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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
五年生
152/300

機械教師とアイアンハンドツール



 彼女の話をしよう。

 機械教師で、機械好きな生徒に自分の研究室を共有していて、遺伝で記憶を外部に保存可能な。

 これは、そんな彼女の物語。





 ラザールパティシエに古いレシピの解読を頼まれ、そのお礼としてホールのガトーショコラを貰ってしまった。

 一人で消費するには多く、ロザリーと食べるにも多い。

 最近ロザリーのパートナーになったグルームドールは人形なので飲食しないタイプだから戦力にならないし、というコトでフェリシア機械教師の研究室へ差し入れる。


 ……ナンかこう、押し付けているような……。


 いや自分からすると押し付けに近いとはいえレンカという甘党が居るので、問題は無いハズだ。

 基本的には喜ばれているし、頭を使う部分が多いからか糖分に飢えやすいようだし。

 そう思いつつ来たのだが、研究室には珍しくフェリシア機械教師しか居なかった。


 ……や、フェリシア機械教師の研究室なんですから、コレが本来普通のハズなんですけれど、ねー……。



「こんにちは、フェリシア機械教師。他の皆は不在ですの?」


「ん、エメラルド」



 扉の開閉に気付いていなかったらしく、声を掛けて初めて気付いたのかフェリシア機械教師が振り向いた。

 それにより艶のある朱色の髪が揺れ、左耳の上に挿さっているかんざしのような飾りがシャランと音を鳴らす。



「いつもの差し入れっすか?」


「ええ。今日はガトーショコラのホールですわ」


「あー、今日は全員来てねえんすよね……私達で食いきれる気がしねえ」


「や、全部食べなくても置いといて誰か来たら渡せば良いですし、余った分は友人にあげるなりすれば」


「私基本的に機械弄りしかしてきてねえんで、友人って言えるようなヒト居ねえっすよ」


「……同僚である教師仲間との酒盛りに参加してるんなら、友人って言って良いと思いますわ、よ……?」


「えー、もしソレで「友人とは思ってない」って言われたら傷つくヤツじゃないっすか」


「そんなコトは……一部さらっと言いそうではありますけど」


「ホラ」


「アンタらどういう会話してんだよ」



 フェリシア機械教師の胸元から、深い溜め息と共にそう言われた。

 溜め息を吐きながらそう言ったのは、フェリシア機械教師のパートナーであるアイアンハンドツールだ。

 彼は現在ドッグタグの見た目でフェリシア機械教師の胸元に提げられているが、本来の姿は手動工具である。

 もっとも手動工具であればどの姿にもなれる為、具体的に手動工具の中のどれが本来の姿か、と言われると困るらしいが。



「良いからさっさとガトーショコラ食っとけっての、フェリシア。お前今日の昼飯食ってねえんだし」


「エ、私食べて無かったっすか?」


「食ってたのは朝食だけだよ。今日は午前だけだからっつって、授業終わったらソッコで研究室に引きこもってそのまんま。

いっそのコト飴かナンか常備しといた方が良いんじゃねーの?」


「飴なんて常備したら無意識でポイポイ口に運んで凄いカロリー摂取になって確実に太ると思うんすけど」


「寧ろもうちょい太れよお前は!

エメラルドが差し入れしてくれるようになってからギリギリでガリじゃ無くなったけど、アンタまだ世間一般的な基準じゃガリだかんな!?」


「ガリじゃねえっすコレでも差し入れ食うようになってから太ったんすよ!?

今まで浮いてたアバラがあんま浮かなくなったんすから!」


「ソレもあってラザールパティシエはよく試食品とかくれるのかもしれませんわねー」



 言い合う一人と一つはいつものコトなので、適当にそう言いつつガトーショコラを切り分ける。

 よくここに差し入れを持ってくるからか、一年生の頃には無かったハズのケーキ皿と切り分け用のナイフが常備されているのだ。

 確か二年の頃くらいからだった気がする。



「頻繁に寝食とか忘れがちなここのメンバー用にって」


「ホラ見ろエメラルドだってそう言ってんでしょうが!

不健康に太るのがイヤなら健康的に食って寝て健康に太れ!不健康に痩せてんじゃねえよ!」


「好きで痩せたり太ったりしてるワケじゃねえっすよ!?

私の場合は記憶をメモリに保存してる分、メモリを挿す時に熱量持ってかれるってだけっす!」


「普段記憶をメモリに保存してる分他のヤツよりトータルの熱量消費は少ないんじゃねえの!?ハイ論破!」


「ほ、他にも熱量消費してるっすよ!?例えばホラ新しい機械作ったりとかでメモリ挿しては抜いてを繰り返したりしてますし!

パソコン作りとか凄い難しくて難航してるから最近ホントにその頻度高いですし!つかそのくらいアイアンハンドツールだって知ってるっすよね!?」


「知ってるけど結局ソコまでの熱量云々じゃねえだろうし、もし仮にそうだったとしたらその分食えっつってんだよ!」


「食ったら太るじゃないっすか!」


「食わねえとアンタがガリガリに痩せてくんだよ!」


「フェリシア機械教師、アイアンハンドツール、とりあえずガトーショコラ切り分け終わりましたし、ついでに紅茶も淹れたのでその辺で止めにしていただけます?紅茶が冷めますわ」


「…………」


「…………」



 不満そうな無言ではあったが、紅茶を温かい内に飲む方を優先したのかフェリシア機械教師は大人しく座り、紅茶を受け取った。

 一口紅茶を飲み、疲れたように深い溜め息を吐く。



「ハァ……美味いっすね」


「ソレは良かった」


「俺としちゃあまだまだ言いたいコトはあるが……とりあえずカロリー摂ってくれるんならソレで良いか」


「カロリーとかイヤな言い方しねーでくださいよ。美味しい紅茶と美味しいケーキがあるだけっす。

カロリーなんてモンはねえっす」


「確かに乙女にとって、カロリーは天敵ですわよね」


「エメラルドだってそう思うっすよねえ」



 同意を得たからか、フェリシア機械教師はにへらぁっと笑った。

 しかし残念、別にフェリシア機械教師の味方をする気は無い。



「でも実際フェリシア機械教師はちょっと不健康な痩せ方してるので、もうちょい太った方が良いとは思いますわ。

そのままだと血管細くなり過ぎて指先に血が巡らなくなる可能性がありますわよ」


「エ、ナンか味方してくれると思ったら裏切られたんすけど……つか多少冷え性になるくらいなら普通じゃねっすか?冷え性は私の幼馴染っすよ」


「どういう幼馴染ですの、ソレ……」



 そんな幼馴染とは縁を切れ。



「まあ血管は筋肉に近いので鍛えれば太くなったりはするそうですが、今のままだと冷え性どころか……」


「ナンでソコで言うの止めるんすか。ちょ、怖いんすけど」


「わたくしが紅茶飲んでる程度の時間すら耐えられないくらい怖いなら健康的に生きるようにすれば良いじゃありませんの」


「そういう体育会系のテンションで生きてねえんす」



 ……体育会系なんでしょうか、コレ。



「とりあえず血管が細いと当然貧血になりやすいですし、圧迫もされやすい。

痣とかすぐ出来ると思いますわよ」


「ウ」


「痣は内出血ですものね。血管が細いというコトは薄いガラスのようなもの、すぐに内出血するのは不思議ではありません」


「グ」


「ホースとかで考えるとわかると思いますけれど、水出してる時にホースを潰して幅を狭めると勢いが増したりしますわよね?つまり高血圧にもなりやすい」


「グゥゥッ……」


「圧迫されやすいというコトからすると、肩や首のコリが悪化すればその分毎秒気絶するとかもあり得るかもしれませんわ」


「…………」


「これからも機械を弄り続けたいのであれば、多少健康的になる必要がありますわよ」


「よく言ってくれた」



 無言になったフェリシア機械教師は顔を覆ってしまっているが、アイアンハンドツールはしみじみというような声でそう言った。



「ホント、今のままじゃ心配だもんな。俺に手があったら拍手喝采を贈りたいレベルでよくぞ言ってくれた」


「心配というか、まあもっと大変そうな子も居るっちゃ居るし、緊急性は無いと思いますけれど……緊急性があるってなったら手遅れでしょうしね」


「おい聞いてるかフェリシア、生徒からのありがたい言葉だからちゃんと聞いとけよ」


「聞きたくねぇっすぅ……つか一応重いの持ったりで最低限の筋肉は」


「筋肉は材料になるモノが必要なんですのよ。

つまり脂肪があればソレを材料にして筋肉が作られますけれど、脂肪が無い状態では穴開いた家を補強する為にとその家の木材を使用するようなモノ。

そんな方法じゃ毎回どこかが穴開きますし、最終的に限界が来て倒れるのがオチですわ」


「エメラルドって魔物知識に特化してるハズなのにナンでそうも人体知識があるんすか!?」



 ヤケクソのようにそう言われても困る。



「魔物だって肉の体持ってたら人体と似たようなモンですから、多少は。

あとわたくし一応全部の授業取ってるので大体のコトに関して最低限の知識は持ってますわよ」


「うう、教師として知識量で負けた気がするっす」


「いや、わたくし機械に関してはいまいち理解し切れてないのでソレはあり得ませんわ。

得意不得意もありますし……というか」



 ガトーショコラを頬張りながら、フォークでフェリシア機械教師の手元にある手付かずのままのガトーショコラを指差す。



「ソレ、食べませんの?」


「食べたいけどエメラルドが怖い話してきたから食欲が激減したんすよ!」


「食べない方がマジで怖い話ルートに入ると思いますわよ」



 食べればただの怖い話で済むが、食べないのを維持すればマジであった怖い話になりかねない。

 そう指摘すると、ソレを察したのかフェリシア機械教師は涙目になりながらガトーショコラを頬張った。



「うう……エメラルドは怖いけど美味しいっす」


「酷い言われよう」



 自分のドコが怖いと言うのか。

 ガトーショコラ食べてちょっと話したりしたら一旦食堂へ戻ってお弁当作ってもらってフェリシア機械教師に差し入れしようと思うくらいには善良なのだが。

 いやまあ、善良というかただ単に改めて現状を鑑みた結果、心配になってしまっただけではあるが。





 ガトーショコラを食べ終え、ふぅと一息つく。



「……あ、そうだ」



 フェリシア機械教師は思い出したように近くにあったパソコン(仮)を引き寄せる。



「エゴールに頼むのはもうちょい弄ってからって思ってるんすけど、そろそろ頼まないと無理かなーって感じなんすよね」


「エゴール魔道具教師に……って、こないだ言ってた異世界へ繋げる云々のヤツ、マジでやる気ですの?」


「良いじゃないっすか別に。そういうのがあるとこっちも色々やりやすいんすよ。

無料で出来るゲームってのもあるんすよね?そういうのって異世界の常識や価値観知るのに便利だろうなーって思うと、一回繋げたいんす」


「でもその前に自力でやれるトコまではやる、と」


「モチロン。結果同じで式が違うだけ、私がやろうとしてる方が式も遠回りで長ったらしいってのはわかってるっす。

でも自分の好きな式でやれるトコまではやりたいっすからね」


「……成る程」


「ってワケでまたエメラルドに色々質問したいんすよ」



 ニッコリ笑顔でそう言われても、自分としては苦笑するしかない。



「だから、わたくしの知ってるコトは殆ど話しましたわよー……」


「でも私が質問したらまた色々発見になるかもしれねえじゃねえっすか」


「……ま、ソレもそうですわね」



 新しいモノは思いがけないトコロから見つかったりするものだ。

 お米だって新種というのは突然変異から発生するモノだし、そういう横からの乱入からの不意打ちみたいなモノは必要なのだろう。


 ……や、横からの乱入からの不意打ちは流石に不要だと思いますけれどね。



「ソレで、ナニを聞きたいんですの?」


「ああ、ソレは……」



 言いかけ、フェリシア機械教師は左耳の上に挿されているメモリの飾りを指先で弄った。



「すんません、ちょっとその記憶はこのメモリに入ってないっぽいっす」


「……立ち上がろうとしてないってコトは、ソコの棚に入ってるメモリを取れってコトですわね」


「やー、言わなくても察してやってくれてありがたいっす」


「やりたくてやってんじゃありませんのよー?」



 引き攣った笑みを向けてそう言いつつ、棚に仕舞われている箱を取り出す。

 その箱の中にはカラフルな、多種多様なかんざし……のように見える飾りがつけられたメモリがミッチリと詰まっていた。


 ……遺伝って、凄いですわよねー。


 フェリシア機械教師は機械系魔物との混血だ。

 とはいえセリーナのように機械との会話が出来るタイプでは無く、左耳の上に開いているプラグ穴にメモリを挿し込むコトで記憶をメモリに保存するコトが出来る、というタイプだが。


 ……まあ、同じ親でも全然違う遺伝をしてたりしますから、同じ機械系混血でもそのくらいの違いはありますわよね。


 ちなみにこの箱の中に詰まっているメモリは、それぞれ違う知識や記憶が保存されているらしい。

 フェリシア機械教師曰く、記憶力は平均でしかないからこうやって知識を外部保存しているんだとか。



「ハイ、どうぞ」


「助かったっす」



 箱を受け取り、フェリシア機械教師は飾りを指先で退けながら特定の記憶や知識が入ったメモリを探す。



「んーと、この色じゃなくって……この系統の飾りだった気がするんすけど……」


「……前から思ってたんですけれど、どうしてメモリに極東のかんざしみたいな飾りをつけてるんですの?」


「どうしてって言われても……どうしてだと思うんすか?」


「ソレがわかんないから聞いてるんですけれど……うーん、見分けをつける為?」


「三割くらいはその理由で合ってるっす」



 咄嗟の発想だったのだが、三割とはいえ合っていたらしい。



「残りの七割は?」


「……恥ずいんで、あんま言いたかねえんすよ」


「おいおい、ここまで言っといてそりゃねーだろ」



 ククク、と喉で笑うような声でアイアンハンドツールが言う。



「あのな、エメラルド。コイツがわざわざメモリに飾りつけてんのは、昔怖がられたコトがあるからなんだよ」


「怖がられた?」



 ナニをだろう。



「今エメラルドはナニを怖がられたんだろう、って思ったろ?」


「ええ」


「ソコだよ、ソコ。今の子にとっちゃ混血なんてそこら中に居るし、見た目からして明らかに違ったり、変わった能力があったりっつーのは常識だ。

フェリシアみたいに耳の上にメモリが入るレベルの穴が開いてんのも、そういう遺伝ならそういうモンだ、って認識してるんだろ?」


「そりゃまあ……遺伝なら、トカゲ系混血の子に鱗が生えてるようなモンですし。わたくしだってお父様の目が遺伝してますし……」



 黒髪と茶髪の間に黒髪の子が生まれてナニかおかしいコトがあるのだろうか。

 いやまあ誕生の館では子供の遺伝子を整える為に、両親となる存在の遺伝子から優れている部分を、しかしソレでいて遺伝子が重ならないようにしながら子供用の遺伝子をピックアップし、子供を作るが。


 ……アレですわよね、近親相姦を続けると血が濃くなって遺伝子の多様性が無くなる為に体を構築し辛く、結果奇形児が生まれやすくなるとかのアレ。


 そして近親どころか種族的に子供を作るコトが不可能な存在同士の間に子を作る為、誕生の館のシステムはとても細かいコトになっているらしい。

 もっともその分、近親だろうが同性だろうが問題無く子供を作れるようにはなっているのだが。


 ……近親かつ性行為で子供を作り続けると遺伝子がアレなコトになってしまうからこそ、両方の遺伝子から重なり合わない、遠い部分をピックアップして子供を作る、っていうシステムもあるんでしたわね、確か。


 だからこそ兄弟姉妹で両親と髪色がまったく違う、というコトも現代では多い。

 単純にどっちかの遺伝子の中にあるご先祖様の要素をピックアップしただけの産物なのだが、誕生の館が無い頃はそういうのがかなりヤベェ扱いだったらしい。


 ……浮気したんじゃ説とかがガチで信じられるレベルで性行為がソコらに蔓延してた時代とか、恐ろしいですわね。


 まあ奇形児云々と言っても、違う種族同士の間に生まれた混血自体奇形児のようなモノだが。

 生態だの見た目だの、生粋の人間と比べれば異常と判断される部分なぞ無限にある。



「ただなあ」



 誕生の館についてをごちゃごちゃ考えていたら、アイアンハンドツールが続きを語り始めていた。



「ホラ、エメラルドは若いから知らねえかもしれねえが、昔ってのは当然ながら混血がそこまで浸透してねえんだよ」


「まあ、でしょうね」



 誕生の館は自分からすればずっと昔から、それこそ生まれる前からある場所だが、世界的に見ればまだつい最近作られた場所だ。

 つまり母が学生時代の頃にようやく浸透し始めたかなくらいのレベル。



「だからさ、フェリシアのあの穴?結構怖がられたらしい」


「エ、怖がる理由ありますの?」



 例えばトカゲの子であれば、トカゲらしく鱗があるのは当然だ。

 ソレを怖がるというのはどういうコトだ。


 ……トカゲの子に鱗が無い方が怖いと思いますけれど。



「んーと、生粋の人間とかからするとな?頭部に穴が開いていて、しかもソコにナンか細かい回路やらが仕込まれた棒を挿すってーのが理解出来なかったらしい」


「あ、ああー……」



 確かにそう考えると怖いかもしれない。

 本来挿れる穴が無いハズの部分に穴が開いていて、ソコに見慣れない棒状のナニかを挿すのだから。



「だから怖がらせないようにってコトで、かんざしのような飾りをつけるコトにしたらしい」


「うん、ソコわかりませんわ」



 どういう起承転結があったんだソコに。



「だって怖がられても、私からするとコレが自分流の思い出し方っすからね」



 目的のメモリが見つかったのか、フェリシア機械教師は緑色の飾りがついたメモリを手に取りながらそう言う。



「ヒトがうーんと唸って記憶を思い出すのと同じコトなんで、ここを変えるのは無理っす。

人間だって鰓呼吸で呼吸しろって言われたって無理としか答えらんねえように」


「そりゃ無理ですわね」


「でしょ?だからとりあえずこう……頭に挿すし、棒状だし、位置似てるしってコトで、かんざしっぽい飾りをつければ良いんじゃ?って」


「や、わかりませんわ」


「えー、わかんねっすか?こう、似てる飾りがあったらそっちに視線行くじゃねっすか。

つまりメモリの先端が頭部から見えてるよりかは、それを隠すように目立つ飾りがあれば、勝手にかんざしみたいな髪飾りかな?って思われて、色々言われるのを阻止する!っつー作戦っす」


「成る程」



 つまりカーテンのような役割目的で飾りをつけていたのか。



「まあコレあるとメモリの区別つけやすいんで助かるってのも三割なんすけどね」



 そう言いながら、フェリシア機械教師は左耳の上に挿されているメモリを抜き取り、緑色の飾りがついたメモリを新しく挿す。



「…………ん、ん。よし、オッケーす。異世界の機械に関する知識とか全部思い出したっすよ!」


「そのメモリに全部入れてんですの?」


「まあ、系統同じなら一つに纏めた方が便利っすからね。穴一つしかないからメモリ一本ずつしか入んねーですし」


「成る程」



 同じ系統の本を同じ本棚に並べるようなモノか。



「んじゃ早速質問したいんすけど、ここの回路ってどうなってんすか?」


「知りませんわ」


「ですよねえ。エメラルドにINした記憶、本気でこの辺の回路とか理解出来てねえみてーですし。

ただ操作するコトが出来てたっつーんなら、いっそのコトどういう操作をしていたのか、どういう使用法をしていたのかを聞く方が良いか?」


「操作が出来てたって言っても、最低限ですわよ?

コードやらナンやらの数字や外国で用いられる文字の羅列がナンなのかも理解不能でしたもの」


「んー、異世界からINした記憶の持ち主がエメラルドみたいにどんな文字も読める目を持ってなかったっつーのが痛いっすね。

ソレがあれば結構役立ったと思うんすが……まあ手探りでやんのも、時間掛かる分楽しいから良いっすけど」



 フェリシア機械教師はわくわくした表情でそう言った。

 自分としては専門ではない分野をやたら質問されたりする時間は苦行に近いのであまり好ましくは無いのだが、元となるネタを提供してしまったのは自分なので、仕方がないと諦めるか。





 コレはその後の話になるが、パソコン(仮)を弄っているフェリシア機械教師を眺めているのも暇なので、アイアンハンドツールと会話して暇を潰す。



「じゃあ、結構長い付き合いなんですのね」


「フェリシアが学生の頃からの付き合いだからな。

当時は機械の授業なんて無かったから完全に趣味だったんだが、学園長は昔々の戦争とかを知ってるだろ?」


「知ってるというか、経験者ですのよね、あのヒト」



 戦争経験者である不老不死勢に戦争についてを聞くと、示し合わせでもしているのかと思うくらいに同じ答えだ。

 戦争なんて失うだけの悲惨なモノだ、と。



「んでもって、戦争の時は機械系魔物が結構生み出された時なワケだ」


「ああ、そういえば」



 機械系魔物の大半は、戦争時の戦争用兵器として作り出されたモノである。

 マシンタイガーなど正にソレ。



「だから機械イコール戦争用兵器ってイメージがあったらしいんだが、フェリシアが自作した時計やらオルゴールやらを見て、学園長もそういう便利な機械を知るってのもありか、って思ったらしくて」


「で、スカウトですの?」


「そう、スカウトですの。学園長曰く、機械が怖いは怖いけど時計だって爆弾になるし、フォークでヒト殺せるワケだから今更だ、って」


「や、まあ、事実ですけれど……」



 確かにちょっとの試行錯誤でヒトが救えるのならちょっとの試行錯誤でヒトを殺せるのも事実なのだが、わざわざ言うコトでは無いと思う。



「……そう考えると、アダーモ学園長は凄いですわよね。

当時まだ機械に対しては殆どのヒトが微妙な反応だったでしょうに、教師としてスカウトするなんて」


「時代を先取りするヒト、っつーか時代を作ってくヒトって感じだからじゃねーの?

実際今はゆっくりと機械も浸透してきて、機械に興味ありまくりな生徒が何人かここに通うくらいだし」


「最初セリーナとレンカくらいだったのに、増えましたわよね」


「な」



 まあ自分としては差し入れという名の試食品の消費が楽になって助かるが。



「……なあ、エメラルド」


「ハイ?ナニか質問でも?」



 パソコン(仮)に視線を向けたままなフェリシア機械教師にそう問うと、いや、と首を横に振られる。



「いや、ちょっと……私の記憶はメモリなワケじゃないっすか」


「メモリっていうかメモリにインプットだかダウンロードだかしてるんだと思ってますけれど、まあメモリですわね」


「そしてソレをIN出来る」


「……ま、まあ、そうですわね?記憶の出し入れってワケですし」


「つまり栄養補給のメモリを作成したら、挿すコトで栄養を補給出来るんじゃ」


「普通に飯食えよ!」



 流石に黙っていられなかったのか、アイアンハンドツールが思わずというようにそう叫んだ。



「普通に!飲み物と!食事を!摂れ!」


「や、食事だとホラ、ロスが大きいじゃないっすか。

基本的に空腹感を満たす為の物理的なモンっすから、空腹感あんま感じない私なら人体に必要な栄養だけをピックアップして吸収すれば最低限で済むし」



 ソレは異世界である地球ではサプリメントと呼ばれているモノではないだろうか。



「フェリシアは頭に穴開いてようが記憶がメモリ保存だろうが混血だろうがれっきとした人間!だろうが!生き物としてちゃんと飯食って寝ろ!」


「でも記憶をメモリに仕込めるってコトは多分栄養だって仕込めるっすよ。

そしたらメモリ挿入すれば栄養もりもり元気爆発」


「ソレ、中毒性発生しませんわよね?」


「そうだそうだ!エメラルドもそう言ってんでしょうが!万が一があったらどうするんだお前は!

危険なコトしなくても出来るコトは遠回りでも安全な方を選べ!」


「そうは言っても、成功したら便利っすよ。ん、寧ろ睡眠のメモリとか作ってみるのもアリっすかね。

ソレを挿入すれば一瞬でガッツリ睡眠したようなコトになれるのでは」


「んな不健康なコトをパートナーとして許せるか!」



 先程だらだら喋っていた時に知ったが、アイアンハンドツールの方がフェリシア機械教師に惚れてパートナーになったらしい。

 だからこその、心配からくる言い合いが多いのだろう。


 ……傍から見てるとこのやり取り、親の心子知らずにしか見えませんけれどね。



「エメラルド!第三者として客観的にナンか言ってやってくれ!

出来ればフェリシアを止めれるような言葉を!」


「無理難題じゃありませんこと?」



 第三者に求めるハードルが高いと思う。



「えーと……とりあえず成功したら良いコトかもしれませんけれど、失敗する可能性の方が高いですわ。

未知のコトですし」


「だが失敗は成功の母って言うじゃないっすか。失敗の分だけ成功が生まれるっすよ」


「ソレは良いんですけれど、万が一致命的なミスが発生したらフェリシア機械教師のその穴が故障してメモリを挿入して外部保存してた記憶を読み込んだりが出来なくなる可能性がありますわよ」


「エッ」



 ソースは異世界の自分。

 スマホという端末の充電云々でそういうコトになるコトが多かったらしい。



「もしくは失敗しているメモリを挿入して読み込むコトで、読み込み部分が変な読み込みをしてウイルスが……えーと、つまり内部が修復不可能レベルで故障する可能性がありますの」


「た、確かに……私の場合、全部が機械じゃなくて挿し込み部分だけが機械っぽいってだけっすからね。

最悪脳みそ物理的に弄ってもらって治してもらうしかない可能性も」



 脳みそ物理的に弄って治るモンなのだろうか、ソレ。

 メモリで記憶だったりすると脳に流す電気によって活性化云々みたいなアレという可能性もあるので、そうなると電気流しまくるしか方法が無い気もする。


 ……まあ、ソコまで人体の電気信号や脳の作りに詳しいワケじゃないので実際どうなのかは知りませんけれど。


 寧ろ無知な方だ。



「だからとりあえず、記憶以外をメモリ化するコトが可能なのか、というのをご両親に聞いた方が良いと思いますわよ。

遺伝元であるご両親なら知識あると思いますし」


「……成る程。後で久々に手紙でも書いて聞いてみるっすかね」



 納得してくれたのか、フェリシア機械教師はふむふむと頷いてくれた。



「よくやった、エメラルド……!よくぞフェリシアを落ち着かせてくれた……!」


「や、まあ、知ってる知識と薄ぼんやりした想像で言っただけなので実際どうなるかはわかんないんですけれど、ねー……?」



 ただ無理そうな気がしたので、止めなくてはとなっただけだ。

 ちなみに後日フェリシア機械教師から、そういうシステムは無いから無理らしい、と報告された。



「止めてくれた生徒にお礼言うように、って言われたっす。

どうもホントにエメラルドの想定通りのコトが起こる可能性があったらしくって」


「ワー……」



 お礼を言われたのは嬉しいが、あまり聞きたくない情報だった。




フェリシア

遺伝で頭に差し込み口があり、自作したメモリに記憶を外部保存している。

機械に対する興味が強い為、新しい発見になるし良い刺激になるからと、機械系が好きだったり得意だったりする生徒に声を掛けて一緒に色々作ったりしている。


アイアンハンドツール

普段はドッグタグの姿でフェリシアの首から提げられているが、必要な時に必要な手動工具になれる為重宝されている。

フェリシアに惚れて押し掛けるようにパートナーになったのだが、フェリシアの社会不適合っぷりに最近オカン化してきてるとレンカ辺りに言われている。


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