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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
五年生
138/300

岩警備員とダメージパペット



 彼女の話をしよう。

 遺伝で体の一部を岩にするコトが可能で、最近学園の警備員に就職した、戦闘派。

 これは、そんな彼女の物語。





 適当に庭を歩いていたら、リタ警備員に声を掛けられた。



「ヤッホー、エメラルド。今暇だったりしない?」


「ナンパですの?」


「うん、大体そんな感じ」



 そう言ってリタ警備員はヘラリと笑い、薄茶色の髪を風に揺らす。



「特に不審者も居ないから暇なようでね」



 リタ警備員が嵌めているパペットが苦笑しながらそう言った。

 彼はダメージパペットという魔物であり、リタ警備員のパートナーである。

 ちなみに見た目はトカゲか怪獣をモデルにしたんだろうなという感じであり、端的に言うと面影は感じれどあまり似てない。



「もし良かったらリタの話し相手になってはくれないだろうか」


「……ダメージパペット、本当にそうやって普通に話してるとまともっぽいんですけれど」


「いきなり酷くないかね?」


「やー、私としては仕方ないんじゃないかと思うかなー……」


「何故」



 ダメージパペットは異常扱いされているのに納得出来ないようだが、この反応になってしまうのは仕方がないと思う。

 なにせ彼は性癖的にかなりのMだ。


 ……知りたくはなかったんですけれど、ね……。


 しかし不審者が襲撃してくると必然的に()えてしまったりするのがこの目である。

 どういうコトかというと、まずダメージパペットの生態は藁人形のような身代わりに近い。

 髪を入れるのではなく守りたい対象の手を入れる必要があるのだが、そうするコトで対象が受けたダメージを全てダメージパペットに移動させるコトが可能なのだ。


 ……そしてパペットだから、修繕可能ですしね。


 燃える系は大ダメージらしいが、そういう系はリタ警備員自身が自分の体を岩にして身を守るコトでカバーしており問題は無い。

 岩に炎の攻撃は効果がいまいちというのは異世界である地球のゲームでも言われているコトだ。


 ……ただ、だからなのかナンなのか、Mなんですのよね……。


 知りたくて知ったワケでは無いが、攻撃を受けたり修繕している時などに喘いでいるせいで知ってしまったのだ。

 正直言って一針縫うごとに喘がれながらも修繕をやり遂げるリタ警備員は凄いと思う。



「まあでも、暇してたのは事実なので構いませんわ。日向ぼっこでもするつもりでしたし」


「良かったー!じゃあこっち!こっちこっち座ってー!」



 ぐいぐいと引っ張られ、言われるがままベンチに座る。



「あ、お話するならナニか食べ物とか……」


「気にしないでくださいな」


「クルミあった!ちょっと待ってね!」



 リタ警備員はダメージパペットを嵌めていない方の手を岩へと変化させ、硬そうな殻をバキリと割った。

 クルミ割り器もくるみ割り人形も無いのにとても綺麗に割れている。



「ハイどうぞ、って……そういやさっきナニか言ってた?」


「ああいえ、もうナンか気にしなくてオッケーですわ」


「そっか」



 ニコニコした笑顔を曇らせるのも忍びないので、ありがたくクルミを頂く。



「…………羨ましいな」



 すると、ダメージパペットが割れたクルミの殻を見ながらポツリと呟いた。

 ソレに対し、リタ警備員はクルミを食べながら言う。



「ダメージパペット、流石に私にダメージパペットを握り潰せとは言わないよね?」


「ハハ、確かにそういうつもりでの羨ましい発言ではあったが、無理なのはわかっているさ」



 ……あ、今のってそういう意味だったんですのね。


 単純にパペットだから飲食しない生態であり、だからこそ一緒にクルミを食べれるのが羨ましいなとか、そういうアレかと思って聞き流していた。

 まさか性癖の方の発言だったとは。


 ……いや、今のはわかる方がアウト!つまりわかんなかったわたくしはとってもすっごくセーフでしたわ!



「ソレに私の場合、布製だからな。握り潰されても大してダメージを感じないのが残念だ。クルミの殻のように硬ければ握り潰され砕かれる感覚を味わえたのかもしれないが」


「その言い方されるとただクルミの殻割っただけのコトが凄いコトしたみたいなんだけどー……」



 岩化させていたとはいえ素手でクルミの殻を割るというのは結構凄いコトな気がする。



「あとそんなに硬いと修繕出来ないから普通に困っちゃうし」


「ふむ、ソレもそうか。砕かれるという一時的な快楽よりも、ほぼ永久的に感じるコトが出来る身を裂かれる快楽……ギャンブルよりも定職の方が良い、というアレのようなコトだな」


「違うと思う」


「うん、わたくしもソレはちょっと違うというか、定職ついてる方からすると助走つけてグーパンしに来そうなセリフというか」


「グーパンをしに来てくれるのなら是非来て欲しいくらいだが」


「しに来て「くれる」っていうのがねー……」


「まあ私の場合、打撃系の痛みはあまり感じるコトが出来ないのが残念だ」


「ちなみに今まで一番興奮した攻撃ってあるんですの?」


「ナニ聞いてるのかなエメラルド!?ソレで悪影響とか受けたら怒られるの私だと思うんだけどソレ!」


「確か一番興奮したのは、燃えた時だな。アレは燃えたし熱くなった」


「ソレは興奮というよりも単純に燃えたコトによる熱なのでは」



 というか物理的に燃えてるし。



「って、ダメージパペット的には炎って相当アウトな攻撃じゃありませんの?」


「ああ、その通り。身がごうごうと焼かれるあの感触、チリになり散っていく糸や布、自分が失われるのではという危機的状況による興奮!アレはきっともう二度と味わえないだろう!」


「今は対炎の時だけリタ警備員が受けるようにしてますものね」


「ソレもあるが、やはり最初の衝撃に勝るモノは無いからな。二度目ではどうしてもインパクトが足りず、あの時程の快感と満足感は得られないのか、となりそうで」


「十四歳相手にアブノーマルな話するの、その辺でやめてくんないかなー」



 そう言うリタ警備員は、疲れたように苦笑していた。



「ソレにダメージパペットが燃えたあの時って結構大変だったんだよ?布とか焦げてるし」


「ああ、確かにアレは世話になったな」


「世話になったって?」


「カティヤ先生とフランカ先生に聞いてね、どうしたら良いか教えてもらったの。そしたらまず頭部だけ直して、その後に胴体を直せばイケるって」


「……ソレつまり、元々の布は総取っ換えというコトじゃありませんの?」


「中のワタも詰め替えたよ」



 言いたいのはソコじゃない。

 いやまあ、うん、このアンノウンワールドでテセウスの船に関してを考えても仕方ないのはわかっているが、ソレでも考えてしまうのは性な為ソレはソレで仕方がない。


 ……パーツを全部取っ換えたソレは同一かどうか、ですけれど。


 この性癖加減からすると完璧に本魔だろう。

 頭部もボディも中身でさえも交換したというのに、手順さえ合っていれば問題無いというのは中々凄いと思う。

 もっとも人間も細胞的に考えると十年もあればほぼ完全に別人の細胞状態になっているハズであり、つまりそういうのを真面目に細かく考えると面倒ですの。



「うん、まあ、その辺は良いとして…………そういえばリタ警備員って攻撃を避けませんわね」


「あ、あは、あっはははははは……」



 顔を逸らされた上に笑いで誤魔化されてしまった。



「リタはな、攻撃を避けたりという防御が苦手なんだ。体の一部を岩に出来るからこそ攻撃に特化しているんだがその分防御がからっきしで」


「ヤダヤダヤダちょっと言わないでよダメージパペット!」


「そして人体の部分は柔らかいし岩の部分はやりようによっては簡単に砕くコトが出来るしという感じでな」


「あっクソそういえばこの口って飾りか!塞いでも意味がない!」


「その結果リタはここの警備員になろうとして一度落ちたのだが、お陰で私はリタに出会え……盾として痛い目を見るコトが出来る上に修繕でも痛い思いをするコトが出来て、もし生き物系魔物だったなら涎を垂らして恍惚に喘いでいるくらいには幸せだ」


「前半は普通に感動系かと思ったのに後半の正直さどうにかなりませんの?」


「正直なのは良いコトだろう?」


「いや、まあ、うーん……」



 確かにそうなのだが、正直過ぎても良くはない。

 そんなのは作品の攻略キャラクターにきゃっきゃ言ってるヒトに対し、「でもソレ髪隠したら皆同じ顔じゃない?」と言うようなモノだ、と異世界の自分も言っている。


 ……つまりどういう意味なのか、わたくし自身がわっかんないですわね今の説明。


 まあ要するに夢見るヒトにソレは夢で現実はこうだよ、と言うようなモノだろう。

 女の子は砂糖とスパイスと素敵なモノで出来ていると信じているヒトに、いや人間だから血肉に皮被せたモノだよ、と言うのは流石にアウトだ。


 ……ええ、そう、要するに正直過ぎて夢壊すのは駄目ってコトですわ。



「……ん、あら?警備員になろうとして一回落ちたんですの?」


「あー……うん」



 リタ警備員は言いにくそうにしながら、苦笑して頷いた。



「エメラルドが入学する前に卒業したけど、私はここの生徒でさ。この遺伝からすると荒事が一番良いんだけど、私ってあんまり機動力無くて」


「岩だからか見た目に反して体重が」


「あ゛?」


「……ボディの密度が高めだからな」



 あのダメージパペットがオブラートを使用した。

 もっともソレも仕方ないと思える低音と眼力だったが。



「だからここの警備員になろうと思ったんだけど……防御が出来てないから危険過ぎる、って」


「アダーモ学園長、その辺緩そうですのにね」


「ナンかね、死なないような子じゃないと採用出来ないって言われた」


「あ、ああー……」



 確かに不老不死勢であるアダーモ学園長からすると、寿命が来ない限りは死にそうにないヒトを雇いたいだろう。

 というか学園側のヒトはやたら狂人が多いなと思っていたが、そういう理由か。


 ……確かに、殆どのヒトがそう簡単にはくたばりそうにない感じですわよね。


 万が一があっても確実に一矢は報いるだろうヒトばかりだ。



「実際防御力が皆無なのは自覚があったから、とりあえず実家に帰ろうってなったんだけど……実家で蔵の掃除をさせられちゃってさ」


「蔵の掃除」


「若いなら働けーって」



 成る程。



「確かに今は無職だしなあって思って掃除して、そしたらダメージパペットが仕舞われててね?」


「あの時は眠っていたのだが、私の中に手を突っ込まれたので思わず起きたのだったな」


「その通りだけどその言い方、まるで私がダメージパペットの腹部に腕を貫通させたみたいじゃん」


「事実だろう?」


「そうだけどさー」



 ……うん、確かに事実ではあるんですけれど、そういう仕様というか、うーーん。



「そして目覚めたダメージパペットとちょっと話をして、ナンか話の流れで警備員になろうとしたけど落ちたって話をして、ソレなら自分はダメージを代わりに受けるダメージパペットだから丁度良い盾になるのではないか?って言ってくれたんだ」


「ハハ、あの時のリタの行動は凄まじく早かったな」


「夢を諦めないで済むかも!って思ったからね!……当時はダメージパペットが痛みに快感を覚えるタイプって知らなかったし」


「痛みに呻くよりは痛みに喘ぐ方が精神的にはマシだと思うが」


「そもそも私達人類の性的なアレコレが現代では大分死滅してるから、そういうのにいまいち同調出来ないっていうねー……」


「ああ、ソレはありますわね」



 性的な部分の本能は、現代においてほぼ死滅していると言っても過言では無いレベルで廃れている。





 コレはその後の話になるが、学園を狙った愚か者とバトった結果ダメージパペットが負傷したらしい。



「あっ、あっ……」



 リタ警備員が手を動かす度に、晴天の空に似合わない声が響く。



「も、もう少し優しくしてくれないかね、リタ……ひぅっ!?」


「優しさは既に売り切れでーす。今ある在庫は効率重視だから」


「だ、だが、そんな乱暴な……んんっ!縫い方をされると……!」


「確かにちょっと雑な縫い方だったけど……まあ、守ってもらったのは事実だしね。こんな感じ?」


「……ん、そ、そう、そんな風にゆっくりと……」


「りょうかーい」



 チクチクと針と糸でダメージパペットの破けた部分を縫い合わせているだけだというのに、響く喘ぎ声。



「んひっ、ひゃ、あう……っ!ゆ、ゆっくりはゆっくりで、また……針が布をゆっくりと貫通して糸が通っていく感覚が、よくわかって……んんんっ!」


「うーん、ナンというか……もうちょい声抑えらんない?図書室にあった同人誌では学園内でそういう声出す時、殆どの子が声押し殺してたよ?」


「そ、そう言われても……ふ、う……っ!体の中を私からすると太く鋭く、冷たいようでリタの体温により一部温かい金属が痛みを伴って入り込んできていると、考えると……仕方がないと思わないか!?」


「いや正直その感覚とかまったくわかんないから、私としてはナンとも……」



 青空の下、ベンチに座りながらリタ警備員とダメージパペットはそんな風に会話していた。

 ダメージパペットが破ける度に同じようなやり取りをやっているのでよく見る光景であり今更でしかないが、あの喘ぎ声はどうにかならないものか。

 昼の学園に似つかわしくなさ過ぎて、頭痛がしてくる。




リタ

遺伝で体の一部を岩化出来るものの一部のみであり、動きも鈍いので防御面に不安があると警備員の面接で一度落ちた。

しかしダメージパペットが防御を担うコトで受かった為、ドMの理解不能な変態であっても大事にしてる。


ダメージパペット

持ち主のダメージを肩代わりする身代わり系の魔物でありドMだが、この個体の性癖というだけなので他の個体はまともだったりする。

攻撃を受けるコトによる過激な一瞬の痛みも好きだが、修繕の際のゆっくりとした痛みもまた興奮する。


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