表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒトと魔物のキューピッド  作者:
五年生
162/300

呪い少年と呪い人形



 彼の話をしよう。

 極東からの留学生で、呪い屋の家系で、ある意味不死身な。

 これは、そんな彼の物語。





 学園の裏手にある森の中、足を川の水に浸しながら息を吐く。

 今年はロザリーとグルームドールがパートナーになってから、自室の温度が凄まじく高いのだ。


 ……毎日毎日、グルームドールが感情を大きく揺らすせいで常に燃えてますものね。


 ロザリーは炎や熱から守ってくれる魔道具を身に着けているからセーフだし、グルームドールは家具などは燃やさないようにと調整してくれているのでボヤが起きたりもしない。

 いやグルームドールの関節部分からめちゃくちゃ炎が噴き出しているという事実からするとボヤが発生しているような気はするが。


 ……とにかく、グルームドールが火元ですものねー……。


 つまり自室で常に暖房が稼働しているようなモノ。

 寝る時は既にロザリーが寝ているコトが多く、その為グルームドールも大人しくなっているので丁度良い温度になるが、ソレ以外が問題だ。

 なのでこうして森に涼みに来た、というワケである。


 ……やっぱり、わたくしも耐熱系の魔道具を身に着けるべきかもしれませんわね。


 だが今年ももうすぐ終わると考えると、別に身に着けなくても良いんじゃないか、とも思う。

 ルームメイトは毎年変わるワケだし。



「……ん?」



 そう思いながら足をパチャパチャさせていると、川の中にナニかが発生した。

 ソレはゆっくりとカタチを形成し、見覚えのある顔になったと思った瞬間、カッと目を開けて水の中から起き上がった。



「プハッ!」



 同級生である彼、ズームォは息を整えつつ、その濡れた薄い金髪を掻き上げる。



「ふぅ……まったく、生き返るこの瞬間はやはり何度経験しても慣れないというか……ん?」


「ハァイ」


「ジョゼフィーヌか」



 こちらに気付いたらしいズームォに手を振ると、ズームォは手を振り返してから立ち上がった。

 そしてザプザプと水を掻き分けながら、自分の隣へ腰掛ける。


 ……水掛かりましたわ。


 勢いよく隣に座られたので、その勢いで跳ねた水が結構掛かった。

 左側が冷たい。


 ……ま、涼みに来てたワケですし、服もすぐ乾くから良いでしょう。


 濡れている存在が横に座ればこちらも少し濡れるというのは普通のコトだ。

 普通とはいえ理不尽じゃないかとも思うが、まあズームォなので良いとしよう。


 ……川から発生したってコトは、死んだトコでしょうしね。



「ズームォ」


「ん?ナンだ」



 そう言ってズームォはこちらを見ながら、着ている制服を絞って水気を切った。



「また仕事ですの?」


「ああ。毎度お馴染み、ズームォによる呪い屋さん、だな」



 ニヤリ、とズームォは笑う。

 そう、ズームォは極東の呪い屋の家系らしく、呪いを掛けるのを得意としている。


 ……それも、自分の命を犠牲にする呪いを、ですものね。


 彼の家の呪い方は特殊な呪法らしく、自分の心臓を貫き死ぬ際の痛み恨みその他諸々などを対価として、相手を呪うというモノらしい。

 ちなみに彼らの一族は自分達の命に細工をしているらしく、死んでも体が水のように溶け、近くにある川から復活するという体質になっている。


 ……ある意味コレも不死身ですわよねー……。


 水場とあの世は繋がりやすいと言うし、川は命が生まれる場所とも言う。

 極東の物語でとある川の水を飲んだら男でも孕んだという話があったり、極東の神話では神が川で体洗ったらめっちゃ神が生まれたとかいう話もあるワケだし。


 ……そしてあの世に逝く際は、水場を通るモノですしね。


 ソレらを利用しているのかは流石に教えてもらえなかったが、とにかくズームォは死んでも近くの水場から復活が可能なのである。

 ちなみに制服はそういう能力を付与されているから一緒に復活するだけであって、普通の服だと死んだその場に残り、すっぽんぽんでの復活になるらしい。



「……呪い屋が繁盛するって、イヤですわよねえ」


「呪い屋である私に言うのか?ジョゼフィーヌ。しかもたった今呪いを掛けて死んだばかりの私に」


「そういやアナタ、アレ痛くありませんの?何度がアナタが自殺するのは目撃してますけれど、アレ絶対痛いでしょう。アナタ痛覚普通にあるっぽいですし」


「普通に痛いぞ。痛覚があるんだから当然だろう」



 当然のように激痛が走る行為を何度もやっているのかこの男。

 思わず胡乱げな目で見てしまったコトに気付いたのか、ズームォは顔を顰めた。



「おい、私がそういう痛みを快感と認識するタイプだとは勘違いするなよ?ただ呪いとは基本的に、感情の強さが重要だから痛覚を鈍らせていないだけだ」


「痛覚を鈍らせる手法もあるんですのね」


「あるが、使う気は無い。心臓を潰す激痛による「痛い」「辛い」「恨み」などのマイナスの感情があるからこそ、私の呪法は強力になるのだからな」


「天使としては、呪いとか完全に悪のモノだから好ましくはありませんけれど」


「ソレに関してはぐうの音も出ないが、私は悪とされる呪いはしないぞ。今日だって呪いを主食にしている魔物用の呪いが品切れだからと頼まれた結果だ」


「うーん、一から十まで言ってるコトが頭オカシイ気がしますけれど、事実だからヤベェですわよね」



 呪いが主食だとか、食用の呪いが品切れだとか、頭イカれててもそうそう出ないだろう言葉ばかりだ。

 しかしそういうのを主食としている魔物が存在しているのも事実なので仕方がない。



「……ま、事実だからこそ、わたくしはズームォと友人になれたワケですけれど」


「ああ、ジョゼフィーヌと友人になれる、イコール悪ではないという証明だからな。友人になってくれて助かったぞ、安全証明」


「誰が安全証明ですのよ」



 確かに悪に対しては過剰反応するので、普通に隣で話せるだけで安全証明になってはいるが。

 そして一部友人には自分の対応で善人悪人を判断されてもいるが。


 ……信用されてるのは嬉しいんですけれど、理由が理由だから絶妙にあまり嬉しくも無いんですのよねー……。



「あっ!居た!ズームォ!」


「ん……おお、呪い人形か」



 声の方に振り向けば、ズームォのパートナーである呪い人形がこちらに走ってきていた。

 彼女はズームォによって作られた式神的な人工魔物であり、見た目は木の枝と根っこをヒト型に組み立てたような人形である。


 ……まあ、名前はアレですけれど、実際は魔力の増強的な式神なんですのよね。


 ズームォの血をたっぷりと吸わせて作られたらしく、その魔力はほぼズームォのモノと言っても過言ではない。

 そしてパートナー契約によりその魔力を繋げ循環するコトで、ズームォが呪いを発動する際の威力を底上げする、というシステムなのだ。



「遅かったな、呪い人形」


「遅かったな、ではありません!」



 木の枝と根っこで構築されている為表情は、というかソレ以前に顔のパーツ自体が無いのだが、ソレでも怒っているのがわかる口調で呪い人形は言う。



「いつもの川辺に行ったのに、ソコに居なかったではありませんか!」


「そんなコトを言われても、ランダムだからな。近くの水場がドコになるかは私にもわからん。ソレよりタオルをくれ」


「ハイどうぞ!」


「ありがとう」



 呪い人形からタオルを受け取り、ズームォは頭をガシガシと拭き始めた。

 制服はすぐ乾くようになっているとはいえ、ズームォ自身を乾かしてくれるワケでは無い。

 つまり髪などは濡れっぱなしなので、ズームォは呪い発動で死ぬ度にこうして呪い人形にタオルを持ってくるように頼んでいるのである。



「毎回ランダムでタオル運びって、呪い人形も大変ですわね」


「ジョゼフィーヌはそう思ってくれますか……。いえ、まあ、私は式神であるので、主にただ従うのが本能ですので、良いんですが……」


「従うのは良いけど、理不尽はちょっとってアレですわよね」


「わかりますか!」


「わたくしも半分とはいえ天使なので、気持ちはわかりますわ……」



 仕えるモノ同士、固く手を握り合った。

 自分の場合は半分の上に戦闘系天使ではあるものの、神への絶対服従感は変わらないのだ。

 ただソレはソレとして、女神が時々仰る感情的理不尽な言動は困る、というアレだ。


 ……ええ、まあ、女神は女性的だからこそ感情的で、今こそが美しいという花みたいな存在だからその場その場で命令してきたりするのは当然とも言えるんですけれど……。


 神が殆ど理不尽な命令を出さないコトを思うと、どうにかならないかなあとも思う。

 まあ神は神で面倒臭がりなトコがある為、トントンだが。


 ……神ってホント、ちまちまやるのは苦手だから一旦箱庭ひっくり返して一からやった方が早くない?派ですものねー……。


 要するにノアの箱舟的なアレだ。

 無から有を生み出せるという神の特性故なのかナンなのか、有を一回潰して無にしてから新しく有を作り直そうというのが神なのである。


 ……ナンの話でしたっけ。


 確か上司の理不尽ヤだよね、みたいな話だったような気が。



「誰が理不尽だ」



 タオルで髪の水気を取りながら、ズームォは不機嫌そうに眉を顰めた。



「そんなコトを言ったって水辺のランダムさは私にだってどうにも出来んのだぞ。

寧ろコレが固定されている方が厄介だろうが。もし水辺が固定されていたら私は確実に極東にある実家の庭の泉からの復活コースだ」


「ソレ、海の向こうで死んでもその距離移動して復活可能なんですの?」


「あの世を経由するからな。一時的に肉体を水のように溶かすコトで魂と肉体を同一化させ肉体と一緒にあの世を通り、この世への扉のような役割でもある水辺から復活。

肉体を一時的に水化させており、大半を魂と同一化しているからこそ復活する際の水辺の水を肉体と変化させ復活が可能になる」


「成る程、理解が及ばんレベルでややこしいってコトだけはよくわかりましたわ」



 今の説明は詳しかったものの、結局どういうこっちゃという結論しか出ない。

 まあ多分ワカメから水分を出して乾燥させ、その後に別の水で乾燥ワカメを戻して復活パンパカパーン、みたいなコトだろう、多分、きっと。


 ……命関係のアレコレ、ややっこしくて理解しにくいんですのよねー……。


 命に関しては本当、薄ぼんやり程度の認識でいた方が楽だ。

 主に脳みそが。



「というかだな、そもそも私だってこの呪法には理不尽さを感じているんだ。何故毎回私が死なねばならんのか」


「凄いセリフですわよね、アレ」


「私としてはズームォがよく言うセリフなので聞きなれていますが、改めてそう言われると中々ですよね」


「聞こえる音量でヒソヒソするなソコ」



 言われてしまったのでヒソヒソするのを止める。



「特に呪い人形、言っておくがお前も中々だからな?私が死んだ後、水になって溶けて消えるまでにこっそり私の血を吸収しているだろう」


「……き、気付いていたのですか」


「痛みを感じる為に意識を必死で保っているから普通に気付く」


「し、仕方ないんですよ!だって目の前であんなにも血をボタボタと流すから!ソレも心臓の血を!」



 心臓の血って他の箇所の血と違うんだろうか。



「ソレにちゃんと呪い発動してからちょっとつまみ食いをさせていただいているだけですので、セーフです!

ええ!私の場合は私を作る材料にズームォの血液が使用されているコトから来る本能のようなモノですから!」


「……まあ確かに、結局水になって無くなるから無駄にならない分良いのかもしれんな」


「でしょう!」


「胸を張るな」



 ……確かに、今のは胸を張るシーンではありませんでしたわよねー。



「さておき話を戻すが、私の命を対価に、そして呪いを発動する為のスイッチのようなモノである痛み恨みその他諸々は必要なモノだ」


「あ、痛みとかってスイッチなんですのね」


「まあな。ソレが無いと感情が規定の量に足りないというコトで呪いが失敗する。

そして呪いの怖いトコロは失敗するとおかしなカタチで術者に返ってくるという部分と、呪い返しにより跳ね返される部分だ」


「極東モノの作品ではよくありますわよね、呪い返し。テンプレートは鏡による鏡返しですけれど」


「ああ、あれは呪い返しの術はある程度の術者しか使用出来ないからこそ、そうでないヒトでも使用可能な鏡返しの方がメジャーなんですよ」


「あら、そうなんですの?通りで登場頻度が高いと」



 呪い人形の言葉にふむふむと頷く。

 鏡返しが多いなと思っていた理由にはそんな事情があったのか。



「そして痛みやらの度合いにより、呪いのレベルも変化する」


「エ、命を対価にしてるんなら充分最高レベルの呪いじゃないんですの?」



 最高というか、最悪というか。



「ナンていうか……命は代金みたいなモノなんだ。ソコに効果やらを上乗せする為に必要なのが痛みやらになってくる」


「上乗せ」


「そうだ。レベルにも松竹梅みたいな……わかるか?」


「イージーノーマルハードみたいな」


「そう、ソレだ。痛みなどのレベルによって、ソレらの扉が解放されるみたいな感じに近い」


「痛みが十ならイージーレベルの呪い止まりだけど、痛みが五十あればノーマルレベルの呪いとして発動するコトが可能、というコトですの?」


「そうだな」


「成る程……」



 痛覚無しの不老不死勢は恨みやら呪いやらと縁遠いメンタルをしているなと思っていたが、ソレなら納得だ。

 なにせ呪い発動用のマイナス的感情が空っぽなのだから。


 ……やー、上手いコト出来てますわねー……。


 不老不死で痛みアリで恨みがちな性格の存在が居たりしたら、凄まじく怖いコトになりそうだ。

 いやまあ、ソレよりやっぱり神がキレた時の方が怖いが。


 ……神の怒りイコール、最低でも人死に確実ですものねー。


 ちなみに最高で国が幾つか滅ぶ。



「……だが、正直この呪法、いい加減違う方法にしたいモノだ。

正直戦争とかが無い今の時代、そして支配したいだとかただ上に立ってふんぞり返りたいだとかの愚か者も数が減ってきている今の時代、呪い屋は閑古鳥が住み着いてしまっている」


「良いコトじゃありませんの」


「閑古鳥が鳴くどころか住み着いているレベルだぞ。他の大きい家を蹴落としたい系の愚か者は良い客だったらしいんだがな」


「愚か者は潰える定めだから仕方ないと思いますわよ?というか呪いってまじないとも読むんですのよね?ならおまじない系にすりゃ良いじゃありませんの」


「……私の家のおまじないはアレだからなあ……」



 ズームォは口角を上げただけの笑みを浮かべながら、深い溜め息を吐いた。



「アレ、とは?」


「確かズームォの家系のおまじないは、血を用いるモノが多かったように思いますね」


「その通り。好きなあのヒトの心を射止めるおまじない♡みたいなのもあるんだが」


「待って今どっから声出したんですのちょっと」


「その方法が、十四歳の処女を眠らせ全裸にさせてから家畜から抜いた生き血で洗い、その心臓をくり抜いて綺麗な水ですすいでから食べれば恋が実る、という……」


「アウトアウトアウトアウトアウト!完っ全にアウトな手法じゃありませんのソレ!というか死人一人出てますわよソレ!?」


「死人どころか家畜も結構な数死んでいそうなんですよね、コレ」


「ヒト一人を洗うからな」


「コッワ……。というかんな方法で恋が実るとかアホじゃありませんの?ヒト殺してその心臓食うとかドコの魔女ですのよ」


「白雪姫の継母の魔女が食ったのは腎臓だか肝臓だかじゃなかったか?」


「アレ肺臓と肝臓、または心臓ですわ。あとアレ実母説もありますのよ。

さておきもしわたくしが誰かに想いを寄せられてたとしても、そんな方法使った相手は普通にアウトな罪人でしかないからまず恋愛対象としてカウントしませんわそんなコト出来る精神性の相手」


「ずーっと昔、それこそ命が金でポンポン売り買いされる頃は結構使用されていたらしいぞ。まあ、現代では禁忌とされてるおまじないだがな」


「禁忌過ぎますわよソレ……というかおまじないって言うの止めなさいな。ソレ完全に呪いですわよ呪い」



 闇のミルフィーユみたいなドス黒い作品で出てくる級のヤベェ呪法だった。

 そんならまだイモリの黒焼き食う方がマシだ。



「だがウチで取り扱っているおまじないは殆どこの系統だからな。禁忌扱いのばかりだから、使いまわし可能な私の命を対価にしても呪いが一番安く済むんだ」


「術者の命を対価にしてる呪法が一番安価とかアホみてぇな言葉ですわよね」


「ジョゼフィーヌ、めちゃくちゃ口が悪くないか」


「この学園で五年過ごして狂人と友人になれば自然と口も悪くなりますわ」


「悪影響が酷い」



 そう言うズームォもその一端を担っているのだが、まあ言わないでおこう。



「ですがズームォ、私もズームォの血液を染み込ませて作られた呪い人形ですから、簡易的な呪い程度でしたら使用可能ですよ?」


「だが呪い人形が扱える呪いは初心者用の呪いだろう。頭痛が止まないとか、ずっと腹下すとか、悪夢をめっちゃ見るとか、そういう優しいヤツ」


「いやそのくらいが普通だと思いますわよ」



 天使が呪いを語りたくはないが。


 ……戦闘系天使って、どっちかというと呪いぶっ壊して術者仕留める側ですしね。



「ハァ……呪い屋の明日は暗いな」


「呪い屋である以上常に暗闇な気はしますが、ズームォが一文無しになろうと私はそばに居ますよ。そういうモノですし」


「呪い人形……私が一文無しになるという前提はどっから出てきた」


「この先の世の中は平和になるだけで、昔ながらの過激な低能はどんどん数を減らすでしょうからね。呪い屋の顧客が居なくなるのも時間の問題でしょう。

ズームォが卒業する頃には客がゼロになっているかもしれません」


「あー、わたくしとか結構そういうの依頼しそうな貴族潰す情報提供してるので、実際そうなる可能性高いですわね」


「今の私は身内に裏切り者が居た気分だ」



 誰が裏切り者だ。



「…………新しい家業、考えるべきだろうか」


「そうですね……呪いを主食とする魔物用に呪いを箱詰めして食料として提供してお金を稼いだりは出来ますが、一応他にも手に職を持っといて損は無いでしょうし」


「呪いを食料として箱詰めとか、事実であっても冷静になると頭オカシイとしか思えない言葉ですわよね」


「おいジョゼフィーヌ、私第三者ですという顔をせずにお前も協力しろ」


「エッ、わたくし完全に第三者なんですけれど……ナニを?」


「新しい家業」


「善行()しなさいな。悪行()すようなら叩き潰すコトになりますから」


「お前の場合、実際やらかしたら容赦無さそうだからな……」


「ええ、まあ。友人だろうがナンだろうが、悪である以上は処分対象でしかありませんもの。

友人かどうかは二の次で、重要なのは悪かどうか、ですわ」


「そういうトコが一部に怯えられるのだぞジョゼフィーヌ」



 プラネタリウムフォックスとかに怯えられがちなコトを言っているのだろうか。

 別に悪じゃなければ敵対するコトは無いのだから、怯えなくとも良いのだが。



「……とりあえず、アナタは式神とか作るの得意でしたわよね」


「式神?まあ、そうだな。呪い人形のように魔物化させるには相当な量の私の血が必要になって面倒だからもうやる気は無いが、使い捨ての式神なら大量に発動させるコトも可能だ」


「ならソレを労働力として派遣すりゃ良いじゃありませんの」


「…………成る程。式神なら安くも出来るから、仕事内容によって値段を変化させるコトも可能だしな。

往復が面倒だからという理由での使用なら子供のお小遣いレベルの値段で貸し出すとか……」


「子供のお小遣いレベルからのお値段なら、依頼が沢山来そうですね」


「量産も可能だし、お小遣いレベルでも沢山集まれば充分な収入になる、か……」


「お店とかの従業員が急用、または急病の時などのピンチヒッターとしてもオススメ出来そうではありますわよね」


「良いな、その案はありだぞジョゼフィーヌ!早速ある程度システムを完成させて、学園長辺りに売り込むコトにするとしよう!」


「役立てたんなら良かったですわ」



 自分としてはただ、やたら手伝わされたりするから自分以外の手伝いがあれば楽出来るのでは?という発想だったのだが。





 コレはその後の話になるが、式神派遣はアダーモ学園長に採用されたらしい。

 とりあえずは簡単な手伝いを学園内でさせて、何体まで動かせるかとか、駄目な動きはあるかとか、重量制限はあるかとかの情報を卒業までに纏めるコトになったそうだが。


 ……まあ、卒業して仕事にしてからそういうミスが発生したら大変ですものね。


 だからこそ仕事として行う前に、そういうのを体験させて穴埋めをさせようとなったのだろう。

 流石生徒達に職業斡旋をしていたりするアダーモ学園長なだけあって、助言が的確だ。



「……で、ナニしてんですの?折り紙?」


「式神作りだ。基本的にはヒト型にしてるが、ヒト型に切った紙よりもやっこさんにした方が頑丈だしやれるコトも多いとわかったからな」


「やっこさん?」


「ホラ、コレですよジョゼフィーヌ。折り紙でヒト型に折ったモノです。

手間は多少掛かりますが、折り紙として折った方が式神としての性能が高かったので折っているんです」


「ああ、成る程……そういうの、手間で変わるモンなんですのね」


「耐久度も結構変わるらしいぞ。シルヴァン先生のトコのカカシ代わりに派遣したら、折り紙型の方が動きにキレがあったと言われた」


「ふぅーん……」



 話を聞きながら、既に折られているやっこさん折り紙を指先でちょいちょいとつつく。



「ちなみにジョゼフィーヌ、式神が折り紙で作られていると仮定し、その折った形のモデルと同じような動きが出来るとしたら、お前は他にどんな仕事が出来ると思う?」


「エ、鶴とかでメッセージ運ぶとか?」


「……伝言を紙に書いて鶴を折って相手が受け取ると同時に紙に戻る、というのはアリかもしれんな」


「良いですね、ソレ。他にはナニかあるでしょうか?」


「他にはって言われましても……呪い人形の材料が木の枝と根っこと血液であるように、紙以外でも式神が作れるんならある意味便利かもしれませんわね、くらいですわよ?」


「便利……具体的にはどういう意味だ?」


「だから、縄とかを式神にしたら意思がある縄になるようなコトですわよね?なら結ぶとかの手間が省けるんじゃないかと」


「…………ヒト型にするコトで使役するようなモノだからただの縄という状態では少々不安定だな。しかし、紙以外を式神として用いるというのはアリか……」


「ですね。私もそうですが、紙などの場合は炎に弱いという欠点もありますから」


「紙の式神が水にも弱いと考えると、水仕事も可能な式神、というのも中々に需要がありそうだな」



 自分にはいまいち理解し切れない世界だが、自分の意見が役に立ったのであればなによりだ。

 そう思いつつ、次の案を求められる前にこっそりと席を立った。




ズームォ

名前は漢字で書くと子墨。

心臓を貫きその痛みやらで発生する負の感情を用いて呪うタイプであり、不死身でありながら痛覚ありで頻繁に自殺しているという色々アレな子。


呪い人形

木の枝と根っこをヒトのカタチにしてズームォの血をたっぷりと吸わせて完成した式神の上位互換な魔物。

パートナーとして存在しているだけでズームォの魔力を底上げ出来るのだが、根本的に式神なので自分からアレコレとズームォの世話を焼いている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ