スルー少女とインバートミラー
彼女の話をしよう。
生粋の人間でありながら無効化体質であり、その為やたら豪胆なメンタルで、大体のコトをスルー可能な。
これは、そんな彼女の物語。
・
中庭で歴史の本を読んでいると、遠くからオリーヴィアが駆け寄ってきた。
「ジョ、ッゼー!」
「ジョッゼーという方は知らないヒトですわねー」
「アハ、ナニそれ!」
オリーヴィアは笑顔を浮かべながら、自分にぎゅうっと抱き着いた。
「……どうかしたんですの?そうも密着されると本が読めないんですけれど」
「本よりまず私を心配しての「どうしたの」が良かったわねソレ!」
「五割くらいソレですから四捨五入すればオリーヴィアにナニかあったのかを心配しての「どうしたの」ですわよ」
「そっか、なら良い……エ、良いのかな?コレ計算合ってる?」
「多分」
五割に四捨五入すればオリーヴィアへの心配が読書欲を上回るので、実質十割オリーヴィアへの心配となる。
まあこの計算は間違っている気しかしないし、五割読書欲であるコトに変化は無いのだが。
「でもジョゼ、ジョゼなら私がナニに困ってる……困ってるのかな。困っては、別に、いないような」
「結局ナンなんですの」
「ああうん、ちょっと相談?というか、聞きたい魔物が居るというか」
「ん?魔物が聞きたい?」
「聞きたい魔物」
「…………種族名が気になる魔物が居るが種族名不明なので特徴を羅列するからソコから魔物を特定して欲しい、と?」
「そうソレ!流石ジョゼ!」
「オリーヴィアの場合、見抜きにくいからもうちょっとわかりやすく言ってくれると助かるんですけれどねー……」
抱き締められている為多少首を締められながらそう愚痴る。
先程の言い方だと自分に質問したい魔物の仲介でもしているんだろうかと勘違いしてしまった。
……オリーヴィア、無効化体質ですものね。
本人が任意でその体質をオフにするコトは可能だが、基本的にはオンになっている体質だ。
なので自分の目で視ても、視界に入りはするし大体の動きもわかるものの、内臓や筋肉を透視するコトが出来ない。
つまり他のヒトを相手にするよりも視えにくいのだ。
……まあ、自分へ使用された能力を無効化するっていうだけなのが幸いですわ。
だから大体の動作から次の動きを見抜けたり、表面の表情の動きは普通に視えたりするのだから。
もっとも触れるコトで他人の暴走した能力を無効化などは出来ず、あくまで自分に対するモノのみ無効化、というカタチだが。
……言うならキャンセルカンガルーの無効化に近いんですのよね。
まあキャンセルカンガルーのように無効化の効果がある体液でコーティングしているワケでは無く完全なる体質なので、魔眼なども無効化が可能だったりするが。
「ソレで、気になる魔物というのは?特徴少なかったらわたくしでもソッコで特定するのは無理ですわよ。わかりやすい特徴があるならともかく」
「えっとね、鏡の中に居る魔物なんだけど」
「うーん」
鏡の中に居る魔物の数は多いのでそれだけでは特定不可能だ。
「その鏡の中って、特定の鏡の中オンリーですの?それとも反射する全てに出現?」
「窓とか水面にも現れるから多分反射する全てに出現、かな。あ、でも反射する全てに出るっていうよりも私の鏡像みたいな感じ」
「ふむ」
つまりオリーヴィアが映っていなければ周辺にある反射するモノに出現するコトは無い、と。
「見た目は同じですの?クラシーナとドッペルミラーみたいな、鏡越しの双子のようなタイプ?」
「んー、見た目はナンか全然違うのよね。相手男だし、目の色違うし」
「まあ魔物なら目の色は違うと思いますけれど……男?」
なのに自分の鏡像のようと言ったのは何故だろう。
異性であるならソレは関連性が無いように思うのだがと首を傾げると、ソレを察したのかオリーヴィアは言う。
「男なんだけど、私と同じ朱色の髪で、私と同じくらいの年で、そして鏡には私が映るハズなのに必ずその男が映るの」
「ソレは……身嗜みを整える時が面倒ですわね」
「うん。その魔物やたら騒がしいからルームメイトもそのコト知ってて、朝はルームメイトに身嗜みチェック頼んでる」
「その魔物には頼みませんの?」
「ナンか性質悪そうだから」
「ふむ」
鏡の魔物で、同じでありながら違うという反転したかのような鏡像。
騒がしいというコトは意思があり、個体としての自我もあり、オリーヴィアの言動と一致しているワケでも無さそうだ。
……オリーヴィアと同じ言葉を発する系では無い魔物。
そして性質が悪そうとなると、ある程度ピックアップが可能となる。
「…………んん~」
「ジョゼでも難しい?」
「いえ、ある程度ピックアップは出来ましたけれど、こう……多分その魔物、オリーヴィアを鏡の中に引きずり込もうとしてますわよね?」
「凄い!ナンでわかったの!?」
「性質悪い鏡の魔物は大体ソレですもの」
本物殺して成り代わるタイプだったり、本物と入れ替わるタイプだったりと様々だが、そうやって本物になろうとする魔物は結構居るのだ。
そういう思考の魔物が居るというよりは、そういう性質の種族である魔物が複数存在する、という感じだが。
「ただその場合、平行世界から鏡を通して故意に干渉してきたタイプ、平行世界から鏡の中に迷い込んだ結果干渉してきたタイプ、そして鏡の中という反転した空間で発生したタイプ……という感じに種類があるんですのよね」
「ナニが違うの?」
「大まかに言うと種族名ですわね」
「成る程!」
実際はもっと細かいのだが、大雑把に言うとそうなるので間違ってはいない。
「一体全体どのタイプなのか……実際に見たり会話出来たりすればわかると思うんですけれど」
「ならすぐにわかるわよ?」
「エ?」
オリーヴィアに腕を引っ張られてベンチから立ち上がると、そのままぐいぐいと噴水のトコロへと連れて行かれる。
そしてオリーヴィアが噴水の水面を覗き込むと、ソコにはオリーヴィアと同じ朱色の髪で同じ年頃の、しかしオリーヴィアでは無い男が映っていた。
「キ……」
魔物だと確信出来る色の目をした男は、歯を食いしばったかと思うと直後に叫ぶ。
「キ、ッサムァ!いい加減覚悟を決めたか!?決めたか!?決めたと言え!そしてこちらへ来い!貴様もこの俺なのであろうがァ!」
「ジョゼ、この魔物なんだけど種類わかる?」
「あ、騒いでんのは完全にスルーなんですのね?」
まあオリーヴィアは大体のコトを無効化出来るからこそスルースキルが物凄いのでいつものコトだが。
水面に映った見知らぬ男の魔物が騒ぐくらいでは動じないというのは年頃の乙女としてどうなんだろうと思うが、まあ自分も大して動揺していないのでこういうモノだろう。
……や、でもわたくしは先にこのコト聞いてたからこその動揺の無さだからイージー!イージーレベルの狂人ですわ!
異世界の自分がコレで動揺しないとか頭おかしいんじゃないのかと主張してきたが、自分にはそういう言い訳があるので大丈夫だ。
自分はまだ常識の範囲内に居る。
「んーと……とりあえずアナタ」
「ナンだ、女」
「ちょっと聞きたいコトがあるんですけれど」
「ハッ!」
鼻で笑われた。
「この俺に聞きたいコト?随分と面白いコトを言う愚か者が居たモノだな!いや、しかし構わんぞ?この俺に質問があるというのであれば、ソコの女の俺をこちらに寄越せば」
「いけませんわ」
「ギャーーーーッ!?」
悪意ありというか普通に悪な愚か者と本能が判断したらしく、水面の中で手を伸ばそうとしてきたのが許せなくてついバーサクモードになってしまった。
しかもナイフに聖なる属性を付与したからか、鏡面越しだというのにナイフの攻撃が相手に通ってしまったらしく、頬に真一文字の傷が発生した魔物が悲鳴を上げる。
「き、キサッ、貴様!この俺の顔に傷をつけるとは一体どういう思考をしている!」
「まあ多少狂ってるとは思いますけれど……言動には注意してくださいましね?わたくし悪に対しては容赦が無くなるというか自分のコントロールが効かなくなりますの」
「……貴様、サイコパスか?」
「ただのイージーレベルの狂人ですわ。というワケで大人しく吐けるだけ情報を吐いてくださいな」
「貴様サイコパスだな!」
「良いからさっさとソッコで吐きなさいな。疾く疾く。ちなみに逆らってまた喧嘩売ってきたら今度は首狙いますわよ。どうもこちらの攻撃は通るようですしね」
「本当に貴様こちらに攻撃可能とか頭おかしいのではないのか!?」
攻撃可能云々についてで頭おかしいと言われるのは誠に遺憾だ。
その場合は理不尽が発生する世界に対しておかしいと言うべきだろうに。
……まあ、アンノウンワールドの場合はこのくらい日常茶飯事なので今更ですけれどね。
「で、アナタの名前は?」
「ナニ考えているかわからん目をしている上に無表情で聞いてくるか普通……聞くなら聞くでもう少し愛想を良くする気は」
「成る程、「ナニ考えているかわからん目をしている上に無表情で聞いてくるか普通……聞くなら聞くでもう少し愛想を良くする気は」というお名前ですのね。極東の寿限無みたいな長名ですこと」
「俺の名がそんな長文だと思うとか本気か貴様!?」
本気でからかっているだけなのだが、この魔物は随分と神経質な性格らしい。
オリーヴィアのスルースキルを考えると、反転しているタイプの平行世界系だろうか。
「で、名前」
「……オリーヴィアだ」
「同名、と。ではアナタはどうやって鏡面から干渉を?」
「…………逃げた先にあった鏡に吸い込まれて、気付いたら女の俺が居たんだ」
「成る程」
……逃げた先、つまりはその時ナニかから逃げていたというコトですわよね。
年頃は同じであっても性別が違うというコトは、表裏タイプの反転だろう。
つまりはオセロのような白と黒というタイプ。
そしてこちらのオリーヴィアは自分と仲が良いコトから考えても善だ。
反対に水面に映っている自称オリーヴィアは先程から自分の表情が無表情で固定されているコトから、属性としては悪。
……聖なる属性を付与したナイフで攻撃通りましたしね。
「アナタ、悪人ですのね」
「…………!」
魔物は驚いた表情の後、ニヤリと笑った。
「どうしてそう思う?」
「わたくしが本能的に悪を嫌う傾向にあるので、こうして無表情で固定されているコトから確実に悪だと判断したんですの」
「どういう判断方法だ!」
「しかし大体わかりましたわ。アナタ、インバートミラーですわね」
「ハ?」
「インバートミラー?」
二人のオリーヴィアがきょとんとした表情で硬直した。
とりあえず、まずはこちらのオリーヴィアの為にもインバートミラーについてを説明しよう。
「インバートミラーとは、色々なモノが反転している平行世界から鏡を通ってこちらに干渉してきた魔物のコトですわ。
こちらの善である人間であり女のオリーヴィア、そして向こう側の悪である魔物であり男のオリーヴィア。その事実からすればほぼ確実にインバートミラーで間違いありませんの」
「反転……ってコトは、本当にこの魔物は異世界の私ってコトになるの?」
「そうですわね。ただまあ性別も反対性格も反対、行いも反対だと思いますわ。先程インバートミラーは逃げた先の鏡と言っていましたが、追っ手は恐らく兵士でしょう」
「…………」
インバートミラーは図星とわかる表情で黙り込んだ。
「インバートミラーという魔物の前例から考えれば、恐らく罪を犯して逃げ込んだ先の鏡から鏡の中という世界に迷い込んだ。
そして鏡面の向こう側に、自分でありながら自分では無い存在を見つけた。だから入れ替わるコトで成り代わろうとして、というトコロでしょう」
水面に映るインバートミラーは、黙っている。
「どうして入れ替わろうとしたのかしら」
「基本的にこうしてこの世界に居るのはたった一人だけですもの。平行世界のもう一人というのはドッペルゲンガーのようなモノで……わかります?」
「まったくわからないわ」
「要するに反作用ってコトですわ。同じ極の磁石をくっつけようとしても反発するでしょう?
平行世界という要素があっても同一の存在が同時にこの世界に存在する場合、アレの凄いバージョンが発生して両方が対消滅しますわ」
「へー、対消滅…………エッ、私凄い危機一髪?」
「危機一髪でしたわね。アナタが無効化体質かつスルースキル高めだったからこその現在ですわ」
「コッワ……」
オリーヴィアは怯えた表情で腕を擦った。
確かに消滅の危機がすぐ背後まで迫っていたとなれば、恐ろしいモノだろう。
「アレ、でも今現在だってもう一人の私はインバートミラーとして存在しているわよね?」
「今現在はインバートミラーだから大丈夫なんですのよ。鏡の世界から出てきたらアウトですわ」
世界にインバートミラーという存在として認識されていて、オリーヴィアと認識されていないからこそセーフなだけだ。
しかし鏡から出てきたら平行世界のオリーヴィアと世界に認識され、容量オーバーからのバグのような感じでオリーヴィアという存在が消えかねない。
「この世界でオリーヴィアという存在の枠は一つしかないのに、ソコに無理矢理二つを入れるようなモノですもの。入れ過ぎた袋は破けて中身が弾けるのがモノの道理、と言えば伝わるでしょうか」
わかりやすい例えは水風船だ。
中身を入れ過ぎれば水風船は破裂し、水は地面に吸い込まれる。
要するにそういうコトなのだ。
……まあ、このアンノウンワールドに水風船が無いから説明出来ませんけれど。
「ただし入れ替わったならば、その一つしかない枠にインバートミラーが入るコトになりますわ。平行世界の別人とはいえ同一の存在である以上、その辺りは補完される」
「つまり?」
「つまりインバートミラーと入れ替わった瞬間、わたくし達はインバートミラーをこの世界のオリーヴィアだと認識するってコトですわ」
「…………?」
「……えっと、劇とかで主役が居ますわよね?その主役を演じる役者が変更になっても、観客は主役を主役だと認識する、というアレですわ。差異はあれど主役という役割や立場であるコトに変わりはない、というような」
「……ヤダ、つまり凄い怖いコトじゃない!?」
「うん、最初からそういう話してましたわよ」
ただコレは外野側も怖い話だ。
まったく違うのに今までと変わりないと認識し、違う部分も少し違うな程度にしか認識出来ないという、まるでスワンプマンの話のようなホラー状態。
「ちなみにこの入れ替わりは向こう側も当然そのままですから、アナタが向こう側へ行くと犯罪者のオリーヴィアと認識されますわね。
違うと言っても「オリーヴィア」として認識されている以上は同一ですから、どうしようもありませんわ」
「私、この無効化体質に助けられたコトは数えきれないくらいだけど、今日は本気で神様に感謝の祈りを捧げようかしら」
「ア、天使的にソレは是非お願いしたいですわね」
神に仕える天使としては神に信仰が集まるのは嬉しいコトだ。
まあ自分はあくまで天使の混血でしかないのだが。
「さておき、インバートミラーがずっと鏡面に映っているのもソレですわ。彼は鏡の中という世界に迷い込んだ上でこちらに干渉しているからこそ、元の世界に戻ればもうこちらに干渉できない可能性が高いコトを知っている。
そして戻れば兵士が自分を追ってきているであろうコトも。だからこうしてずっと鏡面ジャックしてんですのよ」
「………………」
インバートミラーは尚も黙ったままだった。
「……恐らく能力も反転しているコトを考えると、インバートミラー、アナタの能力は干渉ですわね?」
「…………ああ、そうだ」
舌打ちをし、インバートミラーは忌々しそうにこちらを見ながら肯定した。
「俺の能力は干渉だった。だから鏡に干渉した結果この鏡面世界に迷い込んだ。ソコまではわかっている」
だが、とインバートミラーは叫ぶ。
「だが!何故貴様を引きずり込めん!俺の能力が干渉であるならば!鏡の中から貴様に干渉するコトで無理矢理引きずり込んで成り代わるコトが可能のハズなのに!どうして貴様は俺の身代わりにならんのだ!」
「や、普通になりたくないし……因果応報自業自得っていうか……」
「そもそも前提が間違ってますのよ、アナタ」
「ナンだと?」
インバートミラーはギロリとこちらを睨んで殺意を向けてきた。
こっちは悪でしかないインバートミラーに攻撃しないようかなり頑張っているのだから、あまり煽らないで欲しいのだが。
命が惜しくは無いのだろうか。
……聖なる属性を付与したナイフが通るのわかってる以上いつでも仕留められるってコト、忘れてるのかもしれませんわねー……。
「あのですね、こちらのオリーヴィアの能力は無効化。反対であるアナタは干渉」
「だからナンだ!」
「強い弱いも反対なんですのよ、つまりは。こちらのオリーヴィアの無効化能力はとても強力なモノですわ。そしてソレを反転すれば、弱い干渉能力となる」
「……つまり、ナンだ?貴様はこの俺が弱いからこうして鏡の世界に居るままだと言っているのか?」
「まあ、端的に言うと」
「~~~~~~~~ッ!」
「エ、超音波?」
急にナンだ。
イルカかコウモリにでもなりたいのだろうか。
「……ジョゼって結構、悪だと判断した相手にはそういうトコあるわよね」
「どういうトコ?」
異世界の自分がまるで南極のようだと頷いているがどういう意味だ。
文字で見ると一見暖かそうなのに凄まじく寒いという異世界の土地がどうしたのだろう。
・
コレはその後の話になるが、インバートミラーはアレで諦めたりはせず、未だに鏡面世界に居座っているらしい。
「大変ですわね、オリーヴィア」
「まあ、鏡が使用不可能状態なのはちょっと不便ね。あと大浴場の時とか」
「大浴場?」
「ナンか反転してる平行世界だからか普通に性欲があるみたいで、ニヤニヤした顔で女の子を見ようとしてたりするの。
まあ結局鏡に映ってるワケだから鏡の前に目隠しの板置いたり、水面をバチャバチャして乱したり泡風呂の方に入ったりして事なきを得てるけど」
「オリーヴィア貴様、入れ替わる気が無いならせめてそのくらいは見せても良いだろうが!貴様ら話を聞いている限り性欲が皆無だからこそ裸体を見られようがナンとも思わんのだろう!?」
……あら、ジュースから声が。
どうやらコップに入ったジュースの水面が鏡になっていたらしく、インバートミラーがやかましくそう言う。
「ナンとも思わないけど、性的云々についてはちょっと……無理矢理の性行為とか超凶悪犯罪なワケだから、性欲を伴った目で見るようなのはちょっと」
「事故ならともかく故意はちょっと、ってヤツですわね」
「ぐぬぬ……ならばせめて入れ替わらんか!」
「ナニがせめてなのかまったくわからないし、入れ替わったが最後よね、ソレ」
オリーヴィアは疲れたように溜め息を吐く。
「入れ替わる気は皆無だから問題無いけど、毎日毎日こう騒がしいんだから……」
「……オリーヴィア、あまりに目に余るようでしたらわたくしがサックリ仕留めますわよ?入れ替わろうとしている辺り分類は害魔でしょうから仕留めても問題ありませんし」
「待て貴様前から思っていたが俺に対する当たりがきつくないか!?あと仕留めるとか言うな!もし俺が無害だったらどうする!?」
「や、明らかに害魔に分類される性格してますし……万が一アウト判定食らってもまあ、わたくしの中の天使の本能がコントロール不可能になったと言えば納得はしてもらえると思いますわよ?」
「虚偽の申告をするというのか?」
したり顔で悪人がナニか言ってる。
いや、害魔か。
「虚偽というかナンというか、今現在もわたくしが無表情固定されている辺り、結構天使の本能が騒いでるんですのよね。
わたくしが自分を抑えるのを止めれば今すぐにでもアナタの首という首を分離させるくらいは出来ますわ」
「貴様本当にソレでイージーレベルの狂人なのか!?完全に思考回路がイカれ切っているだろう貴様!」
失礼なインバートミラーだ。
自分がイージーレベルの狂人に収まっていなかったらとっくの昔にインバートミラーの一体くらい仕留めていたというのに。
いや、寧ろ仕留めて欲しいという遠回しなアピールなのだろうか。
「…………今、ナニやら酷く不穏かつ恐ろしい思考が俺に向けられたかのような悪寒が」
「インバートミラー、言っておくけどジョゼは穏やかそうで優しそうで実際そうなんだけど、アレで悪に対しては本気で容赦ないから気を付けた方が良いわよ。
殺すのは駄目で骨折るとこっちが加害者になるからって言って関節狙ってくるタイプだから。ちなみに狙う理由は脱臼なら無理矢理はめ込んで治して知らん顔出来るから」
「アイツの方が悪魔なんじゃないのか?」
「失礼ですわね」
そっちが悪でさえ無ければこちらもナニもしないし、ソレ以前に天使の娘を悪魔呼ばわりとは本気で全身の首を分離させてやろうか。
九割九分九厘九毛九糸くらい本気でそう思ったのを察したのか、ジュースの水面に映るインバートミラーはこちらに一切目を合わせようとせず冷や汗を流しながら無言になった。
オリーヴィア
自分に発動される能力などを無効化出来る体質であり、その為かやたらスルースキルが高い。
だが流石に自分の消滅の危機や乗っ取りの危機には怯えた辺り、多分常識人枠。
インバートミラー
鏡越しのように反転している世界から鏡の中に来て、オリーヴィアを乗っ取ろうとした男で悪で魔物なオリーヴィア。
元々は反転世界の場合年齢も逆(オリーヴィアが若いならインバートミラーは年寄り)にして、年寄りから若返っていくみたいな年の取り方するというのも考えたが、面倒だしわかりにくいし鏡なら年齢はそのままだろう、となって老人フラグを回避した。