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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
四年生
128/300

洗濯メイドとハンドオアハンド

オリジナル歌詞が作中で出ます。



 彼女の話をしよう。

 どんな汚れや疲れも水に落とせる手の持ち主で、エメラルド家のメイドで、基本的にノリが大事な。

 これは、そんな彼女の物語。





 セミョーンのトコに居座って仕事の妨害をし過ぎるのはよくないなと思い、庭の中を適当に歩く。

 屋敷の中の隠し扉の向こう側などはほぼ全て暴き終わっているし、既にお土産も買ったので暇なのだ。


 ……次の休暇には、古過ぎて知られていない本やマイナー過ぎる本でも買っておいた方が良いかもしれませんわね。


 いつもの本屋ならそのくらいの注文は受けてくれるハズだ。

 どうせ暇ならいっそのコト、普段は仕入れないであろう知識でも仕入れるコトにしよう。

 そういうのに意外と役立つ知識が載っていたりするし。



「幼い時に父は言った

 強く優しくなりなさい

 幼い時に母は言った

 大事なモノを大事になさい」



 ふと、近くから歌声が聞こえた。



「その言葉を胸に抱き

 今日も私は旅をしよう

 大事なモノを見つける為に

 大事な仲間と共に歩んで」



 歌声が聞こえる方を()れば、洗濯を担当しているメイドのイェルチェが茶色っぽい赤毛を揺らしながら、手洗いで洗濯をしていた。



「最初はおバカな藁のカカシ

 けれど発想頼りになって

 次は錆びてたブリキの人形

 けれど心優しくて」



 基本的にアンノウンワールドでの洗濯は魔法でガーッと洗ってギュッと絞って干す、というモノだが、モノによっては傷んだり汚れが落ちなかったりするのでまだ手洗いで服を洗う家も多い。



「最後はライオン臆病で

 けれどそれでも勇ましく

 ずっと一緒のお茶目な犬は

 安心出来る そんな仲間達」



 ……ソレに、イェルチェの場合は手洗いでこそ本領発揮しますものね。



「冒険 戦い 色々あって

 それでも一緒に旅をして

 皆の望みを見つける為に

 はるばる歩いて夢の国」



 イェルチェの手は特殊な洗剤でも分泌されているのかと思う程に、その手で洗ったモノの汚れがピカピカになるのである。



「全ての夢があるという

 夢の国で大事を探そう

 皆であちこち探し回って

 見つけた大事に皆で笑う」



 ソレを活かし、イェルチェはここの仕事以外にも近所の動物系魔物を洗うというバイトをしていたりもするらしい。

 まあこちらとしてはメイドの仕事を疎かにしていなければ副業オッケーなので問題は無いのだが。



「私の大事は皆の笑顔

 カカシの大事は皆の寝顔

 ブリキの大事は皆の無事で

 ライオンの大事は皆で一緒」



 ……この歌、オズの魔法使いを元にした歌なんですのよね。



「最後の大事 犬の大事は

 皆で食事を食べるコト」



 もっともこの歌はオチが原作とは違うのだが、ソレにしても異世界であったとしても同じ童話があるというのは実に不思議だ。

 細部などが微妙に違うらしいが、どうして異世界に同じような童話があるのだろうか。



「大事がわかった帰り道

 皆で笑って皆で食べて

 無事を祝って皆で眠ろう

 ソレが皆の 本望だ」



 ……ま、異世界の創作物などを()る魔眼もあれば、わたくしみたいに記憶がINするタイプも居ますし。


 ()えたり受信したけどこっちには無いな、じゃあ書こう!となったヒトも居るだろうし、自分のように記憶がINしたヒトから聞いた話を書いて本にした、というヒトも居るのだろう。

 まあぶっちゃけると異世界であっても絵本読めて嬉しいから良いや、という感じだが。

 そう思いつつ、歌い終わったイェルチェに声を掛ける。



「楽しそうでしたわね、イェルチェ」


「あ、お嬢様!聞いてたの!?ヤダ恥ずかしい!っていうかアレ!?こうして真正面に立つの久しぶりだけど随分背ぇ高くなってない!?

アタシってば最近お嬢様のドレス洗う時に大きくないかなーとは思ってたけど思ったより大きくなってる、えー!?」


「どーどーどー」



 ……ソコまで年も離れてないし、敬語じゃなくても気にしないし、敬語じゃない使用人も多いからってコトで客が居ないなら素でオッケー、ではありますけれど。


 相変わらずイェルチェは感情がそのまま口に出るタイプのままらしい。

 思っているコトや感情が怒涛の勢いで発されているが、まあこのくらいはいつものコトだし、学園に居る教師達や友人達を思うと普通のコトなので苦笑しながら落ち着かせる。


 ……本当、改めて考えるとあの学園の狂人率って相当……。


 他だと生き辛いだろうからという理由で普通じゃない、金持ち貧乏混血孤児に魔眼持ち非常識その他諸々をメインにスカウトして入学させているらしいので当然だが、こうしてザ・普通という感じの相手と話すとその異常っぷりが浮き彫りになる気がする。

 いやまあ、イェルチェも手洗いしたモノの汚れを綺麗に落とせたりする辺り普通とはちょっと違う気がするが。



「いやー、ごめんねお嬢様!こうしてしっかりと話せたの久々で記憶の中のお嬢様との身長差にビックリしちゃった!アタシが目玉パージ可能な魔物だったら目ん玉がポロリと落ちてた級のビックリだよ!」



 目玉パージという言葉で義魔眼を頻繁に変えているローザリンデ魔眼教師が脳裏に浮かんだがすぐに掻き消す。


 ……目玉パージという単語が出てくるのも、その単語で思い浮かぶヒトが居るというのも相当アレですわよねー。



「でも本当におっきくなってない!?アリエルお嬢様の方はもう身長伸びてないみたいなのにグングンだね!タケノコが竹へと進化するかの如くっていうか!

育ち盛りだし好き嫌い無くしっかり食べてるからかもしれないけど、この調子だとアリエルお嬢様の身長抜きそう!っていうかもう抜いてたりするんじゃない?」


「や、流石にソレは無理ですわー」



 自分は十三歳であり、姉は現在十九歳。

 つまり六つも年の差がある上に自分が男ならともかく、同性で年の差六つある相手の身長を超すのは文字通りハードルが高い。



「そう?でも将来的には抜きそうだよね!もしかすると旦那様とかの身長も抜いちゃう?」


「いやあの身長抜くのはちょっと乙女的にアレですわ」



 180オーバーな父より高い視点とかヒールが履けなくなってしまう。

 まあ現代ではそのくらいの身長の女性も居ないではないし、ヒール履いてもっと高身長になってる女性も居ると考えると結局自分のメンタル的なアレが理由なのだが。

 でも誰だって父のつむじを見る視点にはあまりなりたくないと思う。


 ……お父様を見下ろす場合、目の前の位置に光輪が来るから油断すると顔ぶつけそうですわね。


 父より背が高い兄がよくぶつけている。

 普通は扉とかの上にある壁部分にぶつけると思うのだが、父である天使の光輪に顔をぶつけるとかどういう文章だ。



「そういえばお嬢様、アレ見なかった?あの、ナンか、噂の魔物」


「噂?ご近所で噂になってる魔物が居るんですの?」


「いや、屋敷内に出没しては使用人の仕事を手伝ってくれる手の魔物なんだけど」


「あー……」



 そう言われてみると、見慣れない手の魔物が居たような。

 学園では野生の魔物がその辺をうろついていたりするのが日常だったからすっかり忘れていた。


 ……いやでも、異世界である地球でも学校に犬や猫が入ってきたりはあるあるらしいからコレは常識の範囲内でつまりセーフのハズですわ!


 最近ちょっぴりイージーというよりもノーマルレベルな狂人になりかけている気がするが、しかしまだ常識があるのでセーフのハズだ、多分。

 自分が常識を失うのは対悪の時だけだし。



「確かに居ましたけれど、ソレが?」


「近くに居たりしない?」


「今は居ませんけれど……」


「そっかー、残念」



 笑いながらそう言って、イェルチェは洗濯仕事を再開した。



「会いたかったんですの?」


「んー、というよりはお礼を言いたいなっていうのと、あとどうせ手伝ってくれるんだったらアタシのトコにも来てくれないかなーって。

アタシの手の特性的にアタシが手洗いした方が良いっていうのはわかるけど、ソレはソレとしていちいち立って干すっていうのがねー」


「わたくし達、別に魔法乾燥でも構いませんわよ?」



 ヒトによっては太陽の光による自然乾燥じゃないとイヤだと言うヒトも居るが、自分や兄弟、そして両親はその辺を気にしないタイプだ。



「でもソレはソレで面倒じゃない?ホラ、アタシの手は二本しかないけど洗濯物は多いからさ。

水絞ってその辺に積んで全部洗い終わってから魔法で浮かせて乾燥、っていうのは……あ、でも一応魔法でパンッて強めに広げさえすればシワも広がるのかな?」


「そー……こまではわかんないですわ」


「だよねー」



 イェルチェはケラケラと笑った。



「ま、いつも通りにやるかなー」


「手伝いますわよ」


「ありがたいし天使効果か甘えたくなっちゃうけど、流石に仕事を押し付けるのは駄目じゃない?受け取って干すくらいなら頼っても良いのかもしれないけど雇い主の娘なワケだし。

お嬢様はお嬢様として優雅にお茶とかしててくれた方がメイド的には落ち着く感じ」



 まあ確かに上司が手伝うと言ってきたら色々気苦労が多そうだ。

 完璧に出来るかと言われるとそうでもないだろうし、かといって部下がソレを指摘するのは難しいと考えると、確かに邪魔にならないトコでのんびりしているくらいが丁度良いのかもしれない。



「了解ですわ」



 ……ソレに、助っ人来たみたいですしね。


 助っ人というか、手助けだろうか。

 そう思いつつ、イェルチェと別れて屋敷へ戻った。





 紅茶を飲みつつクッキーを食べながらゆったりと本を読んでいると、洗濯が終わったらしいイェルチェがやってきた。



「あー!お嬢様居たー!ねえねえ今ちょっと良いかな!?聞きたいコトがありまくりって感じなんだけど!」


「どーどーどー」


「ムグッ」



 食べようと思って手に持っていたクッキーをとりあえずイェルチェの口の中に突っ込んで黙らせてから、隣に座らせる。

 食べ物を粗末にするのは良くないというのが我が家の方針なので、メイドであるイェルチェもいきなり口に突っ込まれたとはいえ食べ物は食べ物だからか、無言でクッキーを咀嚼した。



「……んん、お嬢様!聞きたいんだけど!」


「ハイ、なんですの?」


「お手伝いしてくれたと思ったらこの魔物がずっとついてくるようになったんだけどどういうナニかな!?」



 そう言ってイェルチェが指差す彼女の背後には、右手と左手が単体で浮いていた。



「会いたかったんじゃないんですの?」


「会いたかったし洗濯干しを手伝ってもらったけどそっからが問題!

他の使用人仲間の話では手伝い終わって話し掛けようとしたりしたらあっちむいてほいとか猫だましとかで意識逸らされて、その隙に居なくなってるって話だったのに!」



 確かにこの魔物はそういうのが得意な魔物だし天敵に出会った時はそうやって逃げると本に書かれていたが。



「なのに手伝い終わっても居るし、ずっとナンか、手話?みたいなのやってるし!

もしかしてこの魔物って対価が必要なタイプだったりするの!?誰も言ってないだけで支払い必要だったとかそういう感じ!?でもアタシそういうのわっかんない!」


「……で、わたくしのトコに?」


「そう!」



 イェルチェは大きく頷いた。



「お嬢様なら喋るタイプじゃない言語も理解出来るし、魔物に詳しいからまずはお嬢様に聞こうと思って!」


「親指立てながら言われましても……自分で調べる気はありませんでしたの?」


「……アハ」



 笑顔で顔を逸らされた。

 自分で調べる気が無いらしいというのがよくわかる。



「ふぅ……そちらの魔物はハンドオアハンドという、見ての通り右手と左手しかない魔物ですわ」



 そして手話で喋るタイプでもある。

 口が無かろうと喋る魔物が大半な中では珍しいと言えるだろう。



「で、ナニを言っているのかですけれど……聞いてもよろしくて?」


「ええ、モチロンです」



 手話なので喋っているワケではないが、そう話しているのが字幕として()えた。



「とは言っても、ナニから話したものか」


「えーと……そうですわね、他の使用人相手の時は猫だましカマしてでもソッコで去ったのに、どうしてイェルチェ相手の時は去らずにここまでついてきたのか、が聞きたいですわ」


「アタシから見るとパフォーマンスしてる単体の手、と喋ってるお嬢様にしか見えないから凄い絵面ー」



 クッキーを食べながら蚊帳の外みたいなテンションで言わないで欲しい。

 イェルチェは元々思っているコトを口に出しがちなタイプなので蚊帳の外感満載でそう言うのはまだ良い。

 ソレはまだ良いが、クッキーを勝手に食べるのは止めて欲しい。


 ……別に言いさえすれば食べても構いませんから、先に許可だけ取って欲しいんですけれど……。


 最初から許可を出すとわかっていてもちゃんと許可を取って欲しいと思うのはわがままだろうか。



「ええと、まず……私は見ての通りの手なので、働くのが好きでして」


「まあ、種族的にそういう特徴ですしね」



 働き手だとか手助けとかの表現があるからか、ハンドオアハンドは結構人助けをしてくれたりする魔物だ。

 小説でも時々掃除してたりする役で登場してる。



「なのでその、勝手にこちらのお屋敷に入り込んで手伝わせてもらっていたのですが、やはり見慣れない魔物、ソレも単体の手となると警戒されてしまうのです」


「……うん、まあ、だと思いますわ」



 警戒で済むだけ優しいと思う。

 異世界である地球に手単体の存在が居たら都市伝説待ったナシだ。



「それでも一応手伝わせてくれたりはするのですが、とてもチラチラ見られて……その、恥ずかしくて、つい毎回逃げてしまって……」


「あ、ソレ恥ずかしさからの逃亡だったんですの?」


「ハイ……」



 確かにハンドオアハンドの天敵に人間は入らないハズだから何故だろうとは思っていたが、羞恥による逃走だったのか。



「ですが彼女は、私を見た瞬間から「あっ!噂の手伝ってくれる手!」と好意的で。少し手伝うだけでもお礼を何度も言ってくれたり……」


「あ、ああー……」



 わかる気がする。

 他の使用人からの話で警戒ゼロかつ好意的、しかも思っているコトをすぐに口に出すイェルチェだと考えると、助かると思った瞬間にポロポロお礼を言っていたりしそうだ。



「終わった後も明るい笑顔でお礼を言ってくださったので、嬉しくて」


「ソレでついつい後を追ってしまったと」


「その通りです。もし他にもお仕事があるようなら手伝えると思ったのですが、手話が通じないので困惑させてしまったようで……申し訳ありません」


「イェルチェ、彼は困惑させてしまったみたいでごめんなさいって謝ってますわ」


「エ、ア、うん?良いよ良いよ別にこのクッキー美味しいし。というかお嬢様絶対会話端折ってるよね」


「確かに端折りはしましたけど……というかクッキーほぼ無くなってるじゃありませんの。別に良いですけれど、せめて食べる前に食べて良いかくらいは聞きなさいな。あとどのくらいまで食べて良いかとか」


「お嬢様、残り三個のクッキーも食べて良い?」


「どうぞ」


「ヤッター!」



 良い笑顔だし一応聞いてくれたので良いが、聞くのが遅過ぎやしないだろうか。

 というか残り三つまで無断で食べるか普通。


 ……ま、いつも頑張ってるし良いとしましょう。



「ただ、その、嬉しかったのは事実でして……もし良かったらまた手伝わせていただきたいのですが、駄目でしょうか?」


「イェルチェ、アナタがお礼とか言ってくれたり警戒ゼロだったのが嬉しかったからまた仕事手伝いたいけど良いかって聞いてますわ」


「手伝ってくれるの!?助かる!ありがとー!」



 イェルチェはニッコニコの笑顔を浮かべながらハンドオアハンドの両手を握った。



「わーちょっとゴツゴツしてて良い手だね!お手伝いしてくれるなら後で部屋まで来て来て是非是非!ハンドクリームとかのケア用品たっくさんあるから塗ったげる!

アタシの仕事は手洗いで手がガサガサになっちゃうかもだからってコトで経費でハンドケア用品買える上に、キチンとケアするまでが仕事内容に入ってるから本当にたっくさんあるんだよー!」



 ……ハンドケアをキチンとするまでが仕事内容に入っているのは事実ですけれど、イェルチェは面倒だからってケアをサボりがちなんですのよねー……。


 仕事内容に入っているのを疎かにしている為、叱られているイェルチェというのはよく見る光景だ。

 というかハンドケアが仕事内容に入っていてケアを怠ったら叱られる、というのはかなり不思議な文章になっている気がする。



「…………!」


「イェルチェ、そうやって掴んでると手話が出来ないせいで照れ恥ずかし困るって感じになってるみたいですわよ」


「でもアタシどうせ手話わかんないし、お嬢様そういうの無しでも今みたいに大体察せるし、あと体温高めでぬくぬくでアタシハッピーだから良くない?」


「よくありませんわ」



 ()えるハンドオアハンドの感情が照れと恥ずかしいと困るの三つだって言っているだろうに。



「ちぇー」



 納得したのかはわからないが、イェルチェは唇を尖らせながらハンドオアハンドから手を離した。



「ああ、ビックリした……。手伝えるしソレを喜んでもらえるのは嬉しいですが、ああもいきなり手を握られると、その、動揺してしまいますね」


「そのようで」



 ハンドオアハンドの手は色白でも無い普通の肌色だが、照れからか少し体温が上がっているように()える。



「……あと、その、ハンドクリームを塗るだとかは……その、構いませんが、あの、私だけ塗られるのは恥ずかしいので、こちらからもさせていただくくらいはしないとちょっと……」


「イェルチェ、ハンドオアハンド的にハンドクリーム塗るとかは恥ずかしい行為らしいので、せめてそっちにも塗るくらいしないと無理だそうですわよ」


「…………アタシとしては塗ってもらえるなら助かるけど……?」



 ……でしょうねえ。


 ハンドオアハンド的には大分照れるし恥ずかしいコトらしいが、人間からすればハンドクリーム塗ってもらえるの助かる、という程度だ。

 まあお互い問題は無いようなので、良いのではないだろうか。





 コレはその後の話になるが、ハンドクリーム的なアレコレのアレでイェルチェとハンドオアハンドはパートナー関係になったらしい。

 正直聞かされてもよくわからなかったが、ハンドオアハンド独特の感覚と「オッケー!ハンドオアハンド好きだし!」みたいな感じでイェルチェがオッケー出した結果だというコトはわかった。



「……イェルチェ?ここで真面目にやらなくて後で困るのはイェルチェなんですのよ?」


「わかってる!わかってるけどとりあえず汎用性高そうなのを絞って教えて!あんまり多いと頭パンクしちゃうって!」


「もう……」



 そして現在自分は、学園へ戻るまでの滞在期間を使ってイェルチェに手話を教えていた。

 自分が学園へ戻ったら通訳が居なくなりコミュニケーションが取れないから、と頼まれたので教えているのだが、イェルチェは頭を使う系があまり得意では無いらしい。



「コレでも大分絞ってるんですのよ?」


「充分多いよー!」


「ですが、イェルチェは結構私の言いたいコトを察しているようですよ」


「あら、そうなんですの?」


「エ、ナニナニ?ナニ話してるの?」


「どうやらナンとなく、らしいですが……大体の動きからニュアンスで察しているようで」


「ニュアンス……」



 言語が通じなくともボディランゲージでどうにかするタイプか。

 姉もそういうタイプだし、実際ボディランゲージは結構役立つようなので最悪ソレで乗り切ってもらうのもありかもしれない。



「ねえ、ナンて会話してるの?」


「とりあえず最悪の場合はイェルチェのポテンシャルに期待して、手話を理解させるのは諦めるかなって感じの会話ですわ」


「ヤダ!諦めないでお嬢様!」


「私としても今のは辛うじてニュアンスを察してもらえるので最低限のコミュニケーションは取れるという意味であり、通じないままというのは困ります!

ヒトとは異なる感性の説明をしたり、思わず溢れる愛の言葉をこちらからも言いたいのです!」


「いやそう言われましても……」


「頑張る!可能な限りは頑張って手話最低限覚えるから多分!」


「イェルチェは油断しているとポロッと愛の言葉を言ってきたりするので、こちらだけ受けるなど不公平というか私だってイェルチェを照れさせたりしたいんです!その為には手話を理解してもらわないと!」


「あーもう縋りつかないでいただけます!?」



 一人と二つの手に縋られるとかどういう状況だ。

 手だけで数えると四つもの手に縋られている。



「……もうそろそろ長期休暇終わるから、ホント手話を覚えれるかどうかはイェルチェの頑張り次第ですわよ」


「うん、頑張る!」



 イェルチェはグッと握り拳を作ったが、いまいち頼りない。

 まあ最悪覚えられなかったとしてもうっすらとはわかるハズなので、ニュアンスとボディランゲージと同じ言葉の繰り返しでゆっくり覚えればどうにかなるだろう。

 もっとも感覚頼りになるよりは、コレで覚えてくれた方が教える側である自分のメンタル的にも仕事的にも正直ホンットーに助かるのだが。




イェルチェ

手洗いをするコトによりどんな汚れも落とせるという特性がある。

ジョゼフィーヌの姉であるアリエルの一個上の為、距離感がメイドというより近所のお姉さんに近い。


ハンドオアハンド

見た目は右手と左手でセットな魔物であり、右手と左手で一体扱いなのか両手共意識は共有されている。

種族的に働きたがりな為、働き甲斐がありそうなエメラルド家に出没した。


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