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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
五年生
135/300

剣術教師とスプリングレディ



 彼の話をしよう。

 剣術の教師で、武器に関する知識が凄まじく、生徒の適性に応じた教え方をする。

 これは、そんな彼の物語。





 ふと、昔を思い出す。

 初めての剣術授業では自分は剣を持って振るコトは出来ても、攻撃となるといまいちだった。



「……ふむ、成る程。そういえばエメラルドは戦闘系天使の娘であり、剣も槍も弓も持てるとなると……」



 そんな自分を見て、シルヴァン剣術教師は淡い黄緑色の髪を揺らしながらカカシを持ってきた。

 そして、ソレとは別に見るだけでゾワゾワする黒いナニかを皆に見せる。



「コレは「悪」という概念を封じ込めたモノだ。呪いなどを一時的にこの玉に移すコトで解呪するという魔道具なのだが、ソレら「悪」とされるモノを吸収し過ぎるとこの通りのモノになる。

この状態になると悪の種子という呼ばれ方をするので、覚えておくと魔道具の授業で役立つかもしれぬぞ」



 シルヴァン剣術教師が見せるソレはもう呪いなどでは無く、悪意の根源のようだった。



「まずコレをカカシに埋め込む」



 そう言ってシルヴァン剣術教師がソレをカカシにセットすると、途端に全身の毛が逆立つのを感じた。

 産毛の一本一本までもが逆立っているのを感じながら、目の前のアレをこの世から滅さなくてはという感情がごぼごぼと沸き上がる。



「コレでこのカカシは悪と感じる対象になったワケだが、さて、エメラルド」



 こちらに振り向いたシルヴァン剣術教師は自分の目の前に剣を放り投げた。

 その剣はまるでこちらに抜けと言いたそうに、地面に刺さる。



「まずはお主にどれくらい戦闘系天使としての要素が遺伝しているかを確認しておこう。ソレが確認出来たら戦闘系天使についてを教えようと思うが、まず優先すべきは確認だ」



 そう言い、シルヴァン剣術教師はカカシから距離を取った。



「好きに、本能のままに動け、エメラルド」



 その言葉を聞いた瞬間、手は勝手に剣を掴んでいた。



「いけませんわ」



 口からそんな言葉が零れるのを他人事のように聞きながら、コントロールが効かない体の動きに身を任せる。



「いけませんわ」



 動かないカカシ相手に、自分は回転するコトで剣の切れ味に遠心力を加え、平行に挙げられているその腕に剣を振り上げた。

 カカシの右腕が宙に舞い、自分はソレに見向きもせず次の動きを開始する。

 カカシの背後に回り、剣に振り回されるかのような動きで回転しながらカカシの腕を先端から肩付近まで輪切りにした。



「いけませんわ」



 そのまま自分は体勢を低くしてカカシの足をだるま落としのように下から輪切りにし、カカシの胴体が重力に従って落ちる前に、その首と胴体を切り離す。

 そして胴体の心臓部、すなわち悪の種子がある位置に剣を差し込み、地面へ縫い付けるかのように貫いた。



「……いけませんわ」



 そう呟いて剣を押し込むと同時、パキンという音が響いた。

 悪の種子が砕けて割れた音だった。

 ソレを認識し、カカシが悪だという事実が無くなった瞬間、夢の中にいるかのようにコントロール不可能だった体のコントロール権が戻る。



「……あ、あら?わたくし……あ!?し、シルヴァン剣術教師!?わたくし今ナンか壊してしまいましたわ!?」


「ああ、ソレは壊して良いモノだから気にするな」



 シルヴァン剣術教師はさらっとそう言って、彼のパートナーであるスプリングレディが持ってきた天使関係の本を受け取った。



「では臨時で魔物、または混血の授業というか……一年の前半はこうしてお主ら生徒の生態、特性、そして得意についてを調べていくコトになる。

そして今のように皆から見て「どういうナニがあったんだ」となるような物事には私が逐一説明しよう」



 そう言い、シルヴァン剣術教師は一旦全員を座らせて本を開いた。



「まずソコのエメラルドは戦闘系天使の娘であり、エメラルドの兄や姉と比べて随分と戦闘系天使としての遺伝が色濃いらしい。

戦闘系天使とは、その名の通り神がこの世に不要と断じた悪を排除する存在だ。なので先程悪の種子を仕込まれたカカシが悪だと感じた結果、本能的に排除に動いたのであろうな」



 確かにアレは本能だった。

 抗えないナニかにより体のコントロールが完全に持っていかれた。



「もっとも戦闘系天使は対象が悪でさえなければ天使らしく温和なので気にしなくて良い。

ナニを悪かと断ずるかは法律的な部分では無く神が定めた原始的な部分だが、まあ要するに地獄に落ちるような罪を犯しているかどうかのようなモノなので適当に考えておけば問題は無い」



 確かに神が悪と定めたモノが地獄に落ちる仕様だが。



「そしてここからはエメラルドへの言葉だが、お主は一撃必殺が苦手らしい」


「一撃必殺」


「回転して攻撃力を上げたり、四肢を潰してから首を刎ねる辺り、な。

ソレと首を飛ばしてから心臓の位置を貫くのは命懸けの戦闘であれば大正解ではあるが、この世で裁かれるべき悪人相手にもソレをやるとお主が罪人になりかねん」


「ウ」



 ごもっとも。



「お主は対人は悪相手でないと無理そうな上に、本当に悪と対峙すると命を奪いかねん。

なのでエメラルドはまず悪の種子を仕込んだカカシを相手にし、手足を切り落としたり致命傷を与えたり息の根を止めようとしたりするという本能をコントロール出来るようになった方が良いな」


「出来るでしょうか……」


「回数でごり押せばどうにかなるであろう」


「ア、ソコごり押しなんですの、ね……?」


「エメラルドはエメラルドで、急所を避けるように攻撃するのを心掛けろ。攻撃箇所を少しずらすくらいならば体のコントロールが不可能でも根性で可能だろうからな」


「根性」


「そして殺さぬ程度に一撃必殺。一撃で致命傷にならないが行動不可能レベルのダメージを与え、相手の戦意を喪失、または戦闘不能にする方法を学ぶと良い。オススメは頭部狙いで脳を揺らす、または関節外し」


「ソレ体術じゃありませんの?というか選択肢がえぐい」


「骨折よりは脱臼の方が多少クセは残ってもソッコで治せる分誤魔化せるであろう」


「誤魔化し前提……」



 初めての剣術授業は、その後他の生徒の特性なども確認しつつ終了となった。

 実際あの後かなりの人数が居る生徒達の特性や遺伝などを確認しつつ、しかしそのヒトに合った武器や戦い方を指導するので、シルヴァン剣術教師はとても大変そうだった。

 もっとも本人曰く、大変なのはその時だけだそうだが。


 ……まあ確かに、一年の時にソレを確認しておけばその後は楽ですわよね。


 適性や得意がわかっていれば教えやすいし、教わるこちらもやりやすい。

 正直言って剣以外の武器を用いるコトも多いので剣術授業では無く戦闘授業なのではと思うコトも多々あるが、しかしとてもお世話になっているのは事実だ。

 剣術授業で自分の戦闘系天使特有の危うさを理解し、その上で致命傷を与えないようにという訓練をしたお陰で、今のトコロ愚か者相手に戦っても命を奪ったりはせずに済んでいるのだから。





 そんな一年生の頃を思い出しつつ、スプリングレディにもたれかかって眠っているシルヴァン剣術教師に近付く。



「あの、差し入れのお弁当持ってきましたわ」


「ん、エメラルド」



 シルヴァン剣術教師を支えているスプリングレディが、こちらを見てふわりと微笑んだ。

 スプリングレディは春の化身とも言える魔物であり、全体的にピンク色でふわふわした雰囲気の美しい女性姿をしている。


 ……春だからか、話してるとふわふわした気分になれるんですのよね。


 シルヴァン剣術教師がぐっすりと昼寝してしまうのもわかる気がする暖かさだ。



「今日の運搬人はエメラルドか……って、キミかなりの頻度で運んでないかい?」


「いやホントーにナンででしょうねー……」


「つまり立候補してるワケでも無いってコト?」


「わたくし、実は運びますわよって立候補したコト一度もありませんのよ」


「うわあ」



 スプリングレディは引き攣った笑みを浮かべながら、自分が差し出すお弁当を受け取った。



「ホラ、シルヴァン。エメラルドが差し入れのお弁当を持ってきたから起きなって。今日はこの後、八年生の授業があるだろ?」


「む、うう……」



 そんな唸り声と共に、シルヴァン剣術教師の腹からぐるるるという鳴き声がした。



「……シルヴァン剣術教師、確か今日普通に食堂で大盛りの昼食を食べてましたわよね」


「燃費が悪いのか、こうしてこまめに差し入れが要るから困ったものだよね。まあお腹を空かせているシルヴァンはこうして僕に甘えてくれるから僕としては嬉しいんだけど……」



 ふわりと微笑みながらさりげなくノロケられた。



「……ん、差し入れの時間か」


「その通りですわ」


「エメラルド、また運び人か?」


「好きでやってんじゃありませんわよ」


「中身は」


「スルーですの?」



 確かに毎回こんな感じのやり取りだが、振っておいてソレはどうなんだ。



「本日は太巻きと細巻きといなり寿司とおにぎりだそうですわ」


「全ておかずを含ませた米だな」


「もう完全にお腹膨れるの優先したメニューだね」


「しかしその方がありがたい」



 そう言ってシルヴァン剣術教師はまず水筒に入っていたお茶で喉を潤し、細巻きから食べ始める。



「……ふふ、シルヴァン、頬に米粒がついているよ」


「む、すまぬ」


「ナチュラルにラブラブな……」



 スプリングレディが米粒を取ったと思ったら、その手からシルヴァン剣術教師が米粒をペロリと舐め取った。

 コレは取った側が米粒を食べるよりもレベルが高いイチャつきではなかろうか。



「……シルヴァン剣術教師とスプリングレディって、どうやってパートナーになったんですの?」


「普通にだが……突然ナンだ」


「いえ、武器コレクターなシルヴァン剣術教師と春の化身であるスプリングレディという組み合わせが不思議で」



 言うなれば武骨な剣士と箱入りお嬢様のカップリング、と異世界の自分も頷いた。



「不思議、と言われてもな。私としてはこうなったからこうなっているとしか言えぬぞ」


「いなり寿司食べながらそう言われても……」


「いや、今はいなり寿司を食べた時に頬についた米粒を自分で拭って食べた、だ」


「そゆトコ細かく言いたいんじゃありませんわよ」


「エメラルドが細かく聞きたいのは、僕とシルヴァンの馴れ初めだと思うよ?」



 スプリングレディはクスクスと微笑みながらそう言った。

 そう、その通りだと自分もコクコクと頷いてその言葉を肯定する。



「馴れ初め……」



 そう言って太巻きを一口で半分齧り、咀嚼し、飲み込んでからシルヴァン剣術教師は口を開いた。



「馴れ初め、かはわからぬが、最初の出会いはここの森だったな」


「だったね」


「そうなんですの?」


「うむ」



 残りの半分も一口で平らげ、指についた米粒を舐め取りながらシルヴァン剣術教師は話す。



「元々私はここの生徒でな。その当時のコトだ」


「ア、シルヴァン剣術教師ってここの卒業生だったんですの!?」


「ナンだ、知らなかったのか?」


「初耳ですわ」


「ナタリー・エメラルド」


「?」



 何故今母の名を言うのだろうか。



「エメラルドの母である彼女は私の同級生だ」


「エッ!?」


「だから知っていると思ったんだがな」


「えー、えー……お母様基本的にお父様への愛しか語らないので学生時代の話とか全然聞いたコト無いんですけれど、えー……同級生だったんです、の……?」


「母になった同級生のラブラブ夫婦生活を教え子から聞くというのは中々内臓にもったりとしたダメージが入るな」


「いやソレはダメージじゃなくて米の重みだと思いますわ」


「シルヴァン、ハイお茶」


「いただこう」



 シルヴァン剣術教師はスプリングレディから手渡された水筒を傾け、中のお茶をぐびぐび飲んだ。



「……ふぅ」


「まさか聞いてなかったとは思わなかったね」


「ああ。普通親が学園の卒業生ならば、どういう学園かを聞くモノだと思っていたからな」


「あー、わたくしの場合はお兄様に聞くコトが殆どだったんですのよね。現役でここの生徒やってた分、お母様もお兄様に聞いた方が良いって言ってましたし」


「ソレは確かに」


「時代で教師や授業内容が変わるから、妥当な判断ではあるかな。子供のコトを思うならそっちの方が適任だし」



 ちなみに姉には聞いていないというか、聞きたかったが聞けなかった、が正しい。

 あのヒトは本当に中々家に帰らないし手紙の返事も寄越さないヒトだった。


 ……そんなお姉様に手紙書かせて、かつ添削までしてくれてるダークストーンには感謝しかありませんわねー……。



「さておき本題の馴れ初めだが、私は当時学生で、武器が好きで、特に得意が剣術だった。なのでよく放課後に森へ行って素振りなどをしていたんだ」


「どうして森で?」


「すぐ近くに川などがあるから汗だくになったらソッコで水浴びが出来るだろう?」


「効率重視な……」


「当時は制服が無かったから結局びしょ濡れに変わりはなかったがな」



 そういえば母も当時の学園に制服は無かったと言っていた。



「で、そんな当時、僕はあの森に居たんだよ。理由は特に無いけど、確か居心地が良かったからじゃなかったかな」



 本当にあの森の魔物ホイホイさはどういうナニなんだろうか。



「そして一人で頑張っているシルヴァンを見て……うん、まあ、一目惚れをしてね。僕の方からアタックしたんだよ」


「具体的には?」


「差し入れとしてその辺に生ってる実を渡したり、ソレ食べている間にちょっと抱き着いて服乾かしたり。

ホラ、僕は春の化身だから春の日差しのような部分もあるみたいで、そういうのが出来るんだよね」


「つまり役得だったと」


「そういう話はしていなかったと思うが」


「うん、役得だった」


「スプリングレディ!?」



 真顔で頷いたスプリングレディに、シルヴァン剣術教師は初耳だ!と目で雄弁に語っていた。



「で、そんな感じで結構長いコト友達みたいな位置に居たんだけど、卒業前にね?

シルヴァンが僕に対して、「私は卒業したら旅に出て様々な武器を見に行くつもりだ。もしソレでも良いと言うのであれば、共に来てはくれないか」って!」


「あー、ソレはときめくヤツですわね」


「だろう、だろう!しかも好きなヒトからそう言って手を差し伸べられたらその手を取るしかないだろう!」


「他の選択肢があるとしたら、もう抱き着くか勢いのままキスするかくらいしかなさそうですわ」


「ああ、ソレやった」


「やられたな」


「やったんですの!?」


「手を取ったらもう我慢が出来なくて抱き着いて、その勢いのまま唇を奪わせてもらった」


「手を取ってもらえたと思ったら抱き着かれ唇を奪われた」



 スプリングレディは見た目だけ見るとふわふわな箱入り花畑系だというのに、中身の肉食さよ。



「そして、私はスプリングレディと旅をしていたのだが……学園長に教師をやらないかとスカウトされてな」


「で、受けたんですの?」


「私はまだ武器を集めたり見たりしたいからと断ったのだが、お主のような混血のコトを出されてはな」


「わたくしのような?」


「対悪への本能的攻撃」


「アッ」


「混血の場合は戦闘系天使以外にも似たような本能を持つ生徒が居るから、適格な指導をしてほしいと言われたんだ。

確かに合わない武器を使おうとしたりするよりは適性のあるモノを進めた方が良いだろうし、私は武器の知識が豊富にある」


「そしてコレクション用の部屋と、経費で武器を買っても良いっていう契約でここの教師になったんだよ」


「あのコレクション部屋の武器、経費で購入されてたんですの!?」



 ちょいちょい武器の手入れの手伝いを頼まれるのでシルヴァン剣術教師の武器保管部屋にはよく行くのだが、室内を埋め尽くさんばかりのあの武器達が経費だったとは。

 いや、一部はコトノのような生徒からの譲渡品だが。


 ……そういえば、コトノは血涙刀が嫉妬するからって手放したんですのよねー。



「経費では無いぞ」


「エ?」


「半分程は闇のオークションなどで売られていた武器だ。学園長には申請を出しているのだが、オークション系は自腹で払えと言われていてな」


「そりゃ当然ですわよ!?」



 オークションが経費で落ちたらとんでもない額を出してでも競り落としかねない。

 普通に販売されている武器が経費で落ちるだけ凄まじく優しいと思う。


 ……本当にアダーモ学園長、その辺のハードルが低いというかナンというか……。


 そのお陰で自分達生徒は適した武器を授業中に使用させてもらっているとはいえ、些かアダーモ学園長の負担が多過ぎやしないだろうか。

 まあ昔の教師はもっとぶっ飛んでいたらしいので、当時から学園長をしていたアダーモ学園長からすると可愛らしいレベルなのかもしれないが。





 コレはその後の話になるが、シルヴァン剣術教師は時々勝負を挑まれるコトがある。

 ソレは生徒だったり、まったく知らないヒトだったり、それなりに名の知れている剣士だったりと様々だ。



「でもみーんな本気で対応しますわよね。生徒でも剣士でも」


「本気で勝負を挑んでいるんだから、本気で受けるのが礼儀だろう?まあシルヴァンは少しソレを実践し過ぎだとは思うけど、命を取ろうとはしないから死にはしない」


「そりゃ死んだらアウトですわよ」



 学園の正門前で、シルヴァン剣術教師と中級レベルっぽい見知らぬ剣士との闘いを見守る。

 こういうのは学園内でやるのが小説などではベターなのだが、部外者は入れない仕様となっているので必然的にこうなった。


 ……まあ、挑戦してきた相手だからって受け入れてたら、挑戦者を騙って侵入する愚か者が出ないとも限りませんものね。


 一般の学園では生きにくいだろう混血や魔眼持ち、障害者などが多いこのヴェアリアスレイス学園としては、そういうのに対する警戒は万全にしておきたいのだろう。

 実際ちょっと王都を出歩くだけでヤバいの引っ掛ける生徒は結構居るし。


 ……トルスティとかネストルとか、同級生でも何人かそういう子居ますし。


 ちなみに正門前で闘うなんてご近所の迷惑にはならないのか、という点は問題無い。

 周辺のヒト達も大概狂人な上にタフなメンタルを有しているので野次馬相手にドリンク販売などで商売をしているくらいだ。


 ……まあ、流石に金銭での賭けは兵士にちょっとお時間よろしいですかって言われるからか、賭けは手持ちのお菓子だけってコトになってますけれど。


 もっともこの闘いは一切賭けにならないと周辺のヒトもわかっているので、あくまで遊びの範疇でしかないのだが。



「死んだらアウト……ね」


「?」


「エメラルドはシルヴァンがどうして一回の勝負しか受けないのか、知っているかい?二度目の挑戦を絶対に受けないのは、どうしてか」


「知りませんわ」



 含みのある笑みでスプリングレディが言った言葉に、ソッコで首を横に振って正直に答える。

 不思議には思っていたが、その理由は知らない。



「シルヴァン曰く、「負け犬に用は無い」んだって」


「オブラートがまったく無い言葉ですわね」


「ついでに言うと、「そもそも私が命を取らなかっただけであり、勝負に負けた時点でそやつは死体も同然であろう」とも言ってたよ」


「つまり二度目の挑戦を受けないのって」


「うん、一度目の挑戦で負けてる以上シルヴァンからすると死体にしか見えないらしいよ。だから成長してようがしてなかろうが、自分に敗北して死んだ亡者に興味はないんだって」


「ワー、辛辣かつハード」


「本っ、当にシルヴァンは格好良いよね」


「とろけるような笑顔ですけれど、その格好良さはわたくしにはあんまわかりませんわ」



 自分からするとクール通り越して冷徹なヒトのセリフでは?としか思えない。

 そんな風に思っていると、シルヴァン剣術教師に挑んできた剣士らしきヒトが剣を折られて吹っ飛ばされた。


 ……あ、シルヴァン剣術教師的に死体判定入りましたわね……。


 今の情報を知った上でシルヴァン剣術教師の目の動きなどを()れば、完全に相手への興味を失っているのが()えた。

 幾らなんでも興味を失うのが早過ぎやしないだろうか。


 ……いやまあ、シルヴァン剣術教師からすると死体同然だから興味を持つような対象ではないってのはわかりますけれど。


 ちなみにそんなシルヴァン剣術教師だが、自分の知っている限りの勝負では無敗のまま連勝している。

 かなり強い相手が挑戦しに来ても勝利しているので、その腕は相当のモノなのだろう。

 もっとも、そんな本人は剣士というよりも武器コレクターだと自称しているのだが。




シルヴァン

武器に関する知識が豊富であり、貴族の剣術から外道な戦法まで知っている上にとても強い。

ただし凄まじく燃費が悪く、空腹になると機嫌が悪くなって八つ当たりする可能性があるからという理由で空腹時は寝ているコトが多い。


スプリングレディ

春の化身とも言える魔物であり、見た目は全体的にピンクでふわふわした感じ。

雰囲気もふわふわしているように見えるが、シルヴァンのパートナーなだけあって見た目程ふわふわはしていない。


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