまう。

 まあ最早コレはアダーモ学園長の持ちネタに近いモノなので、アダーモ学園長もイモータルチョコレートもわかってやっている気がするが。




クラリッサ

色々と伝説を残しているパーティの紅一点だというのに殆ど情報が無い幻扱いの存在。

時間の概念の外側へと放り出された為結果的に不老不死になったものの、見た目年齢が安定しないという女性にはキツイ状態になっている。


カメレオンテント

カメレオン姿とテント姿になれる、生態的にはテント寄りな魔物。

劣化さえしなければ寿命が持つ為劣化する度に魔法で修復されており、クラリッサと共にかなり長い時間を生きている。


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