眼帯少年とムーンバンシー
彼の話をしよう。
光弾の魔眼を有していて、右目だけが魔眼で、ソレを魔眼封じの眼帯で封じている。
これは、そんな彼の物語。
・
寝不足の頭でフラフラと森を歩いていたら、目的地には先客が居た。
「マーティン」
「お?よう、ジョゼフィーヌ」
鈍い茶髪の彼は、同級生であるマーティンだ。
魔眼である右目を眼帯で封じているマーティンは、ヘラリと笑って手を振った。
「ジョゼフィーヌも昼寝か?」
「ええ……というか、皆現在昼寝タイムですわ。談話室満員状態」
「だろうなあ……」
うへえ、と言わんばかりにマーティンは口角を引き攣らせた。
「毎晩ああも叫ばれたら、そりゃ誰だって寝不足になるか……ふああ」
「教師陣も昼寝推奨してますものね」
「ナンて魔物だったか、原因は……」
「ムーンバンシー」
「ソレだ」
マーティンはピッとこちらを指差す。
「結局そのムーンバンシーって、どういう魔物なんだ。夜中にめちゃくちゃ泣き叫んで俺達の安眠を妨害しているコトしかわかってないんだが……」
「ムーンバンシーは、ナンというか……害魔では無いんですのよね」
「ソレは知ってる。だから俺達は今もこうして眠気と戦ってるんだよ。毎晩毎晩頭が痛くなる泣き声のせい、で……くあぁ」
「んーと、ナニから説明すれば良いのやら……」
自分の頭も寝不足気味で、いまいち思考が回らない。
ここ数日ずっと寝不足な弊害が出てしまっている。
……こうして体感すると、不眠症のヒトって相当ヤベェ状態だったってコトですわよねー……。
「ムーンバンシーというのは、月が出る夜に泣き叫ぶ魔物、ですのよね」
「んー……」
マーティンは瞼を閉じそうになる左目をグシグシと擦った。
「……ナンで月が出る夜限定なんだ?月が嫌いなのか?」
「やー、ナンと言いますか……月を見るコトで、同じ月の下に居る生き物の死ぬシーンが視えてしまうらしい、んですのよね」
「意味わからんぞソレ」
「要するに月が鏡になってる、みたいなアレですわ。例えば鏡を覗き込むと、まったく別の鏡に映っているヒトが時々視える、とかの伝承があるでしょう?」
「ああ、そういや同級生に鏡関係のパートナー持ちが居たような……」
「そう、ああいう感じで。そして月越しに、月が見ている現在進行形で死ぬ生き物の姿が視える、というのがムーンバンシーの特徴ですわ」
「……月が今まで見てきた記憶やら記録が視えるんじゃなく、現在進行形で、月の下であるドコかで死ぬ誰かのその瞬間が視える、ってか」
「イエス」
「ふぅん」
話しながら頭を動かしているからか眠気は少し散ったらしいが、マーティンはまだ眠そうに目を瞬かせる。
「ああクソ、右目が眼帯で覆われてる分目が閉じる」
「アナタの場合、他のヒトの魔眼封じと違いますものねえ」
「布垂らしただけの一般的な目隠しじゃ、うっかりで発動しかねねぇからな」
マーティンの魔眼は右目のみだが、その魔眼の能力は光弾。
要するに目から魔力で構築された光の弾が発射されるのだ。
……ソレも、目を開けた瞬間に完全オートで発動、ですものね。
つまり眼帯を外して目を開けただけで魔眼から光弾が発射されるというコトである。
だからこそ、マーティンは眼帯タイプの魔眼封じを使用しているのだ。
「ソレで、ナンであんな泣き声を出すんだ」
「感情豊かというか……悲しみの感情が強いらしいんですのよね。
だからソレを視て、内側から嘆きやらが溢れ出して止まらなくなって、周辺のヒトが飛び起きるような鳴き声をあげる、という」
「見なければ良い話だろう、そんなの」
「種族的な本能だからどうしようもありませんわ。月が出ていると無意識に月を見ようとしてしまうらしくて、そして月を見て発狂」
「発狂なのかアレ」
「でも泣いている理由は死ぬ誰かを想ってのモノだから、害魔では無いんですのよね。というか死ぬ誰かを想って泣き叫ぶからという理由で害魔認定したら外道中の外道ですし」
「……ソレはまあ、そうだな」
「だからわたくし達周辺のヒトが寝不足になるんですけれどねー……」
ムーンバンシーの嘆きは、誰かの死を想うモノだ。
ソレは親しいヒトが亡くなったヒトとなんら変わりないモノ。
……ソレにアウト判定出したら、命が消えたコトを悲しむのが害だというのか、ってなりかねませんわ。
言ってしまうと近所迷惑にならなければ良いのだが、誰かが死んだのを悲しんでいるヒト相手に「近所迷惑だから控えめにね」と言うなんてただのクズでしかない。
内側から溢れて仕方がないその感情を、他人や自分の安眠の邪魔になるからと止めさせるのは違うだろう。
……だからわたくし達も、こうして昼寝やらをするしかないんですけれどねー……。
そう思いつつ、森の中に多数存在する昼寝スポットで横になっているマーティンの隣に寝転がる。
最初から寝るつもりで来たのだから、いっそハンモックでも持参した方が良かっただろうか。
「……なあ」
「ヘァッ!?エッ、アッ、ハイ!?」
「あ、すまん一瞬で本気寝しかけてたのか。ホントすまん」
「や、大丈夫ですわ、ええ」
横になった一瞬で意識が飛んでいたらしい。
元々早寝早起きでしっかり睡眠を取る派だった為、寝不足が大分キているようだ。
……まさか三秒も持たずに一瞬で意識が沈むとは思ってませんでしたわー!
「で、ナンですの?」
「いや、少し気になったんだが、ムーンバンシーのあの泣き声を止める方法は無いのか?」
「ありますわよ、一応」
「あるのか!?」
驚いたようにマーティンが飛び起きた。
「そう驚かれましても……わたくしがさっき説明したムーンバンシーについてがやたら詳しい辺りから大体察したりしませんの?」
「……詳しい記述がある魔物は誰かのパートナーになっていて、だからこそその辺の情報提供をしてくれているパターンが多い。そして当然ながらパートナーである以上は一緒に生活するコトになる。
パートナーであるならばそのヒトはムーンバンシーの泣き声が気にならないタイプか、ムーンバンシーの泣き声をどうにかするコトが出来るというコト……」
「そゆコトですわねー」
くあ、と思わず欠伸が漏れる。
「ソレ、普通のヤツでもどうにか出来るってコトなんだな?毒持ちの魔物のパートナーは毒が効かない体質でした、というタイプのオチじゃないよな?」
「条件クリアは結構簡単ですから、そういう体質系じゃありませんわ」
マーティンの真っ直ぐな視線に負け、仕方なく起き上がってお互い向き合うように座りながら話す。
「要するに、月を見て泣いてんですのよ、ムーンバンシーは」
「無意識に、だったな」
「ええ、本能ですから。ですが無意識だからこそ、その動きは夢遊病のようなモノというか……要するに意識が無いんですのよね」
「ん?つまり厄介というコトか?」
「いえそうではなく、単純に大きい音とかを近くで発生させて意識を覚醒させれば良いんですのよ」
「アッ思ったより簡単」
「まあ、つまりは気を逸らさせるコトが出来れば、ですからね」
「なら…………いや」
ナニかに気付いたような表情で、マーティンは言う。
「ならソッコで気を逸らさせれば寝不足回避になるんじゃと思ったが、誰もソレをやってねぇってコトはそういうこっちゃねえんだな?」
「一応そういうこっちゃねえコトもねえんですのよ?ただ一日一回なんですの」
「……ア?つまり?」
「例えば今日のムーンバンシーの嘆きを止めるとするでしょう?」
「おう」
「そうするとその後の今晩はムーンバンシーが正気に戻ってるのでセーフですの」
「ふむ」
「ただし翌日の晩、またムーンバンシーは嘆き始めますわ」
「あー!クソ成る程毎晩なのか!そうだよな毎晩泣き叫んでるもんな!」
「そう、ソコなんですのよねー」
教師陣が放置しているのは、恐らくソレが面倒だからなのだろう。
「毎晩毎晩、ムーンバンシーの場所を特定して正気に戻して寝る、というのは面倒ですわ。ムーンバンシーは結構動きますし」
「……そして、死に行く誰かを想って泣き叫んでるからこそ止めるのも忍びねえ、ってか」
「大体そういう理由ですわねー」
だからムーンバンシーの泣き叫ぶ声に安眠妨害をされても「しゃーねーやな」みたいな空気なのだ。
「一応一定期間で家の無いムーンバンシーはその土地を立ち去りますから、もうすぐ居なくなりますわよ。そしたら思う存分寝ればオッケーですわ」
「家の無いムーンバンシー?」
「野生のムーンバンシーって意味ですわ。誰かのパートナーだったりすると、そのパートナーの部屋だったり家だったりが帰る場所になるでしょう?」
「だな」
「そういうのが無い野生のムーンバンシーは、自分の泣き声がアレだって自覚があるからこそあちこちを彷徨ってるんですのよ」
「……ヒト気が無いトコで居座る、とかはないのか?」
「ムーンバンシーの嘆きはドコかで死んだ誰かのコトをその親族に伝えようとしている説とか、有名な誰かが死んだぞと伝えてる説とか色々ありまして……」
「わかった、オーケイ、大体わかった。つまりヒト気があるトコが生息地なんだな?」
「イエース」
親指を立ててそう答え、そのまま後ろに倒れるようにして寝転がる。
思ったより話し込んでしまったので、残り少ない休み時間を全力で睡眠に使用したいのだ。
……あー、コレ寝れますわー……というかもう寝てる気がしますわー……。
「ジョゼフィーヌ」
「……わたくし今寝てますのよ。ご用件があるのならピーッという起床音の後にメッセージを入力しさらるべ……」
「意味不明な言語の羅列みたいになってるが大丈夫かお前」
「眠いんですのよーもーナンですのー……」
「今晩、時間空けれるか」
「寝てるんで無理ですわ」
「どうせ泣き声で寝れねえだろ。寝れるようにしてやっから付き合え。んでサーチヨロシク」
「寝れるようにって……」
少し体を起こしてマーティンの方を見れば、マーティンは眼帯に隠されている目を指先でトントンと示している。
「……成る程、オッケーですわー……。イヤですけれど睡眠大事ですし……。とりあえず見つけりゃ良いんですのねー……?」
「出来るか?」
「声っていうのは要するに音波で……超音波などは音が周囲に反射しているワケですから……声があれば、周辺に反射している音の動きで位置は大体……」
「よし、頼むぜ」
「ええ、じゃあ、もう寝ますわね……」
そう言い切った瞬間、意識が一瞬で暗転したのがわかった。
やはり寝不足は良くないモノだ。
・
夜、寮をこっそり抜け出して森を歩く。
「アアアアアアアアアアァァアアアアァアアアアアアアアアア」
脳天をアイスピックで刺されているかのような声が響く中、その声が発される方へと歩いて行く。
「こっちか?」
「ええ、音はこっちから……というか、こんだけ大きい泣き声ならわたくし無しでもわかりそうなモンですけれど」
「いや、まったくわからん。正直周囲全方位から音が迫ってきているような感じだ」
「あー、成る程」
確かに音があちこちに反射して響いているので、音の振動やソレに揺れる葉の動きなどが視えないとわかりにくいか。
「と、居ましたわ」
「アアアァアアアアァァアアアアァア!」
月を食い入るように見ながら泣き叫んでいるのは、真っ赤な目をした少女姿のムーンバンシーだった。
しかし頭に重いモノをガンガンぶつけられているかのように凄まじい泣き声。
……ラッコが持ってる石にでもなった気分ですわねー……。
「……マーティン、アレの意識逸らすコト出来ます?」
「自信は無いが、あんだけ月に集中してたらイケるだろう」
そう言い、マーティンはムーンバンシーと同じように月を見上げながら、その眼帯をずらした。
次の瞬間、開いたその魔眼に魔法陣が浮かび、魔力で構築された光の弾が空に向かって放たれる。
「で、もう一撃!」
目を開けるコトで発動するからか、マーティンが瞬きをすると同時に二発目が空に上がった。
その二発目は一発目の光弾に直撃し、反発し合うかのように空で弾けた。
……極東の花火みたいに散りましたわねー……。
異世界の自分の記憶にある打ち上げ花火のようなサイズでは無いが、ソレでも花火みたいだと思う光景だった。
サイズ的には手持ち花火くらいのサイズだったが。
「……ァ」
月を食い入るように見つめていたからこそ、ソレをしっかりと目撃したらしいムーンバンシーは先程までの叫び声はナンだったのかと思う程に静かになっていた。
「……成功か」
「ですわね」
じゃあさっさとおいとまして寝ようと思ったが、マーティンはムーンバンシーをじっと見つめていた。
「マーティン?」
「…………すまん、先に帰っていてくれ」
そう言って、マーティンはムーンバンシーへと近づいた。
「おい、ムーンバンシー」
「…………」
泣き叫ぶのは止めたが、まだはらはらと涙を流しているムーンバンシーは顔を上げ、その赤い目でマーティンを見た。
「……ああ、すまないね」
はらはらと、ホロホロと涙を流しながらムーンバンシーは言う。
「先程私を泣き止ませてくれたのはキミだろう?眼帯の子」
「マーティンだ。あと泣き止んでいないだろう、お前」
そう言ってマーティンはハンカチをムーンバンシーの目元に押し付け、ぎこちない動作でその涙を拭う。
……アッ、コレ甘酸っぱいラブストーリーが始まる気配では。
「そうか、マーティン。ありがとう。ハンカチもそうだが、私を正気に戻してくれて」
ムーンバンシーはそう言いながら、ハンカチを受け取って自分で涙を拭い始めた。
「私は月を見る度に、泣きたくないのに泣いてしまう。悲しく、虚しく、無力感に襲われて泣いてしまう。
ヒトの死に非情に、そして無情になれないせいで、ソレを見る度に私は抑えられなくなってしまう」
「普通だと思うが」
「だが、私の泣き声は普通では無い」
涙を拭い終わったムーンバンシーは、そのハンカチをマーティンに返した。
「月が出る度に私は泣き叫び、キミ達を起こしてしまう」
けれど、とムーンバンシーは言う。
「けれど、すまない。どうしようも無いんだ。どうしても止められない。私はどうしても月を見てしまうし、どうしてもその度に嘆いてしまう」
ムーンバンシーはそう言って、ふ、と笑った。
「だが、正気に戻してくれてありがとう、マーティン。月が出ている中で正気に戻れたのは久しぶりだったし、ハンカチを渡されたのなんて初めてだったから、嬉しかった」
しかしすぐに、ムーンバンシーの表情は悲しげな笑みになる。
「……騒がしくしてしまって、すまなかったね、マーティン。他のヒト達にもすまなかったと伝えておいてくれ。折角正気に戻れたのだから、今日にでも私は」
「待て」
「うん?」
立ち去ろうとしたムーンバンシーの腕を取り、マーティンは言う。
「ジョゼフィーヌ!」
「エッわたくし!?というかさっき帰って良いって、エ、いやまあ様子を窺ってたのも事実ではありますけれど……な、ナンですの?」
「俺はさっき静かに泣いているムーンバンシーを見て、彼女を泣かせたくないと思った!」
「ハ?はぁ、まあ、んなモン好きにすりゃ良いんじゃありませんこと?」
「つまり好きになった!」
「アッそっち!?騒音被害云々じゃなくて惚れた女を泣かせたくない的な意味ですの!?」
寝不足だからなのか夜だからなのか月の魔力なのかわからないが、会話がドッジボール過ぎる気がする。
「というワケでどうしたらパートナーになれるだろうか。というかムーンバンシーとパートナーになるにはどういう条件が必要かわかるか?」
「急に真顔になるじゃありませんのアナタ……」
深夜テンションというヤツだろうか。
「というかソレ、本魔に聞きなさいな本魔に。アナタが現在進行形で腕掴んでる本魔に告って成就するなり失恋するなりすりゃ良いじゃありませんの」
「確実にオッケーが欲しい!」
「んなモン誰だって欲しいモンですわ」
無理を言うな。
ソレもほぼ蚊帳の外である自分に言うな。
……でも、ムーンバンシーは逃げる様子ありませんのよねー……。
どころか、さっきから顔を真っ赤にしてマーティンを見つめている。
残念ながらマーティン本人はこっちに視線を向けているから気付いていないようだが。
……ハァ、仕方ありませんわね。
「……とりあえず、ムーンバンシーのパートナーには忍耐力が必須になりますわ。毎晩月を見上げようとしますもの。
ただしソレは月が出始めたらそうなるモノなので、意識逸らせばソレでどうにかなりますわ」
「無意識で行動し始めたらソッコで意識逸らせば問題無いか?」
「まあ、ですわね。猫だましでも腕強めに掴むのでもクラッカー鳴らすのでも良いから、一瞬意識を逸れさせればここ数日みたいなコトにはなりませんわよ」
「つまり、ソレをどうにかすればムーンバンシーが俺のパートナーになってもナンの障害は無い、ってコトだよな」
「ソコちゃんとしないと普通に苦情出ると思いますけれどね」
そう言って、自分は二人に背を向ける。
「んじゃ、告白はわたくしが居なくなってからしなさいな。
さっきからムーンバンシーが一切逃げようとしない上に口挟んだりもしない辺りから結果がどうなるかはお察しですけれど、ラブラブ空間の蚊帳の外でぼんやりしてたくありませんし」
「きっ、気付いてたなら言わないでくれ……!」
ムーンバンシーがナニか言ったような気がするが気のせい気のせい。
眠くて耳が遠くてあーあーあー。
「ま、ごゆっくり」
そう言ってスタスタと森を出る。
独り身でラブラブな圧を受けるとダメージを負うので、ソッコで退散するのが一番だ。
……あ、置いてきちゃいましたけどマーティンちゃんと帰ってこれるでしょうか。
まあ月明かりがあるから多分大丈夫だろう。
夜はリンダ管理人が見回りをしているしと結論を出して、欠伸をしながら自室へ戻った。
・
コレはその後の話になるが、マーティンは無事ムーンバンシーを口説けたらしい。
まあわかっていたオチではあるが。
「でも、ちゃんとムーンバンシーが月を見ようとするのを止めれてるみたいでなによりですわ」
お陰で夜中に飛び起きるコトも無い。
「ジョゼフィーヌが一応参考に、つってムーンバンシーをパートナーにしたヒトの実録本教えてくれたからな。大分アレに助けられてるぜ」
「いや、我がコトながら本当に迷惑をかけて申し訳ない……」
「気にすんな」
談話室のソファの上、マーティンは自分の膝の上に乗せたムーンバンシーの頭を撫でるようにして抱き寄せた。
はーラブラブ。
「ソレでも時々全然正気に戻せねえ時もあるが、そういう時は眼帯外して魔眼を発動させればどうにかなるしよ」
「ああ、アレはとても助かっているよ。目立つし動くしで、かなり意識が逸らされる」
「俺としちゃ目を開けた瞬間に発動するもんだからあんま気に入ってなかったんだが……ムーンバンシーの目元を腫れさせねぇように出来るって考えると、良い魔眼付きで生んでくれた親に感謝だな」
「なら、片目だったコトにも感謝ですわね」
「ソレは言えてる。流石に両目共だったら眼帯外して一瞬パッ!とか出来ねえし」
「……ふふ」
……あら。
ムーンバンシーはケラケラ笑っているマーティンの胸に頭を預けるように身をもたれさせた。
その表情は心から安心しているような、身を許しているような笑みで。
ナンだか、油断してたら死角から鳩尾にパンチを食らったような甘さだ。
マーティン
右目のみが魔眼なのだが目を開けた瞬間にオートで発動する為、しっかりと覆える眼帯タイプの目隠しを使用している。
流れ星のように光る光弾なので結構目立ち、そのお陰でムーンバンシーがソッコで正気を取り戻すので最近は自分の魔眼がお気に入りになった。
ムーンバンシー
月を経由して現在進行形で死に行く生き物が見えてしまう上に感情の荒ぶりが強い為、月を見ては凄まじい泣き声をあげる魔物。
マーティンの魔眼から放たれる光弾はまるで流れ星のように輝いているので、視界に入る度に一瞬呆ける為ソッコで正気に戻るコトが出来る。