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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
五年生
155/300

悪食兵士とコンフュージョンドルフィン



 彼の話をしよう。

 兄の同僚である兵士で、遺伝でナンでも食べるコトが出来て、嗅覚も優れている。

 これは、そんな彼の物語。





 王都の兵士とは、顔を合わせるコトが多い。

 ソレは兄が兵士だからという理由だけでは無く、自分の目によって目撃したアレコレを証言するコトも多いから、だと思われる。


 ……あと、結構気さくな方が多いから話しやすいんですのよね。


 なので休日に顔を合わせたらさらっと挨拶するコトも多く、お互い時間があるようなら話し込むコトだってある。

 つまり、兵士にも友人が居るというコトなのだが。



「あら、エヴゲニーにコンフュージョンドルフィンじゃありませんの。ハァイ」


「お、ジョゼフィーヌじゃねえか。よう」



 手を振りながら声を掛けたら、兄の同僚であるエヴゲニーが手を挙げたのでそのままハイタッチ。

 彼は兵士の中でも気さくなヒトであり、近所の兄ちゃん感が強いので話すコトも多い。


 ……最初はちゃんと、エヴゲニー兵士って呼んでたんですけれどねー。


 同僚である兄の妹だし、なにより頻繁に顔を合わせるコトが多いから呼び捨てで良い、と言ってくれたのだ。

 ちなみに他の兵士達も呼び捨てで良いと言ってくれたので、兵士の知り合いはほぼ全員呼び捨てである。



「あらあらぁ、ジョゼフィーヌは今日もまたナニか目撃したモノを証言しに来たんですかぁ~?」


「コンフュージョンドルフィン、確かにわたくしが話しかける時の七割くらいソレですけれど、時々は残り三割のナニも無いけど話し掛けた、っていうのがありますのよ……?」


「うふふぅ、わかってますよぉ」



 エヴゲニーのパートナーであるコンフュージョンドルフィンは朗らかに笑いつつ、ヒレでこちらの頭を撫でた。

 彼女は空を飛べるタイプのイルカなので、地上でも活動が可能なタイプだ。



「目撃したとかならぁ、ジョゼフィーヌはもうちょっと慌てた様子ですものねぇ」


「あー、確かにな。ヤベェ時は必死で駆け寄って来るし、緊急性無い時は駆け寄っては来ないけど引き攣った表情してるし」


「悪人に追われてたり監視されてたりする時は真顔ですしねぇ」


「そう考えると笑顔でハイタッチした今日は何事も無しで良い日ってコトだな!平和最高!イエーイ!」


「わたくしの態度でその日の運勢決まるみたいに言われるのはちょっとアレですけれど、イエーイ」



 今度は両手でハイタッチ。



「エヴゲニーの方はどうですの?今忙しかったり?」


「いや?全然。脱走犯も居ないし問題なーし」


「犯罪者も今日は見ませんしねぇ」


「居たら飯食えるんだよなーと思うけど、居ない方が良いのも事実だからなあ」


「うん、まず武器だの地面だのは普通食べ物と認識しませんわよ」



 エヴゲニーは遺伝でどんなモノでも食べるコトが可能な混血だ。

 しかも味覚が優れているのか食べたモノの味を覚えるコトが出来るらしく、味覚とほぼ繋がっている嗅覚からその匂いを探って追うコトも出来るんだとか。


 ……つまりは、ヤンの凄いバージョンですわよね。


 同級生であるヤンは武器を食べるコトが出来るが、武器だけだ。

 いや普通の食事も食べれるがソレはソレとして、流石に地面やら靴やらまでは食べられない。

 しかしエヴゲニーはソレらを食べるコトで、付着している味や匂いから犯人を特定、追跡が可能なのである。


 ……ソレに味覚がちょっと違う、っていうのも強みなのかもしれませんわ。


 ヤンは武器に付着している味がわかり、ソコから持ち主などを特定するコトが出来る。

 だが武器そのものは武器なので、美味しくは感じないらしい。

 けれどエヴゲニーはソレらを味覚的に普通に美味しいと認識するらしく、ワリと進んで食べるのだ。


 ……進んで食べるモノじゃないし、進んで食べる程存在してても困りますけれどね。


 だって追跡用のモノというコトは、イコールで犯罪があったというコトなのだから。



「……お腹空いてるんですの?」


「ちょっとな。時間的に小腹が空く時間だし」


「ああ、確かに」



 放課後であるコトを考えると、丁度お腹が空いてくる頃合いだろう。



「良かったら一緒にナニか食べます?ソコらの屋台とか美味しそうですし」


「お、良いなソレ!」


「待ったぁ!」


「ウゲッ」



 笑みを浮かべて頷いたエヴゲニーに体当たりしながら、コンフュージョンドルフィンが止める。



「却下!ですよぉ!」


「ナンでですの?」


「ちょ、あの、俺に体当たりしたコトへの謝罪と心配は?俺思いっきり被害者じゃね?」


「あ、もしかしてエヴゲニーって食べちゃ駄目なモノがあるとか?それともお腹膨らますと仕事に差し支えあるとかだったり?食べて追跡するタイプですし」


「ジョゼフィーヌ?あの、思いっきり体当たりされた俺に心配の言葉とかさ、ちょっとくらいさ」


「いいえぇ、エヴゲニーは本当にナンでも食べれるのでその辺りは一切心配しなくて大丈夫ですよぉ」


「コンフュージョンドルフィーン?まずお前は俺に体当たりしたコトによる俺のダメージとかさ、そういうのを心配してくれても良いんじゃねえの?」


「ただ屋台の食べ物って結構単価高めだからイヤなんですよぉ。兵士のお給料はちゃんとしてるから多少の買い食いは問題ありませんけどぉ、エヴゲニーって結構量食べますしぃ」


「あー、確かにちょっとお高めのトコはありますわね」


「でしょう?蓄えはあった方が良いですからぁ、あんまり不要な出費はイヤなんですよぉ」


「コンフュージョンドルフィン、あの、食いモンって不要な出費じゃねえと思うんだけど」


「でもエヴゲニーなら食べ物じゃなくても美味しく食べれるじゃありませんかぁ。ソレならタダで済む石とか食べてお腹膨らました方が合理的だと思いませぇん?」


「ヤだよそんなんせめて石じゃなくて草にしてくれそっちの方がまだ野菜に近いから……じゃない!聞こえてたなら反応しろ!」



 ……ソコでも無いと思いますわよー。


 まあこのやり取りはよくあるコトなので微笑ましく見守るだけだが。

 ちなみにコンフュージョンドルフィンはお察しの通り、守銭奴である。

 貯め込んでパーッと使うというタイプでは無く、ただ貯め込んでお金が沢山あると安心する、というタイプらしい。


 ……もっとも必要な時はちゃんと使うタイプでもあるっぽいですけれどね。


 パートナーに我慢させて自分は豪遊、というタイプでは無いのは良いコトだ。

 良いコトだし実際食べれるとはいえ、パートナーの買い食いを止めて道草食わせようとするのはどうかと思うが。


 ……や、道草を選択したのはエヴゲニーであって、コンフュージョンドルフィンが提示したのは石でしたけれど。


 草は食べれる草ならともかく、食べるに適していない草の場合は石と大して変わらないと思うのだが。

 本人や本魔からすると、腹が満ちればオッケーという雑な括りなのかもしれない。



「……もし良かったら、いつも王都の為市民の為に働いてくれている兵士さんに屋台の食べ物、一人前ずつでよろしければ差し入れますわよ?」


「本当か!?」


「一人前ずつってコトは私にもですかぁ!?キャー!ジョゼフィーヌは良い子ですねぇ!」


「むぎゅう」



 思いっきり飛びつかれたので、抱き締めるように受け止める。



「んふふふふぅ、私はですねぇ、前から気になってたあの屋台が良いなぁって思うんですよぉ。魚の串焼きのお店なんですけどぉ」


「おまっ、コンフュージョンドルフィン!?お前俺には我慢しろって言ってたクセに容赦ねえな!?

確かに喜んだ俺も俺だけど、年下、ソレも結構お世話になってる同僚の妹相手にタカるっつーのは改めて考えると!」


「翻訳の仕事してますから別にちょっと奢るくらい問題ありませんわよ?屋台料理ですし。気になるってんならお兄様の話を聞かせてくださればソレで結構ですわ」


「ジョゼフィーヌ……俺より大人っぽいな……」


「あ、ついでにお兄様には「悪人には心を一切許さず警戒心を常に持つように」と」


「毎回その言伝頼まれるしそんだけ心配になるくらいにはサミュエルがぽやんとしてるのはわかるけどよ、ホントに妹?兄も姉も居るのにメンタル逞し過ぎねぇ?」


「確かにソレはちょっと思いますねぇ。下の子ならもう少しぽやんとしてそうですけれどぉ?」


「わたくしの場合、幼少期に成人済みな異世界の記憶がINしましたもの。一気に成熟メンタルですわ」


「あー」


「成る程ぉ」



 端的に説明すれば、納得いく理由だったのか一人と一頭が腑に落ちたという表情でうんうんと頷いた。



「あとお兄様がああいう、まともではあるけどちょっと大らか過ぎるのと、お姉様が大分自由だったのも理由だと思いますわね。弟であるオーレリアンも末っ子なのにかなりしっかり者なワケですし」



 特にオーレリアンの場合はエメラルド家の跡継ぎになるのがほぼ確定しているのでしっかりせざるをえないだろう。

 まあ本人の性質的には合っている気がするが。


 ……お兄様が兵士で、お姉様は自由に旅をしてて、わたくしは翻訳家ですものね。


 将来も翻訳家をするかどうかは今のトコロ決まっていないが、少なくともエメラルド家の跡継ぎにはならないだろう。

 自分でも貴族っぽいコトに向いていない自覚はあるし。



「それらが合わさった結果、年上の兵士に飯奢るような子に……」


「私達からするとありがたいコトですけれどぉ、もう少し甘えても良いんですよぉ?」


「あら、じゃあ奢りは無しでも良いと?」


「ソレはちょっとぉ!一回奢ると言った以上は奢ってもらいますよぉ!言質ちゃんと取ってますからねぇ!」


「コンフュージョンドルフィン?お前言ってるコト大分めちゃくちゃだって自覚はあるかー?」


「私はちょぉっと自分の欲に忠実なだけですよぉ」


「ふふふ」



 相変わらずエヴゲニーとコンフュージョンドルフィンは仲が良い。





 コレはその後の話になるが、とある休日、エヴゲニーとコンフュージョンドルフィンは二手に分かれて複数人の愚か者を追っていた。

 エヴゲニーが相手の触れた地面を食べて匂いを追跡して、コンフュージョンドルフィンの居る方へ誘導する、というモノである。



「はぁ~い」



 薄い茶髪を揺らしながら愚か者達を一直線に追うエヴゲニーから逃げていた愚か者達だったが、突然真正面に影が出現した。



「皆様ここで通行止めでぇ~す」



 逃げていた愚か者達は、笑みを浮かべながらそう言って通せんぼしたコンフュージョンドルフィンを見て立ち止まり、引き返す以外には彼女を退かすしか道が無いと判断したらしい。

 愚か者達は懐からナイフを取り出し、コンフュージョンドルフィンに向けた。



「あらぁ、いきなりですかぁ?もう、お金が欲しかったのはわかりますけどぉ、そういう短絡的な稼ぎ方はいただけませんねぇ。ちゃぁんとした稼ぎ方をしないと首がいくつあっても足りませんよぉ?」



 ナイフで脅そうとしている愚か者達に、コンフュージョンドルフィンはクスクスと笑う。



「うふふぅ、ここは通行止めって言いましたよねぇ?あ、お金で通ろうなんて浅ましいコトは駄目ですよぉ?力ずくで押し通るのもぉ」



 彼女が言い終わる前に、愚か者がナイフを振り下ろそうとした。



「駄目、ですよぉ♡」



 瞬間、コンフュージョンドルフィンが避けた。

 同時に愚か者達が顔色を青ざめさせ、次々と膝をつく。


 ……ま、コンフュージョンドルフィンですものね。


 要するに彼女は混乱イルカなのだ。

 コンフュージョンドルフィンは対象に向かって特殊な超音波を発するコトが可能で、ソレをまともに受けると対象の脳が混乱する。


 ……具体的には確か、方向感覚や平衡感覚を一時的に使用不可能状態にする、でしたっけ。


 つまりはスイカ割りの時にグルグルやってフラフラになるアレの凄いバージョン、みたいなコトだ。

 幾ら三半規管が強かろうが超音波で脳を直接揺らしている為、逃げられない。

 しかもその上で超音波が直撃するように周囲に壁しかないルートへエヴゲニーが誘導しているので、本気で逃げ道が存在しない。


 ……追跡と足止めのタッグって、悪党からしたら絶望的ですわよね。


 まあ悪行を為すような愚か者がのさばるのは許し難いので、善良なる一般市民からするとめちゃくちゃ頼りになってありがたい兵士でしかないが。

 そう思いつつ、路地裏の方から気絶した愚か者達を引きずりながら出てきたエヴゲニーに声を掛ける。



「ハァイ、エヴゲニー」


「お?よう、ジョゼフィーヌ。……エ、まさか追い悪党が居るとかじゃないよな?」


「わたくしの登場をナンだと思ってんですのよ……普通に荷車の差し入れですわ。まあ借り物ですので、後で雑貨屋に返しておいてくださいましね」


「何故荷車」


「必要かと思ったんですの」


「確かに悪党の量が多いから困ってたし、ナイスタイミングだとは思うけど……って、ああ、成る程。単純に見てたからか」


「ええ、()てましたのよ」



 エヴゲニーは自分の目についてを知っているから、先程までの捕り物劇を()ていたコトにすぐ気付いた。



「ソレでわざわざ、悪党を輸送する用の荷車を借りてきてくれたんですかぁ?」


「一括で運んだ方が面倒も無いと思いましたの」


「確かにその通りだな。サンキュー、ジョゼフィーヌ。助かったぜ」



 担いでいた悪党をドサドサッと荷車に置いたエヴゲニーは、ニッと笑ってこちらの頭を撫でてくれた。

 その撫で方は多少乱暴だが痛くは無く、やはり近所の兄ちゃん的属性だと改めて思った。




エヴゲニー

よく拾い食いをしている鉄の胃袋な近所の兄ちゃん的兵士。

遺伝でナニを食べても美味しく感じる味覚だと思っているし思われているが、実際はそんな遺伝は無く単純にナンでも美味しいと思える味覚バカなだけ。


コンフュージョンドルフィン

宙を泳げるし普通の超音波で索敵も出来るし特殊な超音波で足止めも出来るし、と有能なパートナー。

ただし大分守銭奴なのとエヴゲニーの味覚バカを薄々察している為、買い食いはさせずに拾い食いを推奨している。


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