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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
四年生
129/300

カメレオン少年とビッグスモールベア



 彼の話をしよう。

 遺伝で体色が変化するが、任意では無く感情によるものであり、誤魔化せないというのがストレスな。

 これは、そんな彼の物語。





 学園でのんびりと中庭を歩いていると、ルスランが木の下で暗い色になっていた。



「……エ、ルスラン?どうしたんですのその色」


「色々とな……」



 フ、と薄く笑っているが、その笑みは全てを諦めたヒトがする笑い方だ。

 というかただでさえ暗い色だったのに話し掛けたらゆっくりと黒い斑点が浮かんでいて見た目がほぼ奇病でしかない。

 いやまあ、ルスランは感情によって体色が変化するという遺伝があるので色が変化するのは当然なのだが。


 ……にしたって、髪色とのアンバランスさが……。


 髪色は変色しない為、薄い群青色に変化は無い。

 しかしその分暗い色に変化している体色とのバランスがおかしなコトになってしまっている。



「……辛い」


「いや本当にナニがあったんですのルスラン!?」



 めちゃくちゃ落ち込んでいるのはわかるが、しかし自分は心が読めるタイプではないので説明されないとナニがあったのかがわからない。



「え、えーっと、とりあえず話聞きますからベンチに移動しませんこと?日差しの下ならもうちょっと明るい体色になりますし……ね?」


「そうだな……」



 頷いてはくれたので近くのベンチに移動して座る。

 ルスランの体色変化は周囲の明るさなどに合わせて色が変化するというカメレオン的なモノなので、とりあえず日向ぼっこさせておけば見る側のメンタルが多少落ち着く。


 ……暗い色、かつ黒い斑点模様のヒトが木陰で落ち込んでるとか、異世界である地球なら完全にただのホラーですわ。


 まあそういうヒトが普通に存在しているのがこのアンノウンワールドなのだが。



「…………長期休暇で帰る度に思うんだ」


「ナニを?」


「俺の感情はわかりやす過ぎやしないか、と……」


「……え、ああ、まあ、ハイ、でしょうね」



 感情で体色が変化するのでとてもわかりやすい。

 暗い色は落ち込んでいる時だし、黒い斑点は確か緊張していたりする時だったハズだ、多分。



「この学園では大体皆本音で話しているし、口にするのはどうかと思うような会話もその辺で普通にしていたりする」


「確かに痛覚無いメンツが痛覚とはどういうモノかという会話をしてた時はちょっと引きましたわね……」


「ジョゼフィーヌがフランカ魔物教師と食堂で友人の肉についてを話していたりな」


「アッソレはちょっとぐうの音も出ないのでちょっと」



 そう言われると尋常じゃないレベルでドン引き確定な会話をしていたみたいじゃないか。

 いや事実でしかないのだが。


 ……や、アレは知的好奇心とかそういうのですし、あくまで気になっているコトについてを脊髄反射的にペラペラくっちゃべっていただけなんですのよ……!



「しかしこの学園でのそういう、デリカシー皆無というか、特殊な生徒が多過ぎるが故にオブラートが無い会話に慣れてしまってな……」


「ああうん、オブラート……」



 一年生の頃は在庫があった気がするのだが、気付けば完売品切れを起こしていたモノだ。

 尚この先入荷の予定は無い。


 ……正直オブラートに包まない方が楽なんですのよね、狂人相手だと……。



「オブラートどころか、武器屋のバート店主とか会話すっ飛ばしてたりしますものね」


「いや武器屋には行かないのでそのヒトは知らんが……心が読めるタイプなのか?」


「いえ、無限に枝分かれしている未来をシミュレート可能ってタイプですわ。だからなのか顔合わせた瞬間には結論話して来たりしますの」


「意味がよくわからんが、とりあえず会話がいまいち成立しなさそうだというコトはわかった」



 確かにバート店主と会話するのは難しい。

 最初に結論から話してくるがこちらが言おうとしていたコトに対する回答なのはわかっているので、もうナンか、とりあえずその結論に行きつくまでの起承転結だけダイジェストで教えてもらう、という感じの会話になっているし。


 ……もう「会話」じゃありませんわよね、アレ。


 会話のキャッチボールでもドッジボールでも野球でも無く、アレはもう会話のリプレイ再生と言うのが一番合っている気がする。

 バート店主からすればほぼリプレイ再生だろうし。



「……ん?俺はナンの話をしていたんだったか」



 そういえばいつの間にか話題が脱線して道から逸れていた。

 そのお陰でメンタルが落ち着いてきたのかルスランの体色は暗い色から静かな青へとゆっくり変化してきている。


 ……黒い斑点も消えてますわね。


 だが一応話を聞くと言った以上は聞いておくべきだろう。



「確か、長期休暇の度に落ち込むみたいな話でしたわ」


「ああ、そうだった。そう、俺は見ての通り感情で体色が変化するから嬉しいとか怖いとかが目に見えるだろう?」


「わたくしの場合はそういうのが無くても筋肉の動きや目の動きが()えるのでわかりますけれど……まあ、そうじゃないヒトからも感情が見えはしますわね」


「そう、そういうトコだ」


「エ?」


「この学園の生徒は今のジョゼフィーヌのようにケロッと異常なのを暴露するだろう?」



 異常て。



「だから頭部が毎回違っていようが、体が変色しようが、すり抜けるコトが出来ようが、魔眼があろうが、皆気にしていないし誰が相手だろうといつも通りに対応する」


「ま、まあ、ソレが校風ですし、ね……?」


「だが故郷に戻ると皆それなりに自分を隠しているというか、誤魔化していたりするんだ……!」


「うん、ソレが普通だと思いますわ」



 自分をあけっぴろげにしても平気なのは狂人だからだろうし。



「モチロン気持ちはわかる。自分を守る為にも、全てを穏便に済ます為にもソレは必須なコトだ」



 しかし、とルスランは歯を食いしばる。



「しかし、俺は隠そうとしても隠せない……!」


「でしょうね」



 感情が体色に現れているのだから当然だ。



「で、ソレがナンだか辛くなったので木陰で鬱々としていたワケだ」


「成る程」



 大体、というかルスランが大分常識人だというコトがよくわかった。

 狂人ならわざわざそういうのは気にしないのだが、常識人はそういう部分を気にしがちだ。

 輪を乱したくはない、というような部分。


 ……狂人は狂人だからこそ、そういうの気にせず突っ込んで行きますものねー……。



「……でも、大分メンタルが回復したようでなによりですわ。やっぱり日向ぼっこのメンタルセラピー効果は凄いですわね」


「本当にそう思うか?」


「ん?」



 ルスランはニヤァッとした乾いた笑みを浮かべた。



「確かに狂人独特の意味不明な会話のお陰で俺のメンタルはリセットされた、ソレは事実だ」


「あの、狂人なのは事実なんですけれどそうもハッキリ言われると流石にちょっと」


「しかし一人になると俺は駄目だ。物凄くブルーになるし眠れない。いやブルーというよりはドス黒いかもしれない」


「気分はブルーで体色ブラック……」



 一人で二色のヒーローかナニかだろうか。

 どちらかというと助けを求めている側な気がするのでヒーローでは無さそうだが。



「最近はナンと、愛用している安眠魔道具のオルゴールの効き目が悪くなっているくらいだ」


「あらまあ……ルームメイトは?」


「トルスティがルームメイトなのだが、毎晩健康的にぐっすり寝ている。

トルスティのパートナーであるマシンタイガーも初期は安眠オルゴールに抗おうとしていたようだが、まあ夜は寝るモノだし、というような納得の仕方をしておやすみするようになった」


「……つまり?」


「俺だけが寝付くのに時間掛かる」


「あららー……」



 まだ不眠症という程では無いように()えるが、このまま重症化すると問題だ。

 一応今はこうして会話するコトでメンタル的にも回復しているようだが、夜の静かな時などに一人悶々と考えてしまうのでは結局あまり意味が無い。



「んん……森に行ってリフレッシュでもしてきたらどうですの?」


「森、森か……確かに良いかもしれないな」


「もしくはいっそ常識を捨てて開き直ってはっちゃけるコトでそういうのに悩まないメンタルに移行するとか」


「森へ行くコトにする。色々聞いてくれてありがとう、ジョゼフィーヌ。では」


「なーんて……」



 ……そんなに狂人になるのがイヤなんですの?


 いやまあ気持ちはわかるが、ソレにしたって言い切る前に立ち去らなくても、とは思う。

 せめて自分が最後まで言い切るのを聞いてから立ち去って欲しかった。





 コレはその後の話になるが、つい先日気分転換に森へと入って行ったルスランはソコでパートナーが出来たらしい。

 ソレ自体はまあよくあるコトなので別に良いのだが、談話室でイチャイチャされると視界に入ってしまうのが困る。


 ……というか四年生にもなるとパートナー持ちが多くなってるせいで、談話室のカップル率が……。


 独り身な自分には苦味にしか感じない甘々さだ。



「……ルスラン、そちらは」


「ああ、俺のパートナーであり、癒しだ」


「もう、せめて起き上がってください」


「もう少し……」



 そう言いながら、ルスランはパートナーである熊の魔物のふかふかな毛に顔を埋めていた。

 彼女はビッグスモールベアという、成体と子供の姿に自在に変化可能という熊の魔物だ。

 しかし彼女の真骨頂は見た目変化ではなく、触れているモノに対し凄まじい安心感を与えるというモノ。


 ……要するに、ライナスの毛布ですわよね。


 現在のビッグスモールベアは大きい姿になってルスランを抱き締めているが、抱き締められているルスランの色が落ち着きの青を通り越しているのが気になる。

 カメレオン的に言うとああいう明るい色は好きな相手に対しての色のハズだ。


 ……や、まあ、パートナーになっている以上はそのくらいの感情なのは当然だと思いますけれど……。


 こうもわかりやすくピンク色になられると、ルスランからビッグスモールベアへの愛の言葉が聞こえているかのように感じてしまう。

 異世界の自分がいやわからんと首を横に振っているので、コレはアンノウンワールド独特の感覚なのだろうが。



「というかわたくし、まだパートナーになったという報告しか聞いていないんですけれど……ビッグスモールベアとはどういう出会いで、どういう感じでパートナーになったんですの?」


「そう大したモノではありませんが……気になりますか?」


「気になりますわ」



 首を傾げたビッグスモールベアの言葉に、自分は強く頷く。



「……何せわたくし、友人がやたらとパートナー成立してるのに未だ独り身ですもの」


「あ、あー……」


「アナタ方のように出会いは突然に訪れるコトが多いというのもわかってますわ。わかってますけれど、ソレはソレとして参考までに聞かせてくださいまし」


「参考にはならないと思うが」


「最悪参考にならなかったとしても、そしてわたくしがどうしても相手が居らず独り身を貫くコトになったとしても、その時はもう今回聞く話を参考にして恋愛小説でも書きますわ」


「将来的にそうなったらという仮定のハズなのに目が死に過ぎじゃないか?」



 今までビッグスモールベアの毛に顔を埋めていたルスランが思わず顔を上げて心配そうに見てくるくらいには自分の目は死んでいるらしい。



「というかジョゼフィーヌの場合は友人が多過ぎるせいで必然的にパートナー成立を見届ける回数も多くなっているだけだと思うんだが」


「ソレもう、置いて行かれたくないから友人なんて要らないって言う喪女のセリフでは……?」



 知らせる友人が居なければ同年代の結婚事情など知らずに済むというシュレディンガーの猫作戦ではないか。



「しかし、出会い、出会いは……森でリフレッシュしようとその辺に座り、自然を感じ、静かな心になり……その結果イヤだと感じたコトとかを色々思い出してブルーな気分で真っ黒になってな」


「ワオ」



 ソレは初耳だ。

 まさかリフレッシュ目的が真逆の効果を発していたとは。



「ソレでまた落ち込みモードになっていると、ビッグスモールベアが通りかかって」


「あまりにカラフルな感じに落ち込んでいるので、見捨てるコトが出来なくて……思わず抱き締めてしまったんです」


「流石ビッグスモールベア」



 殆どが母性の塊だと図鑑に書かれるだけはある。

 流石ライナスの毛布レベルの安心感を抱かせるコトが出来るのはその母性があるからではないかという説があるレベルの魔物。


 ……もっとも魔物は結構母性強めな魔物も多いんですけれどね。


 恐らく魔物の方が常識的だから、なのだろうが。



「そして抱き締められながら言われた言葉によって完全に落ちてな。もうコレ離れた瞬間に俺の心はブロークンな感じになるのでは?と思ってパートナーになってくれと頼んだワケだ」


「ちなみにナンて言ったんですの?」


「ええと、確か……「大丈夫ですか?ナニがあったかはわかりませんけれど、無理はしないでくださいね。生き物である以上は無理をする必要がある時もあるでしょうが、だからこそそういう時は誰かに頼って良いんですよ。私のようにちゃんとこうして、受け止めて、甘やかしてくれるハズですからね」と……」


「あー、ソレは落ちますわ」


「だろう?」


「わ、私からすると当然のコトなのですけれど……」



 いや普通はソコまで受け止めて甘やかしてくれるような相手は居ない。

 流石は母性の塊なだけあって包容力がカンストしている。

 コレはもう、離れた瞬間にブロークンハートになってしまうのではとなるのも無理はない。


 ……というか他に早々そのレベルで甘えられないってわかってるからこそ、離れられなくなりますわよねー……。



「うん、まあ、とりあえずルスランがデロデロに甘えるようになった理由はよくわかりましたわ。でもビッグスモールベア的にはどうなんですの?」


「どう、とは?」


「パートナーになって」


「ん、んん……どういう意図なのかちょっとよくわかりませんけれど、でもルスランは大好きですよ!こうしてたっくさん甘えてくれますから!」


「アー、成る程ー……」



 どうやら甘えたいと甘やかしたいで良い感じにかみ合っているらしい。

 ニッコニコな笑顔で言い切ったビッグスモールベアに、ソレをとてもほわほわした嬉しそうな表情で見ているルスラン。

 一人と一匹から放たれるラブラブ甘々な空気に、独り身な自分は渋い苦笑をするしかなかった。




ルスラン

遺伝により体の色が変化するが、感情や日差しによって変化するので擬態には向かない。

しかも制服に色が同調するという効果を付与していない為、制服と髪色がやたらと浮くのでとても目立つ。


ビッグスモールベア

大きくも小さくもなれるし凄まじい安心感を与えるという熊の魔物。

大体ルスランと共に行動しており、移動時は子熊姿になってテディベアのように抱きかかえられている。


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