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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
五年生
134/300

実現少女とスマイルクラウン



 彼女の話をしよう。

 生粋の人間だが、口にした言葉が実現してしまう為、常に言葉封じのマスクを装備している。

 これは、そんな彼女の物語。





 プリヘーリヤは、生まれつき口にした言葉が実現してしまう能力を有している。

 そのコトは喋るようになってからすぐに発覚した為、親がソッコで魔力封じやらの色々をしっかり施したお陰で大変なコトになったコトは無いらしい。


 ……処置が迅速な親で良かったですわ。


 もし少し様子を見ようタイプだった場合、万が一もあり得てしまうので本当に良かった。

 そして世の中には魔眼用がメインとはいえ、生粋の人間でありながらも同じように不思議な能力を有して生まれてくる子が居る為、魔力封じ系の設備が整っているのも良かった。

 命に関わるコトだからとソレらは安価で取り扱われているし。


 ……悪用しようとする輩も居るから、適切な医者に診せて診断書貰ってその診断書持って、そして心読める系のヒトに真実かどうかを確認してもらって初めて購入可能、という感じで結構手順があるそうですけれどね。


 まあ悪用しようとする愚か者にソレらが渡るのはよくないので、警戒はしておいて損は無いだろう。

 石橋は叩いて安全確認しつつ渡るべきモノなのだから。



「……ん、どうかしましたの?」



 そんなコトを考えていると、丁度脳内で噂していたプリヘーリヤがこちらの服の裾を軽く引っ張っていた。

 着ている制服は自然に綺麗になり乾くという仕様なので普通に見えるが、その紫色の髪が濡れているトコロを見ると外に居たらしい。


 ……今日、結構雨強いみたいですのに。


 急に土砂降りになった為、もしや傘を持たずに出かけていた結果思いっきり降られてしまったのだろうか。

 そう思っていると、プリヘーリヤは片手でびしょ濡れかつ汚れているクラウンの人形を抱えながら、スカートのポケットから紙を取り出した。



「お願い」



 使用頻度が高い故に予め内容が書かれている紙だ。

 基本的にプリヘーリヤの言葉は意味の無い言葉、空っぽな言葉、そして簡単な受け答えなら実現云々とは関係無いので問題ない。

 しかしナニかが欲しい、というようなコトを呟くとソレが出現し言ったコトが実現してしまう為、プリヘーリヤは言葉封じのマスクで自ら喋れないように言葉を封じているのだ。


 ……自分から言葉を封じている辺り、心優しいですわよね。


 自分の言動で迷惑を掛けないようにという気持ちをヒシヒシと感じる。



「お願いって……ああいえ、紙に書こうとしなくて良いですわ。いつも通り普通に喋ってくださいな。紙も勿体ないですし、面倒でしょう?」


「……助かるわ、ジョゼ」



 少しの沈黙の後、紙とペンを仕舞ったプリヘーリヤは申し訳なさそうに微笑みながらそう言った。

 実際は喋っているというか、マスクの仕様で声はまったく出ていないのだが。


 ……でも、わたくしの場合はこの目がありますものね。


 マスクの中で喋っても、その言葉をマスク内で封じ込めるというのが言葉封じのマスクの効果だ。

 つまりマスクの中で口パクするコトは可能なので、字幕などが表示される自分の視界であれば問題無く会話が出来る。


 ……難点は、第三者からするとナニも言わないプリヘーリヤ相手にわたくしが一人で会話してるような風に見えるトコですけれど……。


 まあよくあるコトなので今更だ。

 そもそもプリヘーリヤ相手ならまだ相手が居るだけありがたい。

 ゴーストが相手だったりする場合、霊視が出来ないヒトからすると自分の頭がイカれたようにしか見えないからだ。


 ……いえ、うん、まあ、今はもうわたくしがそういうの()えるタイプだって周知されてるから「ああ見えないナニかが居るんだな」と受け止めてもらえるだけ、ええ、良いコトですわよね……。


 自分を客観的に見た瞬間に心にダメージを受けるのは、十四歳特有のモノなのだろうか。

 五年生用制服のテーマカラーである青色はそうやってダメージを受けた心を一旦落ち着かせて回復させる用なのかもしれない。



「ソレで、お願いってナンですの?」


「その、この子なんだけど……」



 そう言って、プリヘーリヤはクラウンの人形を掲げる。

 ちなみにこのクラウンは王冠では無く、道化師の方のクラウンである。


 ……異世界のわたくしからすると、クラウンとピエロの違いがわからないそうですけれど。


 自分からすると涙の跡があるのがピエロで、無いのがクラウンなのでとてもわかりやすい。

 実際見ると芸風もかなり違うし。



「ヤハ、ヤハハハハ!」



 そう思って見ていると、クラウンの人形はケタケタと笑った。



「んん?おっやぁ?コレは驚いていただけると思っていたのですが、まったくもってノーリアクションとは。スマイルクラウンとしては悲しい限りのリアクションでぇーすねぇ」


「あ、ソレはすみませんでしたわ。わたくし目が良いから魔物だって最初から気付いてたので、ドッキリだったとは」


「その正論の受け答えの方がワタクシ的には心にダメージを負うのですが、まあよろしいと致しましょう!ヤハハ!」



 ケタケタと笑うクラウン人形、もといスマイルクラウンだが、彼の体がボロボロなコトに変わりはない。



「その、この子、というかスマイルクラウンは確かに魔物なんだけど……洗ってあげたくて」


「ああ、確かに結構汚れてますものね」


「ワタクシ拾ってくれた彼女がナニ言ってるのかまったくわかりませんけど不思議と頭上で会話が成立してるっぽいという不思議!

ですが本魔がここに居るのに汚れているとか失礼なのでは!?まあ事実なんですけどねヤハヤハ!」



 ちょっとやかましいなこのスマイルクラウン。

 しかし道化師であり進行役でありおどけ役なのがクラウンでもあるので、こういうモノなのだろう。



「でもどうしてプリヘーリヤが洗おうと?見てる感じ、スマイルクラウン自身でも動くのは可能のようですけれど」



 動けるなら自力で洗うくらい出来ると思うのだが。



「あー、ソレは多分ワタクシがあのまま燃えるゴミにでもなろうかとしてたからではないかと」


「その通りよ」


「どの通りですの?」



 自分は透視や口パクを読み取ったりくらいしか出来ないので、ヒトの記憶や思考までは読み取れない。

 せいぜい感情を読み取るのが精一杯だ。



「私はただ、王都のゴミ捨て場に捨てられてるのを見て、汚れてはいるけどまだ洗って直せば綺麗になりそうなのにと思って」


「ワタクシはまあ実は捨てられましてね?」



 プリヘーリヤが説明しようとしていたが、彼女の言葉が聞こえていない、というか()えていないスマイルクラウンがソレを遮るようにして語り始める。



「あ、ちなみに王都在住では無く遠い土地に住んでる女の子がワタクシの持ち主だったのですよ!ですが見ての通りワタクシは魔物ですので、ええ、捨てられました」


「いやナンか起承転結めちゃくちゃでソレだけじゃ理解出来ませんわ」


「そうよね。というか私も会話が出来ないせいで詳しくは聞けてないから、彼の事情がよくわかっていないんだけど……」


「わからないで拾ったんですの?」


「汚れている上にところどころ解れてて、更に雨でびしょ濡れになりながら「ヤハ、流石のワタクシもちょっぴり、ちょっとだけ、ほんの少しですが寂しいですねーえ」って呟いてたから」


「あー、成る程。確かにそんな呟き聞いたら拾いますわ」


「エ、待ってください今どういう感じの会話をワタクシの頭上でしてらっしゃいます?」



 ちょっぴり、ちょっとだけ、ほんの少し、と三段階活用している辺り、相当寂しかったのがわかる。

 そんな呟きを聞いたら狂人でもない限りは拾わざるを得ないだろう。


 ……そしてプリヘーリヤの場合は自主的にマスクで言葉封じるレベルの心優しき常識人ですし、そりゃ拾いますわよね……。



「んで、スマイルクラウンの事情を起承転結も詳しく聞かせていただいてもよろしくて?」


「ワタクシ的には全然よろしいですが、聞いても面白いモノではありませんよーお?」


「でも聞いておかないと、拾って良いのかもわからないわ。持ち主が居ないのなら私が拾いたいし」


「先程の捨てられた宣言からすると拾って良いと思いますけれど……まあ、本魔の心情的なアレやコレもありますものね」


「いやだからどういう会話がなされてるんですか?」


「端的に言うと、彼女、プリヘーリヤはアナタを拾いたいけど拾って良いかわかんないから聞きたいって言ってますわ」


「はあ、ワタクシ的には全然構いませんが……拾っても良いコトなんてありませんよ?ヤハハ、ワタクシはせいぜい面白い動きをしながら魔力で花を出現させるくらいしか出来ませんからねえ」


「平和的で私からすると充分羨ましい能力だから、自慢に聞こえるわね……」



 プリヘーリヤの呟きは見なかったコトにしておこう。

 無意識の呟きのようだったし。



「ええ、まあ、ソレでワタクシですが……ワタクシは元々はただの人形だったのですよ。

そう、ワタクシは布とワタで出来てるお人形さん!女の子がその手に持ってあちこち連れまわして砂塗れスープ塗れになるような!」


「たった今汚れの原因が発覚しましたわね」


「しかしある日、というかまあつい最近なのですが、ワタクシが見事この通り魔物化いたしまして。

動けるようになったら喜んでもらえるのでは!?と思っていたのですが残念ながら魔物との共存がいまいちというか、オブラートに包まず言うと偏見とか伝承とかが色濃い感じの田舎だったのがアレでしたねー」


「あー……」



 王都ではモノが突然魔物化するというのは比較的あるあるだが、田舎だとソレが認識されていないコトが多々ある。

 要するに人形が喋ったり髪が伸びたりした結果、「ああ魔物化したんだ」では無く「ぎゃー呪いの人形ー!」ってなる感じに近い。



「ワタクシとしては頑張って魔力で花とか出して笑っていただこうとしたのですが、残念ながら道化師ビジュアルも相まってか怯えられるばかり。汚れているのも呪いの人形感が強まって見えたようで」



 洗えば良いだけのコトだろうに、そうも怯えるようなコトなのだろうか。



「そして今回、遠くに捨てようとなりここ王都のゴミ捨て場に。

ワタクシとしては今まで可愛がられていたのはナンだったんだ、魔物化とはソコまでの重罪なのか、とかシリアスなコト考えて雨に降られながらゴミとして回収され燃やされるのを待っていたのですが、ソコで登場プリヘーリヤ」


「で、拾われて現在に至る、と」


「ヤハハ、大体そのような感じでございますねーえ」



 スマイルクラウンは尚もケタケタと笑っているが、中々壮絶な起承転結だった。

 というか魔物化したのをわかった上でゴミとして捨てるとか正気なのだろうか、その元持ち主とか周辺のヒト。

 正直ここの生徒のような狂人よりも頭オカシイんじゃないかと思うレベルの行動だ。


 ……はて、異世界のわたくしが言うコインロッカーベイビーかというツッコミは一体どういうナニなのでしょうか


 ふむ、どうやら生まれた子供をコインロッカーという荷物置き場に捨てていく云々のアレコレらしい。

 確かに誕生した命をゴミのように捨てているという部分は同一だ。



「……つまり、私が拾ってもナニも問題ないってコトよね?」


「スマイルクラウン、プリヘーリヤが私が拾っても良いかと言ってますわ」


「ワタクシとしてはもう捨てられたくありませんので、捨てないでいてくださるならぜーんぜん構いませんよお?

まあ拾う時に将来的に捨てるかどうかナンてわっかんないので意地悪な言い方ですけどね!ヤッハハ!」


「そう、なら拾って大事にさせてもらうわ」


「ヤハ?」



 プリヘーリヤの言葉は聞こえていないのだろうが、抱きかかえる腕の力を強めたコトにスマイルクラウンは不思議そうな笑い声を発して首を傾げていた。

 そんなスマイルクラウンを見ながら、プリヘーリヤはクスクスと音も無く笑う。



「私、お喋りなパートナーが欲しかったの。私が喋れない分喋ってくれるようなパートナーが、ね」


「……よくわかりませんが、コレってワタクシ気に入られてるってコトで良いのでしょうかねー?」



 笑い声こそ無いものの、笑っている振動が伝わるからか、スマイルクラウンは不思議そうにそう言った。



「ええ、随分と気に入ったようですわよ。お喋りなトコとかが特に気に入ったそうですわ」


「はあ、まあワタクシ見ての通りのクラウンですのでお喋りなのは生態ですしねえ」



 というか、とスマイルクラウンは言う。



「というか、プリヘーリヤとの会話が出来ないのが今のトコロ最大の問題点だと思うんですよーお。プリヘーリヤってアレです?声帯的なアレとかで言葉喋れないタイプの方だったりします?」



 おっと、どうやらこっちはこっちで説明が出来ていなかったらしい。

 まあよくよく考えれば意志疎通出来てないっぽいトコからするとその辺伝えれていないのは当然のコトなのだが、その辺を伝えるのをすっかり失念していた。


 ……スマイルクラウンはスマイルクラウンで、よくまあ今までその辺スルーして普通に会話出来ましたわね……。


 結構スルースキルが高そうだ。





 コレはその後の話になるが、スマイルクラウンが魔力で出現させる花は、受け取ったモノを笑顔にするコトが出来るらしい。

 笑顔にする、つまり望みを叶えるというコトだ。

 誰かを笑顔にする道化師だからこその能力と言えるだろう。



「スマイルクラウン、まだなの?」


「ヤハハハ、少々お待ちくださいプリヘーリヤ!今絶賛ワタクシの花をプリヘーリヤの髪に編み込んでいる真っ!最!中!でございますからね!ヤハヤハヤハ!」



 談話室でその声がした方へ近づいてみると、プリヘーリヤはその紫色の髪をスマイルクラウンによって編み込まれていた。

 ソレも花を一緒に編み込むタイプの編み方だ。



「……あら、ジョゼ」


「ハァイ、プリヘーリヤ」



 マスク無しでそう言ったプリヘーリヤに、こちらはヘラリと笑って手を軽く振りながら答える。

 そう、プリヘーリヤの望みは「会話」だった。

 だからこそスマイルクラウンはこうしてプリヘーリヤの髪に自分で出した花を編み込み、プリヘーリヤの言霊を封じているのだ。


 ……スマイルクラウンが出した花で、望みが叶って笑顔になったプリヘーリヤ、というのは……。


 まるで物語にありそうなストーリーだ。

 拾った人形が望みを叶えてくれただなんて、飢えていたお爺さんにパンをあげたら実は神だったとか、動物に優しく接していたら実は王子様だったとかを連想させるモノがある。



「今日は後ろで一本の三つ編みなんですの?」


「ヤハ、その通りでございますとも!昨日の二本三つ編みは体術授業で少々邪魔になったようですので、本日は一本にしようかと!」


「ジョゼとお揃いね」



 ふふ、とプリヘーリヤは薄く頬を染めながら微笑んだ。



「ああ、確かに」



 五年生になってから自分は後ろで一本の三つ編みにしているので、確かにお揃いだ。

 とはいってもプリヘーリヤの三つ編みには花が編み込まれているので、豪華さではプリヘーリヤの圧勝だが。




プリヘーリヤ

意味のある言葉や感情のこもった言葉を口にすると実現してしまう為、マスクで封じている。

普段は基本的に筆談を用いていたが、スマイルクラウンのお陰でマスク無しで普通に喋れるようになったので笑顔が増えた。


スマイルクラウン

いつもニコニコ笑顔で誰かを笑顔にしたいという本能があるクラウン人形の魔物。

おどけた口調で常に笑っているが結構寂しがりな性格なので、常に持ち歩いてくれて構ってくれるプリヘーリヤへの好感度は高いが、道化師っぽくないからその気持ちを口にしたりはしない。


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