睨み少年とプラネタリウムフォックス
彼の話をしよう。
片目は散弾の魔眼、もう片目はカウンターの魔眼という、二種類の魔眼持ち。
これは、そんな彼の物語。
・
学園の裏手とは違う森の中で、ネストルはゴロンと寝転がった。
「ああ、良いな、こういう落ち着いた雰囲気は」
「ですわねー」
いつもの森は不思議な力でもあるのか、伝説の魔法使いであるゲープハルトが魔法を掛けでもしたのかは不明だが、何故か様々な魔物が居るのだ。
生息出来るだけの環境が不思議にも整っているから棲むコトが出来るのだろうが、明らかにこの国に生息していないだろう魔物も多い。
……まあ、すっかり慣れてたから違和感とかまったく抱けませんでしたけれど……。
こうして時々違う森へ来ると決まった魔物しかおらず、ナンとなく安心する。
森であるコトに変わりはないのに、どうしてああも生態系が狂っているのだろうか。
……学園の教師と生徒が狂ってるせいで、森の生態系まで狂ったのかもしれませんわねー。
もっとも実際は単純にあの森が広く、様々な魔物が生息可能な環境だから、だろうが。
しかしそういえば適当にフラフラしていたらあの森に到着していたと証言する魔物も多いので、やはり不思議なナニかがある可能性はあり得そうだ。
……ま、考えてもどうせ答えは出ませんけれどね。
その内アダーモ学園長辺りに聞こう。
あのヒトならば学園設立当時から現在までぶっ通しで学園長をやっているので仕掛け人でなくとも知っているだろう、多分。
「……ジョゼフィーヌ」
「ハイ?」
ネストルは寝転がりながら、その淡い金髪に土がつくのも気にせずこちらを向いた。
「この目隠し、外しても良いだろうか。寝にくい」
「わたくしを睨まないんでしたら構いませんわ」
「ソレは当然だ」
そう言ってネストルは目隠しを外し、何度か視界を確認するように瞬きをする。
「……まったく、睨むだけで発動するからな、この魔眼は」
「睨むっていうトリガーがわかってるだけ良いじゃありませんの。ソレすらも決まってない魔眼持ちからしたら垂涎モノですわよ」
「ごもっとも」
ふ、とネストルは口角を上げた。
「しかし俺のこの目は両目とも魔眼だからな。攻撃系なのが幸いだった」
「まあ基本的に魔眼は両目ともでしょうけれど、アナタの場合は片目ずつで違う魔眼というレア魔眼ですものね」
「レア魔眼と言うな。何度人身売買目当てのクズに狙われたコトか」
先程まで機嫌良さげな表情だったネストルだが、嫌なコトを思い出したのか実にイヤそうに顔を歪めていた。
「確かに珍しいとは思うが、そうも狙う程のコトなのか?」
「普通は両目とも一種類の魔眼ですもの。つまり、ええと……本来はハンバーガー二つのトコロ、ハンバーガー一つ、オムライス一つのセット、みたいな」
「二種類食べれるという魅力はとてもよく伝わってきたが、その説明は合っているのか」
「正直我ながら例えを間違えた気がしてなりませんわね」
だがルビー二つのトコロ、ルビーとエメラルドのセット、と表現しても伝わらない気がしたのだ。
なのでわかりやすく食べ物で例えたつもりだったのだが、逆にわかりにくくなった気がする。
……ネストルの察しが良くて助かりましたわ。
「……ただまあ、二種類セットの上にレア、というのがありますから。その分狙われやすいとは思いますわ」
「ハンバーガーとオムライスはそうもレアではないだろう」
「その例え引っ張られると恥ずかしいので勘弁して欲しいですわね……」
言い出しっぺは自分だが可能なら今すぐにでも忘れて欲しい。
「んんと、先程の例えは一旦置いといて……レア度に関しては、数年に一度、みたいなレベルでしょうか」
「数年単位であるのか」
「まあワリと」
もっとも目隠しをして封じていれば一般人と大して変わらないし、魔眼を使用していたとしても片目の能力のみを使うようにしていればバレたりはしない。
まあ死後は魔眼が魔物化するコトが多いので死後に発覚するコトは多いが。
「でもネストルの場合、魔眼が有用なのが幸いですわね。襲われても対処可能ですし、死なせずに済みますし」
「ああ、まったくだ。……待て、有用じゃない魔眼もあるのか?」
「目を合わせた相手の脳内にひたすら子守唄を流すという魔眼とかありますわ」
「す、凄まじく微妙な魔眼だな……」
ネストルは引き攣った笑みでそう言った。
だが確かにこの子守唄の魔眼は微妙な能力だと思う。
……目を逸らしたら効果切れるし、子守唄が流れるだけであって眠らせるワケではありませんものね。
ちなみに睨むコトで狙った位置にシミを発生させる魔眼なんていうのもあるとローザリンデ魔眼教師に聞いたコトがある。
正直使い道が無さすぎるのではと思ったが、かつてその魔眼を有していた女性はその魔眼を存分に使用して当時の王のハーレムの中でトップに君臨したらしい。
確かに美しさを求められる女集団の中でその能力は強い。
……機嫌を損ねたが最後、自分の美しさを損なわれるとなったら必死でご機嫌取りするしかありませんものねー……。
壁や天井、服だけではなく人間にも効果ありな魔眼だったからこそだろうが。
そう考えていると、ふと視界に入った光景に思わず表情が真顔に固定された。
「しかし本当に俺の魔眼が攻撃系で……いや、そもそも魔眼があるから狙われると考えると不幸中の幸いでしかないから、結局のトコロ良くはないのか?」
「返答に困りますけれど、とりあえずネストル」
「誰だとりあえずネストル。どうした」
「一旦起き上がって警戒態勢。魔物が追われてますわ」
「魔物は弱肉強食だから俺達が手を出すのは……いや、ジョゼフィーヌが言うならそういうのでは無いのか」
ネストルは睨みにならない程度に目を細め、起き上がった。
「どの方向だ?こちらに来るか?追われている魔物、追っている存在は?」
「アナタから見て五時の方向。こちらに来るようですわね。追われているのは……プラネタリウムフォックスという美しい毛皮を持つ狐の魔物。追っているのは悪、人間、二名」
「単語では無く言語を話してほしいのだが……まあ、距離が把握しやすくて良いか」
そう言ってネストルは溜め息を吐いた。
ネストルは外出すると狙われがちで、自分と一緒の時も狙われる為、バーサクモードの自分を見る機会が多いのだ。
だからか最近は自分のバーサク状態で悪との距離を測るようになっている。
……いえまあ、確かに悪との距離が近付く程にわたくしの口数が少なくなるから距離は測りやすいでしょうけれど。
「ングウッ!?」
実に美しいプラネタリウムフォックスが茂みから飛び出してきた。
プラネタリウムフォックスとはその名の通り、毛皮がプラネタリウムのようになっている狐の魔物である。
毛皮に星空と星座が映し出されている上に個体によって星座が違っていたりする為、かつては乱獲された魔物だ。
……もっとも、現代では禁止されているハズですけれど。
魔物もヒトも同じような存在だからこそ、害魔でも無い魔物を毛皮目的で殺すなどは人間の皮目当てで人殺しをするようなモノ。
つまりは大罪だ。
「チィッ、まさか先回りをされていたとは……!」
プラネタリウムフォックスはその美しい毛並みを乱しながら、背後を気にしつつこちらを威嚇した。
「小僧に小娘、今すぐにソコを退け!退かねば貴様らがやろうとしているように、我が貴様らの皮を剥いでやろうか!」
「……誤解しているようだが、俺達はお前の敵じゃない」
「そのようなコトが信じられ」
「本当ですわ」
「ヒッ」
おっと、悪の気配が近付いているせいで思ったより低い声に。
怯えさせてしまったのか、プラネタリウムフォックスの毛がぶわりと膨らんだ。
「わたくし達は、悪の敵ですの。助ける助けない以前に、悪の敵なんですのよ」
「エ、エ……ナンだコヤツ、ナンか超怖くないか……?」
「すまん、ジョゼフィーヌは悪いヤツでは無い、というか悪いヤツの敵なんだが、本能的なアレで悪に対して容赦が無くてな」
「お、おう、我も本能的に声から本気度がよくわかった。誤解したようで悪かったな」
プラネタリウムフォックスは自分達が敵ではないとわかってくれたようだが、自分と距離を取っているのは何故だろう。
ネストルの足元に隠れているように見えるのは気のせいだろうか。
「…………あら、いけませんわ」
そんなコトを考えていたら、追っていたらしい愚か者二名が来た。
子供相手に随分と口汚い言葉を使っているが、要約すれば「その金になる狐を寄越さんとテメェらもぶっ殺すぞ」だ。
「いけませんわ」
しかも銃を持っているとは、どういう神経をしているのだろうこの愚か者共は。
銃とは戦争用のイメージが根強い武器であり、兵士や一部の人間しか使用しないモノ。
一般の武器屋には流通すらしていないハズなのだが、毛皮目当てで狩猟していた時代にカタチから入ろうとでもしているのだろうか。
「いけませんわ」
「ウッワ……」
発砲されたのでスカートに隠していたナイフで弾いたらネストルの口から思わずというような引いた声が零れた。
視えるしバーサクモードだしで自分からするとそうも変わった動きをしているつもりはないのだが、そうも引く程のコトだろうか。
……冷静かつ客観的に見ると、戦争用の武器である銃から放たれた弾丸をナイフで弾くって相当アレですわね。
「ん?ウワッ」
「ぎにゃあ!?」
銃持ちの愚か者がこちらに集中しているからか、もう一人のナイフを持った愚か者がネストルの足元に居るプラネタリウムフォックスを狙ってネストルの足にナイフを振り下ろした。
だが流石に何度か危険な目に遭っているだけあり、ネストルは素早くプラネタリウムフォックスを抱き上げ、追撃すらも避けている。
「と、と、危ない、な!」
ネストルの右目に魔法陣が浮かんだ瞬間、ナイフ持ちの愚か者が悲鳴を上げて倒れた。
外傷は無いように視えるが、まあ気絶するのは当然だろう。
……散弾の魔眼、ですものね。
ネストルの右目の魔眼は散弾の魔眼であり、睨んだ対象に散弾で撃たれたかのような精神的ダメージを負わせるコトが出来るのだ。
要するに痛みを錯覚させる幻覚系に近い為肉体に損傷こそ無いものの、対象は撃たれた音と衝撃と痛みを認識するので、耐えられずに気絶するコトが殆どである。
……まあ、普通散弾で撃たれる経験なんてありませんものね。
戦争が無いこの時代においてソレを知っているのは、戦争を経験した不老不死勢くらいしかいないだろう。
さて、相方なのだろう愚か者が気絶したお陰で銃持ちの愚か者に隙が出来た。
「いけませんわ」
前転からの逆立ちキックにより、相手の持っていた銃を蹴飛ばして相手から遠ざける。
慌てた愚か者に蹴られそうになったが、ブレイクダンスのような体勢になるコトでソレを避け、目の前にある蹴りを出した足に自分の足を絡めて膝の関節部分を捻る。
ゴギャリという鈍い音と共に関節が外れたのを目で視て確認していると、もう片方の足で蹴りを出された。
「ジョゼフィーヌ!」
ネストルの左目に魔法陣が浮かんだ瞬間、愚か者はナニかに顎を蹴られたような動きで気絶した。
尚自分は繰り出された蹴りはソッコでバク転するコトで避けている。
「……ふぅ、助かりましたわ、ネストル」
「いや、俺の存在は不要なんじゃないかと思うレベルで余裕そうだったが」
「でも最後のカウンターの魔眼は助かりましたわよ」
そう、ネストルの左目の魔眼はカウンターの魔眼である。
睨んだ対象が繰り出している攻撃をそのまま対象に返すというモノであり、ダメージを受けなくても良いタイプのカウンターだ。
……一般的なカウンターだと、攻撃を受けた上で相手に一発、ですものね。
そういう、受けた攻撃を蓄積し跳ね返す、というタイプでは無く、そのまま鏡返しのように相手に受けさせるモノだ。
まあソレでも放った攻撃はそのままな為自分が避けていなかったら蹴りが当たっていた可能性はあるので、油断していると不要な攻撃を受けるコトもあるようだが。
……気絶するレベルの蹴りだったんですのね、アレ。
バーサクモードだったのでさらっと避けれたが、十三歳の子供相手にする攻撃では無いと思う。
まあその前に自分がやった膝脱臼も十三歳の子供がやる攻撃では無い気がするが。
「流石に片膝脱臼以上の怪我を負わせると兵士に怒られそうなので……」
「片膝脱臼はセーフなのか?」
「骨にヒビは入れませんでしたわよ?」
「お主、穏やかそうな見た目しておきながらめちゃくちゃ怖いな……」
ネストルの腕に抱かれたプラネタリウムフォックスにマジで怯えられているようで遺憾の意。
ナイフで大事な腱を切ったりという出血沙汰にはしないようちゃんと最低限のコントロールはしていたのだが。
「というか、コヤツらは死んだのか?」
「いや、そっちのヤツは散弾の魔眼で撃たれた幻覚と幻痛を感じて気絶しているだけで、メンタルに後遺症が残る可能性はあるが外傷ゼロのハズだ」
「こっちのはわたくしが膝を脱臼させましたけれど、ソレだけですわ。
カウンターの魔眼で自分の蹴りを顎に食らって気絶しただけですし、そもそもネストル……彼のカウンターの魔眼はどんな攻撃を跳ね返すにしても必ず峰打ちになる仕様ですので、まあ要するに生きてますの」
「最後急に雑にならなかったか、お主」
「仕様ですわよ」
「そうか、仕様か……」
何故か遠い目になられたが本当に何故だろう。
「ふぅ、だが助かったぞお主ら。腹が空いたと思いその辺を歩いていたら突然襲ってきたからな。死ぬかと思った」
「相手は殺す気だったから死ぬかと思うのは正しいと思うぞ」
「そういうツッコミが欲しいんじゃないと思いますけれど……」
「うむ、よくわかった。お主ら両方ボケなのだな」
自分は比較的ツッコミだと思うのだが何故ボケ認定。
「しかしコヤツらはどうする?このまま放置か?」
「いえ、普通にふん縛って兵士に通報ですわね。引きずって連れてくという手もありますけれど、大の大人二人は流石に持ち上げられませんし」
「…………」
ネストルが「バーサクモードのお前なら余裕で持ち上げれると思うが」という目で見てくるが無視しておこう。
悪に触れるだけでバーサクモードになるから持ち上げようとすればイケるだろうが、不快感が凄いので出来るだけ触れたくないのだ。
「持ち上げられないというコトは引きずるのも重労働ですし、途中で起きて暴れられると困りますし……」
「………………」
ネストルが「暴れ出したらバーサクスイッチ入って顎砕いて物理的に黙らせそうだな」という目で見てきているのは流石に指摘した方が良いのだろうか。
目の動きから大体察せるせいで凄く雄弁に考えているコトがわかるのだが、流石の自分でもソコまではしない、と、思う、多分。
……うん、せいぜい歯を数本抜いて……あ、いえ、抜くのは流石に治らないからアレですわね。
ならやはり治せる骨狙いになるだろうか。
いや、そもそもそうならないように置いて行こうとしているのだが。
「ええと、うん、まあそんな感じで、連れて行くのは面倒なのでふん縛ってその辺に繋げて拘束して放置して、通報、ですわね」
「まあ、ソレが妥当だろうな」
うんうん、とネストルが頷いた。
「だがお前はどうする?」
「む、我か?」
「ああ。このまま別れても良いし、兵士に自分の受けた仕打ちを話すというのもアリだ」
「もしくはネストルについて行ってボディガードをしてもらう、とか?」
「何故そうなった」
「コレ」
愚か者のポケットに気になるモノがあったので嫌悪感に包まれながらソレを抜き取らせてもらったのだが、ソレはプラネタリウムフォックスの毛皮を高値で買い取るというモノだった。
「多分裏で出された依頼でしょうね。この書き方というコトはかつて狩られ毛皮にされたプラネタリウムフォックスの毛皮のつもりで依頼を出した、と言い訳をするつもりっぽいですわ」
「よくソコまで見抜けるな」
「わたくしの目、見たくない会話も視えるんですのよ、ねー……」
思わず遠い目になり溜め息が零れた。
前に王都を歩いていた時、路地裏の方でそんなやり取りの会話を目撃したが、まさか巻き込まれるとは。
「でもまあわたくしの目撃情報がある分コレを取り下げさせ、かつこの依頼を出したヤツの余罪とか色々探れたりもすると思いますけれど……即日取り下げとはいかないでしょうし、取り下げられてもソレを知らない愚か者が狙ってくる可能性がありますわ」
「裏事情に詳し過ぎないか、ジョゼフィーヌ」
「詳しくなりたくて詳しくなったんじゃありませんわ」
まあ多少の知識が無いと面倒なコトになるとわかっている分、自分から仕入れた知識も多少はあるが。
・
コレはその後の話になるが、プラネタリウムフォックスは身の安全の為にとネストルのトコロでお世話になるコトになった。
「まったく!」
プラネタリウムフォックスは肩車のような体勢でネストルの頭の上に乗りながら、かんむり座が浮かんでいる毛を逆立たせてイライラしながらその頭をポスポスと叩く。
「まったくナンなのだアヤツらは!我の珍しさ美しさに見惚れ崇め貢物を寄越すならばともかく!
ソコまでするのであれば鑑賞させても良いが、我を殺して毛皮を剥ぎ売ろうとは……!碌な死に方をせんぞ!」
「落ち着け、今まで襲ってきた輩は全て俺が撃退しているだろう」
「ああその通り!ネストルが撃退というか気絶させてくれるお陰でお縄になる輩が多く、結果的に我を狙うモノもゆっくりとその数を減らしているが……何故居なくならんのだ!」
フッシャアアアア!とプラネタリウムフォックスは可能な限りその毛を逆立たせていた。
「あの依頼を出した依頼主は余罪ゴロゴロでお縄になりましたけれど、他にも欲しがる方は居ますものねえ……」
「星空柄の布を作らせるか凄腕の画家でも呼んで部屋の天井に星空を描かせれば良いだろうが!」
「そうせずにあの魔物の毛皮とかいうレアモノ持ってる俺スゲーをしたいアホなんですのよ、襲ってくるのは。
その程度の知能しかない愚か者は自然淘汰で滅びるだけですから、時間の経過を待ってればきっとどうにかなりますわ」
「……お、おお、そういやお主、結構キッツイのだったな……」
「どういう意味ですの」
「プラネタリウムフォックス、兵士にはこんな感じで悪に対してキッツいジョゼフィーヌの兄が所属しているらしいから恐らく大丈夫だ。すぐに悪を潰してくれるだろう」
「そう言われると信頼出来るが、逆に悪党が心配になってくるな……」
「先程までの怒りはどうした」
「いや、だがジョゼフィーヌだぞ?殺しはしないが死ぬより痛そうなコトをするモノの兄とか、生きる方が辛いようなコトをする可能性があるではないか」
「どういう意味ですの!?」
酷い風評被害というか、流石にソコまでのコトをした覚えはない。
ニワトリをシメるおじさんのように首の骨をパキッとやったりなどはしていないのだから、そうも怯えられる程のコトはしてないハズだ。
せいぜい腕を曲がらない方に曲げるくらいしかしていない。
「というかわたくしの兄、戦闘系要素が無いのかと思うくらいには正統派天使寄りですのよ?
悪を相手にしても相手の気持ちに寄り添って、きっと善人の心もあるハズなんだと信じるちょっと心配になるくらいヒトを信じる心があるヒトなんですから!」
「そんなジョゼフィーヌは戦闘系寄りと正統派寄り、どっちだ?」
「わたくしは兄弟の中でも多分一番戦闘系寄りの遺伝をしてると思いますわ」
弟はまだバーサクスイッチ入ったコトが無いので不明だが、父曰く自分が一番戦闘系部分が色濃く遺伝しているらしい。
スイッチ入った瞬間に自分をコントロール出来なくなって悪を殲滅しに掛かる辺りが特に戦闘系っぽいいそうだ。
……わたくしはまだお母様要素もあるお陰で頑張れば多少のコントロールは出来ますけれど、お父様の場合は純度MAXな分、コントロール完全不可能ですものねー……。
母狙いのお見合い相手が居なくなるのもさもありなん、だ。
そう考えていると、ネストルは見上げるように、プラネタリウムフォックスは見下ろすようにして目を合わせていた。
「わかるか?危険なのは天使ではなく、戦闘系天使だ」
「うむ、戦闘系天使、怖いなあ……」
「悪と対峙さえしなければ平和だし、困った時に助けてくれるから頼りにはなるぞ。こっちが悪でさえ無ければその矛先がこっちに向くコトは無いしな」
「巻き添えとか食らわぬか?悪ごと必要な犠牲として我とかを見殺しというか巻き添えにして悪滅とかせぬか?」
「ジョゼフィーヌは人体に可能な動きなのかと思うような動きで悪のみを殲滅するから大丈夫だ。最悪の場合は武器に聖なる属性を付与して悪にしか攻撃が通らないようにして悪だけを切る」
「最悪の場合なのではないか!しかもソレ、人質側も悪だったら一緒に切れるぞ!?」
「悪なら問題ありませんわよ?」
「お主怖い!」
悪を生かしておいて良いコトなど無いのだから当然のコトだと思うのだが、何故こうも怖がられるのやら。
やはり属性付与しないと悪以外にも通じる攻撃だからだろうか。
兄のように悪にのみ攻撃が通じる遺伝だったら良かったのかもしれないが、自分で選べない遺伝の部分なのでどうしようもない。
プラネタリウムフォックスは悪では無いから自分が攻撃するコトは絶対にあり得ないのだが、どうしたら安心してもらえるのだろう。
ネストル
右目と左目で能力が違う魔眼を有しているというレアタイプなのでよく狙われるが、攻撃系魔眼な為全戦全勝。
プラネタリウムフォックスとは結構仲良くやれている。
プラネタリウムフォックス
毛皮に星空を星座があるという実に美しい狐の魔物であり、過去乱獲された種族。
現在はネストルに守られながら養われており、このままパートナーになるのもありかなと思っている。