切断王子とオートサイト
彼の話をしよう。
この国の第一王子で、自分より二つ年上で、切断の魔眼を有している。
これは、そんな彼の物語。
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自室の扉がノックされたので振り向いて扉の向こうを視てみれば、七年生の制服を着ている第一王子が居た。
「すみませーん、不在ですかー?」
爽やかな海色の髪を揺らしながら、第一王子であるメルケルはノックを続ける。
第一王子が部屋をノックしているのに居留守を使うワケにはいかないなと思い、溜め息を零してから扉の向こうに聞こえるように声を出した。
「……わたくしは居ますけれど、ロザリーは「ちょっくら散歩に出かけようかと思います。では」と言って出てったので不在ですわよ?」
そう、五年生になった今年のルームメイトは、ナンと第一王女であるロザリーとの同室なのだ。
彼女は相変わらずロザリーワールド展開しまくりな感じではあったが、昔よりは話しやすい、気がするので多分問題無い。
……単純に、わたくしが狂人に慣れてしまっただけな気もしますけれど。
しかし独特な感性の持ち主であるコトに変化は無いので、自分の友人達からは少し距離を取られているようだが。
かなりの立場な上に独特な距離の詰め方をする為、今年の来客数は例年に比べて大人しくて助かっている。
……自室っていうのはゆったりする空間ですものね!
実家以外でソレを実感出来たのは久々だった。
いやまあ、現在進行形で来客があるっちゃあるのだが。
扉の向こうのメルケルは、自分の返事に少し安堵したような表情になった。
「あ、でもジョゼフィーヌはご在宅でしたか。ソレは良かった」
「ご在宅はナンか違うと思いますけれど……」
寮の自室にその表現は合っているのだろうか。
「というか、わたくしにナニか?ロザリーに伝言かナニかですの?」
「ああいえ、そうではなく……単純に、魔眼や魔物への知識が深いアナタに、相談があるんです」
そう言って穏やかに微笑む第一王子を追い返せる人間が居るだろうか。
居るかもしれないが、居たらソレはきっとノーマル以上の狂人だろう。
少なくともイージーレベルにしか狂っていない常識人寄りの狂人な自分は、扉を開けて迎え入れるという選択肢しか存在しなかった。
・
とりあえずお買い得なお値段だが味は充分美味しいティーパックで淹れた紅茶を出せば、メルケルは警戒する様子も無く普通に飲んだ。
第一王子なのに警戒が無いというか、せめて自分が飲んで大丈夫そうかを確認してから飲むとかすれば良いのに。
……いえ、まあ、信頼されているのは良いコトですし、とある保険医助手とかとある料理人に毒物盛られるコトが多いからわたくしが盛るコトはあり得ませんけれど。
「わあ、美味しいですねコレ!あまり飲んだコトの無い味ですが、ナンだか深みがあります」
「深みというか雑味が良い味出した結果、ですわね」
要するに安物だから出せる味というコトなのだが。
「というかメルケル、……様」
「前にも言いましたが、呼び捨てでお願いします」
「そうは言っても第一王子相手に呼び捨てっていうのは……せめてメルケル先輩とか」
「ロザリーのコトは呼び捨てにするじゃないですか」
「ロザリーはナンか、呼び捨てにして欲しいって言って来たので」
そして断ると怒涛のロザリーワールドを展開されたので。
「なら私も呼び捨てで問題無いでしょう?そもそもこの学園の生徒でいる間、私はただのメルケルです。ソレに私は騎士か兵士になるつもりですから、王位を継ぐのは確実に弟でしょうしね」
「つまり立場は気にするな呼び捨てろ、と」
「ですね」
「ですの、ね……」
まあソレで良いなら良いし、この学園はそういう校風だし、自分も貴族だが友人達には普通かつ平等な友人関係を築いているのでそんなモンなのだろう。
いやナンかやたらと頼られるコトを考えると本当に平等かどうかは定かではないが。
「……うん、まあ、良いでしょう。良いとしますわ。で、メルケルは妹であるロザリーでは無く、そのルームメイトであるわたくしに一体ナンのご相談ですの?というか何故わたくしに」
「ロザリーが、「ジョゼ様はロザリーのこの変化が乏しいにも程がある表情筋の活動を見抜いて色々判断してくれる上に意外とツッコミもボケもこなせるタイプ。
しかもノリが良いワケでは無く結構クールな対応なのにテンポの良い返しでコレは大親友と自称しても過言では無いのではないでしょうか」っていつも通りの無表情でとても楽しそうに報告してくるんですよ」
「その会話のドコでわたくしを相談相手に決める理由が発生しますの?」
あと自称というか、別に大親友と公言されるくらいは構わないのだが。
ルームメイトになって結構お互いを知るコトは出来たワケだし。
「要するにロザリーがアナタについてをとても自慢してくる感じでして、よく相談相手になっているとか、得意な教科なども教えてくれるんですよ」
プライバシーとはナンだったのか。
王族ならヒト一倍気を付けていそうなのに第一王女によって第一王子にリークされる自分の個人情報よ。
「で、その……相談をしに」
メルケルは気恥ずかしそうに微笑みながらそう言った。
「普通そういうの、教師に相談すると思うんですけれど」
「そうなんですけど、先生方だと、ホラ……」
もじもじしながらメルケルは口ごもる。
年の離れた相手や大人などに相談するのは少し恥ずかしい、みたいなコトだろうか。
「……先生方、結構ゴーイングマイウェイだしあまり話を真面目に聞いてくれませんから」
「あー」
納得した。
確かに教師というよりも研究者気質なヒトばかりなので、真面目な相談には向いていない。
体質的な問題に関してという色々ガチで困っていて触れるのすら気遣うような話題なら真面目に対応してくれるコトもあるが、それ以外は結構適当だ。
……面倒だし時間がどうにかしてくれるよ、って感じですものね。
基本的に他人事だから、真面目に会話するなら対価が必要なレベル。
しかし対価を先に渡したりするとソレに夢中になって結局話聞いてくれないコトも多い為、取扱説明書が必要なレベルで。
……で、わたくしに相談する生徒が出る、と。
いや自分以外にも相談されている生徒は居るが、自分のような生徒が大体相談先になっているのだ。
相談手当みたいなの出れば良いのに。
「……うん、わかりましたわ。ソレで前置きが長くなっちゃいましたけれど、相談というのは?」
「この目です」
そう言ってメルケルは自分自身の目を指差した。
「私のこの目は、ご存じでしょうが切断の魔眼です」
「ええ、魔眼の授業でローザリンデ魔眼教師が言ってましたわ。「魔眼はワリとその辺でポンポン生まれるけど、要するに目に魔力込めやすいヒトってコトだからネ」と」
「その説明のドコに私の魔眼についてがあるんでしょうか?」
「その後に、「キミ達の先輩に第一王子が居るけど、彼も魔眼持ちだよ」と言っていたので」
「ああ、成る程」
ちなみにローザリンデ魔眼教師曰く、魔眼は魔力が目に集まりやすい作りになった結果の産物らしい。
やたら肺活量があるヒトや声がデカいヒト、爪の伸びが早いヒトと大して変わらないし目隠ししてれば危険性もほぼ皆無だから普通のヒトとさして変わらない、と言っていた。
……だから興味が出て魔眼持ってるヒトと話して、普通だというコトがわかって、魔眼への偏見とかが一年生の時点で無くなるんですのよね。
ソコから友人になったりするコトもあるので、ローザリンデ魔眼教師は結構教師に向いているヒトだと思う。
いやまあこの学園の教師陣がやたらと研究者に寄っているから、比較的そう感じるだけなのかもしれないが。
「ですがまあ、私の魔眼は……魔眼でこそありますが、弱いですからね」
そう言い、メルケルは前髪を手で払った。
「この通り、目隠しが不要なくらいに」
言葉の通り、メルケルは魔眼封じの目隠しをしていない。
切断の魔眼とはその名の通り、視界に入れたモノを切るコトが出来る魔眼だ。
つまりうっかりで発動するとヤベェタイプの魔眼なので普通なら目隠しが必須なハズなのだが、メルケルはその魔眼の力が弱い為、切断箇所が視えても魔眼の力のみで切断するコトは出来ない。
……要するに、活断層は視えても触れないと地震を発生させたりが出来ない、みたいなコトですのよね。
「正直言って魔眼では無いジョゼフィーヌの目の方が優れているくらいですよ。羨ましい」
「やー、大して変わんないと思いますわよ?わたくしの場合は武器とかの急所がわかるってだけで、切断出来る箇所を作れるワケじゃありませんもの」
「……確かに、切断箇所が無いモノでもこの目で視ればどうにかなりはしますね」
切断の魔眼とは、レベルが高ければ睨むだけで対象を切断するコトが出来る。
その対象は当然生き物も無機物も無関係に、だ。
しかしメルケルはレベルが低い為、生き物にその魔眼は発動しないらしい。
……発動しないというか、視えないと言うべきでしょうね。
だが、切断の魔眼特有の能力である、切れるという概念を付与するようなコトは出来るらしい。
そして視える切断出来るだろう線をなぞるコトで、どんな物質も容易く切るコトが可能でもあるのだ。
「……つまりは切り取り線ですわよね」
「ハイ。そして私は正直言ってこういう性格ですので……あまり上に立つのは向いていないのですよ。まあロザリーも向いていないでしょうが」
「ロザリーに関しては全面的に同意しますわ」
彼女は自由かつ好き勝手に生活させた方が良い。
下手に権力を与えたり枷をつけさせようとすると暴走するタイプだ。
「でもソレなら騎士とか兵士みたいな荒事も向いていないのでは?」
「殴り合いはそうですが、シルヴァン先生にスピードを鍛えるように言われているから戦闘は大丈夫ですよ。魔眼を発動して相手より早く懐に入り込んでシュパッとやっちゃいます」
「穏やかな笑みで恐ろしいコト言いますわねー」
手の動きがナイフだった上に確実に致命傷を負わせる動きだったのもまた恐ろしい。
スピード重視だからか、見た目が一見すると女性と見紛うようなやんわりした感じだからこそより恐怖が煽られる。
……見た目のほほんとしてるし、無駄な筋肉ついてない分細くて、知らないヒトからすると本気で女性と見間違いそうなビジュアルなんですのよね。
しかし実際は第一王子であり切断の魔眼持ちであり、スピード重視だから一撃必殺狙いでもあるという。
アサシンにでもなるつもりだろうかこの王子。
「ただ問題は、私自身の処理能力なんですよね」
「処理能力?」
「例えばジョゼフィーヌは周囲を一望するコトが可能で、ソレら全てを認識し、理解し、把握するコトが出来るでしょう?」
「出来ますわね」
普通なら脳みそが容量オーバーするらしいが、自分にこの視力を与えてくれたどちら様かがその辺を調整してくれているらしくありがたいコトだ。
「私はソレが出来ないんですよ」
「あ、ああー……」
……わたくしの場合はドコかの誰かが調整してくれてますけれど、メルケルの場合は自分の持ち物ですものね。
例えるなら自分は相手に奢ってもらえるのでメリットありのデメリット無し。
しかしメルケルは自腹での支払いになるので、メリットの分のデメリットがある、というコトになる。
「こう、一対一ならイケるんですが……多対一になると、どうしても目の前に夢中になってしまって。
正面の敵を認識して切断の線を確認しソコを切る、までは出来るんですが……その間、他への対処が出来ないんですよね」
「つまりターゲットが固定されて視点変更が出来ないと」
「あ、極東のファンタジー同人誌でその表現見ました!確かマリオネットのように操作可能な自分の身代わりを使って脳みそイカれた害魔の頭狙いでドンパチやるヤツですね!」
「うーん、王子の口から出ちゃいけないワードがバーゲンセール」
ソレ知ってる!というような良い笑顔だが、ちょっと表現が俗っぽい。
いや自分が言えたコトじゃないし棚上げし過ぎなコトもわかっているが。
……というかプレイヤーキャラをマリオネットのように操作可能な自分の身代わりって……。
自分は異世界知識がINしているから普通に受け入れられるのだが、その前提知識が無いとそういう風に見えるのか、アレ。
そう思うとあの同人誌を描いたヒトは自分のように異世界知識がINしているヒトなのかもしれないと思えてくる。
……ああいうの、理解してなきゃ描けませんものね。
まあ異世界知識がINしたパターンと異世界から魂がINして転生したパターンと異世界を観測しちゃったパターンと可能性は無限大なのも事実なのだが。
ナンなら魔道具で異世界を覗き見たとか、中身が一時的に入れ替わるとか、交信可能とか実際にあったらしいのだけでも結構なバリエーションがあるくらいだし。
……ま、お陰で四歳でありながら異世界知識がINしたわたくしが普通に受け入れられてたから、良いコトなんでしょうけれど。
ただでさえ外付けハードディスク、ならぬ視力があるというのに異世界知識というコンボ。
アンノウンワールドじゃなかったら化け物扱いをされて生きたまま腹を裂かれて乾燥させられるという処刑をされるか、良くて化け物のいる森に捨てられるとかのコースまっしぐらだろう。
とても危なくてこの世界がアンノウンワールドであったコトに感謝。
……狂人だらけ、尚且つ基本的にナニが起こっても不思議じゃないし大体のコトはあり得るアンノウンワールドで良かったですわ!
「……というか、第一王子が多対一の戦い方を考えるって結構凄いコトのような」
「そうですか?王子だからこそ、例えばスパイが居た結果周囲を敵に囲まれ孤立した状態でどう立ち回るか、とか考える必要ありそうだと思いますよ?身代金狙いで誘拐される貴族よりも首狙われ率高いですし」
「あー、第一王子ですものね」
継ぐのは能力的な部分からしても第二王子になるだろうが、他国から見るとそうかもしれない。
というかこの学園内がぽややんとし過ぎなだけかもしれないが。
……ぽややんとしながら話す会話はちょっとアレですけれど、ね……。
「しかし次のターゲットに視点を固定するまでのこう……時間差がちょっと困っちゃうんですよね。相手が素早く私の視界から逃げたりすると一瞬ドコ見れば良いのかわからなくなりますし」
「成る程」
自分の場合は草食動物レベルで広い視界を有しているワケだが、一般的な人間はソコまでの視界を有していないモノだ。
つまりは周囲を確認するコトへの補助的なのが欲しい、というコトだろう。
「……とりあえず戦闘時にサポートしてくれるようなのが欲しいって風に認識しますけれど」
「ハイ、ソレで合ってますよ」
「欲しいのはそういう魔道具とパートナー、どっちですの?」
「んん……出来ればパートナーになってくれる魔物の方が、コミュニケーションも取れるし自分で判断とかもしてくれそうなので良いなと思うんですが……」
メルケルはすっかり冷めている紅茶を思い出したように飲み干し、言う。
「流石にそういう魔物は居ないんじゃないかな、と」
「んー……機械系魔物なら要望に沿った魔物が居そうですけれど、実際に居るかどうか、そして頷いてくれるかどうかもわかりませんし、そもそも機械系魔物自体が結構レア枠ですものね」
「ソコなんですよね」
機械系魔物というのは、要するにオーパーツ的な存在だ。
わかりやすく言うなら、かつて戦争に用いられていたような攻撃力や防御力がふんだんに詰まっている機械系魔物、というのが多い。
つまりは戦争時に戦争用として作られ、戦争でかなりの数が削られ、戦争終了後はその攻撃力の高さなどから始末されたり、始末される前に姿を消した魔物が殆どなのである。
……マシンタイガーとか、そうでしたものね。
ボックスダイスとか完全に無機物系魔物のように眠りモードだったワケだし。
「そういう時の、このゲープハルトなんだけどなー」
「ハ?」
「エ?」
頭上から声がしたので見上げてみれば、伝説の魔法使いであるゲープハルトが浮いていた。
自分の目でも今の今まで気付けなかったのだが一体いつから居たんだろうか。
……いえまあ、実在するチート的存在相手に常識的なコト考えても意味が無いから「まあゲープハルトですものね」って納得するのが一番手っ取り早いんですけれど。
ソレはわかるが動揺するのは仕方がないと思う。
メルケルも驚いて目をパチクリさせているワケだし。
というか何故自分の姉のように宙に浮いているのだろうか。
……ゲープハルト、ですもの、ねー……。
「……ナニしてんですの、ゲープハルト」
「えー、このゲープハルトが登場したっていうのに反応クール過ぎない?」
「不法侵入ですわよゲープハルト」
「そーゆーコトじゃないんだけどー……ま、良っか。あと不法侵入って言うなら魔法で相当な結界でも張っておかないとだよ?ただの壁や天井、床程度じゃこのゲープハルトからすればフリースペース同然だもん」
「壁や天井が床があるじゃありませんの」
「そんなのテレポートやワープがあれば無いようなモノだよ」
このヒトは本当にそういうトコがあるな。
「んで、メルちゃんの要望は戦闘で補佐してくれて視界とかのアレコレとかのサポートもしてくれるようなの、だっけ?
オッケーオッケーまっかせといてー!このゲープハルト、昔王族に頼まれて魔物作ったりとかよくしてたからそのくらいは子供の工作みたいな感じにやっちゃうよん!」
相変わらず千年以上は生きている不老不死勢だというのにテンションが若い。
「あの、メルちゃん呼びはちょっと……」
「えー、メケちゃん?ソレも面白いけどメケちゃん呼びよりはメルちゃん呼びのがよくない?というかそもそもこのゲープハルトが呼びやすいように呼んでいるだけのモノなので、その要求は却下でーす!」
ニコニコ笑顔で言うコトだろうか。
「ま、すぐに出来るから待っててね。とは言っても数日掛かると思うけど、数日なら平均寿命百年未満のキミ達からしてもそう大した時間じゃないでしょ?」
「確かにそうなんですけれど……」
「作る、というのは……」
「えー、だって相手が頷くのかどうかとかが気になるんでしょ?」
メルケルの問いに、ゲープハルトはきょとんとした表情で当然のように言う。
「なら最初っからメルちゃん用に作っちゃえば良いんだよ!」
無いならば、作ってやろう、ホトトギス。
チートが可能なヒトの思考は無いなら作れば良くない?という神的思考に到達するのだろうか。
「王族用のオーダーメイド魔物はよく作ってたからお代とか気にしなくて良いからね!……まあ中には結局ちょっとメンタル部分やり過ぎちゃってお蔵入りになっちゃったのもあるんだけど」
「あの、ゲープハルト?今一瞬ナニかボソッと言ったのが聞き取れはしなかったんですけれど視えはしたんですが」
「まあわかりやすく言うならジョゼちゃんにはいっつも翻訳とかやってもらってるからコレに関しては無料で良いよ!ってコトで!」
「いえ安全面についてをまず」
「お蔵入りになったヤツみたいに人命がちょっとアレなコトになる可能性あるようなのは作らないから大丈夫大丈夫。
アレはちょっと伴侶目的で作れって言われたから作った結果の暴走であって、機械としての要素多めならメンタル大暴走もしないハズだし!」
「確証は無いんですのね?」
神的思考に近いからなのか、ゲープハルトからすると人間的感情がいまいち理解し切れず、その結果なのだろうなと思う。
神は命を作れてもその感情に関してはいまいち理解出来ないコトが多いっぽいのでナンとなくわかる。
……というか、今この空間、第一王子と伝説の魔法使いが居るというとんでもない空間なのでは。
とんでもないコトに気が付いてしまったせいで一瞬汗腺がバグるかと思った。
ロザリーがまだ帰ってきてないからトリプルコンボはまだ決まっていないという事実が無かったら、室内メンバーの圧が強い肩書のせいで滝のような冷や汗を流すトコロだった。
・
コレはその後の話になるが、ゲープハルトはマジで新種な機械系魔物を作り出してメルケルにプレゼントフォーユーした。
「オゥ、オメェ様が俺ノパートナー様カ。コレカラハ俺ガオメェ様ノサポートヲシテヤッカラ、安心シナ」
「わー、初対面からオートサイトの頼もしさが凄いですね」
「頼ラレル為ニ作ラレテッカラ当然ダロォ?」
機械っぽい音声ではあるものの女の子らしい可愛らしい声だというのに、その声色はニヤリと笑う男前さがあった。
ちなみに見た目は格好良いデザインの片耳イヤフォンである。
そしてソレに繋がっているのか、メルケルの頭上にはミニサイズの人工衛星っぽいのが浮いていた。
……多分、どちらもオートサイトなのでしょうね。
視える感じからすると恐らく片耳イヤフォンが本体であり、人工衛星っぽいのは尻尾的な部分なのだろう。
繋がってるし機能的に必要ではあるが本体では無い感じ。
「ところでゲープハルトからのプレゼントボックスには手紙とか一切無いんですけれど、説明って」
「俺ガスンニ決マッテンダロィ」
「あ、やっぱり」
「ツッテモオメェ様ガヤルコトナンザホボネェゼ。戦闘ニ入リャア俺ガ勝手ニオメェ様ノ魔力使ッテ展開スンダカラ」
「展開?」
「コウ」
「ウワッ!?」
ただの片耳イヤフォンだったオートサイトの姿が、一瞬にして変化した。
ソレはボックスダイスやマシンタイガーのように、一旦ボディを分解してから再構築したかのような姿だった。
片耳イヤフォンであるコトは変わらないものの、メルケルの目元に複数の照準器が増えている。
しかもサブみたいな感じで、目元以外にも周囲のマップやら生体反応などが表示されたホログラムまである。
……SFの世界ですの?
「あ、うわ、ナンか凄いよくわかりますね、コレ。周囲の情報が殆どわかっちゃいます」
「慣レルマデハ時間掛カルダロウケドナ。ダガ慣レリャア便利ダゼ。殆ドハコノ俺ガ自己判断シテオメェ様ニ教エッカラ、オメェ様ノ負担モ最小限ニナルダロウシヨ」
「でもこんなにも凄い情報量、オートサイトの負担になりませんか?」
「俺ァソウイウ負担部分担当ノ為ニッテ作ラレテンダゼ?ッタク」
機械らしさが全面に出ているものの、そう言うオートサイトの声は溜め息混じりだった。
「大体コレラハオメェ様カラ貰ッテル魔力デ構築シテンダ。オメェ様ノ魔力ノ質ガ良イカラコンダケノコトガ出来ルガ、ソウジャナカッタラ俺モココマデ展開ハ出来ネェ」
「……褒められてます?」
「褒メテルシ、オメェ様ノ魔力負担ガアッテコソ出来テンダヨ。アト言ットクガ、俺ァコウヤッテ周囲ノ索敵トカハ可能ダガ迎撃用ノ機能ハネェカラナ。アクマデ補佐ダカラ、バトンノハオメェ様ダゼ」
「ソレはモチロン」
「ワカッテンナラ良イサ」
クク、とオートサイトは笑い声を零す。
「俺ァ、オメェ様ガ居テ初メテ活キルカラナァ。シッカリト俺ヲ活カシテ使ッテクレヨォ?オメェ様」
「…………な、ナンというか、凄い口説き文句を言われたみたいで、照れちゃいますね」
「口説キ文句ノツモリナンダガナァ、俺ァ」
ただでさえポポポと赤くなっていたメルケルの顔が、より一層赤くなった。
作られたての機械系魔物なのに熱烈だなとは思うが、まあ相性は良さそうなので大丈夫だろう。
……いえまあ、相性悪いようなの作んないでしょうけれどね。
しかし色々と大丈夫そうで安心した。
今度ゲープハルトに合ったら、良い魔物をメルケルに作ってくれてありがとう、とお礼を言わなくては。
魔物を作ってくれてありがとうというお礼も、中々にちょっとアレな気がしないでもないが、事実なので仕方がない。
メルケル
見た目がかなり女性的だし性格もおっとりぽややん系だが、切断の魔眼持ちだしスピード系の攻撃をメインにしているのでほぼアサシン。
自分と自分の魔眼が役立てるのを考えた結果、騎士か兵士になろうと思っている。
オートサイト
作りたて生まれたてだからか微妙に片言だが、機能と安全面を優先した結果ボイス部分が雑になった可能性もあり、真実はゲープハルトのみが知っている。
メルケルの為だけに生み出されたオーダーメイド魔物なので、メルケルのサポートをするコト自体が本能のようなモノ。