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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
四年生
131/300

不幸少女とソードゴースト



 彼女の話をしよう。

 霊視が出来て、不幸で、いっそ怪我をしなければソレで良いと諦めモードな。

 これは、そんな彼女の物語。





 テレーズ錬金術教師が錬金術の説明に使うらしいトウモロコシを、ヘルマと一緒に初等部へと運ぶ。



「……あの、すみません」


「ナニがですの?」


「巻き込んでしまった上に、手伝わせてしまって……」



 ヘルマは腕に沢山のトウモロコシを抱えながら、赤みのある暗い紫色の髪しか見えないくらいにその顔を俯かせた。

 いや、自分の目からするとソレでも普通に()えるは()えるのだが。



「別に謝るこっちゃありませんわよ」


「でも、頼まれたのは私だったのに、持ちきれなくて転んで……幾つか、ジョゼの頭にも当ててしまって」


「や、アレは持ちきれない量持たせた方が悪いと思いますわ」



 あの量を一人で持ったら当然転ぶ。



「ソレに半分持つくらいなら余裕ですもの。丁度暇してたトコだから構いませんわ」


「……すみません」


「わたくしとしては謝罪よりもお礼の方が嬉しいですわね」


「エ、あ……ありがとうございま、す……?」


「ハイ、よろしい」



 大量のトウモロコシを片手で抱きながら、空いた片手でヘルマの頭を軽く撫でる。

 しかし本当にこの量のトウモロコシは凄い。


 ……錬金術は同じモノを違うモノに変換するモノであり、順序とかそういうのとは違うらしいんですのよね。


 トウモロコシをポップコーンにするような、元は同じであれどあっという間にポンッ!という感じに変化するのが錬金術、らしい。

 ソレを教える為にテレーズ錬金術教師は時々ポップコーン作りを授業で行うのだ。


 ……確かに頻繁にやって感覚を掴むのは大事だと思いますけれど。


 材料運びを一人の生徒に頼むのはどうなんだ、とも思う。

 いや恐らくはヘルマが友人辺りに頼むハズだと思って頼んだという可能性もなくはないが。

 ちなみに錬金術の授業では基本的に料理が多く、ソレ以外だと魔法の掛かった釜に材料を放り込むコトでポンッと作る、という感じだ。


 ……成績は中の上ではありますけれど、未だに錬金術はよく理解出来てないんですのよねー、アレ。



「……と、思いっきり頭撫でちゃいましたけど大丈夫ですの?」


「あ、え、ナニが……あ、えっと、普通に嬉しかった、です」


「ソレなら良いんですけれど……痛みとかありませんわよね?」


「痛み……あ、トウモロコシ」


「そう、思いっきりトウモロコシ頭から被ってましたから、痛かったりはしないかと……」



 転んでいた時にヘルマは思いっきり頭にトウモロコシが当たっていたのを失念していた。

 自分も頭に当たりはしたが三本くらいでありセーフ、しかしヘルマは確実に五本以上当たっていたハズだ。



「……大丈夫です。私、あの、ああいう……ぶつけたり、落ちてきたり、よくあるコトですから。……ナンか私、不幸体質みたいで」



 そう言ってヘルマはへにゃりと微笑んだ。



「そう言われてみれば、よくペン先折れてますわよね」


「ハイ、ジョゼにはいつもペンを貸してもらってばかりで……」


「見てる限り普通に使ってるようにしか()えませんのにああも壊れるってコトはもう仕方ないコトですわ。故意に壊してるワケじゃないなら、ペンを貸すくらいどうってコトありませんわよ」



 ヘルマ以外にもよく貸して欲しいと頼まれる為、自分で使う用以外に最低三本のペンをスペアとして用意してあるので問題は無い。



「この体質、どうにかなれば良いのですが……」


「そうですわねえ……あ、コレ運んだ後にエゴール魔道具教師の研究室前に行ってみると良いかもしれませんわ」


「エゴール先生の、ですか?」


「あら、見たコトありませんの?」


「魔道具の授業は取ってませんし、ソレに……魔道具関係で不幸なコトが起きたら、大変なコトになりそうで……」



 もういっそのコト、ヘルマはシェスティンと一緒に行動するようにした方が良いのではないだろうか。

 彼女ならナニがあってもわっしょいで回避出来るし。


 ……あ、いや、でもシェスティンって結構ゴーイングマイウェイだからヘルマのメンタルすり減りそうですわね……。


 悪意アリまくりな呪いのタロットが毎日奇声を上げているレベルなので、大分常識人寄りなヘルマでは耐えられないかもしれない。

 呪いのタロットの奇声、腕と頭があったら頭を掻き毟っていそうなレベルだし。



「エゴール魔道具教師の研究室前って、箱が置いてあるんですの」


「あ、そういえば見たコトがあるような……」


「ふふ、興味が無いとスルーしがちですわよね」


「ソレもあるんですが……その、触ったらナニか起こるんじゃないか、と。一部の先生ってそういうコトしますし……」


「デルク保険医助手とか、ですわよね」


「……の、ノーコメントで」



 目を逸らしたその姿がなによりも雄弁だが、指摘はしないでおこう。

 というかあのヒトはヘルマ相手にも異物混入したナニかを振舞っているのか。

 どうも不幸体質らしいヘルマにそんなモノを出して万が一があったらどうしてくれる。


 ……いやまあ、あのヒトってアレで結構有能だから、自分でどうにかなる範囲でしか無茶しませんけれどね。


 ただそのどうにかなるの範囲には死ななきゃセーフというのが入っているのが怖いが。



「さておき箱ですけれど、あの箱ってエゴール魔道具教師がノリで作ったけど使い道が無くて置き場所に困ってる魔道具が放り込まれてるんですのよ」


「……ソレ、放り込んで良いヤツなんでしょうか」


「さあ」



 今のトコロ問題は起きてないから多分セーフだろう。

 ヤバそうなら流石にアダーモ学園長がストップ入れるだろうし。


 ……でもアダーモ学園長ってヤバい時代も生き抜いてきたヒトだからか、アウトのハードルがひっくいんですのよねー……。



「んでその箱の中の魔道具はこう、不要品だからってコトで欲しいのがあったら好きに持ってって良いコトになってんですの」


「見てドレがナニかわかるでしょうか」


「ソレはわたくしでもちょっと難しいんですのよねー……」



 この目で()ても眠っている無機物系魔物と魔道具の区別はいまいちつかない。

 そして魔道具などは魔道具であるコトがわかってもどういう能力があるのかまで()えたりはしないのだ。


 ……だから図鑑とか読んで勉強して知識を蓄えてるんですのよね。


 まあエゴール魔道具教師が作るのは大体新作なので、知識を蓄えてもよくわからないモノであるコトが多いが。



「んん……流石に発動したら一発で意識刈り取ってくるようなのを入れたりはしてないでしょうから、多分大丈夫だと思いますわ。

運命に身を任せて気になる魔道具貰って、良いコトあるよう願ってれば多分良いコトありますわよ、多分」


「……ジョゼ、今「多分」って三回言いましたよ」


「アンノウンワールドで大丈夫だって断言するのはちょっと無理があるんですのよ……」



 常に未知が隣人でありお向かいさん、ソレがアンノウンワールドだ。





 そんな会話をした後日、自分はヘルマと談話室で向き合っていた。

 そしてヘルマの隣、というか斜め後ろの位置には見知らぬ男のゴーストが浮いている。



「……話があるとは言われましたけれど、何事ですの?パートナーのように感じますけれど、その報告とか?」


「や、やっぱりパートナーになってるんですか……!?」


「エ?そう感じますけれ、ど……?」



 首を傾げながらもそう答えると、ヘルマは頭を抱えて俯いた。



「うう……」


「いや、ナンと言うか……すまぬな。俺の不注意だ」


「いえ、確実に私の不幸体質のせいです……」



 ゴーストは申し訳なさそうにそんなヘルマの背に手を添えているし、ヘルマはヘルマで頭を抱えたままだ。

 ヘルマがゴーストを()るコトが出来るのは知っているので今更ソレに驚いたりはしない、が、パートナーになったにしては様子がおかしい。

 出会って即日パートナーになる友人は多いので普通にパートナーになったのかと思って見ていたが、ナンだかそういうのとは違う気がしてきた。



「……ん、んん?えっと、とりあえずどういうコトなのかがよくわからないのですけれど……」


「その、ソレが……」


「待て」



 話そうとしたヘルマを止め、ゴーストがピッと手を上げた。



「まずは俺から話させてもらおう」


「ではどうぞ」


「うむ」



 頷き、ゴーストは話し始める。



「まず俺だが、どのような刃物にも凄まじい能力を授けるコトが出来る英雄と言われていたモノ……がゴーストになった結果だ」


「エ、もしかして」


「待て待て名は言うな。呪いを掛けられて死んだ上に呪いの効果で地縛霊もどきになってしまい動けなくてな。

コレでも有名だという自覚がある分、恥ずかしいというかナンというか……そういうワケで、適当にソードゴーストとでも呼んでくれ」


「はあ、まあ、そういう方、というかゴーストは一定数居るので構いませんけれど……」


「うむ、ありがたい」



 ゴースト改めソードゴーストは、そう言って安堵したように微笑んだ。



「……あの、実は私、歴史の授業を取っていないのでよくわからないのですが……そんなにも有名な方なのですか……?」


「んー、現地だと結構有名ですわよ。英雄事典には七割方載ってるレベルですし」


「七割というのは実際のトコロかなり微妙なレベルなのではないか?」


「ちなみにどんな刃物にも凄まじい能力を、というのは誤りですわね。そっちの方が知名度高いのは事実ですけれど、実際はその刃物の才能を開花させるという能力だったハズですの」


「……うむ、その通りだ」


「つまり、どういう……?」


「要するに付与ではなく本領発揮をさせる、というコトですわね。彼主体では無く刃物主体、と言ったらわかります?」


「あまり……」


「んんっと……生徒を必ずトップの成績取れるようにするコトが出来る先生なのでは無く、生徒の得意を最大限引き出してその分野でトップにするコトが出来る先生、みたいな」


「あ、ソレだとナンとなく……エ、凄いですね……!?」


「ようやく理解してくれたようで嬉しいぞ。事故のようなモノとはいえパートナー関係であるからか、そう言って貰えると喜ばしいモノであるな」



 ナンだかニコニコとした雰囲気になっているが、自分はまったく理解が出来ていないしナニも進んではいないのを忘れていないだろうか。



「あの、んでもってソードゴーストが結局どういうナニですの?」


「ああ、そうだった。ええと、とにかく俺は呪いでこうしてゴーストになったのだが、地縛霊のような状態になってしまったせいで川しか移動出来なくてな」


「何故川」


「死体が川に流されたんだ。まあ最終的に引き上げられるコトも無く肉体は溶けてしまったんだが、そうなると肉体にくっついていた地縛霊もどきである俺はドコにも行けなくなり、とりあえず川の流れに沿って適当にフラフラするしか出来なかった」



 まあ確かに肉体が溶けたと考えると川全部が肉体のようなモノと言えるかもしれない。



「ソレでここの裏手にある森まで流れ着き、居心地が良いなと思ってソコで色々考えていたのだ。どうしたらこの地縛霊状態を解除出来るのだろうか、とな。本意では無いので当然だが」


「ソコで、ヘルマに会ったと?」


「いや、その前に一つ少々あってな……川というのは、流れてくるモノであり、モノが流れてくるコトもあるワケだ。当然、刃物も」


「……ナンか、大体察しましたわ」


「そう言わぬと最後まで聞いてくれ」



 ……でもソードゴーストの能力と刃物という組み合わせから考えると、開花させた能力がアレだった、という想定しか出来ませんのよねー。



「察しているであろうが、俺は流れてきたナイフの能力を開花させた。そのタイミングでヘルマが来た、のだが……」


「……その、私は丁度エゴール先生のトコから適当な魔道具を貰ってきたトコロだったんです。ソレで、その、万が一不幸な出来事があっても大丈夫なようにと思って……森へ行ったら……」


「二人は出会ったと」


「ハイ」


「その通りだ」



 二人はうんと頷いた。



「そして面倒というかナンというか、いや完全に俺のミスなのだが……俺が能力を開花させたナイフの能力は、縁に関する能力だったらしく」


「私が持っていた魔道具は、今朝エゴール先生に聞いた結果能力を増幅させた上で因果をよくわからない歪み方をさせるモノだったらしくて」


「魔道具コワッ」


「あ、でも自然に修復されるレベルですし、あと一回使ったら壊れるレベルだったそうなので発動した瞬間に壊れたから大丈夫です……!」



 そういうこっちゃない気がするが、常識人なヘルマに要らぬ気苦労をさせるよりは沈黙でスルーした方が良い気がするのでそうしよう。



「……ん?というコトはつまり、縁に関係する能力だったであろうナイフの能力を増幅させた上で因果を歪めた結果、縁が結ばれてパートナーになったというコトですの?」


「その通りです……!」


「いや本当に俺のタイミングが悪くて申し訳ない……」


「いえ確実に私の不幸体質がとうとう巻き添えまで発生させるようになったのだと……」


「ハイ暗くならないでくださいましー」



 パンパンと両手を叩いて暗くなりかけた空気をリセット。



「で、そのナイフはどうしたんですの?」


「……ナイフ」


「ええ。縁に関係するというコト、そして刃物であるコトから考えれば縁切りナイフとかかもしれませんわ。因果が歪んで縁結びとなったのであれば、尚更その可能性が高い。

そうでなくとも元となったモノがあれば、パートナー解消したいのかどうかは不明ですけれど解消の手立てになるかもしれませんもの」



 普通はお互いの想いやどちらかの想いが無くなれば自然とパートナーでは無くなるのだが、ヘルマとソードゴーストの場合はその大前提が無い状態でパートナーになったのが問題だ。

 お互い特にナンとも思っていないのなら自然消滅するだろうが、スタートからその状態だと憎しみを抱くレベルにならないとパートナー解消出来ないのではという懸念がある。


 ……とはいってもまあ、パートナー関係に関しては大分未知が多くてアレですけれどね。



「…………ナイフ、なのだが」


「あの、ナンかイヤな予感がするんですけれど」



 沈黙が長い上に霊体であるソードゴーストの顔色が悪くなってきている気がする。



「……パートナーになり、驚き、元々刃物にしか触るコトが出来なかった俺だが、まあ、驚きで手を滑らせ」


「ナイフが流れてったんですの?」


「ええと……真っ逆さまに落ちて、岩に激突して粉になったんです……」


「粉」


「うむ、結構年季が入っていたのか酷使されていたのかは不明だが、どうも寿命だったらしくてな……能力開花で限界が来たらしい」


「じゃあもうパートナーとして頑張りなさいな」


「待て諦めるなどうしてそうも諦めが良いのだ!?」


「そうですジョゼ……!」



 ガバッと立ち上がったヘルマ、そしてソレに合わせてか顔の高さを合わせてきたソードゴーストが詰め寄ってきて叫ぶ。



「友人のパートナー関係が掛かっているのだぞ!?俺としては川の地縛霊状態だったので取り憑き先がヘルマになって移動が可能になりありがたいと思ってはいるが!いるがだな!」


「有名らしい英雄だったソードゴーストに事故で私のような不幸体質の女のパートナーになれだなんて、酷過ぎます……!

パートナーになってから今に至るまでの超短期間とはいえ、迫りくる不幸な出来事から格好良く守ってくれたりでとても頼りになる方ですけど、けど……!」



 ……ノロケ聞かされてますの?わたくし。



「……別に問題無いようですし、好意的でもあるようなので大人しく二人で話し合いなさいな、アナタ方。あとわたくし完全に部外者なのでアナタ方の問題についてをわたくしに言わないでいただけます?」



 独り身相手にどうしてパートナー云々を聞いてくるんだか。





 コレはその後の話になるが、お互いに相手に対して「自分のような存在のパートナーになるなど宝の持ち腐れをさせてしまうから勿体ない」という気持ちを抱いていたというコトがわかったらしく、パートナーとしてそのまま落ち着くコトになったらしい。

 最近はヘルマに襲い掛かる不幸をソードゴーストが弾いたり、良くないコトがありそうだと英雄独特のカンなのかソードゴーストが回避するよう指示したりして、ヘルマが怪我をしたりするコトが劇的に減った。



「……凄いですわよね」


「ナニがだ?」



 ヘルマが飲み物を取りに行っている間に、ふと思い出したコトをソードゴーストに告げる。



「いえ、災難を除ける時のカンとかが。世の英雄ってああも良くないコトを察知可能なんですの?」


「ふむ、俺は他の英雄を特に知らぬが……嫌な予感がした時にこうだと思ったように動けばナニがあっても回避出来るモノであろう?」


「ウーワ持ってるモン持ってるからこそ言えるセリフ……」



 異世界の自分曰く、ゲーム機買ってもらえないからゲーム機持ってる子に良いなーって言ってる子に対してゲーム機が欲しいなら買って貰えば良いのにと言う子のように腹立たしいらしい。

 自分のコトながら意味がいまいち理解出来ないが、要するに持ってないヤツからすると思わずジト目になるだろう言葉、というコトはわかる。



「……ま、ソレでヘルマが助かってて、楽しそうに笑ってて、色々外出も積極的にするようになっただけ良いコトですわね」


「ソレはまあ、俺がパートナーなのだから当然だろうよ」


「当然って?」


「パートナーになったのは俺の不出来というコトで責任を取る、というのが俺の本心だ。いやちょっとしたコトでヘルマがお礼を言ってくれるのがとても嬉しいというのも本心だがな」


「英雄なら聞きなれてるんじゃありませんの?そういうの」


「……英雄はな、出来て当然だと思われるから世界を救うくらいせねば褒められるコトも無いのだ。寧ろ出来ない時は失望されるという理不尽極まりない立ち位置だぞ」


「あらまあ目が死んでる……」



 既に死んでいる霊体だというのに、更に死人感が強まる目になってしまった。



「……ん、んん!さておき、当然と言った理由だがな。ヘルマは少々不幸過ぎる」


「同情ですの?」


「ソレは無い」



 ソードゴーストは真顔でスッパリと言い切った。



「単純に、俺は英雄だ。そして英雄であるという自負もある」


「さっきは理不尽だナンだと言っていましたのに」


「ソレはソレだ。面倒だがやり甲斐のある仕事、みたいなアレだ」


「あー……わかりやすい例え」



 確かにそんな感じっぽい。

 問題は英雄となると面倒の箇所のレベルが一般人と桁違いにガチで面倒そうな部分だが。



「つまり俺はだな、ヘルマに後悔をさせたくない」


「後悔」


「この英雄とパートナーになった事実を、ヘルマの不幸体質のせいで発生した不幸だと思われたくないし、言わせたくもない。

俺という英雄がパートナーになるのだから、ソレは幸福であると思って貰わなくては困るのだ。プライド的に」


「プライド」



 伝説の魔法使いであるゲープハルトといい、こういう歴史に名を残しているタイプはプライド高めなのだろうか。

 その自己肯定感、少しで良いからネガティブ気質なヒトに分けてあげて欲しい。



「なので俺はヘルマに襲い掛かる不幸をちまちまちまちま潰し、ヘルマが不幸ではないという事実を作り上げようと思っている」


「そうすれば、ヘルマは不幸体質じゃ無くなる……つまりソードゴーストがパートナーになったコトは不幸な結果発生した出来事では無くなる、と」


「そういうコトだ。よくわかっているではないか」


「だ、そうですわよ」


「?」



 ソードゴーストが振り向けば、ソコには顔を真っ赤にしながら飲み物の入ったコップを持って硬直しているヘルマが立っていた。

 そう、ネガティブ思考になりがちなヘルマに、ソードゴーストは後悔していないかどうかを聞き出して欲しいと頼まれたのである。

 正直うっかりド忘れしていたが、思い出せたので多分セーフのハズ、多分。


 ……というか、またお互い後悔させてないかとか後悔させたくないとかナンとか……。


 仲良しか。

 仲が良いのは良いコトだし一生やってろとも思うが、ソコに自分を巻き込まなくても良いと思うのだが。



「……あの、私、今はまだちょっと不幸もありますけど、その……」



 顔を真っ赤にしながら、ヘルマは言う。



「ソードゴーストがパートナーになってくださったのは、とても嬉しいコトだと、思ってます……!」


「……ソレは俺も、喜ばしいコトだな」



 そんなヘルマを抱き締め、薄く微笑みながらソードゴーストはそう言った。

 物語のワンシーンのようで展開的にも素敵だとは思うが、結局コレ、自分の存在は必要だったのだろうか。

 そう思いながら、こっそりと溜め息を一つ零した。




ヘルマ

幽霊が見えるわ不幸だわネガティブだわと悪循環要素が詰まっている子。

しかし最近はソードゴーストが守ってくれるお陰で、悪循環が薄れてきた。


ソードゴースト

アンノウンワールドでは英雄として名が知れている男、のゴースト。

なんとなく恥ずかしいので、ヘルマが自分の名前や逸話を調べようとすると慌てて止める。


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