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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
五年生
144/300

反芻少女とソウルテスタメント



 彼女の話をしよう。

 遺伝で反芻が出来て、遺跡が多い故郷で、よく発掘品を教師に提供している。

 これは、そんな彼女の物語。





 談話室のソファに座りながら小説のページを捲っていると、ブリジッタに背後から抱き締められた。

 正確にはソファ越しに捕獲された、という感じだが。



「ジョゼ!やっと見つけました!」


「どーかしたんですのブリジッター?」


「そうなんですよ、ちょっと困ったコトが…………あの、ジョゼ?」


「ハーイ?」


「ページ捲る手、一旦止めてもらっても良いですかね?」


「今いけ好かない悪党の鼻を明かすシーンだからちょっと待ってくださいな」


「どのくらいで読み終わります?」


「んー…………よし、たった今終わりましたわ」


「あれ、思ったより早い」


「逃げやがった悪党に対する仕返しは後日談だったので、本当にオチの部分だったんですのよ」



 オチというかトリというか。



「で、ナンの用事なんですの?」


「ああ、そうそう」



 くすんだ茶髪を揺らし、ブリジッタはポケットから古い紙を取り出した。



「僕の故郷って、砂漠じゃないですか」


「ですわね」



 そう言うブリジッタはラクダ系魔物との混血であり、睫毛がバッシバシに長い。



「で、やたらと遺跡があるというか、埋まってたりもするからしょっちゅう遺跡が発掘される故郷なワケで」


「その遺跡で客寄せしたり、研究者目当ての設備とか充実させたりと逞しいですわよね」



 遺跡となれば研究するヒトが来る為、そういうヒト向けのサービスが充実していると本で読んだ。

 具体的には機材の持ち運びとか食事のデリバリーとか野営サポートとかがあるらしい。



「ソコで発掘されたは良いけど解析とか解読が難しいのは、僕がここの先生達に渡して調べてもらったりしてて」


「ここの教師達、教師というよりもほぼ研究者ですものね」



 調べたりして新しい知識を得れるコトこそ報酬だと言わんばかりのヒト達なので、頼む側としてはありがたい話だ。

 まあ生徒だから無料で請け負ってくれてる、というのも大きいだろうが。


 ……部外者から頼まれた場合、無料で受けると他の研究者達が困るコトになるからってコトで普通に正規のお値段なんですのよね。



「ただ、今回の発掘品で少し解読が厄介なモノがありまして、ソレがこちらなんです」


「ん」



 背後から自分の頭に顎を乗せているブリジッタは、手に持っていた古い紙を自分の目の前に持ってきた。



「…………!」



 その文字を視界に入れた瞬間、表情筋がビキリと固まったのがわかる。



「……コレは?」


「古代文字らしいんですが、様々な古代文字が練り込まれているらしくて。面倒だから一目で解読可能な友人に頼みなさいと」


「つまり面倒をわたくしにパスしたんですのね、教師の誰かが……」



 モイセス歴史教師だろうか。

 いや、ベルント語学教師というコトも大いにあり得る。



「まあ確かに、わたくしからすれば普通に読める文字だから良いんですけれど……コレ、あまり良くありませんわね。イヤな魔力漂ってますし、先程からわたくしの表情筋が真顔で固定されてますし」


「うわ、ホントだ」



 上からこちらの顔を覗き込んだブリジッタが引き攣った笑みでそう言った。



「ソレ、剣術の授業の時とかに見るバーサクモードじゃありませんか?」


「その紙に書かれてるの、遺言書っぽいんですけれど……悪っぽい気配がぷんぷんするんですのよ。燃やした方が良いんじゃありませんこと?」


「や、流石にソレは……というか手渡してなくて良かった」



 確かに視界に入れるだけで真顔になるような紙に触れていたら、体が勝手にビリビリに破いた上で燃やしていた可能性が高い。



「んー……流石に世界が終わったりはしないでしょうから、解読するだけしてもらえませんか?ナニか仕込まれてるにしたって、読み上げるくらいならセーフでしょうし」


「ソレがキーになってて発動するパターンもあり得ますけれど……まあ、万が一があれば第一保健室に駆け込みましょうか。ブリジッタ一人くらいなら余裕で担げますし」


「ジョゼだけが倒れた場合、僕は無理ですよ。ジョゼって結構重量あるし」


「平均くらいの体重しかありませんのよー?」


「いたたたたた!ごめんなさいごめんなさい!」



 笑顔で見上げながらブリジッタのこめかみをぐりぐりすれば素直に謝ったので、手を放す。


 ……と、やっぱり紙に視線を向けると表情が真顔で固定されますわね。


 しかしヒトに対して重量があるとは酷くないだろうか。

 確かにヒトより身長があるし筋肉もあるが、天使の遺伝で平均より体重は軽めだというのに。


 ……や、まあ、遺伝で平均より軽いに筋肉の重みを足し算したら結局はプラマイゼロで身長に見合った平均体重、って感じではありますけれど、ね。


 つまり同級生であり同性であるブリジッタでは自分を運べないのもまた事実、だ。

 もっともソレはソレなのでヒトに対して重量云々を言ったのは多少引きずるが。



「……ハァ、まあ良いですわ。じゃソッコで読み上げますけれど」


「ハイ」


「「余が死した時、この遺言書を有するモノに余の魂を譲渡する。ただし、遺言書の所有者の全てと引き換えに」……以上で」


「ウグッ!?」


「……す、わ?」



 読み終わると同時、遺言書がボロボロと経年劣化のように崩れた。

 そしてソレを持っていたブリジッタが、自分の頭上で顔色を真っ青にして口を押さえている。


 ……エ、吐きそうなんですの?


 ()える光景としては遺言書にあったハズの魔力がブリジッタの中をピンボールのように跳ねているのがわかるのだが、ソレよりも吐きそうなのが問題だ。

 だって自分の頭上なワケだし。



「ちょっと、ブリジッタ?」



 立ち上がり、頭上からぶちまけられるのを回避。

 そしてそのまま、ブリジッタの背中を擦る。


 ……まだ吐いてはないみたいですけれど……。



「グ、コプッ」


「ブリジ…………エッ」


「…………はんは(ナンか)はひほはへほ(噛み応えの)はふほほは(あるモノが)



 吐くかと思いきや、ブリジッタは彼女の中でピンボールのように暴れていた魔力を腹の中で丸め、反芻していた。

 確かに遺伝で反芻が出来るとはいえ、どういうコトだ。



「ギャー!やめっ、止めぬか!噛むな!というか何故体が乗っ取れ……口内で転がすでない!」



 しかもブリジッタの口の中から知らない男の声がする。



「……えーと、ナンか大体察しましたけれど……ソレって吐き出しても良いと思います?」


「んーん」


「ですわよねえ」



 首を横に振ったブリジッタに、溜め息を吐きながら同意する。

 どうやら遺言書に魂を仕込み、その上でナンらかのナニかをする為の細工が仕込まれていたらしい。

 吐き出して逃げられても厄介だし、聖なる属性を付与した自分のナイフでサクッとやっては話も聞けない。

 とりあえず、こういう時は教師に頼ろう。





 とりあえずで第一保健室へ行った結果、アドヴィッグ保険医助手によってゾゾン魔法教師の研究室へと連れて行かれた。



「……成る程な」



 アドヴィッグ保険医助手からあらかた聞いたゾゾン魔法教師は、ふむ、と頷いた。



「とりあえずエメラルドが面倒臭がって思考を放棄した結果発生した事態なのはよくわかった」


「コレ悪いのわたくしじゃなくてわたくしに面倒事押し付けたヒトが悪いと思いますの」


「見事な責任転嫁ね」


「真顔で言う開き直りっぷりも凄いわよ」



 カラーパンサーと復讐女王が部屋の隅でひそひそしているがスルーしよう。

 指摘すると墓穴になる。


 ……というか、ゴースト用の食事が出来るようになってから本当に落ち着きましたわね、復讐女王。


 あの少し後に何故かパートナーになっていて、今も彼女はゾゾン魔法教師のパートナーだ。

 その頃から、今のように鳥籠の中に閉じ込められていても怨嗟を吐くコトが少なくなったように思う。


 ……や、ただ諦めただけかもしれませんけれど。


 もっとも復讐女王と呼ばれる程の炎がその程度で消火出来るとは思えないが。

 多分一番有力なのは、五年間の学園生活で自分が彼女の苛烈さに慣れた、だと思う。



「で、お前のコトだから既に色々とその騒がしいのから聞き出しているんじゃないのか?」


「ええ、まあ」


「ギャー!噛むのを止めろ!止め、貴様覚えておけよ!」



 死んでいるクセにブリジッタの口の中で騒がしいな、あの魂……ではなく、ソウルテスタメント。



「とりあえずあの遺言書を書いたヒトの魂、というのは確定ですわ。んでもって遺跡の主……要するに当時の王ですの。

ただしわたくしが無表情になるコトから考えると、恐らくあまりよろしくないタイプの王ですわね」


「ふむ、確かにエメラルド殿の本能的判断なら信用性が高いですね」



 アドヴィッグ保険医助手はそう言い、いつも通りのうっそりとした笑みを浮かべながら頷いた。



「で、他の情報は?」


「本来は遺言書を読み上げると同時にそのヒトの肉体を乗っ取る、という細工がされてたそうですわ。

ただブリジッタが混血だったからか、遺言書を持っていたのがブリジッタで読み上げたのがわたくしだったからなのか……」


「ラクダ系の混血だから反芻した、というのが正解に思えますが」


「どうもその魂が上手く定着せず体の中で丸められて反芻されるかのように口の中にケポッと出たようで」


「ソレでああして、ナニも出来ないよう噛み続けている、と」


「ひょーひひひっへ、はへひひひょふひひゃひょふひょーほほふはひはひひふふへっへひふはんふふはんへふひはひへふ」


「ナンと言っているのかまったくわかりませんね」


「エメラルド、通訳」


「「正直言って、前に試食した極東のおつまみらしいスルメっていう乾物噛んでるみたいです」と」


「へほふふへほほうははひひひはふふんはひへふへ」


「通訳」


「「でもスルメの方が味染み出す分マシですね」」


「貴様そもそも余を飲食物と同列に扱うでない!」


「味が無い以上、ソレ以下ですしね」


「貴様その声と言葉忘れんぞ!」



 ソウルテスタメントがブリジッタの口内で転がされながらそう啖呵を切ったが、アドヴィッグ保険医助手は呪いなどに詳しいヒトだから敵に回さない方が良いと思うのだが。

 敵に回してはいけない相手も見抜けない程に愚かなのだろうか。


 ……こんだけの細工出来るんなら頭良さそうなモンですけれど。


 しかし立場と金があるだろう王だと考えると、本人の頭が低レベルでも高性能な頭脳持ってるヒトに命令すればどうにかなりそうだ。

 やはり自分のコトしか考えていない愚か者に上の立場を与えてはいけないな。

 感情的になるコトもあるとはいえ、基本的に人間のコトを考えてくれる神を見習えば良いのに。


 ……やっぱ天レベルで上に立ってるだけあって、そういうのしっかりしてますものね。


 ここで恵みがあれば作物が出来る、ソレが出来たら捧げますからなにとぞ、というような後払い約束でもオッケー出してくれたりするのが神なのだ。

 まあ人間側がその約束を破れば二度とその約束は信用しない為、愚か者だらけな村では生贄くらいしか出せるモノが無くなるのだが。


 ……生贄文化って、要するにソレ以外に出せるモンが無くなった結果ですわよね。


 金が作れないからと内臓を売るのに近い気がする。



「えーと……そう、で、とりあえず吐き出してもらってサクッと消滅させるなり、あの世に行ける友人や友人のパートナーに頼もうかとも思ったんですけれど、一応は王だから遺跡内部について詳しいだろうなーと思いまして」


「ああ、成る程」



 ふむ、とゾゾン魔法教師が頷く。



「つまり友人の体を乗っ取ろうとした悪が腹立たしいから絞れるだけ絞り取ってからどう処刑するかを決めようというコトにした、というコトか」


「オブラート無しにするとそうなりますわね」


「ひびひめへもはいふは」



 「厳しめでも無いんだ」と言われたが、今のはただのオブラート無しバージョンだ。

 アレに厳しめスパイスを足し算したら口から火が出る級になってしまう。


 ……スパイスというか、腹狙いの打撃みたいな毒かもしれませんけれどね。


 まあ自分の毒など、口が勝手に毒を吐くルチアよりは優しめだから例え足し算されていても大丈夫だろうが。

 せいぜい白目剥かせて泡吹かせるくらいだ。



「ですがこのまま彼女が噛み続けるワケにもいかないというコトで、ゾゾン殿に手伝っていただこうかと」


「成る程」



 ニッコリと笑うアドヴィッグ保険医助手に、ゾゾン魔法教師はニヤリと笑った。



「では丁度良いのがあるからコレを使うか」



 そう言ってゾゾン魔法教師が取り出したのは、ツボだった。



「材料はわかっているか?アドヴィッグ」


「既にこちらに用意済みです」


「なら入れろ」


「ハイ」



 アドヴィッグ保険医助手は、取り出した袋の中身をツボの中へぶちまけた。


 ……んー、()える感じからすると、呪いによく使用されるというハーブ類を練り込んだ泥、みたいですわね。



「薬草の汁は」


「こちらに」


「水筒か。ならこっちの器に入れておけ」


「確かにそっちの方が楽ですね」



 薬草から抽出されたのだろう青汁っぽい液体が、水筒からボウルのような器へ注がれた。

 ゾゾン魔法教師はその器の中に手を突っ込んで手全体をその液でコーティングしてから、ブリジッタへと視線を向ける。



「ではその口の中のモノをツボへ吐け」


「ふぁーい」


「待て!ナンだか物凄くイヤな予感がする!噛まれる以上のコトがあるような気が!止めろ!吐くな!」


「んべっ」


「ではソッコで行くぞ」


「ギャアアアアア!」



 ……んー、凄い光景というか凄いBGMと言うか……。


 ブリジッタがツボの中にソウルテスタメントを吐き出した直後、ゾゾン魔法教師は薬草液に漬けた素手をツボに突っ込んで丸く固められているソウルテスタメントをハーブ入りの泥に練り込み始めた。

 ソレはもう、食べ物の生地を作るかのように思いっきり混ぜている。


 ……断末魔が凄いですわねー。


 まあ既に死んでいるので断末魔でも無い気はするが。



「ハイ、水ですよ」


「あー、ありがとうございます。……コレって口ゆすいでペッてした方が良いんでしょうか?」


「不味かったならそうした方が良いと思いますが、特に味が無いようなら中身が染み出したりしていないというコトなのでそのまま飲んで大丈夫ですよ」


「なら良かった」


「あの、アドヴィッグ保険医助手?中身染み出すとかあるんですの?」


「まあ、饅頭とかシュークリームとかに近いですからね。中身が出るとその影響を受けるので、その時は口ゆすいだ方が良いです。悪寄りな魂の中身の場合、大体クソ不味い上に毒に近いので」


「そんなコトがあるんですのねー……って、ソレ知ってるってコトは」


「食べた証拠は無いし、異常が無いように色々細工もしたので大丈夫ですよ。ちょっと探求心が疼いた結果知ったコトです」



 証拠が無いと言っておきながら思いっきり自供している気がするが、まあ良いか。



「ところで、あの、今ゾゾン先生はナニをしてるのですか?」


「ゾゾン殿はアレと泥を練り込んで同化させているんですよ。混ぜ終わったら水分を抜いて魂入りの泥をツボの内側にまんべんなく塗りたくり、蓋をするようにその上から金を塗れば完成です」


「ナニが」


「魂の定着したツボが」


「ソレ大丈夫なんですの?」


「定着させれば他の体に移動するコトが出来ませんからね。しかもツボなら文字通り手も足も出ません」



 出ないというか、無いというか。



「あと内側に塗りたくればツボと同化するので、役目を終えたらツボをパリーンと割ればその魂は勝手にあの世へ行くでしょう。この世に居てたまるか!って感じで」


「確かに乗っ取り失敗するわ噛まれるわ飲食物以下扱いされるわ泥に練り込まれるわツボの内側に塗ったくられるわすればそうなりますわよね」


「そうやって羅列すると相当な目に遭ってますね、あのソウルテスタメント」


「まあヒトの魂退けてボディ横取りしようと、つまりはヒト一人の命を奪おうとしやがったのですからテメェ(自分)一人の命くらいでピーピー喚かれても、とは思いますけれど。

カッコウのヒナみたいなコトしようとしたんですから、テメェ(自分)自身が落とされも文句は言えまいに」


「エメラルド殿は本当に口が悪くなりましたね」


「この学園で暮らした結果の賜物ですわ」


「賜物とは」


「私は学園というより、王都でエメラルド殿に絡んできた悪党のせいじゃないかと思いますが」


「お前達」



 そんなコトをダラダラ話していたら、ゾゾン魔法教師は部屋にある洗面台で手を洗っていた。



「終わったぞ」



 どうやら既に終わっていたらしい。

 ゾゾン魔法教師なら大丈夫だろうと思って完全に任せていて気付かなかった。



「ぐ、ぬっ、で、出られぬ……というか身動きすら出来ぬだと!?」


「頑張れば飛び跳ねたり揺れたりくらいは出来るだろうが、ツボの身でソレはオススメせんぞ」


「ツボの身というか、割れ物の身というか」


「貴様らホントにヒトの心を持った人間か?」



 ゾゾン魔法教師の言葉で試そうとしていたらしいソウルテスタメントだが、アドヴィッグ保険医助手が付け足した言葉で試すのを止めたらしい。



「…………常識人扱いをされたのは久しぶりだな」


「いえ、今のは狂人扱いをされたのではないでしょうか」


「ナンだ、久々に常識人扱いをされたかと思ったのに」


「やー、ゾゾン魔法教師が常識人ってのはキッツイと思いますわよ……」



 ゴーストに惚れたからとその魂とっ捕まえて人形ボディに入れて鳥籠の中に監禁する男が常識人であって堪るか。

 常識人がダッシュでハンマー振りかぶって来るレベルの暴言だ。



「まあ良い。とりあえず貴様に言っておくが、今の状態なら多少暴れても割れはしない」


「……ナンだと?」


「さっきオススメしないって言ってませんでしたっけ、ゾゾン先生」


「オススメしないとは言っていましたが、割れるとは別に言ってませんでしたよ」



 ブリジッタとアドヴィッグ保険医助手がこそこそとそう話していた。

 そんな二人に見向きもせず、ゾゾン魔法教師は言う。



「良いか?貴様は犯した罪の償いとして嘘偽りない知識、そして恵みを与えろ。ソレをしない限り、そのツボから解放されるコトは無い」


「……その言い方、余を利用しようというのか?」


「今まで他人を利用し食い物にしてきた、そしてしようとした輩の言うコトか?因果応報自業自得。ちなみに解放されないというコトはその間ずっとツボが割れず、ツボのままで生きるというコトだ」


「ハ、その程度」


「尚貴様と共に練り込んだハーブによって貴様は魔法などもナニも使えないようになっている。つまりただの喋るだけのツボだな」


「ハッ?」


「そして解放されないというコトは、ツボのままあり続けるというコトだ。

別に動いて逃げようとしても構わんが、そのような動きを見せれば即座に適当な民族へとプレゼントしてやろう。今もまだツボに用を足す民族は居ないでもないからなあ?」



 ゾゾン魔法教師はニッヤァ、とした邪悪な笑みを浮かべた。



「ウッワ悪い顔」


「ジョゼ、正直に言い過ぎですよ」


「随分な罰というか……極刑過ぎないかしら、ソレ」


「おや、カラーパンサーはそう思いますか?私はそのくらい当然ではないかと思いますが」


「狂ってるのしか居ないのかしら、この空間」



 復讐に魂を燃やしている悪霊である復讐女王が言うコトだろうか、ソレ。





 コレはその後の話になるが、ツボに封じられたソウルテスタメントはブリジッタが担当するコトになった。

 元々ブリジッタの故郷にある遺跡の一つ、の主だったコトもあり、色々と聞きたいブリジッタが担当するのが良いだろう、というコトだ。


 ……遺言書持ってきたのがブリジッタだから、じゃないんですのよね、理由。


 ソウルテスタメントが有している知識を必要としているのはブリジッタだから、という理由からこうなった。



「で、次はこういう特徴のタペストリーなのですが」


「待て」


「ハイ?」


「余がブリジッタに余の知る知識を与えるのは構わん。仕方のないコトだし、余も排泄物を入れるツボにはされたくないからな」


「ゾゾン先生のあの脅し文句はヤバかったですよね……」


「その話はするな」


「振ったのソウルテスタメントなのに」



 極東の地獄には糞尿と泥を混ぜた中で煮込まれるという地獄もあるらしいので、ほぼ地獄の所業。



「さておきだな、余の知識を与えるのは構わん。だがソレはソレとして、知識を与える度にツボの中に食べ物を入れろ。そのくらいの対価、いや、娯楽か……くらいは支払ってもらおう」


「エ、食べれるんですか?」


「こないだ貴様、ツボの中にジュースを零したであろう」


「あー……ギリギリセーフかと思ってたんですけど」


「アウトだ」


「アウトでしたか」


「だがそのジュースの味は不思議とわかってな。もしかすると食事が可能かもしれぬ」


「うーん……お世話になってるのは事実ですしね。遺跡の主直々に教えてくれたんですよ!って感じで客寄せに名前使わせてもらってるワケですし」


「おい待てブリジッタ貴様今ナンと言った」


「とりあえずゾゾン先生に聞いてみましょうか。食べれるかどうかは一旦置いといて、食べれるとしたら食べさせて良いのか、とか」


「止めろ!あの男だけはイヤだ!あの悪魔のトコへ行くのだけは止めろ!」


「悪魔て。生粋の人間ですよ、あのヒトは。ちょっと頭オカシイだけで」


「理由には充分だろうが!」



 自分を含めた談話室に居る生徒が何人か頷いた。



「でも食べるコトでパワーアップしちゃう感じだったら困るので、弱点でもあるゾゾン先生の方に聞きましょう」


「止めろ!止めろ!せめてあっちの!薄ら笑いを浮かべてやたらイヤな感じはするもののあの男に比べればマシに思える方にしろ!」


「アドヴィッグ先生はアドヴィッグ先生でアレなんですが…………いや、ついでに復讐女王とお話でもしようと思うのでやっぱゾゾン先生ですね」


「貴様まさか長居をする気か!?」



 ぎゃいぎゃいと騒ぐソウルテスタメントにはすっかり慣れたのか、ブリジッタはその叫びをスルーして彼を抱えながら談話室を後にした。

 というか多分ジュース系なら染み込むから味がわかっただけであって、固形物なんかは無理なのではないかと思うのだが。

 まあ駄目だったら駄目だったで生ゴミ入れるツボみたいになるだけだし、すぐにその辺は発覚するだろうから良いか。

 そう思い、読書を再開した。




ブリジッタ

ラクダ系の混血な、遺跡が多い場所出身。

ワリと強かな民族なので、かつての王だろうが飯のタネとして使う。


ソウルテスタメント

遺言や遺言書に魔法で魂を移動させるコトで、読み上げた存在、または聞いた存在にその魂を移動させボディを乗っ取るという魔物。

ただし持っていたのと読み上げたのが違う人間だったコトと、ブリジッタの遺伝による反芻が良い仕事した結果腹の中で固められて口の中にポンと出され、結果ツボと一体化させられた。


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